ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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今回は三人称視点でかつ、グロテスクな描写があります。
ご注意ください。

それでは、フェニックス戦の決着です。


The phoenix was sunk

歩藤誠二と塔城小猫による一撃が炸裂し

ライザー・フェニックスは場外ギリギリの結界に激突。

そのまま戦闘不能になった……かと思われた。

 

しかし、それでもなおライザーは戦意を喪わず

帰還しようとする小猫を撃破、再び戦場である新校舎めがけてその歩みを進めていた。

 

それを迎え撃たんとするリアス・グレモリーと兵藤一誠と歩藤誠二の二人の兵士(ポーン)

その傍らに控える僧侶(ビショップ)、アーシア・アルジェント。

 

今ここに、リアス・グレモリーとライザー・フェニックスとの戦いの幕が下りようとしていた。

 

「イッセー、セージ。二人とも休んでいなさい。

 ライザーもダメージを回復させて来るでしょうから、あなた達も体力を回復させなさい」

 

「了解っす……ふぅ」

 

「……御意」

 

リアスの指示に従い、イッセーはアーシアの隣に座り込んでいる。

セージは何かを探すように辺りを見回しているが

目当てのものは見つからないらしく肩を落としている。

 

「セージ、お前も休んでおけよ……って何探してるんだ?」

 

「水道管を探していたんだが……あるいは、水。

 イッセー、持っていないだろ?」

 

「水、ですか。聖水ならありますけど……ダメですよね?」

 

アーシアに差し出された聖水のビンを手にとって、考え込むセージ。

考え込んだ末、セージが取ろうとした行動。それは、聖水をモーフィングで飲み水に変える事。

モノがモノなので失敗を考えれば、硫酸を飲むようなものである。

しかし、疲労を回復させる道具や技が無い以上、疲労回復にはこうせざるを得ない。

 

「モー……」

 

「やめとけセージ。それだって体力消費するだろ?

 俺なら平気だからよ。いつアイツがきてもいいように、備えておけよ」

 

「役に立つかどうかは分かりませんけど、細かい傷を治しておきますね」

 

イッセーの指摘どおり、モーフィングは体力を消費する。

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)ほどではないにせよ、だ。

しかしセージを心配したイッセーの方が消耗しているのは明らかであり

かつアーシアの神器(セイクリッド・ギア)聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)も疲労、体力までは回復しないため

問題は何一つ解決していないのである。

 

「ありがとうアーシアさん。しかし……あれで潰れなかったとなると。

 さて、次の一撃はどうしたもんか……」

 

「セージ、そう難しく考えるなよ。お前が俺に憑いて、シンクロ強化して

 一発ドラゴンショットお見舞いすれば大丈夫だって!

 俺もお前も昇格(プロモーション)してるんだから、きっと凄い威力だぜ!!」

 

納得はしないながらも、セージはイッセーの作戦に乗ろうと考えている。

しかし、その矢先にセージの側にいるドライグから待ったがかかったのだ。

 

『その作戦なんだが……無理だ。やるのならば、まずお前の昇格を解かなければならん。

 お前が昇格した状態では、兵藤一誠に憑依するのはどうも無理みたいだ。バランスが保てん。

 また、モーフィングも戦車(ルーク)状態では成功率が大幅に下がる。注意しろ』

 

「……まあ、考えようによっちゃバランスが保てないってのは理に適ってるか。

 それとモーフィングの件、前もって言ってくれて助かった。

 本番でやらかすわけには行かないからな」

 

セージは今、聖水を栄養ドリンクに変えようとしていた。

それでイッセーの体力を回復させるつもりだったのだ。

しかし、肝心のモーフィング成功率が低いとなれば話は別。

イッセーに聖水を飲ませるわけには行かない。

 

「げ……悪魔が聖水飲むって相当やばいよな……。

 や、やめといて正解だっただろ、セージ。つか、俺に聖水なんて飲ますな」

 

「え、ええ……。通常、振りまいて魔を祓うものですし……。

 それを直に摂取させるとなれば……」

 

イッセーとアーシアは二人で冷や汗をかいていた。

イッセーは悪魔として。アーシアは元シスターとして、悪魔祓いとして聖水の扱い方を

学んだことがある身分として。

 

そんな矢先であった。セージの依頼でプールに水を張り、消火器を回収してきた

騎士(ナイト)、木場祐斗が屋上に戻ってきたのは。

恙無く合流は果たされたかに見えたが、そこにはもう一人、招かれざる客もいた。

 

「お待たせ。セージ君の依頼の品は持ってきたよ。

 けれど……ごめん。ちょっと余分なものも持ってきちゃったかな」

 

「おうお帰り……って余分なもの? 余分な……あーっ!!」

 

「声が大きいですわよケダモノの方の赤龍帝。私だって勝負の顛末は見たいんですもの。

 退屈な運動場よりも、こちらに来るほうが自然ではなくて?」

 

「あなた……ライザーの妹の!!」

 

そう。木場にくっついてくる形でライザーの妹

レイヴェル・フェニックスがやって来ていたのだ。

本人は戦う意思はないとは言っているものの、既に戦況は予断を許さない状況である。

前言を撤回し、援護に回られるとその時点でリアス陣営の勝利は絶望的となる。

不死の者を二人も倒せるほど、今のリアス陣営に戦力は無い。

 

「こうしてお会いするのは初めてですわねリアス様。私がライザー・フェニックスの妹

 レイヴェル・フェニックスですわ。よろしくお願いしますわね、リアス『お義姉様』」

 

「……あなたに義姉呼ばわりされる覚えは無いわ」

 

とは言え、レイヴェルも戦う意思を見せず、ただリアスを煽るのみである。

そしてレイヴェルの到着に合わせ、その兄であるライザーも間もなく、屋上へとやってきたのだ。

 

「……来るわよ! みんな、構えて!」

 

炎と共にリアスらの前に現れたライザー。

しかし、その姿は最初にオカ研の部室に現れたときよりははるかにみすぼらしく

服もボロボロで、所々に傷を負った状態であった。

 

「……お、お兄様!」

 

「や、やってくれるじゃねぇか……まさか俺も堕天使の槍を持ち出されるとは思わなかった……!

 見ろよリアス。槍がぶち抜いた部分、フェニックスの力でもまだ再生しきれねぇ。

 おまけに場外の結界にぶち当たるなんて無様な姿、将来の義兄上にもあたる

 サーゼクス様の前で見せてしまった……」

 

「……ふん、いい気味ね。これに懲りて、婚約は破棄したら?

 そっちの妹さんも、戦う気はなさそうだし。こっちはまだ眷属が控えているわ。

 戦力差ではまだ私の優位。これ以上無様な姿をさらす前に、降参することを勧めるわ」

 

ライザーは消耗しつつも、その闘志はまだ衰えてはいなかった。

それを知ってか知らずか、挑発するリアス。

それは、文字通り火に油を注いだ形になった。

 

「……ふざけるなぁぁぁっ!! 降参だと!? 俺がか!?

 それはキミの間違いじゃないのかリアス!!

 何故不死身である、フェニックスであるこの俺が降参せねばならないんだ!

 今まで勝ち続けてきた俺が、何故!?

 降参するのは、ずぶの素人であるキミらのほうじゃないか、えぇ!?」

 

その態度は、とても上流貴族の血を引くものの態度ではなかった。

そこにいたのは、フェニックスの力と権威に固執するただのチンピラの如きであった。

 

「……俺は負けるわけにはいかないんだ。

 たとえ相手が訳の分からないものを持ち出したとしても。

 たとえ相手があの赤龍帝だとしても。俺が勝たなきゃ、悪魔の未来は終わっちまうんだ。

 だからリアス! 俺に負けろ! 負けて俺の子を産め!!」

 

「はぁっ!? てめぇ、部長に何てことを言うんだ!!

 部長に種付けするのはてめぇじゃねぇ、この俺だ!!」

 

BOOST!!

 

低次元な言い争いをはじめるライザーとイッセーに、一瞬周囲の空気が固まる。

渦中のリアスは赤面し、己の眷属が言い出したことに戸惑っているかのようである。

 

「……すごい爆弾発言だね、イッセー君」

 

「全くだ。もう少しムードってものを……と言いたいが、今はそんな状況でもないな。

 グレモリー部長は……まだ赤面してるか。よし、イッセー! 応戦しつつ倍加して

 さっき木場と連携した技の準備! 木場は俺とフェニックスの牽制!

 アーシアさんは後方待機! 行くぞ!」

 

ふと我に返った木場とセージが、臨戦態勢に入る。

それに合わせたかのように、イッセーも先陣を切りライザーめがけ突撃する。

 

しかしこれは、セージが思い描いていた作戦パターンとは若干異なる。

一応、応用と言う形で総崩れにこそなってはいないが。

 

(イッセーの奴、フェニックスに中てられたな。冷静さを失ってやがる。

 くっ、これじゃせっかく木場に持って来てもらった消火器が……。

 仕方ない、ここは正攻法で行くか)

 

真っ向から突っ込むイッセー。素早い剣技でライザーを翻弄する木場。

相手の動きを観察し、隙を突き強烈な一撃を叩き込むセージ。

三者三様の戦い方に、ライザーも対処しきれなくなってきたのか

攻撃を受ける回数が増えてきていた。

 

「ぐ、く、くそぉ……何故だ、何故こんな奴ら如きに……っ!!」

 

「今だ! 木場、奴の動きを止めてくれ!

 イッセー、さっき木場と連携したときに使ったあの能力、物対象でも出来るか?

 出来るなら、木場が持ってきてくれた消火器にそれを使ってくれ!」

 

「そうか! 倍加させりゃ悪魔の火でも鎮火できるかもしれないしな!

 へへっ、なら俺が鎮火してやる!」

 

セージの号令に呼応するように、木場がライザーの前に躍り出る。

その間、イッセーは赤龍帝の籠手の新たな力「赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)」の発動の準備に入っている。

目標は不死身の炎の悪魔、フェニックス。

 

フェニックスの特性は不死。しかしそれと同等に炎の属性が強く現れている。

そうなれば、おおよそ炎対策として打てるものはその殆どが通用することになる。

そして、現代において炎に対し有効なもの、かつ学校にも存在するものと言えば――そう。

 

TRANSFER!!

 

「これはイッセー君の……そうか、だからセージ君は僕にあれを持って来させたのか!

 だったら……イッセー君、頼んだよ!」

 

「何かと思えば……人間の玩具如きでこの俺の炎を消す、だと?

 どこまでも俺を虚仮にしてくれるな!!」

 

「任せろ木場! 食らえ、これが赤龍帝の消火器(ブーステッド・ギア・エクスティングシャー)だ!」

 

木場が飛び退いたと同時に、ライザーめがけ赤龍帝の力を持った消火器の薬剤が噴射される。

消火器は鎮火が主目的であるが、場合によっては暴徒鎮圧にも用いられるケースもある。

それくらい、発生する煙幕や噴出する力は強力なのである。

それを赤龍帝の力で強化したとなれば。

 

「がああああっ!? お、俺の……俺の……炎、が……っ!?」

 

「ざまあみろ! これでお前は焼き鳥じゃなくてただの鳥だ!」

 

さっきまでの戦いで受けたダメージを炎で再生しようと、ライザーは炎を纏っていた。

しかし、その纏っていた炎をかき消すように、消火器の薬剤がライザーにまとわりつく。

結果、ライザーは傷口に泥を塗られたような痛みに悶え苦しむことになったのだ。

 

「お、お兄様……火が……火が……ッ!!」

 

レイヴェルは兄であるライザーの惨状に息を呑む。

それもそのはず、セージが光の槍で貫いた箇所と、イッセーが消火器を噴霧した場所は

フェニックスの象徴である炎が燈らず。人間で言うならば傷口がそのまま放置され

壊死したも同然の状態である。

不死を誇るフェニックスとは言え、ここまでのダメージを受けてしまえば

自力での再生は不可能である。

 

「……もう一度聞くわライザー。まだ続けるつもりなのかしら?

 今ここで負けを認めたほうが余程潔いと思うのだけど?」

 

そして突きつけられるリアスからの降伏勧告。

観客席では、レーティングゲーム初参戦のリアス陣営の善戦を称える声と

ライザーの痛々しさに悲鳴を上げる声の二種類が大きく上がっている。

その観客席の声と、妹レイヴェルの声を知ってか知らずか、尚もライザーは戦いを挑もうとする。

不死という優位性は、既に失いつつあるにもかかわらず。

 

ライザーがここまで意地を張った理由。それは――

 

BURST!!

 

「がはっ……!?」

 

「イッセー!?」

 

「イッセー君!?」

 

赤龍帝が、イッセーが限界を超えていた。確かにライザーに決定打を与えることは出来た。

しかしそれ以上、止めを刺すまではイッセーの体力と気力が続かなかったのだ。

赤龍帝の籠手の警告音と同時に、イッセーは膝から崩れ落ちてしまう。

追い討ちをかけるように、ライザーの煽りがイッセーの耳に突き刺さる。

 

「ははははははっ! ここまでよくやったとほめてやるよ赤龍帝。

 けれど、惜しかったな。あと一歩、あと一歩が足りていれば

 お前は俺に勝てたかもしれないぜ?」

 

「く……くそっ。折角ここまでやれたのになぁ……。

 あと一歩であいつを倒せたのに……く、くやしいぜ……

 そ、そうだセージ、お前……俺に憑けよ……それなら……!」

 

イッセーの考えはこうだ。たとえ自分が動けなくなっても、万全に動けるセージが憑依し

イッセーの身体を使い、フェニックスとの戦闘を続行する。

実際、イッセーへの憑依が可能ならば作戦としては成り立つ。

 

しかし、元々動けなくなっているものを無理やり動かすと言うのだ。

その反動たるや、計り知れない。セージも過去に犯した愚行故にそれを知っている。

結局、イッセーの提案にセージが首を縦に振ることはなかった。

 

「……それもアリだが、断る。そうでなくとも一度やらかしているんだ。

 ここで無茶をして、お前の身体が二度と使えなくなったら困るのは俺だ。

 まだ、お前の身体を使わせてもらわなきゃならない事態はあるだろうからな。

 だから、今俺はお前にこう言ってやるのさ……もう十分だ。そこで寝てろ。

 ……なあに心配するな、ここで降りたりしねぇよ。お前の無念は、十分伝わったからな」

 

「……は?」

 

素っ頓狂な声を上げたイッセーに、セージのボディーブローが突き刺さる。

先刻ライザーの女王に仕掛けたものよりは軽めだが

それでも弱ったイッセーを昏倒させるには十分すぎる威力であった。

 

「ごふ……っ!? セー……ジ……っ!?」

 

――リアス・グレモリー様の「兵士」、一名リタイア。

 

「い、イッセーさん!? セージさん、なんで……」

 

「セージ! あなた何を!? 正気なの!?」

 

「……死に体の奴に動き回られても邪魔なんで。

 下手に無茶をされてダメージを増やされるよりは、帰って眠ってもらった方がマシかと。

 それに、イッセーはもう十分すぎるほど戦ったと俺は見ますが」

 

「ある意味納得は出来るけど、セージ君も強引だね……。

 また、イッセー君と喧嘩しないで欲しいものだね」

 

介錯、あるいは雷撃処分。そんな言葉を想起させるような一撃が

影の赤龍帝から主の赤龍帝に叩き込まれたのだ。

この一撃はセージなりの労いのつもりなのだが

その解釈は中々難しいものがあるのも事実ではある。

 

『なあ。もう少し優しく医務室に送ってやったほうがよかったんじゃないか?』

 

(……状況と俺に余裕があれば、そうした。悪いが、今は俺も精神的に一杯一杯だ。

 これから、三人目の殺人をやるんだからな。慣れ始めた自分が恐ろしい。

 だが恐怖に飲まれれば潰れる。たとえカラ元気でも、己を鼓舞して

 奴に止めを刺さねばならない)

 

主の赤龍帝の介錯を済ませた影の赤龍帝が

今度は燃え尽きようとしているフェニックスに向き直す。

その表情は、仮面で窺い知る事ができない。それが逆に、ある種の威圧感を与えていた。

装着者自身は、冥界で顔が割れるのを防ぐ目的で着用していたに過ぎないのだが。

 

「……ぐ、な、なんだお前は……く、来るな!」

 

表情の読めない、敵味方の区別の曖昧な相手。

それは戦場において、一定以上の恐怖を与える存在となりうる。

幸か不幸か、セージは能力という点においても、恐怖の対象となりえたのだ。

悪魔にとっての恐怖の対象、光力を操る存在として。

 

――実は、もうセージに光力を駆使する術は無い。

光剣は騎士との戦いで消失。祓魔銃は既に弾切れ。光の槍もすでに消失している。

リロードをしたり、二個目を実体化させることはできない。

それはリアス陣営は知っていることだが、ライザーには知らされていなかった。

 

「お前は一体何なんだ!? 堕天使の転生悪魔か!? それとも……

 いずれにしても、お前みたいなのが悪魔の未来に口を出すな!

 お、俺を倒せば悪魔の未来は閉ざされるんだぞ! そうなればお前だって……」

 

「……俺が何者か、だと? 通りすがりの仮面悪魔、とでも言ってほしいのか?

 俺は赤龍帝であって赤龍帝じゃない……俺は、お前達悪魔や、堕天使の都合で

 己の肉体を失い、悪魔にされてさまよい続けることを強いられた……人間だ!!

 悪魔の未来も、この婚姻も知ったことか……俺は、俺の身体を取り戻す。それだけだ!!」

 

ライザーにしてみれば、面白くない。

どこの馬の骨とも知れぬものが、己の婚約を台無しにし

尚且つフェニックスの名に泥を塗ろうとしているのだ。

 

セージにしてみれば、下らない。

良家の三男坊であり、婚約相手に不自由しなさそうな輩が、唯一人の悪魔に熱を上げ

その結果が、この死屍累々の惨状であることが。

 

「お……おいリアス! こいつ、キミの眷属なんだろう!?

 眷属の手綱くらい、しっかり握ってろ! こいつ……キミにも逆らう気満々じゃないか!

 こいつは、さっきの赤龍帝や他の眷属と違ってキミのために戦っていない!

 いつか、いつか反乱を起こされるぞ!! だから止めさせるんだ、リアス!!」

 

(……部長のために戦っていない、か。それは僕にも言える事かもしれないね……)

 

「……命乞いは見苦しいわよライザー。セージ、この戦いに決着をつけるわよ!」

 

「御意。その言葉を待ってました」

 

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

 

セージが引いた最後の手札。

それは、己の速度を増す加速のカード。

しかし、力のカードが変化を遂げたのと同様、このカードにも若干の変化が起きていた。

 

『……今のお前には、ちと負荷がでかいかもしれないが。

 速度を強化するのは知ってのとおりだな?

 この状態では、その速度は己を撃ち出す戦車砲になる。

 本来ならば、己自身の強固な装甲で相手に特攻する攻撃技だが……

 精々、自壊しないでくれよ?』

 

(特攻技か。さすがに力のカードほど大きく変化はしてないな。

 下らない戦いの幕引きには、ある意味適しているのかもな)

 

仮面に描かれた無機質な瞳の奥。全てを終わらせる決意を込めた瞳。

その瞳が、ライザーを見据える。

見据えたと同時に、セージの身体はライザーに突っ込んで行った。

そのまま、二人は新校舎の屋上から真っ逆さまに転落していったのだ。

 

「き、気でも狂ったか貴様ぁぁぁぁぁっ!?」

 

「気なんて最初から狂ってるさ……お前の騎士を殺った時点でな!!」

 

自由落下のさなか、ライザーは喰らいついたセージを引き剥がそうとするが

セージの側も物凄い力で押さえつけており、離れない。

そうでなくとも、衰弱した今のライザーにセージを離す力は無かった。

 

「……ふ、ふふっ、ふはははははっ!! 俺を水に叩き落すつもりだろうが無駄だ!

 あの程度の水など、俺のフェニックスの炎で跡形も無く蒸発させられる!

 残念だったな、仮面の赤龍帝! お前の策は詰めが甘いんだよ!!」

 

「高尚な不死鳥を、わざわざただの水に突き落とすとでも思ってるのか?

 ……そろそろか。時にライザー・フェニックス。お前は泳げるか? 泳げないか?

 ……まあ、どっちでもいいが。硫酸のプールじゃあ、泳げようがカナヅチだろうが

 浸かったら結果は同じだ。悪魔にとっての硫酸……わかるよな?」

 

DEMOTION!!

 

落下しながらも、勝ち誇ったように高笑いするライザーだが

セージは声色一つ変えない。その無機質さと、今まさに突き落とされようとしている物の宣告は

ライザーに更なる恐怖を与えていた。

 

セージの宣告と同時に昇格は解かれ、ライザーを拘束する力は弱まった。

だが、今から脱出してもプールへの着水は免れない。

 

「硫酸……? ま、まさか! やめろ! そんなことをすればお前もただではすまない!

 やめろ! リアスにちょっかいを出した俺が悪かった! だからやめろ! やめてくれ!!」

 

「悪いが、俺にももう止められない。それに、俺もこんなくだらない事はもうたくさんだ。

 ライザー・フェニックス。お前にとって大事な眷族を殺そうとし

 今まさにお前を殺そうとして悪いとは思っている。だが……

 

 今後こんな下らぬ戦いが起きないための見せしめとして、不死鳥には沈んでもらう!」

 

 

MORFING!!

 

 

制止の懇願も虚しく、ライザーは頭から着水。それと同時に、セージの龍帝の義肢も着水。

水飛沫を上げながら、プールの水面は輝きを放つ。

 

飛び込み用のプールではないこともあり、ライザーは頭をプールの底に叩きつけられ。

セージもまた、実体のままプールから上がってくることはなかった。

 

――――

 

校舎の屋上からの墜落。これで決着がついたとしたら、フェニックスの名を冠する者にとっては

あまりにも呆気ない幕切れであるといわざるを得ないだろう。

たとえ、その再生能力の大半を喪失していたとしても。

 

屋上にまで響き渡る、何かが水没したような音。

屋上に残っていたリアス、木場、アーシア、そしてレイヴェル。

彼女らが音のした方角――プールサイドに駆けつけたときに映ったその光景は

筆舌しがたいほどに酷いものであった。

 

 

「お……お兄様!? お兄様ぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「……アーシアさん、見ないほうがいい」

 

「……せ、セージ? セージはどこに行ったの!?」

 

 

プールの端に打ち上げられていたのは、体中に火傷のような傷跡があり

皮膚は爛れ、所々骨が見えているライザー。

普段、傷を治そうと再生する炎も、プールの水に触れあっという間に煙を上げて消えてしまう。

 

ライザーの惨状を見たリアスが、ふとあることに気付く。

いくらなんでも、プールの水如きでフェニックスの炎を消せるのか、と。

 

その答えは、木場に案内されライザーと反対側に渡ったアーシアによって齎された。

 

「こ……このプールの水……全部、聖水です!!」

 

「そ……そんな! いくらフェニックスと言えども

 こんなプール一杯の聖水に漬けられたら……。

 それに、ライザーは相当負傷していたわ。これでは、再生しないのも無理はないわ……」

 

「そ、そうか……セージ君、彼は相当えげつない作戦を立てていたようだね……。

 まず、僕が持ってきた消火器。これをイッセー君の力で倍加させ、鎮火を試みた。

 それでも倒すには至らなかっから、僕が水を張ったプールにフェニックスを突き落とした。

 けれどただの水で倒せるとは、セージ君も思ってはいなかっただろう。だから……」

 

――プールの水を、モーフィングで聖水にした。

硫酸でも良かったんだが、確実性を考えて、な。

 

響き渡るセージの声。しかし、彼は既に実体化を維持できないほどにまで消耗しており

リアス達の前に姿を現すことはない。

 

「せ、セージ……」

 

――フェニックスを撃退するには、これ位はやらなければならないと判断しました。

中途半端なやり方で勝ったとて、また第二、第三と同様の婚礼騒動が起きるでしょう。

そうならないためにも、一度完膚なきまでに叩きのめし

今後下らぬ気を起こす輩が出ないようにすること。

これが本作戦の完全勝利案件であると判断、実行に移した次第です。

 

セージは霊体化しており、霊体のセージを見ることの出来る幽霊やイッセーはこの場にいない。

文字通り、淡々と報告を行うセージの表情は窺い知る事ができない。

 

「お、おふざけにならないで! こんな、こんなことが許されるはずが……」

 

――ライザー・フェニックス様の戦闘不能を確認。

よってこの試合の勝利者は、リアス・グレモリー様となります。

 

レイヴェルの感情的な訴えも虚しく、白い空の下に響き渡るリアスの勝利を告げるアナウンス。

それと同時に、見るも無残な姿になったライザーの身体は転送が行われ

冥界の大病院に運ばれることとなり。

 

この宣言を以って、グレモリー家とフェニックス家の

レーティングゲームにおける戦いは幕を閉じた。

 

――おめでとうございますグレモリー部長。目的は達成されました。

……では、自分は気分が優れませんのでこれにて。

 

淡々と祝辞を述べたセージは、どこかへと行ったのか次の言葉を紡ぐ事はなかった。

その代わりに、リアスの叫び声が木霊していた。

 

「ふ……ふざけないでセージ! これのどこが勝利よ!?

 決着をつけるとは言ったわ! けれど誰が……誰がライザーをここまでしろと言ったの!?

 それにイッセーや祐斗を騙して、殺害未遂の片棒を担がせて……」

 

「……リアス様。では全て、あの眷属に責任を擦り付けるおつもりですか?

 お兄様がああなったのも、全て彼の責任であると。そうおっしゃるつもりですか!?

 お世辞にも褒められた兄ではありませんでした……けれど、けれど……っ!!

 眷属に責任を押し付けて、自分は素知らぬ顔をするなんて……

 とても主の、次期グレモリー当主の態度とは思えませんわ!!」

 

兄であるライザーが意識不明の重体になるほどの致命傷を負い。

「ありえないこと」であったが故に混乱し、リアスを問い詰めるレイヴェル。

その目からは涙が流れていた。それは回復剤としての涙ではなく

フェニックス家を代表して、家族を傷つけられたことに対する心が流した血そのものであった。

 

グレモリー家ほどではないとは言え、フェニックス家にも家族に対する情は人並みにはある。

そのことを考えれば、家族の一人が重体になり病院に運ばれたと言う事実は

戸惑いや悲しみを生み出すには十分すぎる案件であった。

 

「……部長。確かにセージ君はやりすぎかもしれませんが

 実際あそこからフェニックスに勝つには……」

 

「祐斗。確かに私はこの戦い、負けるわけには行かないと思っていたわ。

 けれど、ライザーを殺せとは私は命じていないわ!

 私が命じたのは、ライザーと堂々と戦って、勝利すること。

 こんな……こんな殺し合いなんて!!」

 

「部長さん……」

 

こうして、戦いは終わった。

しかしそれは、ただ犠牲だけを生み出し

多くの者に深い傷を負わせるだけの結末に終わってしまったのだった。




と、いうわけで。
原作と違いサーゼクスの裏手引きも赤龍帝の鎧も(似たようなのは出しましたが)
無しでフェニックスを倒してしまいました。
……殺そうとした、って言った方が正しいぐらいですけど。

一応、イッセーの爆弾発言や聖水の利用など原作の決着時を
申し訳程度ですがなぞっています。
あんなヒロイックなものではないですけど。

……グリフォンに乗ってラブロマンス? ねぇよんなもん。

オリ主の「通りすがりの仮面悪魔」発言の元ネタは言うまでも無くアレです。
神器的には結構ちかいものはあったりしますが。

それ以上に作者的にやりたかったのは
・フェニックス(火)に対し消火器で攻撃
・プールいっぱいの聖水に浸す

これだけやればいくらフェニックスでもダメージでかいと思うんです。
特に後者は原作では倍加してビン一本分使ってましたが
もう一つのアプローチとしてこれを選びました。

消火器を選んだのは……人間の底意地を見せたかったが故に
人間の作った道具である消火器をなんとしても出したかったのがあります。
火が力の源なら、その火消しちゃえばいいじゃん、って単純な発想です。

……ええ、人間の知恵と力で人外の脅威に立ち向かう、っての大好きです。
G3システムとかイクサとかウルトラマンの防衛隊とかガンバスターとか。
勿論、敵組織と同質の力を応用する、ってシチュエーションも大好きですけど。

プールいっぱいの聖水は……仮面ライダーV3でヨロイ元帥が
ライダーマンこと結城丈二を硫酸のプールに浸ける……
ってシチュエーションから発想を得ています。
あちらは腕一本でしたが、こちらは着水時に飲んだこともあって
実は内臓にも聖水が染み渡ってます。当然、傷口からも。

書いておいてなんですが、結構酷い勝ち方なので
グレモリー家とフェニックス家の関係が原作から変化したり
リアスの立ち位置が若干変わったりしますが、それはまた次回。

……また投稿遅くなりそうですけど。

※若干修正。

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