ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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 ― お知らせ ―

黒歌の設定で最初に載せた設定と
現在の設定に食い違いがありました。

現在の設定(禍の団には所属していない)の方が
正しいものとなりますのでご了承くださいませ。
なお、原作同様はぐれ悪魔であることは変わりありません。

読者の皆様には混乱を招いてしまったことをお詫び申し上げます。



 ― 閑話休題 ―

紅魔、はグレモリー家の事であって
どこぞの厨二拗らせた一族だったり
カリスマ吸血鬼とは一切関係ありません。
ありませんったらありません。

ちょっと長くなったので前後編編成にしてあります。


Soul69. 百鬼夜行、紅魔に集いて(前編)

俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

バオクゥと共にリリス冥界大図書館への侵入には成功を果たすが

そこから情報を得るのには多大な苦労を要することとなってしまった。

しかし、それ以外にもサイラオーグ・バアルさんと出会う事で

俺は悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の物理的な除去方法があることを知った。

 

――残された時間は、あと30日――

 

――――

 

……来るべき時が来てしまった。

これは実質、俺に対する出頭命令に近いものがある。

これを無視するのは、必要以上に俺の冥界での立場を悪くすることになるだろう。

尤も、もうかなり悪いところまで来てはいるのだが。

 

それでも、まだこうして協力者もいる以上彼らの顔に泥は塗れない。

だからこそ、俺はこの出頭命令にあえて乗る形を取る事にした。

 

――若手悪魔の会合パーティー

 

それが、この出頭命令の概要である。

 

 

しかし、現時点では俺の出頭以上に重要なこともある。それが――

 

「じゃあミイラのお兄さん、よろしくお願いするにゃん」

 

黒歌さんを、塔城さんに会わせると言う目的だ。

これは塔城さんに随分と前から依頼されていることだ。

黒猫、との事だったがそれが彼女にとっての姉であり

それがこの黒歌さんである以上、彼女との再会が塔城さんの依頼だ。

 

それがある以上、俺も会場であるグレモリー領に行かないわけにはいかない。

……フェニックス領みたいなことにならなければいいんだが。

 

「ふぅ、ようやくこいつのお守りから抜け出せるぜ。

 おっと。俺もそのパーティーに張ってみるつもりさ。

 ネタには不自由しなさそうだしな。これ、取材許可証」

 

「リーさん、よく取材許可おりましたねぇ……

 私はおりてないんで、セージさん伝手で情報だけ仕入れますよ。

 ……それに、この間騒ぎ起こしちゃったんで」

 

「って言いながらそいつに盗聴器つけてるのはどこのどいつだよ。

 バレたらまた大事にならねぇか?」

 

そう。

リリス冥界大図書館で、俺達は無事目的を果たせたのは良いのだが

そのために書庫で中規模ながらも戦闘を繰り広げ

そこから抜け出す際に結構大変な目に遭ったのだ。

 

そういえば、あの後バオクゥはかなり遅れて合流したが……

まぁ、無事に来たみたいだから特に気にすることも無かったのだが。

 

「構わない。他の奴らは知らないが、俺にとっては痛くもない腹だ。

 どうせ悪魔の駒の共有を解除したら、俺にとってこの世界は無関係だ。

 平穏であることこそ望むが、それ以上は望まないし関与は俺の望むところじゃない。

 だから俺はこんな中途半端なミイラのコスプレしてたんだ」

 

「……そうかい。けどな、お偉いさん方はそうは思ってないだろうぜ。

 隙あらば神器(セイクリッド・ギア)持ちやら何やらの人間を捕まえて悪魔にする。

 それが今の政府の方針なんだからな。俺も捕まって悪魔になった口だが……

 

 ……っと。俺の過去なんざどうでもいいんだよ」

 

そうなのだ。この悪魔の駒なんて道具がある以上

俺みたいな目に遭う奴は今後増える一方だろう。

そのすべてを俺が防ぐなどと言う事は、到底できることでは無い。

俺一人で出来る範囲を優に超えている。

こっちで政府に働きかけでもしない限りはどうにもならん。

……が、リーの言う通り今の政府の方針を考えればそれは土台無理な話だろう。

 

結局、自分一人が助かる道にしかなってない。

せめてイッセーの奴に与える影響を少ないものにしようと

除去ではなく共有の解除方法を探しているのだが……

このパーティーが終わったら、手に入れた情報を洗い直そう。

足りなければ、また探しに行く。とりあえず今は、グレモリー領に行かなければ。

 

「じゃあな、現地でもしかしたら会うかもな」

 

旅は道連れ、とは言うもののその道連れが指名手配だったり

(ある意味)お尋ね者だったりするのは嫌なのだろう。

挨拶だけしてリーはさっさと自分だけでグレモリー領に向かってしまった。

 

「セージさん、あの……詳しくは言えないんですが……

 現地で何が起きても、驚かないでくださいね。

 あ、あと昨日は遅れちゃってすみませんでした。途中で知り合いに捕まっちゃいまして」

 

「無事ならそれでいい。俺のせいで何かあっても困るから。

 それじゃ、また何かあったらよろしく頼む……さて」

 

バオクゥに見送られ、黒猫に化けた黒歌さんを抱きかかえながら

俺もグレモリー領に向かうことにした。

 

――ところで。

何故黒歌さんをこうしているのかと言うと。

実は当初、猫用の籠を用意していたのだが、本人が

 

「猫扱いはやめてほしいにゃん!」

 

などと言ったため、仕方なく籠はやめて抱える形で移動しているのだ。

お前は一体何なんだと小一時間問い詰めたくなったのは俺だけではないと思いたい。

猫状態じゃないと騒ぎになるだろうが、と言う満場一致の説得で

猫状態での移動は同意してもらえたのだが

籠の使用は頑なに首を縦に振らなかったのだ。おかげで腕がしんどい。

俺が猫の扱いに慣れていなかったらどうするつもりだったのだろうか。

 

「ミイラのお兄さん、抱き方上手にゃん」

 

「猫の扱いには慣れてる、それだけだ。尻尾の数なんて些細な問題さ」

 

グレモリー領の方角も問題ない。出発前にバオクゥに地図をもらっているし

いざとなればレーダー探知も出来る。疲れるからあまりやりたくはないのだが。

それより問題は、いくら黒歌さんを連れて行くと言ってもパーティー会場まで

黒猫を抱えたまま、というわけにはいかないだろうと言う事だ。

どこかで放して別行動、としたいところなのだが。

 

「『あっち』の抱き方についてはどうなのかにゃん?」

 

「!?」

 

猫の格好と言う事で油断していたが、黒歌さんの正体は猫の妖怪であり

人の姿形を取る事も容易であり、その様を一度はまざまざと見せつけられている。

黒歌さんの言わんとしていることの意味を不用意に察してしまい、俺の頭に変な考えが過る。

今の状態で人の姿になられたら……うん、完璧に……

 

……色々な意味で、姉さんには見せられない状態になる。ここにいるわけがないけど。

いや、姉さんどころか知り合い全員に見られたくないぞ。特にイッセーあたりには。

その事を考え、思わず黒歌さんを落としてしまいそうになる。

 

「にゃんっ!? あ、危ないにゃん! もっとしっかり抱えてほしいにゃん!」

 

「……だったら変なことを言うのはやめてくれ。これでも驚いたんだぞ。

 と言うか、猫だったらこれくらいの高さから落ちても平気だろ……」

 

「まぁ、それもそうだにゃん」

 

ともあれ、こんなやり取りを繰り広げながらも真っ直ぐにグレモリー領へと向かうのだった。

 

――――

 

――情愛の悪魔・グレモリー領

 

その妙に薄汚れた看板が、この領地の現状を物語っているのではあるまいな、と思いながらも

俺達はグレモリー領にたどり着くことが出来た。

パーティー会場はグレモリー邸。敷地だけは無駄に広いものだから

一応飛んで様子を見てみることにする。

黒歌さんも、嗅覚で場所を探っているようだ。

 

「くんくん……あっちの方角から白音の匂いがするにゃん」

 

「わかった。ただ、近くで一旦別れよう。でないとどこで黒猫を捕まえてきたんだって

 それはそれで騒ぎになる。黒歌さん一人で入る分には、黒猫が迷い込んだって事で

 それほど気に留めることはないだろうと思うが……」

 

「ま、冥界の黒猫……ってちょっと有名になり過ぎちゃったにゃん。

 けれど、あの時はああでもしないと白音を護れなかったのよ……

 

 ……ふふっ、その白音が風の噂じゃ悪魔の眷属だなんて。本当に、バカみたいね……」

 

そう語る黒歌さんは、猫の姿ながらも物悲しそうであった。

俺は望まずに悪魔にさせられた身の上ではあるが、塔城さんはどうなのだろう。

黒歌さんは、塔城さんが悪魔になることをよしとはしていない。

それが今やグレモリー部長の眷属だ。黒歌さんの事を考えれば、あまりにもあまりな話だ。

 

「……お兄さん、ちょっと痛いにゃん」

 

「あっ……すまない。ちょっと思うところがあって」

 

つい、黒歌さんを抱える腕に力が入ってしまったみたいだ。

悪魔の駒、か。結局こうして姉妹の絆にヒビを入れている事案も起きている辺り

悪魔しか得をしない制度なのだろうか。

中には、自分から悪魔になった奴もいるみたいだが……

 

悪魔の駒そのものの機能を全停止させれば、もうこんなことは起きずに済むのだろうか。

いや、そうすれば悪魔の駒のお陰で生きながらえている奴は全員死ぬことになる、か。

 

イッセー、アーシアさんは少なくとも駒を仮に破壊、機能停止に追い込めば

彼らはまず間違いなく死ぬことになるだろう。悪魔の駒で命を得ているのだから。

まあそれ以前に、悪魔の駒のシステムを全統括している代物があるのかどうかって話だが。

神器はそういうものがあるという話をどこかで聞いたが。

 

「……難しい話だな」

 

「何が?」

 

思わず口に出してしまっていたか。

慌てて取り繕うとともに、それっぽい建物が見えてくる。リリスの建物を先に見たせいか

少々薄汚れた印象を受けるが、多分比較対象がおかしいのだろう。

この辺りで一番大きい建物。アレが多分グレモリー邸だ。

 

――そして、俺にとっては……

 

「……こっちの話だ、忘れてくれ。それより、そろそろグレモリー邸みたいだ。

 俺も実はここに来るのは初めてなんだ。そっちが賞金首にされているように

 俺もどうやらグレモリー家の悪魔には嫌われているらしくてね。

 

 ……さて、短い間だったがうちの『むー』を抱いていた気分に浸れたよ。ありがとう。

 塔――白音さんには俺が話をつけておく。それじゃ、機会があったらまた会おう」

 

「『むー』……どっかで聞いた名前だにゃん。

 それじゃお兄さん、今度は『あっち』の姿で抱いてみるかにゃん?」

 

「……だからそういう冗談はやめてくれ」

 

黒歌さんを地上におろすと、あいさつ代わりに「にゃーん」と一鳴きして

どこかへと走り去っていく。

その姿を見送り、俺も包帯を外しあらかじめ用意しておいた仮面に付け替えて

グレモリー邸の門を叩くことにした。

 

――――

 

「歩藤誠二様ですね。お待ちしておりました。サーゼクス様よりお話は伺っております。

 ですが、そのお召し物では……特に、そのお顔の物は……」

 

あ、やっぱり?

しかし困ったな、服はモーフィングで如何様にでもできるが

マスクは出来ればつけたままでいたい。顔割れると面倒なのがあるし。

 

俺は服にモーフィングを施し、即席にフォーマルスーツをこしらえる。

これならブレザー風で、この年でつけていても問題はない。

うっかりタキシードにしようものなら、マスクと相まって変態仮面の仲間入りしそうになったので

寸前でフォーマルスーツにしたのは黙っておこう。

 

「すみません。顔は少々傷が酷いので、こうしている状態です。

 包帯を外すと膿も出て悪臭の原因となりますのでこうしている状態です。

 どうかご容赦願えないでしょうか」

 

「……そう言う事でしたら、替えの包帯もご用意しておきますので

 いつでもお声かけ下さいませ」

 

「いえ、替えは十分にありますので。ありがとうございます」

 

口からでまかせではあるものの、何とかマスクを着けたままドレスコードを突破することに成功。

メイドさんに通される形で、俺はグレモリー邸へと足を踏み入れる。

中は外の少々薄汚れた雰囲気とは異なり、今日のパーティーの参加者でごった返していた。

調度品も高級なもので、料理も見るからに高級なものに見える。

……それが却って、手を付ける気分にさせてくれないが。

 

っと、料理と言えば。塔城さんを探さないと。

探し回っている最中、俺は一人の悪魔に呼び止められた。

振り返ると、そこに立っていたのは――

 

今、一番会いたくない悪魔――サーゼクス・ルシファー陛下だった。

 

「待っていたよ、歩藤君。今ちょうどリアス達も会合に呼ばれているんだ。

 若手悪魔の会合。冥界の、悪魔社会の今後を担う彼らの意思表明と

 その実力を確かめるためのレーティングゲームを企画している。

 君を呼んだのは、この会合に眷属として参加してほしいからだ」

 

「陛下。何度も申し上げますが俺は『9個目の「兵士(ポーン)」』です。

 それは即ち悪魔の駒の不具合を公表するようなもの。現政府の方針とは

 大きく外れてしまいますが、よろしいのですか?」

 

そう。俺の存在そのものが悪魔の駒の不具合である事に他ならない。

本来ならば8個、8人までしか存在できないはずの「兵士」。

イッセーに8個使っており、それ以上リアス・グレモリーに「兵士」は存在しない。

出来ないはずなのだ。それなのに、俺と言う存在がある。大きな矛盾だ。

その矛盾に対する答えを、陛下は用意しているのか?

 

「勿論だ。その辺に関しては安心してくれたまえ。さあ、こっちだ」

 

今一つ信用できないが、俺は渋々陛下と共に大きな扉の前にやって来た。

既に中には何人か入っているみたいだ、話し声が聞こえる。

しかしそれは逆に、まだ会合とやらが始まっていないことを意味していた。

何せ、聞こえてくるのは雑談。会合特有の堅苦しい話じゃないからだ。

 

深呼吸をし、そっとドアを開ける。

その中には、見知った顔。見知らぬ顔。様々な悪魔が所狭しと並んでいた。

ひときわ目立っているのはグレモリー部長に、シトリー会長。

そして……サイラオーグさんに……レイヴェルさん? 彼女もここに来ていたのか。

後は……見たことが無いな。ざっと調べる形で記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を走らせる。

これを使い始めてはや数か月。いい加減使い方にも慣れてきたな。

特に、調べものに関しては。

 

COMMON-LIBRARY!!

 

ふむ……ふむふむ。

シーグヴァイラ・アガレス。アガレス家の次期当主。

人間界のロボットアニメ好きが高じて、機械工学を勉強している。

その腕は有志を集め本物を製作するほどである――か。

要するにお台場のアレ的なハリボテか? それともマジモンか?

マジモンなら尊敬に値するが。

 

それから……ディオドラ・アスタロト。魔王を輩出したアスタロト家の次期当主。

魔王をねぇ……果たして当人はグレモリー部長みたいなタイプか

それともシトリー会長みたいなタイプか。

表示されているデータを流し読みしていると、後ろから誰かに話しかけられた。

何か気になることが書いてあった気がするが

振り向かないわけにもいかないので答えてみると――

 

「やあ。リリスで会ったぶりだな。だがまずはリアスに挨拶をした方がいい。

 君の事情は知っているつもりだが、眷属であることに変わりはないのだからな」

 

「あ……っと。失礼しました、サイラオーグさ……様。ご忠告痛み入ります。

 では俺はさっそくグレモリー『様』の所に向かってまいりますので。

 それと、マスクは……」

 

「いや、皆まで言わなくていい。君にも都合があっての事だろう。

 俺には社交辞令しか言えないが、大事にしてくれ」

 

俺はサイラオーグさんに頭を下げ、グレモリー部長の下に向かう。

サイラオーグさんの器の大きさに驚きつつも、何とか受け答えが出来たとは思いたい。

そして一応でも俺は、グレモリー部長の眷属なのだ。

殆どはぐれみたいなもんだから、つい忘れそうになることが多いが。

 

……で、そのグレモリー部長に遅ればせながらの挨拶を交わす。

 

「セージ! 無事だったのね! 本当にあなたはどうして……」

 

「おかげさまでこっちは得るものがありました。

 寛大な配慮をしていただきありがとうございます」

 

表情や口ぶりは心配してたんだぞオーラが出ているが……口では何とでも言える。

そういう考えが過る程度には、俺はグレモリー部長の事を信用しているつもりだ。

なので、俺は意気揚々と成果を上げた旨を伝える。これで成果が出れば

あんたともお別れなんだ。まぁ、学校で顔を合わせるくらいは

もしかしたらあるかもしれないが……

 

……あんたそもそも、その学校じゃ雲の上の存在だろうが。

俺は自慢じゃないが一般生徒その1程度だと思っている。変なあだ名こそついているけどな。

そして、そんな不遜な態度を取る俺に、早速食いついてきた奴がいる。

 

「てめぇ……よくもぬけぬけと出てこられたな! 忘れたとは言わさねぇぞ!

 こっちに来る前、てめぇが俺達にしたことを!」

 

「イッセー、やめなさい! パーティーの席よ!」

 

案の定。イッセーが俺の胸倉をつかんで睨みつけてくる。

あのなぁ。俺はこっちにも来る予定はなかったんだぞ。文句は魔王陛下に言ってくれ。

つーか、これから大事な会合じゃないのか。それなのにこんな事してていいのか?

 

「……『神経断裂弾(しんけいだんれつだん)』はさすがに悪かったと思ってる。

 ありゃ内ゲバや模擬戦で使うものじゃない。

 だが俺は悪魔らしく『約束』を遵守しているに過ぎないんだ。そこは忘れてくれるなよ。

 悪魔ってのは『約束』を大事にするものだと思っているんだが……それは俺の思い違いか?

 

 ……レイヴェル様。『古傷』を抉るようで申し訳ありませんが

 その件についてどう思われますか?」

 

「悪魔にとって契約は何よりも大事なもの。故に『約束』もまた然り。

 少なくとも、私はそう考えておりますわ。

 あと『古傷』の件についてでしたらお気になさらず。

 貴方は眷属としての使命を立派に果たしただけですわ。

 ただ、それが不幸な結果になってしまっただけ。

 幸い、ユーベルーナの看護の甲斐もあってかお兄様は快方に向かっているとの事ですわ」

 

俺はあえて、レイヴェルさんに話を振ったのだ。

古傷を抉るような真似で申し訳ないとは思ったが、彼女の口から語られる「約束」は

他の者が語る「約束」よりも言葉の重みが違うと判断してのことだ。

案の定、イッセーもグレモリー部長も黙り込んでしまっている。

忘れたとは言わさない、そっくりそのまま返させてもらおうか。

 

「れ、レイヴェル……ライザーの事は、その……」

 

「何のことでしょう? もうその件については裁判も示談と言う形で終えてますし

 『先生』からもグレモリー家の者とは不用意に関わるなとも言われてますので。

 この会合だって、大事な会合だからやむなくここに来ただけですわ。

 もう私は、あなたとは語る言葉を持ち合わせておりませんの。

 御免遊ばせ、リアス・グレモリー様」

 

先生……ああ、いつぞやの「僧侶(ビショップ)」、奥瀬秀一(おくせしゅういち)弁護士の事だろう。

レイヴェルさんの歯に衣着せぬ物言いに内心グレモリー部長に憐憫の念を向けるが

イッセーは顔を真っ赤にしてレイヴェルさんを睨んでいる。

食って掛からないのは、正直意外だったが。

 

「訂正。一つだけありましたわ。先ほど私は不幸な結果を招きながらも

 眷属としての使命を果たしたあなたの立派な眷属を讃えたばかりですのに

 そこの眼付きの悪いのは一体何かしら?

 ……まさか、あれもあなたの眷属と言うのではありませんわね?

 だとしたら、教育が全くなされていないとしか言えませんわ」

 

「……ぐっ!」

 

こっちまで二人の歯ぎしりの音が聞こえてきそうだ。

俺としても針の筵なので正直、これ以上は勘弁してほしい。

勿論、言える立場にないので黙っているが。

 

しかしレイヴェルさんは容赦なく、睨みつけていたイッセーを指して

遠回しにグレモリー部長を詰っている。

俺でもこういう席は堪えるものがあるのに、こいつには土台無理だったんじゃないか?

俺だってそうなのに、一般人に過ぎない俺達に社交界とか何の拷問だか。

グレモリー部長よ。きちんとここまで考えてイッセーらを眷属にしたんでしょうな?

ざっと見た感じではギャスパーが挙動不審な程度でそれ以外は問題なさげではあるが。

 

イッセーの件で思ったが、ごまかしとは言えよくドレスコード通ったよな、俺。

ミイラマスクは相変わらずつけているというのに、だ。

……案外、そこは緩いのかもしれない。はっきり言ってイッセーの正装も

「馬子にも衣裳」って言葉が相応しい。普段のアイツを知っていれば

着こなしているとは到底言えない。俺も他人の事は言えないがね。

 

「静粛に! 魔王様がお見えになる!」

 

険悪な雰囲気の中、場内に響き渡った声に俺達は静まり返り

居住まいを正したのだった。

 

――――

 

そこからは魔王陛下の演説に、若手悪魔の意思表明など様々なイベントが行われたが……

はっきり言おう。状況は見ていたが、内容は大半聞き流していた。

立ったまま寝るスキルは有していないためにできなかったが

それが結果として「恰好だけは」従順な眷属を演じることが出来たと思っている。

 

意思表明。まぁ要は若手らしく夢について語ったのだが、内容を掻い摘むと――

 

サイラオーグさんのケース。魔王になる。これには恐らくは驚愕の意味だろう。

場内からどよめきが起こった。しかし、彼は胆力にも優れているのだろう。

 

――自分が魔王になる必要があると世論が認めれば、就任する。

 

と言った旨の事まで言ってのけたのだ……うーむ、これは結構大物かもしれない。

俺にしてみれば人間界に余計なちょっかいをかけてくれさえしなければ

どんな暗君が魔王に就任してようが気にも留めないが……いや、そもそも暗君が就任したら

人間界にちょっかいを出してくるのは火を見るより明らかか。誰の事とは言わないが。

 

レイヴェルさんのケース。冥界にフェニックス家あり、と言わしめられるような

立派な当主、あるいは当主補佐となる。

これにも政府のお偉いさんからは

「既にフェニックス家はそれ相応の地位を持っているではないか」とツッコミを入れられていたが

それに対しても「あらゆる冥界の家系に対し模範となりたい」と返していた。

この中では一番の若手であるというのに、堂々とした受け答えは

 

――兄君……つまりライザー君の件は誠に残念であった。

  我々は優秀な若手悪魔を失ってしまったからな。

 

とか

 

――だが、こうして君がフェニックス家を、冥界を背負って立つ気位を見せているとは

  きっと兄君も喜んでいるだろう。その気持ちを忘れないでほしい。

 

と、お偉いさんの心証は先ほどのサイラオーグさんのそれよりもいいんじゃないか?

と思わせるくらいだ。そういえば以前フェニックス領で遭遇した時も

以前戦った時とはオーラが全く違って見えた。

半分は「僧侶」から「(キング)」になった影響だと思っていたが、内面から成長したのだろうか。

だとしたら、フェニックスってのは不死だけじゃなく成長も著しいのか?

……特殊なケースだと思いたいが。

なお、ライザーの話をするたびにグレモリー部長が白眼視されていたのも

きっと気のせいではないだろう。

 

シーグヴァイラ・アガレスさんのケース。

冥界に住まいを同じくする堕天使との関係改善を図りたい。

これについてはお偉いさん方も苦い顔をしていた。思うところがあるのだろう。

まぁ、それ以上にぶっ飛んだのはその平和の証として

4メートルくらいのロボットを作っていた事なんだが。

 

……それと和平がどう結びつくんだよ。見た感じ戦闘ロボットにも見えたけど

それを平和の象徴とするなんてどうなのさ。

俺から見てもカッコいいと思える洗練されたデザインだったが

それは和平に関係ない気がしてならない。

それに、俺の考えが緩いのかもしれないが武力の誇示を

和平に結び付けるのってどうなんだろう。

その武力を以て自分の所に侵略してこないか、とか疑心暗鬼になったりしないか?

そのロボットがどれほどのものか、俺は知らないから何とも言えないが。

 

お偉いさんの「工学技士としての活躍にも期待したい」と言った旨の発言が、妙に印象深かった。

まぁ、そういう程度には完成度の高い代物なのだろう。

外交面じゃなくてそっちで活躍しろ、って暗に言っているようにも聞こえたが。

 

ここでディオドラ・アスタロトの番になっていたらしいのだが

どうやらすっぽかしたらしい。なんだよ、すっぽかしありなんじゃないか。

その事で少しお偉いさんの方で動きがあったみたいだが、読唇術とか持ってないので

何を言っているのかまでは読めなかった。記録再生大図鑑も今は下手に使えないし。

そういや、何か書いてあったな。全部読めなかったが……後で読んでみるか。

 

あれこれ考えているうちに、順番はグレモリー部長に回って来た。

果たして、一体何を言ってくれるのやら。期待はしてないが。




バオクゥは何事もなく帰ってきました……が。
セージに何か取り付けた模様。何やら不穏な空気漂ってます。

そしてマスコミも普通に入る若手悪魔の会合パーティー。
取材許可証とか無くても入りそうなんですが(元ネタ的な意味で)

SS級はぐれ悪魔を領地に放すというとんでもない外患誘致をかましてくれているセージ。
これもう自分もはぐれ悪魔化ほぼ確定しているようなものですね。今更ですけど。


そしてディオドラが既に不穏な動きを見せている件。
ネタバラシですが立ち位置は原作と同じ。
そしてその所属組織は魔改造施されてますので……
もっと酷い事になると思います。
アインストアスタロトとか待ったなしかもしれません。

シーグヴァイラさんが作ったロボットはいつぞや触れたアルトのこと。
拙作では和平締結がされていないので、彼女の立ち位置がこうなりました。
堕天使にヴァイスを作らせるフラグ立てでもありますが。

尤もその弊害で現外交担当クラスのアレっぷりになってしまいましたが
まだ軌道修正は可能と言う事で一つ。どうか一つ。
現役魔王でもないし。

で、原作にいないレイヴェル。
ライザーの一件が彼女を急成長させました。
グレモリー家に恨み骨髄な彼女が冥界内での発言力を高めると言う事は……

若手悪魔の有望株で、ライザーの件があって
僧侶から王になった拙作の彼女ならばチャンスありと言う事で今回は
サイラオーグらと席を同じくしております。

え? ゼファードル? 知らない子ですね、割とマジで。
原作でもサイラオーグの嚙ませになるだけでしたので、もういっそ退場。
イッセーもこじらせたらああなっていた可能性大だったんですけどね。
ただ、騒ぎの火種を持ち込む辺りは同類かもしれませんが。
ヴェネラナの特訓とはいったい何だったのか。

退場原因はアインストの襲撃。舐めプかまして一族郎党全滅。
なのでグラシャラボラス家は実質断絶。ファルビウムが魔王返上すれば復興ワンチャン。
禍の団に跡取り殺されたらしいですのである意味原作再現。
旧グラシャラボラス領はアインストのはびこる魔境になったため
イェッツト・トイフェルの手で焼却処分されました。合掌。

現在は土地所有権をめぐって近隣悪魔でもめ事が起きていたり。
そりゃ曰くつきの土地なんか誰も欲しくないですし。焼却処分したお陰で荒地同然ですし。

悪魔社会の勢力図がどんどん塗り替わってます。
趣味と実益を両立させられるほど、優しい世界ではありませんよ……ククク……

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