ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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以前(Life7.)後書きにて触れましたが
本作のレイナーレは外道です。
少なくともオリ主セージにはそう映ってます。


Soul9. 龍、目覚めます!

「あ、アーシア……アーシアァァァァァァ!!」

 

その日、敬虔なシスターの少女、アーシア・アルジェントは息絶えた。

俺、悪魔で霊魂の歩藤誠二は憑依先の兵藤一誠と共に彼女の最期を見届けたのだ……

 

「なあ、神様、いるんだろう!? 見てるんだろう!?

 この子を連れて行かないでくれよ、頼むよ!」

「イッセー、教会で言うのもなんだが、神は……」

 

アーシアさんの亡骸を前に、イッセーは慟哭していた。俺も、かける言葉が見つからない。

だが、ただ一つ言えることはある。それは――いや、よそう。仮にもシスターの最期だ。

そういう事を言うのは、些か不躾であろう。

 

それより、俺の中ではさっきから物凄い感情の渦がまいている。

こうなった元凶を、俺達は知っている。

そしてそいつは今、素知らぬ顔で聖堂にやってきたのだ。

 

「あら、悪魔が教会でお祈り? それとも懺悔かしら?」

「てめぇ……!」

「よくものうのうと顔を出せたものだな。レイナーレ!」

 

実体化しているのも忘れ、俺は目の前の外道堕天使に啖呵を切る。

イッセーの方も、相当怒り心頭だ。

 

「ん? どこかで見たこと……まあいいわ。どうせ悪魔の顔なんていちいち覚えてないし。

 それより見て、この傷。ここに来る途中に騎士の子に傷つけられたの」

 

レイナーレが傷口に手を当てると、傷はみるみるふさがっていく。

おい、やめろよ。貴様ごときがアーシアさんの力を使うんじゃねぇよ。

彼女は誰かの笑顔を見るためにその力を使ってたんだ。

 

「見て、素敵でしょう? この神器。悪魔だろうと堕天使だろうと

 どんなに傷ついても治ってしまう素晴らしい神器(セイクリッド・ギア)なのよ?

 この力さえあれば私の地位は約束されたようなもの。

 偉大なるアザゼル様、シェムハザ様のお力になれるの!」

 

アザゼル。確か堕天使の中でも相当凄いってのを何かで見たことがある。つまり、こいつの上か。

で、こいつはその上を騙して、アーシアさんを殺した、と。

騙して手に入れた力でのし上がるとは、コイツ元々が腐ってやがる!

 

「……知るかよ」

「……ああ、右に同じく。地位が欲しいなら、次は何だ?

 のし上がって、アザゼルやシェムハザとやらの寝首を掻いて敵対勢力に売り渡すか

 それともお前がトップにすり変わるのか? 神の使者を殺したお前ならやってのけるだろうよ。

 え? ど外道のレイナーレさんよ」

 

我ながらとんでもない事を言ってる気がする。

だが、それ以上に、目の前にこの事件の張本人がいるというのだ。

ましてこいつは、俺の戻った記憶が確かなら、アーシアさんやイッセーの仇にして――俺の仇。

 

「……舐めた口を聞くな汚らわしい悪魔め! アザゼル様やシェムハザ様の名を口にするな!」

 

レイナーレが投げつけてきた光の槍を回避するために、俺は即座にイッセーに憑依しなおす。

俺自身の手で殴れないのが憎たらしいが、致し方ない。

イッセー、俺の分もこいつを殴ってくれ。許すじゃなくて、頼む。

 

「……この子は普通にただ静かな生活がしたかっただけなんだよ……

 それなのに、お前らが……!」

 

「どっち道出来ないわよ。異質な能力を有したものはどこの世界でも組織でも爪弾き者。

 ほら、人間ってそういうの毛嫌いするでしょ? こんなに素敵な能力なのに!」

 

『……それは同意するよ。だが、お前が言うな』

 

俺の脳裏には、あの公園の親子がよぎった。

そうだ、本人から直接は聞いてないし聞くつもりもないが俺の思っている通りの経験を

アーシアさんはしていたはずだ。素敵な能力には違いないし、彼女はそれを

誇りに思っていた節も見て取れた。それを、コイツは……ッ!!

 

「――なら俺が、アーシアの友達として守る!」

 

「アハハハハッ、無理よ! だってその子死んじゃってるじゃない。あなたは守れなかったの!

 あの時も、そして今も! その子を救えなかったのよ! 本当におかしな子! アハハハハッ!!」

 

『死んだ、か。確かにな。じゃあそれならせめて、アーシアさんの魂だけは救ってやる。

 お前みたいな下衆に、その光は使って欲しくない。そのままお前如きに使われるくらいなら

 ここでお前ごとその神器(セイクリッド・ギア)をぶっ壊してやる』

 

ああそうだ。このままこいつを生かすのはアーシアさんの魂に対する愚弄にほかならない。

アーシアさんが誰かの為に使った力を、コイツはただ己の為にしか使おうとしない!

生かしておけるか、こんな奴を!

 

「魂を? くくっ、アハハハハッ! 揃いも揃って変なことを言うわね!

 死んだ人間に魂なんか存在しないのよ。その子はもう物言わぬ抜け殻に過ぎないの。

 魂が云々なんて、現実から目をそらした言い逃れに過ぎないわ」

 

「……だから、許せないんだ。お前も、そして俺も――」

 

『……ああ。俺は――いや俺達は分不相応な願いを求め、主に逆らった。

 力がないがために、仲間を巻き込んだ。そして、力がないがために――友を救えなかった。

 これだけの罪を犯した、俺も許される気などない。だが、それ以上に――

 いや、それだからこそ……お前の、罪は重い!』

 

――これは、イッセーの左手の反応が今までと違う?

ドライグ。お前の宿主は、今一歩を踏み出したらしい。

そして、俺も――!!

 

「返せよ……アーシアを返せよォォォォォォォ!!」

 

DRAGON BOOSTER!!

 

――――

 

「よう。何時ぶりだ? 霊魂の方の相棒」

「さてな。時間の概念がそちらと同じとは限らないので、答えかねる」

 

イッセーの一吠えと同時に、俺の目の前にはドライグが現れる。

まだイッセーには声は届かないのか?

 

いや、あのイッセーの左手の反応は今までとは違うものだった。

ドライグも、まるでイッセーの叫びに応えたように。

 

「俺の宿主は、新たな一歩を踏み出した。お前の方も、収穫があったようだな」

 

「ああ。感謝ついでに聞きたいんだが、イッセーとのシンクロを強化することは出来るか?」

 

「初めて会ったときは宿主の方が魂が強くてな。

 お前が取り込まれるから、宿主が寝てない限りは出来ない相談だった。

 だが今は違う。シンクロを強化しても、お前の魂は宿主の魂に取り込まれたりはしないだろう」

 

「そうか。それを聞けて安心した」

 

イッセーとのシンクロ強化。それをやれば、俺の力をそのままプラスできるはず。

たとえイッセーと俺が1でも1+1で2、それをドライグが倍加すれば4。

つまり、ハナから4倍ブーストをかけられる。

まるでどこかのプロレス漫画みたいな理論だが。

 

「だが気をつけろ。シンクロを強化するという事は、ダメージも今まで以上に受けることだ。

 どうも宿主は無茶をしたがる性分みたいでな。シンクロを強化したはいいが

 お前の霊魂が消えるなんて、無様な結果はやめてくれよ?」

 

「……一応、頭の隅っこに置いておくよ。じゃあ、ちょっくらあのクソ堕天使をぶん殴ってくる」

 

「待て。お前には言っておく。俺の力は――」

 

ふふふ、そうか。これは勝算が見えたぞ。ドライグとの会話を終え

俺はイッセーとのシンクロを強化すべくイッセーの方に意識を集中する。

 

だが、それはタイミングがマズかった。

ちょうど、イッセーの足に光の槍が突き刺さったタイミングだったのだ。

 

「『ぐああああああああっ!?』」

 

MEMORIZE!!

 

痛みとともにこの光の槍が記録されたようだが、今はそんな事どうでもいい!

 

『……イッセー、シンクロを強化した。反論は受け付けない。

 奴を倒すには、俺たち二人の力を合わせる必要がある!

 俺の計算通りなら、俺の分と合わせた力が倍加されるはずだ。

 俺のダメージは気にするな、いいな!』

 

「ああ、セージ。ちょっくら痛いが我慢してくれよ……ッッッ!!」

 

ぐぅぅぅっ! 光の槍を引き抜くのにもダメージを受ける。

痛くて持つのにも一苦労だ。おまけに魔力もほぼカラだしな。

向こうで奴が笑ってるが、だからどうした!

 

俺は、俺たちは! お前を倒さないとアーシアさんに会わせる顔が無いんだ!

 

「下級悪魔のくせに光の槍を引き抜くなんてやるわね。でも、もうおしまい。

 あなたの体の中には光がどんどん巡って行って、内側から焼き尽くすわ。

 あなたに憑いた悪霊も今頃は苦しんでいるでしょうね。

 それとももう消えてるかしら? 残念ね、仲良く死ねなくて」

 

ああ。だからさっきから気が狂いそうに痛いのか。気が狂い気味なのは前からだけどな。

イッセー。俺は消えてない。わかるな? わかるなら、立て。立って奴をぶん殴れ。

俺も手を貸す。一緒に奴をぶん殴ろう。

 

「神様……いや、神様は何もしなかった。それに俺は悪魔だから魔王様に頼むべきなのかな」

「……は? あなた、何を言っているの? 痛みでとうとう壊れたかしら?」

『ああ、神はいたとしてもここの神はアテにならない。それならお前の左手の龍に頼めよ』

 

それとなく、ドライグの存在をイッセーに匂わせる。

最も、この状態でイッセーが理解するとも思えないが。

だが、今信じられるのは俺たち自身の力と、それを強くしてくれる左手の龍。

たとえ俺達は弱くても、今ここにあるものくらい、信じられずに何とするか。

 

「じゃあ魔王様にドラゴン様。俺にあいつを一発ぶん殴るだけの力をください。

 一発だけでいいんです、一発だけ……!」

『イッセー、それを言うなら「俺達に」じゃないか。

 とにかく目の前のアイツは、他人の心を弄び、あまつさえ信心深いシスターをも

 己の欲望のために食い物にした邪悪な輩です。俺からもお願いします。だから……!』

 

「『俺達に、力をくれ!!』」

 

BOOST!!

 

ドライグの声が聞こえる。これは「2回目」の倍加だと。

感じる。これまでにないほど俺たちの力が増しているのを。

さて、行きますか二人の相棒さん。

 

時は来た。この邪悪な堕天使を討つ、その時が!

ダメージなどもはやどうでもいい。こいつを倒せば全てが解決するのだ。

行くぞイッセー。ゆっくりでいい。そのまま、立ち上がって、歩くんだ。

 

「う、嘘よ!? 動けるはずがないわ! あれだけのダメージを受けたのよ!?」

 

ちょうどいい。奴はご丁寧に殴られるのを待っていてくれている。

そうだイッセー。一歩ずつ、一歩ずつ奴に近づくんだ。

腕が届きさえすれば、もう俺たちの勝ちだ。

 

肩は貸せないが、俺の足をくれてやる。

二人三脚は歩きにくいかもしれないが、ダメージの肩代わりだ。

悪く思わないでくれ。俺も足を前に出す。

 

EXPLOSION!!

 

「アーシア、うるさくてごめんな……すぐ、終わらせるから」

「――死に損ないが、二人まとめて生き返れないようにしてあげるわ!」

 

光の槍が飛んできた――だが、今の俺たちにははっきりと見えるんだよ。

こんなもの、腕のひと振りで払えそうだ。イッセーの左腕が、光の槍を弾く。思ったとおりだ。

俺たちの力を合わせて2だとしても、倍加して4。さらに倍で8。

まして左腕は神器。生身じゃあない。4倍ともなれば、たとえお前の槍だとて!

 

「嘘――ひっ!?」

「逃がすか、バカ」

 

逃げ腰になった瞬間は見逃さない! 今まで貯めていた力は、全てこの時のために!

奴は翼を広げて逃げようとしたが、もう腕を掴んだ! 取ったぞ!

 

『今だイッセー、叩き込むぞ!!』

「触れるな、私は至高の――」

「ああ――吹っ飛べ、クソ天使!!」

 

炸裂。イッセーが左ストレートを繰り出すのと同じタイミングで

俺も左ストレートを繰り出す。

殴った手応えは、俺の方にも伝わっている――気がした。

 

RESET!!

 

「『――ざまぁみろ』」

 

左手から感じられる力が消えたと同時に、俺は無意識に左手を摩っていた。

ありがとう、ドライグ。この私怨に力を貸してくれて。

ありがとう、イッセー。俺の分も殴ってくれて。

 

そして――

 

「……アーシア、守ってやれなくて、ごめんな……」

 

――そうだ。どれだけ復讐を果たそうとも、消えたものは、もう……戻らない。

もし俺がまだ強くなれるのならば、こんなことは二度と起きないようにする。

それもまた、彼女への手向けだろう……。

 

聖堂には物言わぬアーシアさんの亡骸を前に、イッセーのすすり泣く声だけが響いていた――

 

――――

 

「お疲れ。君達だけで堕天使を倒しちゃうなんてね」

 

肩を叩かれた感触とねぎらいの言葉。振り向くと、木場の爽やかスマイルがあった。

イッセーが悪態をついているが、俺は正直反応する気力すらない。

この戦果、ついこの間悪魔になった俺たちなら大金星ものなのかもしれないが――

 

今は、素直に喜べないな。

 

「部長に邪魔するなって言われてたし、一人ならともかく二人ならやれるって信じてたんだ」

「――そう、あなたたちならやれるって信じてたもの。

 よくやったわ二人共。さすがは私の下僕くん」

 

――イッセー。鼻の下、鼻の下。まあ、今日くらいは大目に見ますか。

……って部長? いつまで頭なでてるんです?

 

と言うか、なまじシンクロしてるもんだから俺が頭撫でられてるような錯覚起こすんですが。

むう。少しこそばゆい。こりゃ、話題を変えたほうが良さそうだ。悪いイッセー。

 

『ところで、部長はいつからここに?』

「ついさっき、地下から来たわ。用事も済んだことだし、教会に転移してきたの。

 教会への転移は初めてだから緊張したわ」

「あらあら。教会がボロボロですわ。部長、よろしいのですか?」

 

あ。完全に周囲の被害とか全く考えずにやってた。

確か教会って敵地だから、勝手に入るだけでも問題なのに

そこでドンパチやった挙句ボロボロにするとか……ど、どうしよう。

 

「ここは廃教会だから、今回は大丈夫よ。とある堕天使が独断で動いて

 私の管轄内で勝手なことをした。この程度のことなら、ほかの場所でも起きているわ。

 気にしてたらキリがないもの」

 

イッセーも納得しているようだ。実は、今回のケースは俺も頭に血が上っていた。

今の姫島先輩や部長の言葉で一気に現実に引き戻された感覚がある。

ちょうど頭も冷えたことだし、ありがたい。

 

「……部長、持ってきました」

 

塔城さんが持ってきたのは……気を失ったレイナーレか。

まるでモノ扱いだな。まあ、どうでもいいけど。そして持ってきたレイナーレを問い質すべく

姫島先輩が水をぶっかける。おー。あれ出来たら便利そうだな。

 

気絶してるところに水をぶっかけられたレイナーレはむせ込み

目を覚ますが周りにいるのは俺たちオカ研。

どう見ても、チェックメイトだと思うんだが。

 

「ごきげんよう。私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ。

 短い間だけどお見知りおきを、堕天使レイナーレ」

 

「グレモリーの娘か……してやったりと思ってるんでしょうけど、じきに援軍が――」

 

「来ないわよ。あなたのお仲間の堕天使三人なら、ここに来る途中に私が消しておいたわ。

 以前から一部の堕天使がこそこそと動き回っているみたいだったから

 あなたのお仲間に直接話を聞きに行ったわ」

 

「ちょっとご挨拶したら、すんなりとあなたの独断だと吐いてくれましたわ」

 

なんと。あの時出て行ったのはそういう事情?

裏があるとは思っていたけど、まさか敵から直接裏をとってたとは。

 

これは……ん? いや、ちょっと待て。

確かグレモリーってのは、この辺の管轄で、堕天使は商売敵。

んでイッセーや俺は堕天使に殺されて……それから更に結果オーライって言えない事態もある。

あのクソ神父絡みだ。これ、見方を変えれば部長の職務怠慢じゃないか? 或いは監督不行届。

警護の強化を俺は眷属として打診すべきか。

 

それだけならまだいいが、もし今回の件が「わざと泳がせていた」だったら――

いや、ま、まさかな。俺が疑心暗鬼になっているのをよそに、部長は三枚の黒い羽を取り出す。

まるで、倒した証拠だと言わんばかりに。案の定、レイナーレの顔が面白いほどに青ざめる。

 

「その一撃を喰らえばどんなものでも消し飛ばされる、滅亡の力を有した公爵家のご令嬢。

 部長は若い悪魔の中でも天才と言われるほどの実力の持ち主ですからね」

「別名『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』と言われてますのよ?」

 

うわあ。木場と姫島先輩が、部長を称えるように部長の力を紹介する。以前のはぐれ悪魔戦でも

ただものではないと思ってたけど、ただものじゃなかった。

姫島先輩も恐ろしい面があるが、部長も大概じゃないか。

 

……でもそうだよな。普通、眷属ってのは主に従い、称えるものだよな。

俺みたいに主を信用しきってないのは、珍しいんじゃないか?

俺の場合、実感が全然沸かないってのが大きいが。

 

「そ、それでもセルゼン神父が……」

「……その神父なら、遠くまで飛んでいくのを見ました。

 あの様子じゃ、街の外まで飛んでいったかもしれません」

「あらあら。そんな遠くまで飛んでいってしまったの? どうしましょう」

 

下のはぐれ退魔師軍団は木場と塔城さん、それに部長や姫島先輩が来た時点で全滅だろう。

となればもう残りはあのクソ神父だけだが、そいつももう俺とイッセーで吹っ飛ばした。

 

つまり――まあ、皆まで言わない。

ふと、部長の目線がイッセーの左手に向いた気がした。

 

「……赤い龍。この間までそんな紋章は無かった気がしたわ。そう、そういう事ね」

 

『部長。イッセーの左手については俺から話します。

 ご存知と思いますが、これは「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」。俺が何故これを知っているかは

 オカ研で初めて呼び出される前、俺はこの籠手に宿る龍――ドライグと話しました』

 

「え? おいセージ、さっき俺の左手の龍がどうのこうのって、それのことかよ?」

 

『ああ。俺の声が届かない、ってドライグが嘆いていたぞ。

 まあ、じきに聞こえるようになると思うけど』

 

十秒に一回、己の力を倍加させる神器(セイクリッド・ギア)。それがイッセーの神器の本来の姿。

しかしドライグが言うにはまだ発展性を秘めているとか。

極めれば神をも屠れるという謳い文句は、伊達ではないって事らしい。

 

――しかし、俺自身の右手の方は変化を感じない。

あくまでも、俺の記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)の起動キーとしての役割が主だからか。

それ以前にピーキー過ぎて、俺では使いこなせるかどうか怪しいものだ。

 

「セージが何を龍と話したのかは、追々聞くとするわ。

 それとイッセー。今回は相手が油断してたから勝てたようなものよ。

 実戦で相手が倍加を待ってくれることなんてありえないわ」

 

だな。その点は俺の記録再生大図鑑も似たようなものだ。

十秒に一回なんてピーキーさはないが、俺単体で使うとなるとカードを一々引く手間がある。

そこを狙われたらひとたまりもない。弱点をも理解して、初めて真に使いこなせると言える。

強くなるための道は、まだまだ長そうだな。イッセー。

 

「でも面白いわね。二人とも、さすがは私の下僕くん。

 これからもっともっと可愛がってあげるわ」

 

部長はイッセーの頭を笑顔でなでている。

うん。今俺はイッセーに憑いているわけで、感覚を共有しているわけで。

つまり、イッセーが頭を撫でられるのは、俺が頭を撫でられているわけで。

 

……だーかーら。そういうのくすぐったいからやめてってば部長。

ぐぬぬ、これは違う意味で俺はまだまだだ。

ここはイッセーに交代したい。イッセー、パス――って出来ないか。とほほ。

 

「さて――」

 

と、ここでにこやかな部長の表情は一変し、レイナーレを冷たい目線で睨みつける。

あれは――フリードやバイサーの時と同じだ。一片の容赦もない、敵対するものへの眼差し。

 

「消えてもらうわ。勿論、その神器も回収させてもらうけど」

「じょ、冗談じゃないわ! この癒しの力はアザゼル様とシェムハザ様に……」

 

ここまで敗戦確定なのに、なんと往生際の悪い。こいつ、本当に自分の立場わかっているのか?

それは部長も同じ考えだったらしく、聞く耳持たんと言わんばかりだ。

 

「愛のために生きるのもいいわね。でも、あなたはあまりにも薄汚れている」

 

――そうだな。そもそもその上を騙して手に入れた力じゃないか。

愛が欲しいのに、その愛を与える相手を騙すとは。お前、本当にその辺理解してるのか?

それでも力は手放したくないとばかりに狼狽している……マジで見苦しいぞ。

 

そして、次の瞬間俺は自分の耳を疑った。

その時は、まさかここまでレイナーレがゲスだとは思わなかったからだ。

 

「イッセーくん! 私を助けて!」

 

……は? 今お前、なんて言った? 疲れすぎたか。俺も耳がおかしくなったか?

だが、その認識は現実逃避だと言わんばかりに、目の前のゲスは言葉を紡いでいた。

 

「この悪魔が私のことを殺そうとしているの! 私、あなたの事が大好きよ! 愛してる!

 だから、この悪魔を一緒に倒しましょう! イッセーくん!」

 

何度もイッセーの名前を連呼している。イッセーも、もう心は折れていた。ここから見て取れる。

ど、どこまで……どこまでこいつは!!

 

どこまで他人の心を、愛を、なんだと思っているんだ!!

 

「――部長、もう、限界です……頼みます」

 

イッセーのその悲痛な声は、俺の中の何かを引きちぎった。

 

『すまないイッセー……今から勝手なことをする。許せ。そして寝てろ』

 

――――

 

「……ドライグ」

「何だ、霊魂の方」

 

もはや手段は選ばぬ。俺は、俺自身の手で、奴を消さなければならないみたいだ。

部長の力ならば一瞬で消せるのはわかる。もう一発殴ったのもわかる。だが、それでも。

 

「初めにイッセーにも謝っておいた。悪い。俺も限界だ」

 

「なに? おい、待て貴様! 今の宿主の体じゃそれは無理だ!

 貴様の存在そのものも変質させかねんぞ!!」

 

「問答無用だ!!」

 

俺は、無理やりにでもドライグから力を引き出そうとしていた。

俺の魔力を全部使ってでも、ドライグの力を引っ張り出してでも

目の前の邪悪は消さなければいけない!

こんな腐りきった奴は、徹底的に焼却しなければならない!!

 

当然、こんなものは正義でもなんでもない、ただの復讐だ。

だがそれ以前に俺は、自分の正しい事のために力は使おうと思ったが、正義のために戦おうなどと

大それたことは考えちゃいない! 俺は、ただ奴を、レイナーレを許さない! それだけだ!!

 

――――

 

「消えろ。二度と私のかわいい下僕に言い寄るな――イッセー?」

 

部長の魔法が炸裂する寸前。言いだしっぺがその手を止めたのだ。

部長も混乱するだろうさ。

 

『部長。気が変わりました。やっぱ……俺の始末は、俺自身が付けます』

 

 

それじゃあ始めようか。俺の、俺による、俺のための復讐劇を。




原作乖離が目に見える範囲で徐々に出せたらいいなと思ってます。
次回もレイナーレさんはひどい目に遭います。
ちょっと死体蹴りみたいで不快な描写になるかもしれないとだけ警告しておきます。

一巻部分は残り数話ですがお付き合いのほどよろしくお願いします。



以下余談。
原作で実はこの部分引っかかってました。
レイナーレに対する言いたい事は全部オリ主君に代弁させましたが。
メアリー乙ですね、はい。

いや確かにあの状態のイッセーでは無理かもしんないけど
なんだか自分の不始末を他人がしてるみたいで引っかかったんですよ、ここのくだり。
一発殴ってはい終わり、って相手でもないでしょうに。

もっとひどい事言うとリアスがおいしいとこ全部持ってっちゃった、みたいな。

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