ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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先週から少し遅れてしまいました、すみません。


今回、また血飛沫描写があります。
苦手な方はブラウザバックしてください。


Soul22. 試合? 死合? 殺試合?

その言葉の内容を聞いたとき、おそらく俺の顔は愕然としていたであろう。

幸いにして仮面のお陰で誰にもその表情を知られることは無かったが。

 

俺達の戦力の集結を阻むかのように校舎から増援が現れる。

そう、俺が愕然としたその言葉はその増援から齎されたものだったのだ。

 

――グレモリー部長とライザーが一騎打ちをする、と。

 

はぁ!? なんだよそりゃ!? 向こうの言い分では大将の気分が高揚したがための行為らしいが

これは完全に相手の術中に嵌っているぞ! 相手の強さは俺達全員で掛かって

倒せるか倒せないかの瀬戸際なのに、何一人で戦おうとしているんだ!

バラバラに戦って勝てる相手じゃない。それだから特訓してたんじゃないのか……!!

 

だというのに、あのアホ部長はスタンドプレイを始める始末。

俺達全員、勝つために戦っているのに、だ!

そんなに……そんなに俺が、いや俺達が信用できんと言うのか。

 

そうか……そう、か。俺はともかく、イッセーはお前のために戦っていたのに。

それなのにお前はその相手を信頼することも無くスタンドプレイに走るのか。

力を合わせれば勝てる、そう言ったのは他でもない、お前だろうが。

どいつもこいつも、言ってることとやってることが違いすぎる。

 

……ははっ。これ、どうやって勝てばいいんだ?

これでアーシアさんまでやられたら、もう降参したほうがいいレベルだろう。

深呼吸し、気を取り直して俺はイッセーに憑依し直し、二人に次の作戦を伝える。

実体化した状態からの憑依なので、一部始終は見られているが……何、気にすることじゃない。

どの道後で飛び出すつもりだ。その際の撹乱を行う上では、憑依していたほうが都合がいい。

 

『……イッセー、木場。率直に言うぞ。この戦い、完全にひっくり返された。

 いや、初めから向こうのペースだったと言うべきか。

 今あそこでタイマン張ってる二人の実力が同等と仮定すると、この戦いは完全に負ける。

 相手の特性を考慮すれば、ジリ貧になって負けるのがオチだ』

 

「お、おいセージ!? 敗北宣言にはまだ早いだろ!?」

 

「僕も同意見。部長が健在の限りは、敗北とはいえないからね」

 

むう。これは俺の悪い癖かもしれないが、話は最後まで聞いて欲しい。

俺だってここで無駄死にも誰かさんの先走りによる敗北も御免なんだが。

咳払いをして、改めてイッセーと木場に作戦を伝える。

 

『いいから最後まで聞けよ。何とか一箇所にあいつらを固めて

 広範囲を攻撃できる威力の高い攻撃を繰り出す。それでこの場を切り抜ける。

 その後は女王(クイーン)を倒した後部長と合流。全力を以って敵大将を殲滅。以上だ』

 

「……相変わらず他人事だと思って簡単に言ってくれるなぁ」

 

『そうでもないぞ。今の敵の狙いは俺達全員の足止めだろうな。だからさっさと片付ける。

 向こうが飛び掛ってきたと同時に俺は憑依を解く。俺は左に、お前は右に跳べ。いいな?

 その後散開して可能ならば各個撃破。恐らく難しいだろうから何とかして一網打尽だ』

 

本当ならば、アナライズでもして弱点を突いて確実に倒すべきなのだろうが。

残念ながらそんなヒマは無さそうだし、序盤戦よりは強い兵士をぶつけているだろう。

となれば、こっちも撹乱に回らざるを得ない。おまけに運動場のど真ん中。

遮蔽物なんて無いので、体育館で使った手は使えない。

なるべくなら避けたかったが、ガチでやらなきゃならないらしい。

 

その心のボヤキを見透かしてか、レイヴェルが獣耳の兵士(ポーン)に号令をかける。

確か瞬発力に優れたニィとリィの双子。おそらくコンビネーションにも秀でているだろう。

うまく息を乱させればいいが!

 

『来るぞ! イッセー、跳べ!』

 

「おう!」

 

EFFECT-THUNDER MAGIC!!

 

イッセーから分離したと同時に雷の魔法を放つ。稲光と音で一瞬だが相手の動きが鈍った。

 

――と、思いきやなんと雷が直撃していた。直撃した相手はシーリス。相手の騎士(ナイト)

得物が災いしたのか、振り上げた大剣に俺が呼んだ雷が直撃する形になったのだ。

何たる偶然。何たるラッキー。

 

恐らくは俺が雷撃の魔法を使えると思っていなかったから成功した

いわば初見殺し的なクリーンヒット。一撃必殺とはいかないまでも

相手を痺れさせる位は出来るだろう。

 

おまけにイッセーに仕掛けてきた獣耳の……ニィだっけ? リィだっけ? まぁいいや。

こいつは目の前で標的が分裂したものだから呆気に取られている。

――実際には二人で反対方向に避けただけなんだがな。

 

とにかく、これはまたとないチャンスだ。

今俺達二人はこの獣耳の兵士を挟み撃ちにしている形だ。

 

「イッセー、チャンスだ! 倍加してそいつに仕掛けろ!

 足りない分は俺が補う! 行くぞ!!」

 

「おう!!」

 

BOOST!!

BOOST!!

 

俺の号令に合わせ、イッセーは突撃してくる。

俺はそれに合わせ、突撃を試みる。

この体勢は、フェニックスが部室にやってきた日の朝にイッセーが悪友二人から食らった技。

さる完璧を標榜する超人のツープラトン技の代名詞ともいえる、必殺技。

しかし、この技は互いの同じ方向の腕を使わなければならないため

神器(セイクリッド・ギア)の位置がずれている俺達では、工夫が必要になる。

 

イッセーには思いっきりぶちかましてもらい、そこを俺が軌道修正。

イッセーと同じく左手でラリアットをぶちかます、と見せかけて寸前で反転。

裏拳の要領でラリアットが突き刺さるように俺は身体を捻る。

 

 

「反転ッ!!」

 

「クロス・ボンバーッ!!」

 

 

イッセーは左手を、俺は右手を、それぞれラリアットに使用する。

お互い、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)龍帝の義肢(イミテーション・ギア)を使っている。

ただのプロレス技とは言え、ツープラトンでそれに神器を用いたのだ。

その俺達の腕は見事相手の首に炸裂。そのまま崩れ落ちる。

 

それにしても、本家よりも難易度が高いはずなのによく出来たな。

ドライグで出力が上がっていたお陰か、あるいは相手の強さは虚仮脅しだったか。

 

――ライザー・フェニックス様の「兵士」、一名リタイア

 

RESET!!

RESET!!

 

「やったぜ!」

 

「ガッツポーズはせめてここを切り抜けるまで取っておけ、木場の援護を頼むぞ!」

 

無情なリタイア通知のアナウンスを聞き流しつつ、次の攻撃に備える。

一人削れたのは大きい、この勢いに乗せたまま俺は残りの足止めを。

イッセーには木場の援護を指示。

木場がこっちを睨んできたが、俺は既に忠告している。知ったことか。

 

「い、いいのかよセージ……決闘に水差して」

 

「言ったぞ、状況が切迫したら遠慮なく手を出すってな。

 決闘がしたけりゃ、この戦闘の後で約束しろ。男ならそれ位の甲斐性を見せてやれ!」

 

「……ふふっ。僕に彼女を口説けってのか、セージ君。言うねぇ」

 

木場、お前顔はいいんだからナンパすれば釣れると思うんだがなぁ。

まあ、あまり興味無さそうな感じもするが。少なくともイッセーよりかは。

木場に冗談めいて檄を飛ばすと、向こうもレイヴェルが指示を出している。

 

なるほど。やはり「戦闘は」しないってパターンか。

……それはそれで奥歯に物が挟まるな。

俺もかなり近い立ち位置だから人のことは言えないが。

 

「くっ、何をしていますのカーラマイン! さっさと片付けてしまいなさいな!

 リィ、シーリス! 美南風! そっちの仮面をつけた赤龍帝を狙いなさい!

 手札が未知数な上に統率力を持っていますわ、敵の統率を崩しなさい!」

 

「御意。先ほどの雷の礼をさせていただく!」

 

「こっちもニィの敵をとってやるニャ!」

 

「その怪しげな術さえ抑えれば、こちらのものです」

 

くくっ、三人がかりか。

……よし、このままひきつけて合流するか。

まとめて崩すにはこっちも二人に協力してもらわないとダメだ。

 

「三対一か。卑怯とは言わないが、貴族のノブレス・オブリージュとは程遠いですな」

 

「黙りなさいな! 貴方如き悪魔になりたての転生悪魔を、純血悪魔の私が

 本気で相手をしてさし上げているのよ、それを誇りに思いなさい!」

 

「それが本音か。凝り固まった権威主義は足元を掬われる……

 人間の歴史じゃ幾度と無く繰り返されたことなんだがな!」

 

さて。俺は挑発しつつ銃で相手の牽制を試みるが、あのシーリスとか言う騎士の大剣、侮れない。

衝撃波を起こされては、飛び道具があまり意味が無い。離れて攻撃できると言うアドバンテージは

既に無いも同然だ。それに、そろそろ残りの弾丸も心もとない。

……いや、付け入る隙はある。それにはあのちょこまかした獣耳や

遠くで睨んでいる十二単をまず何とかしないと。

 

さて、イッセーと木場の方はどうなった?

 

 

……横目でもう一箇所の戦場を見るが、あまり戦況は変化していない。

援護は期待できそうに無い……博打に出るか?

 

手段その1。カードで強化、突撃し力押しで倒す。

確実は確実だが、消耗やこの後を考えると悪手か。

それに、向こうの十二単を考えるとやはり悪手といわざるを得ない。

 

手段その2。龍帝の義肢をフル活用、ピンポイントで狙い倒す。

俺の龍帝の義肢はイッセーの赤龍帝の籠手に比べれば、消耗は少ない。

が、その分力不足でもある。いや、「倒す」じゃなくて「戦意を奪う」ならアリか?

 

……よし、決めた!

 

BOOST!!

RELOCATION!!

SOLID-LIGHT SWORD!!

 

俺は龍帝の義肢を右足に移し、大剣に対抗し光剣を実体化させる。

腐食作用のある闇の剣は、シーリス相手にはいいが、他の相手にはあまり役に立たない。

 

そして、もう一つ威力の高い武器はあるのだが、今使うにはデメリットもある。

軽い分、取り回しはこれが最上級なのだ。

 

「はっ!」

 

「にゃっ!」

 

今振り回しているのは光剣だ。掠めただけでもダメージは与えられる。

それに、この武器は軽いため力を増したところで持て余してしまう欠点がある。

ならば、脚力と突進力を強化、スピードで戦うのがいいだろう。

 

しかし、残念ながら突進力は強化されるが小回りは据え置きである。

その証拠に……

 

「急に加速した!? でも、これなら!」

 

十二単が何やら呪符を地面に投げつけてくる。

間の悪いことに、それは進行方向にしっかりとセットされている。

踏んだら終わり系のトラップなのは、火を見るよりも明らかだ。

普段なら、そんな見えたトラップに嵌るほど俺も阿呆じゃない。

 

だが、今は思いっきり加速している状態。

止まりたくても止まれないし、回避も出来ない。ならば強引に突破するしかない。

 

「でぇぇぇぇいっ!!」

 

突進中に銃を使えるほど器用でもないので、光剣を地面に突き刺し、ブレーキの代わりにする。

勿論それだけでは足りないので、同時に龍帝の義肢をブレーキに回している。

アクセルとブレーキを同時に回せば壊れるのは自明の理だが、これしか止める方法が無い。

 

――正直に言って、今右足は悲鳴を上げているだろう。

 

そのまま地面のトラップも破砕、砂埃と共に俺の突進は止まってしまった。

猫耳は跳ね飛ばせたが、中途半端な位置で止まってしまったため、慌てて距離を取り直す。

案の定、さっきまで俺が立っていた位置には衝撃波が飛んできている。

 

RESET!!

 

結局、十二単の妨害のお陰で振り出しに戻された。

ここはカウンターを狙うか、相手の騎士に誤爆させるように立ち回るのを狙うか。

この二つが有効打だろう。そのためにはやはり猫耳と十二単を何とかしないといけない。

 

特に十二単。俺も小手先の技を多用するから分かるが

今力押しで倒そうとしてるのに、脇から妨害系の技を出されると辛い。

 

「あれは……リィ、シーリス! 持ち手が素人だからって油断はなりませんわ!

 どういうわけかは分かりませんが、あの仮面の赤龍帝は悪魔祓いの武器を多用しますわ!

 十分に用心してかかりなさい!」

 

「にゃ!? よ、よくもそんなものでニィを!」

 

一瞬の動揺は見逃さない。さっきのチェーンソーの双子のときも思ったが

眷属同士はいざ知らず、姉妹の間における情は持ち合わせているようだ。

 

イッセーのことは言えないな、と思いつつも

俺はそれを活かし、揺さぶりをかけてみることにした。

 

「……そういえば、試合中の事故って、様々な競技においてあると思うのですが。

 中には一命をとりとめても、その後の人生に大きく響くような事故もあったとか。

 このレーティングゲームも、そうした事故防止には取り組んでいるようですが

 事故ってのは誰も思わぬところから起きるものだから事故なのであって……おお、怖い怖い」

 

「ふ、ふざけるニャ!」

 

……どうやら、こっちの挑発に乗ってくれたようだ。

確かレーティングゲームは、死者の出ないつくりになっている……とは聞いている。

 

……だが、俺にはそれがどうしても信じられなかった。

F1レースでさえ死傷者が何人も出ているのに、ここまで露骨に戦闘行為を行う競技において

死傷者ゼロというのは、あまりにも出来すぎている。

それに、プロレスやボクシング等の格闘技でも後遺症から

その後の人生において早死にしたりってのもよく聞く話だ。

 

悪魔の技術とは言うが、これをやるのも悪魔、仕掛けるのも悪魔。

人間の測りで測るべきではないのかもしれないが

条件においては人間のエクストリームスポーツ各種とどこが違うのだ? と疑問を覚える程度。

 

……つまり、死者ゼロと言う謳い文句。これは絶対何かウラがあるに違いない。

そしてレーティングゲームを成立させる悪魔の駒(イーヴィル・ピース)

これの不備を俺は既に知っている。情報や現象の母数が決定的に足りないが。

これらが導き出すところは……

 

と、俺が推理に嵌っているところにレイヴェルの横槍が飛ぶ。

おっと。ちょっと他事に気をとられすぎたか。

 

「リィ! ニィをやったのはただの力の強い神器ですわ!

 今のは全てそいつのハッタリ、詭弁に惑わされないで!」

 

「その通り。あっちにぶちかましたのはただのツープラトンのラリアットだ。

 俺達じゃ力が弱すぎて、顔の皮を剥ぐことすら出来やしないよ。

 だが……お望みとあらば、今度は光の剣でラリアットをかましてもいいんだが?

 そういう事故があるかどうか、その身で試してみるおつもりで……?」

 

相手を睨みつけ、威嚇するように光の剣の出力を上げる。

向こうが悪魔としての経験が上手なら、悪魔祓いの武器の危険性は重々承知してるはずだ。

抑止力として、この武器は十分に作用してくれる。

これなら、あっちの方は出さなくてもよさそうだ……今はまだ。

 

「な、なめるニャ! お前なんか速攻で倒してやるニャ!」

 

「……いえ、リィ。あなたはカーラマインの援護に向かいなさい。

 向こうの二人は悪魔祓いの武器は使いませんわ。存分にやってしまいなさい。

 但し、あっちの赤龍帝に触れられたら服が吹き飛びますわ」

 

なるほど。新米の転生悪魔に嘗められまいと、猫耳はこっちを威嚇している。

だが、その足が震えている。そこを向こうの司令塔に気づかれたのか

猫耳はイッセーの相手のほうに回されたようだ。

一応、相手の戦意を奪うことには成功しているが……これじゃあまり意味が無いな。

まあいい、イッセー、木場、そっちは任せたぞ!

 

「にゃっ!? こいつは相当にケダモノだニャ、最低だニャ!」

 

「イッセー、相手の動きをよく見るんだ!

 無理に追いかけようとするな、近づいてきた一瞬を狙え!」

 

レイヴェルも自身は戦わないスタンスを貫きながらも、口出しだけはしている。

こちらも負けじとイッセーにアドバイスを送る。

実行できるかどうかは分からないが、スピードで勝てない相手に対して

少しでも勝算のある戦い方、のはずだ。

 

……さて、一人をイッセーと木場に押し付けたとは言え、こっちはまだ二人抱えている。

さあ、どう来るか。

 

「シーリス! 美南風! 引き続き仮面の赤龍帝を押さえなさい!

 奴は祓魔弾も所持してますわ、距離があるからと言って油断してはいけませんわ!」

 

ちっ。やっぱさっき銃を見せたのは失策だったな。

これじゃ銃で不意を突くって作戦は意味が無いだろう。

おまけに銃はしっかり狙わないと、相手をリタイアに追い込むほどの威力は期待できない。

 

まあいい。二対一、しかも片方は体術に覚えは無さそうな見た目。

僧侶(ビショップ)と言う駒の性質を省みても、そういう運用方法は考慮されていないだろう。

ならば答えは一つ! また十二単に呪符を取り出される前に、速攻で畳み掛ける!

 

BOOST!!

 

倍加を行い、再び突進。今度の狙いは十二単。

だが、実際に剣を突き刺すつもりは無い。この爆発的な突進力での狙いは……

 

「うらぁっ!!」

 

「ああっ!!」

 

十二単に見舞うのはドロップキック。蹴っ飛ばし、その勢いで騎士の方に狙いを変える。

史実においては八艘飛びとも言われる技だ。

龍帝の義肢の威力に対して、やはり防御力は低かったのか、そのまま十二単は突っ伏したらしい。

背後に聞こえる十二単のリタイアを告げるアナウンスを聞き流しながら、俺は得物を構えなおす。

 

そのまま突撃と光剣の攻撃を織り交ぜつつ、騎士の方の翻弄を試みる。

向こうの得物は大剣、それを振りかざすことによる衝撃波が武器。

回避しさえすれば隙が生じる。そこを討てばいい。

が、速度強化無しでやるのは些か辛い。幸い、実質一対一なので余計な心配は無用だが。

 

「その身のこなし、体躯の割にはお見事と言っておこうか。

 だが、私の相手にはお前はまだ、非力!」

 

「……力で競り勝とう何ざ思っちゃいない!」

 

衝撃波をかわしながら、斬りかかろうとするが

やはりこちらの俄仕込みの剣術が通じるほど、甘くは無かった。

太刀筋を完全に見切られ、かわされている。完全に突進力でフォローしている状態だ。

 

「素人相手とは……私も嘗められたものだな。

 いや、さっきの美南風の倒し方……完全に力任せだと考えれば納得も出来るか。

 そんな小手先で、私を倒せると思うな!」

 

「強引に前線に送られたんでね、生き残るためには小手先だろうと何だろうと

 使わざるを得ないんだよ!」

 

向こうは完全に俺を素人と見ている。まあ、間違ってない。

そも一週間前後で戦術のイロハを習得する方が無理なのだ。

まして、向こうはこちらとは明らかに年季が違う。

となると、自然に勝つ方法というのは限られてくる。

 

……それがいくら、褒められた方法ではなかったとしても。

そういう意味では、イッセーのアレも有用っちゃ有用か。

 

……なんとなく、同じレベルで語ってほしくない気はするが。

 

「くっ、さっきからちょこまかと!」

 

さっきから速度強化のカードも使っていないのに、何故相手を翻弄できるのか。

勿論、相手がのろいわけではない。倍加した力を小出しにしているのだ。

さっきのブレーキの要領で、直線突進の途中に角度をつけることで

擬似的に高速移動をしているのだ。

 

だが当然これは――疲れる。

そのため、何とか隙をついて倒したいところなのだが。

さっきの十二単よりは強い攻撃を加えないと倒せないだろう。

と言うか、さっきが言うなればクリティカルヒットだったのかもしれないが。

 

高速で動きながら、相手の剣の軌道を見極める。

さっきから衝撃波も剣も記録しないが、おそらくは既にほぼ同性質のものがあると

記録しないのだろうか? まあ、記録したところで試す暇なんか無いだろうが。

 

「……フフフ、さっきから私を翻弄しているつもりだろうが

 動きが単調になってきているぞ? それ以上無駄に疲れることも無いだろう。

 一思いに楽にしてやろう!」

 

「……あらら。疲労で思考が単調になっちまったかな」

 

ここで俺は、相手の剣の軌道を見てある案が閃いた。

それは、俺が特訓で得た新たな力。今試すのはぶっつけ本番だが、試す価値はある。

シーリスが剣を振り下ろし、衝撃波を放った直後がチャンスだ。

 

そしてその瞬間は、思いの他早くやってきた。

正直、ありがたかった。これ以上ちょこまか動くのは疲れる。

疲労で発動失敗、なんて真似も避けたいし。

 

観念したと思わせるため、減速し足を止める。

こっちを狙ってくるように誘導させる。

足を止めた途端、息が切れるが構ってはいられない。

それに少し経てば息も整う。

俺はいかにも観念したかのようにシーリスに視線を向ける。

その先には、思ったとおりに剣を振り上げようと構えている彼女の姿があった。

 

「さあ、とどめだ!!」

 

――今だ!

 

RELOCATION!!

 

すかさず、右足に移していた龍帝の義肢を右手に戻す。

実際のところ、力の安定のためにドライグの力はまだ不可欠だ。

成功率を高めるための手段は、多いに越したことは無い。そして――

 

俺は呼吸と心を落ち着かせ、右掌を地面にたたき付ける。

 

MORFING!!

 

「モーフィング! 奴の周りの『砂場』を『磁石』に変える!!」

 

「なにっ!? くっ、け、剣が……!!」

 

俺の新たな技、モーフィング。触れたものを変質させる。

地面を構築する砂も、磁石も違いはあれど大本は鉱石だ。

 

さて。錬金術においては等価交換の原則があると言うらしい。

俺は錬金術師じゃないし、錬金術は学んでいないが理屈は分かる。

とにかく、今シーリスの周りの砂は全て磁石。

剣にはびっしりと細かな磁石がつき、普段振り回す剣の感触を完全に変化させた。

さらに地面もほとんどが磁石と化している。

砂粒は細かくとも、その足場はもう完全に磁石である。

磁力結界によって、シーリスの動きを完全に封じることが出来た。

 

となれば、とどめを刺すならば……!!

 

RELOCATION!!

BOOST!!

 

「今だ、くらええええええっ!!」

 

光剣を構え、突撃。再度足に龍帝の義肢を移し変えたため、突進力は大幅に増している。

そして、そのまま磁石で無防備になってしまったシーリスの腹部に光剣が喰らい付く。

光の刃はシーリスの身体を貫き、赤い血と火花を散らしている。

 

「どうだああああああっ!!」

 

「ぐ、あ、あああああっ!!」

 

……ぐ。彼女が転生悪魔か純血悪魔かは知らないが、悪魔も血は赤いのか。

なまじ人型をしているせいか、あまり見たくない光景だ。

だが、今ここで戦意を折ったら俺がやられる。

意を決して、さらに深々と剣を突き立てる。

それと同時に返り血がかかり、飛び散る火花も激しさを増している。

 

「うあああああああっ!!」

 

「こ、こ、こんな……しろうと、に……っ!!」

 

叫びながら、光の剣を引き抜く。その勢いで光の剣を振りかざす。

剣が刺さった位置からは火花が血飛沫のように飛び散っている。

思い切って、面ドライバーBRXのリボルビッカーの決めポーズのごとく

大見得を切って相手に背中を向ける。奇しくも同じタイミングでシーリスは地に崩れ

俺の背後では爆発が起きた。

 

ここで能天気に「リボルビッカー!」などと決めポーズを取ったら

受けは狙えるのかもしれないが……どうにもやる気がおきない。

はっきりとした理性がある状態で、人型の相手を刺すというのは……。

などと言うことをオカ研の面子に話したら

「堕天使に暴行を加えたお前が言うな」と返されそうだ。

 

――ライザー・フェニックス様の「騎士」、一名リタイア

 

「……驚きましたわ。まさか『兵士』の貴方が昇格もせずに

 一人で美南風だけでなくシーリスまで倒してしまうなんて。

 さあ、貴方はここでの勝負に勝ちましたわ。リアス様と共に

 お兄様に勝てない戦いを挑んではいかがかしら?」

 

「そうですな。お言葉に甘えてこの場は離れさせてもらいましょうか。

 しかしながら、俺の狙いは……」

 

まだ戦っているイッセーも木場も、もう二対二の状態。

俺が加勢するまでもないだろう。

ならば、俺だけでも姫島先輩と塔城さんの援護に行くべきか。

 

……と思った瞬間、遠くに響いた爆発音と共に

聞いてはいけないアナウンスがそこに流れてしまった。

 

――リアス・グレモリー様の「女王」、リタイア

 

バカな。ここでの戦いに時間をかけすぎたというのか。

これで、こちらの戦力が一人減ってしまった。

もう、大将首を取るのは絶望的かもしれない。

せっかく、ここまで戦ったと言うのになんと言うことだ。

そう愕然としていた俺の意識は、後ろからの罵声で現実に引き戻された。

 

「セージ、何ぼさっとしてやがる! お前だけでも行け!」

 

「ここは僕らで引き受けた、早く!」

 

……そうだった。まだ戦意を失っていない奴らがいたんだった。

それに、今のアナウンスは姫島先輩の脱落のみを示したもの。ならば、塔城さんは!?

アナウンスが無いと言うことはまだ無事なのだろう。だが、状況は芳しくないはずだ。

 

「ああ……だが、部長の援護には行かないぞ」

 

「なんだって!? 早く部長を助けないと……」

 

「……悪いが聞けないな。今一対一で戦っているのはアレが自分で蒔いた種だ。

 負けたところで俺は知らぬ存ぜぬを通すぞ」

 

主をアレ呼ばわりしたことに、木場やイッセーだけでなく

レイヴェルも顔を顰めるが知ったことか。

俺が一番危惧しているのは、ここで勝って総攻撃を仕掛ける段で横槍を入れられることだ。

今横槍を入れられるのとは意味合いが大きく異なる。

もう一つ。今俺が加勢したところで、正直言って戦況をひっくり返せるとは思えない。

戦況をひっくり返せる火力の武器が存在しないのだ。

今行っても戦力になりえない。ならば行くだけ無駄だ。

 

 

……そもそも、今の俺達にはここで無駄話をしている時間は無い。

 

「そういうわけだから後は任せた。死なない程度に頑張りな!」

 

我ながら酷い捨て台詞だと思いながらも、俺は新校舎――ではなく、体育館跡に向け走り出す。

あの女王はここで潰しておかないと、あれの横槍なんて考えたくも無い。

最悪、刺し違えても倒すべきだろう。もし俺がやられてもまだメンバーはいるし

アーシアさんも健在だ。運がよければ、やられる直前で死んだ振りの一つでもして欺き

イッセーに憑いてアシストも出来る。

 

今この時点で俺に出来ることをやる。それが俺のやり方だ。

だが、本音を言うと――

 

 

――一刻も早く、この場を離れたかった。




今回、後書きがあまりにも長くなりすぎたので
今回の話についての解説や余談は活動報告の方に上げています。

ただでさえ本文が長いのでgdgd話すのもどうかと思いましたので。

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