ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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ここから本編が始まります。よろしくお願いします。


旧校舎のディアボロス
Soul1. 人間、やめてます。


気がつけば、俺は闇の中を漂っていた。

ただ、何もない真っ暗闇の中を。

いや、漂っていたかどうかさえもわからない。前に進んでいるのか、後ろに進んでいるのか。

登っているのか、落ちているのかさえもわからない。

 

何故ここに居るのかはまるでわからない。何か大切なことがあった気がするのだが

まるでわからない。

ただ、なにも考えるでもなく闇の中に俺は「在った」。

 

ふと、先の方に光が見える。どこまでも続く闇の中に、僅かな光が差している。

もしかしたら、何かあるかもしれない。俺は、光に向かって手を伸ばす。

それが手かどうかはわからないが、とにかく俺は光のある方角を目指した。

 

闇の中は、思ったよりも流れが急だった。

いや、俺が動こうとする意思のとおりに動けないだけかもしれない。

とにかく、自由に動けない。それでも、俺は光のある方角を目指した。

 

何度か何かがひび割れるような音も聞こえた気がしたが、それでも構わなかった。

とにかく、あの光が何か知りたい。あの先に、何があるのか。

俺は、ただこの闇の中の光が気になった。光に手を伸ばそうと俺は足掻き続け

光の目の前に来た。この先には何があるのか、と俺が思った瞬間――

 

――俺は、意識を失った。

 

――――

 

目を覚ましたとき、俺の目の前には、とてつもなく巨大な赤いドラゴンがいた。

初めは驚くも、何故か敵意のようなものは感じられず

思い切って話しかけてみようとした矢先、その俺の考えを見越してか

向こうから話しかけてきたのだ。

 

「その姿で、よくここまで来られたものだな。リアス・グレモリーの駒には

 よほど豪華な特典があると見える。代償も、デカそうだがな……ククッ」

 

何を言っているのか、さっぱりわからなかった。

いや、言語は理解できるのだが、話の内容が全く見えない。

言語が理解できるのならばと、今度は思い切ってこちらから話しかけてみる。

 

「駒? 特典? よくわからないが、俺も自分がよくわからない。ドラゴン、貴方は何者なのだ?」

 

すると、今度はドラゴンが驚いた表情を見せる。まさか、さっきのは独り言だったのか?

独り言に反応してしまったか。これは少し気まずいな。

 

「……いや、まさか宿主より先に俺に話しかけてくる奴がいるなんて思わなかったからな。

 俺はドライグ。赤龍帝とも呼ばれているが、多分お前の認識であっている」

 

俺の認識? わかるのか? ……試しに少しボケてみるか。

 

「認識? マジでダイメイワクなオッサンドラゴン?」

「……当たらずとも遠からずなのが腹立たしいが、まぁいいだろう。だが略すな」

 

当たってるのか!? マジでダイメイワクなオッサンドラゴン略してマダオが!?

あ、略すなとは釘を刺されたな。一応初対面だし、ボケるのもこのあたりにしよう。

 

「それで、マ……じゃなかったドライグ。ここまで来たが俺は自分のことがよくわからない。

 ドライグは、俺のことを何か知っているのか?」

 

我ながら何て禅問答だとは思ったが、実際今の俺は俺のことが全くわからない。

ただ闇の中を漂い、気づけばこのマダオもといドライグの前にいる。

するとドライグは、おもむろに自分の手をみろ、と言うではないか。

確かに鏡すら無い場所が続いたが、それで……

 

「うわああああっ!? 何じゃこりゃあああ!?」

 

己が手を見たとき、思わず悲鳴を上げてしまった。

何せ、そこにあるのははっきりとした肉体の手ではなく

うっすらとぼやけた気体が辛うじて手のような形をとっている光景なのだ。

つまり、今の自分に肉体があるかどうか――少なくとも両手は存在しないことになる。

 

「それが今のお前さんの正体。世間一般じゃ幽霊と言うな」

 

止めを刺すようにドライグは淡々と事実を述べる。

確かに、こんな手で「人間です!」なんて言っても信じてもらえないだろう。

まだ幽霊の方が説得力がある。という事は、俺は死んでいるのだろうか。なんということだ。

 

「ああ、死んじゃいない。生きてもいないが。限りなく生霊に近い霊魂だな。

 今お前さんは、ある少年に取り憑いて辛うじて自我をつなぎ止めている状態だ。

 その少年てのが、俺の宿主なのだが……」

 

こっちの考えを見透かしたようにドライグが言葉を紡ぐ。

しかし、自分の宿主については口を濁らせている。不都合でもあるのだろうか?

 

「いかんせん、へっぽこ過ぎて俺の声が全然届きやしない。そこで、お前に折行って頼みがある。

 俺の力を少し分け与えるから、俺の宿主の力になってくれ。

 何もせずに宿主が死ぬのは、ちと目覚めが悪い」

 

そういうなりドライグは、おもむろに自分の鱗を俺の右腕に当たる部分に投げつけてきた。

実体のない右手なので、鱗をキャッチすることもできず

そのまま右腕にあたる部分に飲み込まれてしまう。すると、ドライグの鱗はみるみる巨大化し

右の下腕を覆い尽くすような籠手の形になる。

くすんだ朱色と、鈍い輝きを放つ宝玉が特徴の、ドラゴンの腕のような籠手。

 

「それも俺の宿主が目覚めれば、使えるようになるんだが……今はまだ無理みたいだな。

 だが、その力でお前の実体はある程度維持できるようになる。

 が、忘れるなよ。お前は生霊で――」

 

ドライグの次に放たれた言葉に、俺は驚きを隠せなかった。

 

――生霊で、悪魔だ。

 

生霊で悪魔。それなんてオカルト? と思いもしたが、さっきの自分の両手を見る限り

霊魂ってのは信じるより他無さそうだ。だがせめて人間の霊魂であって欲しかった。

と言うか悪魔の霊魂? 略して悪霊? やばいな。確かに実体化したら退散させられそうな響きだ。

神社とか行けないな。どうしよう。

 

「心配するな。悪魔っつってもお前が思ってるような怪物のことじゃない。

 お前が人間というものを正しく認識できるなら、その通りに実体化するだろうよ。

 俺としちゃ、人間の姿での実体を奨めるがな」

 

なるほど。大体わかった。今俺は実体が無いから、イメージした通りに実体化すればいいのか。

いくら俺が何者かわからなくとも、人間がどう言う姿形かはわかる。

……ん? おぼろげながら自分のことを思い出せてきたな。これはドライグのおかげなのだろうか。

だとしたらありがとうドライグ。とりあえずマダオは取り消しておこう。

 

思い浮かんだ姿形のとおりに、実体をイメージする。

その通りになっているかどうかは、鏡がないからわからないが。

 

「ほう。どうやらそれがお前の姿らしいな。少し俺の宿主のイメージが入っちまったようだが

 何、些細なことだ」

「……それは些細なことじゃないんじゃないか?

 とにかく、おかげで自分のことがおぼろげだが見えてきた。ありがとう」

 

礼には及ばん、とばかりの態度を取るドライグ。

うん、初めて見た時から思ったが、結構偉そうだな。

恩義がある以上、そのことについて言及するのも野暮だが。

 

さて、今度は俺が動く番だ。今ドライグは「宿主の力になれ」と言っていたが

具体的には何をすればいいんだ? ドライグのメッセンジャーになれって事か?

 

「今、お前は俺の宿主の中で眠っている状態にある。

 お前の目が覚めれば、今の宿主でもお前の声なら届くだろう。

 そうしたら宿主に伝えろ。俺がいることをな。さて、もうじきお前の目も覚めるだろう。

 次に会うときには、お前ももう少し強くなっていることを願うぞ」

 

ドライグが喋り終えるや否や、体が何かに引っ張られる。何かに引き寄せられる感覚だ。

呼び声も聞こえる。認識はできないが。その向こうにはまた光が見える。

思い切って引き寄せられる方向に向かおうとしたとき、ドライグの言葉が聞こえた。

 

「お前の右手には僅かだが俺の力、左手には俺にも全てはわからないが、とにかく強い力がある。

 お前も戦い続けることで、力を蓄えることになるだろう。その右手は貸してやる。

 いずれお前が強くなったとき、返してもらうぞ」

 

力? 使い方のわからない力なんて、無いも同然じゃないか。

その事をドライグに抗議しようとしたとき――

 

――またしても、俺の意識は途絶えた。

 

――――

 

次に目を覚ましたときは、今度はやけにリアルだった。

悪魔召喚の儀式の会場。そんな感じの場所だ。何だここは? 邪教の館的な施設か?

合体して今後とも宜しく的な展開か? おもむろに、自分の両手を見る。今度はリアルだ。

そして、自分が倒れていることを改めて認識する。痛みはない。寝ていた? こんなところでか?

いや、床に寝そべっていたら普通もう少し痛い。とりあえず立ち上がり辺りを見渡すと

女子学生が3人、男子学生が2人いる。何の集まりだ?

 

男子生徒は2人。イケメンじゃない方が、おもむろに俺の顔を覗き込んでくる。

あれ? こいつ、どこかで見たことがあるような……ダメだ、思い出せない。いや、知らない?

 

「こいつが、俺の中にいた幽霊っすか……なんか、俺のダチに似てますね。

 それも、俺を助けてくれようとした……」

 

訂正しろ。俺は死んでない。だがなんで実体化してるんだ?

この邪教の館的な場所だから実体化できたのか?

俺の中……って事は、こいつがドライグの言ってた宿主か。

なるほど、この様子じゃ確かにドライグの声は届いてなさそうだ。

しかし、俺が霊魂だとして、なんでこいつに取り憑いていたんだ?

……ダメだ。やっぱりまるっきり話が見えない。

 

思考を遮るように、紅い髪の女子生徒が口を開く。どうでもいいが、かなり発育がいいな。

思わず目が行ってしまうが、あまり見るのは失礼だ。色情霊だと思われるのも非常に厄介だし。

自分のことはよくわからないが、それくらいの自我は持ち合わせているつもりだ。

 

「さて、今度こそ全員揃ったわね。兵藤一誠くん。いえ、イッセー。それと……」

 

ひょうどう……イッセー……その名前に引っかかるものを覚えるが、今は結論が出ない。

それに、俺の名前を聞かれている。さて、さっきまでなら俺の名前すらわからない状態だったから

アレクサンドロビッチとか田吾作とか誤魔化したかもしれないが

今は下の名前ならば思い出せている。これだけでも、答えるべきだろうな。

 

「……セージです。苗字は……知りません」

「セージ、か。そのダチと名前まで一緒って、何か凄いな」

 

もとい、訂正。下の名前もうろ覚えだった。読みは思い出したが、字が思い出せない。

いくらなんでも自分の名前を知らないとかありえないだろう。

自分で言って失敗した。だが記憶喪失もわざとらしい。

だからそこの小柄な女子生徒、俺を睨むな。俺も本当に知らないし思い出せないんだ。

で、何故俺の憑依先君は俺の名前を聞いて感慨深げにしてるんだ?

別段珍しい名前じゃないはずだが?

 

「イッセーとセージ、ね。セージ、呼ぶときはセージで構わないかしら?」

 

紅い髪の女子生徒の問いに、ただ頷く。これしか名前が無いのだ。

ほかにどう呼べというのだ? 幽霊か? そこに、黒髪の女子生徒の提案が入る。

これまたどうでもいいが、こちらも発育がいい。ふと、彼女と目が合ってしまう。

しまった。色情霊認定されたか? 慌てて目をそらすが、向こうは悪戯っぽく笑うのみ。

許されたのか、許されてないのか。今深く考えるのはやめよう。

 

「となると、やはりどう言う字か気になるところですわね。

 見たところ、駒王学園の生徒っぽいですけどイッセー君と違って、知らない子ですし……」

 

どこかで見たような、と付け加えながらも黒髪の女子生徒の意見に同意するように周囲が頷く。

うん、俺も気になる。一人イッセーと呼ばれた男子生徒が俺って有名人!? と浮かれていたが

すぐに小柄な女子生徒からのツッコミが入って二つに折れている。

見てる分には楽しいな、こいつ。

 

で、本題の俺の名前だが、紅い髪の女子生徒の鶴の一声であっさりと決まった。

 

「イッセー……兵藤一誠に憑いてた幽霊でセージだから……歩藤誠二でどうかしら?」

 

曰く、兵藤の漢字に合わせ、兵に対し歩、将棋におけるチェスのポーン(兵)だから歩藤。

一誠にあわせてセージだから誠二。それだけで決まった。

 

……安直すぎやしないか? と思いもしたが、満場一致の可決。

なんなんだ。ここはイエスマンの集いか。とは言え、俺自身にいい案があるかと言われると

答えはノーだ。馴染むかどうかと言われると不安だが

これからはこれを俺の名前としてやって行くより他は無いだろう。

 

歩藤誠二、歩藤……誠二ねぇ。

アナグラムすると二歩になって将棋の禁じ手になるんだがそこは突っ込むのは野暮だろうか。

 

「それじゃ改めて……イッセー、セージ。私達オカルト研究部は貴方達を歓迎するわ。

 ――悪魔としてね」

 

悪魔、ねぇ。

ドライグにも言われたのだが、正直言って俺はまだ悪魔としての実感など全くない。

こうして実体まで得てしまうと、霊魂としての実感すら危うい。

あまり長いことここに居ると、アイデンティティに関わるかもしれないな。

隣のイッセーを見るが、やはり疑心暗鬼の表情だ。まぁ無理もないだろう。

とりあえず、出されたお茶を一啜りして、情報収集に努めたほうがよさそうだ。

この流れ、絶対何か知っている。

 

「イッセー、あなたは昨夜、黒い翼の男を見たでしょ?」

「……あれが夢じゃないなら、忘れる訳ありませんよ。

 あいつは、俺を助けようとしてくれた俺のダチを病院送りにした奴の仲間なんですから」

 

怒りを噛み殺したような声でイッセーが淡々と話すが、その話の内容がやけに引っかかる。

黒い翼の男? 俺のダチを病院送りにした奴の仲間……?

はて、どこかで聞いたような。何かの漫画だったっけか?

しかし、この話を聞いてから微妙に頭が痛いわ吐き気はするわ。一体どうしたんだ?

そんな俺の様子を見かねてか、話は一区切り付く。

 

「……セージ、顔色が優れないみたいね。やはりまだ外の環境は辛いのかしら?

 一応、この中は幽霊でも問題なく活動できるような結界は張ってあるのだけれども」

 

やはり、この中だからこそ俺は実体化出来ていたのか。

という事は、この部室の外では実体のない霊魂に逆戻りって事か。

違う意味で頭が痛くなってきたな。

とにかく、お茶を飲んで気を鎮めよう。効くかもしれないし。

 

「……大丈夫です。少し、気分が悪くなっただけですから。

 とりあえず、話の続きをお願いします」

 

それに、俺のせいで話の腰を折るのも悪い。

俺の返事を聞くや否や、紅い髪の女子生徒は話を続ける。

その内容を大まかに要約すると……

 

1つ。昨日イッセーを襲い、以前もイッセーとそのダチを襲ったとされる奴は

   堕天使と言い、悪魔の敵である。

2つ。悪魔も堕天使も人間を使い、冥界――地獄の領土争いをしている。

そして3つ。その二つの勢力を駆逐しようとする天使と言う種族が存在する。

 

……はい。そんな中に放り込まれたとあっちゃ、悪魔を呼び出せるコンピューターとか

自分の中のもうひとりの自分とか呼び出して戦える力が欲しくなるのが人情だと思うのだが。

ん? 力? 力って言えばドライグが何か言っていたが……

 

イッセーは目を丸くしているが、俺は既にドライグを見ているため、今更感が漂っている。

いざ目の当たりにしたものを否定するほど、頭は固くないつもりだ。

しかしそんな丸いイッセーの目も、次の瞬間には鋭くなる。

そして、俺の中には得体の知れない感情が渦巻くことになる。

 

「――あの日、あなたは天野夕麻とデートをしていたわね?」

 

あまの……ゆうま……レ、イ、ナー……レ……この名前、引っかかるどころじゃない。

どこからともなくレイナーレと言う単語が出てきた。それよりなにより、この顔を見ただけで

俺の中にとんでもない憎しみや怒り、恐怖の感情が渦巻いている。

震える手で、お茶を啜ろうとするが迂闊にも飲み干していた。

 

「……すみません。お茶を――いえ、水を下さい。今、精神的にかなりキてます……」

「……そうですね、俺にも水を下さい。その話は、こういう雰囲気でしたくない」

 

イッセーはイッセーで、腹に据えかねる事があったのだろう。

声に、わずかばかりの怒号が含まれている。

俺が憑依していたから、いくらかシンクロしているのかもしれないが……

今、あまり考えるのはよそう。頭が痛い。

俺達が水を飲み終えるのを確認すると、紅い髪の女子生徒は話を続ける。

やめる気はないのだな。ならいい。話に乗ってやろうじゃないか。

 

「彼女は存在していたわ、確かにね……

 ま、念入りに自分であなたの周囲にいた証拠を消したようだけど。例外を除いてね」

 

例外。多分俺の事だろうな。

最も、こっちは顔を見ただけで得体の知れない憎悪を抱く程度なのだから、向こうにしたら

こっちの事など知ったこっちゃないとも考えられるが。それに、俺自身の記憶もあやふやだ。

そもそも、どういう経緯で天野夕麻と出会ったか。それさえわからない。

そして、出された顔写真を見たとき、俺の怒りはどうやら顔に出ていたらしい。

 

「ところでセージ。あなた、いつからイッセーに憑いていたのかしら?

 この写真を見たときのあなた、まるで親の敵を見るような目をしてたわよ?」

 

いつから? そういえば考えたことがないな。

気がつけば、ドライグに会って、それからここに呼び出されたとき

初めてイッセーに憑いてた事を認識したわけだから……いつだ? わからないな。

 

「話を戻すわ。イッセーを殺したこの子は……

 いえ、これは堕天使。昨夜、イッセーを襲った存在と同質の者よ」

 

やはり。この流れでわざわざ天野夕麻の名前を出すという事は、そういうことなのだろう。

デートに誘われて殺されるとは、イッセーも不憫な奴だな……美人局より質が悪いじゃないか。

うん? 殺された? しかし、イッセーは幽霊じゃないはずだ。

と言うか、幽霊にとり憑く生霊など前代未聞だ。案の定、イッセー本人も狼狽している。

一度死んだ人間が生き返る? まぁ、今更なネタだが……

 

「あの日、あなたは彼女とデートをして、その帰り道に殺された」

「……その時に、俺のダチが一人、巻き込まれてます。

 それでそいつは今、生死の境目を彷徨ってるって話です」

 

う、まただ。また気分が悪い。どうやらイッセーが殺されたことと

俺の気分が悪くなるのは何らかの関連があると見ていいな。

だが、今は俺のことよりもこの話の続きだ。

 

そう、何故イッセーは殺されたのか。大まかに分けると以下のとおりだ。

 

1つ。イッセーには神器(セイクリッド・ギア)と呼ばれる不思議な力があるらしい。

2つ。通常、ちょっとした才能程度で済むそれだが、イッセーの場合は危険性が高かったらしい。

そして3つ。それゆえに、危険視した堕天使がイッセーを神器ごと殺害した。

 

うん、まるでイッセーの意見が反映されてない、身勝手な理由だ。

ここまで話を聞いただけでも堕天使ってのが性根の悪い連中の集まりにも思えたが

よく考えてみれば敵対してる悪魔がレクチャーしてるんだよな。

ふむ、これはちとバイアスを取り除かないと判断を誤る危険性があるな……

 

堕天使についてあれこれ考えているうちに、議題は件のイッセーの神器に移っていた。

イッセーが妙なポーズ――あれは「ドラグ・ソボール」の「ドラゴン波」という技らしい。

うん、言われてみれば知ってる気がする。

 

それと同時に俺がヒーローヲタクだって事も思い出した。

違うんだ、今欲しいのはそういう記憶じゃないんだ!

そうこう考えているうちに、イッセーの神器は発現した。しかしその姿に、俺は目を疑った。

 

俺がドライグに借りた奴に似ている……いや、あれが本家本元か。

じゃあ俺のこの右手は「ドラグ・ソボール」で言えば「ビッグバン砲」か?

 

「俺のビッグバン砲に似てるだと!?」

「え、セージ、そのセリフはフルータの……ま、まさか!?」

 

そういえば、さっきから右手が疼く。一言断りを入れ

俺も試しに「ビッグバン砲」のポーズをとってみる。

俺の好みは「面ドライバーBRX」の「リボルビッカー」なんだが

恐らく似たようなパターンでないと発現しないだろう。

 

結論から言うと、無事に発現した。ドライグに借りたとき同様

くすんだ赤い色に鈍い輝きを放つ宝玉。

 

「いや、なんとなく、できるんじゃないかな、と……すっげえパチモン臭くなったけど」

「本当に驚いたわね……まさか神器まで共有してるなんて」

 

この瞬間、俺は理解した。恐らく、今俺が持っている神器はイッセーのものの下位互換であること。

イッセーのものは、ドライグの言葉が正しければとんでもない力と発展性を持っていること。

そして、まだ俺にあるというもうひとつの力については手がかりすらないということ。

 

しかし、この話の中で最後まで俺が何故生霊になったか、いつイッセーに憑いたか。

それは分からずじまいだった。イッセーが生き返ったのは、道端で配っていたチラシで悪魔

――この紅い髪の女子生徒を呼び出し、一命を取り留めた(?)

らしい。イッセーのダチについても、適切な処置をし救急隊に引き渡したそうだ。

 

まぁ、わからないのも無理はない。そもそも俺自身が持っている情報が少なすぎる。

情報交換などできるはずもない。ただ一人、紅い髪の女子生徒は首をかしげていた。

駒がどうのこうのブツブツ言っているようにも聞こえたが、わからない。

よしんば聞こえたとしても、おそらく意味は通じなかっただろう。

イッセーや俺の神器についての講釈(俺のは神器と呼べるかどうか怪しいが)が終わると

おもむろに全員が立ち上がる。全員の背中には、悪魔の、コウモリの翼が生えている。

見ても驚かない。今更感なのか、同質の存在になったからなのか。

 

「イッセー。あなたは私、リアス・グレモリーの眷属として生まれ変わったわ。

 私の下僕の悪魔として。セージ、あなたも歓迎するわ。

 あなたもどういうわけだが、私の眷属として数えられている。

 きっとイッセーに憑いているのが原因ね。でも経緯はどうあれ、あなたもまた、私の眷属よ?」

 

つまり、俺とイッセーは一心同体で、同期で、悪魔ってわけか。

で、目の前にいるのが俺達の上司リアス・グレモリー。

……これは確かに、ドライグの言うとおり力にならないと辛そうだけど……

って、俺の力、必要なのか?

 

そんな心配を知ってか知らずか、他の部員の自己紹介が始まっていた。

 

2年、木場佑斗。イケメン。1年、塔城小猫。小柄。3年、姫島朱乃。副部長。

同じく3年、リアス・グレモリー。部長で、我らの主。公爵令嬢、だそうだ。

そして、俺の隣にいるのが2年、兵藤一誠。エロガキで、俺の憑依先。

 

「……歩藤誠二です。学年はイッセーと同じなら2年です、多分。

 さっきから幽霊幽霊言われてますが、一応生きてます。つまり生霊です。

 霊魂と言ったほうが正しいかもしれませんが。ともかく、よろしくお願いします」

「兵藤一誠だ。同期としてよろしくな、俺の霊魂さんよ」

 

……とりあえず社交辞令として自己紹介は済ませたが

考えてみたら何も解決してないじゃないか。

 

1つ。ドライグが言っていたもうひとつの力のこと。

2つ。まだ堕天使は街に潜伏している可能性が非常に高いこと。

そして3つ。つまり、生殺与奪権はイッセーだけでなくリアス部長にも握られたこと。

 

霊魂とは不自由なものである。今のところ、この部室の中でしか実体になれない。

今試してみたが、部室から手を出すとその部分だけ綺麗さっぱり……

ってほどでもないが、実体を失ってしまう。

試しに全身出してみると、ドライグと話していた時のような状態になってしまっている。

一応、その時よりは輪郭やら何やらハッキリしているらしいのだが

実体がないことには変わりはない。

 

それに、全身の実体化を解いた状態で外に出ていると、やけに疲れる。

仕方なく、イッセーに憑依して過ごすことにする。

こっちのほうが居心地がいいとは、何とも言えぬ話だ。離れているときは離れている時で

壁をすり抜けられたり空を飛べたり行動の制約が無いのは魅力的なのだが。

ただ、空を飛ぶことに関しては悪魔は皆飛べるらしいので

全くアドバンテージにはならないそうだ。

 

そりゃそうだ。背中の羽は飾りか?

最も、イッセーは飛ぶのが嫌いらしく、飛ぼうとはしない。

飛べるとわかったら飛びそうなのに。高所恐怖症でもなかろうに。

まぁ、とりあえずはどうでもいいことなんだが。

 

その夜、イッセーに憑いた状態で目を閉じて眠ろうとしたとき

おもむろにドライグが話しかけてくる。

 

「よう。その様子じゃ、宿主は一応第一歩を踏み出せたようだな」

 

第一歩? ああ、ドラゴン波の事か。こっちもビッグバン砲で実体化してるから

そう結論づけてもおかしくはないか。

しかし、この様子じゃまだイッセーには声は届いてないみたいだ。

そんなにイッセーってやばいのか? そうは見えないが。

 

「悪いがドライグ、俺もイッセーも色々ありすぎて疲れてる。そっちの言伝はまだ伝えてないぞ」

「構わねぇよ。いきなり『お前の左手にドラゴンがいる』なんっつっても

 混乱するだけだろうよ。だが、これから戦いになれば嫌でも俺を認識することになる。

 それだけは忘れんなよ」

 

言いたいことだけ言って俺の目の前からドライグは消えていく。

む。やっぱりこいつマジでダイメイワクなオッサンドラゴン略してマダオかもしれない。

そもそも、戦わないって選択肢はないのか、無いのかよ……

 

この精神世界も殺風景だな、と思いながら俺は目を閉じる。イッセーの方は……

 

……ってお前何やってんだよ。賢者になる修行は今やることじゃないだろうが。

つかよくそんな気力あるなおい。

あー、気が滅入る。何が楽しくて男の賢者修行を見なきゃならないのか……

っておいおいまさか!? こっちにまで影響来てるとかそんな訳ないよな!?

これはマズい、非常にマズい。呼び止めるのが一番かもしれないが今の状態で俺の声届くか!?

つか、要らんトラウマ植え付けるのもマズい! 憑依を解くか!?

いや、イッセーには実体が無くても俺が見えてるらしいから、それはそれでマズい!

よし、こうなったらビッグバン砲で無理やり――

 

「使うなよ?」

 

アッハイ。ドライグに止められてしまった。

精神世界で憑依先であるイッセーに攻撃を加えようとすると

必要以上にダメージが行くらしい。そりゃあ、精神世界といえば内側も内側だ。

その内側から攻撃を加えればあっという間に崩れてしまう。

俺が思っている以上に、ここでの俺の行動はイッセーに影響を及ぼしているのかもしれない。

 

……ごめんなさい。実は部長や姫島先輩の発育の良い部分を思い出してました。

すまない、イッセー。でも少し思い出しただけでこれとは

こりゃ憑依してる時は慎重に動いたほうがよさそうだ。

だからわかったからお願いだからこれ以上修行続けないでくださいお願いします。

続けるなら俺との感覚の共有切ってください。

 

悪戦苦闘しながら俺が感覚の共有とカットをものにした頃には、既に朝日が登ろうとしていた。




現時点ではセージはイッセーの下位互換です。
今の時点では……ね。これから嫌ってほどチートスキル発揮しますので
そういうのがお好きな方はもうしばらくお待ちください。
お嫌いな方は……なるべく面白い能力にしますのでご容赦のほどを。

なおセージの正体は……わかった方もいらっしゃるかとは思いますが
現時点ではご内密に願います。
判明後に「ああやっぱりか、複線張るの下手だなこの作者」
とか思ってくださればいいので。

ビッグバン砲。これはべジータに相当するだろうキャラがいるなら
必殺技もなきゃおかしいと思い勝手に設定。すでに存在していたら訂正いたします。

面ドライバーBRX。これの元ネタは言わずもがなのてつを(RXの方)。
必殺技は同じく東映特撮のスパイダーマン(所謂ダーマ)の
レオパルドンの武器とミックス。相手は死ぬ。

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