ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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実は今回の話は難産でした。


Soul24. 戦車、発進します!

勢いよく飛び上がったお陰で、フェニックスやイッセー達を眼下に見下ろす形になった。

突然の乱入に驚いているようだが、こちらは空中。このままじゃいい的になる。

俺は思い切って、銃の残りの弾丸を撃ちつくす意味も込めて

地上――屋上に向けて銃を乱射する。

 

「待たせたな、食らえ!!」

 

「伏兵だと!? リアス、なかなかやってくれるじゃないか!」

 

俺の乱入に驚いている様子の両陣営。

ヒーローは遅れてやってくる、とはよく言ったものだ。

俺はヒーローに憬れこそすれ、なったつもりはないが。

 

ともあれ、相手の撹乱には成功した。

その勢いで俺は女王に対して追撃を敢行する。

 

――本来なら俺が足止めをするはずだったのだ。

フェニックスを倒す前に、なんとしてもこいつを仕留める。

 

「……そのふざけた仮面は。あなた、瓦礫に埋もれたのではなかったのかしら?」

 

「あれっぽっちじゃ足らないからリクエストをしに来たんだが、気が変わった。

 どうにも女王陛下には期待できそうも無い。だから……退陣していただく!」

 

相手が爆撃を試みようとするよりも先に、女王(クイーン)めがけて一撃を加える。

確かに俺自身の動きはやや重く感じるが、これくらいの芸当は可能だし一撃も重い。

重量級に強化されたボディブローを見舞う。

女性の腹を狙うのは顔と同等にアンフェアかもしれないが

四の五の言っていられる状況でもない。

 

「ぐ……っ!? 昇格は……出来ないのでは……!?」

 

「普通の方法じゃあな。だから普通じゃない、俺の方法でやらせてもらった。

 そういうわけだ……そこで寝ていろ!!」

 

この一撃で、何かの結界が解けたように見えたが、今はそれよりも。

追撃でさらに女王の鳩尾に膝蹴りを、崩れ落ちようとする背中に肘打ちを加える。

我ながら随分と淡々とやったものだが、その効果は覿面であった。

リタイアはしていないようだが、一連の攻撃は女王を黙らせるのには有効であったようだ。

 

うつ伏せに崩れ落ちたのを確認した後、俺はイッセー達と合流した。

どうやら限りなくアウトに近いセーフだったことが見て取れる。

幸い、だれも脱落はしてないようだが……。

 

「すまない、遅くなった上に増援を許してしまった。

 言った手前、ここから挽回させてくれ」

 

「セージ、お前なぁ……部長のスタンドプレーを咎めといて

 お前がスタンドプレーに走るなよ。あいつらは何とか倒せたから、いいようなものだけどよ」

 

「そうだね。結果オーライかもしれないけど、押し付けられたほうの身にもなって欲しいかな。

 それと、フェニックスの妹については戦う意思をやはり見せなかったよ。

 相手の言うことを鵜呑みにするのも、どうかと思うけどね」

 

「……戦術的には正しいかもしれませんが。協調性という意味では、ちょっと。

 あと、待ち合わせの遅刻はあまり褒められたものじゃありません。特に女性との約束は」

 

……む。確かにちょっと勇み足が過ぎたかも。

特にイッセーと木場に関して言えば、残敵掃討を押し付けた形になる。

数の上では互角だからとたかをくくっていたが……

さらに追い討ちをかけるように塔城さんの突込みが冴え渡る。

全く、反論しようにもぐうの音も出ない。反論する気はないが。

 

……これでは、他人ばかりをあまり悪し様に言えないな。

現場判断とは言え、もっとしっかり説明するべきだったか。

 

「……その件についてはすまなかった。戦況を打開しようとして勇み足を踏んだようだ。

 既に事が動いてたものだから、説明する暇も惜しかったんだ。

 俺の目的は、フェニックスを攻略する際に相手の眷属の妨害が入るのを防ぐことだったんだ。

 最も、結果はこうして女王が援軍に来られてしまったが」

 

事情を説明していると、粉塵の向こうからアーシアさんが駆け寄ってくる。

後方に待機していたのだろうか? 今は粉塵で煙幕を焚いているようなものだから

前線に出てもいいかもしれないが。

 

「はぁっ、はぁっ……セージさん、みなさん、無事でしたか……」

 

「アーシア!? そうか、セージが女王をぶっ飛ばしたのか!」

 

「確かに鳩尾に二発、背骨の辺りに一発くれてやったが……とどめはさしていない。

 相手の女王が、アーシアさんに何か関係あるのか?」

 

俺の疑問に、木場が答えてくれる。

曰く、どうやら聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を封じようと、女王が結界でアーシアさんの動きを封じていたらしい。

そこに俺が駆けつけ、女王を昏倒させたために結界が解け、アーシアさんは自由になったらしい。

……うーむ、またしてもラッキーストライクか。

ビギナーズラックと言うか、あるいは見方によっちゃご都合主義と言うか?

それ位、今日の俺は随分と運がむいているみたいだ。

 

アーシアさんは、俺が駆けつけるまでの戦いで皆が受けたダメージを治療するために動いている。

このまま体勢を立て直せば、いよいよ攻勢に乗り出せるが……グレモリー部長は?

 

「あとはグレモリー部長だが……戦闘が続いている辺り、やられてはいないだろうが。何処に?

 フェニックス攻略について、意見具申したいのだが」

 

「部長はまだフェニックスの野郎と向き合っているんじゃないか?

 俺達は女王を抑えるのに必死だったから、そっちまでしっかり確認できなかったんだ。

 アーシアは何か知っているか?」

 

「ごめんなさい、私も部長さんと相手の(キング)が戦っているってところまでしか見えなかったんです」

 

「……セージ先輩も来ました。相手の女王も今は沈黙してます。今なら、総攻撃できるかと」

 

塔城さんの言葉で全員の意思が固まると同時に、粉塵は晴れた。

回復した視界の先には、余裕綽々のフェニックスと、満身創痍のグレモリー部長がいた。

 

……ああ、だから言わんこっちゃ無い。

イッセー達が向かった時点で心配はそれほどしてなかったが

全く心臓に悪いプランだよ。これは。

 

「伏兵を用意して戦う意思を見せる姿勢だけは立派だと褒めてやるよリアス。

 けれど、俺を倒すには力が足りなさ過ぎて伏兵の意味が無いぞ?」

 

「……そうね。けれど、セージはやってくれたわ。朱乃は倒されてしまったけれど

 今ここに、我がグレモリーの眷属達を全員そろえることに成功したわ!」

 

……俺がそうするように仕向けたんだけどね、とは言わないでおこう。

 

アーシアさんはグレモリー部長に駆け寄り治療を。俺達はフェニックスを取り囲み

臨戦態勢に入っている。数の上では、圧倒的に優位だ。

今やらねば、いつやると言うのだ?

俺は思い切って、グレモリー部長に意見具申するが……

 

ふと視界の隅に、映ってはいけないものが映った。

相手の女王だ。完全に黙らせるつもりで叩いていたのに。

悪魔の駒で強化されたのか、あるいは元々か。

昏倒程度ではリタイアは奪えないと言うのか。殺すつもりでやれ、と?

まあ、あの様子じゃ昏倒させるにも至らないダメージだったと考えるのが自然か……。

とにかく、あの様子ではまたこちらに不意打ちを仕掛けてくるだろう。

 

やったと思った瞬間が、一番気を抜くタイミング。

今は皆気を抜いてはいないとは思うが、念のためだ。

俺はそっとグレモリー部長に対し、通信機の個別回線で意見具申を行うことにした。

 

「グレモリー部長。女王が動き出しました。

現状、悠長に女王を倒してからフェニックスを倒す……

なんて、やっている暇は無いと思います。女王は宣言どおり俺が倒します。

皆はフェニックスに攻撃を。以上、作戦意見具申いたします」

 

「……イッセーは消耗が激しい、木場や小猫を割けばライザーを討つ為の戦力が……

わかったわ。具申了承するわ。但し、可及的速やかに女王を撃退し

ライザー攻撃に参加しなさい。そのための神器(セイクリッド・ギア)でしょう? いいわね?」

 

「……御意!」

 

動くにしても、一応は断りを入れるべきだろう。

最も、却下されたらされたで無視して動いた可能性も無きにしも非ず、だが。

俺は速やかに決着をつけるべく、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)から一枚のカードを引く。

そしてそれは、グレモリー部長らの総攻撃の合図でもあった。

 

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

 

電子音に心なしかエコーが響いている。おまけに、力が上昇した感覚が無い。

……このタイミングで壊れたか? やはりぶっつけ本番だしなぁ、と思っていると

右手のドライグから解説を受けることになった。

 

『壊れてなどいない。だが、普段の記録再生大図鑑でも知ってのとおり

 同一の強化は重複しないだろう。そのために、カードの効果が変わったのだ』

 

なるほど……ってドライグ、何で記録再生大図鑑の仕様を知ってるんだ?

い、いや……こっちのドライグは俺と一緒に戦ってたんだ。知っててもおかしくないか。

 

とにかく、俺はこの発動した新たな力を振るうことにする。

 

 

「隙を突いて爆撃するつもりだったのだろうが……そうは行くか!」

 

「おのれ……どこまでも私に付きまとう鬱陶しい小僧が!

 やはり瓦礫に埋もれさせず、挽肉……いや肉片にしておくべきだったわ!」

 

 

激昂とともに放たれた爆発の魔法は、見るからにとてつもない威力であった。

その威力たるや、向こうでフェニックスと戦っていたイッセー達にまで

爆発の余波が及んだくらいだ。そのお陰で屋上が一部吹き飛んでおり

向こうのイッセー達だけでなくフェニックスまで驚いていたほどだ。

 

「くっ、ユーベルーナめ……頭に血が上っているな。誰がそこまでやれと……。

 獅子は兎を屠るのにも全力を尽くすとは言うが、これでは火力過多だな。

 リアス、お前の下僕も運が無かったな。あれでは――」

 

「言わなかったかしらライザー? セージを、私の眷属を甘く見ないほうがいいって。

 それにその物言い……眷属をハーレムの構成員、お飾り程度にしか考えていない

あなたらしい物言いね。だから私はあなたとの婚姻は反対なのよ!」

 

随分買ってくれますな、グレモリー部長。

一体、何処にそんな価値があるのやら。自分で言うのも何だが。

ここに俺がいるからって、気を遣うタイプには見えないことを考えると……

素で言ってるか意地張ってるか。まあ、今そんなことはどうでもいいだろう。

 

……で、爆風を正面から浴びる形になった俺はどうなったかと言うと。

結論から言えば、大したことはなかった。

 

いや、実際爆発の威力は凄かったと思うのだが。

 

「……悪いな。俺もお前を倒して合流する、って約束だったんだ。

 半分約束破ってる手前、落とし前はつけさせてもらう!!」

 

「こ、こしゃくな! どんなまやかしで私の爆発を防いだかは知らないが!!」

 

「まやかしじゃない! お前の爆発を凌いだのは事実だ!!」

 

今しがた引いた俺のカードは「力」。

普段は戦車の性質をそのまま乗せる効果だが、今は既に戦車に昇格している。

そのままでは意味の無いこのカードが新たに見出した可能性。それは……

 

――「力」を操作する。

 

おおよそ力には最低でも4つ、様々な種類があるらしい。

俺も理系の人間じゃないので詳しくは知らないが。

そのため、具体的な理論は抜きにして目的だけを考えながら力を揮う。

そのせいか、記録再生大図鑑の方に少々余計な負荷がかかっている気もするが……。

 

今は「爆発による攻撃を無力化したい」と念じながら、右手をかざしていた。

するとどうか。俺の方は見事に爆発のダメージを無効化していた。

これにも原理とか色々あるのだろうが、今考えていると頭が痛くなりそうだ。

結果として、爆発の衝撃や方向は見事に俺を避ける形で発生したのだ。

とにかく、「力」のカードはとんでもない進化を遂げたってことが分かればいいか。

 

「爆発の衝撃を、避けた……いえ、捻じ曲げたとでも!?」

 

「原理は知らないが、そうらしい。さて、お次はこうだ!!」

 

続けて、かざしていた右手を今度は地面に向けて振り下ろす。

それと同時に、巨大な岩に潰されたようにユーベルーナは倒れこむ。

相手の周囲だけ、重力が大幅に上がったようだ。これはなんとなく分かる。

先刻不意打ちを加えたとき同様、地面に突っ伏したユーベルーナを目指し

俺は悠々と歩を進める。

 

ユーベルーナの目の前まで詰め寄った時、背後ではフェニックスの炎と

グレモリー部長の魔力がぶつかる音が響き渡っている。

振り向くと、隙を突いてイッセーや木場、塔城さんが攻撃を加えている。

牽制しているようだ。

 

……しかしあれじゃ……あれじゃ勝てない。

俺が思うにオカ研の皆は弱くはない。

ただ、フェニックスという規格外の再生能力を持った相手に対して

有効な決定打が今は、使うことが出来ない。

唯一使えそうなイッセーも、消耗が激しく後1~2回が精々だろう。無駄打ちはできない。

アーシアさんも回復できるよう待機しているが……彼女も疲労回復とかはできないらしい。

これは、なんとしても速やかに女王を撃退し合流しなければ。

 

そう思った俺の足元には何とか顔を上げてその様子を見ているユーベルーナがいる。が……

 

――行かせねぇよ。

 

相手は地面に突っ伏している。それなりに借りもある相手ではある。

思わず顔を蹴っ飛ばしてやろうかとも思ったが、そこまで非情にはなれなかった。

……ま、それでいいんだろうけど。それに、もう2~3発ほどぶん殴っている。

 

「援護には行かせるものか。だが、送り届けてはやる」

 

「な……に……?」

 

今は、やるべきことをやらなければ。

先刻振り下ろした右手を、今度は掌を天にかざす形に振り上げる。

刹那、ユーベルーナにかかっていた超重力は、今度は無重力となる。

突如身体が宙に浮いた彼女を掴み、カードではなく戦車の力でフェニックスめがけ投げつける。

 

「うらあああああっ!!」

 

「くっ、ライザー様っ!!」

 

「うおっ!? ユーベルーナだと!?」

 

突然の妨害に目を白黒させるフェニックスを尻目に

俺は号令をかける。いよいよ、総攻撃の合図だ!

 

「グレモリー部長。今から吶喊します、いいですね? 答えは聞きませんが!

 イッセー、木場、塔城さん、続いてくれ!

 アーシアさんは引き続き後方待機、部長は援護射撃を!」

 

「セージ、指揮は私が……って言いたいところだけど、私も同じことを考えていたわ。

 今回は細かい指示はセージ、あなたが出しなさい。

 ……ただしやるからには結果を残すこと、いいわね!」

 

今回も、俺はかなり勝手なことを言っている。

ともすれば越権行為かもしれないが、まあ戦術的な視点で見れば

ある程度のお墨付きは貰っている。はずだ。伊達にイッセーに憑いて戦術指揮は執っていない!

 

……最も、数えるほどの経験しかないが。

ともかく、俺が思う最大限の攻撃を繰り出すために、必要な手札は……

 

既にスポイルされた手札もあるが、そこはうまく埋め合わせなければ。

 

「御意。皆、まず俺が仕掛けるから、俺の後に続いてくれ!」

 

「おう! 任せろ!」

 

「分かったよ、セージ君!」

 

「分かりました!」

 

「……ええ、行きます!」

 

俺は合図と共に意を決して、最後の切り札を切る。

あの時、俺を、俺達を散々苦しめたあの武器を。

 

……忌々しい、あの光を。

 

 

SOLID-LIGHT SPEAR!!

 

 

「……セージ、その槍は!!」

 

「堕天使の光の槍……驚いたわね。そんなものまで実体化できるなんて」

 

実体化させたのは光の槍。イッセーや俺を散々貫いたあの光。

イッセーを殺し、悪魔になる切欠を与え。

俺に致命傷を負わせ、肉体を失わせる切欠を与えたであろうあの忌々しい光。

 

正直に言うと、この光を扱うのには若干抵抗がある。

だが、今は個人的な感情で動くときではない。

ただの個人的な好き嫌いの感情は、今はおいておくことにしよう。

対悪魔の戦いにおいて、この光の力は非常に有用だ。

 

――これでまた、人を殺そうとするのか。

 

一瞬、また後ろ向きな考えが頭をよぎるもすぐに打ち消される。

それ以上に、ようやく解決しそうなこの問題を速やかに解決するほうが先だろう。

 

やっていることは、これの本来の持ち主とそう変わらない気も、一瞬過ぎったが。

だが、今は俺の後ろに仲間がいる。彼ら彼女らの期待は裏切るわけには行かない。

俺達の運命を狂わせた忌々しい光の力。だが今は、俺達の道を拓くために使わせてもらう!!

 

光の剣と違い、柄が存在しないために実体化させると手が灼ける様に痛む。

そのため、俺は「力」を作用させて直接触れないように光の槍を携帯する。

これならば、一撃で倒せるとは言わないまでも決定打にはなりうるかもしれない。

受けるダメージは最小限に、与えるダメージは最大限に。

 

「焼き鳥には串がお似合いだ、食らえ!!」

 

俺はフェニックスめがけ槍を投げつける。

フェニックスに積み重ねられたユーベルーナごと、光の槍で貫かんと試みる。

悪く思わないでくれ、これも……これも必要なことなんだ!

 

 

「げほっ……ライザー様を……やらせは……しない……!!」

 

「ユーベルーナ!」

 

 

「ぐ……ならそのまま消えてしまええええっ!!」

 

「力」を込め、光の槍がさらに深々と突き刺さるように右手を掲げ、念じる。

鈍い音と共に、ユーベルーナとフェニックスに槍が突き刺さる。

思わず、先刻の騎士の件がフラッシュバックする。

あの鈍い感触を吹き飛ばすように、一咆えする。

 

「うあああああああっ!!」

 

「がっ……あああああああっ!!」

 

女王の腹から流れ出る血がフェニックスを染め上げる。

とは言え、相手は赤いスーツを着ているためにあまり変化がわからない。

その変化の有無を知ったのは、女王が断末魔と共に脱落し、フェニックスを貫き始めた

その様相が露わになったそのときである。

 

――ライザー・フェニックス様の「女王」、リタイア。

 

「貴様、よくも……くっ、ぐっ……がはっ!?」

 

女王は倒した。おそらく、先刻の騎士の時よりも酷いことになっているかもしれない。

その時ほど、俺自身もショックを受けていない。嫌な言い方をすれば慣れたのだろう。

人殺しに慣れるなんて、あってはならないことだが。

だからこの戦いも、悪魔の習慣も嫌いなんだ。さっさと終わってしまえ!

フェニックスが血反吐を吐いているが、かまうものか!

お前を倒せば、それで終わるんだ!

 

昇格を試みたときとはまた違う吐き気を覚えながらも、それを拭うように

フェニックスを光の槍で串刺し磔にし、俺は改めてオカ研の仲間に号令を出す。

 

「ぐぬぅぅぅぅっ!! て、てめぇは人間の転生悪魔か!? それとも堕天使の転生悪魔か!?

 いずれにしても、グレモリーの眷属はゲテモノばかりだ……げぼっ!?」

 

「……黙ってろ。俺はさっさとこの戦いを終わらせたいんだ!

 今だ皆! 続けて攻撃を!!」

 

「ああ、行くぜ木場!!」

 

「任せてくれ、イッセー君!!」

 

TRANSFER!!

 

聞きなれない音声と共に、木場の魔剣創造が発動する。

そこから現れた剣の山は、以前俺が木場と戦ったときに見たものとは規模が違っていた。

地面から生えた剣の山が、確実にフェニックスを貫いていたのだ。

 

『ほう。どうやらオリジナルの方も新たな力に目覚めたらしいな。

 これは……「禁手」に到る日も遠く無かろうよ』

 

なんと。あの規模が違う剣山はイッセーの仕業か。

他者に力を譲渡できるって意味では、ある意味じゃ俺の強化よりも有用だな。

……それ以前に燃費悪すぎて使えるかどうかは何とも言えんが。

 

「がはっ!? こ、この……だが俺は不死身の……!」

 

「ふん、それがどうしたの? まだまだ攻撃は終わらないわよ!」

 

と、感心しているのも束の間。既にフェニックスは再生を始めようとしている。

しかし再生を始めようとする場所にグレモリー部長の魔力弾が炸裂。

炎が四散してしまい、再生どころではない。

 

「よし、これなら! イッセー、一度後退して休憩。次の攻撃の準備を!

 木場はプールに水を張ってくれ! それと道中で出来たら消火器を!」

 

「おう! ……ってプールに消火器? そりゃ確かに、火を消すには水だけどよ……

 それに消火器なんか、悪魔に効くのかよ?」

 

「確かに機動力なら僕が適任だけど……分かった、セージ君を信じるよ。

 皆、前線は頼んだよ! セージ君、パシリ代はちょっと高いよ?」

 

「セージ。イッセーはともかく、祐斗を前線から下げるってどういうつもりなのかしら?」

 

木場は快く俺の提案を受け入れてくれた。

しかし、案の定グレモリー部長には不服に思われてしまう。

まあ、まだ戦える要員を下げるってのも、我ながら思い切った提案だとは思ったが……。

勿論、考え無しでやっているわけじゃない。

プールに関しては俺の、消火器に関してはイッセーの力が、恐らく必要になるだろう。

イッセーの力のほうは、効果を完全に把握していないので完全な博打だが。

 

「……本来なら、ここに来る前に張っておくべきでしたがね。

 まだ今なら、木場に頼めば間に合うと判断しました。『騎士(ナイト)』の駒の特性を踏まえた上で。

 さて、追撃は……」

 

「……セージ先輩。私に考えがあります」

 

追い討ちの手段を考えていたところ、塔城さんから依頼を受ける。

曰く。今の俺にある「戦車(ルーク)」の力と塔城さんの力。

二つを合わせて、フェニックスに強打を与える手段があるらしい。

 

そしてそれは、俺が塔城さんを打ち出し

塔城さんが二人分の力を集めた飛び蹴りを浴びせること。

 

……まあ、俺を塔城さんが打ち出すよりは現実味にあふれたプランだろうが。

 

「わかった。だが、俺もこの力にはまだ慣れきっていない。

 塔城さん、無理だけはやめてくれ。頼んだよ?」

 

「……セージ先輩。倍加もお願いします。」

 

……は? 今この状態で倍加をすれば、その力はとんでもないものになる。

それで塔城さんを打ち出すとなると……耐えられるのか?

 

「小猫! 無茶はやめなさい!」

 

「……大丈夫です部長。セージ先輩、私を信じてください」

 

俺個人の意見としては、グレモリー部長の意見と被っている。

しかし、訴えてくる塔城さんの目は真剣そのものだ。

そもそも――迷っている暇なんて、あるわけが無い。ならば!

 

「わかった……行くよ!」

 

BOOST!!

 

右拳に力を込め、フェニックスめがけストレートパンチを繰り出す。

それに合わせる形で、塔城さんが俺の右拳をバネに見立て

フェニックスに物凄い勢いで飛び掛る。

俺の右手が、塔城さんを打ち出した格好になったのだ。

 

「……くっ、はあっ!!」

 

「……!!」

 

その一撃は、まるで閃光の一撃だった。

瞬く間も無く、フェニックスに塔城さんのとび蹴りが刺さったのだ。

しかも張り付けた壁部分ごと粉砕した形になっている。

以前、クソ神父――フリー……なんだっけ。名前忘れたが――をぶっ飛ばしたときも

イッセーの「戦車」への昇格にあわせ、俺が加速を加えた。

その結果、奴は街の外にまで吹っ飛び、現在も消息不明。

ここは舞台の決まった場所であるからか、そこまでにはならないだろうが

それくらいの勢いはあった。

 

事実、白い空の彼方に何かが結界に触れたような魔力光と

何かが燃え尽きるような煙が見えた。

 

RESET!!

 

「なんとまあ、随分飛んだな……」

 

「あれは……やったぜ! 部長! 俺達、やりましたよ!!」

 

生死確認はしていないが、あれなら恐らくは倒しただろう。多分、だが。

イッセーの方は能天気にはしゃいでいる。

イッセーにもあの何かが燃え尽きたような光と煙は見えていたはず。

恐らく、俺と同じ結論を出したのだろう。それも、俺よりも猜疑心を持たずに。

後方待機しているアーシアさんもほっと胸をなでおろしている。

木場、すまん。無駄足みたいだ。

 

しかし、妙にグレモリー部長が浮かれていないな。

確かにまだ決着アナウンスが流れていない以上、勝ちを決め付けるのは早計だろうが。

 

「……セージ、小猫に連絡をとって頂戴」

 

「む、確かにそうですな。しばしお待ちを」

 

……そうだ。塔城さんの無事を確認せねば。

咳払い一つした後、俺は塔城さんの通信機に連絡を試みる。

 

『……私なら大丈夫です。今からそっちに戻ります』

 

通信機から流れる塔城さんの声が、彼女の無事を伝えてくれた。

よかった……無事だったか。これで、万事恙無く終わってくれた。

やっと……この下らない戦いが終わってくれた。

 

支払った犠牲は少なくないが、終わってくれたのはありがたいことだ。

なあグレモリー部長、これで満足だろう?

フェニックス家の三男坊と相手の眷属の全滅――特に二人は重症だろうが――

と引き換えに自由を得たんだ。もっと喜んでくれ。イッセーもそれを望んでいるはずだ。

 

それより。何故いまだにアナウンスが流れない?

通常、勝利が確定したらその旨を伝えるアナウンスが流れるはずだが……

これがゲームであるなら、勝利宣言は大事なことだと思うのだが。

 

まさか、王を倒しても相手の眷属を全滅させないといけないルールがある、とかか?

いやそれはない。いくら仕組まれた戦いでも、後からルールを追加すると言うのは

相当なねじ込みが必要になるはずだ。そんなことをすれば、今度はフェニックス家が

白眼視されることになるのは想像に難くない。

 

となれば……あってほしくない事であるがゆえに、意識的に予測から外していたが……

もうこれしか考えられない。

 

……フェニックスは、まだ生きている!

 

『塔城さん! 気をつけて、まだフェニックスは生きて――!!』

 

「何っ!? セージ、それは……」

 

――リアス・グレモリー様の「戦車」、リタイア。

 

俺の叫びは、無情にもアナウンスに遮られる形になってしまった。

な、何てことだ。あれだけやったのに、まだ生きているなんて……!!

 

い、いや。それだからこそフェニックスがフェニックスたる所以なのかもしれないが!

 

「イッセー、セージ! 体勢を立て直すわよ。

 もうじき祐斗も戻ってくるはず、今度こそフェニックスを迎え撃つわよ!」

 

「く……御意!」

 

……そして、俺は思い知らされることになる。

悪魔の、本当の恐ろしさを。

不死身と言うものが、どれ程に惨いものであるのかを。

 

そして……

 

 

 

……やはりこの戦いが、本当に馬鹿げたものである、と言うことを。




原作から大幅に戦力比が変わっているため
話が如何様にでも転がせられます。
それが今回の話が難産になった理由です。

……原作から話を変えたいと前々から言ってはいましたが
いざ大きく変わるとこのザマです、はい。


次回投稿は若干遅くなるかもしれません。
ご了承くださいませ。

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