ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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引き続き、セージVS木場のカードです。

前半、ちょっとイッセーがネガ入ってます。


Soul17. 男の、約束です。

あれから数日、特訓の成果は出ているのか出ていないのか全くわからないが

俺、歩藤誠二と俺が所属する駒王学園オカルト研究部の合宿は続いていた。

 

ある時は座学と称して悪魔の歴史の勉強や

アーシアさんによる悪魔退治のノウハウの勉強。

またある時は実戦形式のスパーリング。

はたまたある時は体の中の魔力を表に出す訓練。

しかして、その成果のほどは。

 

 

……あまり感じない。

二日目以降、俺はイッセーに憑依し、シンクロを強化した状態で

訓練に臨んでいた。

 

最初にシンクロを強化したときと違い、冷静に状況を分析すると

どうにもこの状態、力ばかりに偏りが行き過ぎる気がする。

何せ、イッセー自身が――そもそも神器(セイクリッド・ギア)の能力のせいもあるのだろうが――

パワー型で、シンクロしてもスピードの方は強化された感覚をあまり感じないのだ。

 

訓練だから、回復以外のカードも使用禁止。

これはイッセーの方も神器が使用禁止になっている。

まあ、フル稼働させた場合訓練どころじゃないって理由もあるだろうが。

 

初日の最後に俺とイッセーで模擬戦を行い、一応は俺が勝利を収めたのだが

それ以降、イッセーが思い悩むことが増えた、気がする。

……こいつ。ただのバカだと思ってはいるが、結構繊細な所もある。

何を思い悩んでいるんだ。そもそもお前一人で戦うわけじゃなかろうが。

 

――――

 

夜、俺は初日に姫島先輩に出された課題に取り組むべく

ペットボトルに淹れた水と格闘しているが

なかなか思うイメージには至らない。あと一息なんだが。

 

以前「これがスポーツドリンクだったなら」と思ったことはあるが。

それが何かのきっかけになればと思い、石ではなく水を対象にしている。

 

……だが、それだけで都合よく行くはずも無く

さっきから実質水相手のにらめっこをしているのとほぼ同義だ。

 

程よく頭が疲れたところで、イッセーが二階から降りてくる。

他人のことは言えないが、随分とボロボロだ。表情も心なしか沈んでいる。

あまりにもあまりな状態に見えたのと

自分自身の気晴らしのためにイッセーに声をかけてみる。

 

「どうしたイッセー。夜這いをかけるなら、方向が違うぞ」

 

「……そうじゃねぇよ」

 

む。この手の冗談には乗るほうだと思っていたが……これは案外重症かもしれん。

このまま特訓が終わったら、本気でここで折れかねないぞ、こいつは。

 

「……なあ、セージ。やっぱ、俺って弱いのかな」

 

何を言い出すんだと思えば案の定か。しかし難しい問題でもある。

下手な慰めをかけるよりは、現実を突きつけるべきでもあろうが。

ただ、現実に直面している奴に現実を突きつけても逆効果である。

俺はなるべくイッセーと対等であろうと考えているが……

いや、一応対等だと思う。思いたい。

 

だが、一度でも模擬戦で勝っている上に

魔力訓練では圧倒的な差を見せ付けている。

これのどこが対等なのだろうか。

それならそれで、対等な立場から声をかけるのはやめた方がいいかもしれない。

 

「……すまないが、適切な答えがわからないな。

 『そんなことはない』と慰めてほしいのか『ああそうだ』と貶してほしいのか。

 バカ正直に答えると、俺は両方正解だと思っている」

 

「お前、本当に相変わらずだな。ある意味羨ましいぜ、そういうところ」

 

ふむ。貶されたことに対する怒る気力は無いと見るべきか

弱いと認識していると見るべきか。ただ今のこいつの態度は

罷り間違っても「弱さを受け入れた」それとは全く違う。

弱いことに開き直られても面倒だ。

 

「……お前の中の龍、ドライグは何か言ったのか?」

 

「いいや、何にも。あれから一度夢の途中で割り込んで出てきて以来

 俺の前にはちっとも姿を現さない」

 

……ドライグ、結構放任主義なんだな。

そういう時こそお前の出番だと思うんだが。

それとも、俺に投げやがったか?

クソッ、やっぱあいつ

「マジでダイメイワクなオッサンドラゴン」略してマダオだ!

 

まあ、それならそれでいい。

今のまま実戦を迎えても結果が見えてしまう。それは俺も不本意だ。

 

「……なあセージ。もし、もしだ。俺じゃなくて、お前に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)があったなら

 あのフェニックスを倒せると思うか?」

 

……おい。お前、そこまで思いつめていたのか?

ちょっと訓練がハードすぎたか、あるいは俺の存在そのものが

重圧になってるのかもしれないな、これは……。

 

「お前のバカ発言はスケベ分野だけに留めとけ。今の発言は頂けないな」

 

「バカなりにまじめに聞いてるんだよ。どうなんだよ?」

 

……グレモリー部長。これは貸し1ですよ。

段取りを踏んで強化すべきこいつを、ここまで追い込んだこと。

その原因は言うまでも無くあんたのお家騒動なんですから。

 

「そういうのは、俺じゃなくてグレモリー部長に聞くべきだと思うが、まあいいや。

 特別に答えてやる。答えは……」

 

「……答えは?」

 

 

――ない。

 

 

ない。答えはない。倒せない、って意味じゃなく答えそのものがないのだ。

一瞬、イッセーの顔が豆鉄砲を食らった鳩になっているのを見逃さなかった。

ああそうだよ、お前にはそれ位のアホ面の方がお似合いだよ、くくっ。

 

腹の中でほくそ笑んだ後、俺はイッセーに胸倉を掴まれていた。

うん、元気になったじゃないか。

 

「この野郎! 俺はまじめに聞いてるって言っただろうが!」

 

「……こっちも真面目に答えてるっつーの。

 いいか、そもそも問題の前提がおかしい。

 俺の方に赤龍帝のオリジナルが来るなんて前提自体、ナンセンスだ。

 お前の出した問題は、整数を0で割るようなもの……

 つまり、問題として成立しないんだよ」

 

他人の胸倉掴む気力が出るまでは回復したんだから

まあそこまで重症じゃないのがわかっただけでもよしとしよう。

でも実際問題、ありえない話だ。

俺は俺であって、兵藤一誠でも、赤龍帝でもない。

 

……最も、その「俺」は歩藤誠二なのか

宮本成二なのかは判断しかねるところだが。

 

ところが、この答えはイッセーの癇に障ったのか、イッセーは突如として怒り出し

俺が訓練に使っていたペットボトルをふんだくってしまう。

 

「この野郎! こんな時にまで嫌味か!」

 

「あっ! おい待て、それは……!」

 

それは訓練用に使ってた水で、飲み水じゃない。

トイレで汲んだ水だ。気分的にも衛生的にも飲むものじゃない。

 

そう忠告する前に、イッセーは口をつけようとしていた。

ええい、なぜそこで飲む!? 捨てるならまだわかるが!

 

思わず俺の中で、「ペットボトルの水を飲み水に変える」と念じていた。

せめてあの中身がスポーツドリンクだったなら。飲み水だったなら。

イッセーは腹を下さずに済むだろうに。

 

俺がイッセーの手を止めようと、ペットボトルに手が触れたとき、それは起きた。

ペットボトルが淡い光を放ったのだ。

それを知ってか知らずか口をつけたイッセーは、思わず驚いてむせている。

それはトイレの水――と、忠告する俺の言葉を遮るように

イッセーは驚いた様子で感想を述べている。

 

「げほっ、げほっ! これスポーツドリンクじゃないか! どこで手に入れたんだよ?」

 

「……あ、お、お前のお陰で俺の特訓の課題の一つがクリアできた。あ、ありがとう」

 

あまりに突然の事に、俺も呆気に取られていた。

元々はトイレで汲んだ水だって事は……これは黙っておいた方がよさそうだ。

イッセーは礼を言われたことには反応したものの、すぐにまた表情が沈む。

 

「……やっぱ、お前すごいな。俺、何やってもダメだ。力は小猫ちゃんに及ばないし

 剣術も木場に比べたら全然だ。お前やアーシア、朱乃さんと違って魔力もない。

 本当、俺、何でここにいるんだろうな、ははっ……」

 

バカか、お前は。いや、バカなのは前からだが……

こういう意味でのバカだとは思ってもみなんだ。

木場にせよ、塔城さんにせよ、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の補正込みとは言え

戦闘技術には一日の長があるだろう。まさか、そんな事で張り合っていたのか?

 

だとしたらそれは相手に失礼だ。ついこの間悪魔の喧嘩を始めたばかりの俺らが

木場や塔城さんと肩を並べて戦うと?

……ああ、やっぱこいつアレだ。

 

「言いたいことは山ほどあるが……とりあえず、やはり今の発言は頂けないな。

 俺にも言えることだが、アーシアさん以外、悪魔としての経験は俺らより上。

 つまり、それだけ場数を踏んでいるんだ。それに皆、悪魔の駒の補正だってある。

 そんな彼ら彼女らと、ぽっと出の俺らが地力で並ぶと? バカも休み休み言え。

 さっきのナンセンスな仮説じゃないが、比較対象がそもそも違うんだよ」

 

「……お前は魔力があるから、そういう事が言えるんだよ」

 

今にも折れそうなイッセーの言葉を聞き、俺の中で何かがはじけた。

いつぞやほど酷くはないとは言え、また目の前が真っ白になったのだ。

 

――そう、またイッセーをぶん殴っていた。ただし、今度は左手で。

 

「……結局お前はあれか。自分かわいそうもしくは無能アピールをしたいだけか。

 だったらさっさと荷物纏めて帰れ。気は進まんがグレモリー部長には俺が話しておいてやる。

 お前は魔力が無い代わりに、昼間普通に動けるだろうが。

 木場より遅いが、タフだろうが。塔城さんより脆いが、一発逆転は狙えるだろうが」

 

我ながら偉そうなことをつらつらと述べている気がする。

俺はこいつと違い、神器を二個持っているに等しい。

魔力があるから余裕がある、と言うのも強ち間違いじゃない。

一発殴られて呆然としているイッセーを尻目に、俺はまだ喋る。

内側にたまっているものを吐き出すように。

 

「俺としちゃ、お前がここで折れようがどうしようが関係ないんだけどな。

 荷物纏めて帰るんなら、俺も必然的に帰ることになるし。

 そうなりゃ自由に動けるから、俺としちゃ願ったりだ。

 ただ……グレモリー部長には気の毒な結果になるだろうよ」

 

「おっ、お前俺の代わりに出ないのかよ!?」

 

驚いた様子でイッセーが反論してくる。

お前、自分が弱いからって俺に出ろって遠まわしに言ってたのか?

……やれやれ。これは頭が痛い。

 

「俺が? 何で?」

 

「だ、だってレーティングゲームは悪魔にとって大事な戦い……

 それに今度の試合は負けたらリアス部長があのいけ好かねぇ焼き鳥野郎と……」

 

「言ったぞ。俺は主サマが誰と結婚しようが気にしない。

 あの場じゃ言わなかったがな、あれ見方によっちゃフェニックスの方がまともな事言ってるぞ。

 三男でありながら家の看板を背負い使命のために戦わんとするチャラいボンボン。

 長女でありながら責任を果たそうとせず、自由のみを……すまん。また言い過ぎた。

 とにかく、俺はお前が出るから出るんだ。お前が出ないなら、俺は出ない。

 最近出ずっぱりだから忘れてるかもしれないが、お前の中で引きこもる事だって出来るんだぞ」

 

言葉に起こすとちょっと妙な意味にも取れるが、実際そういう意向だから仕方ない。

少なくとも、俺から積極的に参加するつもりは今のところ無い。

あれ? お前には言ってなかったっけか。まぁいいや。

 

「まあ、つまりそういうわけだ。おまえ自身が戦う気も無いのに、俺は手を貸さない。

 気の乗らない戦いに参加するほど、馬鹿げた事は無いからな。

 で、その馬鹿げた戦いを仕組んだ我らが主サマがそこの部屋に入っていくのを見た。

 会いに行ったらどうだ? ちょっと沈んでる様子だったが。

 元気付けてやったらどうだ? お前、そういうのは得意そうだろ」

 

俺としては最大級の餌でイッセーを元気付けようと試みるが、どうやらそれでも足りないらしく

意気消沈としたままイッセーは二階に戻ろうとしていた。

こうなったら俺のキャラじゃないが……また一芝居打つか。

 

それにしてもアーシアさんの時といい、よく芝居を打つな。

俺の記憶には、宮本成二は演劇部所属って記憶は無いんだがなぁ。

 

「いや……今俺、部長に合わせる顔がないからさ。赤龍帝だ何だって言われても

 このざまじゃ俺はグレモリーのいい恥さらしだ。セージ、お前が行ってこいよ」

 

「それこそ何で? だ。行った所で何を話せと?

 ……いや、何も言葉で話さなくともいいな。たまには肉体言語ってのもアリか。

 そういう意味では……実に語り甲斐のありそうな身体だが」

 

「な!? お、おいセージ!?」

 

ふむ。やはり食いついてくるな。結構言い合っている間に

いつものイッセーに戻りつつあったからな。

ここはもう一押しか。

 

……はぁ。性格がああでなかったら、あの身体は魅力的なんだが。

む。いかん、イッセーのスケベが俺にもうつったか?

 

「いやあすまないなイッセー。そういうのはお前の役目だとばっかり思っていたが。

 たまには俺がご相伴に預かってもよかろうよ。夜に一つ屋根の下で男女が出会ったら……

 ……やることは一つだよな?」

 

「お、お、お、お前!? お前部長の事嫌いだって口では言ってくるくせに!?」

 

「ああ、どっちかって言えばな。今回だってあれがくだらない事言わなきゃ

 俺は今頃宮本成二(本体)の手がかりが手に入っているかもしれないのに。

 その慰謝料として身体で払ってもらうのもたまに悪くないかと」

 

「ふざけんな! 俺だってあの時お預け食らって辛かったんだぞ!

 そんな横から掠め取るような真似されてたまるかよ! 俺が行って来る!!」

 

興奮したような様子でイッセーはグレモリー部長がいるであろう部屋に向かう。

方向性はともかく、多少は前向きに戻れただろう。

あいつが戦う理由を考えると、どうしてもグレモリー部長に帰結する。

結局、女のために戦う男が一番強いのだろう。

そういう意味では、俺は少し斜めに構えすぎかもしれない。

 

そう、我ながらかなりお節介なことをしたとは思う。

だが、あいつが本格的に立ち直るには俺の力じゃなく

グレモリー部長に励ましてもらうことが一番ではなかろうか。少なくとも今は。

何せイッセーの奴は、グレモリー部長に認めてもらいたい一心でここまで来ている。

もしかしたら死ぬかもしれないのに、だ。

 

そのバカに付き合っている俺は、もっとバカなのだろうが。

バカの相手に疲れたバカは、部屋に戻って寝るとするか。

 

――――

 

「……なるほど、イッセーくんがね」

 

「相当へこんでた。今のままじゃ徒に体を酷使させて、無意味に寿命をすり減らしているだけだ。

 そう思ったからこそ、俺は無理やりにでもあいつをグレモリー部長に会わせたが……

 正直、単なる傷の舐めあいにしかなってないかもしれないな」

 

「……相変わらず部長には辛辣だね、セージくん」

 

部屋に戻ると、さっきの騒動で目を覚ましてしまった木場がいた。む、すまない。

別に隠す理由もないので、一部始終を説明し終えると微妙な表情をしている。

俺に言わせればお前らが皆甘いだけだと思うが。

まあ殺される夢を見る程度には信用してるって事だよ。

 

「さて。悪いんだけどセージくん、ちょっと付き合ってくれないかな。

 変な時間に起きたせいで、目が冴えちゃったみたいなんだ」

 

「俺のせいでもあるし、それはかまわないが……どうするんだ?」

 

俺の問いに、木場はただ表に出てほしい、と催促するのみ。

表に? まあ、外に出たほうがいいかもしれないが……。

 

――そうして俺たちがやってきたのは別荘から少し離れた採石場。

例のジープ特訓をやったところだ。

 

「聞いたよ。ここで相当むちゃくちゃな特訓をしたそうじゃないか。

 ……まあ、僕から見ても今の部長はちょっと冷静さを欠いている、かな」

 

「やはり。フェニックスってのは、相当まずい相手らしいからな。

 おそらく、無理やりにでも婚姻を成立させたい親御さんがセッティングしたのだろうよ」

 

正直に言って、俺はこの試合に勝とうが負けようがどっちでもいいのだ。

ただ、やるからにはベストを尽くしたい。それだけに過ぎない。

まして、命を欠ける価値などこれっぽっちも見出していない。

 

「木場、この際だからちょっと聞きたいんだが」

 

「なんだい?」

 

「単刀直入に言うぞ。グレモリー部長は、お前にとって仕えるに値する悪魔か?」

 

一瞬、場の空気が凍りついたのを感じた。話題を振った俺が思うのだから間違いない。

しかし夜のテンションとは恐ろしいものだ。

まさかこんな核心を、こうもずけずけと問い質すとは。

しかも相手は騎士(ナイト)。俺は一体何を聞いているのだろうな。

 

「セージくん、君もなかなか怖いもの知らずだね。もし僕が本当に従順で頭の固い騎士だったら

 君を即刻切り捨てているところだよ?」

 

「物騒なことを爽やかな笑顔で言わないでくれるか?

 ……しかし、参考になった。ありがとう」

 

なるほど。立場上、表立っては言わないだけで木場は木場で腹に何か抱えている。

それも、かなり重そうなものだ。

 

……この分だと姫島先輩や塔城さんにも何かしらあるかもしれないな。

そのあたりのフォローは、やっているのだろうか。

まあ、俺に対する対応を見る限りではやってなさそうだが。

 

そう俺が一人で納得をしていると、おもむろに手袋が飛んできた。

咄嗟の事で反応し切れずに顔に当たった手袋。

よく見ると、木場がこっちに投げつけてきたのだ。

 

「情報料。ここから先は、僕に勝てたら教えてあげるよ」

 

「……ああ。そういや、そんな約束してたな」

 

手袋を相手に投げる。日本ではあまり馴染みがないが、中世貴族の決闘の合図として

このような行為が行われていた。らしい。俺もよく知らない。

確かに俺は木場とスパーリングの約束をしていた。

グレモリー部長の許可は取ってないが……いいのか?

 

「許可なら一応取っているよ。ただ、いつ行うか、までは言わなかったけど」

 

「おいおい、随分アバウトだな。

 まあ、もう残り日数少ないしやれるときにやるのは賛成だ」

 

互いの合意が得られたことで、ルールの確認。

 

一つ。実戦形式のため、互いに神器の使用は無制限。

二つ。どちらかがギブアップ、あるいは戦闘できる状態でなくなった時点で終了。

そして三つ。レフェリーがいないため、判定はサバイバル方式。

誰かに気づかれた場合その時点で終了。

 

三つ目のルール、まるで枕投げみたいだな。

俺……と言うか宮本の方は、安眠妨害を理由にあまり好きではなかったらしいが。

 

「それじゃ、今からトスする石が地面に落ちたら開始だよ……」

 

木場が指で小石を上空に弾く。それが落ちるまでの間、周囲は緊迫感に包まれる。

イッセーを相手にしたときとは違う。今回は、明らかに格上が相手だ。

できるなら、即座に自分のペースを出したいところだが。

 

と、思っている間に小石は地面に落ちる。落ちた音は小さいながらも

その後に駆け出した俺たちの動きは、小石とは比べ物にならない。

 

BOOST!!

 

思ったとおり。木場の動きはイッセーとは桁違いに速く、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)の起動すらできない。

今の俺では、発動に時間のかからない龍帝の義肢で木場の剣戟を凌ぐのが手一杯だ。

くっ、よもやこんな形で弱点を突かれるとは。だが、これは大きな課題だ。

問題がはっきりしている分、改善も容易である……できるものなら。

 

「手の内はある程度わかってるんだ。簡単に使わせてくれると思わないほうがいいよ!」

 

「卑怯とは言わないさ。立派な戦術、お見事だよ!」

 

当然、俺だって一方的にやられるつもりはない。

少々危険だが、木場が打ち込んでくる瞬間にカウンターを叩き込めば

記録再生大図鑑の起動時間くらいは稼げるはずだ。

 

「カウンター狙いか。けれど、僕も君みたいに色々な武器を使えるのさ!」

 

そう言って木場が取り出したのは、また別の剣。

くっ、まさかあれ以外にも剣を持っていたのか。

今は都合の悪いことに記録再生大図鑑が動いていない。

武器を記録できないし、あれがどんな武器かは……食らってみないとわからない。

 

「――吹き荒べ」

 

そう呟いた木場が剣を振りかざすと、剣は突風を巻き起こし、俺の体勢を崩しにかかる。

以前のを闇の剣とするならば、これは風の剣か!

まずい、接近戦に構えていたものだから遠距離戦対策が取れていない!

 

相手が風では、遮蔽物が無いのは不利だ。無理に突っ込むのは愚策……ん?

相手は風。吹き上げる力のあるもの。つまり……

 

俺は思い切って、距離を取る作戦に打って出た。

風が強く吹いた瞬間、身を翻し悪魔の翼を広げる。そしてそのままジャンプ。

 

「うおおおっ!?」

「距離をとったのは一応お見事だけど……その体勢じゃ不合格だよ!」

 

そう。一応悪魔は空を飛べるし空中での体勢変更もある程度自在。

だが今俺が飛んでいるのは……否、飛ぶと言うよりは滑空に近い。

距離をとるための滑空。つまりここから自由に動けるかと言うと、動けない。

木場の二撃目はおそらく防げないだろう。このままでは。

 

「……そうだな。だが、これだけ間合いがあれば、これは使えるよな!」

 

「くっ、まさか!」

 

BOOT!! EFFECT-STRENGTH!!

 

作戦第一段階はとりあえず成功。要は記録再生大図鑑さえ起動できればよかったのだ。

そしてこの飛ばされている状態では機動性をあげてもあまり意味がない。

したがって、使うカードは必然的に耐久力を上げるもの。

 

木場の剣戟をまともに食らったが、何とか耐えることはできた。

そして、何もカウンターをかますのに相手の攻撃をかわす必要はない。

 

「うおおおっ!!」

 

倍化させた俺の右手ならば、木場の耐久力を考えるとかなりのダメージを与えられる。

……はずだった。

 

もちろん、木場だってただ俺の一撃を棒立ちで食らうほど間抜けじゃあない。

さっき出した剣で風圧を操り、緩衝材にしてダメージを減らしていたのだ。

一応、衝撃でふっとばしは出来たが。

 

RESET!!

 

「ふふっ、ここからが君の本番だね。僕の方はいつでもいいよ」

 

――実はちょっとまずい。木場のほうは余裕綽々なのに対して

俺のほうは……攻撃を当てられる自信がない。

今のカウンターだってそう何度も出来る業じゃない。

ならば……弾幕を張るか!

 

だが、俺のカードで弾幕を張れるものといえば……銃? 拳銃でどうやって弾幕を張れと?

他は……飛び道具は魔法系しかない。広範囲を攻撃できるものは……あれしかない、か。

本当、イチバチ勝負が多いな、俺も。

 

BOOST!! RELOCATION!!

 

再び倍加した龍帝の義肢を、今度は右足に移す。少しでも移動力を増やすためだ。

地震で体勢を崩させるのもアリだが、飛ばれたら終わりだ。あまり使えない。

とりあえずは……突っ込む!

 

「――っ! イッセーくんとの勝負でも見たけど、その爆発力は大したものだね!」

 

案の定、俺の突撃はひらりとかわされる。だが、それも織り込み済みだ。

木場に接敵する寸前、俺は一枚のカードを発動させる。

 

EFFECT-THUNDER MAGIC!!

 

狙いはでたらめだが、広範囲に稲妻を落とす雷の魔法のカード。

本家の姫島先輩のそれとは似ても似つかぬものになってしまったが……

まあ、深く考えるのは止めよう。

 

どう考えても俺の能力不足です、本当にありがとうございました。

 

だが、このでたらめな狙いと言うものは規則的ではないだけに回避が困難である。

広範囲に稲妻が落ちている中、俺はすかさず次のカードを用意する。

 

SOLID-GUN!!

 

でたらめな狙いの稲妻と、直線的な狙いの弾丸。変化をつけることで命中精度を上げる作戦だ。

ふと気づいたが、思いの他連続でカードを使っているにも関わらず消耗が少ない。

こっちはこっちで、特訓の成果がでているのだろうか。

 

しかしそれでも、木場に決定打を与えるには至らなかった。

木場は地面から無数の剣を出し、それらを避雷針とすることで稲妻を回避。

拳銃の回避に専念しだしたのだ。

 

「訓練なら合格点だね、セージくん。けれど今は決闘。勝負はつけさせてもらうよ!」

 

MEMORISE!!

 

記録したのか、今のを。などと考えている間もなく、木場は思いっきりこっちに肉迫する。

素早い一閃で拳銃を飛ばされ、喉元に剣先を突きつけられてしまう。

 

この状況じゃ、霊体になるよりも先に木場の剣が喉に突き刺さる。

つまり――俺の負けだ。神器を収納し、俺は両手を上に上げる。

 

「――まいった。やはりまだ、俺一人では勝つのは無理みたいだ」

 

「一応、このオカ研じゃ僕のほうが先輩だからね。簡単には負けてあげられないよ」

 

木場のほうも剣を収め、右手を出してくる。俺も右手を返し、握手を交わす。

 

「そういえば、あの剣を大量に生産したあの技、あれが必殺技か何かか?」

 

「ああ、あれが僕の神器『魔剣製造(ソード・バース)』。今まで出していた剣はすべて、この神器によるものだよ」

 

そうだったのか。つまり今までは小出しにこっちも記録していたわけか。

……そういえば、一度記録したものを更新させる、ってのは出来ないのか?

まあ、今はどうでもいいか。

 

「ただセージくん。嫌味でもなんでもないんだけど

 僕は最初、あそこまでやるつもりはなかった。

 あの教会でのときに比べたら、君は間違いなく強くなっている。

 それはイッセーくんにも言えることだと僕は思うけどね」

 

「ああ。だがあいつは、事あるごとに俺やお前、塔城さん、アーシアさん。

 そして姫島先輩と比較している。

 直接言ったんだが、問題点はそこじゃあないんだがなぁ……」

 

夜の採石場で、イケメンと(多分)フツメンが共通の友人の事に関してため息をついていた。

傍から見たら何の光景かと思えそうな、そんな状態だ。

 

なお、俺たち二人が戻ったとき既にイッセーは眠りこけていた。

余程、グレモリー部長と有意義な時間を潰せたのだろうか。

起こすのも野暮なので、そのままにしておくことにした。




と言うわけで初の黒星です。
順当に考えたらこれくらいの戦力バランスかと。

今回はイッセーにアンチしてます。
そして遠まわしなリアスアンチ。

と言うかここの件、主人公が無力感に苛まれるのはいいとしても
比較対象がおかしいんですよね。

リアス、朱乃:論外
木場:騎士でもないのにスピード勝負? おとといきやがれ
小猫:戦車でもないのにパワー勝負? おとt(ry
アーシア:そもそも運用方法が全く違うんですがそれは

匙と比較して云々だったらまだ説得力あるかもしれませんが。

ちょっと今回イッセーが後ろ向きになりすぎたので
「こんなのイッセーじゃないやい!」って人もおられるとは思いますが……

異物が入った影響と考えていただけると幸いです。

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