ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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前回、特別篇のご案内をさせていただきましたが

「その特別篇を本編と番外編どっちで投稿するか」
のアンケートを取らさせていただきたいと思います。

当初は本編には多少絡む程度の予定だったのですが
予想以上に本編に絡んでしまいそうなので
急遽アンケートを取らせていただくことになりました。

番外編に投稿すると本編が間違いなく飛ぶことになるので。


Late returnees. Case. Jaldabaoth

それは、イギリス・カーナーヴォン城にて天界勢力と現地の異能者による

対談が終了した矢先の出来事であった。

フューラー・アドルフを名乗る男が、三大勢力の存在を公にしたのだ。

 

勿論、初めは誰もが与太や映画のプロモーションと思った。

しかし、それを裏付ける証拠が次々と上がってしまったのだ。

 

ヴァチカンの司教枢機卿。

駒王学園をはじめとする悪魔の拠点。

そして、どこで見つけたのかは定かではないが、神を見張る者(グリゴリ)のアジト。

挙句の果てには、悪魔による悪魔転生や拉致ともいえる強引な勧誘に加え

堕天使による神器所有者の殺害、人体実験。

天界による洗脳、そして過去バルパー・ガリレイが行った少年少女への虐待と

神の不在さえも、フューラーは平然と公表したのだ。

それはかつて、アドルフ・ヒトラーが絶滅させんとしたユダヤの民が信仰する

宗教への、弾圧ともいえる内容の公表であった。

 

その身なりと、語り口、話す内容からフューラーは文字通り「総統閣下」と呼ばれ

「ヒトラーの再来」とさえも噂されるようになったのだ。

当然、そうなれば国連が黙っていない。神の不在を知ったキリスト教国は

ヴァチカンに対し説明の要求を行い、キリスト教国の一つであるアメリカが混乱したために

世界経済は恐慌状態に陥ってしまっていたのだった。

 

神の不在の公表による影響の少なかった日本だが、これには大慌て。

駒王町への支援も、立ち行かなくなる状況にまで追いやられてしまうのだった。

 

「……これは、少々マズい事になりましたね……」

 

「こ、ここまで信徒に混乱や疑心が生じては、システムが……

 いえ、天界やこの世界そのものが立ち行かなくなる恐れがあります」

 

神の不在を埋め合わせる形で天界が……いや、熾天使が作り上げた「システム」。

神の加護や、神器(セイクリッド・ギア)の管理を行っている人工的な装置だ。

それが機能しなくなることを危惧したガブリエルだが、目の前にその神の影武者たる

ヤルダバオトがいることと、彼自身がシステムに難色を示しているため

慌てて言葉を取り繕っている。

 

「構いませんよ。その程度のシステムで如何こう出来る程度の仕事しか

 していませんでしたからね、私も『(ヤハウェ)』も。

 ……それより、こうなった以上私も『薮田直人(やぶたなおと)』から

 『ヤルダバオト』になる必要があるようですね。

 

 ……あるいはそれこそが、あのフューラーと言う者の目的かもしれませんが」

 

薮田――ヤルダバオトの言葉に首をかしげるガブリエル。

彼が言うには、まるで聖書の神を無理矢理引きずり出そうとしている風に見えるのだ。

いもしないものを引きずり出すという、矛盾した行動。

無理矢理にでも聖書の神を立たせることに、何か意味があるのだろうか。

ヤルダバオトの胸には、その不安が去来していた――

 

―――ー

 

「ではガブリエル。直ちにヴァチカンに向かいますよ。

 最悪の事態だけは、なんとしてでも避けねばなりません。

 

 ……最も、もう手遅れかもしれませんがね」

 

「手遅れ……と言いますと?」

 

さらりと恐ろしい事を言うヤルダバオトに、ガブリエルは質問を投げかける。

 

「人々の間に芽生えてしまった疑心を可能な限り取り除きます。

 疑心は暗鬼を生ず……日本の言い伝えです。恐らく、フューラーの演説で

 隣にいるものが悪鬼の類であると疑惑の念を抱いてしまっているでしょう。

 そしてその疑惑の念を実際に向ければ……どうなりますか?」

 

「それは……ま、まさか……人々はそんな……!!」

 

「そのまさかですよ。あなた方の……いえ、我々の存在は確かに人々を導きました。

 しかし、それは我々の潔白があって初めて意味を成します。

 ガブリエル。改めて問います。あなた方……いえ、我々は潔白ですか?」

 

それは、聖書の神の影武者から問われた、とんでもない質問。

自分たちは潔白であるかどうか。ガブリエルは

その質問に対する答えを持ち合わせることが出来ない。

何せ、自ら神の消滅を知りながらそれを隠蔽していたのだ。

その時点で黒である。下手をすれば、自分たちが神に成り替わる事だってできるのだ。

それはつまり、天使による神への冒涜に他ならない。

それを成そうとした天使がいるとさえ噂されているほどだ。

そんな者達が、どうして潔白などと言えようか。

 

「……あの会談の件を併せて考えれば、とても首を縦には振れないでしょう。

 もし縦に振れるのでしたら、あなたもある意味傲慢な天使の一人と言う事でしょうね」

 

「わ、私は決してそのような……!」

 

「承知していますよ。ですから、今からヴァチカンに向かうのです」

 

「は、はい!」

 

(私もいよいよ、『薮田直人』の名を返上せねばならないのかもしれませんね……

 まだ、この名前でやらなければならないことは多数あるのですが……)

 

そしてヴァチカンにたどり着いた二人だが

そこでは恐れていたことが現実になっていたのだ。

司教枢機卿は暴動でその機能の大半を喪失し

信徒たちは真っ二つに分かれてしまっている。

ある者は、信仰のためにフューラーの言葉を否定し、盲信ともいえる信仰心を見せ。

またある者はフューラーの言葉に踊らされ、かつて信じたものを疑い始め。

そしてまたある者は、そんな信徒達の暴動に心を痛め。

 

――信徒同士による血で血を洗う争い。

かつて寝食を共にした敬虔なる信徒たちが繰り広げる地獄絵図が、そこにあったのだ。

 

(これは……してやられましたか。このような状態になってしまっては

 我々がここに立ち入れば混乱を激化させかねませんね。

 まして、私がヤハウェの影だなどと名乗ったところで、誰も耳を傾けないでしょう)

 

ヤルダバオトとガブリエルの存在に目もくれず、争いを続ける信徒。

これこそがフューラーの狙いだったのだろうか。

もしそうだとするならば、こうもあっさりと内乱を始めてしまうのは

人のなせる業なのだろうか。

 

「……ガブリエル。こうなった以上あなたは天界に戻りなさい。

 今の状態で天使……それも熾天使(セラフ)が降臨したとなれば

 どんな形であれ混乱は加速します。我々は、打つ手が遅かったのかもしれません。

 私はなんとか『人間』としてこの事態の収束を図りますが……

 期待はしないでください」

 

「……やはり、あなたに主として顕現していただくのが一番……」

 

「こうなった以上無駄ですよ。今更主だなんだと言っても

 精々カルト紛いの新興宗教止まりの影響力しか無いでしょうし

 そんな影響で、この事態が収束するとは思えません。

 フューラーを『人間』と言い切っていいものかどうかはわかりませんが

 この邪悪さはまごう事無き人間です。人間の業は、人間が払うべきです。

 前に言ったはずですよ。ヤハウェの、神の、我々の出る幕はもうない、と」

 

ヤハウェの影武者自ら、神を否定する。

そのスタンスに、ガブリエルは心が張り裂けそうになっていた。

だがそれも、ヤハウェの最期に残したとされる言葉

 

――人はもう、我々から巣立つ時なのだ。

 

という言葉に集約されるのかもしれない。

そう。神は人を愛し、そして自分達も人を愛していたはずである。

それなのに、今目の前の人々は自分達を否定し

争いのダシにする始末である。

ただ巣立つだけならば、寂しさもあるが成長を喜ぶべきであると

ガブリエルは考えていた。しかし、こうなっては話が違ってくる。

自分たちの存在が、争いを招いている。

その事が、ガブリエルにとってはとても悲しい事実だったのだ。

 

「……わかり、ました」

 

「……私も、あなた方に謝らなければなりませんね。

 人類代表などと烏滸がましい事を言うつもりはありませんし

 私が人類代表などと言うべきではありませんが……

 人間・薮田直人としてあなた方には謝るべきなのでしょう」

 

「……あえて、厳しい事を言います。

 そう思うのでしたら、その思いを一人でも多くの人に伝えてください……」

 

「……肝に銘じましょう。では、頼みましたよ」

 

「ヤルダバオト様も、どうかお気をつけて」

 

ガブリエルが転移したと同時に、ヤルダバオトも転移を始めようとする。

 

……その矢先、どこからともなく魔力弾が飛来してくる。

すんでのところでかわすことも出来たが、ここで避けては

魔力弾が信徒に命中してしまう。やむなくヤルダバオトは創世の目録(アカシック・リライター)

魔力弾を相殺した。

 

「ん~、やっぱこうして出てきても驚かれねぇな。

 あのフューラーとか言う人間、言ってる事はあってるが余計なことしてくれたよ」

 

「……何の真似ですか。リゼヴィム」

 

そこにいたのは、魔王の装束に身を包み、6対の翼を持った悪魔。

しかしサーゼクスとは異なり、その髪は銀色で、ヴァーリを思わせる。

リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。それがその悪魔の名前であった。

 

「何の真似? そりゃ決まってるだろ。てめぇに生きていられると困るんだよ。

 

 ……そう電波が言ってるんだよ。電波だよ。電波。

 本物の神はもういない、偽者の神を潰せば悪魔は真に悪魔足れるってな。

 そう電波が言ってるんだよ。電波がなぁ!!」

 

咆哮と共に、魔力弾をヤルダバオトめがけて放つリゼヴィム。

彼の能力「神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)」はあらゆる神器を無効化する。

しかしその対象は神器のみであり、それ以外の異能には適用されない。

だがヤルダバオトの持つものも神器であり、そういう意味では相性が悪い。

 

「……くっ!」

 

「ああそうだ。お前人間のふりしてるんだったよなぁ?

 その時に作ったもの使ったらどうだ? そうすれば万が一にも勝てるかもしれないぞ?」

 

実際、ヤルダバオトは数々の装備を薮田直人名義で開発していた。

しかしそれらはすべて、人間の科学力で再現可能な範囲にとどめており

超常的な存在にどこまで対応できるのか、は定かではない。

しかし神器ではないので、万が一ではあるもののリゼヴィムに対し一矢報いることは

出来るかもしれないのだ。

 

「……私は兵器を作ったつもりは無いんですがね」

 

「てめぇはそうでも、人間どもはそう思ってねぇかもしれねぇぞ?」

 

「……かもしれませんね。ですが、人が作りしものは、全て使い方次第ですよ。

 リゼヴィム、お望み通り使わせていただきますよ」

 

一か八かではあるものの、ヤルダバオトは完成したばかりのドローンドロイドを

リゼヴィムに向けて放つ。鳥や虫など、様々な形状をしたドローンが

リゼヴィムの周囲を取り囲む。数に物を言わせる作戦だ。

 

「ひゃはははははっ!! 本当にやる奴がいるかよ!!

 こんなガラクタ、あっという間に消し炭にしてやるからなぁ!!」

 

リゼヴィムの宣言通り、ドローンドロイドは一瞬で消し炭にされてしまった。

しかし、爆発の際に起きた煙幕の中に魔よけの香が含まれており

それをもろに吸い込んだリゼヴィムは、しばらく動けなくなってしまった。

 

「げほっ、げほっ……て、てめぇ……! よくも……!!

 

 ……い、いない!? くそぉぉぉぉぉっ!! ヤルダバオトぉぉぉぉぉ!!

 どこ行きやがったぁぁぁぁぁぁ!? おい、教えろよ電波!!

 電波電波電波電波電波ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

煙幕を利用し、その場を後にしたヤルダバオト。

その後腹いせに周囲が爆撃されたが、その前に「悪魔の襲撃がある」と

リゼヴィムを指してヤルダバオトが避難勧告を呼びかけたため

奇跡的に被害は最小限で済んだ。

 

……もっとも、避難場所で争いの続きが行われることになったが。

さすがにそこまでヤルダバオトも関知せず、日本に戻るべく行動を再開するのだった。

 

――――

 

「陸路も海路もほぼ封鎖状態……仕方ありませんね」

 

空港もテロの影響で閉鎖されており、反則技だとは思いつつも

転移によって日本へと移動することにした。

このテロのお陰で、日本は意図せずして鎖国状態に陥ってしまっている。

それも、駒王町の復興を妨げている一因であるのだ。

何せ資源の大半を輸入に頼っている国であるのに、その輸入が立ち行かないのだ。

 

(なんとかして駒王町に戻らないと、大変なことになっているでしょうね……)

 

しかし、この時全能の神の影武者たる彼でも予想だにしない影響があったのだ。

駒王町に存在する、クロスゲートである。

それが起動していたことにより、ヤルダバオトの転移タイミングにずれが生じてしまったのだ。

結果、ヤルダバオトが駒王町にやって来たのは9月頃。

既に二学期が始まっているはずの時期であり、リアスらも駒王町に戻っていた頃だったのだ。

リゼヴィムから離れたことで使用可能になった創世の目録で、現在の日時を調べ上げたことで

ヤルダバオトは一つの結論に思い至った。

 

(これは……予想よりも遥かに酷い状態ですね……

 いえ、転移の際に時間のずれが生じたと見るべきでしょうか。

 原因として考えられるのは恐らくゲート……とにかく、私も情報を集めない事には動けませんね。

 創世の目録を使うよりは、現地の人々から聞いた方が早いでしょう)

 

幸いにして、ヤルダバオトが転移したのは駒王警察署の近く。

彼は薮田直人として超特捜課の兵器開発の協力も行っていたのだ。

つまり、警察にも顔が利く。不幸中の幸いと言えよう。

 

しかし、ヤルダバオトは知らなかった。

クロスゲートが呼び寄せたのは、転移タイミングのずれだけではないと言う事を。

そこには、この世界にいないはずの存在が、クロスゲートを通ってやって来ていたのだ。




>リゼヴィム
原作の彼が狂っているのもきっと電波だろうと言う事で
須藤竜也(ペルソナ2)な事になってます。電波っぱー!
須藤が狂った理由を考えると、リゼヴィムも同じ理由で狂ったことになるわけですが
そうなると間違いなく彼はラスボス候補から外れます。

……まぁ、ラスボスって器でも無いと思いますし。
それ以前にタイトル詐欺になるから
セージの身体戻った時点で第一部完になる可能性大ですけどね。
そしてそれはそう遠い話でも無かったり。

>司教枢機卿
暴動で機能停止しました。
警察が無能になるのはフィクションではよくある事ですが
拙作ではなんだか逆になってる気がします。
けれどフューラーの演説一つでここまで混乱するあたり
ヤルダバ先生の目論見は外れていたことになるんですよね……実際外れましたが。

>クロスゲート
……ヤルダバ先生の転移タイミングと事件の時間が合わないことに関する
ご都合主義的な面は否めませんがこれ出典元からしてこういう機能があるとしか……
実際駒王町のクロスゲートは起動していたため、アーリィさん登場よりも後で
ヤルダバ先生が駒王町に帰還したことになってます。

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