ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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……と、言いつつも戦闘シーンは次回以降というタイトル詐欺。


Soul19. 決戦、始まります。

ゴールデンウイーク明け。俺達は特訓を終え、通常授業に戻ることになった。

とは言え、俺はまともに授業を受けられないのであまり関係ないのだが。

だがイッセーの奴は寝ている。今回ばかりは代弁する気になれないので

こっそりと黒板のチョークをぶつけてやる。

……昨日イッセーが変な話を振りやがった礼も兼ねて。

 

しかし一体何者なんだ、薮田先生は。

もう二度と試したくない。視界一面に出力される文字化けのウィンドウ。

鳴り止まないビープ音。

一部だけが文字化けしたことはあるが、表示全てが文字化けしたことは無い。

この記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)、やろうと思えば魔王クラスの相手にも効くらしい。

謁見したことが無いので試してないが。

それが効かないとなると、まさか、本物の神……

 

な、わけないよな。唯一絶対の神なんかいない。

そんなものは世界を都合よく動かすための誰かさんのお為ごかしだ。

そんな都合のいいシステムみたいな奴、あってたまるかってんだ。

 

……さて。それはそうとイッセーの奴は起きたかな、と。

 

『おいイッセー。特訓で疲れて今夜本番なのはわかるが、今は授業に集中しろ。

 今度中間テストだろ。特訓にかまけて成績が落ちたなんて、笑い話にもならんぞ』

 

イッセーがなにやら俺に恨めしそうな視線を送っているが、ああ知らん知らん。

どこの世界に「主のお家騒動に巻き込まれて特訓するのに学校休みます」

なんて言い訳が通じる学校があるんだよ。

1限目こっそり他の教室を見てきたが、皆普通に授業受けてたぞ?

 

そんなことをぼやいていると、ふとイッセーの後ろの今は誰も座っていない席に目が行く。

 

――宮元成二の机、か。

 

記憶に間違いがなければ、これは紛れもなく俺の席。

なんとなく、その席についてみることにする。

やはりなんというかこう、落ち着くな。ある意味、イッセーの精神世界よりも。

俺が活動しやすいように若干手を加えたが、そうでもしないとこっちの精神が汚染されそうだ。

まあ、色恋沙汰も嫌いじゃあないが……なぁ。あいつの場合、色が多すぎる。

 

相変わらず日中の実体化なんてできないし、仮に今やったら大騒ぎになるのでどっち道だが

ノートを取れない授業ってのは、なかなかつらいものがあるな……。

 

そんなことを頭の片隅で考えながら、俺はイッセーの外から授業を聞いていた。

 

――――

 

6限目の授業後。帰路に着こうとするイッセーを、松田と元浜が呼び止めている。

しかし案の定、イッセーは首を横に振り、彼らの誘いを断っている。

俺はというと、久々の自分の席の感触の余韻に浸っていた。

別にイッセーに四六時中憑依していなければならないわけでもないので、たまにはいいだろう。

 

などと考えていると、二人が何やら話し始める。

 

「なあ元浜、さいきんイッセーの奴付き合い悪くなってないか?」

 

「同感だ。あいつがオカ研に入ってから、随分人となりが変わった気がするんだが……」

 

む。こいつら、宮本の記憶だと意外とイッセーとの付き合いは長いからな。

その辺の些細な変化にも感づくのは早いか。イッセーが言うように悪い奴じゃないが

いかんせんスケベが度を越している。生活指導、ちゃんと仕事をしろよ。

 

「なあ松田、今度イッセーの奴をカラオケに誘ってみないか?」

 

「ん? ああ、俺はかまわないけど……あいつ来るかな?」

 

イッセー。お前は本当に悪魔であり続けるつもりなのか?

人間の友人と、今までどおりの話はもう出来ていないだろうが。

普通の人間と、そうじゃない奴との差ってのは、存外大きいものだ。

認めたくないが、いつぞやのクソ堕天使が言ってた通りの事態が起きかねない。

人間、そこまで馬鹿じゃないと思いたい。思いたいんだが……。

 

……友人であった者に、迫害される。

そんな未来、誰が望むって言うんだ?

 

「それに、セージの見舞いにも行ってないって話らしいぜ?」

 

「そりゃ確かに、セージはまだ目を覚ましてないけど……何か、変わったよな。イッセー」

 

……あ。そうなるか。実際には毎日顔を突き合わせているんだが

表向きには俺は未だ意識不明なんだよな。まあ、あれを人間の身で受けたんだ。

死ななかったことのほうが奇跡かもしれないが……。

 

むう。となるとそう多くない家族友人知人関係に迷惑をかけていることになるな……。

そう思ってつい聞き込みをしてしまったが、それは非常にまずかった。

 

「おい、セージが入院している病院ってのはどこだ?」

 

「駒王総合病院だけど……って松田、お前知ってるだろ?」

 

「え? 俺、何も言ってないぞ?」

 

 

 

「えっ」

 

「えっ」

 

……あ、やっべ。えーと、こういうときは……

ぽ、ポルターガイストでごまかす!

 

俺は適当に教室の中のものを動かしまくることにしたが……

 

「お、お、お、お化けぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「こ、こ、これがこの学園七不思議の一つ『白昼のポルターガイスト』かぁぁぁぁぁ!?」

 

白昼のポルターガイスト? はて、そんなのこの学校にあったっけ?

と思った瞬間、俺の中で少し嫌な考えが浮かんだが……まあ、今考えるのは止めよう。

 

……ちょっと、この学校をふよふよ漂うのも自粛するべきかもしれないな。

 

しかし駒王総合病院か。この件が片付いたら調べてみる必要がありそうだな。

そうして俺はイッセーと作戦を立てるべく、教室を後に一路イッセーの家へと向かう。

 

……のだが、俺を待っていたのはやはりと言うか、なんと言うかの光景だった。

 

イッセーは、またアーシアさんといちゃついていた。

ま、まあ決戦前だしね。多少はね。まあね……はぁ。

やれやれ、これじゃ俺本当に馬に蹴られそうだな。

実体さえ手に入ればこんな苦労しなくて済むんだが。

 

……だが、イッセーの奴が好きなのはグレモリー部長とアーシアさんとどっちなんだ?

アーシアさんはまだ友達の延長線上、グレモリー部長は憧れに近い感情……

一応、こう割り切れはするか。

 

……これも、そう遠くないうちに決着をつけるべきかもしれんぞ、イッセー。

 

そう考えつつも、俺は直で旧校舎に行って時間を潰すべきだったと少し後悔しつつ

改めて俺は旧校舎に向かうことにした。

 

――――

 

「おはよう、あれだけごねてた割には早かったわねセージ」

 

「……今更言ったって仕方ないでしょう。やるからには勝ちますが

 これで負けたら、そっちこそごねないでくださいよ」

 

「……絶対に勝つわ。負けたときの事など、考えるだけ無駄よ」

 

午後11時。既にオカルト研究部の部室にはイッセーとアーシアさん以外は集合を済ませている。

俺も最終チェックとしてデッキの再構築を始める。

特訓中に、イッセーが赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の負荷テストをやったように

俺も記録再生大図鑑の収録カードの枚数を増やせないかとテストを試みていたのだ。

 

「セージくん、随分カードが増えたみたいだね。最初見たときはたったの2枚だったのに」

 

「あの訓練で強くなったのはイッセーだけじゃあないってこった。

 だが、今日は表立って戦うつもりはないけどな」

 

結論は……簡単な効果を発揮するエフェクトカードなら増やせた。

つまり、今までは力の増加も加速も1回使ったら再起動しない限りそれっきりだったのが

2回まで使えることになる。それ以外のカードは出来なかったのと

増やす意味がなかったのでやっていない。

 

だが、これで継戦能力が大幅にアップした。しかし相変わらず使える回数は限られている上に

同時に使用は出来ない。使いどころを良く考える必要は、依然としてある。

再起動すればいいだろうと言う突込みが聞こえてきそうだが、事はそう簡単じゃない。

戦闘中に再起動かけている暇があるかどうか。カード一枚引くタイムロスも馬鹿にならないのに

再起動なんてかけた日にはその間の無防備たるやイッセーの倍加中と同じだ。

 

「うふふ、イッセーくんの力とセージくんの補助が合わされば怖いものなし、ですわね」

 

「こっちのペースに持って行けさえすれば、何とかできる自信はありますよ。

 ……不死身の相手以外は」

 

そして、まだ実戦で一度も使ったことのないカードがある。

グレモリー部長の魔法カードもなのだが、これは能力の察しがつくから問題ない。

 

問題は――昇格(PROMOTION)のカード。

 

おそらく、戦車(ルーク)昇格(プロモーション)するカードなのだろうが、果たしてこれ意味があるのかどうか。

普通に考えれば、俺は兵士(ポーン)であるから条件さえ満たせば昇格できる。

それなのにこのカードがある理由。それは一体……?

 

まあ、今考えていても仕方ない。今回必要なカードはこれとこれと……

後は万が一に備えてこれか。逆にこのカードはいらないな。保留。

手札はすっきりと。自分の意思でカードは引けるが、万が一の可能性の芽は摘んでおくに限る。

手札事故なんてやった日には、目も当てられない。

それに、もし相手に余計なカードを引かれたりしたら。そういう事だ。

 

「……あの鳥に、一泡吹かせてやりましょう」

 

「だな。さてと……コスト、よし。枚数、よし。種類、よし。セットし忘れ、なし。

 俺はいつでも行けますよ、グレモリー部長」

 

塔城さんの檄に、俺はカードデッキを整理しつつ答える。

それと同時に持ってきた袋から一枚の仮面を取り出す。

イッセーのセコンドとして出る以上、俺の顔が割れる心配はまずないのだが念のためだ。

いつぞやの偽名申請は降りなかったが、仮面の着用は認められた。

曰く「覆面レスラーの覆面みたいなもの」なので、なんと言うか、微妙なものだが。

何せ覆面レスラーの正体って、ものにもよるが公然の秘密みたいなものじゃないか。

リバプールの風になったあの人みたいに。

 

さて、そんな仮面のデザインは顔全体を覆うもの。縁日で売ってそうなお面タイプだ。

世界征服を企む悪の秘密結社の戦闘員がつけてそうな覆面じゃあない。

頭頂部とか覆っていないが、別に防具としての性能を求めているわけじゃない。

ファッションだ。

 

そんなお面は、全体に表情としてサメを模した目と口が描かれている。

いわゆるシャークマウスペイントだ。

それをつけた状態で振り向くと、その瞬間にイッセーとアーシアさんが部室に入ってきた。

 

「きゃっ!? せ、セージさんでしたか……」

 

「おいセージ! アーシアがびっくりするだろうが! その変な面はずせよ!」

 

「変とは何だ! いいか、このシャークマウスはな、古くは第二次大戦時から

 戦意高揚を目的として戦闘機の機首に描かれた由緒ある模様なんだよ!

 それを変とか言うな!」

 

思わずシャークマウスについて力説してしまった。

いや、力を使うのはこのタイミングじゃないだろうが。

因みに知識は記録再生大図鑑からだ。俺はそこまで戦争ヲタクじゃない、はずだ。

宮本の方も、多分。

 

「……試合が始まってから着ければいいんじゃないんですか?」

 

「む。それもまた然り。アドバイスありがと、塔城さん」

 

むう。変にテンションが上がってるな。平常心、平常心。

仮面を一旦外し、おもむろに取り出した麦茶を一口飲み終えると床に魔法陣が描かれ

グレイフィアさんが姿を現す。む、いよいよか?

 

「皆様、開始15分前です。準備はお済みですか?

 ……それと誠二様。誠二様の神器についてなのですが

 一度運営でデッキの中身を調べさせていただき

 その上で使用の可否を決めたいと思います。よろしいでしょうか?」

 

「ん? 何でセージのだけなんだ?」

 

グレイフィアさんの突然の指示に何事かと思ったが、その俺の思いを代弁するかのように

イッセーが反射的に聞いている。ふむ。これがチェスを模したゲームであるなら

ゲームはルールがあって初めて成り立つものだよな。となれば……

 

「推測だが、記録再生大図鑑の汎用性が問題なんだろうな。

 ぶっちゃければ、俺は兵士でありながら戦車、騎士(ナイト)僧侶(ビショップ)

 全ての能力をその気になればいつでも使える。

 要は破格の条件で昇格できるようなものだから、そのために制約が入ったのかもな」

 

「……そういう事です。誠二様、恐れ入りますが左手を。

 念のために申し上げますが、今回のゲームの審判は私です。

 魔王サーゼクス・ルシファー様の名において、この度の審判役を承りました。

 ですので、この検査に不正はないことをここに証明いたします」

 

ん? 何だ今の間。俺の推測が間違っていたのか? いやそれなら訂正が入るだろうに。

不思議に思いながらも、俺は左手を出すことにした。

 

どうでもいいことだが、魔王サーゼクスって思いっきり貴女の旦那じゃないですか。

これ、下手したら身内人事とか天下りって揶揄されかねないんじゃ……。

 

あ、今回は非公式なお家騒動だから別にいい……わけないな。

グレイフィアさんを疑うわけではないが「不正はなかった」っていい加減なジャッジをされたら

勝負の公平性に欠けると思うのだが。

 

おもむろに出した俺の左手を、グレイフィアさんが握っている。

む。感触が結構……っていかんいかん、そうじゃなくて。

面を外してしまったために表情がバレバレのため、照れ隠しに目をそらすと

ふと目が合ったイッセーが何やら羨ましそうな顔をしていた。おい。

 

心の中でイッセーに突っ込みを入れると、検査が終わったらしく俺の左手からグレイフィアさんの

手の温もりが消える。ちょっと名残惜し……いやいやだからそうじゃなくて。

 

「確認が終わりました。現在セットされている全てのカードは問題なく使用可能です。

 しかし、再起動によるカードの補充は禁止とさせていただきます」

 

その程度の制約でいいのね。消耗の都合もあるから元々再起動による補充は

使えないものとして考えていたし。特に問題なく今までどおりに戦えるってわけか。

そんな中、イッセーはイッセーで疑問に思っていたことがあるのか、口を開く。

 

「あの、部長? もう一人の僧侶はどうしたんすか?」

 

「……彼は事情があって来られないのよ。その事については、いずれまた話すわ」

 

おやおや。この期に及んでも出られないとは余程のっぴきならない事情がおありのようだ。

ここまで自分のお家騒動に他人を巻き込んでくれるのに出てこないってのは……

 

案外、封印とかされていたりして。

何だかとてつもない力を持っているものだからとりあえず封印凍結させておけ、ってのは

古今東西フィクションの有無を問わずよくある話だ。

まあ、今いないやつの事をあれこれ話しても仕方ないだろう。

 

「間もなく開始時間です。尚、今回の試合は中継で両家の皆様も観戦されます。

 また、魔王サーゼクス・ルシファー様もこの試合を観客席にいらっしゃいますので

 それをお忘れなきようよろしくお願いします」

 

「……お兄様が直接見にこられるのね」

 

グレモリー部長の兄が魔王だということを知ってイッセーが素っ頓狂な声を上げている。

俺も驚かなかったと言えば嘘になるが、そも自分の家のメイドさんの旦那が魔王って時点で

何かしらあるとは思っていたが、なんとまあ。

 

……ふむ。となると、グレイフィアさんはグレモリー部長の義姉ってことか。

姉……か。む、ここ感慨深くなるところじゃないだろ……ない、よな?

少なくとも宮本成二に姉はいなかったはず、だが。

 

記憶の断片を整理していると、グレイフィアさんから呼び出しがかかった。

さて、いよいよ始まるわけか。この下らないお家騒動の決着が。

俺は仮面を着け、魔法陣の元へと歩みを進めた。

 

――――

 

転移が終わって周りを見れば、全く変わらないオカ研の部室。

はて。転移する感覚はあったが。考えられるのは……模造空間か。

しかし空間一つ作れるとは、余程大掛かりなシステムで管理されているのか。

おまけに、調度品やら何やら寸分違わぬ作りであった。

 

アーシアさんのラッチューくん人形や、俺が書いたノート。

しかも書いた中身まで再現されている。

気分転換に描いた落書きまで再現されている芸の細かさだ。正直、素直に感心した。

そして試しに窓から手を出してみたが、霊体にならない。

ここでは確かに実体がメインになりそうだ。

 

む、となるとイッセーに憑けるのか? まいったな。俺はセコンドでやるつもりだったのに。

 

ふと、チャイムの音と共にグレイフィアさんの声が響く。ルール説明やら何やらの挨拶だ。

最初の挨拶は聞き流していたが、ルールだけは一応聞いておいた。

チェスのルールどおり、昇格するには相手の陣地まで行かなければならないようだが。

 

こっちは旧校舎、向こうは新校舎。距離にすると結構あるな。

姫島先輩からイヤホンマイク型の通信機を受け取る。

まあ、この手のゲームじゃ必須だわな。

 

……ん? となれば、ジャミングとかも出来ればかなり強そうだが……

だが生憎、今の俺にはそれは出来そうもないみたいだ。

記録再生大図鑑の初期能力も相手や周囲を調べる能力のみ。

ジャミングはやはり妨害に属するのか、こればかりは収録されていないみたいだ。

 

グレイフィアさんのアナウンスが終わり、いよいよゲームが始まる。

矢継ぎ早に突撃するのかと思えば、グレモリー部長はじっくりと腰をすえている。

作戦のプランを立てているようだ。まあ、彼我戦力差が16:7ではね。

 

「さて、まずは『兵士』を撃破しないといけないわね。8人全員『女王(クイーン)』になられたら厄介だわ。

 セージ、レーダーの能力は使えるのかしら? 使えるのなら、お願いするわ」

 

「御意」

 

BOOST!!

 

8人全員に昇格を許すって、それ完全に四面楚歌じゃないか。

そうなる前にどうにかするのが当然の流れだよな。

……いくらなんでも、そんなアホな事態にはなるまいが。

 

俺はグレモリー部長からレーダーでの偵察を指示され、言われるがままに作動させる。

 

BOOT!! COMMON-LADER!!

 

「うんうん、見えます、見えます。体育館に『兵士』3と『戦車』1、運動場に……

 『騎士』『戦車』『僧侶』各1、それから『女王』が……ん? な、なんだ!? 反応が……」

 

突然、レーダーが何も映し出さなくなってしまった。何だ、どうなったんだ?

一つ確かなことは、レーダーの表示が完全に乱れてしまい、読めなくなっている。

 

――ああ、ジャミングされたのか。

 

「……すみません、ジャミングされました。残りがどこにいるか、其々が誰になるのかまでは

 解読できませんでした。後、敵の動きについても全く読めません」

 

「一応現時点での敵の配置の一部は読めたわけね。ありがとセージ。

 さて、それを踏まえると……」

 

そして、敵側にどう殴り込みをかけるか。地図の上では向こうは周囲がかなり開けている。

それは守る側にとって不利だが……それはあくまで防御側が

攻撃側と同等あるいは低い位置にいた場合。

防御側が高い場所に陣取っていた場合、崖撃ちされる危険性もある。

確か向こうの兵士軍団に遠距離攻撃を得意とする奴はいなかったと思うが

だからって無策で突っ込むのは、ねぇ。

 

どの駒にせよ、遠距離攻撃が可能な奴がいたら狙撃ないし爆撃されて終わりだ。

 

考え込んでいたが、どうやら体育館を確保して進撃することに纏まったようだ。

体育館を確保。しかる後、運動場に陣取っているであろう敵部隊を殲滅。敵本陣に乗り込む。

これが今回の大まかな流れになる、らしい。

 

姫島先輩はこちらの周囲にジャミング。木場と塔城さんは周囲の森にトラップを設置。

ふむ。結構やることは本格的だな、これ。

 

さて。残りの俺達はというと――

 

「イッセー。ここに横になりなさい。セージはイッセーに憑依して。

 あ、念のため言っておくけど、五感は共有しておいて」

 

あ、できるのね。じゃあ早速……

 

ってちょっと待て。「横になれ」って、そこ太腿じゃないですか。

イッセーは感激してるけど、何で俺まで。

しかも五感共有維持しておけって、どういう意図ですか。

 

「……イッセーだけじゃダメなんですか」

 

「ダメ。あなた達二人にとって重要なことだから。早くなさい」

 

「そうだぞセージ! 部長の膝枕が待ってるんだ! 俺のためにも早くしろ!」

 

……役得と思うべきか、なんと思うべきか。非常に複雑な心境ではあるが

俺は渋々イッセーに憑依することにした。

正直、ここでもたもたするのもどうかと思った、というのもある。

 

あ、向こうでアーシアさんが何やら不服そうな顔をしている。

む、むう。これはどう声をかけていいのかわからん。

とりあえず……イッセー、お前後でアーシアさんに謝っとけ。

あれだけいちゃついてた後で他の女の膝枕ってどうなのさ。

 

……俺も謝るべきなのかどうかは知らないが。

それに、あの一件を見なかったことにしている以上、大きく突っ込めないのもある。

 

で、グレモリー部長の膝枕は感触自体は悪いものではないのだが……

まったく、いちいちスキンシップが過剰なんだよなぁ。

イッセーにしてみりゃいい事尽くしなんだろうが……はぁ。

 

ふと、イッセーの力が増す感覚が俺のほうにも伝わってくる。

どうやらイッセーの悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の封印の一部が解かれた様だ。

力が増す感覚はこっちにもあるのだが……それ以上に……ッ!!

 

『ぐっ、う、ううっ……!?』

 

「えっ? セージ、気分が悪いの?」

 

な、何なんだ。この内側から来る猛烈な不快感は。

まるで、俺の中にあるものが俺じゃないような。

自分でも何を言っているのか分からないが、俺の中に俺じゃないものがある。そんな異物感。

その異物が、今まで主張していなかったのに何故急に主張を始めたんだ!?

 

何故か、俺は以前戦った灰色の甲虫型のはぐれ悪魔の事を思い出した。

奴らは小動物の妖怪が悪魔の駒の拒絶反応で変異してしまった存在。

それ故に眷属となれず、結果はぐれ悪魔となってしまった哀しい犠牲者。

まさか、俺もそうだというのか!?

 

――と、とにかく、これ以上イッセーに憑いているのは危険だ!!

 

俺は慌ててイッセーから飛び出すと同時に、激しい嘔吐感からむせこんでしまう。

幸い、リバースはしなかったが。

イッセーから離れたことで、俺の中の異物感はいくらか治まった。

 

「せ、セージさん、大丈夫ですか!?」

 

「セージ! お前部長の膝枕で吐くとかどういう神経してるんだよ!!」

 

イッセーが思いっきり怒ってやがる。あー、違う、そうじゃないんだ。

俺が吐いたのはそこじゃないんだが。寧ろ膝枕って感触自体は嫌いじゃないんだが。

そんな俺の吐き気の原因は、アーシアさんの治療によっていくらか収まってはいる。

確か前に風邪には効果が無いって言ってたから、そういう異常ではないらしいな。

 

「あ、ありがとうアーシアさん……すみませんグレモリー部長。

 しかし、自分でも分からないうちに物凄い異物感と吐き気がこみ上げてきて……」

 

「セージ、あなたもしかして……い、いえ。それについて調べるには今は時間が足りないわ。

 それより大丈夫? 申し訳ないけど、今はゆっくり静養させてあげることが出来ないわ。

 あなたは嫌かもしれないけれど、暫くはイッセーに憑かずに行動なさい。

 私が指示を出すまでイッセー、アーシア、セージの三人は待機。いいわね?」

 

俺を含め三人ともグレモリー部長の指示に従い首を縦に振る。

正直、今イッセーに憑くのは少し怖いものがある。

悪魔の駒の封印が解かれた直後、俺の異物感が出たのだ。

俺の方にも悪魔の駒はあるらしいが、それが何か原因ではないだろうか。

 

しかし、これではイッセーのセコンドとして戦うのは無理そうだ。

仕方がない。まあ数の上ではこっちが圧倒的に不利だからなぁ。

結局、俺もメインで戦うことになりそうだ。

 

吐き気がおさまるまで、俺は改めてソファで横になりコンディションを整えなおすことになり

作戦の決行は、幸か不幸か俺の吐き気が治まるのとほぼ同じタイミングだった。




Q:イッセーは悪魔の駒の件について知ってるはずなのになんでセージに言わないの?

A:部長の膝枕で浮かれてました。

……結構マジな理由だったりします。
肝心要の場面でもスケベ根性丸出しにするような奴ですし。
なので、的外れな指摘をセージにしています。


……その肝心要のスケベ根性でのパワーアップイベントは……
……変えられたらいいとは思いつつも、変えたらコレジャナイ感でそうだし……
うーむ……

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