ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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……最早、ここで語る事もありません。
消化不良感も漂うかもしれませんが
同級生のゴースト、これにて閉幕です。

今回もあとがきは別のネタに使っているので、活動報告をもって
あとがきにかえさせていただきます。


Soul Final. 俺が人間であり続ける理由

俺は宮本成二。

かつてのクラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけたが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされた。

その事がきっかけで、俺は兵藤一誠共々悪魔にされ

あまつさえ俺は自分の身体から切り離されてしまった。

 

俺と兵藤を悪魔にした張本人、リアス・グレモリーから歩藤誠二の名を与えられるが

俺の身体は帰っては来なかった。俺は自分の身体を取り戻すために

ある時はリアス・グレモリーに従い、またある時は逆らいながら

多くの困難と闘い、出会いと別れを繰り返してきた。

 

一度は消滅の危機に瀕しながらも、次元の狭間で白金龍と呼ばれる

巨大なドラゴンから世界を通りすがる力、フリッケンを授かり窮地を脱した。

時を同じくして、ここ駒王町にクロスゲートと呼ばれる円形の建造物が出現。

そこから現れるアインストと言う謎の怪物。

それに合わせて蜂起したテロ集団、禍の団。

 

戦乱の渦に巻き込まれる駒王町の中で、俺達はクロスゲートを通じてやって来た

一人のシスターと出会い、別れ、それと同時に一人の悪魔とも出会った。

その悪魔の名はアモン。

かつての冥界の大戦において、勇者とも呼ばれる功績を残しながらも

裏切り者に身を窶したとされる、伝説の悪魔であった。

 

アモンの助力を得て、俺はついに自分の身体を取り戻す事に成功したが

これで全ての問題が解決したわけではない。

クロスゲート、禍の団、冥界を取り巻く思惑。

俺の問題は解決したが、駒王町と言う場所は

世界はまだまだ混乱の真っただ中にいるのだった――

 

――――

 

――駒王警察署。

 

ここで、俺は懐かしい……と言っても冥界で黒歌さんを助けてから

こっち、駒王町に戻って来た際に顔合わせをしていたから

実際にはそれほど経っていないのだが、何故だか懐かしい風に聞こえた。

 

――そう、そこのイケメンのお兄さんの言う通りだよ。

 

その声の主は、騒霊ガールズバンドをやっている虹川姉妹。

声のした方向に白音さんと黒歌さんが向くが、幽霊である彼女達の姿は

祐斗やアーシアさんには見えないらしく、きょろきょろと見まわしている。

俺はと言うと……

 

 

……見えない。声はすれども、姿は見えずと言う奴だ。

霊体であった頃ははっきりと見えていたのだが、肉体を取り戻したことで

彼女たちの姿は見えなくなってしまったのだ。

虹川姉妹の三女である莉理(りり)の声が聞こえるだけで、姿が見えないのだ。

 

「その声は……莉理か? ……すまない、どこにいるのか見えないんだ……」

 

「……そんな……!」

 

俺の声に、虹川姉妹の長女、瑠奈(るな)が悲しそうな声を上げるのが聞こえた。

声でしか察せないと言うのも、中々不便だな。

 

「姉さんは悲観的に物を見過ぎだって。

 それってつまりセージさんが幽霊じゃなくなったって事じゃない。

 そりゃあ、ちょっとは寂しいけどセージさんにとっては喜ぶべきことじゃない?

 ハッピーに考えようよ、ハッピーに」

 

芽留(める)、無理してないか? ちょっと躁気味のところがある虹川姉妹の次女だったが

こういう所で明るく振る舞われると却って堪えるんだが。

いや、気持ちは嬉しいんだけどさ。

 

「もともと俺は幽霊じゃないって……と言うか、俺の事情って話したか?」

 

ここで俺は単純な疑問にぶち当たった。虹川姉妹とは悪魔契約の上で接触はしたが

俺の身の上は伏せていた……ような気がしたからだ。

音楽活動に専念してほしいから、と言う理由で。

四女の(れい)が、悲しそうに、そして呆れたように答える。

 

「詳しい事は聞いてないわ。訳ありっぽいのは何となく察していたけれど。

 セージさん、言ってくれればよかったのに……」

 

「結果オーライだにゃん。それより、チンドン屋はどうしてここに来たのかにゃん?」

 

「だからチンドン屋言うな駄猫! そうそう、私達も一度ここを離れることになってね。

 そしたらセージが見えたから挨拶に来たって訳」

 

黒歌さんがチンドン屋とからかっている(?)ため

結果として声だけが響いて賑やかになっているが

俺の目にはさっきからメンバーが変わっていない。

虹川姉妹の姿は黒歌さんと、辛うじて白音さんには見えているみたいだが。

 

「……慰霊ライブも終わった事だし、これから私達は沢芽(ざわめ)市ってところに行くつもりなの。

 まあ、沢芽市に限らず色々なところを回るつもりだけどね。

 セージさんは、どうするんですか?」

 

瑠奈の言葉に、俺は声のする方向に向かって答える。が、その方向は壁だ。

傍から見たら壁と話している風にしか見えないだろう。

 

「……決めかねている。身体は戻ったが、具体的にどうすべきかってのはな」

 

「だったら、ライブ! 暫く私達もこっちには戻ってこないつもりだし

 ラストライブやろうよ、姉さん、莉理、玲!」

 

何故だか、ライブをやると言う話になってしまった。

芽留曰く、明日の夜駒王学園の運動場でやるつもりらしい。急だなおい。

とは言えやることも無いので、俺は虹川姉妹のライブを聞いていくことにした。

 

「本当に!? やった!」

 

「やっとナンバー0番がまともにライブに来てくれるね!」

 

「よーし、腕が鳴るわね! エア楽器だけど!」

 

「……頑張ります」

 

盛り上がる虹川姉妹をよそに、黒歌さんと白音さんがやや不機嫌そうだった。

虹川姉妹の様子がわからない祐斗とアーシアさんもきょとんとしている。

 

「……どうして白音さんと黒歌さんは不機嫌そうなんだい?」

 

「二人とも、そう言う低俗なスキャンダルで彼女たちの芸能生活の足引っ張るつもりは無いから」

 

虹川姉妹の側がどう思っているのかは終ぞわからなかったが

俺としてはそう言うやらしい意図で彼女達と関わっているつもりは無い。兵藤じゃないんだから。

と言うか、そういう意図で関わってないって、白音さんと黒歌さんにも言える事なんだけど。

そう言う意図、か……俺はいつまで姉さんの事を引きずってるつもりなんだろうな。

どこかで決着付けないといけないのに。

 

兎に角、ライブを聴きに行く約束を取り付けた後は解散の流れとなり

俺は白音さんと黒歌さんと共に家に帰ろうとしていた。

 

――――

 

「……二人とも、改めて言う事でもないけど。ありがとう」

 

「どうしたのにゃん、改まっちゃって」

 

「……ちょっと怖いです、セージ先輩」

 

帰路につく中、俺は改めて思ったことを口に出す。

率直な意見を言っただけなのに、二人して気持ち悪がられた。何故だ。

二人の応対にがくりとなりつつも、俺は気を取り直して二の句を告げる。

 

「いや、こういう事を言うとむーに怒られそうだけど

 二人のお陰で俺も母さんもペットロスにならずに済んでいるんじゃないかって気がするんだ。

 俺はともかく、こんなご時世だから母さんは……」

 

「お兄さんに一つ言っておくことがあるにゃん。

 猫は家につく、そんなもん迷信だにゃん。

 お兄さんはお兄さんだから、私達は着いてきてるにゃん。

 猫だって家族は大事にするものにゃん」

 

「……姉様が言った通りです。貸し借りはもう無いかもしれませんけど

 それでも、私達はセージ先輩の力になりたいんです。

 

 ……姉様を助けてくれたこの恩は、一生忘れませんから」

 

猫だって家族は大事にする。そりゃ二人を見ればわかる。

町がこんなだから、俺にとってみたら彼女たちの存在は非常にありがたい。

だからこそ、俺は彼女達に頼む。後顧の憂いを断ち切る意味合いも込めて。

 

「……だったら、頼みがある。俺もなんだけど、母さんも支えて欲しい」

 

「マザコン、じゃないと言う事にしておくにゃん。

 お兄さんのお母さんは私にとってもお母さんだからにゃん」

 

「……任せてください」

 

親族の保護には神仏同盟や超特捜課も名乗り出てくれているが

ここにこの二人も加わってくれることで盤石なものになってくれることだろう。

 

……猫の恩返し、か。その好意に甘えさせてもらうとしようかな。

 

――――

 

翌日、母さんと黒歌さんは仕事に。

俺と白音さんは学校に来ていた。

 

……ところが、そこで信じられない光景を目の当たりにしてしまった。

 

「悪魔でも神を信仰するんだ……へぇー」

 

「木場も、その顔は悪魔になったからそうなったのかい?

 だったら俺も悪魔になろうかなぁ?」

 

詰られているアーシアさんと祐斗だ。まさかとは思うが、悪魔だからという理由か!?

直接暴力を振るわれているわけではないが、空気が悪いのは何となくわかる。

 

「……何が言いたいんですか?」

 

「別にぃ? ただちょっと聖職者気取ってるくせに欲張りじゃないかなって。

 悪魔の恩恵をあやかりつつ、その上神頼みだなんて贅沢過ぎるとおもうんだよ、ねぇ?」

 

「そうそう、木場だって自分が悪魔だからって気取っちゃってさ。

 今までのすかした態度だって自分が悪魔だから、俺達とは違うからって

 そういう感情からきてたんじゃねぇの?」

 

「……っ! 僕はそう言うつもりは……!!」

 

明らかに、二人を挑発している。

二人が取り囲んでいる相手に対して暴力を振るう様は想像できないが

もし何らかの拍子でそういう事態に発展したとしたら……マズい事になる。

 

俺と白音さん示し合わせてその場に割って入ろうとした……が

 

「お前たち、何のまねだ!?」

 

「……っ、何よ転校生。出しゃばるんじゃないわよ」

 

「いいや出しゃばらせてもらう!

 お前たちのやっていることが良くないことだって位私にも分かる!

 二人とも、何を言われようとも気にするな」

 

ゼノヴィアさんも凄い剣幕でやって来ていたのだ。彼女の剣幕に押され空気が一変する。

しかし、悪態だけは変わらずついているようだ。

 

「……転校生も悪魔を庇い立てするのかよ。駒王番長と言い

 この学校が悪魔の学校だって噂、あながち嘘じゃないかもしれないな」

 

「行こうぜ、白けちまった。この学校には行ったのは失敗だったな。

 就職しようと思ったのに、こんな学校出身の奴なんてどこも採らねぇよな……」

 

「ホント。制服が可愛いからって入ったらこんな学校だったなんてね」

 

俺にも飛び火したが、そんなことはどうでもいい。

この学校の評価もがた落ちだな……俺には割とどうでも……よくねぇや。

進路、大丈夫なんだろうなこれ?

そんな事よりも、俺達は祐斗とアーシアさんに改めて駆け寄る。

怪我が無ければいいんだが。

 

「助かった、ゼノヴィアさん。それと二人とも、怪我は無いか?」

 

「僕は大丈夫だよ。アーシアさんは大丈夫かい?」

 

「……ええ、私は大丈夫です」

 

気丈に振る舞うが、若干アーシアさんが震えているようにも見えた。

まぁ、無理もない気はするが……

 

「……なんて奴らだ! 自分がアーシアたちに助けられたと言うのに!」

 

そう。祐斗もアーシアさんも、ここを守るために戦っていたのだ。

アーシアさんやゼノヴィアさんはディオドラとの戦いに集中していたようだが

それでもこの町を守るために戦っていたことに変わりはない。

それ故に、ゼノヴィアさんの怒りが爆発したのだろう。

しかし、アーシアさんの意見は違ったみたいだ。

 

「待ってください。皆さんも苦しんでいるんです、この現状に。

 怒りのやり場がわからないから、こうした行いに出てしまうのだと思うんです。

 ですから……」

 

「だから耐えろと言うのか!? 前から思っていたがアーシア、君は甘すぎる!

 あれは君が悪魔だと知っている者のしわざだ!

 下手をすれば殺されていたかもしれないんだぞ!?」

 

「……ですが……」

 

ゼノヴィアさんの言う事も尤もだ。アーシアさんはこんな目に遭っても

それを仕向けた輩を許すと言うのだからその博愛精神ぶりには頭が下がる思いだ。

俺にはとてもじゃないが真似できない。

が、真似をしなかったからこそこうして身体を取り戻せた節もあるのかもしれないが。

 

「言い争っていても仕方がないよ。とにかく教室に行こう」

 

「……それじゃ皆さん、また後で……」

 

「ああ、後で」

 

白音さんと別れて、俺達は教室に向かう事にした。

白音さんもあんな目に遭ってやいないだろうか? そう考えると心配である。

しかし、フューラー演説でこの学校のヒエラルキーは大きく変わってしまったな。

学校のアイドルだったものが、あっという間に虐げられる側に回っている。

 

ただ、変わらないのは兵藤だが。奴は今までの行いに加え逮捕歴が加わった事で

とうとう学校も庇いきれなくなったのか無期限の停学処分となった。

遅すぎる気もするんだがな。これについて松田と元浜も掌を返したように

 

「とうとうあいつやりやがったか」

 

「いつかやるんじゃないかと思ってたぜ」

 

などとのたまっている。調子のいい奴らめ。

 

……ここに来て、俺は一つの不安要素が芽生えてきたのだ。

それは、この学校に限ったことでは無いが

あまりにも人々の精神が荒んでいるのではないかと言う事。

松田と元浜が、仮に神器ないしそれに近い力を得たとしたら

この町にいる悪魔に意趣返しをするのではなかろうか?

そうなった場合、俺はこの二人を止めるべきなのだろう。

超特捜課の特別課員として、不当な暴力が振るわれるのは避けなければならない。

 

まあ、この二人はまだいい方である。祐斗やアーシアさんには手を出していない。

一応、助けてもらった事についてはきちんと分けて考えてくれているようだ。

それがせめてもの救いである、が……片瀬と村山の態度がおかしい気がする。

 

明らかに、以前よりアーシアさんを避けているし、祐斗も避け気味だ。

あの二人もフューラー演説を鵜呑みにした口なのだろうか。

話を聞きたいところだが、さっきの様子では

俺もグレモリー先輩を庇い立てしたことが裏目に出たらしく

俺も悪魔の仲間ではないかと噂されているらしい。

……あながち間違いではないのがなんとも、だが。

 

そんな俺が二人の話を聞きに行くと言うのも難しいものがある。

……こうして見えない壁がどんどん出来ていくのか。

厄介なことをしてくれたな、フューラー!

 

――――

 

「……災難だったな、ほらよ」

 

昼休み。俺はメンタルケアも兼ねてアーシアさんと祐斗を外に連れ出す事にした。

俺は焼きそばパンを二人に渡しながら、話を聞く。

今の俺に出来るのは、これ位だろう。

 

「セージさん、人間って……何なんでしょうね」

 

アーシアさんの口から飛び出したのは、とんでもない言葉だった。

やはり、今朝の事は堪えていたのだろう。だが、俺もその問いに対する答えは持ってない。

 

「横から失礼。それは僕にもわからないし、多分セージ君にも分からないんじゃないかな。

 ゼノヴィアさんとかが居れば、また話は変わってくるかもしれないけれど」

 

「呼んだか?」

 

やって来たゼノヴィアさんと白音さんを迎えつつ、俺達は対話を続けていた。

二人は来る途中で昼食のパンを買って来たらしく、昼食の心配は無かった。

ただ白音さんは焼きそばパンでは足りなかったらしく、カツサンドを食べているが。

 

……そう言えば、エンゲル係数が跳ね上がったって母さんが言ってた気がする……

 

「……ギャー君、今日も来てませんでした」

 

「そうか……そっちも折角いい方向に進んでいると思ったんだけどな」

 

白音さんはギャスパーと同じクラスだったらしく

学校が再開しても来ないギャスパーを心配しているようだった。

聞けば、ギャスパーもまた今朝の祐斗やアーシアさん、いつぞやのグレモリー先輩みたいに

虐めに遭ったそうだ。そしてメンタルが弱いであろう彼の事だ。

また引きこもってしまったのだろう。人間(奴は人間じゃないが)誰しも楽な方に行きたがる。

俺も例外じゃない。だからその様子がありありと想像できてしまう。

 

「だらしないな、そんなんだから付け入る隙を与えてしまうんだ」

 

「その意見には一理あるけど、立ち直ろうとした矢先にやられたのは

 やはりかなりのダメージだと思うよ」

 

祐斗がゼノヴィアさんの体育会系じみた意見に一定の理解を示しつつも自分の見解を述べている。

祐斗の言う通り、治りかけをやられたのはギャスパーにとって不幸な事故になっただろう。

それだけでも、フューラー演説の効果は計り知れない。

悪魔がしでかした事、ドラゴン――害獣がしでかした事。

そして、それらに連なるものが近くにいる、それだけで人々は恐怖に慄いてしまう。

考えてみれば当たり前なのだが、いざ実際に目の当たりにするとやるせなさを覚えてしまう。

 

「話を戻すけど人間……か。人間を捨てた僕にはちょっと答えられないな。

 セージ君、ゼノヴィアさん、君たちはどう思うんだい?」

 

「決まっている……と胸を張っては言えないな。

 いや、私のやる事に変わりは無いんだが……その、な。

 『人間とは何か』と言う哲学的な事まで私は考えたことが無かったからな……」

 

ゼノヴィアさんは結局素直に「分からない」と答えたようだ。

人間とは何か、か。アーシアさんも随分壮大な事で悩んでいるな。

これは参った、俺も答えに窮するぞ。

 

「ゼノヴィアさん、セージ君。二人ともまだ人間だ。

 僕達は既に悪魔になってしまっている。だからこそ、君達には人間であることを――

 人間としての道を大事にして欲しいんだ」

 

達観したような物言いをする祐斗の意見がふと気になったので

俺は失礼だとは思いつつも敢えて逆に聞いてみることにした。

 

「無礼を承知で逆に聞くが祐斗、お前は悪魔になったことを後悔しているのか?」

 

「……どうなんだろうね。ここまで来たら一蓮托生だとは思っているよ。

 色々と言われている部長だけど、僕を助けてくれたのも事実だからね。

 白音さんみたいに手術をしてまで悪魔をやめるつもりは無いかな。

 いや、白音さんには白音さんの事情があるのは知ってるから

 それを悪いと言うつもりは毛頭ないよ?」

 

「それに、部長さん自身が誰かのいいように使われていると思うんです。

 私達は、ギャスパー君や朱乃さんとも協力しながら

 何とかして部長さんも救ってあげようと思ってます」

 

グレモリー先輩がいいように使われている、か。確かにそう取れる節はあるな。

それをやっているのは実の兄とその同僚だって言うんだから酷い話だ。

そんな事が罷り通るから俺は悪魔に見切りをつけたって部分もあるが。

 

「こんな事を言うと欲張りに思われるかもしれませんけど……

 私はこの町の人達も、部長さんも両方助けたいと思ってます。

 イッセーさんには自分のやった事を理解してもらう必要があると思いますけど……

 それでも、私は私の助けられる人は、みんな助けたいんです。

 

 ……わがまま、でしょうか?」

 

「そんなことは無いと思うぞ。これは慧介の受け売りでなく私の意見だが

 人間と言うのは欲が深いものだと思っている。だから悪魔の誘惑に乗ってしまうが

 それだけが全てじゃない。欲望と向き合うことが出来るものは

 皆、人間である証拠だと思う。そう言う意味ではアーシア。

 君は間違いなく人間であるかもしれないな」

 

ゼノヴィアさん。何だかんだで考えているじゃないか。

アーシアさんも納得したかのように、大きく頷いていた。

 

「私も悪魔ですけど……でも人間を助けられる。

 そんな悪魔になりたい、私はそう思ってます。

 たとえ……人間の皆さんから嫌われたとしても、私は私のやりたいようにやるだけです。

 自分のやりたいようにやる……それはあの時、主に誓った事でもありますから」

 

「……アーシア! 私は感激した! 私は君の友であることを改めて嬉しく思う!

 ならば、私はアーシアの剣となろう! だからアーシアは心置きなく自分の道を進んでくれ!」

 

感激したゼノヴィアさんがアーシアの手を取って上下に振っている。

アーシアさんも苦笑しながらゼノヴィアさんの意見を受け入れているみたいだ。

けれど、正直に言ってアーシアさんは凄いと思う。

普通、自分を虐めた相手を救いたいなどとは思わないだろう。それが人間の限界かもしれない。

その限界を、アーシアさんは超えている。悪魔だからって、そう言う理由ではないだろう。

アーシアさんの生来の性格がそうさせているのだろう。

 

祐斗とアーシアさんの決意が聞けたと同時にチャイムが鳴ったので

俺達は教室に戻ることにした。

 

――――

 

授業も終え、一度家に帰宅した後の夜、駒王学園運動場。

ここで虹川姉妹のラストライブが行われると言うので

俺は白音さんと黒歌さんを連れてやって来たのだ。

 

そこには、アーシアさんと祐斗も来ていた。

ゼノヴィアさんは、慧介さんに止められて不参加みたいだが。

 

「結構一杯漂ってるにゃん。あのチンドン屋、なかなかやるにゃん」

 

「あ、セージだ! こうして見ると、あの時を思い出すわね!」

 

莉理の声がする。白音さんが声のした方角に向いてくれているので

そっちの方角を見ながら俺は話しかける。

 

「約束だものな。久々に堪能させてもらうとするか」

 

「あの時とはメンバーが変わっちゃったけれど、前もこうして来てたよね」

 

祐斗や芽留が言っているのは、まだ俺が悪魔だったころの話だ。

ライブの手伝いが、いつの間にかインベス退治になってしまっていたが。

あの頃とは、確かにメンバーが変わってしまっている。

けれど、それは仕方のない事と思う事にしている。

 

「……さ。これが泣いても笑ってもラストライブ。セージには世話になったからね」

 

「セージさん、他のみんなもいっぱい楽しんでいってね!」

 

「一生懸命歌うから……」

 

「……最後まで、聴いていってくださいね」

 

それから、俺達はひとりでに飛び回る楽器を見ながら

何処からか奏でられる音楽に酔いしれるのだった……

 

――騒霊演奏中...

 

「……セージ、霊感鍛える事って出来ないの?」

 

「筋肉みたいに言うな、そんな方法俺は知ら……いやちょっと待て。

 黒歌さん、たしか気の流れを読む応用で霊体の俺が見えたりしたんだよな?」

 

突発のゲリラライブにして駒王町での虹川姉妹のラストライブ。

それは大盛況の中終わり、俺達は楽屋とも言うべき場所にいた。

そこで莉理から提案されたのは俺の霊感の強化。

 

……その発想は無かった。

が、黒歌さんや白音さんは気の流れで霊を見ているらしいので

そう言う事が俺にもできないかと思い、専門家の黒歌さんに聞いてみることにした。

 

「ん? そうだにゃん。でも触れないけどにゃん」

 

「十分。俺にもその方法、教えてもらっていいか?」

 

……霊感は鍛えられなくても、気の使い方はもしかしたら。

そして、その応用で彼女たちの姿を見ることが出来るようになれば。

 

彼女たちの不安を、少しは取り除いてやれるかもしれない。

 

「チンドン屋のためってのが気に入らないけど……

 お兄さんの頼みだし、無碍には出来ないにゃん」

 

「……ありがとう!」

 

「セージ先輩。姉様の修行は厳しいですよ?」

 

白音さんの言葉にも、俺は怖気づくことなく答えた。

何だかんだで、俺は霊体でいた時間が長かった。

その間に、様々な幽霊と対話したこともある。

そんな彼らに対し、まともに別れの挨拶をしないままと言うのはやはり良くない。

それに、悪魔はやめたが虹川姉妹のプロデューサー契約はまだ生きているみたいだ。

その為にも、俺は肉体を持ちながらも霊体を見ることが出来るようになる必要があるのだろう。

 

『……けっ。めんどくさい奴だな』

 

『同意はしてやる。自分が狙われているって事、忘れるなよ。セージ』

 

……アモンとフリッケンから釘を刺されつつも。

 

――――

 

駒王町。人と魔が住まう町。

こんな町は、何もここに限った話でないことを俺は思い知らされた。

一つは、バオクゥが向かった珠閒瑠(すまる)市。バオクゥが向かったって事は

そこには悪魔に連なる要素がある事を意味している。

 

もう一つは、虹川姉妹が向かったと言う沢芽市。

何故彼女達がここに向かったのかはわからないが、騒霊バンドをそこでやると言う事は

そこもまた、霊的なものを寄せ付ける何かがあるのだろう。

 

人と魔、神は俺が思っていた以上に密接な関係にあったのかもしれない。

その好例がオカルト研究部であり、神仏同盟であり、超特捜課である。

それらと密接に関わり、人間としての在り方さえも根幹から揺るがされながらも

俺は、俺として……人間として、そんな彼らと関わっていきたい。

 

人間とは何か。その答えは未だ俺の中には確固たるものが出来上がっていないが

人として成すべきこと、成してはならぬことの区別だけはついているつもりだ。

ただ、俺のできること、やるべきことを……

 

 

「…………俺は」

 

 

……一つずつ片付けて、少しでも俺の力がこの町の、人間の、世界の自由と平和のために

役立てることを信じて。

 

 

「俺は人間として戦う。悪魔でも、得体のしれない怪物でも無く。

 それが人間では無いと言われてしまっても、心は、魂は人間であり続けてやる。

 俺の、俺達の平和な時間を取り返すためにも――

 

 来るなら来い! 俺は、これからも戦い続ける!!」

 

 

左手の俺の神器(セイクリッド・ギア)記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を掲げながら

俺は空に向かって叫ぶ。

 

これから俺が戦うべき相手は計り知れない存在ばかりだ。

だが、それでも俺は進み続ける。

それが力を正しく使う事に繋がるのならば。

 

だが、力を持つ者の義務だからじゃない。俺は大事なもののためにこの力を使う。

それは間違っても一人の悪魔のためじゃない。俺が守りたいと思ったもの全てのために使う。

 

身体を取り戻したことで、俺の目的は達成された。

だがそれは、俺の物語が終わった事と同義ではない。

俺の物語はこれからも、戦いが終わった後も続くのだから。

 

寧ろ、戦いが終わった後が本番だろう。

その為に、俺は今を生きる。

過去と向き合い、未来のために、今を生きる。

それこそが……

 

 

……俺が、人間であり続ける理由だ。




――世界を取り巻く戦いも、セージの戦いも、まだ終わってはいなかった。

「時は……満ちた……
 今こそ……静寂なる……世界を……」

活動を再開するクロスゲート。

「バカな……俺達は……英雄じゃ……」

「その聖槍は私のものだ。盗んだ物で英雄を気取るとは
 悪いJunge(少年)だ。いい大人になれんぞぉ?」

聖槍を巡りその本性を現すフューラー・アドルフ。

「唯一不変のもの……それこそが……我々の……」

「そうか……そう言う事か……老いたな、ゼクラムも。時すでに遅いと言うわけか」

冥界で蠢く陰謀。

「借りを返しに来たぜぇ……セージぃぃぃぃぃぃ!!」

白金龍(プラチナム・ドラゴン)の力がそうさせるのか、セージに襲い来る龍の神器を持つ者達。


「まさか、北欧神話(ワシら)の世界樹の名を冠する人間の企業があるとはのう」

「死んで正解だぜ……こんな世の中じゃな……」


戦いの舞台は、駒王町を、冥界を超えて――



「うふふ……あはははははっ!
 念願の再会よセーちゃん、もっと喜びなさいな?」


悪意は、なおも振りまかれる。


ハイスクールD×D 同級生のゴースト 第二期
ハイスクールD×D 学級崩壊のデビルマン


近日公開予定


――これが、これが俺が身を捨てて守ろうとしたものの正体か……!?

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