ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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今回は演出の都合上三人称視点です。
また、タグにもありますが残酷な描写が出てきますのでご注意ください。

……特にレイナーレは俺の嫁、って方は。


Revenger Dragon

『夕麻ちゃん……そうだな。やっぱ俺、夕麻ちゃんの事が忘れられないんだ』

「な、何を言っているのイッセー!?」

 

突然の下僕の変化に、思わず混乱するリアス・グレモリー。

対する兵藤一誠は、おぼつかない足取りで天野夕麻――レイナーレの元へと歩いていく。

 

(くくっ、本当にバカな子。あれだけやったのに、まだ縋り付いてくるなんて。

 バカで……救いようがないわねぇ)

 

今まで泣き叫んでいたのは演技と言わんばかりの邪悪な笑みを忍ばせながら

レイナーレはイッセーを抱き寄せようとする。

この場合、人質として使うのが妥当だろうか。

 

「ありがとう、イッセーくん。本当に……バカな――」

『バカはてめぇだ。忘れられなかったんだよ――殺したくて殺したくてな!!』

 

突然、イッセーの声色が変化する。それは兵藤一誠というよりは

彼に憑いている生霊、歩藤誠二のそれである。

彼ら二人とも、さっきまで死闘を演じていた。ダメージも大きかったはずである。

それなのに動いているのは、もはや復讐心で動いているにほかならない。

 

イッセーの意識は、もう今しがた心が折れた時点で切れかかっていた。

そこを、怒りが爆発したセージが乗っ取った形だ。

その証拠に、イッセーの左手の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)は、右手に転移している。

これはセージが右手に下位互換の神器(セイクリッド・ギア)である龍帝の義肢(イミテーション・ギア)を装備しているためだ。

イッセー、いやセージは右手でレイナーレの首を掴む。

今までの怒りと憎しみを全て爆発させるように、膝蹴りを何度も何度も食らわせている。

 

「ぐ、お、おのれ……グレモリーならいざ知らず、お前のような下級悪魔風ぜっ、が……はっ!」

 

レイナーレの負け惜しみにも、セージは無言で首を絞める手の力を強めるのみ。

その間も、容赦なく叩き込まれる膝蹴りが止む事はない。

 

BURST!! BURST!! BURST!!

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が悲鳴をあげている。

悲鳴というよりは、倍加の過剰を示す警告音であるが。

それでも、セージは攻撃をやめようとしない。

 

「セージ! やめなさい! それ以上はイッセーもあなたも持たないわ!」

『……ちっ。うるさい。どいつも、こいつも』

 

リアスの制止さえも、今のセージには届かない。

厳密にはセージは死んでいないのだが、肉体がないという点では

ある意味、死んでいると言える。そしてその仇は、友を殺した張本人。

時ここに至りて、復讐心が爆発したのだ。

 

「こ、の……至高、の、堕天使、である……わた、し、を……!」

 

『うるさいと言ったんだ……お前は、黙って俺に殺されろ……!!

 おまえみたいなのは、生きていたらいけないんだ……お前が死ぬべきなんだよ……

 お前が! 今、ここで! 俺が殺してやる、殺してやる……殺してやる!!』

 

WELSH-DRAGON UNCONTROLLABLE-BOOSTER!!

 

突如、セージの、イッセーの体が赤黒いオーラに包まれる。

それはまるで、セージの復讐心を具現化したかのような存在。

 

全身は禍々しい漆黒の鎧に包まれ、鎧の縁に入った赤ラインが

辛うじてそれがドライグ由来のものであると認識させる程度。

それは、後に禁手(バランスブレイカー)と呼ばれる赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)に酷似していた。

 

「あれは……禁手(バランスブレイカー)!?

 今のイッセーでは到底耐えられないわ! すぐにそれを解除しなさい!」

『……さっきからうるさい。他人に断りもなく主サマ面しやがって。

 お前も気に入らなかったんだ……後でお前も殺してやる』

 

だが、それは本来の禁手(バランスブレイカー)とはかけ離れた存在。言うなれば、歪な禁手(イリーガル・バランスブレイカー)である。

申し訳程度の赤ラインにしか赤龍帝の名残がないそれは

赤龍帝の激情鎧(ブーステッド・ギア・バイオレントメイル)と言えるだろう。

 

しかし、かけ離れたとは言えパワーは本来の禁手(バランスブレイカー)とほぼ同格。

あまり位の高くない堕天使であるレイナーレ相手には、些か過ぎた力だ。

 

だが、今のセージにはそんな事はお構いなしだ。

レイナーレの首を掴んだまま、教会の床に叩きつけ

憎しみをぶつけるかのように拳の殴打を繰り返す。

みるみるうちに、レイナーレの元々は美しい顔も変色していく。

 

それでもセージが殴る手は止まらない。

そのあまりにも残虐な戦い方を見かね、グレモリー眷属の戦車(ルーク)塔城小猫が押さえ込み

同じく騎士(ナイト)の木場祐斗が関節を狙い、動きを止めようとする。

 

「……セージ先輩、やめてください。これ以上は先輩が……」

 

「そうだ、セージくん。僕が言えた義理じゃないが

 これ以上は君もイッセーくんも危ない!」

 

『……邪魔を、するな。あっちに、行け』

 

小猫もその体格に似合わない力を持っているが、いかんせん相手が悪い。

中身はついこの間転生して悪魔になった下級悪魔に過ぎないのだが

今は禁手(バランスブレイカー)と同格かそれ以上の力を持っている。

 

それに振り回されているとも言えるが

その何もかもを顧みない戦い方の前にはそんなものは無意味である。

木場も、いくら男子とは言え力の強い方ではない。

その為関節を狙うことでセージを抑えようとしたが、関節をも

赤龍帝の激情鎧(ブーステッド・ギア・バイオレントメイル)はカバーしており、木場の剣が通らない。

 

「……いやです。私、先輩に言いました。何かあったら止める、って」

「悪いけど僕も同意見。せっかく仲間になれたんだし、それにセージくんには約束もあるからね」

『邪魔だと……言った!!』

 

そのまま木場や小猫を弾き飛ばし、空に掲げた左手からでたらめな方角に稲妻を飛ばす。

それはレイナーレに対する攻撃であるとともに、グレモリー眷属に対する牽制も兼ねていた。

先刻セージが使った目くらましの稲妻ではなく、威力だけならば恐らくオリジナルであろう

姫島朱乃のものに匹敵する。狙いなどつけていないため、結局は先刻と同じ効果だが。

 

「あれは、私の……! おそらく、イッセーくんの神器(セイクリッド・ギア)だけではなく

 セージくんの神器(セイクリッド・ギア)も同時に暴走状態になっていると考えられますわね」

「くっ、みんな! セージを、イッセーを止めるわよ!

 この際レイナーレには構ってられないわ!」

 

グレモリーの眷属たちも、暴走したセージを止めようとするが、あるときは雷撃。

またあるときは接近戦を仕掛けた木場や小猫を朱乃やリアスめがけてぶん投げることで反撃。

接近しても禍々しいオーラの剣を実体化させ、それは木場の剣を尽く腐食させていく。

小猫に対しても出力の増大した光剣を振り回し、接近さえさせない。

朱乃やリアスの魔法も同様。歪に変化した拳銃を二丁振り回し、魔法を使う暇すら与えられない。

 

これらは全て、セージが今までに記録した武器や技である。

普段セージが使う際には、負荷軽減のために必要以上の力を出さないように

レベルやコストで制約を設けたり、使用そのものが出来ないようになっている。

セージの神器(セイクリッド・ギア)記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)そのものの安全装置と言える。

 

だが、今は暴走したことで安全装置が全く作動していない状態である。

例えるならば、バルブが壊れてしまってだだ漏れになっている配管である。

 

『――俺は知ってる。このような光景を。あれは、夢じゃなかった。

 なら――ここにいるお前ら全て、俺の、俺の敵だぁぁぁぁぁぁ!!!』

「!?」

「セージ、くん……」

「て、敵……僕たち、が……!?」

「そんな……セージ、どうして……っ!!」

 

ついにセージはリアスの魔力である滅びの力までも発動。

それは制御が不安定で周囲にクレーターを作るに留まったが

この一撃と、セージの叫びはグレモリー眷属に大きな衝撃を与えていた。

セージの頭によぎるのは、今しがた見たオカ研の部員に追われる夢。

そして、光の槍が自分を貫く夢。

 

今の状況は、あまりにもその光景と似通っている。おまけにセージは錯乱状態。

オカ研部員を敵と誤認するのも、無理からぬ話であった。

 

一方でレイナーレは避難し、回復を済ませていたが

それは悪手だった事を即座に思い知ることになる。

目の前の惨状を受け入れられず、また今や至高の堕天使と言える存在になった自分が

いくら禁手(バランスブレイカー)とはいえたかだか下級悪魔ごときに負けるなどとは思ってもいなかったのだ。

 

当然、その慢心の先にあるものは――言うまでもない。

 

「く、あ、ありえないわ……下級悪魔ごときが禁手(バランスブレイカー)などと! ありえないのよ!!」

『その下級悪魔に震えているのはどこの誰だ?

 それと回復してくれてありがとうよ――まだ殴り足りなかったからな!!』

 

セージめがけて光の槍を投げつけたレイナーレだが、赤龍帝の激情鎧(ブーステッド・ギア・バイオレントメイル)には傷一つつかない。

蚊に刺された程度にも感じない素振りを見せたセージが左手をレイナーレにかざすと

セージの周囲から光の槍が現れる。

 

そしてそれはレーザー砲の集中砲火のように、レイナーレめがけて収束された。

突き刺さった光は弾け飛び、爆発を起こす。

その後には今しがた回復したばかりだと言うのに

既にボロボロになったレイナーレが膝をついていた。

 

「そん、な――あく、まが、なぜ……」

『――悪魔悪魔うるさいよ。誰のせいでイッセーが悪魔になったと思ってるんだ。

 誰のせいで人間やめなきゃならなくなったと思ってるんだ。誰のせいでェェェェェェェ!!』

 

うつ伏せに倒れたレイナーレを、セージはこれでもかとばかりに足蹴にする。

人間をやめなければならなくなった友の無念を叫び、晴らすかのように。

当の本人が人間をやめて悔いているかはまた別問題でもあるが。

 

「……そ、そうだ。イッセーくんを、悪魔にしたのは

 そこの、グレモリーの娘よ! わ、私は関係ない、だから!」

 

仰向けに転がされ、セージを見上げる形になったレイナーレは

声を振り絞りセージの叫びに答える。

 

だがそれは、セージの憎悪の炎に火種を追加する形で終わることになった。

この期に及んでまだ命乞いをするその姿は、憎悪の炎を激しく燃え上がらせ、頭の血を冷まさせる。

 

『……お前。本当にどうしようもないな。この期に及んでもまだ他人を売り飛ばそうとするか。

 それに第一お前がイッセーを殺さなければ、そもそも済んだ話だろうが。

 お前がここに来なければ、そもそも済んだ話だ。お前がいなければ、そもそも済んだ話だ。

 お前がバカにされた? 見返したい? ふざけるなよ。知るかよそんなの。

 この国には因果応報って言葉があってな。そういう態度だからお前はバカにされ続けたんだよ』

 

「お、お前に……お前に私の何がぁぁぁぁぁ!!」

 

そう言って見下すセージの目は、鎧の仮面に包まれて伺い知ることはできない。

セージの言葉は、今度はレイナーレのトラウマスイッチを入れたのか

激昂してセージに殴りかかろうとする。

 

しかし、相手は下級悪魔とは言え今は禁手(バランスブレイカー)。あっさりと手首を掴まれ組み伏せられてしまう。

 

『だから知らないって言っただろうが。これで言ったの三度目だぞ?

 それに、お前は明確な理由で殺されるだけマシだ。

 イッセーや俺みたいに、わけもわからないまま死ぬよりかは、恵まれていると思うがな』

「……!?」

 

一この時、レイナーレはようやく悟った。もはや、命乞いなど無意味な状態であること。

あの時素直に罪を認めていれば、こうならずに済んだかもしれない。

 

「た、助けて……」

『助けて? 誰が? 何を? お前は散々他人を弄び、利用し、喰らい尽くした。

 お前は今まで誰かを助けたのか? 無いだろう? 無いだろうな。それが今のお前の結果だ!!』

 

戦意を失いかけているレイナーレを後ろから蹴り倒し、またも踏みつける。

背中を見せる形になったレイナーレの黒い翼。

堕天使の象徴とも言えるそれを、セージは強引にへし折り、引きちぎる。

翼を片方ずつ引きちぎると、今度は念入りに足をへし折り、蹴飛ばす。

 

しかも質の悪いことに、喋られるように回復まで施している。

これはセージの方の神器の力である。

禁手化(バランスブレイク)したことで他者にも回復の力を使えるようになったようである。

 

ただし、他人を癒すというよりは尋問の為にカツ丼を出すようなものだが。

 

「も、もうやめて! もう二度とイッセーくんの前には現れない!

 神器(セイクリッド・ギア)も返す! だから、だから!!」

『ふんふん……で? 二つともお前が死ねば解決するだろう。

 死に方ぐらいは選ばせてやるよ。どう死にたい?』

 

もはや、獰猛な若い肉食動物が狩りの練習のために獲物を甚振っているような状態である。

レイナーレに救いの手は無い。傍らの長椅子で横たわる

アーシア・アルジェントが救われなかったように。

 

そもそも、堕天使である彼女に神が救いの手を差し伸べるわけがない。

上司である上級堕天使も来ない。ここに来て、上司を欺いて進めてきたことが

完全に裏目に出たことになったのだ。

 

『そうだ。他人から盗んだ神器(セイクリッド・ギア)を抜き取ったら、そいつは死ぬのか?

 それを試すのにはもってこいの実験材料だな、お前』

「ひっ――!?」

 

おもむろにレイナーレの胸に右手を突き刺す。

そのまま、臓器を抉るように神器(セイクリッド・ギア)を探しているのだ。

儀式を見た時と同じことをやっているのだが、見てくれだけである。

儀式のプロセスを一切合切無視しているため

ただ単にレイナーレの身体に傷をつけているだけなのだ。

 

『あれ? ここにあると思ったんだけどなぁ。おかしいなぁ。

 おい、どこにあるんだよ――って、これじゃ喋れないか。仕方ない。ほらよ』

 

もはや致命傷とも言えるダメージを与えておきながら、悪びれることもなく回復させ

また違う場所にあたりをつけて右手を突き刺している。

何度も何度も繰り返しているうちに、あたりを見つけたらしい。

 

『――あ。何か引っかかるものがあったな。これか? ……よっと!』

「ぐ、あああああああっ!!」

 

おもむろにレイナーレの中から何かを抜き取る。セージが血を振り払うと出てきたそれは

かつてアーシア・アルジェントの神器(セイクリッド・ギア)だったもの。

今はレイナーレに奪われたそれは戻るべき主を無くし、ただ淡く光るのみ。

セージはその光を一瞥した後、アーシアの元に放り投げる。

 

「か、かえし……て、それ、は……」

『――アーシアのだろうが。アーシアのだろうがぁぁぁぁぁっ!!

 誰がてめぇなんぞにぃぃぃぃぃっ!!』

 

ここに来ても尚神器の所有権を主張するレイナーレを

セージはただ感情に任せて殴りつけるのみ。

その声色には、若干の涙声も含まれていた。

 

そして散々セージの暴虐的な攻撃にさらされたレイナーレには

もはや逆らう意思すら残されていなかった。無理からぬ話である。

セージは本来治療のための回復を、ただただ拷問のために使っていたのだ。

傷つくたびに回復させられ、また傷つけられ、何度も何度も死ぬ思いをしていた。

 

そのただの暴力でしかなかった蹂躙が一段落着いたあたりで、リアスの制止の声が響く。

それは眷属に対する慈愛に満ちた声色もあれば、敵対するものに向けた声色も含まれている。

 

「――これ以上は見るに堪えないわ。セージ。今すぐその禁手(バランスブレイカー)を解きなさい。

 あなた、これ以上は本物の悪霊になるわよ」

 

『……元々悪霊みたいなものだ。

 知らぬ間に殺され、知らぬ間に取り憑き、知らぬ間に悪魔にされた!

 もううんざりなんだよ! 俺が知らないところで俺が動かされるのは!

 他人を改造しておいてシラを切るな!!』

 

「ならイッセーはどうなるの!?

 今イッセーは、あなたの言う『知らないところで動かされている』状態なのよ!」

 

力なく横たわるレイナーレには目も向けず、次の目標をリアスに定めたセージは

その禁手(バランスブレイカー)の力を躊躇うことなく主に振るう。

セージも一応はリアスの眷属のため、これは完全にはぐれ悪魔の所業である。

 

ただその経緯が、セージの全くあずかり知らないところ

――と、セージは思っている――で行われたこと。

そして、セージは己の経緯を受け入れた上でこうも考えていた。

 

「自分はイッセーの付属品ではないのか」と。

 

それらを引っ括めた上で、セージのリアスに対する信頼度は地の底にまで叩き落とされていた。

 

『さっきからイッセーイッセーうるさいんだよ! 俺はセージだ、俺はセージなんだよ!!

 俺を、俺のことを付属品としか見てないくせに偉そうなことを言うなァァァ!!』

 

「……これでは近づけませんわね。

 リアス、私がなんとか結界で抑え込みますからその間に何か手をお願いするわ」

「……わかったわ」

 

セージがかざした左手からは滅びの魔力が放たれる。

制御など全くされていないそれは、誰を狙うでもなくでたらめな方向に飛んでいき

周囲を穴ボコにしている。

 

それは、ただ怒りのままに放たれた魔力。放置しておけば、いずれは止むだろう。

周囲の被害と、二人の転生悪魔の命と引き換えに。

 

『邪魔するなぁぁぁぁっ!! リアス・グレモリー、お前さえ、お前さえいなければぁぁぁぁ!!

 何故、何故俺を改造したぁぁぁぁぁ!! 何故イッセーを引きずり込んだぁぁぁぁぁ!!!』

 

「せ、セージ……そんなに私を恨んでいたというの……!?」

 

それを阻止せんと、朱乃の結界がセージを覆うが、それは力ずくで引きちぎられる。

セージから発せられる、何のフィルターもかかってない本音。

それはもはや、怨嗟の咆哮であった。

時ここに至りてようやく知った愛する眷属の心の声は、己を憎む怨嗟の声。

その事実を受け止めるには、まだリアス・グレモリーは若かった。

 

リアスの名誉のために言っておくと

グレモリー家は身内や眷属にはとても情愛を注ぐ一族である。

 

実際、はぐれ悪魔の中には悪辣な主の元を逃げ出すために

止むなくはぐれ悪魔になったケースもあるため

グレモリー家はとても福利厚生のしっかりした場所とも言えるのだ。

ただ、そんな事を知らないセージには全くもって無関係かつ気に入らない話に過ぎない。

 

しかし、リアスがあの日、イッセーの死んだ場所に行かなければイッセーも

あるいはセージも今ここにいなかった。

 

セージがそこまで把握しているかどうかは、今の彼の心情から察することはできないが

少なくとも、激しい憎悪だけは唸りを上げている。

行き場を失ったそれが、リアス・グレモリーという明確な存在に向けての恨み、憎しみとして。

 

『お前が、お前がぁぁぁ!! イッセーから、イッセーから人間を奪ったんだぁぁぁぁ!!!

 返せよ、お前に人間の尊厳を奪う権利があるのかよ……

 返せよ、返せよ……返せぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!』

「リアス!」

「部長!」

 

セージの拳は、確かにリアスめがけて放たれていた。

だが、寸前で何かの力で軌道を変えたかのように拳はリアスの左頬をかすめる。

背後にあった木々は拳圧でへし折れ、リアスの左頬からは血が出ている。

 

――――

 

イッセーの精神世界の中。普段はセージがここでイッセーをサポートすべく待機しているのだが

今回はレイナーレのせいでイッセーの心が折れてしまった所を

セージが半ば強引に行動の主導権を握ったため、イッセーがこちらに飛ばされたのだ。

無論ここにいるセージは精神体。イッセーもまた、イッセー自身の精神体である。

 

「何してんだよセージ! 何で部長を殴ろうとしてるんだよ!?

 部長は俺たちを助けてくれたんだぞ!?」

 

『黙れイッセー! 元々リアス・グレモリーには引っかかるものを感じていたんだ。

 ならば言うが、もしお前が「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」を持っていなかったら

 あいつはお前を助けなかったかもしれないんだぞ!!』

 

「俺の見た限りじゃ、部長はそんな人、いや悪魔じゃない!!」

 

『ならばこう言おうか!

 「リアス・グレモリーはわざと堕天使を泳がせお前を殺し

  お前を悪魔に転生させる口実を作った。俺はそのついで」だとな!!

 そもそも俺を一個人として認識してるかどうかさえ怪しいもんだ!

 何度も何度も、俺の話をするときには常にお前がついてまわる!

 奴にとって俺はただのオマケなんだよ!!』

 

「――ッ! セージ、歯食いしばれェ!!」

 

セージが放った一言に、今度はイッセーの側がキレる。

精神世界でも赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)はあるらしく、イッセーの左拳は

セージの右頬に叩き込まれていた。

 

「俺が死んだのはあいつのせいだ、そのあいつはもうボロボロだ。

 これ以上やってもしょうがない! 俺は、部長まで恨んじゃいない!

 部長に恨みがあるのはお前だろ! 部長への恨みに、俺を巻き込むな!!」

 

『バカを言うな! お前はもう人間じゃないんだぞ! もう人間に戻れるかどうかもわからない!

 お前は、この歳で親不孝をするつもりなのか! 俺は、俺はそんなのはゴメンだ!!

 言えるのか! 松田や元浜に! 言えるのか!! お前の親御さんに!!

 お前が、お前がもう――人間じゃないってことを!!

 皆が皆、アーシアさんみたいに悪魔を受け入れてくれると思うな!!!』

 

「そんなの、みんな信じる訳無いだろうがっ!!」

 

『このっ――バカヤロウが!!!』

 

さっきの仕返しとばかりに、セージの右拳がイッセーに炸裂する。

セージの罵声とともに放たれた右フックは、イッセーの左頬に突き刺さる。

 

『イッセー! これは信じる信じないの問題じゃない! いいか!? お前が悪魔でありながら

 これからも人間の松田や元浜、桐生さんに……そしてなによりお前の親御さん!!

 みんなと一緒にいるつもりなら、嘘を突き通すことになるんだ!!

 アーシアさんの時みたいにあっさりバレるかもしれない!

 その時、お前はどうするんだ! お前の友達や、親御さんはどうするんだよ!!』

 

「……っ!!」

 

『それでも悪魔の方がいいって言うなら、もう俺は何も言わない。

 だがもし人の友を、両親を裏切ってまでその道を歩むならば……

 その時こそ、俺は全力で貴様を消し飛ばす!!!』

 

イッセーの精神世界の中に、セージの悲痛な叫びが木霊する。

悪魔になってしまったことの悲しみや問題から目をそらしている今までのイッセーの態度が

セージには我慢ならなかったのである。

今回、リアスの処遇を巡り対立したこの時、それが表面化し爆発したのだ。

 

「……セージ。お前は、お前はどうするんだよ……」

 

『俺は生霊……いや、もしかするともう怨霊になっちまってるかもしれないけどな。

 今更悪魔だ何だって言われても、むしろそっちの方が自然だ。

 だがもし、もし俺が実体を得られた時には――俺は悪魔より、人間になりたい。

 お前には息苦しい世界かもしれないけれど、俺にはとても魅力的に見えるんだ、人間の世界は。

 悪魔の世界なんかよりよっぽどな。手が届かなくなって、初めて気づいただけかもしれないが』

 

「それじゃあ、部長は……オカ研のみんなはどうするんだよ……」

 

『――そこが今の俺の悩みだ。当分は人間に戻れないだろうから、現状維持でもいいと思っている

 自分が腹立たしい。だが、俺は悪魔だから彼らを受け入れたわけじゃない。

 悪魔だから、彼らと仲良くなろうと思ったわけじゃない。

 それはリアス・グレモリーにも言える。そう言う意味では、今のは八つ当たりだったな。

 ……すまなかったな、イッセー』

 

言いたいことを言って、憑き物が落ちたのかセージの表情には穏やかさが戻りつつある。

まだ語り足りないのか、それでもセージは言葉を紡ぎ続ける。

 

『そうだ。俺はひとつだけ、グレモリーに感謝している。

 俺に、人間に仇なすものに対する力をくれたことだ。後はいらないと言いたいところだが

 そこまで俺も恩知らずじゃない。悪魔の仕事ぐらいは、付き合ってもいいと思っている』

 

「驚いたなぁ。お前、ツンデレだったのかよ。けど男のツンデレなんて気持ち悪いぞ。

 やめとけ、やめと――あだっ!? 何するんだよ!?」

 

『――人が真面目に話しているのに茶化すからだ』

 

容赦ないセージのツッコミが入るなり、イッセーはおもむろに笑い出す。

セージも釣られて、笑っている。

 

悪魔に転生させられ、悪魔の世界でのし上がろうとするもの。

悪魔に転生させられ、失った実体を求めつつも人間のために戦おうとするもの。

 

始まりはほとんど同じ位置であったものの、目指すものはまるっきり異なった二人の兵士。

 

「セージ。俺は悪魔の世界で上級悪魔になる夢を変えるつもりはない。

 部長にも恩義があるからな」

 

『イッセー。俺は相手が誰だろうと人間に害をなすものは全て倒す。

 その上で俺の体を手に入れる』

 

語り終えたイッセーの左腕と、セージの右腕が軽くぶつかり合う。

二人の赤龍帝。目的は違えてしまったが、彼らの間には確かな絆が芽生えようとしていた――。

 

『――最後にこれだけは俺から言わせてくれ。後は、もう俺は今回は口を出さない』

 

EFFECT-HEALING!!

 

そう言って、暴走したことで溢れ出た魔力から回復のカードを使った後、セージの姿は

イッセーの精神から消えていった……。

 

――――

 

『――主サマといえど、言葉は選んでくれ。先刻の言葉、あれでは取りようによっては

 自分たちの職務怠慢でイッセーが死ぬ遠因を作ったともとれる。

 そしてその後の神器(セイクリッド・ギア)だ。

 あれでは、自分の手駒を増やすためにわざとイッセーを死なせたと誤解を招きかねない。

 俺はともかく、イッセーはそうじゃないと信じているんだ。

 もし、その信頼を裏切るようなことになったら、次は……おま、え、を……こ、ろ――』

 

その言葉を最後に、セージは、イッセーは崩れ落ち、地に伏した。

それと同時に歪な禁手(イリーガル・バランスブレイカー)は解け、そこには普段通りのイッセーが横たわっていた。

セージが最後に使ったカードのおかげで、禁手(バランスブレイカー)によるダメージや

レイナーレ戦のダメージはある程度回復されていた。

 

その後程なくして、イッセーは目を覚ました。

しかし、セージは何度呼びかけても答えることはなかった。




不信感を募らせて、それに適切な対処をしないとこうなります。
イッセーとセージの間にはそれなりに信頼関係があったため
イッセーがストッパーになってくれましたが……

これ、セージがイッセーに成り代わる系の話だと
自分で書いててなんですが全滅フラグだと思いました(白目

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