ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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ボチボチとですが書けています。
待ってくださっている皆様には本当に感謝です。

さて今回。いよいよアレが登場します。
この世界において、抑止力は存在しません。

……力で強引に止めたりすることは出来なくもありませんが。


Special9. 暴走する覇龍

この二人の加勢によっても、事態は大きくは変わらない。

イッセーは負傷し、それにつられる形でセージも動きを封じられる。

アインストは絶えず出現している。

兵藤夫妻と言う人質のアドバンテージは失われたが

戦況は、未だディオドラの側に傾いている。

 

「誰かと思えばただの人間が二匹か……

 僕もそんなのに構っていられるほど暇じゃないんだけどな。

 人間は人間同士戦うのが相応しいだろ? ……イリナ」

 

「命令しないでよ。それよりゼノヴィア、なんでそいつらの肩を持つの?

 そいつら悪魔だって、わかってるよね?」

 

イリナのの発した言葉は、言葉だけならある意味まともである。

祓魔師が悪魔を庇うなど、前代未聞どころか自分で自分の存在意義を歪める行いだからだ。

アーシアが悪魔を庇ったのとはわけが違う。

 

「肩は持っていない。だがイリナ、だからってテロリストに協力するのが正しい事か?

 私にはそうは思えない、たとえミカエル様が我々を騙していたとしても

 その怒りをぶつけるべきはミカエル様であって、彼らではないはずだ」

 

「うん。だからミカエルはこれで直したの。イッセー君も壊れてるから今直したの。

 ゼノヴィア、あなたも壊れているの?」

 

だからこそ、ゼノヴィアはイッセーらの肩を持つのではなく

イリナが禍の団(カオス・ブリゲート)に所属しているという事実に疑問を呈したのだ。

信じるものに裏切られたからと言って、テロリストに加担して

何の関係もない人たちに危害を加えるのが正しい事だとは、今のゼノヴィアには考えられなかったのだ。

 

「壊れたかどうかはわからないが、私は変わったという自覚はある。

 私だって、主の消滅を知って冷静でなどいられなかったさ。

 だが、ある人物が私に言った。

 『神は信仰によって成り立つ。死んだという戯言を鵜呑みにすると言う事は

  お前の信仰はその程度のものだったのか?』……とな。

 これは私は日本に来て何度も言われたよ。最初はその言葉こそ戯言だと思ったが

 慧介達と過ごしているうちにそういう考え方もあるんだな、と思えるようになってきてな……」

 

「……何が言いたいの」

 

「そうだな。言葉を弄するのは私の性に合わないか。

 ならばイリナ、こう言おう。

 

 ――慧介の家族のためにも、私は禍の団やアインストの行いを認めるわけにはいかない!」

 

ゼノヴィアの啖呵と同時にデュランダルとアスカロンが火花を散らす。

守るものを得た刃と、己のためだけに振るわれる刃の衝突。

かつては寝食を共にし、共にエクスカリバー奪還のために行動していた二人。

だが今はこうして刃を交え死合いを繰り広げている。

 

「結局ゼノヴィアも私を否定するのね! ミカエルと同じように!」

 

「ミカエル様は確かに嘘をついていた! だが、それと今のイリナの行いは結び付かない!

 何の関係もない人にまで危害を加えるのは、私達が敵視していた悪魔の行為そのものだぞ!」

 

互いに一歩も退かない聖剣(デュランダル)聖魔剣(アスカロン)のぶつかり合い。

一歩でも間違えば、確実にどちらかの命は奪われてしまうだろう。

そんな、かつての友同士の戦いを笑って眺めている者がいた。ディオドラだ。

 

「くくくっ、あははははははっ!!

 本当に最高だよ人間って奴は! だから人間は大好きだろ、リアス?」

 

「……本当に悪魔の面汚しよ、あなた。こんな悪趣味な真似まで……」

 

「何か勘違いしてないか? 僕はあの二人には何にも関わってないよ?

 あの人間が勝手に争いを始めたんだ。僕らが何もしなくても放っておけば争いを始める。

 最高で、面白くて……愚かな連中だよ、人間はねぇ! あははははははっ!!」

 

狂ったように笑いながら、ディオドラは状況を眺めている。

彼にとっては何もかもが思い通りで面白くて仕方が無いのだろう。

しかしそれ故に。慢心が生じていたのも事実であった。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

「あはははは……はっ!?」

 

気を抜いていたディオドラの顔面を、イッセーの左拳が殴りつける。

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」の宝玉が明滅し、籠手本体もスパークしているが

先刻イリナに貫かれた傷は完治している。アーシアの「聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」の賜物だ。

 

アスカロンによる刺突の傷は治癒できたが、龍殺しの力によるドライグへの影響までは

完全には払拭できなかったのだ。そのため、今の赤龍帝の籠手は不完全な状態である。

 

「さっきからうるせぇよ、性悪悪魔!

 部長をてめぇなんかと一緒にするんじゃねぇ!!

 てめぇなんかにゃアーシアは絶対渡さねぇからな!!」

 

口元を抑えるディオドラの掌には、赤い雫がたれ落ちていた。

イッセーの一撃が、ディオドラに確かなダメージを与えたのだ。

 

「これは……血? 僕が……こんな下級の……転生悪魔なんかに?

 ……そうか……そうか……ふふっ、くくくくくくっ……」

 

「な、なにがおかしいんだよ?」

 

「最高だよ。僕にも貴族としてのプライドがあるからね。

 人質はもうどうでもいいと思っていたけれど……そういう無礼を働くんだ。

 だったら……その無礼を贖ってもらわないとねぇ?」

 

ディオドラのミルトカイル石の腕輪が怪しく光るとともに

ディオドラの左腕が変異。触腕と化した腕は、離れた場所にいたはずの

兵藤夫妻を締め上げようとする。

 

「ダメだ、させない!」

 

「……やらせません」

 

「あの赤龍帝はどうでもいいけど、家族を盾にするような奴は見過ごせないのよ!」

 

「……まだうるさいのがいたか、やれ!」

 

それを阻止せんと未だ身動きの取れないセージに代わって

木場や白音、黒歌らが立ちはだかろうとするが

ディオドラの号令を受けたアインストの軍団に阻まれ、身動きが取れなくなっている。

そうでなくとも、この狭い室内では乱戦状態となっており

思うが儘に動けない状態が続いている。

イリナとゼノヴィアの戦いにしたってそうだ。

 

「ゼノヴィア君、ここは一度外に連れ出しなさい! この中での戦いは不利だ!」

 

慧介の神器(セイクリッド・ギア)未知への迎撃者(ライズ・イクサリバー)」が銃へとその姿を変え

イリナに対し威嚇射撃を敢行する。

イリナも負けじと擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を盾に変え、威嚇射撃を凌ぐが

慧介に気を取られた隙を突いたゼノヴィアの攻撃を受け、一歩押される形となる。

 

「イリナぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「くっ、ゼノヴィア……っ!!」

 

「イリナ! ゼノヴィアさん!」

 

アーシアをアインストから庇いながら、アーリィが二人を気遣うが

どちらにも加勢するということは出来ない。

アインストをナイトファウルで蹴散らしながら、アインストの親玉である

ディオドラに向けて、ヴェールの下では鋭い目を向けていた。

 

「くくくっ、さて赤龍帝。これで振り出しに戻ったね。けれどまだ終わりじゃないよ?

 ……言ったろ。罪を贖え、って。お前が贖う気が無いのなら……こうするまでさ!」

 

兵藤夫妻を締め上げたディオドラの触腕から、赤い霧が発生する。

身動きが取れないながらも、「記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)」でその赤い霧の正体を探ったセージは

木場達にその場を退くように叫ぶ。

 

「ダメだ、その霧を吸うな! 下がるんだ!」

 

黒歌の仙術で薄い膜を展開し、兵藤夫妻を助けに出ようとしたメンバーは

霧を吸い込むことは無かった。

しかし、締め上げられていた兵藤夫妻は赤い霧をもろに吸い込む結果となってしまう。

 

その赤い霧の正体、それは――

 

「父さん、母さん!?」

 

「い、イッセー……!!」

 

「に、逃げなさい……わた、私達……は……!!」

 

突如、二体のアインストが出現する。それも、兵藤夫妻がいた場所に。

……否。この二体のアインスト。これこそが……

 

「て、てめぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「言ったろ! 罪を贖えって! さあどうする赤龍帝!?

 そのアインストを潰すか? 言っとくが、アインスト化した人間を助ける術はないんだ!

 悪魔だって一度アインストになったら終わりだ!

 僕を殴ったように、そのアインストも殴って見せろよ! さあ、さあ!!」

 

アインストに変貌した兵藤夫妻を前に、イッセーの慟哭が木霊する。

拘束を解かれながらも、攻撃に対して消極的なのは彼らの意識がなせる業なのか。

それはその場にいる誰にもわからない事だった。

それ幸いとばかりに、イッセーはその怒りをディオドラにぶつけるべく

不完全な赤龍帝の籠手でただひたすらに殴りつけようとする。

 

「うるせぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「あがっ!? がはっ!? ぐぼっ……!?」

 

マウントを取ったイッセーは、我武者羅にディオドラの顔を殴りつけている。

最早、誰の声も耳に届いてはいないかのようである。

それ以前に、ディオドラの卑劣な行いに対して「自業自得」と言う印象が強い事と

イッセーの気迫がすさまじい事で止めるに止められない状態でもあったのだが。

 

しかし、冷静さを欠いているのも事実であった。

不意に飛んできた攻撃にいち早く気づけたのは、派手に登場しながらも冷静に努めていたアーリィと

身動きが取れないがために状況把握に専念していたセージ位なものであった。

 

「あれは……聖槍!?」

 

「まずい、イッセー避けろ!」

 

飛んできたのは、散々イッセーやセージ達を苦しめた聖槍のコピー。

能力封じを行うそれが、イッセーめがけて飛んできたのだ。

アドバイスのお陰で、寸前で打ち払われたが

それはこの場に聖槍騎士団がやって来ていることを意味していた。

 

Guten tag.(御機嫌よう) 英雄派として、一応仕事をしに来たわ。

 それと赤髪の滅殺姫(ルインプリンセス)様、少しいいかしら。

 

 ……私達を止めるなら、神器持ちを出すのはやめておいた方がいいわね。聖槍のいいカモよ。

 それとこの黒髪の女。私達を相手に本気を出さないとは舐められたものね。

 知らないようなら何度でも言ってあげるわ……愚か者、ここは戦場だ!」

 

そう言って、後ろのドイツ軍人風の軍団が気絶した朱乃やギャスパーを放り捨てるように

リアスに寄越してくる。内部はイッセーと自分、アーシアで構え

彼女達は外敵に備え外で待機させていたのが仇になったのだ。

 

「クッ……私としたことが迂闊だったわ。彼女達も禍の団の一員であることを考えれば

 ここに増援でやって来ることは十分考えられたのに……!」

 

「英雄派……フューラーの差し金かい? 別に要らないのに」

 

「口だけは達者ね。私達もあなたの手助けに来たわけじゃないわ。

 ただ、こうすればもっと面白い、と言うのをそこの赤龍帝に渡すよう

 総統閣下に言われてきただけよ」

 

そう言って、聖槍騎士団が聖槍の次に投げ寄越したのはドラゴンアップルの果実。

ドラゴンにとっては貴重な栄養源、力の源であるが

ドラゴンでないものが食せば、その身はたちまち怪物へと変貌してしまう、恐ろしい果実だ。

 

「あれは……どうしてそれを!」

 

「総統閣下からの言伝を伝えるわ。『強くなりたければ食べなさい』とね。

 それは間違いなくあなたにさらなる力を与えるわ、赤龍帝」

 

「な……敵に塩を送るというのか!?」

 

一連の行いに、リアスは衝撃を受けディオドラは激昂する。

今まで自分を散々殴って来た相手に、まさかパワーアップアイテムを送るなどと

想像がつかなかったからだ。それも禍の団に一応は属しているはずのものが。

 

「あら。あなただってアインストのドーピングで強くなったクチじゃない。

 赤龍帝にもドーピングをさせても罰は当たらないと思うのだけど?

 少なくとも、総統閣下はそう考えていらっしゃるわ」

 

「……これは」

 

「どう考えなくても罠だにゃん! そんな怪しいもの、食ったらダメにゃん!」

 

「二人の言う通りだ、イッセー君! それは……」

 

『あいつらの言う通りだ相棒、それはドラゴンアップル!

 俺ならともかく、俺に身体を寄越していない貴様が直に食えば

 その身がどうなるか、俺にも保証できんぞ!』

 

一方、ヴァーリは事態を静観している。

赤龍帝が強くなるならそれでよし、そうでなければ標的をセージに変える。

この期に及んで、ヴァーリの悪い虫が蠢いていたのだ。

片割れの異常性を察したアルビオンが、思わずヴァーリに問いかける。

 

『止めないのか?』

 

「義理は果たした。後はあいつらがどうなろうが俺の知ったことでは無い。

 紫紅帝龍は世界を引き合いに出したが、最後は勝てばいい。

 ……要はそう言う事だ」

 

木場、白音、黒歌が必死に制止するが「力を与える」と言うワードに心を動かされたイッセーは

躊躇うことなくドラゴンアップルの果実を口に運ぶ。

その直後、赤龍帝の籠手が復活し赤いオーラがイッセーの身体を包む。

 

「う……うおおおおおおおおおおっ!!」

 

イッセーの復活に合わせ、セージも立ち上がるがこちらは普通に元に戻ったという印象だ。

赤いオーラに弾き飛ばされる形になったディオドラは、イッセーの豹変ぶりに戦慄を隠せない。

その一方、聖槍騎士団は満足げにイッセーの豹変ぶりを眺めていた。

 

「な……一体何だって言うんだ、赤龍帝の力がなせる業なのか!?」

 

「……食べたわね。赤龍帝、後は好きにすればいいわ。

 総統閣下の命令は果たした事だし、私はここで引き揚げさせてもらうわ。

 

 ……巻き込まれてもかなわないし、ね。Auf Wiedersehen.(さようなら)

 会う事があれば、また会いましょう」

 

「巻き込まれ……一体どういうことなの!?」

 

リアスが聖槍騎士団に疑問を投げかけようとするところで、彼女達は既に引き上げてしまっていた。

ディオドラも、援軍が来たと思いきや敵を強化させるだけで撤退してしまった

聖槍騎士団に腹を立てていた。

 

「利敵行為だと!? おのれフューラー! 一体どういう……!?」

 

激昂し続けるディオドラであったが、次の瞬間目を疑った。

イッセーの身体を、赤いオーラが包んでいた。そのオーラは途切れることなくイッセーを包み

まるでこの世のものでは無い存在感を発していたのだ。

 

『これは……あのフューラーと言う奴、一体何をしてくれたのだ!?

 アスカロンにやられた我が傷が癒えるどころか、この力は……「覇龍」ではないか!!

 いかん相棒、この力を振るうな! 貴様の身をも滅ぼすぞ!!』

 

「部長、アーシア、みんな……今すぐこの場から離れてくれ……

 おい……ディオドラ……アスタロトとか言ったよな……?」

 

辛うじて低いトーンで淡々と語るイッセーだが、その眼には既に正気は無い。

その事を察せなかったディオドラは、強がりを言うがそれさえも今のイッセーには通じなかった。

 

「そ、それがどうした! 下級悪魔ごときが、馴れ馴れしく呼ぶな!」

 

「お前は……『選択を間違えた』んだよ」

 

次の瞬間、ディオドラの腹からイッセーの腕が生えていた。

否、ディオドラの腹をイッセーの腕が貫通していたのだ。無論、イッセーにそんな力があるはずがない。

その異変の正体を探る前に、イッセーの口から呪文が紡がれる。

しかしその声色は、イッセーのものでは無かった。

 

「我、目覚めるは――」

 

――始まったよ。

 

――始まってしまうね。

 

「覇の理を神より奪いし二天龍なり――」

 

――いつだって、そうでした。

 

――そうじゃな、いつだってそうだった。

 

「無限を嗤い、夢幻を憂う――」

 

――世界が求めるのは――

 

――世界が否定するのは――

 

「我、赤き龍の覇王となりて――」

 

――いつだって、力でした。

 

――いつだって、愛だった。

 

 

――何度でもお前達は滅びを選択するのだな!!

 

 

『汝を紅蓮の煉獄に沈めよう――』

 

 

Juggernaut Drive!!

 

 

「ぐぎゃあああああああああっ!!」

 

 

次の瞬間、此の世のものとは思えないほどの雄叫びを上げたイッセーの身体が

瞬く間に赤いドラゴンのそれへと変貌していく。

赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)とは違い、生物的なフォルムは禍々しささえも感じられる。

 

「げぼっ……!?」

 

イッセーの変貌は留まるところを知らず、力が馴染んて来たのか次第に赤い龍人の姿へと

変貌していく。その身体の所々には赤龍帝の籠手同様、緑色の宝玉が輝いている。

だがそこから発せられるのは、ドライグの声ではなく何者かの怨嗟の声ばかりであった。

それは歴代の赤龍帝の籠手の所持者であったのだが、アルビオン以外の誰も

その事を知る由もなかった。

 

そう、過去の怨念にとり憑かれた赤いドラゴンが一匹、そこにいるだけであった。

 

次の瞬間、ディオドラから腕を引き抜いたイッセーは見境なく暴れ始める。

敵味方お構いなく、建物の倒壊も全く意に介していない。

 

SOLID-DEFENDER!!

 

「……ふんっ!」

 

落ちてくる瓦礫を実体化を果たしたセージのディフェンダーと白音の怪力で排除しつつ

脱出口をふさぐアインストを木場と黒歌が蹴散らす。

 

「部長、ここは一度撤退しましょう!」

 

「けれどイッセーが……! イッセー! 目を覚ましなさい!」

 

「そんな事言っている場合か! ここにいたら建物の倒壊に巻き込まれる!

 いくら悪魔だと言っても、ただでは済まないぞ!」

 

木場とセージの呼びかけもあり、リアス達はディオドラのアジトであった

曲津組の建物からの脱出を試みる。

瓦解する建物に、多くの組員とアインストが巻き込まれていく――。

 

「ゼノヴィア君、イリナを連れて逃げなさい!」

 

「そのつもりだ、だが……」

 

ゼノヴィアの声に耳を傾けず、何も見えていないかのようにアスカロンを振り回すイリナ。

でたらめな剣捌きを躱すのは簡単であるが、これを暴れていると解釈した場合

暴れている相手を宥めてこの場から連れ出すというのは困難だ。

まして、今いる場所は崩壊を始めているのだ。

 

「うああああああっ!! あああああああっ!!」

 

「もういい、やめろ、やめてくれイリナ!」

 

説得もままならぬうちに建物の崩壊はどんどんひどくなっている。

イリナが暴れているのと同様に、ディオドラ相手にイッセーが暴れているのだ。

それも、赤龍帝の力を遺憾なく発揮した上で。

 

「これは……くっ、ゼノヴィア君! 脱出しなさい!」

 

「しかし慧介! イリナを……」

 

「君まで瓦礫に埋もれては元も子もない! ここは逃げなさい!」

 

慧介の叫びに合わせ、アーリィが聖書を開くと聖書のページが宙を舞う。

 

「早く! 私が皆さんを外に連れ出します!」

 

「アーリィ! イリナも……」

 

アーリィ、アーシア、慧介やゼノヴィア、そしてイリナの周囲を聖書のページが舞う。

光り輝くページは、一瞬にして五人を建物の外へと運び出したのだ。

 

――――

 

倒壊を始める曲津組(まがつぐみ)の建物。

陰で糸を引き、栄華の一端を担っていたディオドラが今赤龍帝によって駆逐されようとしている。

その様は、因果応報と言うべきか。災害に遭い、弱った人々から甘露を吸い続けた。

その行いの報いが、今下されているのだ。

 

しかし、それは娯楽的なものでは無い。

終わりのない憎しみの連鎖を現しているかのような、破壊活動であった。

 

瓦礫の下から現れたのは、赤い龍。

その脇には、ボロボロになった青年が抱えられている。

その青年には蝙蝠の翼が生えており、人間ではないことを如実に示している。

 

赤い龍は、筆舌しがたい咆哮を上げ大地を揺るがしている。

その発するオーラには、建物から脱出してきた者達も手が出せずにいたのだ。

 

「……アルビオン」

 

『分かっている。まさかこんな形で、二天龍の戦いをすることになるとはな。

 だが気を付けろ、あれは覇龍だ。正面から挑んではタダでは済まないぞ』

 

変貌を遂げた赤い龍――兵藤一誠を止めるべく

白龍皇アルビオン――ヴァーリ・ルシファーが戦いを挑む。

二天龍の戦いが、人間の世界で行われようとしているのだ。

 

「部長、結界の展開を! このままでは戦いの余波でこの辺りが……」

 

「わ、わかったわ! 朱乃、ギャスパー!

 起きてすぐのところ悪いのだけど、結界の維持に協力してちょうだい!」

 

「リアス・グレモリーに協力するのは癪だけど、そんなこと言ってられる状況じゃないわね。

 私も結界維持に協力するわ。白音、あなたは結界の穴をふさぐ程度でいいわよ。

 まだあなたの身体じゃ、あの戦いの余波を受けられるだけの力はないわ」

 

「……わかりました。姉様も無理はしないで……」

 

アーシアを除いたオカ研のメンバーと、黒歌、白音の姉妹が揃って結界を展開する。

何人もの協力があっても、二天龍の戦いの余波を押さえられるかどうかは定かではない。

 

このまま二天龍の戦いが始まれば、この世界は壊滅的な被害を被る事だろう。

それに対抗できるのは――赤龍帝と白龍皇の力を併せ持った紫紅帝龍

すなわちセージだけなのだろうか。

 

「結局……結局こうなるのか!

 立っているところの事も考えずに、ただ徒に力に振り回され、溺れていく!

 だから俺は赤龍帝の力なんて要らなかったんだ!

 俺達に……俺達が持つべき力じゃなかったんだ!」

 

一しきり吠えた後、セージも紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)と記録再生大図鑑を展開し

覇龍へと至った赤龍帝へと向かっていく。

 

「セージ君!」

 

「お兄さん、そればかりは無理よ!」

 

「奴が悪魔であるなら、ドラゴンであるなら対処法はある!

 弱点さえ突ければ、どんな奴でも倒せるはずだ!

 その為のメタならここにある――フリッケン、記録再生大図鑑、力を貸してくれ!」

 

『セージ、お前……ああ、大体わかった。世界の破壊者は俺一人で十分だからな』

 

今ここに、三つの龍が激突するのだった――




覇龍登場。
そしてまさかのイッセー両親退場フラグ。
助かってたと思ったらこれだよ! この世界に救いは無い!

イッセーがこうなったと言う事はセージも……

そしてアーシア絶対守るウーマンが参戦している以上
原作とは違う形で覇龍発動させる切欠が欲しかったので……
(別にアーリィさんが来たからこうなったってわけじゃないですよ、念のため)

曲津組も壊滅寸前。
後ろ盾のディオドラが居なくなれば遅かれ早かれ壊滅する運命でしたし。
因みに現在柳警視と安玖巡査は別区域に当たってます。
超特捜課と決着付けさせたいですが、こう言う力での解決ってのも
ちょっと違う気がしますし。

原作と違い、ここにヴァーリがいるために二天龍のぶつかり合いがまたしても発生。
紫紅帝龍は抑止力足りうるのでしょうか。
やっぱり大迷惑な存在なのだとしか言いようがない二天龍。
セージの一言ですべてを物語ってしまってます。
原作メタと完全否定に塗れてしまっていますが……

「可能性を生み出した時点でアウト」

だと思うんです。どこぞの終焉の魔神さんじゃないですが。

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