ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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今回は所変わって冥界のターン。
Sheolはヘブライ語で冥界、だそうです。


Sheol's expectation.

――冥界首都・リリス。

 

ここに存在する魔王城の一室に、兵藤一誠の遺体は安置されている。

その部屋の前で、言い争う声が響いていた――

 

「……何度も言わせるな、サーゼクス。

 今の君の妹に、赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)を転生させることは不可能だ」

 

「ならば私がイッセー君を転生させ、リーアたんとトレードを行えば……」

 

「それこそ愚策だ。王の能力を超えた転生悪魔を強引に眷属にすれば

 言う事を聞かなくなるケースが散見されている。

 赤龍帝はそう言う反旗を翻す風には見えないが、そんなケースも実際あったろう?」

 

サーゼクスとアジュカ。二人の魔王が、兵藤一誠の遺体を前に言い争っていた。

内容は、兵藤一誠の処遇についてである。

既に死んでいるイッセーであるが、彼らにしてみれば復活を前提として話を進めているため

生きていようが、死んでいようがどちらでもよかったのだ。

 

「あれこそイレギュラーだ。しかもアモンまで味方に付く始末。

 場合によっては、アインストや禍の団(カオス・ブリゲート)よりも先に

 始末しなければならないかもしれない相手だぞ」

 

「……確かにな。アモンの復活と言う情報が流れた際には

 『また戦争が起きるのか』とか『勇者アモンって架空の存在じゃなかったのか』と言った意見が

 世間を圧巻してちょっとした騒ぎになったからな」

 

「で、その情報をばらまいたのがリー・バーチ……またこいつか」

 

「バオクゥと言う悪魔もこの件には関わっているみたいだ。

 これは手を打たねばならないかもしれないな」

 

アモンの情報については意見を同じくするサーゼクスとアジュカ。

しかし、一変して赤龍帝の扱いになるとその意見は分かれてしまっていた。

 

「そのためにも赤龍帝の力を我々で制御し、危険因子たるアモンを再び……」

 

「いや、赤龍帝はリーアたんのものだ! 本人もそう言っている!

 だから、なんとしてもリーアたんに転生を行ってもらう!」

 

傍から見れば低次元な言い争いだが、本質は危険なものであった。

ここには兵藤一誠どころかリアス・グレモリーの意思でさえ一切介在せず

この二人だけで話が進められている点において。

 

「……ならば、いつぞや使った『アレ』を使えば手っ取り早いと思うが」

 

「あの失敗作はダメだ。またリーアたんが暴走してしまう。

 大体、『(キング)の駒』はお前自身が危険だと封印したんじゃなかったのか?」

 

「そうだ。だから、暴走の危険のないお飾りの『王の駒』を作ろうとしたが

 さすがは君の妹、ポテンシャルだけは高いから結果として……」

 

「だけとはどういう意味だ! あの時も言ったがリーアたんに謝れ!」

 

アジュカは半ば呆れながらも、サーゼクスのヒステリーに暫し付き合っていた。

 

(だが、何とかして赤龍帝の復活をさせなければならないのは事実だな。

 要は彼女が強くなればいいわけだが……さて、どんな方法を使えば

 目の前のシスコン魔王は納得してくれるかな……)

 

――――

 

――グレモリー家。

 

かつては栄華を誇っていたかもしれない豪邸だったかもしれないが

いまはしんと静まり返った幽霊屋敷のような佇まいを残している。

多くいた使用人たちも、今ではそんな使用人を取り仕切っていたグレイフィアただ一人。

後はジオティクス・グレモリーとヴェネラナ・グレモリー夫妻に長女のリアス・グレモリーに

甥っ子のミリキャス・グレモリー。

そして幽閉が解かれたリアスの眷属のギャスパー・ヴラディがここに住むのみだ。

明らかに、屋敷の大きさには不釣り合いな人の数である。

 

そんな屋敷の一室で、リアスは物思いに耽っていた。

 

(今の私では、イッセーを蘇らせることが出来ないなんて……

 イッセーがと言うより、セージの力を取り込んでしまった事がきっと原因ね。

 けれど、何とかしてイッセーを蘇らせないと……何のためにイッセーを冥界に運んだのか

 わからなくなってしまうわ……)

 

リアスが物思いに耽っていると、ノックの後外からグレイフィアの声が聞こえてくる。

 

「お嬢様。そろそろ食事の時間です」

 

「分かったわ。ところでグレイフィア」

 

「……何でしょう?」

 

「お兄様は、何を思ってイッセーを氷漬けにして連れてきたのかしら」

 

イッセーを再転生させることが出来なかった悲しみからか、リアスはグレイフィアに

ふとそんなことを漏らしたのだ。

 

「再び一誠様をお嬢様の眷属にさせるつもりでしょう。

 サーゼクス様の意向に応えるためにも

 なんとしても悪魔転生の儀式を成功させなければならない……

 

 ……と、言うのはサーゼクス様の『女王』としての意見ですが」

 

「? と言う事はあなた個人としては何かあるのかしら?」

 

「……アモン、紫紅帝龍と言ったイレギュラーが生じた今

 二天龍のみに拘るのは足元をすくわれると思うのです。

 紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)はともかく、アモンは生かしておけば現政権にとって危険な存在になる。

 そうサーゼクス様はお考えですが、本を質せばアモンだけが一概に悪いわけではない。

 私には、そんな気がしてならないのです」

 

「……! グレイフィア、それ以上言ったら……」

 

「ご心配なく。今更ルキフグスに戻るつもりなどありませんし、戻れません」

 

まるで主人を非難するかのような物言いを始めたグレイフィアに、リアスが待ったをかける。

ただでさえアインストと化したベオウルフと言う前例があるのだ。

その上でグレイフィアがサーゼクスから離反すれば

サーゼクス・ルシファーと言う存在そのものへの求心力にも関わる。

 

「……そうね、じゃあ質問を変えるわ。お兄様はイッセーをどうするつもりなのかしら?」

 

「一誠様は御存じの通り赤龍帝。覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)となったあの力はすさまじいものがありました。

 サーゼクス様やアジュカ様はあの力を制御し

 冥界の平和のために役立てようと考えておられるのでしょう」

 

「あの力を? けれど、そんなことが……」

 

推測ではあるが、大体当たっているグレイフィアの言葉にリアスは一瞬戸惑う。

駒王町を壊滅状態に追いやったあの力を本当に制御できるのか?

下手をすれば、駒王町と同じように冥界を廃墟にしてしまうのではないか。

リアスにはそんな恐怖心が芽生えていたのだった。

 

「お嬢様。今のお嬢様には、一誠様に対して恐怖心があるように見受けられます。

 そんな状態では、成功するものもしないでしょう。

 まずは、一誠様に対する恐怖を拭い去ることが先決だと思われます」

 

「私がイッセーを恐れている? バカなことを言わないでちょうだいグレイフィア。

 何故私がイッセーを恐れなければならないの?

 

 ……まぁいいわ。この話は置いておいて、食事だったわよね? 先にそっちにしましょう」

 

リアスの振る舞いに少々勝手なものを覚えつつも、グレイフィアとリアスは

食卓へとその足を向けるのだった。

 

――――

 

翌日。リアスはその日もイッセーの二度目の悪魔転生を試みるべく

遺体が安置されている場所へと足を運んでいた。

しかし、その結果は変わらず、イッセーが蘇る事は無かった。

 

「……くっ! どうしてイッセーは応えてくれないの!?」

 

「諦めるなリーアたん! 私がついている!」

 

真剣に悩んでいるリアスにしてみれば

サーゼクスのエールでさえむしろ邪魔なものであった。

リアスには、昨日グレイフィアに言われた言葉が去来していた。曰く

 

――自分はイッセーを恐れている

 

と。

 

「お嬢様、今のまま続けても意味はありません。ここは一先ず……」

 

「グレイフィア。あなた私に言ったわよね? 『私がイッセーを恐れている』って。

 それはどういう意味なのかしら? あり得ないわ。私が可愛い眷属を恐れるだなんて」

 

感情的になりながらも、リアスはグレイフィアに先日の言葉の意味を問い質す。

リアスにしてみれば、信じられないのだ。可愛がるならまだしも、眷属を恐れるなど

リアスの、グレモリーの者としてはあり得ない事のはずだからだ。

 

「言葉通りの意味です。最初は誠二様の事かと私も思いましたが

 あの覇龍の力を目の当たりにしている以上、そちらではないかと思う次第です。

 あの力を、自分は使いこなせるか? ……そうお考えではありませんか?」

 

「うっ……」

 

グレイフィアの言葉は図星であった。滅びの力を扱うリアスではあったが

赤龍帝と言うビッグネームの力を何の制御も無く揮われた先の戦い。

そして何より、彼女が思っていたイッセーの姿が跡形もなく崩れたショック。

それが恐怖心となり、イッセーの転生を妨げていたのだ。

 

「……ふむ。なるほどね。グレイフィアの言う事も一理あるな。

 リー……いやリアス。君だって何もしていなかったわけじゃないんだろう?

 今までの戦いで強くなったのは、君の眷属だけじゃないはずだ」

 

サーゼクスもグレイフィアの言葉尻に乗る形でアドバイスを贈る。

しかし、活躍していたのは精々コカビエルとの戦いの時くらいまでで

和平会談の時は足を引っ張ってしまったり、セージの反逆の際には

結果として敗北を喫している。それ以降は目立った活躍をしていない。

そのため、サーゼクスのアドバイスは逆効果となってしまっていたのだ。

 

「…………」

 

「和平会談の時の事を言っているなら、あれはいい勉強になった事と思う。

 いつぞやのゲームの事についてなら、あれは事故だ。

 リアス。君は紅髪の滅殺姫(ルインプリンセス)とも呼ばれているんだ。

 その名に恥じぬよう振る舞え、などと私は言うつもりは無い。

 だが、何故そう呼ばれるようになったか、は考えてみてもいいんじゃないか?」

 

兄として、リアスを励ますサーゼクス。

そこには魔王としての風格よりも

兄サーゼクス・グレモリーとしての貌の方が強く出ていた。

その姿に、グレイフィアは内心複雑なものを浮かべていた。

 

(兄としてサーゼクス様がお嬢様を気遣うのは当然の事……

 しかし、あまりにも身内贔屓が過ぎているのではないか?

 赤龍帝の力は冥界を、いや全世界のパワーバランスに影響を及ぼしかねない。

 そんな神滅具を、あたかも玩具を与えるかのようにお嬢様に与えようとしている。

 アモンやあの噂の紫紅帝龍でさえ、真の力を得た赤龍帝を止められるかは疑わしい……

 

 サーゼクス様、あなたは一体何をなさろうとしているのですか……?)

 

グレイフィアの思惑をよそに、サーゼクスの言葉にリアスも自信を得たのか

再度転生の儀式に取り組もうとしていた。

イッセーが復活するのも、時間の問題かもしれない。

 

その様子を、サーゼクスは満足そうに眺めていた。

 

(頑張ってくれリアス。君が一誠君を眷属にしてくれれば、全てはうまく行く。

 冥界を導くのは、我々の、ひいては若い世代の役目だ。

 そのためには悪魔に協力的な赤龍帝の、一誠君の力が必要だ。

 冥界を滅ぼそうとしかねない旧魔王派、そしてアモンに紫紅帝龍。

 彼らを打ち破るためには、我々には赤龍帝の力が必要なんだ。

 私が力で抑えつけては、同じことの繰り返しになってしまうからな……)

 

――――

 

――冥界・首都リリス。

 

魔王直属部隊イェッツト・トイフェルの拠点にて、監視の定時報告が行われていた。

 

「サーゼクス眷属監視班より報告いたします。

 サーゼクス眷属に目立った動きは見受けられません」

 

「人間界クロスゲート監視班より報告。

 人間のシスターがクロスゲートをくぐって以来、対象に動きや変化は見受けられません」

 

「ご苦労。引き続き目標の監視を厳にせよ」

 

副官ハマリア・アガリアレプトが報告を受けているが、定時報告と言う事もあり

その内容は「変化無し」の一点張りであった。

 

「さてウォルベン。貴様の当てが一つ外れてしまったようだな」

 

「ククッ、ご心配には及びませんよハマリア様。

 悪魔であるアモンが彼に憑いたのはこちらとしても好都合。

 アモンの気配を追えば、必然的に動向がわかると言う物。

 最早手の込んだ監視など必要ありますまい」

 

待機していたウォルベン・バフォメットはハマリアの指摘に対し不敵に答える。

その内容は、紫紅帝龍およびアモンの監視。

紫紅帝龍、と言うよりはセージの監視と言っても差し障りのないものであり

紫紅帝龍が宿る前からウォルベンはセージに目を付けていたのだ。

赤龍帝に拘る四大魔王とは逆に、当時赤龍帝の残りカスみたいな存在であった

セージに目を向けたのは、イェッツト・トイフェルの先見の明とも言えるものであった。

 

「覇龍をも下す力を秘めた紫紅帝龍、しかも禁手(バランスブレイカー)に至り

 その上アモンも力を貸している……赤龍帝に拘るのがばかばかしく思えるほど

 潜在能力を秘めているみたいだな。この事を具申したところで跳ね返されるだろうが」

 

「解せませぬな。魔王陛下は一体何を思って赤龍帝に拘っておられるのか。

 しかも聞くところによれば、サーゼクス様とセラフォルー様主導で

 死に至った赤龍帝を復活させる動きがあるそうではありませぬか。

 どうせこの程度で死んだ存在、使うにしても次代の赤龍帝の方が良いと思うのですがね」

 

かつてイッセーと邂逅したウォルベンから下される容赦のない評価。

ハマリアもそれには肯定しており、静かに頷いていた。

 

「俗物の考えていることなぞ、私にはわからぬよ。

 それよりウォルベン。アモンが蘇り、紫紅帝龍が禁手に至った今

 そろそろ私は例の計画を実行に移すべきだと思うのだが、貴様はどう見る?」

 

「私の敵は、冥界に仇成す者です。それがたとえ現魔王であろうと

 冥界を脅かす存在であれば戦うのみですよ。そのためには……

 

 ……私も、彼に協力いただいた方がいいと思いますね。

 幸いにして、彼自身は今の冥界に対して不信感を抱いている様子。

 こちらに引き込むことは容易いかと」

 

「過信は足元をすくわれるぞ、ウォルベン。だがその前に指令が下った。

 ……俗物からの指令で、やる気は出ないかもしれんがな」

 

ハマリアとウォルベンは、セージに――紫紅帝龍とアモンに目を付けていた。

それが何を意味するのか、知るのはイェッツト・トイフェルの者達のみであった。

 

そして下されたウォルベンへの指令。それこそが――

 

――――

 

――冥界・バオクゥのアジト。

 

「……で、申し開きはあるか?」

 

リー・バーチに詰られているのは、このアジトの主であるバオクゥ。

彼女はセージ――の実体化した霊体に発信機を取り付け

その情報をイェッツト・トイフェルに流していたのだ。

尤も、そうしなければ生き延びることが出来なかったが故の仕方のない行動だったのだが。

 

「セージさんに言われるならともかく、どうしてあなたに詰め寄られなきゃならないんですか。

 そりゃあ、流さなくていい情報をイェッツト・トイフェルに流したのは私ですけど

 あなただってアモンの情報とか公表しちゃったじゃないですか!」

 

「俺のは金になるからいいんだよ。アモンが本当に居るのかどうかなんて

 民衆にしてみりゃどっちでもいい事なのさ。それで盛り上がれば俺は良いのさ」

 

無責任なリーの事を強く言えないバオクゥ。

彼女も結果的にセージの個人情報を外部に漏洩しているため

リーの行いについて突っ込むことはブーメランになりかねなかったのだ。

 

「……で、その肝心のセージはどうしたんだよ?

 赤龍帝が運び込まれたって話なら聞いてるがよ」

 

当然の事ながら、盗聴バスターであるバオクゥやジャーナリストであるリーにも

イッセーが冥界に運び込まれた情報は入っていたのだ。

尤も、こんな情報は既に政府から発表されている事なので

アングラなジャーナリストが態々公表する事でも無いと言う事で、スルーしている形だ。

 

「……言いません。あなたに話したら悪用されそうな気がしますから」

 

「俺も信用されたもんだな。ま、そう言う事なら俺は人間界に取材に行ってみるわ。

 あいつの拠点は今も人間界なんだろ? だったら――」

 

「イェッツト・トイフェルには気を付けてくださいよ?

 あなたの情報もそれなりにあてにしてるんですから。

 私は政府の動きについてちょっと調べてみますけど。

 

 ……赤龍帝が運び込まれたって事件、何か裏がある気がするんですよねぇ……」

 

悪態をつきながら、リーはバオクゥのアジトを後にする。

転生悪魔であるにもかかわらず、かなり自由気ままに動いている。

政府に睨まれたことも一度や二度ではない、軍に追われた事さえある。

その点も踏まえ、バオクゥは気休めながらもリーを気遣ってみせたのだ。

 

そして、バオクゥがやろうとしていることは――盗聴。

師匠であるパオフゥから譲り受けた盗聴の腕は冥界政府を相手にしても

立ち回れるほどのものであったのだ。

 

(……少しでもセージさんに情報を提供しないといけませんからね。

 ふむ、ふむふむ……こ、これは……私、聞いちゃいました!

 

 ……まさか、赤龍帝の力を軍事利用するつもりだなんて!

 これは……大ニュースですよ!)

 

バオクゥが盗聴に成功したのはなんとサーゼクスとアジュカのやり取り。

バオクゥには、一連の話がそう聞こえたのだ。

事実、アジュカは赤龍帝を研究できないかと虎視眈々と狙っており

サーゼクスもリアスを利用して復活させられないかと考えている。

二つの意見が重なれば、軍事利用と言う結論を導き出してもおかしくはない。

 

早速リーにコンタクトを取ろうとするバオクゥ。しかしここで不可思議なことが起こる。

繋がるはずの無線が繋がらないのだ。考えられる理由はいくつかあるが

その中でも外れて欲しいと思っていたものがある。外部からのジャミングである。

政府の闇を暴かんとしているバオクゥを邪魔に思った政府が

部隊を派遣すること位は、バオクゥにも予測が出来た事である。

万が一を考え、データと一部の艤装を携えバオクゥはアジトの裏手から外に飛び出していたのだ。

 

……アジトがイェッツト・トイフェルの襲撃に遭ったのは、その直後の事であった。

 

――――

 

――冥界・フェニックス邸。

 

ライザーの跡を継いで王に昇格したレイヴェルは

新聞を読みながら今後の活動方針を考えていた。

相談役として、人間界では弁護士を務めていた元人間の僧侶(ビショップ)、奥瀬秀一が控えている。

 

「『赤龍帝、氷漬けになって搬送される』……ね。大方職権乱用でしょうけれど

 表立って今の魔王様に逆らうほど私も愚かでは無いわ」

 

「お嬢、そんなに今の政権が気に入らないんなら……」

 

「先生、勘違いしないでくださいまし。私が気に入らないのは

 あくまでも私欲のために動いている輩。それが偶々魔王様になってしまったって事ですわ。

 それに、今の魔王様は有体に言ってしまえば傀儡。

 実権を握っているのは旧来の悪魔ですわよ。

 でなければあんな無能……こほん、今のは忘れてくださいまし」

 

ため息をつきながら、レイヴェルが奥瀬に冥界の政治事情について軽く解説している。

弁護士でもあった奥瀬はその点において飲み込みが早く、レイヴェルの言わんとすることを

すぐさま察知したのだった。

 

「たまに自発的に動いたと思えばこんな一部しか得をしないような事。

 赤龍帝を氷漬けの状態で冥界に招き入れて、博物館にでも飾るつもりなのかしら」

 

いや、それは無いだろうと奥瀬がツッコミを入れつつ

レイヴェルも「冗談ですわよ」と返しながら奥瀬と少々難しい会話を交わしていた。

セージがフェニックス領に迷い込んだトラブルの以降も

レイヴェルはライザーの名誉回復のために日々鍛錬を欠かさずにいた。

それは武力のみならず、奥瀬の弁護士としての知識も活用した勉強会を開いたり

「これからは剣とペンの時代」としてフェニックス領内ではあるが

講演会を開いたりと、とても未成年の、若輩の悪魔とは思えぬ活躍をしていた。

 

こうした活動――特に講演会は風当たりも強かったが

レイヴェルが王になった経緯もあり、概ね好意的に受け入れられていた。

そんなレイヴェルを応援しているものもいた。フェニックス領の領民やレイヴェルの家族。

そして何より――

 

「レイヴェル様、ライザー様よりお手紙が届いております」

 

ライザーに仕えていた頃からの兵士(ポーン)であるミラが持ってきたのは

入院中のライザーからの手紙。同じくセージによって深い傷を負わされた

元ライザー女王(クィーン)のユーベルーナと二人三脚でリハビリに取り組んでおり

その合間にこうしてレイヴェル宛に手紙が来るのだ。

 

その中には、ライザーの近況報告やレイヴェルに対するエールなどが綴られている。

その手紙をレイヴェルは内心楽しみにしていた。

王となり忙しくなって以来、ライザーの見舞いに行く機会が減ってしまったが

こうして繋がりは保たれている。それがレイヴェルには喜ばしい事だったのだ。

手紙を読み終えると、レイヴェルは眷属を呼び集め今日の分の訓練にとりかかろうと

決意を新たにするのだった。

 

(お兄様のためにも、私はフェニックス家を冥界で最大の名家にしてみせますわ。

 その為には……バアル家やベリアル家にも勝たなくては。

 レーティングゲームだけですべてが決まる今の冥界に思うところが無いわけでもありませんが

 まずはレーティングゲームで勝ち、その上で異を唱えなければ

 本当に冥界を改革するなど夢のまた夢、ですものね)

 

 

 

冥界に住む様々なものの思惑が交わる中

氷漬けになったイッセーは、冷たい光を放っているのだった……




何か忘れてると思ったらセラフォルーとソーナ組が描写できなかった件について。
本当に拙作では影薄いなこの方々……
一人悪目立ちしてるのがいるけど。

セージの物語は間もなく一区切りですが
冥界の情勢はそんな事お構いなしに動いてます。

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