ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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ちょっと急展開かもしれないです。
今回は主にアインストが大暴れしてます。


余談

girlsfeed.net/article-BgDFJ0UL
性犯罪者死すべし、慈悲はない


Soul73. 災難は古より

俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

暴走を始めてしまった黒歌さんを救うべく

俺はサイラオーグさんから得た情報を基に

白音さんと共に悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の除去を敢行。

これを成功させた。

 

後は、傷の手当さえすれば一先ずは安心なんだが……

 

――残された時間は、あと29日――

 

――――

 

全速力でマシンキャバリアーを走らせている最中

何度か禍の団(カオス・ブリゲート)やアインストの攻撃を受けたが

何とかグレモリー邸までたどり着くことが出来た。

それにしても、こんな時にまで襲撃とは

政府は一体何をしているのだろうか。

襲われたのが俺だったからいいようなものの、これが市民とかだったら

瞬く間に問題になっていると思うのだが。

 

さて。グレモリー邸に着いたら今度はアーシアさんを探さないと。

今度は冗談抜きで急ぐ必要がある。

言い逃れのプランは立てているものの、まさか黒歌さんを連れて

中に入るのは憚られたため、黒歌さんを白音さんに任せて

俺は単身アーシアさんを探しに中に入っていくことにした。

 

宴も酣と言うべきか、参加者の中には既に帰路についた者や

色々出来上がってしまっている者もいる。

そんな奴らには目もくれず、俺はただアーシアさんを探す。

何せ命にかかわるようなケガをした重病人がいるのだ。

まるでアーシアさんを薬箱か何かだと思っているんじゃないか。

そう誰かに詰られそうだが、そう思ってくれても構わない位

今の俺は動転しているかもしれない。

 

――さて。

俺も一応治療(HEALING)のカードは持っているのだが

これは俺以外――イッセーに憑依すればイッセーも対象に出来るが――には使えない。

使えるのなら、あの場で使っているしそもそもこんなに焦っていない。

それもあってか、貴族のパーティー会場だというのについ声を張り上げてしまう。

 

「アーシアさん! アーシアさんはどちらにいらっしゃいますか!?」

 

「あらあら、そんなに声を張り上げて。ただ事ではなさそうだけど……

 

 ……あなたのただ事ではないって、あまりいい予感はしませんわね。

 その姿は初めて見ますけれど、声で分かりますわよ、セージ君」

 

……声を張り上げれば注目を集めるのは自明の理ではあるが

何でよりにもよってあんたが来るんですか、姫島先輩。

まあ、立場上仕方がないと言えば仕方がないのでしょうが。

俺はうまく黒歌さんの事を伏せつつ、アーシアさんを探している理由を告げる。

バカ正直に黒歌さんの事を喋る必要性を感じないどころか

喋ったら騒ぎになるのも目に見えていたからだ。

 

「重傷を負った怪我人がいるんですよ。だからアーシアさんの手を借りたいんです。

 姫島先輩、アーシアさんは何処にいますか?」

 

「アーシアちゃんなら、さっきディオドラ様の眷属の方が来て

 話があるからって、あちらの中庭の方に……

 

 ……せ、セージ君?」

 

「あっちですね? どうも!」

 

話を切り上げ、俺は半ば姫島先輩を置き去りにするような形で

アーシアさんがいるという方角に向かっていった。

 

……ところが、中庭にいたのは思いもよらない奴だった。

俺が中庭にたどり着いたと同時に、アーシアさんの悲鳴が響き渡る。

 

「きゃああああああっ!?」

 

アーシアさんを捕まえようとしている、正体不明の怪物だった。

所々の赤い石等から、アインストらしき存在のようにも見えるが……

緑色の触手がアーシアさんを絡め捕ろうとしてきたため

俺は思わず割り込んでしまった。

 

SOLID-DEFENDER!!

 

ディフェンダーの打突部分で触手を切り裂き、丁度アインストらしき怪物と

アーシアさんの間に割って入ることが出来た。

 

「あ、ありがとうございます……えっと」

 

「俺だ、セージだ。恰好については気にするな。

 それよりもここは引き受ける。入り口に塔城さんがいるから

 彼女と合流してほしい、怪我人もいるんだ。助けてほしい」

 

「わ、わかりました!」

 

身をひるがえし、屋敷の入り口の方へと駆け出していくアーシアさんを捕えようと

再びアインストらしき怪物が触手を伸ばすが、それは俺が弾き返す。

アーシアさんを捕まえようとしているのは明白だが、目的が見えない。何のために?

とにかく相手を調べなければ。いつものように、俺は記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を相手に向けて

紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)の力を借りつつカードを引く。

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

LIBRARY-ANALYZE!!

 

COMMON-SCANNING!!

 

名前は……文字化けして読めない? これも久々に見るな。

ディオドラ・アスタロトの眷属の一人が、ミルトカイル石を植え付けられたことで

アインストと化した姿。能力はアインストに準じ、その行動理念は

ディオドラの命令とアインストの生態の両方が基となっている。

 

……うん? 何でディオドラ・アスタロトとアインストが繋がってるんだ?

とにかく、こいつは倒すより他仕方がない。

過剰防衛にはなってしまうかもしれないが、倒さないと被害が広がる。

触手を主に使う事から、アインストグリートに酷似していると見て間違いなさそうだ。

アレよりも人型のシルエットをしているようだが。

 

となると、触手(FEELER)のカードは使わない方がよさそうだ。使うつもりも無いが。

宴も酣とさっき表現したが、まさか宴会の締めがアインストとは!

ディフェンダーを構え、ディオドラ・アスタロトの眷属と言うアインストに突撃を敢行する。

 

「でぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」

 

触手を束ね、ビーム――ハイストレーネを発射してくるが

それをディフェンダーで弾きながら、一気に距離を詰める。

素顔を隠すためとはいえ、「騎士(ナイト)」のままここに来たのは正解だったかもしれない。

 

睨んだ通り、一気に間合いを詰めたことで相手は攻撃手段を失っている。

触手――エレガントアルムも間合いの近い相手には逆に使いづらい。これは鞭全般に言えるが。

 

これが骨型――アインストクノッヘンだったら爪で攻撃された恐れもあるが

どうやらそれは出来なさそうだ。ビーム攻撃が止んだのを見計らい

ディフェンダーを横なぎに振りかざし、触手を切り裂く。

 

「――――!!」

 

すぐに新しい触手が生えてきて傷をふさいでしまうが、一瞬中身らしきものが見えた。

その中身は間違いなく――人間のものだった。

人間の女性の腹部らしき部分に、アインストのコアともいえる赤い球体が生えているのが見えた。

そしてその上あたりには、砕けた十字架のようなものも見えた。

はて? 眷属と言う事は転生悪魔のはずなのに、なぜそんなものを?

だが、攻撃を受けたことで凶暴さを増したのか懐部分からも触手が伸びてきて

俺は殴られる形になってしまった。

鞭として使う分には間合いを詰めるのは正解だが、殴打する武器として触手を使われては

間合いを詰めるのは逆効果だが、こればかりは防ぎようがない。

 

……そして、これ以上相手の事を調べている暇とかは無さそうだ。

 

SOLID-LIGHT SWORD!!

 

眷属悪魔ならともかく、アインストに光の力は特効と言うわけでも無い。

だが、取り回しの便利さから俺はディフェンダーに加え、光剣を出すことにした。

ディフェンダーで攻撃を凌ぎつつ、光剣でコアめがけて攻撃を敢行する。

盾を構えつつ、片手剣で攻撃を敢行する。昔のゲームではありがちな騎士のスタイルだ。

実際、剣の扱いが普段に比べて軽く、扱いやすい気はする。

 

だが、このアインストは再生能力に秀でているのか切っても切ってもまた触手が生えてくる。

これは得物を間違えたかもしれないと思い、触手を切り捨てながら

俺は新しく剣を取り出すことにした。

 

SOLID-CORROSION SWORD!!

 

木場が魔剣創造(ソード・バース)で製造した光喰剣(ホーリー・イレイザー)のコピー。

――のはずが何故か斬ったものを腐食させる効果を持つようになった

俺流の剣。これならば再生能力にも対応できるはずだ。

目論み通り、この剣で斬られた触手は今までに比べて生えてくる速度が遅い。

ゼロにはできないが、これなら相手を倒せるかもしれない。

再びコアとなる赤い球を露出させるまで触手を斬り捨てた時点で

突如、フリッケンから警告を受ける形となった。

くっ、あとはこのコアさえ破壊すればアインストは倒せるはずなんだが!

 

『セージ! 囲まれているぞ!』

 

「――っ! あと一歩ってところを……!?」

 

フリッケンに言われるまま周囲を見渡すと、確かにアインストの集団がいた。

クノッヘンにグリートは見たことがあるが……鎧の奴は見たことが無い。

新手のタイプだろう。どう仕掛けてくるかわからないが

迂闊に仕掛けるよりは……ん?

 

――望まれぬ……世界……修正……

 

何処からか声が聞こえる。

声の聞こえた方向がまるで分らない。

寧ろ、頭の中に直接話しかけてきているような感じでさえある。

 

――かの地へ……帰還……

  我……悲願……

 

状況から考えて、この声の主はアインストであると考えられるが……

アインストレヴィアタンのように、声こそ発すれども意思疎通は不可能と言うパターンか。

勝手な事ばかり一方的にまくし立てる……誰も彼もそんなんばかりだな。

ある意味では俺も、だが。

 

――我……

 

突如、薄暗い空が真っ黒になったかと思ったらそこには

恐ろしく長い蛇のようなものが現れる。

アインストレヴィアタンの比ではない。遠くてよくわからないが

人型の上半身を備えており、その両肩には鬼の面のようなものが見えるのがわかる程度だ。

思わず、俺は上空のそれに記録再生大図鑑を向ける。

 

COMMON-SCANNING!!

 

ウンエントリヒ・レジセイア――かつてオーフィスと呼ばれた存在が

異世界のアインストレジセイアの意思を受け、変異した存在。

禍の団に与するアインストの首魁にして女王蜂。

かつてドラゴンの部分であった「ウンエントリヒ・レジセイア」と

意思疎通を担う「ウンエントリヒ・リヒカイト」から構成される。

その力の片鱗は――

 

――測定不能。

 

お、おいおい……まさか敵の大首領自らお出ましとか……

こんな非常事態に魔王陛下は何をなさっておられるのやら。

俺も状況が状況だけに、下手に動けない……と言うより、情けない話だが竦み上がっている。

 

『驚いたな……俺も色々な世界を渡ってきたつもりだったが、まさかあんなのがいるとはな』

 

「それより、なんでここに禍の団の大首領がいるんだよ!?

 力量の読めない奴と戦うのはリスクが大きすぎる、アーシアさんも逃げた事だし

 俺達も隙を見て撤退するぞ!」

 

『同感だ。それよりどうやってこの包囲網を……ん?』

 

俺とフリッケンの意見が一致した瞬間、包囲網の一角が突如爆発を起こす。

それを気に留める様子もなくじりじりとこちらに迫って来るアインストには

ある種の恐怖さえ感じるが、その爆発で包囲網が緩くなったのも事実。

突破するならあそこか!

 

DEMOTION

 

PROMOTION-ROOK!!

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

強行突破。それならば「戦車(ルーク)」に再昇格し、加速(HIGHSPEED)のカードで突撃をかけるのが効果的と判断。

ディフェンダーを構えたまま、おもむろに弱くなった包囲網の一角に突進する。

いつぞやは歯も立たなかったアインストだが、ここまで装備が充実していれば

負ける要素はない。油断さえしなければ。

その証拠に、あっという間に包囲網を切り抜けることに成功したのだ。

 

『抜けたぞ!』

 

「ああ、あとは……うん?」

 

包囲網の外に、爆発を起こさせた張本人がいることに気づく。

それは俺も見知った顔の――ウォルベン・バフォメット。

イェッツト・トイフェルの一員だ。

 

「フフフ、こうしてお会いするのはいつぶりでしたかねぇ。

 ああ、別に今回の事を恩着せがましく言うつもりはありませんよ。

 それ以上のものを、既にいただいていますからね。

 なので今回はそのお礼を言いに来たのですよ」

 

鎌でアインストの一角を蹴散らしながら、飄々とした態度で俺達に話しかけてくるのは

相変わらずのようだ。確かに相手の言う通り、過去に会ったのは

まだフリッケンが俺に力を貸す前だった気がするが。

 

「そして、『魔王直属部隊』の仕事を果たすためでもあります。

 聞こえますか、禍の団の首領。この地は既に我ら『イェッツト・トイフェル』によって

 包囲されています。この場での全面対決をするつもりではないのなら

 速やかに撤退することをお勧めしますよ」

 

――今……時期尚早……

  されど……我……必ずや……かの地へ……

  そして……この地……静寂に……満たす……

 

ウォルベンの脅しが本当に効いたのかどうかはわからないが

アインストの軍団は撤退。ディオドラの眷属だったアインストも、既にこの場にはいない。

何とか乗り切れたと見て間違いなさそうだ。

 

「さてと……ふむ。それが『紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)』ですか。

 こうして見るのは初めてですが……なるほど、これは確かに二天龍の神話を覆すだけの

 力を秘めていると見て間違いなさそうですね。素晴らしいですよ」

 

「……そいつはどうも」

 

ウォルベンにしてみれば単純な賞賛なんだろうが、何故だか俺にはそう聞こえない。

それはフリッケンも思ったのか、小声で俺に問いかけてくる。

 

『セージ。こいつは誰だ? いや、ある程度は大体わかってるが』

 

「ウォルベン・バフォメット。お前が俺に力を貸してくれる前にも

 一度遭遇している。その時に目をつけられたらしくてな……」

 

『……やれやれ。本当にお前は変な奴に目をつけられやすいな。

 ま、俺も人の事は言えない気がするが』

 

サングラスを直しながら、ウォルベンは無線で連絡を取っている。

恐らくは展開していたという本隊の司令部だろうか。

しかし、パーティー会場で軍事行動とか、どれだけグレモリー家は軽く見られているのだろう。

知ったこっちゃないが。

 

「はい……こちらは既に作戦行動を完了し……

 ふむ…………ですか。そしてその…………私に…………ですね。

 了解しました。では。

 

 ――さてと。積もる話もありますが、私も本体と合流しなければならないのですよ。

 たった今大変な情報が入ってしまいましてね……

 おっと、今のは内密に願いますよ」

 

「……内密も何も、聞こえなかったんだが」

 

「おやおや。それならそれでいいのですが、お礼ついでに言っておきましょう。

 『妹がこうならば、兄もさもありなん』……と言ったところでしょうか。

 では、またいずれ」

 

言いたい事だけ言ってウォルベンは飛び去ってしまった。

あの様子だと本当にグレモリー家を毛嫌いしている様子だが……

しかし、口ぶりからしてサーゼクス陛下周りで何かが起きたのか?

……ダメだ、皆目見当もつかん。ま、どうでもいいか。

 

それに、今俺にはやるべきことがあるじゃないか。

 

――――

 

ウォルベンの言葉の意味を考えていても仕方がなかったので、会場に戻ると

先ほどのウォルベンの話していたことが事実であったかのように

会場は騒然としていた。

騒動の間に戻ってきていたグレモリー部長から、俺は騒動の顛末を聞かされることになった。

 

「セージ、どこに行っていたの!? 怪我はない?

 それより、大変なことになったわ。お兄様の……いえ、サーゼクス様の眷属の一人

 ベオウルフが、禍の団……いえ正しくはアインストと繋がっていたって情報が入ったの。

 今、魔王様方はその対応に追われているわ。そのためにレーティングゲームも延期。

 各自自治領にて待機せよ、との事よ」

 

「……最初に聞いた時には驚きましたわ。そういえばセージ君。

 アーシアちゃんが助けたっていう怪我人は今どこに?

 小猫ちゃんも見当たりませんし……」

 

……ぬかった。黒歌さんのはぐれ悪魔追及対策にばかり気を取られていて

こっちの抜け穴を作るのを忘れていた。

怪我人――黒歌さんは、今は間違いなく白音さんと一緒にいるだろう。

そして、せっかくの姉妹の再会に水を差すような真似はしたくない。

しかしその件については、アーシアさんから助け舟が出されることとなった。

 

「怪我人の治療なら、無事に終わりましたよ。小猫ちゃんについては

 怪我人の付き添いをお願いしてます、いくら私の神器(セイクリッド・ギア)でも

 経過観察とかは必要ですし……

 一応、魔法陣を渡してますから何かあったらすぐ行けるようにはしてますけど」

 

「そう、そう言う事なら仕方ないわね。それよりアーシア。

 ベオウルフの件もなんだけど、黒歌ってはぐれ悪魔が

 まだこの領地に潜伏している可能性があるわ。

 もし外出するときには気をつけなさい、いいわね。他のみんなもよ」

 

やはりグレモリー部長の中ではまだ黒歌さんははぐれ悪魔扱いらしい。

物理的に違うんだがなぁ……と思っていると、アーシアさんが見えないように

「嘘ついちゃいました、てへっ」とばかりに舌をぺろりと出している。

……しかし珍しいな、アーシアさんが嘘をつくなんて。最も、そのお陰で助かったが。

 

ふと、向こうから駆けつけてくる人影が見える。あのシトリー会長にも

ある種似た雰囲気を持っているのは確か……シーグヴァイラ・アガレスさんだ。

アガレスっていうと確かはぐれ悪魔討伐指令を出している大公家の家系……

それが駆けつけてくるって事は、まさか……俺の工作がバレたか?

 

「今の話ちょっと待ってください。これは政府にも実家にも確認を取った事なんですが

 黒歌は既に討伐されたことになっています。

 滅びの魔力を受けたことまでは間違いないのですが、遺体が確認出来てません。

 リアス、貴女は何か知りませんか? 滅びの魔力となれば貴女かもしくは……」

 

「ど、どういうことなのシーグヴァイラ!? 私は何も知らないわ!

 ま、まさか……セージ!

 私は滅びの魔力を黒歌に当ててないわ、お兄様もお母様もあの場には居合わせていない。

 説明してちょうだい! これは命令よ!」

 

おっと。流石にグレモリー部長も気づいたのかもしれない。

俺は素知らぬ顔をする。さて、どこまでしらを切り通せるか。

とりあえず、俺の工作は未だばれてなさそうだが。

 

「はい、何でしょう?」

 

「とぼけないで! 私に祐斗、イッセーが黒歌から何かを抜き取るあなたを見ているのよ!

 そしてそれを滅びの魔力で消滅させるのも! あなた一体何をしたというの!?

 そして、何を知っているというの!? そもそも遺体確認不能って言ったって

 黒歌を連れ去るあなたを、私は見ているのよ!?」

 

「俺はただ、狂暴化している原因を取り除いただけですよ。

 あのまま暴れられでもしたら、グレモリー領が大変なことになってしまいますからね。

 滅びの魔力を使ったのは、跡形もなく消すには一番うってつけだと思っただけです。

 跡形もなく消せば、消息どころか遺体も残らないじゃないですか。

 その上で討伐されたと言うのならば、そうなんでしょうよ」

 

「あなたねぇ、連れ去るのを私はこの目でみてるのよ?」

 

「……だとしても、連れ去ったところでその先でどうなるかまでは俺だってなんとも。

 事情を知らない誰かが治療を施したかもしれないし、野垂れ死んだかもしれないし

 そもそも、もう冥界とは関わり合いになりたくないとばかりに逃げだしたかもしれない。

 可能であれば、彼女の身体調査でもすればいいでしょう。

 もう彼女は悪魔でもなんでもない。そんなことをすれば外交問題だと思いますが。

 いいじゃないですか、討伐されたならされたで。

 俺にだって分からないことくらいありますよ」

 

そうきたかー……。

俺は「滅びの魔力を使うグレモリー部長が、黒歌さんを『形式上』退治した」

つもりでシナリオを練っていたんだが。

実際には「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)だけ破壊し、黒歌さんを呪縛から解き放ち

死亡扱いとすることで自由の身にした」つもりで悪魔の駒を滅びの魔力で破壊したんだが……

あと、跡形もなく消しておかないと、また元に戻られても困るってのもあったが。

 

「狂暴化の原因……まさかそれが悪魔の駒だと言いたいのね?

 そして、それをどういうわけか抜き取って破壊した今

 黒歌は転生悪魔ではなくなり、それは即ち

 はぐれ悪魔とも呼べない……そう言う事ね?」

 

「……っ!! 悪魔の駒を抜き取って破壊だなんて! そんなことが出来るなんて……

 じゃ、じゃあ黒歌はまだ……!!」

 

「この件はご内密に、シーグヴァイラ様。この事が世間に出回れば混乱は必至。

 滅びの魔力ではぐれ悪魔・黒歌は撃退された。それでいいじゃないですか。

 ……これなら、グレモリー部長か魔王陛下が自ら撃退を行ったと示しも付きましょう?

 そして再犯の危険性を恐れておられるのならば

 まずは黒歌がはぐれ認定されるに至った事件について

 もう一度洗い直した方がいいと思いますよ。当事者の証言と、公表されていることに

 食い違いがあり過ぎる。まるで何か不都合を隠しているように……ね」

 

……俺としては、別にバレようがリー辺りが言いふらそうがどっちでもいい。

寧ろばらして言いふらしてほしいとさえ思っているが、一応内密にすべきだろう、立場上。

滅びの魔力を使ったのだって、執行人をグレモリー部長か

その家族に仕立て上げるつもりだったのだ。

それでも難色を示すグレモリー部長に、俺はシーグヴァイラさんに聞こえないよう耳打ちする。

 

「セージ、私はこんなやり方で武勲を上げるのは……

 それに、大公家の決定に異議を唱えるような……」

 

「グレモリー部長。今回は利害の一致と言うのもあります。

 俺は黒歌さんを殺すわけにはいかなかった。けれど、彼女は立場上討たれなければならない。

 こうすれば、彼女は悪魔社会では死んだことになります。

 実際には、生きていますけれどもね」

 

「生かす理由……小猫ね」

 

「ええ。俺は白音さんと約束しましたので。最も、最初に聞いた時はまさかこうなるとは

 思ってもみませんでしたがね」

 

ため息をつきながら、シーグヴァイラさんにグレモリー部長が向き直る。

 

「ありがとう、シーグヴァイラ。後はこっちの眷属の問題だから大丈夫よ。

 ただ、さっきうちの眷属が話したように……」

 

「分かってます。今回の事は、聞かなかったことにしておきますので……っと失礼。

 はい、私です……ええっ!? そんな……あ、アルトが……

 ……わ、わかりました……すぐ、そちらに向かいますので……

 

 ……す、すみません。私も急用が出来たもので……

 重ねて言いますが、黒歌はもう討伐されたと言う事ですので……」

 

連絡が来たかと思えば、ひどく落胆した様子で館を後にしていった。

何やら、色々と慌ただしいな。

そしてその慌ただしさは、当然のように俺達にも降ってかかるのだった。

 

――――

 

翌日。

 

適当な理由をつけてバオクゥのヤサ――黒歌さんもここに運び込んでいたのだ――

に引き返し、そこで一夜を過ごすことにしていたのだ。

あの強引な手術で疲れたのか、俺は白音さん曰く泥のように寝ていたらしい。

そのお陰か、今は好調なんだが。

 

さて、バオクゥに寄越されたスポーツ新聞を読んでいると

紙面を賑わせているのはサーゼクス陛下の眷属・ベオウルフの離反の一件に加えて

それに伴う公私混同甚だしい現魔王への不信任案、退陣要求の提出に――

 

――悪魔の駒の除去が可能ではないか、と言う一文だった。

 

……どこで情報が漏れたんだ?

内密にしていたはずの情報が、どういうわけだか漏れている。

この事は、リーにも話していないはずだ。バオクゥには話したが

そこから漏れたのだろうか?

 

とは言え、これでバオクゥを疑うには証拠がない。

記事を読み直すと、ゴシップ新聞らしい突拍子もない内容だったため

俺がすぐどうこうなると言う事は無さそうだが……

 

俺の懸念していた事態は、もう既に起きているのかもしれない。




首領の顔見せ、ディオドラの暗躍など6巻部分のイベントが前倒しになりました。
そしてかねてから懸念されていたゲームについてはなんと延期。
折角ドライグが早期に復活したというのに……

でもテロの危険があるところに他所様の要人を招待するとか
不用心にもほどがあるんですよね、原作。
ホイホイ乗る方も乗る方だけどな。てめーだよおでん。

>ディオドラの眷属だったアインスト
紛らわしい説明ですが、別に黒歌みたくはぐれ扱いされているわけではありません。
砕けた十字架は……「彼女」が人間だったころの名残です。
今回はグリートタイプでしたが、他のアインストを模した眷属もいるかもしれません。

セージはまだ訝しんでますが、原作既読の方には
拙作のディオドラとアインストの接点は
お判りでしょうからあえて取り上げません。

>ウンエントリヒ・レジセイア
名前こそ変わっていますがオーフィスです。
ウンエントリヒ・レジセイアを無限龍としてのオーフィス。
ウンエントリヒ・リヒカイトを巷で大人気のオーフィスとして意識しています。
某ヴァールシャインさんも似た様な経緯で生まれた存在ですし。

ウンエントリヒ:ドイツ語で「無限」

つまり無限の監察官とか無限の意思とか。
某開拓地がアップを始めそうな名前ですがはてさて。

行動理念は実は原作オーフィスとさほど変わってません(一点大きく変わってますが)。
グレートレッド絡みだけちょっと改変がかかってますが
これはアインストの影響によるものです。

>ベオウルフ離反
まさかのこっちで。
ベオウルフ……アインスト……この二つの単語で嫌な予感がしたあなたはきっと正しい。
そして旧来の貴族たちの現魔王派に対する株価大暴落。
もう底値割れ起こしてるんじゃないんですかね。
余談ですが、これが原因でリーのスクープが余計際立ってしまう事に。

>黒歌
前回の答え:討伐されたことになった、でした。
現在白音が看病中。マスコミが黒歌死亡と謳えば世論はそう動きますし
セージが指摘した通り「滅びの魔力ならば証拠や遺体が残らない」。
バイサー? あれはリアスがきちんと報告したんでしょうけど、今回は有耶無耶にしてますし。
悪魔の駒から足が付くことを恐れたため、今回セージは滅びの魔力で跡形もなく消しました。
(破壊方法まではしっかり調査が済んでいなかったので確実に破壊できる方法が
これしかなかったって事情もありますが)

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