ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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UA2万突破しました。
ありがとうございます。

未だ手探りな状態も続いてはおりますが
皆様の感想、評価、応援に感謝いたします。


Soul23. 昇格、出来ません!?

一体、いつまで続くのだろうか。

このクソ下らない戦いは。

一体、これのどこに高貴なる悪魔の心意気とやらがあるのか。

これはただのクソ下らないお家騒動じゃないか。

 

一体……俺達は何をやっていると言うのだ。

 

ただ一人の公爵令嬢の我儘から口火を切られたこの戦い。

競技なんて温い物ではない、血で血を洗う熾烈な殺し合いだ。

聞けば、過去の戦争で落ちた悪魔の力を高めるためのものらしいが

これではただの内乱、潰し合いでは無かろうか。

 

少なくとも、あれだけの一撃を受けておいて致命傷がない、などありえない。

俺は確かに、あの騎士のどてっ腹に光剣を突き刺し、貫いたのだ。

それをただリタイアの一言で済ませるには……少し、軽すぎやしないかと思う。

 

死者が出ないようになっている……と言うのも、都合がよすぎる。

これだけ、いやこれ以上もあるであろう熾烈な戦いで死者が未だかつて出ていない、などと。

これには、絶対に何かのウラがあるように思えて仕方が無い。

 

これを流行らせて得をするのは誰だ?

都合よく自分たちの政策を磐石にしようと企んでるサーゼクスら新魔王の一派か?

あるいは悪魔の共倒れを望む天使か堕天使のどちらかか?

 

……いや、いくらなんでもこれは陰謀論の崇拝者みたいな考え方だ。

しかし、そういう突拍子も無い考えが出る程度には腑に落ちないのも事実だったりする。

そう――

 

木場が言うように、己を高めようなんて綺麗なもんじゃない。

そこにあったのは、鼻を突く嫌な臭いに、不愉快な僅かなぬめり気を帯びた感触。

そしてそれが生きているものから流れ出たことを証明する生暖かさ。

それら全て、ただの我儘から始まっているんだ。早く終わらせたい。

 

それなのに、さっきから手の震えが止まらない。息も上がっている。

走ってはいるのだが、この息の上がり方は走ることによるものではない。

今さっきの俺の行いが原因であることは想像に難くない。

そう。多分、恐らく、初めて……

 

 

 

――他人を、刺殺しようとした。

 

 

 

いや、あそこでやらなければ俺がやられていたのはわかっている。

それに、恐らくは既に治療が行われている。と、思いたい。

最も、得物のお陰で後遺症の一つや二つは出てしまうかもしれないが。

 

そう……分かっているはずなのだが。

右手の甲で顔を拭うと、右手の甲は赤く染まっていた。

さっきの返り血なのは間違いないだろう。

 

いや、今まではぐれ悪魔を何度も倒したし、その中には人型の相手もいた。

堕天使やはぐれ悪魔祓いとだって戦った。

 

人型の相手を倒したと言っても、相手はゾンビだったり

目的を果たすために突き飛ばす程度の交戦しかしていない。

今回みたいに明確な殺意の元、理性を持った相手に力を振るった記憶が……

 

い、いや。あった。あの堕天使だ。

あいつだけは明確に殺そうと思って力を振るった。

けれどあれは頭に血が上った状態、つまり冷静さを欠いていた。

いやつまりそれは……ッ!

 

俺は……一歩間違えば、人を殺そうとしていたことになる。それも何度も。

俺は、俺は殺人を是とするような奴なのか? あ、悪魔になったせいだからか?

少なくとも、殺人を是とする思考は、人間社会においてはきわめて危険だ。

悪魔の歩藤誠二はともかく、人間の宮本成二はそういう奴ではない、ないはずだ。

 

 

――チッ。

 

 

色々なものを吐き捨てるように、舌打ちをする。

今まで龍帝の義肢(イミテーション・ギア)を酷使したからか、消耗をしたのかもしれないが。

 

 

――ああ、だから後ろ向きな考えになるのか。疲れているから――

 

 

その結論に至った俺は体育館跡に行く前に、水飲み場で水を補給する。

浴びてしまった返り血も、落ちるものは落とす。

服についたのはシミになってしまっているし、血の錆びた鉄の匂いってのは好きになれない。

この制服は飾りだけど、汚れたままってのはあまり気分がよくないな。

それに、何だか傷害事件を起こした後の始末みたいで気分が優れない。

 

と、思いながらも隠し持っていたペットボトルに水を詰め替える。

戦闘前には麦茶が入っていたものだ。既にカラだが、水筒としての機能は十分に果たせる。

全ては、このために。

 

MORFING!!

 

モーフィング。『水道水』を『スポーツドリンク』に変える。

これも結構体力を使うのだが、スポーツドリンクの栄養価で相殺している。はずだ。

とにかく、水分を補給し一息つく。まだ先は残念ながら長いだろう。

糖分の補給も考えたが、生憎食えるものを持っていない。

さすがに石をモーフィングで食料に変えるのはちょっと練度が足りないし疲れる。本末転倒だ。

 

それに。今はいずれも飲み水だからいいようなものの、仮に石を食べ物に変えて

腹の中で変化が解けたとしたら……少し怖い考えになった。

 

「……ぷはっ。さて、まだアナウンスが無いところを見ると

 最悪の事態は免れているようだが……」

 

そう。そう呟いた瞬間、耳に突き刺さる轟音と共に、地面が揺れる。

揺れ方からして地震ではない。恐らくは女王(クイーン)の仕業だろう。

 

衝撃の後、俺が持っていた通信機にアナウンスが入る。アーシアさんだ。

相当慌てている様子だが……

 

『セージさん、セージさん! ああ、よかった……繋がりましたか。

 早く部長さんの救援に来てください! このままじゃ……』

 

「……悪いが、いくらアーシアさんの頼みでも聞けないな。

 大体、一対一で戦って勝てる相手じゃないことをグレモリー部長は知っていたはずだ。

 大方、アーシアさんの神器で同じ土俵の上に立ったつもりなんだろうが……

 意味合いがまるで違う。自分自身が不死身である事と

 回復手段を用意して不死身になるのとでは全く違う。

 それなのに、相手の挑発に乗って戦いを始めてしまった。

 これは紛れも無い、グレモリー部長のミスであり、俺達眷属――

 いや、目的を同じくする仲間を軽んじたとも受け取れる。

 そんな奴のために、俺は加勢するわけにはいかないな」

 

案の定、アーシアさんからの救援要請が来たか。

……声を大にしていいたい。アホか!!

アーシアさんが心配性だから、今戦闘をしていない俺のほうに連絡が来ただけかもしれないが

苦戦しているであろうことは想像に難くない。

しかしなぁ……この結果、読めなかったわけでも無かろうに。

 

俺としては勝とうが負けようがどっちでもいいので

この救援要請は突っぱねることにする。

アーシアさんの依頼を突っぱねるようで少々、心苦しいものはあるのだが。

そのフォローとして、一言添えることにした。

 

「だが悲観するのはまだ早い。もうすぐイッセーと木場が、それに状況次第だが

 塔城さんも援護に向かうはずだ。俺はその間、相手の『女王(クイーン)』を押さえる。

 俺が行くのは、それが終わってからだ」

 

『イッセーさんが!? わ、わかりました! 部長さんに伝えておきます!

 ……ってセージさん、もしかして一人で「女王」を!? む、無茶です!!』

 

ああ、俺もそう思う。だがフェニックスを倒すには

オカ研の連携が必須になるだろう。それだけに姫島先輩が抜けたのは痛いが……。

それともう一つ。「絶対に敵の援軍が来ない」条件を作り出す必要がある。

その二つをクリアするには、「女王」を倒し、かつ俺がイッセーにシンクロする。

塔城さんの方が、他のメンバー――特にグレモリー部長――との連携が図りやすいだろう。

それが、俺が「女王」の足止めに残る理由だ。

 

「……すまない。メンバー配置がこれしか思い浮かばなかったんだ。

 今グレモリー部長に指示を仰いでいる暇は無さそうだし、な。

 一人欠けた状態で相手の『女王』に横槍を入れられるよりは、二人足りない状態だが

 フェニックス一人を総攻撃した方が、勝算はあるんじゃないかと俺は思う」

 

『そ、それは……そうかもしれませんけど……』

 

「そういうわけだ。よって事は急を要する。イッセー達が来るまで、何とか持ちこたえて欲しい。

 以上、通信を切る」

 

『せ、セージさん! 待っ……』

 

半ば強引にアーシアさんの通信を切り、ペットボトルの中身を飲み干す。

さて……ちょっと無駄話が過ぎてしまった。

 

 

――急がないと。

 

 

一目散に体育館跡に向けて走り出す。

まだ、まだ彼女は無事なはずだ。せめて、彼女だけでも守らなければ。

そして、全員を集めるんだ。そうすれば、このクソ下らない戦いを

よい結果で終わらせることが出来る。

 

そう思いながら駆けつけた俺の目に飛び込んだのは、煙の立ち上る体育館跡。

あちこちにクレーターが出来ており、激戦が繰り広げられたことを物語っている。

土煙のお陰で視界はゼロ。こうなれば、これを使うしかない。

 

COMMON-LADER!!

 

レーダーによる索敵。ステルスも展開されていないであろう今

程なくして塔城さんを見つけることは出来た。

幸い、大きな傷も負っていない。

 

「あ、セージ先輩……姫島先輩が……」

 

「聞いてる。それより、イッセーと木場が新校舎の屋上に向かっているはずだ。

 二人と合流して、グレモリー部長の援護に向かって欲しいんだ。俺も後から行く」

 

遠くにフェニックス陣営の眷属が倒れたアナウンスが聞こえる。

どうやら、あの二人がやってくれたらしい。いいぞ。後は……

 

「……それなら、セージ先輩が向かってください。私はここで……」

 

「いや、俺がここで『女王』を食い止める。あいつに横槍を入れられたら

 勝てる戦いも勝てなくなる。力を合わせてフェニックスを倒す。

 それを目的にするなら、今はイッセー達と合流して欲しいんだ」

 

そうだ。フェニックスだけでも大変なのに、女王に横槍を入れられたら終わりだ。

イッセーも木場も、既にフェニックスの下へ向かっている。

 

……倒すのは、今しかない。

 

「……わかりました。でも、絶対来てください。

 あの焼き鳥に勝つには、セージ先輩の力も必要です」

 

「……ああ。じゃあ、また後で!」

 

走り去っていく塔城さんの背中を見送っていると背後に爆風を浴びる。

間違いなくライザー・フェニックスの女王、ユーベルーナだ!

 

「背後からいきなりとはね……眷属にはノブレス・オブリージュは適用されないのか?」

 

「悪魔になって日も浅い転生悪魔に対する礼儀など、端から持ち合わせていませんわ。

 他の眷属達やレイヴェル様が甘いだけ。あなたは私を倒して、ライザー様との戦いを

 磐石にするつもりでしょうけど、無駄なこと。

 たかが転生悪魔の『兵士(ポーン)』一人、ここで消したところで誰も気にはとめませんわ」

 

……まあ、そうだろうよ。それが普通の応対だろうよ。

だから余計に腹立たしいのだけどな。

だが、俺の最低限の目的は……お前の足止めだ!

 

「……じゃあ、足元に喰らい付く有象無象の蔦くらいにはなってやるよ!」

 

爆風の中、俺はユーベルーナめがけて突っ込むが……飛ばれた!

くそっ、このままじゃ足止めどころの話じゃない!

何とか、こっちに引き摺り下ろしてやる!

 

俺はこっちに来る前に回収しておいた縄をユーベルーナめがけ投げつける。

投擲スキルには若干の不安はあったが、無事縄はユーベルーナの足に絡みつく。

 

……しかし、これじゃ足りない。

爆発で縄を千切られたら水の泡だ!

 

「ふん。何故ライザー様の女王である私がこんな薄汚い兵士の相手をせねばならないのかしら?

 相手になどしていられないわ。倉庫から縄を引っ張ってきたのでしょうけど、無駄な……!?」

 

MORFING!!

 

「モーフィング! 『縄』を『鎖』に変える!

 そしてこのまま引き摺り下ろす!!」

 

EFFECT-STRENGTH!!

RELOCATION!!

BOOST!!

 

「な、生意気な……っ!!」

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

龍帝の義肢を左足にセット。足を固定させ、力任せに鎖を引っ張る。

そのためにカードも引く、大盤振る舞いだ。しかしそれだけしなければ「兵士」の俺が

「女王」の相手を倒す……いや、足止めするのさえも難しいだろう。

 

船を停泊させる錨の要領でユーベルーナの足を止め、引き摺り下ろす。

力任せではあるが、運よくそのままユーベルーナを地面に叩きつける事が出来た。

向こうは今地面に突っ伏している。このままマウントを取ってたこ殴りだ!

 

RELOCATION!!

 

そう考え俺は突撃し、拳を振り下ろしたがその拳は地面に突き刺さってしまう。

相手は爆風を利用して、俺の狙いをずらしたのだ。

くっ、やはり女王。一筋縄ではいかないか。

 

「よくもやってくれたわね……転生悪魔の、しかも昇格(プロモーション)さえしていない『兵士』の分際で。

 私の爆撃で挽肉にしてさしあげましょう!」

 

あっという間に鎖は外され、またユーベルーナに空に飛ばれてしまうが

どうやらさっきの一撃でヘイトを稼げたのか、フェニックスの下に合流するよりも

俺への攻撃に集中している。

 

よし、これで足止めという第一目的は達成できた。できたんだが……

 

「最初の勢いはどうしたのかしら? それとも、この爆風に恐れをなしたのかしら?

 この、そちらの『女王』も粉砕した私の爆撃に!」

 

MEMORISE!!

 

爆撃が酷すぎる。これじゃ押すも退くも出来ない。

何とか打開策を見出そうにもこのままじゃカードさえも引けない。

爆撃のカードは記録されたみたいだが。

 

……ん? さっきそういや昇格がうんぬん言ってたな。

幸い、もうフェニックスの眷属で戦う意思があるのはあいつだけ。

ならば……試してみるか。

 

ANALYZE!!

 

「逃げるのかしら? ふふっ、精々逃げ惑うがいいわ!

 この私を一度でも地に這わせたこと、爆撃の中で後悔なさい!」

 

爆撃を掻い潜り、俺は新校舎めがけて走り出す。

その間振り向きながら、小出しではあるもののアナライズも行う。

全てのデータを読めるわけではないだろうが、少しでも使えるデータがあれば、勝算は上がる。

運のいいことに、相手は俺に一撃食らったのが相当悔しいのか俺への爆撃に集中している。

下手に新校舎を爆撃したらライザーにも影響が出るかもしれないってのに、だ。

その方がこっちとしてもアナライズはしやすい。実力差をひっくり返せるかどうかは分からないが

環境はこちらが優位に立ちつつある。

 

そしてもう一つ、これは副産物なのだが……

 

――屋内なら、爆撃はされない。

 

そう、地形の都合上、屋内に逃げ込んでしまえば上空からの爆撃は出来なくなる。

正面からの爆発は防ぎようが無いが、それはもう仕方が無い。

運よく爆撃が止んだところで、俺は昇格を試みる。

遠くにまだ爆発音が聞こえる。早くしなければ!

 

「しまった、こちらの陣地に……まあいいわ。

 ライザー様のところには、絶対にたどり着かせはしないわ。

 その挽肉を手土産に、ライザー様の所へ向かうとしましょう」

 

「……どうやら、こっちを追ってくるみたいか。合流を図られなくてよかったか……ふぅ。

 だったら、こっちも置き土産を残すとするか……!」

 

校舎に入り込み、屋上に向かう途中で俺は早速今しがた記録したカードを使うことにする。

これがこの先の戦況を変える一手になるとは考えにくい以上

いっそのこと、実戦テストとしてわざと使うことにしたのだ。

 

EFFECT-EXPLOSION MAGIC!!

 

やはりと言うかなんと言うか、すさまじい爆風が立ち込める。

屋内で使ったのがまずかったかもしれない……が。

 

廊下と言う、二方向にしか進行できない場所で片方を爆撃で封鎖。

時間稼ぎにはうってつけの環境を作り上げたのだ。

 

……今時間稼ぎをする意味は、あまり無いかもしれないが。

 

――――

 

一息つくが、実はさっきから、妙に息が上がっている。

いくら赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)より消耗が少ないとは言え、この短時間で

龍帝の義肢(イミテーション・ギア)を何度も使ったこと。

そしてカードもかなり使っている。少々無理をしすぎたかもしれない。

 

だが、音を上げてもいられない。もう既にイッセーも、木場も、塔城さんも

最終決戦の場に向かっているはずなのだ。

後は俺が、「女王」を倒して合流する。そのためには……

 

しかし、俺には嫌な予感が付きまとっていた。

作戦前、俺の中に生じた違和感。あれは、俺にあると言う悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の作用に違いない。

イッセーに憑依し、かつその状態で悪魔の駒の封印を解放したのだ。

 

……やはり、俺とイッセーは何らかの理由で悪魔の駒を共有しており

俺の方は悪魔の駒に対し適応力が劣っているのか、拒絶反応が出ていると考えるのが自然か。

 

そんな状態で、悪魔の駒の能力である昇格(プロモーション)がうまくいくのか?

いや、今は考えるよりも動くべきか。それに、考えたところで解決法が分からない。

悪魔の駒の知識など、そもそも俺にあるわけが無い。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)ならば調べられるだろうが、今そんな事をしているヒマはない。

 

今はとにかく、やるしかない!!

俺は意を決し、昇格を試みる。

 

――昇格、女王!!

 

しかし、事態はそんな俺の考えとは裏腹な方向へと変化していた。

いや、ある意味予定調和の結果なのかもしれないが。

 

「ぐああああああっ!? く、くっ……やはり……!」

 

作戦開始直後、イッセーの悪魔の駒を開放した時と同じ感覚が、俺の内側から湧き上がる。

自分が自分でなくなるような感覚、内側からバラバラになりそうな痛み。

そして得体の知れない不快感と嘔吐。

 

戦闘中だというのに、俺はそのまま校舎の冷たいリノリウムの床に突っ伏してしまう。

 

EFFECT-HEALING!!

 

慌てて俺はカードで回復を試みるが、あまり状況は変化しない。

まあ、傷を負っているわけでもないから当たり前と言えば当たり前なのだが。

しかも苦しさで判断を誤ったのか、大事なカードの無駄打ちどころか

無意味な消耗をする結果になってしまう。

 

こみ上げてくる不快感で視界が歪むのを感じながらも立ち上がると

遠くからヒールの音が聞こえる。

リノリウムの床に響き渡る無粋なヒールの音……学生じゃない。

いや、そもそもヒールを鳴らしてくるような奴なんて一人しかいない。

 

――ライザー・フェニックスの女王、ユーベルーナ!!

 

「瓦礫で道を塞いだつもりなのでしょうけど、無意味よ。

 逆に、これであなたは追い詰められたことになる。

 今度こそ、挽肉にしてさしあげます」

 

「し、しまった……くっ!」

 

まずい! 前にはユーベルーナ。後ろは俺がさっき崩した、通れない!

こ、この状況でしかも昇格も出来ないと来た!

 

……くそっ。大口叩いてこのザマか。

こうなったら、不本意だがこいつを道連れにするしかない……か。

だが、無策の特攻が通じる相手でも無いだろう。さて、何か手は……

 

胸の奥の不快感は収まらないが、俺はとにかくこの状況を打開するために

何でもいいからやってみることにした。

 

「……なぁ、女王陛下。確かに俺は昇格もしてない兵士でありながら

 そっちの眷属を次々と撃破してみせた。

 その功績を称えて、死に方くらいは選ばせてはくれまいか?」

 

「自ら褒賞の催促とは……なかなか面白いですわね。

 いいでしょう。どのような死に方がお望みで?」

 

……よし。まだ油断は出来ないが、乗ってくれた。後は……

 

「ここは俺にとって馴染みのある学び舎。

 魔力によって生み出された偽りの場所とは言え、ここで埋もれて眠りたいのさ。

 どうせ死ぬなら、挽肉にされるよりは埋もれて死にたい。よろしいか?」

 

「……いいでしょう。ではお望みどおり、私の魔法で討たれる事を褒賞に

 この学び舎の瓦礫に沈みなさい!」

 

……ここまでうまく乗ってくれるとは!

よし、後はこのまま突っ込んで道連れにするだけだ!!

ユーベルーナが爆発魔法の準備に入る。発動のタイミングは、さっきアナライズした。

 

……今だ! 後は一気にユーベルーナに突っ込むだけだ!!

 

「ありがたき幸せ。この幸せ、俺一人で噛み締めるには些か多すぎる……

 ……女王陛下! 貴女にも味わっていただく!!」

 

ところが、俺の手は何も無いところを掴むだけだった。

失敗した! そう思う間もなく爆風による埃と瓦礫が視界を塞ぐ。

 

「粗方、私を巻き添えにするつもりだったのでしょうけど……

 その程度の策で私を討つなど、笑止千万。

 望みには答えましたわ。安らかにお眠りなさい、愚かな兵士のボウヤ」

 

――それが、俺が幻の新校舎で聞いた最期の言葉だった。

 

――――

 

……遠くに奴の声が聞こえる。

けれど、俺の手はもう動かない。

普段ならいざ知らず、今の俺にはもう瓦礫をどかす力も無い。

 

……くそっ。大口叩いて俺はここまでか。

 

グレモリー部長、大口叩いてこのザマです。どうか嗤って下さい。

姫島先輩、すみません。仇は討てませんでした。

アーシアさん、すまない。結局俺は嘘をついてしまったようだ。

塔城さん、すまない。俺は足止めさえも出来なかった。

木場、すまない。最後の最後でしくじった。

イッセー、すまない。お前を勝たせてやれそうに無い。

 

もう、皆に力を貸すことは出来そうにない……

 

 

――らしくない。随分弱気だな、霊魂の相棒。

 

 

……!? こ、この声はドライグ!?

バカな、俺は霊体になってイッセーに再憑依したのか!?

いや、その割にはまだ瓦礫の冷たい感触が残っている……ならばこれは!?

 

 

――お前の右腕だ。俺は赤龍帝であって赤龍帝でない。

今までの戦いの中で目覚めた、赤龍帝の分霊とでも言うべき存在だ。

お前は今までに己を高めようと、生きる道を探そうと足掻き続け、様々な力を会得した。

その結果、新たな可能性として俺が目覚めたのだ。

 

 

確かに、以前俺は龍帝の義肢をドライグの分霊と解釈したことはあるが

まさか、本当に俺の方にもドライグが宿ったと言うのか!?

 

 

――真なる赤龍帝はただ一人、赤龍帝の籠手を持つ者ただ一人。

しかし二つに分かれ進化し続けた力は、異なる可能性を生み出した。

無限の叡智が、赤き竜に新たな道を与えたのだ。

 

……立て。霊魂の。いや……宮本成二!!

宮本成二に眠る、今はまだ断片のみが語られる無限の叡智。

赤龍帝より齎されし、新たな可能性を秘めた右腕。

それら二つを胸に抱き、砕けた悪魔の楔に新たな道を示すのだ!

 

 

無限の叡智……? 記録再生大図鑑の事か?

……そういえば、まだ一枚試していないカードがあった。

しかし……いや、今はやってみるしか!!

 

意を決し、俺はゆっくりと左手からカードを抜き取る。

瓦礫に埋もれていても、この程度の動きが取れたのは幸いだった。

 

 

 

PROMOTION-ROOK!!

 

 

 

エラーは吐いていない。起動には成功したようだ。

しかし、何か変化が起こる様子は……?

 

……いや、熱い。身体が熱い。右手が、肩が、両足が熱い。

さっきまで酷くやられたはずの身体の痛みが和らいでいく。

痛みよりも、熱さが勝っている。

 

思い切って、右手を地面につけ、押してみる。

身体が浮き上がる。まさか、瓦礫に埋もれていたはずなのに!?

瓦礫を押しのけつつゆっくり立ち上がると、まだまだ俺の中から力がわき上がってくる。

湧き上がる力に任せ、瓦礫を吹き飛ばしてみる。

 

まだ身体が熱い。おまけにさっきのダメージをほとんど感じない。

少し身体を動かしてみるうちに、両手と両足、肩に違和感を覚える。

違和感の正体は痛みではない。そこには、今までのくすんだ赤色ではない

けれどイッセーの赤龍帝の籠手とも違った赤みを帯びた籠手に

さらには同様の色をした脛当が両足に纏われている。

記録再生大図鑑がある左手は、色のみが籠手や脛当と同様になっている。

両肩は、戦車の駒を模した形……つまり、塔や城の壁のようである。

 

これが……このカードの、いや……

 

龍帝の義肢の、新たな力か!

 

「……使い方は普段の龍帝の義肢とほぼ同じか。

 同時に両手両足、おまけに肩に防具もついた、と。少し重いが、応用で行けるか?」

 

無造作に積みあがった瓦礫を相手にパンチを繰り出してみる。

……一瞬で粉々になった。倍加も何も無い状態でこれか。

 

――言い忘れていたが、今のお前は悪魔の楔が言う所の「戦車(ルーク)」と同じ性質を持っている。

悪魔の楔で力が解き放てない分、俺の力と無限の叡智がお前の力を解き放つ。

……見せてやるんだな。お前の、俺達の力を。

 

頭の中に響く、ドライグの声。

ドライグではないと言っていたが、便宜上ドライグと呼ぶ。

別にいい名前が浮かんだら、そのときに名付け直そう。

 

……とにかく。今は戦車の力を出せると言うことか。ならば!

赤く変色しながらも、基本構造は変わっていない

記録再生大図鑑のスロットから、俺はカードを引き抜く。

 

COMMON-LADER!!

 

む。どうやら同じレーダーでも僅かにインターフェースやプログラムとかが変わるみたいだ。

今の状態ではあまり広範囲の緻密な索敵は出来ない代わりに

レーダー射撃機能とかがあるみたいだ。

……ま、今はそれを使う武器が無いが。

 

さて、俺の狙いはただ一つ。女王ユーベルーナの撃破。あわよくば敵大将の撃破。

俺が瓦礫に埋もれている間に、女王は敵大将に合流されてしまったようだ……くそっ。

だが、今の俺なら天井をぶち抜いて奇襲が仕掛けられるはずだ。

そのためにも、レーダーで敵の位置を探りながら新校舎の中を駆け回る。

 

――――

 

当たりは、意外とあっさりとついた。生徒会室の真上。そこが今の戦場。

生徒会室の扉を蹴破り、位置の微調整に移る。

 

……ふと、生徒会室の備品が目に留まる。

この新校舎も魔力で限りなく本物に近く再現されたものだ。

つまり、ここも本来の生徒会室と同等の設備を持っていることになる。

 

……だとしたら、何故こんなにも悪魔関係の書籍が多いのだ?

時間が許せば、一頻り調べられそうだが……残念だがそれは無理か。

確か顧問はあの薮田直人先生……い、いや、まさかな。

いくら顧問とは言えここまで首を突っ込むのは越権行為もいいところだ。

底の知れない存在だが、そうした越権行為をするような人物には見えない。

 

あの人が違うとすれば生徒会長の支取蒼那か?

いや、彼女も違うだろう。聞いた話では堅物で有名だ。

そんな彼女が私物をこんなに持ち込むとは思えない。

しかしだとすると、こんな一歩間違えれば

オカルト研究部の部室並みの悪魔関係の資料が何故ここに……?

 

……い、いや。今はそんなことよりも!

俺は敵の足元に出られるように場所をとり、思い切って飛び上がる。

 

「うおおおおおっ!!」

 

生徒会室の天井をぶち抜いた先は、真っ白な空に覆われた駒王学園の屋上。

そしてそれは、この下らない戦いの決着の場でもあった。




本来のパワーソース(悪魔の駒)から昇格の力を引き出せないので
他のパワーソース(神器)から昇格の力を引き出しました。
当たり前ですが、第一章ラストの歪な禁手よりもマイルドな性能です。
パワー重視でピーキーな部分はありますが、マイルドです。

レーティングゲームへのディスりっぷりがくどいですが
少なくとも一月前までただの学生だった奴が
簡単に順応できる環境じゃないと思うんです。
そのため、前回のシーリス撃破と今回冒頭のセージは
意図的に描写をくどくしています。


どうでもいいですけど、ここで職員室行けば
テストの回答とか見放題じゃないんですかねぇ。

……そんなベタなネタ、誰もやらないだけでしょうけど。

※5/27 一部修正。屋内から屋根ぶち破るって何さ……

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