ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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ちょっとヴァーリが今までとは違う意味で情けない事になります。
だが私は謝らない。


Special6. 白龍皇との邂逅

駒王町の一角を支配している、指定暴力団組織曲津組(まがつぐみ)領にある、一軒の空き家。

元は誰かの所有物件だったらしく、鍵もあけたままになっている。

誰かが暮らしていたような痕跡があったが、そこの寝室にヴァーリは運び込まれていた。

 

アインストやインベスとの戦いを潜り抜け、傷だらけで倒れているところを

セージ達に発見された形だ。

腹部には包帯が巻かれ、簡単に止血処置が行われている。

アーシアがいないため、治療は黒歌の仙術によるもので簡易的に行われていた。

 

「……う……ぐっ……?」

 

「気が付いたかにゃん? ヴァーリ、あんた無茶しすぎにゃん。

 そんなんじゃ、命がいくつあっても足りないにゃん」

 

ヴァーリが目を覚ますと、目の前には黒歌がいた。

彼女の仙術で一命をとりとめたヴァーリだが、そんなことは知る由もない。

黒歌自身は、おどけた様子でヴァーリの相手をしている。

 

「貴様は確か……はぐれ悪魔が何の用だ?」

 

「もう悪魔じゃないにゃん。そこのお兄さんに悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を取ってもらったからにゃん」

 

黒歌の説明に、ヴァーリは目を丸くする。

彼もまた、悪魔の駒は一生ものの契約だと思っていたのだ。

ところが、目の前にその呪縛から解き放たれた存在がいる。しかも解き放ったのは……

 

「目が覚めたか。とりあえず黒歌さんには礼言っといたほうがいいと思うぞ」

 

「貴様! ここで会ったが……ぐっ」

 

「言わんこっちゃない。今のお前と戦うほど俺も酔狂じゃないぞ。

 俺達がお前を助けたのは、アインストの情報を知りたいからだ。

 禍の団(カオス・ブリゲート)にいた以上、知っているんだろう?」

 

「…………」

 

セージの質問に、ヴァーリは沈黙を返す。

ヴァーリにとってセージは不倶戴天の敵と言うわけでも無いが

協力する理由のある相手でもない。寧ろ戦うべき相手として見ている節があった。

そのためか、中々素直に情報を話そうとはしなかった。

 

そんなヴァーリに、黒歌がそっと手を添える。

すると、突如ヴァーリが痛みを訴えだした。

 

「ぐがっ……!? き、貴様なにを……!?」

 

「気の流れをちょっと変えてやったにゃん。

 あんた一人無茶するんならいいんだけどさ、今はそうも言ってられない状況なの。

 この辺に巣食っているバケモノ退治するのに、あんたの情報が必要なのよ。

 

 ……言わないなら、こうにゃん」

 

脂汗を浮かべるヴァーリに対し悪戯っぽい笑みを浮かべながら

黒歌がヴァーリから無理やりにでも情報を引き出そうとしていた。

その様子を見ていたアーリィも、何かを思い立ったのか挙手をして名乗り出ていた。

 

「あ、それなら私もお手伝いします。私も言う事を聞かない悪魔に対して

 言う事を聞かせるのはよくやってますから。

 ヴァーリさん、あなた……悪魔ですよね? 悪魔ですよね?」

 

そう問い質すアーリィの右手には、大きなカバンが握られていた。

 

――――

 

結局、その後ヴァーリから情報を得ることには成功した。

黒歌の仙術と、アーリィの退魔術が功を奏したのか、殊の外すんなりと聞き出すことが出来た。

 

ただし、その場に居合わせた者からは

 

「病人に対する態度じゃない」

 

とまで言われており、黒歌は白音が、アーリィもナイトファウルが飛び出した時点で

セージと木場がストップをかけることとなり事なきを得た。

 

「……クッ、紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)。事が済んだら俺と戦ってもらうからな」

 

「何がお前をそこまで駆り立てるんだか……」

 

ただし、ヴァーリの要求である「紫紅帝龍――セージと戦う」だけは

二人をもってしても曲げることが出来なかった。

この状況にセージは辟易としているが、それでもアインストの情報ないし

禍の団の情報は貴重なものなのであった。

 

「まあいい。俺も禍の団には愛想が尽きていたところだ。

 俺の望むことと、奴らのやり方は全く筋が違っているからな。

 

 ただ、フューラー・アドルフ。奴の事は俺もよく知らんぞ」

 

しかし、ヴァーリもオーフィスの事はともかく

インベスやフューラー・アドルフの事までは詳しく知らなかった。

かの孟徳の子孫であると自称する曹操が率いる英雄派に所属しているという表向きだが

実際には独自の軍を持ち、オーフィスとも歩調が取れていないようである。

フューラー・アドルフがどこから来て、何者なのかは

ヴァーリにも分からない事であった。

同様に、インベスに関してもはぐれ悪魔の亜種程度の認識しかもっていなかった。

 

逆に、オーフィスに関しては流暢に語り始める。

次元の狭間に巣食うグレートレッドと言う龍神を追い払うために

禍の団を結成、様々な組織や人外に声掛けを行った……のだが。

ある時を境に、オーフィスの様子が少しずつ変調していったという。

 

それこそがオーフィスの求める「静寂なる世界」と言う単語に同調して現れた存在。

アインスト。クロスゲートから次元の狭間に現れたそれは、オーフィスと瞬く間に意気投合。

現在オーフィスは、この世界を静寂なる世界――アインスト空間に変えようとしているのだ。

 

勿論、そんなことを知っているのはごく一部のみ。

ヴァーリもそれを知ったのは禍の団に入った後の事である。

旧魔王派も、英雄派も知ってはいるものの

 

――オーフィスと言う「力」さえあれば後はどうなってもいい。まして人間の世界など。

 

など

 

――相手が強大であればあるほど、それを退けた「英雄」としての箔が付く。

 

などと言った理由で大して取り上げられもせず。

セラフォルーへの反感――魔女への風評被害――から協力していた「魔女の夜(ヘクセン・ナハト)」は

幹部のヴァルブルガが早々にアインストに鞍替えしてしまい

部下であるはぐれ魔法使いまでもその尖兵にしている始末である。

 

そして、そうなるようにオーフィスを仕向けた者こそアインストの長、レジセイア。

彼の影響を強く受けたオーフィスは、もはや静寂を求める無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)ではない。

静寂なる世界と称し、世界に破壊をもたらさんとする害悪そのものであった。

龍神としての力で辛うじて残った人格も、静寂なる世界への渇望から

アインストと大差ない存在となっており、結果としてウンエントリヒ・リヒカイトと言う存在を

生み出してしまった。

 

「……つまり、今の禍の団はアインストが運営している組織と言っても過言じゃない。

 俺が考えていたものとも、アザゼルが考えているものともまるで違う。

 

 ……フッ、これでは俺もアザゼルの事を笑えんな。

 俺が知っているのは、これだけだ」

 

「じゃあ一つ聞きたい。ディオドラ・アスタロトは禍の団に所属しているのかい?」

 

木場の質問に、ヴァーリは首肯する。

それを見て、木場は自分の憶測が間違っていなかったことを確信するとともに

一刻も早くリアスらをディオドラから引きはがさなければならないと考えた。

このままディオドラと行動を共にしていても、百害あって一利なしと判断したのだ。

 

「やはりか……こうなったら、ディオドラから部長や皆を引きはがさないと話にならない。

 このままじゃ、いいように使われて最悪禍の団にいつの間にか組み込まれてしまいかねない」

 

「なんて手間のかかる奴だにゃん、放っておきたいところだけど……

 そうもいかない。って顔してるわね、白音」

 

「……ええ。でも、これで部長の眷属としての仕事は最後にしたいと思います。

 滅びの力も、赤龍帝も禍の団に渡ったら面倒なことになりそうですし」

 

「私もそのディオドラと言う悪魔には気を付けたほうがいいと思うんです。

 ちょっと、いやな予感がするもので」

 

アーリィもシスターの勘という体であるものの、ディオドラからリアスらを引きはがすという

提案には乗り気である。

しかしその実態は――

 

(ディオドラ・アスタロト……そう言えば、シスター失踪事件の際には

 必ずと言っていいほどその悪魔が関わっているという情報がありましたね。

 もし、こちらの世界でも同じことをしているとするならば……

 

 ……アーシアが危ない!)

 

――と言う、向こう側の情報に基づくものであり、アーシアを心配するが故の

行動でもあるのだが、利害は一致している。

 

一方、一部始終を黙って聞いていたセージが、話が終わるのを見計らい口を開く。

その表情は、決して笑っていない真剣そのものであった。

 

「祐斗の意見には一応賛成だが……ヴァーリ。お前に一つ聞きたいことがある」

 

「なんだ、紫紅帝龍」

 

「お前も、この世界がどうなってもいいって思っている口か?」

 

セージの質問に、ヴァーリは肯定も否定もしなかった。

ヴァーリの戦う目的はただ強い相手との戦闘欲求のみなので

世界の行く末など些細な事であった。それは五大勢力会談においても証明されている。

 

だが、それはアインストの存在が公表される前の事。

アインストの存在が知れ渡るばかりか、三大勢力の存在どころか

神の不在さえも公にされた今もなお、ヴァーリは同じ感覚でいるのだろうか。

 

「俺は自分の身体を取り戻すために戦っている。だがそれとこの世界を天秤にかけた時

 俺はこの世界を取ると思う。お前にそうしろって言ってるわけじゃない。

 だが……世界の、そこに住む人々の自由と平和も守らなきゃならないって気はしている。

 それは俺が悪魔になった時に何となくだけど思ったことだ。

 

 こう見えて俺は強欲な方でな。世界の平穏も、俺の身体も。

 両方をものにしなければ気が済まない性質なんだ」

 

「……俺にどうしろと言いたいのだ」

 

「そうだな、はっきり言おうか。

 

 ……喧嘩売る相手を間違えるな。どう考えても今喧嘩売るべき相手は

 アインストやインベス、禍の団にフューラー・アドルフだろう。

 それをお前は赤だの白だのマゼンタだの小さい事に拘りおったからに」

 

『な……赤と白の戦いが小さい事だと!?

 白龍皇と赤龍帝の戦いはいわば宿命、必然!

 それを小さい事などと……』

 

セージの発言に声を荒げたのは、白龍皇アルビオン。

白龍皇として、赤龍帝との戦いは宿命づけられたものであり

それこそが彼の存在意義なのである。それを小さい事と言われては

彼の存在意義そのものを否定されることにつながる。

それ故、アルビオンは声を荒げた。だが。

 

『だからお前はロートルなんだよ。宿命だなんだって言ったって

 それしかやることが無いからだろう。

 やる事なんざちょっと目線を変えれば無限にあるってのに。

 お前の下らない宿命、必然とやらに若者二人を巻き込んで楽しいか?』

 

『……それは我らを神器に封印したヤハウェに言え。

 それにだな。神はおろか貴様ら人間ごときがドラゴンたる我らの戦いに口を挟むな。

 紫紅帝龍、貴様もドラゴンなら俺の言いたいことがわかるだろう』

 

『はっ、その上責任転嫁か。随分小さな話だな。

 もうこの世界にヤハウェはいないんだろ。いない奴に文句を言ったって仕方ないだろ。

 ……だから、お前らが行動で示せって話なんだよ。

 

 そもそも、俺はこんな形だがドラゴンじゃない。だったらドラゴンってなんだ?

 そんなに偉い代物だったら、猶更行動で示せ。

 今の俺には、お前はえらそうにふんぞり返っている

 メキシコサラマンダー(アホロートル)にしか見えないぞ』

 

セージに同調する形で、紫紅帝龍フリッケンが語り始める。

アルビオンを煽るような形ではあるものの

彼なりに、アルビオンに対し現状を変えろと促している物言いであった。

 

さらに追い打ちをかけるように、両者の脇から声が発せられる。

二人がその方角を見ると、アーリィが挙手をして二人を見据えていた。

 

「あの……私は赤龍帝にも出会ったことがあります。

 もっとも、ひどく欲望……それも色欲に忠実な方でありましたが。

 そういう意味では、欲望の方向性が違うだけで同じであると思います。

 今のお言葉を、そっくりそのまま赤龍帝にもお伝えしたほうがいいかもしれません。

 私から見てもヴァーリさん、あなた方の物言いには酷く違和感を覚えます。

 ドラゴンの世界ならいざ知らず、人間の世界でドラゴンの戦いを繰り広げると言う事に

 あなたは疑問を抱かないのですか?」

 

何気なく発したアーリィの問題発言。

ヴァーリとイッセーの共通項だけでなく

リアスのみならず、イッセーとも面識があるという発言。

 

「無い。と言いたいところだが……わからん、と言うのが正直だな。

 俺は強者との戦いを求めて禍の団に入ったが、奴らのやっていることは見ての通りだ。

 これに付き合わされているうちに、俺もいい加減嫌気がさしてきてな。

 だから、俺はオーフィスに戦いを挑んだんだが……」

 

「やる事が極端すぎるにゃん!」

 

黒歌の至極当然なツッコミを受けつつ、ヴァーリは自論を展開する。

アルビオンはともかく、ヴァーリは禍の団に入ったことで

彼らを反面教師とし、考え方が変わっている風に僅かながらにも見て取れた。

 

(まただ……この人は一体何者なんだ?

 グレモリー部長に面識があると言う事は、兵藤の奴とも面識があってもおかしくはないが。

 一体どこで見知ったというんだ? この人が冥界にいるわけがないし……)

 

その一方、アーリィの発言に対し疑問を抱いているものがいた。セージだ。

アーリィがクロスゲートからやって来たという情報が抜け落ちてしまっているため

セージにはどうしてもアーリィの発言に疑問点が生じてしまう。

そんなセージの思惑が表情に出ていたのか、とうとうアーリィからその事に関して

説明が行われることとなった。

 

「あ、そう言えば言いそびれていたんですけど……

 

 私、この世界の人間じゃないんです。クロスゲート? からやって来たみたいで……

 だから、帰るためにもクロスゲート、から出てきている……

 アインスト、でしたっけ。それを退治しないといけないんです。

 勿論、この世界のアーシアも気がかりですけど。

 何だか、今の話を聞いていたら言っておかなきゃいけないような気がしたもので。

 

 それに、今私がディオドラと言う悪魔に注意しなきゃいけない、って言ったのも

 向こう側でそういう話を聞いたからなんですよ。

 彼、シスター失踪事件と関わりのある悪魔らしいんですよ」

 

その突拍子もない爆弾発言に、セージ達はおろかヴァーリも目を丸くしていた。

一方、アルビオンとフリッケンは大して驚いていないようだ。

そもそも、フリッケンは別の世界からやって来ているし

セージも別の世界の存在は認識しているはずなのだが。

 

『何を驚く必要があるんだ、セージ。そもそも俺が違う世界からやって来たって言ったし

 お前だって違う世界の存在は認識してるだろうが』

 

『オーフィスがいたという次元の狭間は、あらゆる別次元と繋がっているとも言われている。

 クロスゲートとやらがその一種と考えれば

 あの女の言っていることはあながち間違いでもないだろう』

 

「それはそうだが……クロスゲートから人が来るなんて事例が……

 アインストならともかく」

 

「これは……薮田(やぶた)先生辺りに聞いておいた方が良かったかもしれないね。

 けれど、違う世界で部長や僕たちに会っていたなら今までの発言や

 アーシアさんに対する態度も納得がいくよ。

 荒唐無稽って点は、否定しきれないけど」

 

アーリィのいた世界の木場はどうだかはアーリィ以外にはわからないが

この世界の木場は冷静にアーリィの情報をまとめ上げていた。

セージもまた、フリッケンに突っ込まれて考えを改めている。

しかし一方で、アーリィの付け加えたディオドラの関わっているという

シスター失踪事件について、セージはある仮説を立てていた。

 

(シスター失踪……アインストにぶら下がっていた砕けたロザリオ……

 ディオドラの眷属……ま、まさか……!

 この仮説が本当なら、悪魔の駒を与えた後にさらにミルトカイル石を与えたって事か!

 なんて……なんてことをしやがるんだ!!)

 

それは、ディオドラはシスターを攫い、悪魔にして囲った後に

ミルトカイル石でアインストへと変貌させたのではないか、と言う仮説。

まだ仮説の域を出ないが、自然とセージの右手には力が込められていた。

 

「うーん。私は難しい事は投げるタイプだけど

 今やらなきゃいけないのはアインストを倒すことと、この町の解放と

 お兄さんの身体を取り戻すことと、他にも……って多すぎにゃん!」

 

「……だから、順序を決める必要がありそうです」

 

一方で黒歌の言う通り、今セージ達がやるべきことは非常に多い。

アインスト、インベスと言った怪物や禍の団から駒王町を解放し

平和を取り戻す事。セージの肉体の奪還。

そしてアーリィの帰還に、リアス眷属における問題の解決と

先行き不透明なものばかりだ。だからこそ、白音が言う通りに順番が大事だ。

 

「あ、けどお兄さん。これだけは言っておくにゃん。

 ……自分の身体は後回しでいい、なんて悠長な事言ってられないはずにゃん。

 だったら、何が何でもそこは優先してほしいにゃん」

 

「……そこは姉様に同意見です、セージ先輩。

 私達でフォローしますし、セージ先輩はまず自分の身体を取り戻すことを考えてください」

 

「アーリィさんも、クロスゲートから来たって事を考えればクロスゲートから帰ることが出来る。

 そう考えるのが自然だよね。だったら、答えは一つだ」

 

「すみません……でもなんだか不思議なものですね。

 実は、私の世界ではあなた方……木場さんと塔城……ああ、白音さんでしたっけ。

 あなた方とは刃を交えたことがあるんですよ。それなのに、こっちでは協力していただける。

 嬉しいというか、なんと言うか不思議なものです」

 

アーリィの不思議な縁に、一同は改めて世界が違う事を認識させられる。

リアス・グレモリーの尖兵として刃を交えた木場と小猫が、こちらの世界では

リアスから半ば独立した形でアーリィに協力しようとしているのだから。

 

そして、一連の流れを聞いていたヴァーリがその二人に質問を投げかける。

 

「うん……? お前達、リアス・グレモリーはいいのか?

 眷属が主から離れては、はぐれ悪魔にされてしまうはずだが?」

 

「……私は、姉様と一緒に歩むことを決めましたから」

 

「僕は部長を説得してみるさ。聞く耳を持ってくれるかは、何とも言えないけどね」

 

ヴァーリの問いかけに対しても、二人の意思は固い。

既に、リアス・グレモリー以外の心の拠り所を、信念を見つけたがために

リアス・グレモリーは最早絶対の存在ではなくなっているのだ。

 

「はぐれ悪魔……私の世界では、人に害を成す無法者の集まり……って印象でしたが

 こちら側では違うのですか?」

 

「ああ、それについては……」

 

アーリィの疑問に対して、セージがかつて遭遇したはぐれ悪魔などを引き合いに出し

説明をしている。悪魔の駒と言う外部要因があって初めて起こり得る現象であると

睨んだセージは、それによってかつて黒歌を呪縛から解き放った。

そして今、神仏同盟らの手によって悪魔の駒の摘出手術と言う

はぐれ悪魔を生み出す土壌を根本から覆す様な技術が発見されそうな状態にいるのだ。

 

「そ、それは素晴らしい発見です! それがあれば歪んだ忠誠も

 コレクション感覚で強引に悪魔にされてしまった方々も元に戻せるという事ですよね!?」

 

「ぐ……っ、アーリィさん……前にも言ったかもですが……く、くる……」

 

屋内と言う事もあり実体化していたセージに、つい感情を爆発させて掴みかかってしまうアーリィ。

彼女もまた、悪魔によって家族を奪われた経緯があるため

その悪魔を象徴するかのような悪魔の駒を摘出できるという情報は吉報であることこの上なかったのだ。

 

「あっ、すみません! つい……」

 

「……本当に悪魔の駒って最低にゃん」

 

アーリィの過去を察した黒歌が、一言毒づく。

彼女自身、悪魔の甘言に乗ってしまった経緯があるためその言葉の重みはまるで異なる。

 

そうこうしているうちに、ヴァーリの傷の痛みも治まるが

それと同時に外の戦闘音が再び激しさを増す。

外を見ると、イリナがイッセーを探していた。

 

(あいつは……! クッ、フリードがいる時点でこの可能性を考慮するべきだった!)

 

「あれは……イリナ! イリナなら私達に対して悪いようにはしないはずですけど……

 ま、まさか……」

 

アーリィは教会の出身と言う事もあり、向こう側でもイリナと知己であったが

こちら側のイリナは神の不在のショックから禍の団に所属している。

その差を思い出し、アーリィはかけようとした声を飲み込む。

 

「ああ。イリナも禍の団に所属している。フリードや俺と行動を共にしていたが……

 やたら赤龍帝にご執心のようだ。俺が言えたことじゃないがな」

 

「ああ……あの子はちょっと思い込みが激しい所があるから

 危なっかしい部分があるとは思ってましたが

 こっちではまさかこんな事になっているなんて……!」

 

ヴァーリの発言に、アーリィは頭を痛める。

木場や白音とは逆に、害のない自分の知己が周囲の迷惑を顧みない行動を取っているのだ。

頭が痛くならないわけがない。

 

「では、あの子にちょっとお話を……」

 

「いや、それはちょっと待った。エクスカリバーの一本をまだ持っているはずだし

 そもそも、龍殺しの聖魔剣(アスカロン)を持っているんだ。しかも、それでミカエルを刺したらしい。

 今近づくのは、肉食動物の檻に自分から飛び込むようなものだ。

 アーリィさん。確認しますが、こっちのゼノヴィアさんはあなたの事を知ってたんですか?」

 

「いえ、全く知らないみたいでした」

 

「だったら尚更まずい。多分イリナもあなたの事を知らない。

 そんな状況で飛び出しても、敵が出て来たと見做されかねません……」

 

セージの制止に、またアーリィは頭を痛める。

何せ、自分たちにとっては信仰すべき対象である天使、それも熾天使に刃を向けたのだから。

おまけに、ゼノヴィア同様イリナもアーリィの事を知らない可能性があるのだ。

そうなっては、説得どころではない。

 

「……セージ君。今ちょっとずるい事を思いついたんだけど……乗るかい?」

 

「なんだ、祐斗」

 

「僕らは部長の所に向かっている。そこにはイッセー君もいるはずさ。

 そして、そこにイリナを連れて行く。多分ディオドラもそこにいるはずだけど……」

 

「それじゃ、敵が増えちゃうにゃん」

 

木場のとんでもない提案に、黒歌が怪訝な表情を浮かべる。

ディオドラとイリナの二人を相手にするには、少々戦力が心許ない。

そもそもディオドラの戦力は未知数だ。

 

「そうじゃない。イリナは禍の団にいるんだろ? そこにディオドラを鉢合わせれば

 何か動きがあるはずさ。後は部長らともうまく協力して

 一網打尽に出来るのが理想だけど……」

 

「そのためには、俺も動いた方が良さそうと言うわけか。

 ……いいだろう。ただしこれで貸し借りは無しだ。紫紅帝龍。

 この件が片付いたら赤龍帝かお前のどちらかとは決着をつけるからな」

 

しかし、この作戦の肝はディオドラの尻尾を掴むことだ。

木場の意図を察したヴァーリは、渋々ではあるもののセージ達に同行することを宣言。

ただし、傷の手当は不完全なものであるため戦力とはならないが。

 

ディオドラの不正を暴くために、一同はイリナの下へと飛び出したのだった。




とりあえず現時点ではスポット参戦的扱いですね>ヴァーリ

今回はご覧の通りに説明回。
でもヴァーリの言った事って結局攻略法とかは喋ってないので
セージがその気になれば調べられる事だったり……

そこ、微妙に役立たずとか言わないであげてください。

アーリィさんの身の上バラシも唐突感は否めませんが
これ引っ張ってもしょうがないと思いまして。
木場の言う通り薮田先生がいた前回でばらすべきだったかも。

一方でオーフィスを変貌させたアインストについてはまだ引っ張ったり。
これもバラそうかと思いましたが、そこまでヴァーリが知っているのも
違和感があったので先送り。

結局禍の団って、クリフォト以外(下手すりゃこいつらも)
オーフィスが別の同質の存在になってもお構いなしじゃなかろうかと思い
アインストになってようが原作同様って事で。

貰ってるものは蛇より性質悪いですし、英雄派もフューラー一派除けば
アインストの影響を受けそうな連中がいそうな気がしてならんです。
扱いに困ったのは魔女の夜。幹部はアインストの力に屈して寝返ったとか
理由はいくらでも作れそうだけど、末端は……

ここでも名もなき一般兵ポジの方々が犠牲になったよ!

イリナ。
こいつもフリード同様色々な意味でぶれない。
木場はヴァーリとイリナをディオドラの下に連れていくことで
動きがあると睨んでますが……

って木場が結構騎士から外れた思考をし出した件について。
セージの悪影響(?)がこんなところにも。

そして芽生えた二天龍ウーパールーパー説。
アルビオンは白いから余計にウーパールーパーっぽいような、そうでないような。

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