ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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一人称視点小説ですと視点変更するだけで
原作からの乖離がしやすいですよね。


と言うわけで本来ここで出てこないはずの人物に出会ったりもする(かも


Soul12. 黒猫、見つけました。

さらに夜も更け。

 

チケットの販売も終え、今日は色々あったと思いつつ、イッセーの部屋へと帰還を試みる。

やはり旧校舎の簡易ベッドを片付けるべきではなかったと後悔しながらだ。

簡易ベッドでも場合によっちゃイッセーの部屋よりも寝心地がいい。

そりゃそうだ。邪魔されずに寝られるのだから。

 

……すきま風さえ我慢すれば。

ともかく、イッセーの部屋へと戻ろうとした矢先。

俺は部屋の窓からでも入れるため窓から直接入ろうとした……のだが。

そこに待っていたのは――

 

――イッセーを組み敷いている裸のグレモリー部長。

 

……なにこれ。どういう事なんだ?

俺の見た限りじゃそこまで関係進展しているようには見えなかったんだが。

それともこっちが先ってパターンか? そういうのも結構あるらしいし。

ともかくこれでは俺はどうすればいいんだ。

野宿か、野宿なのか! ……やったことあるけどさ。

 

いや、俺の宿もだがイッセーはどうした!?

 

――案の定、満更でもなさそうな雰囲気だが

それは奴に元々そう言う素養があったためだろう。

 

いや、これがある意味では健康的な男子高校生のあるべき姿……

……なのかもしれないがいやしかし。

 

俺はイッセーからは見えてしまうため、イッセーの死角から状況を観察することにした。

状況が状況だから、ヘタをしなくても出歯亀にしかならないのが頭の痛いところだが。

 

二人が行為に至ろうとしたその刹那、イッセーの部屋に魔法陣が浮かび上がる。

このタイミングで来るってのは……誰だ? オカ研の面子は誰も該当しない。

 

アーシアさんはさっき普通に家に入っていくのが見えた。違う。

一番可能性がありそうな姫島先輩も連絡にこうやってくるタイプ……には見えない。違う。

木場や塔城さん……理由や可能性、どれをとっても要素が見当たらない。違う。

となると……部長の実家の関係者と見るのが自然か。

 

案の定、俺の目に映ったのは見たことのない銀髪の美しいメイドさんだった。

タイプかも。と思いながら、俺は気づかれないように情報を調べる。

 

……ん? 今一瞬こっち振り返ったような?

まさか、ね。今俺は実体化してないんだ。見つかるわけがない。

 

とにかく、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)起動、と。

 

BOOT!! COMMON-LIBRARY!!

 

グレイフィア・ルキフグス。魔王サーゼクス・ルシファーの妻にして

女王(クイーン)」兼グレモリー家のメイド。その実力は――

 

「――盗み聞きとは感心致しかねます。

 いくらお嬢様の眷属といえど、場合によっては容赦いたしません」

 

「えっ!? ま、まさか……」

 

――やっぱり気づいてた!?

くっ、今までイッセー以外の生身には見られなかったからって、油断してた!

これは出なければ不利になるばかりだ。

 

仕方ない、記録再生大図鑑は起動したまま、俺はイッセーの部屋で実体化する。

 

「申し訳ありません。自分はリアス・グレモリーが眷属の兵士(ポーン)、歩藤誠二と申します。

 此度の盗み聞きの案件は、自分の独断によるものであり、主は一切関与しておりません。

 誠に申し訳ありませんでした」

 

「誠二様、ですね。そちらの眷属の方も初めまして。

 グレモリー家に仕える者でグレイフィアと申します。以後、お見知りおきを」

 

……どうやら、記録再生大図鑑の事までは今はバレてないみたいだ。

が、今チェックしてる余裕はなさそうだ。出力したデータは後でチェックするか。

 

それにしても、イッセーじゃないが綺麗な人だな。いや、悪魔か。

しかし俺が惚れる人は何故皆……

えっ? いや、まさかそんな……くっ、色々ありすぎて混乱したか。

 

――俺が既婚者に想いを寄せていた、なんて。ははっ、ありえん話だ。

 

気を取り直して、グレモリー家の関係者なら

ここ最近のグレモリー部長の異変の原因を知っているかもしれない。

思い切って、俺はグレイフィアさんに問い質す事にした。

 

「失礼ついでにお伺いしますが、一体何があってこのような?

 自分のお見受けする限りでも、主はこのような行為に出るお方ではありませんでした。

 こちらの眷属についても、好色ではありますが困惑している様子。

 我々は、主から一切の事情を伺っておりません」

 

「セージ、それは……」

 

グレモリー部長が話を遮ろうとするが、俺は聞こえないふりをしつつグレイフィアさんに尋ねる。

あの一件以来、グレモリー部長に対し反抗的とも取れる態度を取る事に一切の抵抗が無い。

自分の心に素直になっている、と言えば聞こえはいいんだが。

 

……俺、本当に眷属だよな? と、疑問を抱きつつも今は目の前の謎を解くため

グレイフィアさんへの質問を継続する。そもそも、俺の話は全部終わってない。

 

「そして事ここに至ってその事情は主のご実家……

 つまりグレモリー家の出来事と何らかの関わりがあると考えましたが

 それが何なのかは自分には分かりかねます。もしよろしければ、お教えいただけませんか?」

 

「……やはり、お嬢様はお話をされていませんでしたか。

 誠二様のおっしゃる通り、今グレモリー家は大事な式典を控えている真っ最中でございます。

 そしてそれはお嬢様にとっても大変重要なことでございます。詳しくは追って連絡を致します。

 あなたがたも眷属であるなら、式典には出席していただく必要がございますので」

 

こっちにとっては好都合だが、肩を竦めながらも意外にあっさりと

グレイフィアさんは俺の疑問に答えてくれた。グレモリー部長がひた隠しにしてきた案件だけに

緘口令が敷かれている危険性もあったが、そっちに関しては杞憂だった。

なるほど、式典か。確かに相当大掛かりなイベントだが……腑に落ちない点が一つある。

 

何故そんな、しかも俺たちに出席の義務があるような大事なことを

グレモリー部長は黙っていたんだ? どう考えても何かあるな。

サプライズパーティーって空気じゃない。何やらまたキナ臭くなってきた。

 

グレイフィアさんから服を受け取り、身なりを整えたグレモリー部長は

観念したような表情でグレイフィアさんに着いて行く。

 

「ごめんなさい、イッセー。さっきのは無かったことにしてちょうだい。

 私も冷静ではなかったわ。セージも心配をかけてしまったわね。

 今日のことはみんな忘れましょう」

 

「……事情は全て把握しておりませんが、御意」

 

あ、何かよくわからんがイッセーが凄い落ち込んでる。ま、まあ心中察するが……。

俺も多分、同じような状況に万が一なったら、お前と同じリアクションすると思うんだ。多分。

そしてグレイフィアさんは、イッセーという名前に反応している。

まあ、実家の関係者なら眷属の事を話していても不思議じゃないが。

 

「イッセー……するとこの方が赤龍帝、龍の帝王に憑かれた者ですか。

 となると、誠二様はさしずめ偽りの……いえ『影の赤龍帝』でしょうか」

 

「そう。『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の持ち主、兵藤一誠に『龍帝の義肢(イミテーション・ギア)』と『記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)』の持ち主

 歩藤誠二。二人とも私の『兵士(ポーン)』よ。それじゃグレイフィア、話は私の根城で聞くわ。

 朱乃も同伴でいいわよね?」

 

グレモリー部長の問いかけに、グレイフィアさんが頷き返すと部長はおもむろにイッセーに近づき

その頬にキスをした。

 

――それで手打ちって事か。まー、その、なんだ。泣くな、イッセー。

 

「今夜はこれで許してちょうだい。明日また、部室で会いましょう。セージもね」

 

それだけ言い終えて、グレモリー部長はグレイフィアさんと魔法陣で実家に帰還したようだ。

今はただ、呆然としたイッセーだけが取り残されている。

 

「……ま、まあなんだ。今日は俺は野宿にするよ。邪魔したな」

「あ、ああ。おやすみ」

 

今はイッセーはそっとしておいたほうがいいだろうと思い、俺もイッセーの部屋を後にする。

その後、見計らったかのようにアーシアさんがイッセーの部屋に入ったらしい。

 

――――

 

……今日は故あって野宿だ。イッセーに憑依して夜を過ごそうかと思ったが

何やら取り込んでいたので、諦めて外に出たのだ。

やはり、旧校舎の教室に置いておいた簡易ベッド、片付けるんじゃなかった。

 

とりあえず俺は公園でベンチに腰掛けている。

もう日付も変わるか変わらないかという時間帯なため、いるのは浮浪者かアベック位だ。

これがイッセーやそのダチだったら

 

「リア充爆死しろ!」

 

と言わんばかりに物騒なことをしでかすんだろうが、俺はそういうのには興味がない。

だが――寒いし、暇だ。ベンチで寝るのも何だか惨めな気がしてならない。

が、他に泊まる宛はない。以前、虹川さんがいる屋敷を開放してもらったが

あれは非常事態だからやってもらったに過ぎない。

今はそれほど緊急性がないため、それを言うわけにも行かない。

そもそも、それでは立場が逆だ。

 

さてどうしたもんか。最近は防犯上公園にもゴミ箱というものが無いため

ゴミ箱の中身を観察する暇つぶしもできやしない。

新聞とか入ってたらそれだけで暇つぶせるのに。

 

ふと、芝生の方に目をやると一匹の黒猫がいた。ついさっき霊体の状態で気づかれた上に

今も霊体の状態だが、少し警戒してしまう。まあ、黒猫相手に何ビビってんだって話だが。

 

とりあえず動く素振りを見せないため、刺激しないように近づく。

少しずつ近づくが、黒猫は動かずじっとしている。

 

怪我をしているわけでもなさそうだが、飼い猫って風にも見えない。

そもそも、飼い猫なら基本首輪をしている。だが目の前の黒猫には首輪がない。

片耳がカットされた様子もない。純然たるノラのくせに、人慣れしてるのか?

辺りに空き容器の類が見つからない為、誰かが餌付けしているわけでもなさそうだ。

 

暇なので、俺はこの黒猫を観察することにした。顔つきから見てメスか。

年の程は……子猫じゃあないが、老猫って風にも見えないな。

かなり黒猫に近づいたため、試しに実体化して、人差し指を顔の前に持ってきてみる。

すると黒猫は、おもむろに俺の指の匂いを嗅いでいる。まあ、猫の習性上そうなるわな。

 

……あれ? 俺、なんでこんなに猫に詳しいんだ?

これも俺の……と言うか、宮本の記憶か? 宮本は猫を飼っているのか? イッセーに聞いてみるか。

などと考えていると、黒猫は俺の足元にしっぽを立てて擦り寄ってくる。

 

「……悪ぃが、飯は持ってないぞ。と言うか、いきなり現れたのにビビらないのな」

 

頭を、特に耳の後ろを撫でながら独り言のように黒猫に話しかける。

黒猫は理解しているのかしてないのかただニャアと鳴くだけだ。

一しきり俺の足元を擦り寄った後、黒猫はどこかに行ってしまう。

飯がもらえないのがわかったのかな。

 

……少し癒されたところで、いい寝床はないか考えをまとめていると

ふとフラフラと歩いている浮浪者が見える。

いや、酔っぱらいか? 全く、こんな時間に大声出すんじゃ――

 

違う。その酔っぱらいはあからさまに動きがおかしい。酩酊状態の動きにしては変だ。

おまけに似たようなのが何人もいる。身なりからして浮浪者っぽくも見えるが……

関わり合いにはなりたくないとも思ったが、覚束ない足取りでどこへ行くでもなく

ふらふらと歩く浮浪者に嫌なものを感じた俺は、いつでも飛び出せるように構えていた。

 

これがはぐれ悪魔だった場合、可及的速やかに倒さねばならない。

人間を襲って事件になった後では遅いのだ。確認をとろうにも今は部長も姫島先輩もいない。

 

ならば援軍を呼ぼう。そう思ったがイッセーもあの後で呼ぶのは憚られる。

木場や塔城さん……は連絡先を知らない。

 

ああ、なんてこった。結局俺一人でこの怪しい集団を相手にするのか。

何だかんだで一人で戦うことが多い気がするが……気にしたらダメだろう。多分。

覚悟を決め、俺はそのはぐれ悪魔と思しき酔っ払いの一人に声をかける。

 

「……もし。おっさん、大丈夫か?」

「ううう……ああ……?」

 

振り向いたその酔っぱらいの顔は……血に塗れていた。目も焦点があっていない。

思わず俺は飛び退いたが、それを合図に奥にいた集団が一斉にこちらを向く。

その動きは散漫だが、背筋に嫌な汗が流れるのを感じた。

とにかく、相手のデータをチェックだ。記録再生大図鑑、起動!

 

BOOT!! COMMON-LIBRARY!!

 

ゾンビ。個体名は……やはりどれも読めない。ウィルス性のものではなく、魔術性のものである。

何者かの魔力により心に闇を抱えた者達が生ける屍となった姿。

人間としての理性が無いため、力は通常の人間を遥かに凌駕する。

全ての生物に対し攻撃を行うが、主に視認しやすい人間を狙う。

 

はぐれ悪魔やはぐれ悪魔祓いの猟奇殺人の被害者ってわけじゃ無さそうだが……

これを放置した場合を考えれば、答えは一つ。速やかな排除。

援軍は期待できない。あまりいないとは思うが、通行人に見つかるのも避けたい。

 

弱点は……見るべきかもしれないが、下手に時間をかけて騒ぎになるのはマズい。

ここは……一気に仕掛けよう!

 

SOLID-LIGHT SWORD!!

 

クソ神父――フリード・セルゼンが使っていた光剣。それを記録し、ここに再現させた。

これが俺自身の神器、記録再生大図鑑の能力。

ゾンビみたいなの相手ならこの光剣は効くだろう、多分。

 

「おっさんに恨みはないが、成仏してくれ!」

 

やはりと言うかなんと言うか、動きは散漫であった。

少なくとも、クソ神父やクソ堕天使の相手をした後では申し訳ないが

ザコ認定されてもおかしくないレベルである。

 

ただ組み付こうと腕を伸ばしてくるが、その挙動の一つ一つが丸分かり。

光剣で腕を跳ね飛ばし、止めとばかりに頭めがけて光剣を突き刺す。

そのまま光剣はゾンビの頭を吹き飛ばし、頭を失ったゾンビは呆気なく地に伏した。

 

――ォォォォアアアァァァァ……

 

ああ、まだいるんだった。ならば次の手札はこれだ。

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

加速。その必要は無い位に相手の動きは鈍いが、早く片付けるに越したことは無い。

騎士(ナイト)」のスピードで光剣を振るう。一体たりとも討ちもらさない。

程なくして、ゾンビの群れを殲滅することには成功した。

呆気ないが、案外そんなものかもしれない。

 

一息つき、光剣をしまおうとしたその矢先、背後に気配を感じる。

振り返るとそこにいたのは――

 

――ゥゥゥァァアアアアァァ……

 

しまった!? 撃ち漏らしがあったのか!?

目の前に突然現れたゾンビに対応しきれず、俺の眼前にはゾンビの血塗れの手が伸びる。

ゾンビの手は、俺を確かに掴もうとしていた。

 

……が、そのままそのゾンビは前のめりに崩れ落ちる。そしてそのまま、他のゾンビと同様

ただの死体へと変貌していた。

 

「……セージ先輩、油断はダメ、です」

「……えっ?」

 

そのゾンビの影から現れたのは――塔城さんだった。

 

「あ、ありがとう。助かったよ」

 

「……しっかりしてください。

 堕天使も倒した先輩が、こんなのに負けたら笑い話にもなりません」

 

ご尤もだ。返す言葉も無い。相手が弱いからと慢心があったのだろうな。

たいして強くも無いくせに慢心とは。よくない傾向だ。反省しないとな……。

 

……って、それはいいとして。それ以前の根源的な疑問がある。

先刻グレイフィアさんに問い質した時よりはいくらか気楽に、俺はその疑問を口にする。

 

「それより、塔城さんは何故ここに?

 いくら悪魔だと言っても、こんな時間に女の子が一人で歩くのは俺としちゃ感心しかねるが」

 

「……黒猫、見ませんでしたか?」

 

黒猫? 塔城さん、猫飼ってるのか? いくら名前が小猫だからって、そんなまんまな事態が――

うん? 黒猫っていやあ、さっきまで……

 

「いたけど、あれ多分ノラじゃないかな。首輪も、避妊手術もしてなかったみたいだし。

 ノラの黒猫なら見たけど、それがどうかしたの?」

 

「……その猫、どこにいますか?」

 

うん? こんな時間に塔城さん、ノラの黒猫と遊ぶつもりだったのか? むぅ、わからない子だな。

しかし、俺もその黒猫がどこに行ったのかはわからない。

 

「いや……さっきまでいたんだけど。

 今このゾンビの相手する前に、どこか行っちゃったみたいだ」

 

「……そうですか。セージ先輩から猫の匂いがしたから、もしかしてと思ったんですけど」

 

え? よくわかるな。俺はそれほど猫とじゃれてないから、そんなに猫臭くないはずなんだが。

しかし、よほどその黒猫が大事と見えるな。よし、また暇なときに探してみるか。

俺はこういう時自由が効くし、猫と遊ぶのは何だかんだ、嫌いじゃない。

 

「わかった。また見かけたら教えるよ。

 ただ、俺もその特徴をはっきり認識してないから猫違いをするかもしれないが」

 

「……ありがとうございます。それじゃ、私はこれで」

 

俺が礼を言い終えると、塔城さんはそそくさと帰ろうとしていた。

ちょっと待て。帰るのはいいんだが、こんな時間に女の子一人で帰らせるのは

俺のプライドに関わる。ここは送っていく以外の選択肢があるのか? いや、ない。

 

「待て待て待て。こんな時間に女の子を一人で帰らせるのは俺の主義に反する。

 家の場所は知らないが、近くまでは送っていくよ」

 

「……送り狼」

 

おい。それは寧ろイッセーのほうだろうが! まあ下心が無いといえば嘘になるが

それはただ単に俺が暇だからだ! 決してやましい目的があるわけじゃない!

まあ、暇つぶしもある意味やましい目的かもしれない。

しかし自分で突っ込んでおいてなんだが、もっとマシな突っ込み方は無かったのかと

後になってから思った。

 

「……冗談です。でも、ありがとうございます。変なのが来ても、撃退できますけど」

 

「そういう問題じゃないでしょ。撃退できても、狙われるというのは

 いい気はしないと思うんだ。まあ、俺はお飾りでも忌避剤にはなると思うよ」

 

そんなわけで、俺は塔城さんを家の近くまで送っていくことにした。

それほど遠くない場所だったので、やはり近所の黒猫と遊ぶつもりだったのだろうか……

……こんな時間に?

 

ただ歩くのも空気が詰まるので、思い切ってさっき仕入れたばかりの情報を振ってみる。

グレモリー部長の実家のキナ臭い動きだ。塔城さんの意見を聞きたい、というのもある。

それ位、あの案件は怪しいのだ。

 

「そういえば、グレモリー部長のご実家の方で何やら動きがあるらしい。

 さっき実家の人が来ていた。塔城さん、何でもいいから知ってることはある?」

 

「……そうですか。私も噂で聞いただけですけど、近々部長は結婚されるそうです」

 

――あ、つながった。式典ってのは結婚式。

それくらい大きなものになれば俺ら眷属にも出席の義務が生じる。

そして今までグレモリー部長の動きが不審だったのはそれに対する悩み。

しかしそれはマリッジブルーによるものではない。

マリッジブルーなら、イッセーを押し倒したりしない。

おそらく部長は、この結婚には異議を唱えているが、それが黙殺された――と、見るべきか。

 

だが……これ、俺らがどうこうできる問題じゃないな。まいったな。

グレモリー部長からまだ聞いてないことは山ほどあったんだが

結婚が成立すればそれも聞けなくなるか。

 

……こうなりゃ、多少無理やりにでも聞き出すべきか。

強硬的な手段を考えていた矢先、塔城さんがさらに言葉を紡ぐ。

言葉少なな彼女にしちゃ珍しい。

 

「……でも、部長がいなくなるのは、嫌です。

 セージ先輩にはあまりいい印象は無いかもしれませんが、私には……」

 

「ストップ。皆まで言わなくていいって。それに婚姻はともかく、学校……いやオカ研から

 グレモリー部長がいなくなるってのはまた話が違うと思うぞ」

 

ふむ。意外と塔城さんは寂しがり屋か?

先日の一件の時も、やたら俺たちがいなくなることを気にしていたし。

まあ、そのことについては今ああだこうだ言うものじゃないな。

などと考えている間に塔城さんの家の近くに着いた。

小奇麗なマンション風の大きな建物……って。

 

ここは、確か駒王学園の女子寮だったはずだ。

……ふと俺は気になったことがあったので、また塔城さんに質問してみることにした。

 

「塔城さん、ここの寮って空き部屋とかってあったっけ?」

 

「ありますけど……女子寮ですよ? まさか、セージ先輩……」

 

ああ、やっぱそっちに考えを持っていくよな。

確かに今俺は宿無しだが、だからって変な噂が立つような真似をするほどバカじゃないつもりだ。

そうでなくとも、イッセーと言う見習うべきではないバカがいるのだ。

同類に思われるのは、俺としても不本意だ。

 

「違う、違う。何を考えているのかは大体分かるけど、俺はイッセーじゃないんだから。

 いや、アーシアさんはどうしたのかな、と」

 

「……アーシア先輩、ですか。初めはここの寮に来る予定だったんですけど

 本人の希望でイッセー先輩の所に……」

 

はぁ、やっぱりか。アーシアさん、物凄い世間知らずだからなぁ。

そう考えればある意味一般家庭なイッセーの家はアリなんだろうが……むぅ。

一応納得できたような、できないような。

 

「……それじゃセージ先輩、ありがとうございます。おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

入っていく塔城さんを見送ったあと、俺は――野宿をするため、結局橋の下に潜ることにした。

なお、風邪を引いたのは言うまでもなかった。




……誰もこの黒猫が黒歌姉さんとは言ってない。
黒歌姉さんじゃないとも言ってないけど。

とりあえず小猫ちゃんは寮住まいって事にしてあります。
そう考えるとアーシアさんも寮住まいになるはずですが……
そこはまあ、リアスの口添えやら何やらあったと言うことで。
寮よりは一般家庭に近いイッセーの家にホームステイ……

あれ? 原作と変わらないや。
でも原作のアホみたいな大幅改築はやりすぎてドン引きなのが正直な感想。
真面目に考えても「宝くじ当たった」ってレベルを超過してる気がして。
そうなると「汚い金」って発想も出てきて……後は、ねぇ。

頭が固いとはよく言われます。

セージに何やら妙な二つ名が出来上がっているのは気のせい。

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