ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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社会人にも一応夏休みはあるんですけどね。
学生ほど大きく取沙汰されないだけで。
そんな超特捜課のエピソード。
それなのに夏休みではないと言うインチキ。

時系列的にはちょうどオカ研内ゲバが決着ついた後から。
既にセージは冥界に向かっていますし、リアスらも帰省列車に乗った後で
今頃家具の大半が抵当に入れられたグレモリー邸にいる頃です。

あと、今回後書きの解説が長いです。


A New beginning.

愛と死と、憎悪が渦巻くデーモンタウン・駒王町。

 

超常事件捜査に挑む、心優しき(?)戦士たち。

 

彼ら、超特捜課(ちょうとくそうか)

 

――――

 

駒王警察署・超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)

 

学生達は夏休みに入るが、超特捜課に夏休みはない。

発生する事件こそ、曲津組の暴動以来沈静化しているものの

それでも謎の事件に関連する相談は後を絶たない。

 

「……あっつ。こう暑いとアイスが手放せないぜ……」

 

安玖(あんく)巡査。それでもう3本目です。そろそろ控えたほうがいいと思われますが」

 

税収減による維持費のカットにより節電が行われている超特捜課のオフィスでは

安玖信吾(あんくしんご)巡査がアイスをかじりながら書類作業に追われ

窓口では硬い表情の霧島詩子(きりしまうたこ)巡査が相談者の対応を行っている。

 

「うるせぇ霧島。てめぇだって飴ちゃん舐めてたろうが」

 

「あれは……! 集中力を高めるために必要なものです!」

 

時期は夏。暑さでストレスもたまると言うモノ。

いつしか安玖と霧島は言い合いを始めてしまい

成さねばならない仕事への対応が遅れてしまう結果となってしまう。

その結果……

 

「……コホン。霧島君。安玖君。内線が入っているんだがね」

 

「はっ! す、すみませんでした!」

 

隣の部署の人間にまで指摘されてしまう始末。

これだけならば、まだ表向き平和な町であると言えるのだが。

 

……内線の内容は、その平和とは裏腹なものであると言わざるを得なかった。

 

「はい、こちら超特捜課……えっ? 警視庁……装備開発課の……

 はい、はい。ギルバート博士ですね。その節はお世話になりました。

 えっ? 試験……ですか? はい、はい。わかりました。

 では(やなぎ)に相談の上……えっ?

 

 い、今すぐにですか!?」

 

内線相手は超特捜課の装備も開発している警視庁の装備開発課。

ギルバート・マキ博士の指導のもと、新装備が完成したのでテストを行いたいと言う

内容の連絡であった。それも、課長であるテリー柳の許可は得ているとの事。

 

「えっと……その条件ですと氷上(ひかみ)巡査か私と言う事になりますが

 氷上巡査は現在警邏に出ておりまして……えっ!?

 

 わ、私がですか!?」

 

思わず霧島は我が耳を疑った。

何せ、自分が新装備のテスターをやることになるとは思わなかったのだ。

警視庁の捜査一課にいた経験こそあれど、こうした超常事件の前では

その経験もどこまで生きるか疑わしい。あの氷上巡査でさえ、当初は疑い半分だったのだ。

それもあってか、霧島の配属は内勤オペレーターだった。

 

それなのに、まさか自分に新装備のテストをやれとは。

一体全体、ギルバート博士は何を考えているのだ。

そう、霧島は思わずにはいられなかった。

 

「あん? ああ、マキのおっさんか。薮田(やぶた)と言いうちの装備開発部門は変な奴が多いな。

 留守番は俺がしとくから、ちゃちゃっと行って来いよ」

 

手をプラプラさせながら、とてもまじめに見送ろうとしている態度には見えないが

安玖は霧島を送り出そうとしていた。

 

霧島も渋々と言う形ではあるが、上からの命令とあらば行かないわけにもいかない。

何せこの試験、既に警視であり超特捜課課長でもあるテリー柳の許可が出ていると言うのだ。

となれば、取るべき行動は一つだ。

 

「それでは行ってきますが……くれぐれもアイス食べ過ぎておなか壊さないでくださいよ」

 

「やるかバカ。ガキじゃあるめぇし」

 

荷物を纏め、警視庁まで急な出張が入ることになった多忙な霧島を横目に見ながら

安玖は再び書類に向き合う。

しかし、ここで何かに気づく。

 

――いくらなんでも急すぎる、と。

 

送り出す前に気づけと言う話かもしれないが、安玖は柳に報せを入れることにした。

 

「柳に一応連絡入れておくか……忙しいところ悪いな柳。俺だ、安玖だ。

 実は確認取りたいんだが、マキのおっさん、お前に許可取って

 新装備の開発をしたって聞いたが……」

 

『何? もう出来たのか、流石はマキ博士だ。

 ……しかし参ったな。氷上は確か今日は警邏じゃなかったか?』

 

「ああ、それなんだが向こうは霧島を寄越せって言ってきたんだ。

 俺も新装備のスペックだけは送られてきたのを見たが

 確かに霧島でも使えるはずの代物だが……」

 

『ああ、だが霧島はまだ人外勢力との戦いを経験していないぞ。

 そういう意味も込めて、今回のテストには氷上を推すつもりだったんだが……』

 

「ま、なっちまったもんは仕方ねぇやな。それよりどうだ、そっちの様子は」

 

『流石に怪異事件に携わっていた蔵王丸(ざおうまる)警部の口添えもあってか

 奈良県警や隣の京都府警は足が速い。この分なら、駒王町以外の場所で起きている

 超常事件に対しても人間が手をこまねいているって事態も、そうそう起きずに済みそうだ。

 長野県警はもはや、言わずもがなだがな』

 

柳は現在、駒王町の外で起きている超常事件に関する調査報告会議に出席している。

10年前に起きた事件の爪痕が今なお痛々しい長野や

超常事件が日常的に起き、妖怪の住家とも言われる京都や隣の奈良を中心に

「我が県警、府警にも超特捜課ないしそれに準ずる組織が欲しい」といった

意見が上がっているのだ。現在は試験的に超特捜課の装備の一部がそれらの県警、府警に配属され

一般事件の延長線上にある超常事件――すなわち、犯人が人ならざるものである事件に

一般の警察が立ち向かうと言う、少々歪な体制が明るみに出てしまっている。

幸いにして長野県警には事件のノウハウがあり、京都府警や奈良県警には妖怪退治を生業とする

NPO法人が拠点を構えているため、市民との協力で事件解決が出来ているパターンが多い。

 

しかし国家権力として、そう何度も国民に頼れないのも事実。

その埋め合わせを図る目的として、超特捜課課長である柳が呼び出された形だ。

 

『まぁ、こうして俺が腰を落ち着けて話すことが出来るってのはいいことかもしれんな。

 それじゃ、また何かあったら連絡を頼むぞ』

 

安玖と柳の会話は終わりを告げ、受話器の置かれる音だけが響き

再び書類の山となった机に向き直る安玖。

 

その後ほどなくして、安玖の悲鳴が所内に響き渡った。

 

「ちくしょぉぉぉぉっ! 長話しすぎてアイスが溶けやがったぁぁぁぁぁ!」

 

―――――

 

警視庁・装備開発課。

 

ここでは日本の市民を守る警官のための装備を開発・運用すべく

研究員が昼夜を問わず働いている。

とは言え専らここで開発されているのは超特捜課向けの装備が過半数を占めており

いかに超常事件が特殊なものであるかの証左ともいえる。

 

そんな装備開発課にて、今日もまた新たな装備が開発され

テストが行われようとしていた。

 

「お待たせしました。駒王警察署超常事件特命捜査課の霧島詩子、只今到着しました。

 あ、あの……」

 

「こうしてお会いするのは初めてでしょうか。私がギルバート・マキです。

 ……ああ、内装については趣味ですのでお気になさらず」

 

マキ博士の言う「趣味」。それは自分の机の上をはじめとして

オフィスに点在しているドールやドールハウスの事である。

彼は趣味として人形収集やドール衣装・ドールハウス製作を行っているのだ。

その光景に、霧島は呆気にとられていた。

それも下手の横好きではなく、どれもが精巧な作りであり

まるで生きているかのようである。勿論、そんなことはないとマキ博士に言われてしまったが。

 

「モノ作りが高じただけですよ。部屋のこれも、今の役職も。

 さて、話を進めましょう。今回テストしていただく装備は

 ズバリ、強化服です。これは薮田博士とも共同で開発していたものなのですが

 彼も多忙なようで、今はギリシャに出張だそうですよ。

 その為に私が再び代理として、試作品ではありますが完成させることが出来ました。

 霧島君。あなたに行ってもらいたいのはその装備のテストです」

 

「あ、あの……私、まだ超特捜課での現場経験は……

 確かに以前は捜査一課にいましたが……」

 

「心配は無用です。実戦投入の予定はありませんよ。

 今回行っていただくのは着用時における使用者の状態観察と

 強化服が正しく機能するかどうかのテストですので」

 

武器と違い、身に着けるものである以上装着者の安全を考慮するのは至極当然であると言えよう。

しかし、霧島は「それならば私でなくとも警視庁の者でもよかったのではないか」と言う

疑問も抱いていた。

 

「ああ、先ほど実戦投入はないと言いましたが

 ゆくゆくは実戦投入するものですよ? つまり、あなたがこれの完成品を使う可能性は

 極めて高いのです。今の内から体験しておくことは有意義だと思いますがね」

 

マキ博士の言い分は尤もな事であり、そもそも自分は指示を受けてここにやって来たことを

考えれば、この場は二つ返事以外の選択肢は無かっただろう。

用意されたロッカーでインナースーツに着替え、女性職員の手によって

増加装甲が取り付けられる。見た目的には頑丈そうだが

重さはそれほどではなさそうであり、実際軽量である。

インナースーツ部分は動きやすさを重視したためか薄手であり、ボディラインが出てしまうのが

ある意味では霧島の悩みの種ではある。が、それは副次的なものである。

実際の着心地は、今のところ悪くない。寧ろ良好ともいえる。

 

「今回制作した強化服は、教会の悪魔祓いが着用している儀礼用の服に

 手を加え、全面的な改修を行ったものです。従いまして、重量に関しては

 特に気を配った部分でもあります。

 他にも特殊繊維により常時快適な装着性をもたらすと同時に

 防御面も……」

 

「あ、長くなりそうなら後でカタログでお願いします」

 

「……そうですか。では早速ですがテストを開始します。

 まずは――」

 

長くなりそうなマキ博士の言葉を遮るようにして、霧島はテスト開始を訴える。

促されるように、早速新装備――特殊強化服のテストが行われることとなった。

 

主なテスト項目は以下の通りだった。

 

・装着時における体温、心拍の変化

 

・装着時における運動機能の変化

 

・装着時におけるメンタル面への影響

 

勿論これ以外にも細かな項目が雑多にあるのだが

そのすべてを霧島が理解しているわけではない。

彼女はただこの特殊強化服を着用して簡単なスポーツテストに始まり

マキ博士謹製の無人機・ドローンドロイドを相手にした戦闘テスト――

と言っても射撃訓練みたいなものだが――を行っていただけだ。

 

「――はっ!」

 

射撃戦闘テストの他にも、接近戦を想定した戦闘テストも行われ。

霧島が得意とする足技の威力も、遺憾なく発揮され次々と無人機を叩き落していく。

その様はマキ博士に新装備のアイデアを与えるには十分すぎる成果であったと言えよう。

 

「……ふむ。これは脚部装着型の装備も需要がありそうですね。

 霧島君。貴重なデータをありがとうございます」

 

しかし、時間だけは大幅に食うのがこういったテストの常。

昼過ぎに到着した霧島が特殊強化服から着替えたのは

もう既に日が沈み切った後の事であった。

 

――――

 

「お疲れ様でした。宿の方は手配してありますし

 柳君や駒王署の署長には私から一報入れてあります。

 なので、今晩はこちらに泊まり、明日駒王町に戻るとよいでしょう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

マキ博士に促され、その日はシティホテルで休むこととなった霧島。

残念ながら(?)土産を買う暇などはなさそうだ。そもそもこちらへの出張も、急な話である。

しかし、一体なぜこんなタイミングでだろうか。

疑問に思いながらも、シティホテルに向かうべく警視庁を後にしようとした

霧島の前に、一人の黒髪の初老の男が現れる。

 

「け、警視総監!?」

 

警視総監。薮田直人(やぶたなおと)の論文にただ一人向き合い、超特捜課を立ち上げる鶴の一声を発した

警視庁と言う組織の頂点に位置する存在。そんな人物を目の当たりにし

霧島も思わず畏まり敬礼の姿勢のまま固まってしまっている。

一方の警視総監は、そんな霧島に苦笑しながら敬礼を崩させるように肩を叩く。

 

「君はもうあがりだろう。ならばそう硬くならなくともよい。

 マキ君から聞いたぞ。忙しい中よく来てくれたな。礼を言おう」

 

「はっ……と、ところで警視総監は何故こちらに?」

 

「ん、俺か? 俺も今しがた今日の事をマキ君から聞いてきたところだ。

 霧島君……だったな。君は超特捜課に配属になった時、どう思った?」

 

警視総監の質問は、霧島にとって要領を得ないものだった。

遡る事1か月になるかならないかの時期。その時に華の捜査一課から

地方都市のへんてこな部署に異動になったのだ。

傍から見れば体の良い左遷だし、当初は霧島自身も左遷と思っていた。

 

――駒王町で、実際に悪魔にまつわる事件と遭遇するまでは。

 

「どう……とは?」

 

「言葉通りだ。今の世の中、神や悪魔と言った存在は忘却の彼方に行って久しい。

 だが、こんなことを話せば笑われるかもしれないが、俺は神様にお会いしたことがある。

 最も、学生時代の話だからもう50年以上も前になるがな……

 ……おっとすまん。年寄りの長話になるところだった。

 

 ともかく、神様がいるのであれば悪魔もいる。そしてそれに準ずる者もいるだろう。

 日本で言えば妖怪がその最たるものだろう。

 果たして彼らは皆人間に対して友好的なのかどうか。

 そう考えたところにある論文と出会った。それが……」

 

「薮田博士の論文、ですか?」

 

霧島も話程度には聞いたことがあった。超特捜課の生い立ち。

それは、警視総監がある論文に感銘を受け、試験的に対策を導入したら

思わぬ成果を上げた事。それが超特捜課の始まりとなった事。

こうして関係者が目の前におり、かつそれを肯定するような言い回しをしていることから

その聞いた話は間違いではないと言う事だろう。

 

「そうだ。そして結果は残念ながら……君たちが活躍している通りの事態だ。

 俺はもちろん、人間として人間の自由と平和を守りたい。その思いは今も変わらない」

 

「私も同じです。生きとし、生ける者達の自由と平和を守りたい。そう思っています。

 それは、超特捜課でも変わらない私の思いです」

 

「その志は買おう。だが、その道は果てしなく険しいぞ。

 まして、人間の犯罪者以上に常識の通じない相手なのだからな」

 

真剣なまなざしで、霧島を見る警視総監。

しかし霧島も、その言葉に負けじと真剣なまなざしであった。

 

「今の言葉は、私の命の恩人の言葉でもあります。

 小さいころ、私を助けてくれたある警察官の。

 だから私も、警察官としての道を選びました。そこに、後悔や迷いはありません」

 

「そうか……ならば、応援しているぞ。

 俺もまだまだ若いものに負けるつもりは無いが、若者も俺に負けてほしくない。

 俺はそう思っている。だから自分自身に打ち勝つんだ、霧島君」

 

「は……はい!」

 

労いの言葉と共に、警視総監は通り過ぎていく。

本郷警視総監。彼は学生時代に神に出会ったと言っている。

それが本当かどうかは確かめるすべのない事だが、神の存在自体は

超特捜課にいる霧島ならば素直に受け入れられる事だろう。

霧島もまた、シティホテルに向かうべく足を進めるのだった。

 

 

ところが、事件は翌朝急に起きた。

駒王町へと向かう列車が軒並み運休。

情報も混乱しており、状況がわからない。

霧島は、東京にて足止めを喰らう形となってしまったのだ。

 

ネット上には、こんな情報も散見されている。

 

――駒王町にて同時多発テロ!?

 

――謎の怪生物が現れたとの情報!?

 

――日本の魔境、いよいよその化けの皮が剥がれ落ちる!?

 

こんな時のマスコミが一体どこまであてになるのかはわからない。

けれど、駒王町の様子はテレビのニュースでは少し取り上げられた程度だ。

それも、事故による駒王町内全線通行止め、と言う形で。

 

これは奇しくも、オルトロスが駒王町に放たれた時と同様の状態でもある。

その時は陸路はすべて封鎖されていたため、空路にて強引に駒王町に向かった。

しかし、今回はまだ情報が足りず、ヘリを手配することが出来ない。

仕方なく、霧島は警視庁に向かう事になった……

 

 

―――

 

 

その日の朝から、駒王町はまたしても物々しい雰囲気に包まれていた。

町中を謎の怪物が闊歩したり、建物には爆弾が仕掛けられたりと

治安が全く機能していない状態になってしまっているのだ。

 

迎え撃つべく警察も出動するが、テロはもとより怪物には超特捜課でなければ太刀打ちできない。

騒ぎを聞きつけて駆けつけてきた蒼穹会(そうきゅうかい)伊草慧介(いくさけいすけ)と下宿人、ゼノヴィア・伊草の協力を得て

辛うじて被害を最小限にとどめていられると言う状態なのだ。

 

「ゼノヴィア君。この状態で君を戦いに駆り出すのは心苦しいのだが……」

 

「構わない。今私が戦わなければ、アーシアに笑われてしまうし

 めぐや百合音(ゆりね)も安心できないだろう。めぐの分まで、私が戦う。私には……まだ力がある」

 

戦友・紫藤イリナが禍の団(カオス・ブリゲート)に入ってしまったショックから

完全に立ち直ったわけではないようだが、この町の惨状を見かね

ゼノヴィアも聖剣(デュランダル)を取り戦う決意を固めている。

その強さに感心するとともに、自称とは言え師匠の慧介は

ゼノヴィアが足元をすくわれないかと心配でもあった。

 

「その力には……絶対に呑まれてはいけない。それは力を揮う者の守るべきルールだ。

 肝に銘じなさい」

 

「わかった。しかし……この大事な時にリアス・グレモリーは何処に行ったと言うんだ」

 

ゼノヴィアは知らなかった。最早リアスは、駒王町の管理者などではないと言う事を。

ゼノヴィアは知らなかった。友人アーシアを引き連れて、今は冥界にいると言う事を。

 

だからゼノヴィアは奮い立った。ならば、私達がやらねば誰がやるのだと。

迷いを振り切るように振りかざされたデュランダルは

怪物――アインストを一太刀の元に切り捨てる。

元々パワーファイターであるゼノヴィアには、アインストクノッヘンの硬い骨格も敵ではない。

一方の慧介も、未知への迎撃者(ライズ・イクサリバー)から光弾を発射し

触手のアインスト――アインストグリートを撃退していく。

 

「しかし慧介、こいつら聖剣の効きが悪い! 悪魔じゃないぞ!」

 

「何であれ、人に仇成すのであれば倒すのみ。その命、神に返しなさい!」

 

そう。デュランダルは聖剣であり、悪魔に対しては特効ともいうべき威力を発揮するはずなのだ。

それなのに、このアインストには通常の剣と同じ程度の威力しか発揮されていない。

何故ならば。アインストは、悪魔とは似て非なるものであるから。

 

「これだけの数だと言うのに、教会は何をしているんだ……!

 まさか、悪魔じゃないと言う理由で教会は援軍を派遣していないわけではないだろうな!」

 

「あり得る話だが、今それを議論するべき時ではない! 敵に集中しなさい!」

 

慧介とゼノヴィアは必死になって数を減らそうと戦い続けるが

ついにアインストの大群に囲まれてしまう。

 

「くっ……」

 

「囲まれたか!」

 

万事休すと思われたその時、上空から放たれた火球がアインストの一団を焼き払った。

上を見上げると、欲望掴む右手(メダル・オブ・グリード)の力で空を飛びながら

アインストに対し爆撃をかけている安玖の姿があった。

 

「市民が体張ってるのに、俺らが何もしないわけにいかないだろうが。オッサン!」

 

「お前は! いつぞやの口の悪い警察官! オッサンはやめなさいと言ったはずだ!」

 

安玖の攻撃に連携が乱れたアインストめがけて、今度は氷上が神経断裂弾での射撃を試みる。

アインストと言えど生物なのか、神経断裂弾を受けたアインストは次々と動きを止め

内側から砕かれるように赤い宝玉が割れ、消失していく。

 

「こいつらには効くみたいですね。実は先ほど、神経断裂弾の通用しない

 鎧のような怪物と遭遇しましたので。そちらは『神仏同盟(しんぶつどうめい)』を

 名乗る方々が退治してくださいましたが」

 

「神仏同盟と言う事は、日本の神や仏が動いていると言う事か」

 

「内なる神は、こうした危機に駆け付ける。だから、神への信心を忘れてはいけない。

 ゼノヴィア君、君なら俺の言いたいことが分かるはずだ」

 

周囲のアインストを撃退し、一息つく超特捜課と蒼穹会の戦士たち。

しかし、一体なぜこんなことになってしまったのか。

今や駒王町のあちこちからは火の手が上がっており、緊急車両がひっきりなしに走り回っている。

超特捜課と蒼穹会だけでは守り切れない。

だが、今や駒王町は悪魔の支配する街ではない。故に、神仏同盟が駆けつけてきたのだ。

日本の大地を穢す者を、日本の神が、仏が調伏する。

考えてみれば当たり前の出来事ではあるのだが。

 

ふと、氷上の無線に通信が入る。昨日の夜に帰ってきたために

事件に応対することが出来るようになったテリー柳課長からである。

 

『氷上、聞こえるか。一旦警察署まで戻れ。態勢を立て直す』

 

「柳さん! 蒼穹会の人たちと合流しましたので、一緒に向かいます!」

 

『了解した、詳しい事は署で話す。無事に戻って来いよ』

 

柳からの指令。それは実質、撤退命令である。そんな指示を出さねばならないほどに

前線は疲弊しきっており、禍の団の、そしてアインストの攻撃が激しかったことを意味していた。

 

――――

 

同時刻、兵藤家。

 

「……ふふ、ふふふ、ふふふふふ。

 イッセー君、どこへ行ってしまったと言うの?

 やっと昔みたいにお家で遊べると思ってたのに……。

 ここに来る途中にちょっと汚れちゃったけど、ちゃんとお風呂も入って来たのに。

 イッセーくぅーん、あーそびーましょー? ……うふふふ、うふふふふ」

 

所々崩れ落ちている家の前で、刃の紅く染まった擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)

龍殺しの聖剣(アスカロン)を携えた紫藤イリナが虚ろな目で笑っている。

一体、彼女の眼には何が映っていると言うのだろうか。

 

そんな彼女を、背後から眺めている青年がいた。白龍皇(バニシング・ドラゴン)、ヴァーリ・ルシファーである。

 

(俺は一体何をしているのだ。赤龍帝とも、あの謎のドラゴンとも戦えないまま

 ただこうしてむやみに一般人に危害を加えている。

 俺がアザゼルを裏切ってまでやりたかったことはこんな事じゃない!

 俺はただ、強い奴と戦いたいだけだったのに……一体、どうしてこうなったんだ……)

 

その胸に去来する後悔の念。しかし、彼もまた後には引けないのだ。

無限龍(ウロボロス・ドラゴン)オーフィスに協力を誓い、こうして禍の団の一員としている以上

禍の団の活動には参加しなければならないのだ。

 

「おうおう、派手にやってるねぇ。しかしここの夫婦も可哀想になぁ。

 息子が悪魔になんぞならなければ、この町なんぞにいなけりゃ

 平和に暮らせてたかもしれねぇってのに」

 

紫色の巨大な毒蛇を引き連れて、真っ黒な牧師服を纏った青年――フリード・セルゼンは

やって来るなり惨状を嘲笑いつつも同情するような口ぶりで語っている。

 

「で、白龍皇。おめぇなんだがよ……言わせてもらうぜ。

 

  サ ボ ん な ?

 

 おめぇの力があれば、この町の悪魔の臭いを消すくらいわけないだろうが。

 サボりっつーことで、オーフィスの旦那にチクるけど構わねぇよな?」

 

「……好きにしろ。俺の目的は赤龍帝か、あの謎のドラゴンだけだ。それ以外の強者もいない

 こんな街に興味など初めから無い」

 

「そうかい。じゃ、俺も好きにさせてもらうぜ。ほれ、行くぞイリナ。

 兵藤一誠を探しに行くんだろうが」

 

「……命令しないでよクソ神父。じゃあイッセー君、また来るからね?

 こんどはちゃあんと、お顔よく見せてね? 直してあげるから。

 うふ、うふふ、うふふふふふ……」

 

三人と一匹がその場を後にしたと同時に、そこにあった家屋は音を立てて崩れ去った……




あちこちにネタ挟み過ぎたかもしれません。
出だしは往年の名作ドラマ、特撮最前線もとい特捜最前線より。
午前中再放送やってたお陰でこびりついちゃいまして。
……さすがに中身まではそれほどでもありませんが。

>霧島の舐めていた飴
デネブ……じゃなくてひとやすみるくの方です。
拙作には現時点では相方いないので一部兼任している形。

>蔵王丸警部
奈良県警所属のベテラン刑事。元ネタは仮面ライダー響鬼より斬鬼さん。
フルネームは蔵王丸漸貴(ざおうまるざんき)
奈良県警在籍なのは猛士総本部が吉野(奈良県)に所在することに因み。
NPO法人についても触れられてますがそちらは猛士ではなく
名護さんもとい伊草慧介の所属している蒼穹会の近畿支部。
蒼穹会が猛士の役割を兼任している部分もありますので。

>マキ博士の趣味
ある意味ではモチーフ元のキャラより拗らせているともいえます。
因みに飾ってある人形にはきちんとウィッグありますので
某キヨちゃんみたいなことにはなってない。はず。

>試作型特殊強化服
あの教会スーツをモチーフにしているだけあって
動きやすさを重視しつつ急所を的確に防護すべく
ピンポイントで増加装甲を装着してあります。

なお今回の装着者は霧島さんですが彼女のモチーフ元(の演者さん)の事を考慮すると
教会スーツの正規着用者であるゼノヴィアやイリナに比べて
非常に残念なことになる部分が……メディックならよかったのにげふんげふん
え? 霧子はそっちじゃなくて黒スト? それはご尤もで。

>警視総監との対話
劇場版仮面ライダーアギトを意識してます。
警視総監はアレよりもあの人っぽくしたつもり。
藤岡弘、オーラの再現がたりないかも……
何気にチェイサーっぽい人についても触れられていたり。

>駒王町
リアスも(もう管理者じゃないけど)ソーナも(町全体は管轄外だけど)
いない時に襲撃されました。
普通に考えたらそんな好機を敵対組織が黙ってるわけないと思うんです。
しかも出て来たのはアインスト。超特捜課にとっては初の相手。
今回アインストと神仏同盟が戦っていると氷上の口から語られましたが
ただ単に担当だっただけと言う事。三大勢力は逃げたわけではありません。
うん、多分、きっと。

>ゼノヴィアの名字
以前クァルタ姓を名乗っていたのはパスポートの都合上便宜的に名乗ったもの。
まさかパスも無しに入国できるほどザルじゃないでしょう。
現在は下宿と言う事で暫定的に伊草姓を名乗っている形。

>アインスト
中身空っぽの鎧型ことアインストゲミュート登場。
今回は裏で神仏同盟と戦っている形ですが。
神経断裂弾が物理的に効かない相手なのでこうなりました。
三大勢力に端を発した怪物ではありませんが、三大勢力の不始末から
出没している怪物ですので責任追及は一応可能。そんなことしてる場合じゃないけど。

>兵藤家
場所知ってるイリナがいれば、この時点で襲撃がかかってもおかしくないです。
と言うか襲撃を早めさせるためにイリナをこうした部分があったり。
テロ組織の癖に本拠地攻撃がマジで遅すぎると思うんです、原作。
イッセー両親については現時点では安否不明と言う事で。
イリナは絶賛ぶっ壊れ中、フリードは魔獣とうまくやっているのに対して
ヴァーリは自分のチームももらえてないばかりか自分の行いに後悔している有様。
これには理由がありまして

赤龍帝か紫紅帝龍がいる! と意気揚々と殴り込み

いないどころか一般人ばかり(場所とタイミングが悪かった)

何で俺はこんなことを?

拙作では美猴も早々に禍の団から手を引いてます。
理由はアインストとは手を組みたくないから、との事。
中国系の妖怪の間では百邪と言う異世界からの怪物の伝承があり
それとアインストがそっくり……と言うか元ネタですね、はい。

――ヴァーリの旦那にゃ悪いが、俺っちにもプライドってもんがあるんだぜぃ。
  百邪……アインスト、だっけか。奴らとなんか手を組むのは
  そのプライドに反するし、ご先祖様にも申し訳が立たないんだぜぃ。
  っつーわけで、俺っち降りるから。悪ぃな、旦那。

ちなみにセージ実家が襲われていないのは場所が割れていないから。

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