ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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久しぶり、イッセー視点。
なのでゴースト風導入はこちらにて。


――――

俺は宮本成二。
クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は
後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。
目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ
霊体になっていることを知ることになる。

暴走したグレモリー部長を制し、勝利した俺は
ふとしたことから異次元に存在する悪魔「アモン」の存在を知る。

勇者、裏切者と魔王陛下に呼ばれるその悪魔が、俺はどうにも気になって……

――残された時間は、あと53日――



冥界送還のブラックリンクス
Life66. 里帰り、付き添います!


――俺達は、負けた。

それもたった1人の「兵士(ポーン)」に。

 

俺、兵藤一誠とアイツ、歩藤誠二――宮本成二、一体何が違うっていうんだ。

何も違わない、同じ兵士だって言うのに。

 

アイツは何も躊躇う事も無く、仲間に刃を、銃を向け

そして……倒していった。

 

いや、レーティングゲームがそういうゲームだってのは俺も知ってる。

けれど、あいつのやり方はゲームのそれじゃない。明らかに、殺そうとしているものもあった。

それが仲間に、同じ部の仲間に向ける態度か!?

 

考えてみたら、初めて元浜に紹介されて会った時から得体のしれない部分はあった。

アイツはアイツで俺と同じ趣向の持ち主だと思っていたが。

おっぱいが好きな奴に悪いやつはいない、その認識はちょっと改める必要がありそうだ。

小学校のころからの俺の座右の銘だっただけに、ちょっとどころでないショックだ。

 

ドライグも酷いダメージを受けたのか、あれから何も言わない。

部長も相当なショックを受けたらしく、ギャスパーほどではないにせよ

引きこもりがちになっている。

 

部長が大変だっていうのに、俺は何もしてやれない。

赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)だなんだって言っても、負けたらおしまいなんだ。

 

「……セージ。もうアイツはダチでもなんでもねぇ。

 部長の敵だ。みんなの敵だ。今度会ったら絶対にぶっ殺してやる」

 

部長をこんなにした張本人も、あれから一度も会っていない。

そんな困惑した心のままに、俺達はあれから1週間が過ぎた今日、冥界へ行く。

 

……部長の里帰りだ。

 

その移動のために、皆部室に集まっている。

だが、やはり空気が重い。負けたのが堪えているのだろう。

 

「さ、さーて! 今日は部長のご実家に挨拶だ!

 あー楽しみだ楽しみだー! はっはっはー! ……」

 

「イッセー君、気持ちはわかるけど……カラ元気だってまるわかりじゃ逆効果だよ……」

 

「で、でも僕も大したことなかったって……神器(セイクリッド・ギア)も使えますし。

 本当はまだ無茶しちゃいけないんですけど……」

 

うるせー木場。俺だって堪えてないって言うと嘘になるんだ。

絶対に負けねぇ、負けるはずがねぇって思ってたのに、完膚なきまでにやられたんだ。

ドライグも未だにうんともすんとも言わねぇ。本当にアイツは疫病神だ。

アイツは悪魔じゃなくて疫病神だぜ、ったく……。

まぁ、ギャスパーの目がちゃんと見えるってのは不幸中の幸いか。

あの野郎、目狙うとか本当に何考えてやがるんだ。

 

「うふふ、イッセー君は無邪気で本当にかわいらしいですわね。

 ついつい食べたくなってしまいますわ」

 

そう言うや否や、朱乃さんが身体を摺り寄せて耳たぶを噛んでくる。

ちょっ、う、嬉しいけど心の準備ってものが……

戸惑いながらも俺はここぞとばかりに朱乃さんのおっぱいの感触を楽しんでいる。

これは本当に部長のものと甲乙つけがたい。ぜいたくな悩みだと我ながら思う。

そんな朱乃さんも、セージに頭を撃ち抜かれたらしいが一命はとりとめたそうだ。

だからこうして感触を味わえる。ありがたい話だ。

 

「……朱乃。暑苦しいからイッセーから離れなさい」

 

しかし、そんな俺の至福の時はほかならぬ部長のどすの効いた声で終わりを告げる。

ふと見ると、部長は物凄い怖い顔をしている。な、なんだってそんな……

 

そんなにセージに負けたのがショックだったんすか……

 

「……ふぅ。1人欠けたのは残念だけど、予定通りに今日から皆冥界よ。

 今回は魔法陣ではなく、駒王駅から移動するわ。ついてらっしゃい」

 

「あ、あの……部長さん……本当にセージさんを置いていくんですか……?」

 

アーシア! な、なんて優しいんだ!

あんな目に遭ったっていうのに、セージの事をまだ気にかけているなんて……!

 

「……彼ならもう冥界に行ったわ。今どこにいるかは私もわからないの。

 一応、若手悪魔の会合には合流するってお兄様から聞いているけど……」

 

「もういいっすよあんな奴! それより早いところ行きましょうよ部長!

 あいつがもういないってんなら、別に待つ必要も無いですし!」

 

「ふふっ、慌てなくても冥界は逃げないわよ、イッセー」

 

あっ、ちょっと部長が笑ってくれた。

やっぱ部長は笑ってる方がいい。改めてそう思った。

よーし、それじゃ早速駅まで行こう!

 

……って、なんで駅なんだ?

 

――――

 

それから俺は驚きっぱなしだった。

駅に備え付けられた秘密のエレベーター。

地下にある巨大な空間。

そしてそこを走る列車。

とにかく色々あり過ぎて、理解が追い付いていない。

 

とりあえず理解できたのは

「何故駅に行こうって部長が言い出したのか」って点だけだ。

なるほど、こんな移動手段ならそりゃ駅だよなぁ……って。

 

なんで冥界と直結している列車が走ってるんだろ。

もういいや、考えるのやめた! とにかく冥界凄い! 部長凄い!

それで納得することにする!

 

途中、不安がったアーシアが手を握ってくるなどの出来事はあったけれど

概ね平和に移動出来ていた。車掌のレイナルドさんもいい人(?)だし

考え方を変えてみたら、ちょっと豪華な旅行気分だ。

うーん、快適快適。

 

「その様子だと満足してもらえたようね、イッセー。

 まだ着くまでに時間はあるから、もう少しゆっくりしていてもいいわよ」

 

「そういえば部長さん、セージさんはもう冥界に行ったって話でしたけど

 どうやって行ったんです? 交通手段は部長さんの許可が無いと使えないみたいですし」

 

「以前使い魔の森に行ったでしょ? その時の魔法陣が1つ無くなっていたのよ。

 魔法陣なんて書き直せばいいし、普通の人間には使える物じゃないから放置してたんだけど……

 どうやらセージが使ったらしいのよ。ただ……」

 

アーシアはまだセージの事を気にしている。

なんて優しいんだ、あんなやつのことまで心配するなんて!

やっぱりアーシアは魔女なんかじゃない、立派な聖女じゃないか!

全く、なんでこんな優しい子を魔女だなんて言うんだ、教会の連中は!

 

……っと。部長が何か気になることを言ってるな、なんだろ?

それにしても使い魔の森か。懐かしいなぁ。

結局使い魔はゲットできなかったけど、いいもの見られたし。

あ、思い出したらまたムラムラしてきた……どうしよう。

 

……はっ! い、いかん! 部長は真面目な話をしているんだ!

こっちも真面目に聞かないと失礼じゃないか!

 

「ただ……なんすか?」

 

「一度使った魔法陣はメンテナンスが必要なの。私もこのところ忙しかったから

 ついメンテナンスが後回しになってしまっていたのよ。

 契約の際移動に使う魔法陣や、新型は軒並みオートメンテナンス機能付きだけど

 使い魔の森へ行くやつはそれの無い旧式だったのよ……。

 で、セージが使ったのは多分そのメンテナンスが済んでない魔法陣。

 メンテナンスの済んでない魔法陣は、意図したところとは違う場所に飛ばされることもあるわ」

 

「はっ、いい気味だ。自分一人で勝手な行動を取ろうとするからそういう目に遭うんだ!」

 

それじゃ、今セージの奴はもしかするとどこだか知らないところにいるかもしれないって事か。

冥界って確か広かったよな。それなのにどこだか知らない場所に飛ばされる……ってのは

遭難しそうじゃないか。いい気味だ。部長に逆らうからそんな目に遭うんだ。

 

「あらあら、そういう風に言うのは良くありませんわよ」

 

「イッセーの言う事も尤もだけど……

 問題は現地でセージが問題を起こしてないかどうなのか、ね。

 グレモリー領ならまだしも、それ以外の領地に飛ばされたら最悪不法侵入と見做されて

 処罰されることもあり得るわ……使い魔の森なら公共の土地だから問題なかったのだけど」

 

「って事は、現地でセージが何かやらかしたら部長に迷惑が……

 くそっ、どこまではた迷惑な奴なんだ!」

 

「どうどう、せっかくの帰省なんだから怒らないの」

 

興奮する俺をあやすように抱きしめて宥めてくださる部長。

ううっ、感激っす! なんでセージにはこの部長のやさしさがわからないんだろう。

でもそんな疑問も部長のおっぱいと匂いで吹っ飛んでしまう。

それほどまでに、部長のおっぱいは俺に力を与えてくれるのだ。

 

「あらあら、せっかくですから私もイッセー君に……」

 

「朱乃。暑苦しいと言ったはずよ」

 

「あらあら部長。砂漠では人肌の方が温度が低いのですから、寧ろこうして……」

 

朱乃さん、ここ砂漠じゃない……って突っ込む間もなく

その部長に勝るとも劣らないものを押し付けてくださる。

ふぉぉぉぉぉぉぉっ!? な、なに!? なんなんだこのパラダイス!

最高だ! 最高すぎる! 最高にハイってやつだ!!

 

「……むー」

 

「アーシア先輩、放っておきましょう。あんなバカ先輩は」

 

「あはは……本当にいつも変わらないね……」

 

外野が何か言っているが、俺にとってはこれこそが現実なんだ!

もう少しこの至福の感触を味わせてくれてもいいじゃないか!

 

ところが、その至福の時は無情にも終わりを告げることになったのだ。

 

――――

 

「ぶ、部長ぉぉぉぉぉぉっ!! た、たたた大変ですぅぅぅぅぅぅ!!」

 

「……どうしたのギャスパー。一応この列車は貸し切りだけど、出来れば静かになさい」

 

「ま、ままま窓の外に……」

 

「窓……?」

 

遠くにギャスパーの声が聞こえる。騒ぐなギャー助。

もっとこうしてどっしりと構えてだな……

 

と、次の瞬間。

 

物凄い衝撃で揺れが襲ってくる。地震か!?

思わず部長と朱乃さんからいわゆる乳びんたをされる格好になったが

これはこれで……

 

「ご、ごめんなさいイッセー! 痛くなかった?」

 

「む、寧ろご褒美っす……それより今のは?」

 

体勢を立て直し、窓の外を見てみると……

 

そこには、緑色の触手が窓を埋め尽くすように生えており

その隙間からは、蝙蝠のような翼を生やした骨の怪物が飛んでいる。

どっちも、何だか見覚えがある。

 

「どう見てもグレモリー領の悪魔じゃないわね……」

 

「姫、申し訳ありません。この列車に賊がとりついた模様です。

 排除しますので、今しばらくお待ちを」

 

「いえ、それには及ばないわレイナルド。

 みんな! 列車にとりついたのはおそらくアインストよ!

 奴らは赤い宝石さえ破壊すれば消滅する! こいつら位倒せないでセージには勝てないわ!

 リハビリもかねて奴らと戦うわ! いいわね!?

 祐斗と小猫はフォワード! ギャスパーは車内から神器で奴らの動きを止めてちょうだい!

 私と朱乃とアーシアは窓の触手がなくなり次第魔法で攻撃!

 アーシアはラッセーを使いなさい!」

 

「は、はいっ! ラッセー君、お願い!」

 

「あ、アインスト……あの時は逃げたけど……ぼ、ぼ、僕だって!

 今度はみんなだっているんだ! 逃げたりしない!」

 

やっぱり! あの骨の怪物は、あの時俺を抑えつけた奴にそっくりだ!

けれどアイツ、空飛べたっけ? 空飛ぶ個体ってことか?

それにこの無粋な触手もそうだ! あの時戦った奴と同じだ!

 

「……いきます」

 

「早いところ片付けないとね」

 

「あの、部長。俺は……?」

 

「イッセーはそこで応援しててちょうだい。

 『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の使えないあなたを出すわけにはいかないわ」

 

く……くそっ! こんなにも早く神器が使えない影響が出るなんて!

くそーっ! みんな、負けるんじゃないぞー!!

 

外に出た木場と小猫ちゃんが触手を切り倒しながら進んでいくのが見える。

これが触手丸なら小猫ちゃんに絡む姿を見られるんだけど、アインストじゃあなぁ。

あ、木場には攻撃が当たりますように。

 

「『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』……い、いきますっ!」

 

俺の隣にいるギャスパーが、木場や小猫ちゃんとは別方向にいるアインストの動きを止める。

あ、こいつらにも一応効くんだ。それによって優位に立てたのか

あっという間に窓を覆っていた触手は消え去った。2人が本体のアインストを倒したんだ。

 

「今よ朱乃、アーシア! 私達も打って出るわ!」

 

「うふふ、あの飛んでいるのとか落とし甲斐がありそうですわねぇ」

 

「ラッセー君! 皆さんの援護をお願い!」

 

今度は部長の滅びの魔力に、朱乃さんとついでにラッセーの雷が

空を飛んでいるアインストを次々と落としていく。

 

俺が出るまでもなく、アインストは撃退できたようだ。

あのカテレアが化けた奴が極端に強くて

それ以外はもしかしたら大したこと無いのかもしれない。

何にせよ、これで平和な旅が再開できるってもんだ。

……ちょっと出番のなさに言いたいことが無いわけでも無いが。

 

「ふふっ、どうかしらイッセー」

 

「あら、私の雷の魔力も負けてませんわよ」

 

それにしても今日はやけにこの二人が絡んでくる。いや、嬉しいんだけどさ。

一体何があったんだろうな。

 

「…………えっ!?」

 

ん? 外に出た小猫ちゃんが凄い驚いた顔をしているけど……

ま、まさか倒した奴が復活したとかそんな……

 

「どうしたんだい?」

 

「……いえ。何でもありませんから戻りましょう」

 

木場の奴。だからそのイケメンオーラを出すのをやめろ。

そのオーラ、見ているこっちは鳥肌が立つんだよ!

 

「そ、そうだ。そういえばさっき黒猫も見たんですけど……」

 

「黒猫……でございますか。今しがた車内点検を実施しましたが

 そのようなものはおりませんでしたぞ。

 さて姫、並びに眷属の皆様方。流石でございました。

 斥候を念のため派遣いたしましたが、賊は見当たらぬ模様。

 これより列車設備に問題が無いか確認した後、運転を再開させていただきます」

 

「頼むわね、レイナルド。ギャスパー、知っての通りここには特殊な方法でしか来られないから

 猫の子一匹たりとて迷い込んだりはしないわ。きっと見間違いよ。気にしてはダメよ」

 

「で、ですよね……僕の見間違いですよね……」

 

ギャー助。こんな時に暢気すぎるぞ。

そもそもここに来たのだって部長が言うように特殊なエレベーターで来たんだ。

猫が迷い込んでくることなんてあるわけないだろうに。何考えてるんだか。

 

その後しばらくして、列車は運転を再開した。

後で分かった事なのだが、さっきのアインストは人間界と冥界との間にある

次元の壁に張り付いていたらしい。そこで何をしていたのか、まではわからなかったが。

と言うかそもそも、あいつらって話通じるのか?

骨や触手は喋らないし、アインストになったカテレアだって

「静寂な世界」だの「生命のルーツ」だの言っていることが意味不明すぎる。

こうして襲ってくる以上、ある意味はぐれ悪魔よりも危険じゃないか。

まあ、俺があれこれ考えていても仕方ないけれど。

 

――――

 

途中トラブルに見舞われこそしたものの、列車の旅は終わりを告げ

俺達はグレモリー邸にやってきた……んだけど。

 

高そうな調度品の中にはところどころ「抵当」と書かれた紙が貼られている。

外から見た感じはそんなイメージ無かったのに。

等と思っていると、奥からメイドさん……確かグレイフィアさんだ。

グレイフィアさんが俺達の出迎えにやってきてくれた。

 

「……グレイフィア。片づけられなかったの? この辺りの調度品」

 

「お嬢様。抵当に入れられている以上、こちらで勝手に動かすのはご法度です」

 

なんかいろいろ大変そうだな……俺が口を挟める問題じゃなさそうだけど。

 

「それはそうと……皆さま、ようこそお越しくださいました。

 しかし見ての通り、我がグレモリー家は今財政的に困窮しております。

 本日の列車も、皆様のお帰りの便が最後の運行になります。

 よって、大したおもてなしは出来かねますが、どうぞごゆるりとお過ごしください」

 

「……酷いとは聞いていたけど、そこまでとは思わなかったわ……

 お父様とお母様は?」

 

「本日は弁護士事務所へ示談金の支払いにお出かけになられております」

 

え? 弁護士? 示談金? どういう事?

部長のお父さんとお母さん、何かあったのか?

 

「示談……まさか、ライザーとの一件!?」

 

「然様でございます。あの後、結局示談と言う事で話はつきましたが

 その示談金は我がグレモリーの財政を圧迫するほどの金額でございました。

 おそらく、彼らはこの示談金を元手にフェニックスの涙の増産を図るつもりでしょう。

 聞けば、昨今のアインスト騒動で病院も手いっぱいとなり治療薬であるフェニックスの涙は

 それだけで需要が跳ね上がりますからね」

 

「ちょっ……あの件なら俺達が勝ったんだ!

 それなのに裁判なんて、おかしいじゃないか!」

 

おかしいだろ!? 俺達は勝ったんだ!

勝ったんだから、あの焼き鳥野郎と部長が結婚する必要なんか、どこにもないはずだ!

それなのに、なんでこんなことになってるんだよ!?

 

「一誠様。お忘れかもしれませんのでもう一度お話いたしますが

 当初お嬢様とライザー様のご結婚は

 両家の当主の正式な話し合いの元に交わされた約束事です。

 それをお嬢様が反故にし、レーティングゲームと言う場を設けました」

 

「そう、そのレーティングゲームで俺達が勝ったんだ!

 なんでこっちが、グレモリー家が金払う話になってるんだよ!?」

 

「……お嬢様。当主のお二方と、お嬢様。どちらの意見が優先されるか。

 お嬢様ならばお分かりかと思いますが」

 

「……っ。けれど、私はライザーみたいな奴との結婚なんて死んでも……」

 

「それはお嬢様の個人の意見にすぎません。ライザー様を一方的に毛嫌いするだけで

 碌な話し合いもせず、挙句レーティングゲームで再起不能に追い込んだ。

 その事がフェニックス卿の怒りにふれ、財力で劣る我がグレモリー家は

 裁判と言うセカンドステージでの戦いを余儀なくされたのです。

 その結果、旦那様はフェニックス家に多額の示談金を支払う事となり

 現在のグレモリー領の有様につながっているのです」

 

そんな……それじゃ、全部悪いのは部長だって言いたいのかよ!?

そんな、そんな話があってたまるかよ!

部長はあの焼き鳥野郎との結婚は嫌だって言ってたんだ!

嫌な奴と結婚させられて、それが当たり前で通るなんておかしいだろ!?

 

「あ、当たり前よ! あんな女性を己の性欲のはけ口としてしか見ないような男なんて……!」

 

ぐさっ。

う、い、今流れ弾が俺にあたったような気がする……

 

「……自業自得」

 

「イッセー君。傷は浅いよ」

 

うるせー黙ってろ、特に木場。おめーみたいなイケメンに心配されると惨めになるからやめろ。

けれど、なんでグレイフィアさんはさっきから焼き鳥野郎の肩を持ってやがるんだ。

 

「はて。私も職業柄、ライザー様の事については調べさせていただいておりましたが……

 それはあくまでも、ライザー様の放蕩的な一面にすぎません。

 それにそうした性的な行為も、囲っている眷属との合意の下で行われている行為。

 合意あっての行為でさえも、お嬢様は否定なされるのですか?

 それに私の調べによりますと、ライザー様は三男として生まれながらも

 フェニックス家のために様々な努力を惜しまず、また家族や眷属に対する愛情も

 グレモリーの家の者に勝るとも劣らないとありますが」

 

「……グレイフィア。今更ライザーの擁護なんかして何のつもりかしら」

 

「そうだ! それに、あの焼き鳥野郎は自分の眷属を犠牲にすることを

 何とも思わない奴じゃないか!」

 

「『犠牲(サクリファイス)』の事でしたら立派な戦術です。

 それについてとやかく言うのは筋違いです、一誠様。

 それに私はライザー様の擁護をしているつもりはございません。

 ただお嬢様のライザー様に対する評価があまりにも一点からの視点によるものでありすぎるので

 こういう一面もあるのだ、と言う解説をさせていただいているだけでございます」

 

まるで他人事のように淡々と話を続けているグレイフィアさん。

仮にも仕えている家が大変な目に遭っているのに、どうして相手の肩を持つことを言うんだ?

そういえばセージの奴も「奴は言っていること自体はそれほど間違ってない」とか言ってたっけ。

だとすると、あいつの言う事なんか認めたくないけど……そんな、そんなことって!

 

「さて。この話はこれ位にしておきまして……

 皆さま。家具の品質は少々劣りますものの、皆様の分のお部屋は用意させていただいて……

 おや? 一人足りないようですが」

 

「キャンセルよ。食事代が一人分浮いたと思ってもらっていいわ」

 

1人……ああ、セージか。

ここでの豪華な……豪華、だよな? な食事が食えないなんて、あいつも可哀想になぁ。

けれど今回は同情なんかしてやらないぜ。自業自得だからな!

 

「畏まりました。では改めまして、滞在中はこちらの屋敷のお部屋を

 ご自由に使っていただいて構いません。どうぞごゆるりとお寛ぎください」

 

「あ……その事なんですけど、部長。当初の予定ではこっちに来て特訓を行うと……」

 

「その事なら、アインスト騒動で冥界の交通機関が軒並み正常に機能していないの。

 政府……つまりお兄様方も対応に追われていて

 眷属総出でアインストや禍の団(カオス・ブリゲート)と戦っている有様。

 祐斗の特訓プランは、全面的な見直しが必要になったの……ごめんなさい、連絡が遅れて」

 

「いえ。部長が謝ることではありませんが……」

 

しかしこいつも真面目だなぁ。こっちに来て気にすることがそれか。

俺はもう観光気分なんだけどな。ま、初めて来たからってのもあるけど。

まあ、この部長の家の有様じゃ心の底から観光気分ってわけでも無いけど。

 

けれど、ふと木場が小声でこんなことを漏らした風に聞こえた。

 

――こんな事なら、セージ君に付き合えばよかったかな――

 

何かの間違いだと思いたい。部長を平然と裏切るような奴に、なんで木場がついていくんだ?

それってつまり、自分も裏切るって言ってるような事じゃないか!

木場の奴、エクスカリバーの事件から全然懲りてないのか!?

あの時と違って、セージ(見張り役)もいないってのに!

 

「そんなわけで、特訓については自主練とするわ。

 私もお父様やお母様が帰って来たらまた忙しくなりそうだし。

 グレモリー領の中ならば、自由に行動してもらって構わないわ」

 

自由に行動……ったって、とても謳歌できるような雰囲気じゃないっすよ、部長。

この抵当の紙が貼られた家具の山を見たら心配になりますって!

でも、俺には何もできないし……

 

「そうだ! 部長、アルバイトって募集してないんすか?」

 

「え? イッセー、お小遣いが欲しいの? それなら私が……」

 

「お嬢様。今のこの状況で、よくそんなことが言えますね。

 そんな事は『義姉』として認めません。一誠様。このグレモリー邸は

 言わばグレモリー領の経済状況の写し鏡ともいえる存在であります。

 その写し鏡がこの有様では、グレモリー領ではアルバイトは募集していないでしょう。

 寧ろ、失業者が増加傾向にあると聞き及んでおります。その中でアルバイトを探すのは

 人間界で例えるならば、三流高校で中くらいの成績の者が

 一流大学へ入学することと同じくらい困難かと……」

 

「そ、それに俺お小遣いじゃなくて……この財政難の手助けになれば……」

 

「い……イッセー!! 私は幸せだわ!

 あなたのような下僕を迎え入れられたことは、この上ない幸せだわ!

 イッセーのその気持ちだけで、私はもう十分すぎるわ!」

 

突然、部長に抱きつかれて頭を撫でられる。

そんなに喜んでもらえると、俺もうれしいっす!

特におっぱいの感触が!

 

「お二方とも。感傷に浸っているところ申し訳ありませんが、いち下級悪魔――

 それも転生悪魔で稼げる額などたかが知れております。

 財政難を立て直すには、雀の涙ほどの価値もありません。

 財政難については、私が手を打ちます。経済を司る悪魔――ルキフグスの出として

 現在のグレモリー家の状況は見るに堪えますので。

 そんなわけですので、私はこれから少しミリキャスを連れて出稼ぎに行ってまいります。

 皆様のお世話に関しては他のメイドに一任しておりますので、ご心配なく」

 

「そ……そう。気を付けていってらっしゃい」

 

「あの部長。ミリキャス? って誰っすか?」

 

「あ……そういえばあなたやアーシアには紹介してなかったわね。

 ミリキャスってのはお兄様とグレイフィアの子供。私にとっては甥っ子にあたるわ。

 ……そっか。まぁ、ミリキャスを1人にも出来ないし、仕方ないわね……」

 

甥っ子かぁ。部長にそんなのがいるなんて、初めて知ったぜ。

けれど、今はご両親も居なければ魔王様(お兄さん)も、義姉さんも甥っ子もいない……

ちょっとだけ、部長が寂しそうに見えた。

 

「そうだ部長。俺、冥界の事全然わからないんで、案内してもらってもいいっすか?」

 

「あ、私もお願いします。こっちの事も詳しく知りたいですし……」

 

「いいわよイッセー、アーシア。それじゃみんな、夕飯までには帰ってらっしゃい。

 それまでは各自自由とするわ」

 

――――

 

それから、俺達は部長の案内で冥界――と言ってもグレモリー領だけだけど――を案内してもらい

冥界が殆ど人間界と変わらない場所だと言う事を思い知った。

聞けば、色々人間の生活を参考にしているようで、人間界にあるものは

大体疑似的に再現されているらしい。やっぱすげーな、冥界。

 

……ただ、アーシアが少しだけ首をかしげているのが気になったけど。

 

「どうしたんだよ、アーシア」

 

「あ……いえ。部長さんの言う事――人間界を参考にしているってのは大体わかるんですけど……

 その割には、参考にしている部分が限定的すぎると言うか、何と言うか……

 私の故郷の雰囲気は一部の建造物にしか見られませんし

 それ以外はあまりにも現代的過ぎて……

 冥界って言うよりも、なんだか人間界っぽくて逆に違和感を感じてしまって……」

 

「それだけ悪魔が人間社会に敬意を持ってるって証拠じゃないか?」

 

「そう……なんですか? うーん……」

 

「難しい事を考えるのはやめになさいアーシア。

 そろそろ疲れたでしょう、そこの自販機でジュース買ってくるわ」

 

グレモリー領の公園。ここで俺達は部長が買ってくれたジュースを飲みながら休憩していた。

言われてみると、確かにグレイフィアさんが言っていたように活気に欠けている気がする。

少なくとも、ここに来る途中に見た旧都ルシファードよりは……。

 

「……イッセー。言いたいことはわかるわ。

 だから私は、レーティングゲームでトップに立ちたいの。

 今の冥界で、自分の実力を示すのはそれが一番有効な手段よ。

 私にもグレモリーの次期当主としての誇りがあるわ。だからこそ、ここをもっと活気づけたい。

 その為にも……イッセー。あなたの力を私に貸してちょうだい」

 

「勿論です部長! なんたって俺は部長の『兵士(ポーン)』なんですから!」

 

「ふふっ、その言葉だけでも嬉しいわ。アーシア、戦いが嫌いなのはわかるけど

 あなたにも力を貸してもらうことがあるかもしれないわ。その時はよろしく頼むわね」

 

「……はい」

 

ん? なんだろう今のアーシアの間は。

けれど、部長は俺を頼りにしてくれている。

だったら、俺はその期待に応えるだけだ!

そう意気込んで一気に飲み干したジュースは……メロンソーダだった。喉が痛い。




普段のイッセーは大体こんな感じ。
リアスと朱乃からセクハラ受けて鼻の下を伸ばし
アーシアが複雑な面持ちで見守り
小猫が冷たい視線を送り(時には折る)、木場が苦笑し
ギャスパーはイッセーの舎弟的存在。

……あれ、セージ居場所ないじゃん。
まぁオリ主なんてそんなもんなんですけどね。

そんなセージですが現在消息不明。
冥界に移動したまでは判明しているのですが。

>アインスト
飛んでいる奴はOGクロニクルに登場した飛行タイプ。
擬態タイプはセージと能力が被るので不参加……
っつーかアインストセージなんて出された日には
戦力比がえらい事に……(4人に増えた某乳牛姫から目を反らしつつ

>黒猫
この章のサブタイからお察しの方もいらっしゃるかと思いますが
いよいよ「彼女」が登場します。
原作では完璧に顔見世程度の出番でしたが、拙作では悪魔の駒周りの改変のお陰で
メインになると思われます。

>焼き鳥
こういうやり方は両論別れるとは思いますが……
「ああ、いい奴だったよ」と言う事で。
人間蔑視はありますが、悪魔社会としては好漢「でした」。
セージ的に許せなかったのはその人間蔑視の奴が
人間の町を管理している悪魔(リアス)と結婚することで
その管理に口出しされることを懸念しての事でした。

>冥界の街中の様子
人間社会をベースにした、とのことですが……
人間社会ったって、ピンキリすぎますからね。
先進国と発展途上国だったら先進国を手本にするのはまぁわかりますが
その先進国の中でもさらにピンキリですからね。
自動販売機だってシステムがまるっきり違うとかあり得る話ですし
交通機関だってダイヤガン無視の国もあれば
定刻通りに只今到着な国もありますし。どの人間社会を手本にしたのやら。
一体全体人間の何を見ているのやら。
この作品全体について思うのですが
「上っ面だけ」模造しているのではないかと邪推してしまいます。

拙作では(グレモリー領は特に)日本をベースにしていると設定。
そのためアーシアが違和感を抱いています。

……あ。伊草家のベビーシッター(とゼノヴィアの日本語教師)が
夏の間取られてる……

そういえば、この間悪魔稼業ってどうなってるんでしょうかね。
この世界におけるその答えは次回。

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