ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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後編です。
なので昨今恒例のゴースト風導入は無しで。

今回、匙アンチが相当なものになっておりますので悪しからず。


Q:誰に対してアンチなんですか?

A:作品見て主観で(ここ大事)「いやお前おかしいだろ」が大原則。
  敵も味方もあるものかぁ! の精神です、今更ですが。
  ……それが三大勢力(主に悪魔)に偏っているからタグにある通りになってるんですけどね。

  あと、改変加えちゃってるケースもあります。黒歌とか。

  生き別れの妹キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
  ↓
  妹「ついていかない!」
  ↓
  じゃあ死んで

もうね、アホかと(ry
この件もはぐれの暴走装置だったりするんでしょうかね……まさか。


Soul70. 百鬼夜行、紅魔に集いて(後編)

冥界・グレモリー領。

今日はここで冥界の、悪魔社会の未来を背負って立つ若手の上級悪魔の会合が行われるそうな。

俺にとってはどうでもいいし、早いところこの問題を解決したいのだが

一応顔を出すという約束は交わしている。無碍にも出来ない。

そんなわけでやって来たのだが、そこには俺の見知った者やそうでない者

本当に様々な悪魔がやって来ている。よくもまあこんなにいたもんだ。

……勿論、大半はその眷属なのだろうが。

 

サイラオーグさんやレイヴェルさんと再会の挨拶を交わしたり

イッセーに絡まれたりしているうちに、いよいよ会合が行われる。

若手の上級悪魔による意思表明……すなわち、夢を語る場であると言う事らしいが。

それにしては、やけに大人が出張ってる気がしてならないが。まぁ、そんなもんなのだろう。

サイラオーグさん、シーグヴァイラさん、レイヴェルさん。

順当に向上を述べていき、いよいよグレモリー部長の番が回って来る。

 

で、案の定。レーティングゲームでトッププレイヤーになると意気込んではいるものの。

俺は一部のお偉いさんが苦笑いをしているのを見逃さなかった。

その苦笑いの意味がどうにも気になる。それは至難の道であると言う事なのだろうが

果たしてそれだけか? 実力だけでどうにかなる世界じゃない。

そう暗に言っているようにも思えた。

 

……そして。

 

「時に、リアス・グレモリー君。

 君には『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の不正利用の疑惑がかけられているのだが。

 それなのに、先ほどの夢を語ったというのかね?」

 

「け、決してそのようなことはございません!

 これは『悪魔の駒』を用いた際に起きたハプニング!

 レーティングゲームのルールは、当然遵守する所存でございます!」

 

……あっそ。俺はハプニングでこんな風にされてアフターフォローもおざなりなわけか。

内心毒づきながら、結局それが本音かと思っていたりする。

けっ。何が情愛の悪魔だ。自分に従順な下僕が欲しいだけじゃないか。

それにそういうのが欲しかったら、やることが違うだろうが!

 

「当然だ。レーティングゲームは我ら悪魔にとって大事な儀式のようなものだ。

 それを汚す様な真似は、何人たりとも赦すわけにはいかない。それが陛下の妹君であってもな」

 

「……その私から、妹の擁護をさせてもらってもいいだろうか。

 確かに彼女はそこにいる赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)を眷属に迎え入れる際、ハプニングでその隣にいる

 紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)――当時はもう一つの赤龍帝だったのだが――も迎え入れてしまったのだ。

 ここでこそ実体化しているが、紫紅帝龍は魂のみの存在。リアスが悪魔転生の儀式を行った際に

 その儀式に巻き込まれ、結果として9個目の『兵士(ポーン)』が生まれることになってしまったのだ」

 

グレモリー部長を詰るお偉いさんに、サーゼクス陛下が横槍を入れてくる。

まさか、フォローってこれの事じゃないだろうな?

だとしたら、全然フォローになってないんだが。

 

「このような事態は狙ってできることでは無い。また、開発者のアジュカもこの件については

 黙認の姿勢を取っている。いかがだろうか。レーティングゲームにのみ制約を設ける形で

 それ以外は現状維持という方向では? 紫紅帝龍の力は、我々悪魔にとって非常に有益だ。

 赤龍帝に勝るとも劣らぬ力を持っていることは、私が保証する」

 

……な、なん……だと……!?

 

あの赤タヌキ! フォローどころか外堀埋めやがった!

いや、確かにフォローはフォローだ。けれど、そのフォローは俺に対するものじゃない。

そもそもだ。サーゼクス陛下に俺をフォローする理由なんざない!

悪魔社会と、妹の面子さえ守れたら、あとはどうなってもいいってわけか。

 

神器(セイクリッド・ギア)由来でないからこそ起きた事だと俺は思っている。

 魂を封じ込めた神器――例えば『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を持ったものを悪魔転生させても

 神器に影響は及ぼさないからな。そこの赤龍帝のように」

 

そういえばそうだ。イッセーは悪魔にされたが、ドライグはドラゴンのままだ。

悪魔の駒が影響を与えるのは当人の魂のみで、神器の魂には影響を及ぼさない、って事らしい。

 

となると、俺は何だ? イッセーの魂と融合しかけていたのか?

てっきり、イッセーに憑依していたがために巻き込まれたと思っていたのだが。

……もし前者だとすると、悪魔の駒の共有の解除は極めて困難かもしれない。

 

 

などと俺が考えていると、シトリー会長の出番が回って来た。

だが結論から言おう。この人も結構向こう見ずと言うか、世間知らずと言うか。

――下級悪魔や転生悪魔向けにもレーティングゲームの学校を作る、と言ってはいるものの。

 

俺だって軽くだが今の冥界、悪魔社会の情勢については調べているんだ。

だからこそ、関わり合いになりたくないって結論を出したんだが。

 

今の悪魔社会は、純血至上主義。それはあのライザー・フェニックスとの一悶着でも

証明されている。だがそれならそれでいいのだ。悪魔の問題なのだから、俺があれこれ言うのは

内政干渉だ。悪魔の在り方を人間が決めるというのも、おかしな話でもあるし。

 

……むしろ、人間の在り方を悪魔が決めているとも取れる現時点がおかしい。

悪魔の駒の不具合についてはすべて黙殺され、闇に葬られている。

そもそも純血悪魔を護ることと、転生悪魔を増やすことは競合している。両立しない。

 

人によっちゃこれを同化政策などと言うのかもしれないが

それは互いの同意があって初めて政策として成り立つ。

ここに、あるいはほかにも探せば同意どころか半ば強制的に悪魔にさせられた奴は少なくない。

俺は言わずもがな、アーシアさん、それにイッセーだって強制的にされた様なものだ。

そして、黒歌さんみたく悪魔になったことを後悔している人だっているんだ。

黒歌さんは人じゃないけど。

 

……で、何故俺がこれを引き合いに出しているかと言うと。

シトリー会長は、下級の悪魔や転生悪魔でもレーティングゲームを学べる学校を作る。

そう言っているのだが……

 

……待て。

そもそもレーティングゲームって、そこまで言うほど神聖視されるものか?

やっていることは殺し合いなんだぞ? それを下級悪魔はまだしも、つい昨日まで一般人だった

転生悪魔にも殺し合いを学ばせるというのか? まるで戦時下の日本じゃないか……!

 

……じょっ、冗談じゃない!!

俺はシトリー会長はまともだと思っていたが、どうやらその見解は改める必要がありそうだ!

そんな俺と思惑は違うのだろうが、お偉いさん方は失笑を通り越して大爆笑。

パッパラパ―……もといセラフォルー陛下がそれに対して怒っていたが

それはそれで呆れ返る。上に立つものがこうも公私混同されては不安になるんだが。

サーゼクス陛下も大概だったが、あれは内ゲバでの事だしまだ擁護の余地はある。

しかし今回のこれ完璧にアウトだろ。そういえば、ここ取材許可おりていたはずだが?

リーが取材許可証持ってたって話なんだが……これ、支持率に障るんじゃないか?

 

――魔王陛下は身内贔屓を平然と行う、って。

 

そうなれば俺もリーにあの情報を提供するまでだが。あの内ゲバの時の様子を。

そしてさらに……えっと、確か匙……だっけ。シトリー会長の兵士が

大爆笑したお偉いさんに食って掛かる有様。グレモリー部長も大概だと思っていたが

シトリー会長も眷属に恵まれていないのか?

何とかこの場だけでもシトリー会長をフォローするために

俺は匙の背面に回り込み、手刀を叩き込んで黙らせる。

 

「……しっ、静かに。差し出がましいようだがここは俺に任せてくれないか?

 どうせ俺ははぐれ一歩手前だ。汚れ役ならいくらでも押し付けてもらって構わない。

 

 ただ……後でシトリー様と話をさせてくれ。

 今シトリー様が仰った件、言いたいことが俺にもある」

 

EFFECT-TIME!!

 

……で、真羅副会長に断りを入れて匙を建物の裏に連れ出したってわけだ。

 

――――

 

「う……はっ!? 何処なんだよ、ここは!?」

 

「会場の建物のちょうど裏側だ。騒ぎを大きくしないためにちょっとご足労願った」

 

会場裏まで連れ出したところで昏倒させた匙が起きてしまった。

面倒な。今起きられたら俺に矛先が向かうじゃないか。

……事実だけど。

 

「てめぇ! いつぞやの臆病者! こんなところに連れ出して何のつもりだ!

 イッセーから聞いたぜ、お前先輩に対して反乱を企てているそうだな!

 それじゃてめぇははぐれ悪魔って事か! だったら俺がこの場で……」

 

「……類は友を呼ぶ、か。お前があの場であれ以上暴れて見ろ。

 シトリー会長の株価はどうなったと思う?

 セラフォルー陛下の後ろ盾があるからいいとでも思ったか?

 正直、あの夢に対して俺が言いたいこともなくはないが、今はどうでもいいから置いておく。

 お前は誰に対して喧嘩を売ろうとしてたんだ。冥界政府か?

 イッセーにも言ったが、喧嘩を売る相手はよく見てからにしろ」

 

「セラフォルー様は関係ないだろ! 俺は会長の夢をバカにした奴が許せないんだよ!!

 それとてめぇもだ! とてもイッセーと同じ『兵士』とは思えねぇな!」

 

言わんこっちゃいない。俺に向かって怒りをぶつけているように見えた。

勿論、無理やり連れだした俺にも多少なりとも非があるのはわかっている。

だが開口一番これか。ダメだ。完全に頭に血が上っている。

何とかしてコイツを黙らせたいところだ。

俺の言い方もまずかったのかもしれないが、完全に宣戦布告と見做したのか

ご丁寧に神器まで展開させている。はぁ、やっぱこうなるのか。

 

「反乱……か。まぁ、否定はしないさ。はぐれ扱いもある意味、な。

 ただ俺は俺のやりたい事があって行動を起こしているんだ。誰かみたいに考えなしじゃない。

 それとだ。そう思っているのはお前だけだ。シトリー会長の動きは、セラフォルー陛下に。

 お前の動きはシトリー会長に、それぞれ繋がっていくんだ。

 関係ないものなど何一つとしてない」

 

「偉そうにしやがって! それよりてめぇ!

 先輩に、魔王様に逆らってまでやりたい事って何なんだよ!?」

 

「……悪いが、お前にまでペラペラ話す義理はない。

 知りたきゃ悪魔らしいやり方で聞き出してみるんだな。

 俺も悪魔らしいやり方で抵抗させてもらうが」

 

俺の言葉を合図に、匙が身構える。警告の仕方を間違えたか。

これ以上ことを大きくするのは不本意だが……これはお灸を据えるべきか?

打って出る前に、俺は記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を匙に向ける。

 

匙元士郎。駒王学園生徒会書記。ソーナ・シトリーの「兵士」で、駒4個を使い転生を果たす。

神器「黒い龍脈(アブソーブション・ライン)」を持ち、接続した対象の力などを吸収、譲渡することが出来る。

 

――つまり、白龍皇やイッセーの「譲渡(TRANSFER)」の亜種みたいなものか。

 

十分対応できると考えたその矢先、ふとプライベートな記述だが目に入ってしまった。

忘れようともしたが、そこに書かれていることに俺は目を疑った。

 

――ソーナ・シトリーに想いを抱き――

 

そこまではいい。そこからだ。俺にとって……

 

……一番、唾棄すべき感情は!

 

 

――できちゃった婚、即ちソーナ・シトリーとの間に子を成そうとしている。

 

 

……やはり、類は友を呼ぶか。ここにも分かっていないバカがいた!

相手がどういう存在だかまるで分っていない! いや、そもそもそれ以前に……だ!

 

命を、命を何だと思っていやがる!!

 

奪うだけが命を粗末にする行いじゃないんだぞ! 無意味に命を生み出すのもまた

命に対する冒涜だ! コイツにはお灸じゃあ足らない! 一度徹底的に叩きのめす!

シトリー会長には悪いが、このバカには現実と言う物を見せねばならん!

 

「……そいつがお得意の神器か。俺の事を調べて対処するつもりだろうが――」

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

HIGHSPEED-STRENGTH!!

 

EFFECT-CHARGEUP!!

 

匙が言い終える前に、俺は速攻で突っ込み、顔面に思いっきり鉄拳を喰らわせた。

後悔? んなものをできるほど、今の俺は冷静じゃないと思っている。

夢に、未来にだけ目が向いて、その過程が全部すっ飛んでいやがる!

何が出来ちゃった婚だ! そうして生まれた子供に責任が持てるのか!

無責任に子供を成すというその行為、あこがれだけとはいえ絶対に許せるものか!!

婚約していたり、大人で責任を持てるというのならばまだいい!

だが……だが! お前はそうじゃないだろうが!!

 

「あ……が……っ……!?」

 

「悪い。余計なものまで見てしまったが、それは俺にとって看過できないモノだった。

 恨むなら、主に邪な感情を抱いた己の浅はかさを恨め」

 

俺の言葉に察したのだろうか、匙の眼に一瞬闘志が燃えるのが見えた。

だが、だからって俺がそれをはいそうですかと待っているわけがないだろう。

匙が体勢を立て直す前に、俺は匙の身体を蹴り飛ばし

踏みつけるようにキックの殴打を浴びせる。

 

「ぐ、て……めぇっ……!」

 

攻撃の隙をついて、匙が「ライン」を飛ばしてきたが……

俺はそれを掴むや否や、力任せに引き千切る。

強化しているとはいえ、「戦車(ルーク)」状態でもないのにこれか。

恐らくは実戦経験の差かもしれないが……だが、そんなことはどうでもいい。

俺はこいつを、こいつを……ッ!!

 

引き千切った「ライン」を乱暴に投げ捨てると、何もなかったかのように霧散する。

愕然とする匙に、俺はさらに近づき胸倉を掴みあげる。

 

「……最期に一つ聞く。お前にとって『命』は何だ? カウントは10だ。0迄に答えろ。

 10……9……8……」

 

「なっ!? 何だいきな……ぐううっ!!

 い、命……は……そんな……の……」

 

……フン。やはり何も考えていないのか。もうカウントはやめだ。

胸倉を掴む力を、さらに増す。いつしか強化は切れているが、そんなものは関係ない。

胸倉を掴んだまま、無造作に匙を地面に叩きつける。

 

「てめ……っ……はな……しが……」

 

「お前らみたいに命のありがたみが全然わかってない奴が俺は何よりも嫌いでな。

 一応タネは明かしてやる。お前の思っている夢をうっかり覗いてしまったんだ。

 だがそれは、俺にとっては深淵を覗いたに等しい行いだった。

 勝手に他人の夢を覗き見て勝手にキレるなって思って構わない。

 けどな……これだけは言わせろ。

 

 ……命は、勲章でも無ければ玩具でもないんだぞ!!」

 

その咆哮と共に、俺の匙を掴む力は無意識にどんどん増していく。

匙からはいつしかうめき声すら聞こえなくなってきているが、俺はそれに気づかない。

 

――その時だった。内側から俺の力ががくんと抜け落ちる感覚があったのは。

 

『ストップだセージ。それ以上はそのガキ、本当に死ぬぞ。

 言いたいことはわからんでもないが、手間かけさせるな』

 

「う……? ……はっ! お、俺は……」

 

フリッケンが、俺の力を強制的に抜くことでストッパーになったようだ。

我に返ると、へたり込みせき込む匙の姿があった。

以前も怒りで我を忘れたが、またしてもやらかした、のか?

 

ふと、遠くが騒がしくなってきた。

これ以上コイツを拘束するのもよくないな。

それにしても、やり過ぎた。シトリー会長への言い訳を考えながら

俺は匙を引きずって会場に戻ることにした。

 

――――

 

「よう。派手にやったらしいじゃねぇか。ま、記事にはしないでおいてやるよ。

 俺は何も見てないし知らねぇ。いいな?」

 

いの一番に出くわしたのは、取材でやって来ていたリーだった。

確かにグレモリー眷属きっての問題児がシトリー眷属に暴行を加えたとか

冷静になって考えてみたら大事だ。

全く、本当にグレモリー部長やイッセーの事をとやかく言えない。

俺も結構、根っこの部分はアイツらと一緒なのかも。

 

「それにしても、いいものを見させてもらったぜ。

 あの後セラフォルーは政府陣に啖呵を切るし魔王達の公私混同っぷりに

 笑いをこらえるのが大変だったぜ……っと。あまりべらべらしゃべると

 またイェッツト・トイフェルに睨まれても困るからな。

 ……ま、来週の週刊誌を楽しみにしとけって事だな」

 

そういえば、イッセーとアザゼルの密会をリークしたのもコイツだったっけ。

そう考えると、楽しみどころか少し嫌な予感もする。

その嫌な予感は、誰の物かはわからないが。

 

リーとの会話もそこそこに、シトリー会長に匙を差し出す。

一応、事の顛末は話しておく。真羅副会長に話したとはいえ

ここまでやらかした以上、俺からの説明が必要だろう。

 

……尤も、あの夢の事については伏せておくが。

 

――――

 

「――と、言うわけです。出過ぎた真似をして眷属に多大な危害を加えてしまい

 申し訳ありませんでした」

 

「……あの場でサジを諫める役割は、私がするべきでした。

 いえ、もっと言えばあの場でサジがあのような行動に出ないよう

 常日頃から言い聞かせておくべきでしたし、そういう意味では

 サジの気質をしっかり把握していなかった私にも落ち度はあります」

 

傷については、アーシアさんに事情を説明し頭を下げることで癒してもらっている。

この事はイッセーには伏せている。あとでバレるとはいえ、今バレると面倒だからだ。

 

「あの……本当にイッセーさんには内緒にするんですか? 後できっとバレますよ?」

 

「ああ。どうも奴はこいつと仲がいいらしいからな。後でバレるのは俺も織り込み済みだ。

 けれど、今バレたらまたアイツと殴り合いを演じなきゃならなくなる。

 今やるのはマズいだろ? だからアイツには

 『さっきの件で制裁を受けた』って事にしてほしいんだ」

 

アイツの事だ。真実を知ったら

 

――てめぇは俺達だけじゃなくて他所にまで、学校の仲間にまで手を出すのかよ!?

 

とか何とか言って俺に殴りかかって来るだろう。血気にはやるのはいいんだが

ここでやるなよ、って話だ。だから俺だって態々外に運び出したんだし。

喧嘩をするなとは言えないし言わない。だが喧嘩にだってルールやマナーってものはある。

俺はそう思っているし、これは大那美(だいなみ)の仲間たちの受け売りでもあるんだが。

 

さて。匙の件はこれでおいておくとして……

 

「それから失礼ついでに言わせていただきますがシトリー様。

 俺も先ほどの話、障りだけ聞いていました。

 その上で結論から言いましょう。

 

 ……なめてんのか?」

 

その俺の言葉を聞いた瞬間、シトリー会長は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

 

「夢を語るは大いに結構。だがあなたのやろうとしていることは

 人殺しのやり方を子供に教えるがごとき所業。とても看過できません。

 個人的意見になりますが、俺は悪魔である事に納得は未だしていませんし

 戻れるものならばすぐにでも戻りたいです。そして、そう考えているものは少なくないことを

 これまでの調査で把握しております。

 あなたの夢は、そうした者たちの意見を無視していることにもなりかねません」

 

「……別に、義務教育として取り入れろと言っているわけではありませんが」

 

「変わりませんよ。下級悪魔や転生悪魔にも学問の門戸を広げるというのは

 義務教育としてレーティングゲームを取り入れるというのとほぼ同義。

 そして、これは俺の主観ではありますがレーティングゲームとは殺し合いの競技。

 とても清く正しいスポーツとは、俺には到底思えません。

 そんなものを、義務教育の一環として取り入れるのならば

 堕天使や天使、そして他の神々、ないし人間との付き合い方を学ばせた方が

 余程未来のためになると俺は思いますがね。悪魔の駒の正しい使い方のためにも」

 

「……考えておきます。殺し合いの競技、ですか。

 レーティングゲームは死者が出ない仕組みにはなっているはずですが……」

 

俺の意見に対し、シトリー会長は驚きながらも冷静に努めているように見えた。

表面だけでも冷静を保てるというのは、余裕の表れと言う奴なのだろうか。

まあ、俺はお偉いさんではないがそれでも真っ向から夢を否定するようなことを言ってるんだ。

腹の内では、それなりに思うところはあるのだろうが。

俺が二の句を継ごうとしたとき、後ろから少女の声が聞こえてきた。

 

「横から失礼いたしますわ、ソーナ・シトリー様。

 改めまして、フェニックス家の長女レイヴェル・フェニックスです。

 先ほど『レーティングゲームは死者が出ない』と仰いましたが、少し訂正が必要ですわ。

 確かに死者は出ません。ですが、『死ぬよりも苦しい後遺症』はしっかりと出ています。

 それは私がこの目で目の当たりにしたことでございます」

 

そう。

横から来たレイヴェルさんに指摘された通り、レーティングゲームは「死者が出ない」

ただそれだけなのだ。医療設備もあると言えばあるのだが、後遺症までは防げなかった。

そして競技において恐ろしいのは試合中の事故であり、後遺症である。

スポーツ選手、特にエクストリームスポーツともなれば競技中の死亡事故もあり得る。

そしてレーティングゲームは性質上、エクストリームスポーツと言っても差し障りない。

これはあの時から認識を改めていない。

……イッセーの件も入れれば、俺は何人病院送り規模の怪我を負わせたのだろうな。

 

「内ゲバを引き合いに出すようでなんですが、俺も危うく相手の選手を殺しかけました。

 生命に関するルール規定がない以上、そういう事故も起きると言う事です。

 勿論、そうした事故を起こさないために教育が必要と言う考え方もあるでしょうが

 正直に言います、シトリー様。

 

 ……そこまで、お考えでしたか?」

 

レイヴェルさんの尻馬に乗るような形ではあるものの

俺もイッセーに神経断裂弾を向けたことを引き合いに出し、シトリー会長を問い質す。

まさか、シトリー会長も命を軽んじているなどとは、俺も思いたくないからだ。

 

「……貴重なご意見、ありがとうございます。

 この件については改めて、より良い方向に昇華できるよう尽力させていただきます……」

 

「まあ、うちも特産品をレーティングゲームに提供している以上は

 スポンサーとして、貴女の言うレーティングゲームの改革を楽しみにさせていただきますわ。

 私が思うに、まずレーティングゲームの在り方や政府、上級悪魔の皆様の意識を改革せねば

 貴女の夢はスタートラインにすら立てない、と私は考えてますわ。

 まあ、あの時の皆様の態度を見ればお分かりかと思いますけど」

 

「……そうですね、レイヴェル様、歩藤君。

 貴重なご意見、重ね重ねありがとうございます」

 

シトリー会長は匙を連れて控室の方向に向かっていったようだ。

それを治療のためにアーシアさんがついていく。

そのため、レイヴェルさんと取り残される形になってしまう。気まずい。

 

「……あなたが噂屋やフリーライターとつるんでいるという情報もあるので

 これはオフレコでお願いしたいのですけど。

 

 ……私自身としては、レーティングゲームなんてもう懲り懲りですわ。

 けれど、今の社会ではレーティングゲームの成績が物を言う時代。

 そういう意味では、リアス様とはライバルと言う事になるのかしら。

 全くもって、不本意な話ではありますけど」

 

「俺は何も聞いていませんし、聞くつもりもありませんが……少々お耳に。

 情報源は伏せますが、今のレーティングゲームには

 何か善からぬものがあるという噂もあります。

 それに、ドラゴンアップルの害虫やアインスト、禍の団(カオス・ブリゲート)のはびこる現状

 娯楽であるレーティングゲームがどんな形であれ普通に執り行われるというのは

 ある種、異常さを感じると思うのですよ」

 

「それは魔王様曰く

 『レーティングゲームで市井の悪魔達に希望を与えたい』との事らしいですわ」

 

……うわあ。虚飾の希望とかなんという……

ま、まあ悪魔らしいと言えば悪魔らしいのだろうけれどもさ。

俺には、どうしても豪勢なエサで釣って目の前の危機から目をそらさせようとする

逃避の行いに見えて仕方がなかった。

 

「では私はこの辺で。御機嫌よう、忌々しい紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)の望まれない眷属さん」

 

迎えに来たと思しき、遠くに見えた奥瀬秀一(おくせしゅういち)弁護士と共に

レイヴェルさんは会場を後にする。本当にここには長居したくないんだな。

しかし、望まれない眷属……ね。ま、俺の方はその認識なんだが。

向こうが素直に手放そうとするかねぇ。

 

……手放すと言えば。

黒歌さんと塔城さん、再会したらどうなるんだろう。

まさか黒歌さんがこっちに来るなんてことはどう考えてもあり得ないし

そもそも黒歌さんがはぐれに至った経緯とかも俺はあまり詳しくは知らない。

精々、塔城さんを護るためにやむなくという情報だけだ。

……それなのにはぐれ扱いとは、本当に悪魔社会ってのは……

 

……ふと外を見ると、噂をすればなんとやら。

黒猫が見えたので、俺はそっちの方角に向かうことにした。

 

 

――そして、俺は目の当たりにすることになった。

俺の立てた仮説の、その正否を。




>サーゼクス
やらかしました、フォロー(但しセージに対してとは言ってない)
原作よりもアレな部分が強くなったのは魔王としての役職の責任感と
元来のグレモリー家の気質が混ざり合った結果です。

リアスとか見てると魔王(と言うか上司)には絶対向いてない家系だと思うんですけどねぇ……
優しければいいってものじゃないのよ、上司ってやつは。

なおタヌキは緑だろ、赤はキツネだろってツッコミは却下。

>匙
犠牲になったのだ……セージの生命倫理観、その犠牲にな……
命を粗末にするな、ってSEKKYOUですが、よく命をもてあそぶ奴に言いますが
こういう後先考えずに命を生み出す奴も該当すると思うんです。
生まれてはいおしまい、なんて命は悲劇でしかありませんよ……
後、ここはセージが抱えている悩みもあったり。
大したネタバラシでもないのですが公開しますと

想いを遂げるためには父親にならなければならない。
けれど父親と言う存在をよく知らない事へのコンプレックス。

故に、父親であろうとすることが抜け落ちている(風に見えた)
匙のこの件に関してはレイナーレの時に近い勢いでブチ切れてました。

神器についてですが、吸収・譲渡など白龍皇の光翼の相互互換みたいな感じなんですよね。
それなのに四分の一とかわけわからない。
しかも完全体にするためにやった事って別の場所でも見たんですが
レイナーレがやらかしたことと同じ。レイナーレは泣いていい。許さないけど。
巻を進めるたびに本当にダブルスタンダードが酷くなってる気がします。

>フリッケン
外部接続の存在ながらも内側からセージに対して「半減」かけてました。
文字通りのブレーキ。こういう仕事も必要だと思うんです。
出来なきゃただの増幅装置。意思なんざいらねぇんだよ!
誰の事とは言わないけど。

>ソーナ
セージにも突っ込まれてますがレーティングゲームのスポンサーの家系でもある
レイヴェルに突っ込まれるのはセージのそれとはまた違った意味が。
他所様の作品でも散々突っ込まれているレーティングゲーム学校創立の夢。
……それだけレーティングゲームってシステムがおかしいのか
社会そのものがおかしいのか。
「夢に向かって邁進する若者VS夢を笑う愚かな大人」って構図にしたいんでしょうけど
そうは問屋が下りない。だって大前提がそもそも首をかしげたくなるんだもの。

……感想でも頂きましたが、レーティングゲーム抜きにすれば丸く収まったのではないか。
私もそう思ったり。そこはソーナの世渡り下手な部分かもしれません。
頭がいい≠世渡り上手ではない証左ですね……

と言うか原作味方サイドに世渡り上手ってあまり思い浮かばないんですけどね。

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