ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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今回はセージとイッセー、それぞれの二週間を第三者視点で追う形です。
(とは言え、主にセージ)

セージはともかく、イッセーはライザー戦前よりも恵まれてない状況。
ギリギリ原作の若手同士の試合には間に合いそうですが。
そして今度と言う今度こそは「9個目」の問題はスルー出来ないでしょう。

1:片方が出る(一番無難)
2:試合中のみセージ永久憑依状態で出る
  (能力的に考えると実質9個分どころか16個分の恐れもあり)
3:権力で有耶無耶にする(一番ありそう)

第三者視点ですので恒例のアレはこちらにて。
また、今回の後書きは解説の都合上異様に長いです。ご了承ください。

――――

俺は宮本成二。
クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は
後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。
目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ
霊体になっていることを知ることになる。

盗聴バスター・バオクゥの協力を得た俺は
中立都市で今度はフリージャーナリスト、リー・バーチと出会う。
彼が連れていたのは、何と塔城さんのお姉さんこと黒歌さんだったのだ。

――残された時間は、あと50日――




Two weeks.

この夏の間、思い思いの過ごし方をする……はずであった。

しかしそれは、限られた者の特権。

そしてその特権を得ても、望んだ結果が得られるとは限らない。

物事とは、すんなり進む方が稀なのである。

 

例えば高速道路は運転手が眠くならないように様々な仕掛けが施されているが

それは高速道路が程度の差こそあれ、障害物が無いからだ。

そう。障害物のない道は眠くなる……即ち、単調であるからだ。

 

だからこそ、生涯と言う物は単調にならぬよう

壁は立ちはだかり障害物は行く手に鎮座している。

 

……その程度を超えたものも、確かに存在するのだが。

 

――――

 

リリス冥界大図書館。

中立都市にてリーや黒歌と別れ、ここに噂収集と称してバオクゥとセージはやってきていた。

ところが――

 

「……やっぱダメですねぇ。ここに書いてあることは、全部政府が公表している情報ですよ」

 

「……やられたか。 確かに俺は会議の席で

 『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)に関する情報を公表してほしい』と言ったが

 律儀に約束を守る必要なんかないと考えていれば、偽のデータを出すことだって

 できたはず。それをしなかっただけ良心的と言うべきかよ、これは……クッ」

 

そこに書いてあったのは、悪魔の駒のすばらしさを謳う政府広報と殆ど大差のない情報。

そんなものはバオクゥも耳が痛いほど聞いているし、セージにしてみれば反吐が出る内容だ。

一般閲覧の可能な範囲では、これが限度と言う事らしい。

 

「こうなったら、やっぱり多少強引な手を使いましょう。セージさん、こっちです」

 

バオクゥに促され、やって来たのは図書館の書庫の入り口。

当然、ここは関係者以外立ち入り禁止区域のはずである。

どうやってバオクゥはここに入る手段を得たと言うのであろうか。

 

「ハイテク化が裏目に出ることもあるんですよねぇ」

 

白々しく語るバオクゥを見て、セージはバオクゥがやった事を確信した。

 

――身分証の偽造。

 

昨今の冥界のハイテク化は著しいものであり、人間界を参考にしていると言うが

それは猿真似の域を出ていない。そして人間界の裏世界では名の知れ渡った

盗聴バスター・パオフゥに弟子入りし、ハッキング技術も叩き込まれたバオクゥにとってみれば

図書館のデータサーバーに侵入することなど造作もなかったのである。

 

「この時間、ここを通過しても問題のない人のIDを偽造してます。

 これを使って、中に入っちゃいましょう。セージさん、私がカギを開けますので

 しばらくの間見張りと周囲の探知をお願いします」

 

「分かった」

 

BOOT!!

COMMON-RADAR!!

 

セージがレーダーを展開すると、周囲には特に気配は見当たらない。

警備にステルスを使用していると言う情報は、バオクゥにも入っていないのだ。

そもそも、ステルス付きの警備などそこに立っていることで

プレッシャーを与える警備を見えなくすると言う点において

若干ではあるが矛盾が生じてしまっている。

 

「今のところ、周囲にいるのは利用者だけだ。それも肉眼で確認できる位置にはいない。

 ここも防犯カメラからは死角になっているみたいだ」

 

「セージさん一人なら、姿を消して行動できるんですけどねぇ……っと。

 認証が通りましたよ。うまく行ったみたいですねぇ」

 

霊体は監視カメラに映らないし、INVISIBLEのカードを使えば尚更だ。

だがどちらも今回の作戦には適さない。バオクゥの言う通り、セージにしか

透明化の恩恵は無いのだ。それではバオクゥが目立って仕方がない。

今回の作戦は、バオクゥ抜きで出来るほど甘くない。

そのバオクゥがあけた扉に、二人はそっと入り込む。

 

「……初めからこうするつもりだっただろ。手際が良すぎるぞ」

 

「何のことですかぁ? これ位できなきゃ師匠に合わせる顔が無いだけですよぉ?

 それはそうと、目当てのものについての目星ですが……」

 

セージの疑問をはぐらかしながら、バオクゥはここにある本の中で

どの本が目的に適した本かの目星をつけていた。

このだだっ広い書庫の中、それを探すだけでも大変な労力なのだ。

 

書庫の中には表に出ている本の予備や、汚損が酷く貸与に適さない本。

また、持出禁止の本の他に資料として保管している一般者閲覧禁止の書籍も存在している。

今回のお目当ては、悪魔の駒の真実を記した書籍。

これについては何の因果か、既にテロリストと化した旧魔王派の筆頭格

シャルバ・ベルゼブブが執筆した、「悪魔の駒の真実」と言う名前の書籍もある。

これはその内容から禁書として封印処分が施された曰くつきの代物である。

そしてその行動こそが、旧魔王派が現政権に対し

不満を抱いている要素の一因足りうるのは間違いのない事なのであるが。

 

また、ここには政府直属部隊「イェッツト・トイフェル」の司令ギレーズマ・サタナキアが寄稿した

「チェスの敗者」と言う同人誌も同様に保管されている。

これにも、悪魔の駒の除去に関するデータが記載されているらしい。

それ故に、一般閲覧可能な表の区画に出すのではなく

こうして内部において厳重に保管されているのである……

 

と言うのが、バオクゥの調べた情報である。

 

「……とまあ、私の調べではこの二冊が有用な情報の基になると睨んでます」

 

「よく焚書されなかったな。俺はてっきりそんなもの焚書処分されているのだと思っていたが。

 しかし……」

 

ところが、問題はまだ山積みである。如何せん、この書庫は広いのだ。

この中からお目当ての本を探すと言うのは、かなりの手間である。

二人だけではいつまでたっても終わらないだろう。ならば。

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

「この中から探すのは一苦労だ。人海戦術で片っ端から本棚を調べてみよう」

 

「セージさん、また無茶を……って言いたいとこですけど、これは仕方ないですよね。

 こんなところから普通に探していたら、3か月は余裕でかかっちゃいますよ。

 あ、でもくれぐれも監視カメラには気を付けてくださいね。監視カメラはここと、ここと――」

 

3か月。そんなに経てばセージは消滅する。そうならないためにも、セージは全力で事態に挑んでいる。

冥界が誇る大図書館に対し、一人の噂屋と一人のはぐれを目前に控えた転生悪魔が挑もうとしていた。

 

――――

 

グレモリー領のとある山。

赤龍帝を宿す少年、兵藤一誠はここで自主練に明け暮れていた。

たった一人の「兵士(ポーン)」に完膚なきまでに全滅させられた。

その事実が、彼をここまで突き動かしていたのだ。

 

「――ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ……!」

 

ところが、一人だけの訓練はそううまく行かないもので。

 

「な、なんでだ! なんで俺は『禁手(バランスブレイカー)』にも至れるのに、アイツには歯が立たないんだ!

 くそっ、教えてくれよドライグ! 俺とアイツ、一体何が違うっていうんだ!」

 

叫びは虚しく山の中にこだまし、答えは返ってこない。

ドライグはまだ、セージとの戦いで受けたダメージの影響で眠りについたままである。

イッセー自身は、アーシアの治療で事なきを得たが、ドライグまでには

聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)の影響が及ばなかったのだ。

 

ただ我武者羅に特訓に打ち込む姿は、見るものが見れば痛ましい光景にしか映らない。

そもそも、イッセーには師匠と言うべき存在がいない。

ドライグがいれば、また話は変わったのかもしれないが。

 

当初の予定では、魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)タンニーンの協力の元

特訓を行う予定だったのだが、彼はドラゴンアップルと言うドラゴンの主食の栽培を行っている

農家としての顔も併せ持っている。そして、そのドラゴンアップルが今年は大凶作。

ファスナー状の次元の狭間から生じた灰色の甲虫のような存在が食い荒らしたのだ。

一説には下等の動物妖怪が悪魔の駒で突然変異を起こしこの甲虫のような存在になったとも言われている。

政府やタンニーンは、彼らを「ドラゴンアップルの害虫」と呼び駆除に力を入れているが

その矢先に禍の団(カオス・ブリゲート)のテロやアインストによる災害が発生。

ドラゴンアップルの問題はタンニーン一人で対応せざるを得ない状況に追い込まれてしまっているのだ。

リアスはこの件に対し協力を申し出たが、「ヒヨッコの面倒まで見切れない」と断られてしまっている。

 

最近では、ドラゴンアップルを食した甲虫の一部が変異を起こし新たな怪物になっていると言う情報もある。

この件に対しタンニーンは一刻も早い対応をと政府に打診しているが

事もあろうに政府は「現状維持」と害虫駆除に消極的な姿勢を見せ始めたのだ。

その原因は、ドラゴンアップルの害虫のいるところには、必ずドラゴンアップルが生育すると言う関連が

政府の調査で判明したためである。それにより、下手に駆除をするよりも

彼らを利用して大凶作に手を打つべきと言う意見が政府の中では多数を占めてしまったのだ。

 

これに対しタンニーンは激怒、人間界までも巻き込んでいる現状を見かね

一人ドラゴンアップルの害虫の駆除を政府の意向に逆らい行っているのだ。

そのために、イッセーに特訓をつけることが出来ない。

 

仲間であるはずの木場や小猫も心ここにあらずと言ったことが多い。

ギャスパーも、以前よりは回復しているとはいえまた引きこもり生活に逆戻りしている。

朱乃、アーシアは戦闘スタイルがイッセーと違い過ぎて、訓練にならない。

肝心のリアスも、グレモリー家の次期当主としての仕事に忙殺されている有様である。

結局、こうして自主練に打ち込んでいる日々である。

 

(こんなはずじゃ、こんなはずじゃなかったのに……!!)

 

尤も、彼とて成長した部分が無いわけではない。貴族社会のルールだ。

これに関してはフェニックス家との諍いを反省点とし、リアスの母であるヴェネラナ・グレモリー主導の元

徹底的に叩きこまれることとなったのだ。

勿論、生粋の一般市民であるイッセーにとってそれは当初反発を覚える内容であった。

しかしそこは「リアスに近づくため」と言う餌をつりさげられる形で

半ば洗脳に近い形で刷り込みが行われたのだ。

 

結果として、貴族主義に染まる事こそなかったものの、貴族の掟と一般市民の感性が混在した

ある種、とても歪な価値観が生まれることとなったのだ。

 

この間、およそ14日。

ヴェネラナによって貴族社会のルールを叩き込まれる合間にも、イッセーは一人特訓を行っていた。

その結果、ある一つの結論を見出すに至った。それは……

 

 

――奴の考えていることさえわかれば――

 

 

――――

 

イッセーがグレモリー邸で14日の猛勉強を受けている最中。

セージの側も、進展しているとは言い難い状況であった。

日を追うごとに禍の団・アインストの襲撃が激しさを増し、検索どころではなくなることがあるのに加え

侵入の足がつかないようにするための工作――IDの偽造――を毎回毎回変えているのだ。

そのために情報収集は遅々として進まず、肝心の資料さえもほとんど集まっていない状況だ。

 

しかし、思わぬ収穫もあった。リアス・グレモリーとは従兄弟にあたる

サイラオーグ・バアルと接触すると言うとんでもない事態が起きてしまったのだ。

アインストの襲撃からリリスの街を守っている最中の出来事である。

自分の事も満足にできずに一体自分は何をしているのか、と自嘲気味に呟きながらも

無碍にするわけにもいかず、相手をすることになってしまった。

勿論、バオクゥを同伴させて。

 

……そして、セージは言ってやった。悪魔の駒の弊害の真実を。

与太話と取るならそれでもいい。だが、聞けば将来を背負って立つ若手四天王(ルーキーズ・フォー)の筆頭格らしいではないか。

ならば、未来のためにも話しておこうと思っての事だ。

 

「……た、確かに。この所互いに忙しくリアスと連絡はとれていなかったが

 リアスの『兵士』の数が合わない。週刊誌の与太だと思っていたが、まさか事実とは……」

 

「小説よりも奇なり、とでも言うべきでしょうかな。それを正すべく

 俺は悪魔の駒の共有の解除ないし除去方法を探しているところなのですよ。

 このままでは、主がレーティングゲームで不正を働いていると見做されかねませんし」

 

「……レーティングゲーム、か。確かにリアスはそれに並々ならぬ情熱を注いでいるが……

 正直に言おう。そのレーティングゲーム、俺は少し疑問に思っていることがある」

 

そのサイラオーグの疑問に、バオクゥが食いつく。バオクゥも、まさかここで

サイラオーグに接触するとは思ってもみなかったのだろう。慌てながらもしっかりとメモを取っている。

 

サイラオーグの言い分はこうだ。

――レーティングゲームの上位ランカーの顔ぶれが、あまりにも画一的すぎる――と。

それはバオクゥも思っていた事らしく、以前リーに不正のにおいがすると聞いた事案でもある。

まさか自分が目星をつけていた事案が、サイラオーグも同じことを考えていたとは思いもしなかったが。

 

「それに、今はレーティングゲームどころではないと思うのだ。

 禍の団のテロ活動に、ドラゴンアップルの大凶作、アインストと言う謎の怪物。

 さらに、大凶作の原因とも噂されているドラゴンアップルの害虫は悪魔にも害を成すそうじゃないか。

 こんな状況下で、暢気にゲームなどしている場合ではないと思うのだ。

 そもそもだ。レーティングゲームはこういう時に戦力となる悪魔を鍛え上げるために

 行っている模擬戦としての側面も持っているはずなのに

 ランカーが彼らとの戦いにでいていると言う話は聞いていない。噂屋、何か聞いているか?」

 

「いえ。そういう話はぜーんぜん、聞いてないですねぇ。殆どの悪魔は自分の領地が襲われたときに

 自衛のために戦うか、魔王眷属やイェッツト・トイフェルが動いて終わらせている形ですねぇ。

 セージさんはすぐに引っ込んでいたから見ていなかったかもしれませんが、今までの襲撃時も

 来ていたのはサイラオーグさん以外だとサイラオーグさんの眷属の方々か

 イェッツト・トイフェル位ですよ?」

 

政府軍(イェッツト・トイフェル)か……考え方によっちゃ彼らが動くのは当たり前だけど

 そうなるとレーティングゲームのランキングって、何のためのランキングなんだ?

 ゲームで実力を自慢したからって、それが実戦に即さないでは本当にただの道楽。

 これで上位になることが、悪魔社会での発言力を向上させることとはどうしても繋がりません」

 

セージにとっては忌むべきレーティングゲームだが、この疑問は単純に気になったのだ。

模擬戦としての側面があるとは、今さっきサイラオーグが語った。

そして、そこで好成績を収めると言う事は戦術、ともすれば戦略レベルにおいても優秀であるはず。

そんな人材が、何故国防に力を貸さないのか?

国防とレーティングゲームには、そもそも何の関連もないのではないのか?

セージには、そんな疑問が浮かび上がっていた。それは奇しくも、サイラオーグと同じ疑問でもあった。

 

「フッ、聞きしに勝る語りぶりだな。リアスの『9個目の兵士』。

 俺も同じことを思っていた故騒ぎにはしないが、今度行われる会合では気を付けたほうがいいぞ。

 

 それはそうと……政府高官の言う『レーティングゲームが模擬戦の体を成したゲーム』

 と言うのは方便で、何か別の目的があってレーティングゲームを行っているのかもしれないな。

 俺にはそれが何かまでは見当がつかない……いや、考えたくないだけかもしれないが。

 すまないが、これはただの俺の憶測だ。噂屋も交えている以上、俺からはこれ以上は語れない。

 身も蓋もない言い方だが、俺にもバアルの看板と言う立場があるのでな」

 

「いえいえ。ここでサイラオーグさんに会えただけでも収穫ですから」

 

バオクゥに合わせる形でセージもサイラオーグに会釈を交わし

場を立ち去ろうとするが、その前にサイラオーグに呼び止められる。

そして彼の口から語られたのは、セージにとっては願ってもない……悪魔の駒についてだ。

 

「待て。俺に付き合ってもらった礼に最後に話しておこう。

 悪魔の駒についてだが……残念だが、俺も完全な除去方法は知らない。

 しかし、物理的に取り除くことは出来たはずだ。だが……魂と密接な関係にある関係からか

 物理的に存在している場所は心臓部分に近い。

 それに物理的に除去したところで、契約破棄となるかどうかもわからない。

 だが……受ける影響は、小さくなるとは思うがな。良くも悪くも。

 では来週、今度はリアスの眷属として会う事になるのだろうな」

 

「……!! あ、ありがとうございます!」

 

サイラオーグからのアドバイスを受け、再度大図書館の資料捜索に取り組むこととなった。

サイラオーグが何故このような情報を持っていたのか、までは今のセージにとっては重要なことでは無かった。

だが、魂と密接な関係にあるものを物理的に取り除くと言う事は。

 

即ち、電源の入ったままのパソコンから周辺機器を無理矢理引っこ抜くのに近いのではなかろうか。

そんな事をすれば、当然壊れる。せっかく見つかった手掛かりではあったものの

それを実行に移すリスクもまた、大きなものであった。

しかし、それでも一筋の光が差したこともまた、事実と言えた。

 

――――

 

「……!! あ、あった! ありましたよセージさん! これじゃないですかね!?」

 

「あ、ありがとうバオクゥ! よし、あとは記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)にコピーさせて……

 アナログな方法だが、これならば……」

 

若手悪魔の会合も目前に控える中、ようやく目当ての本を見つけ出すことが出来た。

記録再生大図鑑側からの検索ではロックをかけられていた本だが、現物を目の当たりにすれば

そのロックは効果を失う。そこで、記録再生大図鑑に本の中身をコピーさせ

後でじっくりと調べる作戦だ。目当ての物さえ見つかれば、ここに長居する理由などない。

 

ところが、突如警報が鳴り響く。侵入者を発見したと言う報せのものだ。

鳴り響くアナウンスと同時に、防衛用のドローンが次々と押し寄せてきたのだ。

 

「しまった! どこかで見つかっちゃったみたいです!」

 

「見りゃわかる! くそっ、まだコピーが済んでないってのに!」

 

記録再生大図鑑に情報のコピーをさせたのが仇になったのかもしれない。

今取る事の出来る行動は二つ。

 

一つは、コピーが済むまでバオクゥにこの場を何とかしてもらう。

 

もう一つは、ここから本そのものを盗み出し安全な場所でコピーを続行する。

 

だが、バオクゥの調べでは書庫の本にはGPSのようなものが取り付けられており

下手に持ち出せばそこから足がついてしまう。結局、取れる手段は一つだけだ。

 

「こうなったら、私がやっちゃいます! セージさんは本棚の影に!」

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

「記録再生大図鑑は使えないが、今度は五体満足だ! ドローン相手なら!」

 

「分身の援軍……なるほど、恐縮です!」

 

分身のカードコストは共有されない。しかし、現在は重要な情報のコピーを行っている。

そこに影響が出ては良くないとばかりに、記録再生大図鑑は封印する形で

セージは分身を生成、バオクゥの援護にあたらせる。

相手は警備用のドローン。迎え撃つだけならば簡単だが。

 

「……っ! ダメだバオクゥ! 派手に壊せば今度は有人警備がやって来る! 騒ぎが大きくなるぞ!」

 

「そ、それじゃ私の砲台は使えないですね……い、いや機銃の方なら!」

 

機銃――と言っても艦船についているそれをそのまんまダウンサイジングしたようなそれは

あたかも豆鉄砲のような見た目で、威力もドローンを怯ませる程度しかなかった。

精々、当たり所さえ良ければ爆発させずに墜落させることが出来ると言った風合いだ。

 

セージもまた、一機ずつではあるがドローンを捕まえてはメインコンピューターを破壊。

そのまま落とすと言う単純な方法でドローンを撃退している。

 

これらの方法について、問題点は多岐に渡っていた。

まず単純に、バオクゥの残弾の問題。無限に生成できるわけでも無いのだ。

セージにモーフィングさせるにも、無から有は作れない。

ドローンを材料にするにしても、かなり難易度の高いモーフィングだ。

 

そして、一機一機落としているために数で勝るドローン相手には圧倒的に不利なのだ。

こちらがうまく二機落とせたとしても、向こうが四機やって来るとかざらである。

ドローンに搭載されている兵装は捕縛用のスタンショックガン程度だが

特にセージはこれを喰らうわけにはいかない。コピーをしている側にも影響が出るからだ。

 

 

「……よし、二冊コピーできた!」

 

「やりましたね! よーし、あとはここから……」

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

LIBRARY-ANALYZE!!

 

COMMON-SCANNING!!

 

「記録再生大図鑑が使えれば、こんなドローンなぞガラクタも同然!

 バオクゥ、退路の確保を頼む。主砲を撃っても構わない!」

 

「了解ですっ!」

 

SOLID-PLASMA FIST!!

 

次々とやって来るドローンのデータから、セージはプラズマフィストを実体化。

電撃による攻撃が効果的と判断したのだ。

後はもう逃げるのみ。多少派手にやってもいいだろう、という判断の元

セージはプラズマフィストから盛大に放電をドローンめがけてぶちかました。

 

バオクゥもまた、艤装を構え20.3cm(実際にはそこまで大きくないが)砲を発射。

セージたちを取り囲んでいたドローンは軒並み機能不全を起こしたり、破壊されていく。

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

「撤収だ!」

 

スピードを上げ、逃げるように――実際に逃げ出しているのだが――書庫から裏路地へと飛び出す

セージとバオクゥ。所々煙が上がっているリリス冥界大図書館を背に、一目散に距離を取る。

ドローンは出てこない。敷地外まで追撃するようなプログラムは組まれていなかったようだ。

 

「直接ヤサに戻ったら足が付いちゃうかもしれません!

 ここは一旦別れて、2時間後にヤサで落ち合いましょう!」

 

「わかった! ヘマだけは踏んでくれるなよ?」

 

「セージさんこそ!」

 

これ幸いとばかりに、それぞれ別行動を取り追っ手を撒く作戦に出る。

セージにとってはようやく情報が手に入ったのだ。ここでつかまっては元も子もない。

 

 

――――

 

 

「……逃げられてしまいましたか」

 

言葉とは裏腹に、それほど残念そうな口調ではなさそうにチョコレート菓子を頬張りながら

イェッツト・トイフェルの突撃隊長、ウォルベン・バフォメットが呟く。

 

「最近の彼を追ってみれば、ずいぶんと面白い事になっているじゃありませんか。

 赤龍帝でなくなったばかりか、まさかグレモリーに喧嘩を売るような真似までするとは。

 これでグレモリーが潰れてくれれば私個人としては胸のすく思いなんですがねぇ……」

 

彼も政府軍である以上、政府に害を成す者は駆除せねばならないはずである。

しかし、こうして現魔王を輩出したはずのグレモリーに対し悪感情を抱いていることは

既に冥界政府自体がガタガタになりつつある証拠ともいえよう。

 

「二言目には情愛だ眷属との繋がりだ……それを悪魔の駒を率先して使う輩が言う事ですか。

 そもそも悪魔の駒自体、相手の尊厳を奪う屈辱的な道具に他ならないと言うのに。

 ……ま、今の私が言えた事じゃありませんがね。

 さて、政府への義理は果たしましたし。私は私でまた勝手にやらせてもらいましょうかねぇ。

 

 ……まずは『彼女』にちょっとお話を聞かねばなりませんねぇ」

 

そうしてウォルベンが見据えた先には、ヤサに向かって歩いているバオクゥの姿があった――




まさかのサイラオーグとの接触。アインスト迎撃に出たところ
偶然出くわした形です。彼がアインスト退治をやっているのは
半ばボランティア活動みたいなものです。バアル領ではなく
首都リリスでアインストと戦闘しているのですから。
と言うか徒手空拳で撃退している辺り、素の能力はもしかすると
原作以上の事になっているかもしれません。

拙作では多少脳筋ながらも政府の現状に疑問を持っています。
特にレーティングゲームの現状には思うところがあるらしく
何かあるのではないか、と訝しんでいます。
そしてそれに食いついたバオクゥ。
ウォルベンに目をつけられたことといい、死亡フラグにならなきゃいいんですが。

レイヴェル、サイラオーグと(バオクゥも)何故か純血悪魔との遭遇も多いセージ。
本人は悪魔社会と関わりたくないと思っているのに、うまく行かないものです。
けれど人生ってそんなもん。

イッセーも地味にパイリンガル会得フラグ立ててます。
でもセージに効くかどうかは別の話。
そもそも原作仕様じゃ絶対効きませんし。

……なので、原作にないとんでもない技を会得するかもしれません。
それにはイッセーがある属性に目覚める必要があるんですけどね……

>ドラゴンアップルとそれにまつわる諸々について
今更感漂ってますが、ドラゴンアップル=ヘルヘイムの果実、です。
なので、ドラゴンアップルの害虫≒インベスと捉えてもらって構いません。
小動物の妖怪が悪魔の駒の拒絶反応で変化したって設定も生きてますが。
=ではなく≒なのは後述。

つまり、クラックを通ってやって来た純正インベスと
悪魔の駒で変異した冥界産インベスの二種類がいることになります。
能力の上では冥界産インベスの方が上ですが増殖力やら何やらは
純正インベスに軍配が上がります。
また、冥界産インベスは出生の都合上聖水や光力などの悪魔メタが効きますが
純正インベスには当然悪魔メタは効きません。
最大の違いは純正インベスはドラゴンアップル(ヘルヘイムの果実)を食すことで
鎧武原作通り上級インベスに進化します。

実はここがミソで、初級インベス状態の純正インベスと
ドラゴンアップルの害虫こと冥界産インベスの見分け方がありません。
実際に実を食わせば見分けは簡単ですが。冥界産は進化しませんので。
また、作中触れているドラゴンアップルの生育能力も純正インベス由来の物です。
冥界産インベスは文字通りの害虫です。この見分けがついていないため
政府は判断ミスを犯してしまってます。
結果タンニーン一人でインベス駆除をやっている状態。

実際のところは、インベスモドキはインベスモドキのまま
話を進めようと思ったのですが小説鎧武に彼が通りすがったから……
ってのは言い訳ですが、ドラゴンアップルの危険度を上げるためにちょっと軌道修正。

こんな危険なもの栽培してたのかよタンニーン! とか言われそうですが
ドラゴンが食す分には無害な食物ですので。
(ウィザードラゴンとほぼ同じ性質のビーストキマイラががつがつ食ってますし)
そのため、余談ではありますが腕をドライグに寄越した原作イッセーが食べても
無害です。拙作イッセーはアウトですが。

なお、オリジナルのヘルヘイムの果実にあった吸引力ですが
こちらでは弱体化してます。でないと冥界がヘルヘイム化待ったなしになりますので。
冥界産のヘルヘイムの果実(ややこしいな)と言う事で一つ。
また、摂取によってインベス化する点は同様ですが、その際食べたのが
悪魔(純血、転生問わず)であるならば冥界産インベスに
それ以外ならばヘルヘイム産インベスに変異します。
中級~上級悪魔が食えば上級インベスになりますが
これによってしか冥界産の上級インベスは生まれません。


しかしOG版宇宙怪獣(或いはデビルガンダム)ともいえるアインストに加え
平成ライダーでもトップクラスに危険な生物のインベスまで来るとか
この世界呪われてね? 実験室のフラスコであることは否定いたしませんが。


……え? アインストがヘルヘイムの果実を食べたら?
さ、さあ……?

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