ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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今回、実はちょっと苦しい矛盾点があったりします。
原作アンチを謳っておきながらこのザマとは……

と、嗤ってくださいませ。


そして、早いかもしれませんが本話でいよいよ決着です。
まあ、元々原作にはないただの内ゲバでしたので。

そして、今回あの「悪魔」が顔見せします。
裏切り者の名を受け、愛する者のために全てを捨てて戦った世界もあれば。
身体は悪魔になりつつも、心は人間であり続けた世界もあった。
その「悪魔」が。


Soul65. 紫紅の「戦車」、至高への進路

俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

イッセーを下した俺だったが、直後グレモリー部長が暴走してしまう。

滅びの力の奔流は留まるところを知らず、祐斗をも巻き込み

俺もダミー人形を作って逃げるのが精いっぱいだった。

 

最後のチャンスとして、俺は敵陣にて昇格(PROMOTION)

迎え撃つ作戦に打って出るが……

 

――ゲーム終了まで、あと10分――

 

駒王学園旧校舎、オカルト研究部部室。

この戦いでは相手の本陣ともいえる場所に俺はたどり着いた。

そこにいたのは、自身の戦闘力が全くないがために前線に出られないヒーラーのシスターだけだ。

 

「ひっ……せ、セージさん……!?」

 

「……あからさまに怯えられると多少傷つくんだけど。

 まあ、それはさておいて……悪い事は言わない。

 早くここから逃げ出した方がいい。俺がここにいるって事から察しが付くと思うが

 もうすぐこの辺りは戦場になるから」

 

あー、うん。まあ、そりゃ怯えるよね……

さっきから立て続けに脱落のアナウンスが流れているんだもの。

で、こっちは性質上仕方ないとはいえ無傷――まぁ、実際には無傷ってわけでも無いんだけど――

怯えるなり、警戒するなりして当然だよなぁ。

 

「も、もう残っているのは私と部長さんだけなんですよね……だ、だったら!」

 

「……眷属としてその行動は一応納得するけどそりゃ勇気じゃない、蛮勇だ。

 ラッセーもいない今、どうやって俺を倒すんだ。

 言っておくけど……」

 

SOLID-DEFENDER!!

 

これ見よがしにディフェンダーを展開する。これは盾の表面に光力を帯びているために

聖なる力に対して耐性を持っているのだ。よって、十字架や聖水はこの盾がある限り、効かない。

 

「このディフェンダーで、聖なる力による攻撃は防ぐぞ」

 

「…………っ」

 

やはり聖水を投げつけるつもりだったのか。観念して、アーシアさんも両手を下ろす。

ラッセーもいない今、彼女がどうやって俺を倒すんだ?

これは慢心ではなく、純粋に疑問だ。

 

「で、でも、みんな負けてしまった今、私まで負けてしまったら……

 部長さんが、一人になってしまいます……」

 

「……そうだな」

 

「それは……可哀想だと思うんです」

 

「……そうか」

 

「だから、私はここを離れません。確かに私は主への祈りを欠かしませんが

 それと同時に部長さんにも感謝しているんです。新しい人生を謳歌するきっかけをくれた

 リアスお姉さまに……」

 

「……ま、あんたがそう言うならそれはそれでいいよ。

 俺個人としては、いかなる理由であれ死は捻じ曲げちゃいけない概念だと思うがね。

 生きているから死がある。最後は死ぬから精一杯生きる。俺はずっとそう教わってきた。

 ……事情は人それぞれ、ってのもわかってはいるつもりだがね。

 あ、念のため言っておくけど俺はまだ死んでないから。

 死なないためにこういうことをしてでも生き延びようとしているだけだから。

 

 ……本当に死ねば、俺は……消えるよ。跡形もなくね」

 

アーシアさんは確かに友人だが、「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」の影響か

発想が(変態的な意味を除けば)イッセーに近くなっている。

それは神に仕えるシスターとしてどうなのさ、って気もしないでもないが。

聞いた話だが、薮田(やぶた)先生――聖書の神の影、ヤルダバオトとも話したんだろ?

 

「で、ここを離れないと言う事はグレモリー部長の支援にあたるつもりか?

 ……なら悪い事は言わない、やめておけ。

 普段ならともかく、今のグレモリー部長は暴走している。

 滅びの力の制御が出来てないんだ。理由はわからんがね」

 

「じゃ、じゃあ止める方法は……」

 

「それを敵である俺に聞くかね、普通。

 そんなもん俺の立場からすればこう答えるに決まっているだろう。

 『動かなくなるまで徹底的に叩きのめす』ってな」

 

自分で言ってて呆れるほど脳筋な対処法だ。他人の事を言えやしない。

しかし他の方法を知らないのも事実だ。結局こうなるのか。

肩を竦めながらふとアーシアさんの方を見ると、何やら真剣な面持ちだ。

 

「……セージさんは、敵じゃありません」

 

「は? ……いや、言わんとすることは読めたが今は敵同士だろ。

 この戦いは俺とグレモリー部長との戦いだ。

 その上で俺にあと10分程度逃げ回れってのか? それもしんどいし何より被害がでかすぎる。

 その過程でアーシアさん、あんたが巻き込まれても文句は言えんぞ。

 

 ……あ、言っておくが『自分がどうなっても構わない』って陳腐な自己犠牲精神は要らんぞ。

 結果として制限時間オーバーはあるかもしれないが、やるならきっちり止めを刺したい。

 でなければ、グレモリー部長は納得しないだろう。

 だからさっさとここを出たほうがいい」

 

「うっ……」

 

やれやれ。まあ、生粋のシスターだからなぁ。そういう発想もさもありなん、か。

だが今回の戦いは、グレモリー部長にこれ以上口を挟まれたくないが故のものだ。

そのために勝負を持ち掛け、負ければ消えるまで言う事を聞くと言う餌も提示した。

その上で――まぁ、魔王陛下の横槍と言う形だが――グレモリー部長と戦っているのだ。

俺が勝てば、俺はこの忌々しい悪魔の駒の除去ないし共有の解除の方法を探す旅に出る。

そのためにも、これ以上グレモリー部長に束縛されたくはないのだ。

 

「な、ならせめて――」

 

「――しっ! 隠れるんだ! グレモリー部長が来た!

 『俺が怖くて逃げだした』とか適当に言っておけばいい!」

 

アーシアさんが何か言いかけたが、窓の外にグレモリー部長が見えた。

アーシアさんを巻き込まないように逃げるよう促し、俺は急いで外に出る。

昇格(PROMOTION)のカードを引きながら、校舎の外に飛び出した。

 

PROMOTION-ROOK!!

 

マゼンタカラーの「戦車(ルーク)」の駒を模した肩アーマーに

赤地に白のX字ラインが入った胸アーマー。

マゼンタ地に赤と白のラインが入ったグリーブにガントレット。

インナーにあたる制服が暗色系の色もあって、ちょっとしたヒーローアーマーである……

と言うのが、改めて見た「紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)」の、「戦車」形態の感想だ。

それぞれの装甲部分には、アクセントとして翠と碧の宝玉がちりばめられている。

 

そして、それだけではない。龍の頭部を模し、バーコードのような黒いラインの入った

マゼンタのフルフェイスのヘルメットが展開され、頭部を覆うように装着。

俺の表情は、翠色の双眼型シールドグラスに反射してグレモリー部長からは見えていないだろう。

窓に映った俺の姿は、そんな感じのものだった。

 

「追い付いたわ、セージ……って、その姿は……

 まるで『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』ね。

 けれど見様見真似の代物で、私を倒せると思わないほうがいいわ!

 私自身の力でないことは癪だけど、もうあなたを止めるには形振り構えないわ。

 このままはぐれになる位なら、いっそ……!」

 

「……どこまでもイッセーと比較ですか。比較するなと言う方が無理かもしれませんがね。

 そしてそれは要らん世話だ。俺は生きる道を探し続ける!

 はぐれの烙印を押されても、俺が俺であり続ける、生きるために! 俺は……戦う!」

 

媒体が変わっても、やることは変わらない。

戦車形態では、「力」を操作することが出来る。この――

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

「――はっ!」

 

寸前で飛んできた光鞭を手で掴みながら、グレモリー部長の周囲の重力を操作。

その周囲だけ超重力と化し、圧殺されかねない重力がかかっている。

そのまま力任せに光鞭を引きちぎる。そういう実体のあるものだったのかと思いながら。

再度光鞭を展開させようとしているようだが、超重力でそれも覚束ないようだ。

とは言え、掴んでいる部分が徐々に消え始めている。一気に決めないとやばそうだ。

 

「く……ううっ……!!」

 

『止めだセージ、ちょっとくすぐったいぞ!』

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

4体に分身し、それぞれが超重力を展開する。

今までは出来なかった、4人がかりでの「力」の操作。

そのために、新たな力が生まれる。

強すぎた重力は、ある現象を発生させたのだ。そう――

 

――グレモリー部長を中心に、ブラックホールが形成された。

 

「このままいけば飲み込まれるぞ! 投了するか、事象の地平に消えるか、選べ!!」

 

「ぐ……う……」

 

何をしているんだ! 早く投了しろ!

このまま、このままブラックホールに飲まれて消えるのがお望みなのか!

俺には必要ないあんただが、あんたを必要としている奴はいるんだぞ!

それなのに、ここで消えていいわけがないだろう!

 

「……チッ!!」

 

グレモリー部長が飲み込まれる寸前で、思わず重力操作をカット。

ブラックホールを消してしまった。

 

……ところが、この俺の行動がレーティングゲーム空間に影響を与えていたらしく……

ブラックホールが消えたと同時に、外にいるはずの

サーゼクス陛下とグレイフィアさんが見えたのだ。

 

「……これは驚いた。まさかレーティングゲームステージの

 次元の壁すら破ってしまうとは」

 

「……前例のない事ですので、今回はレギュレーション違反とはいたしません。

 ですが、今後は自重いただきますよう、お願い申し上げます」

 

「それはどうも……じゃない! 聞こえたんだぞ陛下!

 あんた、自分の妹に何渡したんだ!?」

 

俺にとっても予想外だったが、これはこれで好都合。

目の前に突如現れた魔王陛下に、俺は事の真相を問い質すことにした。

魔王ってのは、自分の妹さえも実験動物にするのか?

そこまでしてやろうとしているのは、一体何なんだ?

不特定多数の人生を歪めるだけでは、飽き足らないと言うのか?

 

「ああ、あれか。あれはアジュカから預かったものだ。

 私とて、あれがああいう結果をもたらすと知っていれば破棄するよう進言していた。

 何せアジュカは、私にさえ肝心なことを言わずにそれを寄越したのだからね。

 ただ『リーアの助けになる』としか聞いていなかったのだよ」

 

呆れた……なんて危機意識のないやつだ。そんなのがよく魔王なんて務まるな。

そんなだから旧魔王派なんてバケモノを生み出す土壌が出来るんじゃないのか?

いやむしろ、俺には旧魔王派の方がまともにさえ思えるぞ。

 

……人間を巻き込まない、って前提があればこそ、だが。

 

「それより、こうして目の前に出てきたんだ。妹さんに謝ったらどうなんです」

 

「おいおい歩藤君。今は試合中だろう? それなのに部外者の私が口を挟むわけにはいかないよ」

 

何が部外者だ。あんたが寄越した得体のしれないもののお陰で戦況は混乱しただろうが。

全く、ああ言えばこう言う。日本の政治家にもそういうのはごまんといるが

まさか……それを参考にしてないだろうな? だとしたら悪い見本なんだから

今すぐ訂正してほしいんだが。

 

「……フン。それより、その妹さんは戦意喪失しているようだが」

 

「……そのようですね。リアス様。続けますか? それとも投了なさいますか?」

 

クレーターの中心でうつ伏せになっているグレモリー部長を確認した後

グレイフィアさんが声をかけるも、グレモリー部長は反応が無い。

この壁を破ったことといい、これは少々やり過ぎたか?

 

「反応が無いようですので、カウントを取らさせていただきます。10……9……」

 

カウント中暇なので、魔王陛下の様子を見る。やけにそわそわしているな。

やはり、自分の妹が負けたのは堪えたか。だが俺は謝らない。

次の瞬間、思わず驚きはしたものの。

 

「リーアぁぁぁぁぁ!! 立て、立つんだぁぁぁぁぁぁっ!!

 まだまだ君は頑張れるはずだリーアたんっ!!」

 

……多分、今の俺はハトが豆鉄砲を喰らった顔をしているどころの騒ぎじゃない顔をしている。

外からはフルフェイスのヘルメットで見えないのだが。

しかしこの魔王、自分の妹がこんなことになって気でも触れたか?

なにが「自分は部外者」だ。この依怙贔屓が。

 

「ファイト! ファイト! ファイトだリーアた……ぐはっ!?」

 

「……サーゼクス様。実況は公平にお願いいたします……6……」

 

そんな状況を見かねたグレイフィアさんのツッコミが魔王陛下に入った。

どう見ても身内の恥としか思えなかったんだろうな。

 

しかし、少々偏屈な見方をすれば俺は真剣にやっているのに

この人(人じゃないが)らにはただのお遊びなんだな、と。

お遊びだからこそ、こんなことをやっていられる余裕がある。

心に余裕を持てとは言うが、それはこういう事だっけか?

 

真剣にやっている俺が馬鹿らしい。

と言うか、あんたらにとって俺の命運はその程度――

 

――つまり、片手間の遊び半分程度の価値なわけ?

それはそれで、物凄いショックなんだが。

 

「……お二方。何ですか今の茶番は」

 

「……5……誠二様。スルー推奨でお願いします……4……」

 

いや、スルー出来ないから聞いてるんだけど。

あの……曲がりなりにも魔王陛下なんですよね?

で、これはオフでしたっけ? オフなら俺もとやかく言うほど野暮ではないが。

てっきり魔王としてあの席にいるのかと思ったが……

 

なんだ、グレモリー部長の兄としてあの席にいるのか。

グレモリー部長の兄ならば、顔を立てる必要はあるのかもしれない。

魔王陛下としてそこにいるのであれば、顔を立てる必要などどこにもないだろう。

 

だが、俺がやることは決まっているんだ。

何故、ここまで来て顔色を窺うような真似をしなければならないのだ。

 

そこで黙って見ていろ。己が一族のしでかした不始末の結果を。

これが戦争ならば、日常茶飯事だ。

そしてこれが勝負ならば、水を差したお前の自業自得だ!

 

「……3……! 誠二様、何を……!!」

 

「もうカウントは結構。このまま終わらせますので

 

仕舞っていたディフェンダーを右手に装着し

打突部分をグレモリー部長めがけて振り下ろそうと構える。

この光景には、流石にグレイフィアさんも、「サーゼクス・グレモリー」も

面喰ったみたいだ。

 

「ま、待つんだ歩藤君! リーアは動けない、止めを刺す必要なんか……」

 

「はて。これは戦争もかくやと言う戦いではございませんでしたか?

 攻撃は念入りに。それで傷つくのが嫌なら……最初から、戦いに出るな!!

 

 そして……己がしでかした不始末、その眼でしかと見届けろ!!」

 

「や、やめろ! やめるんだ!!」

 

「……誠二様!!」

 

俺は何のためらいもなく、打突部分をグレモリー部長の頭めがけて振り下ろす。

そして――

 

 

 

――――

 

 

 

――結論から言うと、ディフェンダーは宙を切った。

光力を帯びた打突部分が突き刺さる寸前で、カウントゼロによるグレモリー部長の敗北となったのだ。

……明らかにカウントの速さに不正があったような気がしたが、まあ黙っておくことにする。

結果が全てだ。そう――

 

――俺は勝った。勝ったのだ。

 

だが、心のどこかに引っかかるものは感じている。

全く、どうしてこう俺は甘いのだ。あのブラックホールだってあのまま展開させていれば

問答無用で俺の勝ちになっただろう。それなのに、それが出来なかった。

おまけに、最後のディフェンダーだって突き刺さらなくてよかったとさえ思ってる始末だ。

 

……フェニックス戦の事が堪えているのか、それとも。

これではイッセーの事を言えないではないか。クソッ。

 

ともかく、これで冥界に移動した後俺の行動の制約はなくなった。

グレモリー家に行く必要は無くなったのだ。

あいさつ回りなど、行きたい奴が行けばいい。

俺はそもそも悪魔になりたくてなったわけじゃない。

それなのに現状維持をさせようとするなど、俺の意向を完全に無視している。

そんな奴に情けをかける必要は無い……のかもしれないが。

 

――そうして殺したら、まず間違いなくイッセーは俺を殺しに来るだろう。

  そしたら俺は生きるためにイッセーを返り討ちにする。

  そうしたら今度は……

 

よそう。この手の考えは考え出すと嵌る。今はとにかく、悲願が果たせたことを喜び――

 

――祐斗に、一応謝るべきかもしれないな。

 

とは言え、今の今すぐ行くのはいくら何でも気まずい。

さっきまで戦っていた相手、しかも俺には二心あり、だ。

仮に向こうが良かったとしても、俺が良くない。

こんなだから、俺ははぐれなのかもしれないが。

 

ため息をつきながら、ふと俺が開けた次元の穴を見ると……

 

蝙蝠の翼のような頭をした悪魔らしき男が、宙に浮いたまま微動だにしない姿が見える。

その姿はまごう事無き悪魔。グレモリー部長や、サーゼクス陛下みたいに中途半端に

人間の皮を被っていない、どこからどう見ても悪魔。

そういうものを、彼らははぐれ悪魔と呼ぶらしいが……

 

COMMON-LIBRARY!!

 

「……アモ……ン……?」

 

アモン。遠くに見えるその悪魔が妙に気になった俺は、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で調べてみた。

しかしその情報はやけに頑丈にロックされており、名前しか読めない。

 

アモン。確かいつぞや聞いた悪魔の講習でそんな名前の家があった気がするが。

何か関係があるのか? こうなったら……

 

「……さっきのブラックホールで、異次元と繋がってしまったのかもしれないな。

 だから、異次元にあるものが見えてしまっている、と」

 

「……!!」

 

そこにいたのは、緑色の髪の悪魔。

グレモリー部長よりも、寧ろサーゼクス陛下に近い威圧感を受ける。

 

「ああ、そんな無粋な『神器(セイクリッド・ギア)』を使わなくとも良い。俺はアジュカ・ベルゼブブ。

 知っての通り、四大魔王の一人だ」

 

「アジュカ! いつこっちに……と言うか、あのアレは一体何なんだ!

 アレのせいでリーアたんが酷い目に……」

 

あまりの来客に、俺が呆然としていた矢先にサーゼクス陛下が横から割って入る。

ああ、やはりこの二人がつるんで何か企んでいたとみるべきか。

 

しかし、一体なぜここに?

 

「それはすまなかったなサーゼクス。アレもまだまだ改良の余地はごまんとあるか。

 さて、そんな事よりもだ。君が開けてくれたブラックホール。

 アレはレーティングゲームの根幹をも捻じ曲げかねない、危険なものだと言う事が分かった」

 

うん、それは俺も思う。何せ次元の壁破っちゃったからね。

ちょっとしたゲートみたいな状態になっちゃったと思う。

しかしグレモリー部長の件を「そんな事」で済ますとは……

この魔王陛下もいい性格をしてらっしゃるよ。

 

「俺は基本レーティングゲームには『面白ければ何でもいい』

 スタンスを貫いてほしいと思っているが

 君のそれはちょっと頂けないな。と言うわけで、調査を兼ねて直々に注意に来たんだ。

 ……面白いものも見られたしね」

 

面白いもの……アモンの事か?

けれど、アモンってまだ健在している悪魔の家系のはず。

そんなものが面白いとは、とても思えないんだが。

 

「私にも見えた。よもや、こんな形であの裏切り者の勇者を見ることになるとは思わなかったが」

 

裏切り者? 勇者? アモン……一体何者なのだろう。

そんな事を思いながら、俺は魔王陛下に無視されたために改めてアモンの方を眺めてみる。

すると――

 

「――っ!?」

 

――アモンの目が開いて、こちらを見た気がした。

 

一体何なんだ、あの悪魔は。魔王陛下は知っているようだが。

記録再生大図鑑でも読み取れない、読み取るのに手間のかかりそうな対象だ。

こういう場合は知っている奴に直接聞く方が早い。

 

「魔王陛下。あの悪魔は一体?」

 

「ああ、私達悪魔にとって偉大な勇者であるとともに、憎むべき裏切り者でもある。

 悪いが、私達もこれ以上のことは話せない。彼がアモンと言う名前で

 勇者であり、裏切者。今は異次元に眠っている――これだけ知っていれば十分さ」

 

「そんなアモンを、また見る機会が来るとは思わなかったがね。

 さて、それじゃあ面白いものも見られたし俺は帰って研究の続きをするとしようかな」

 

言いたいことだけ言って、帰ろうとするアジュカ陛下。

自分の興味のあること以外には何も関心が無いとでも言いたげだ。

だが、そっちに用が無くともこっちにあるんだ!

アモンとやらの話だけで終わらせるつもりは無い!

 

「お待ちを、陛下。陛下を『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』開発者と見込んでお聞きした……」

 

「アモンで忘れるところだったがアジュカ! それよりもリーアたんに謝ってくれ!

 あの試作品さえなければリーアたんは勝っていたかもしれないんだ!

 だから選手控室まで……」

 

「すまないがサーゼクス。俺はこれからさっきのデータを基に改良設計にかかりたいんだ。

 今の試合で、方向性がある程度見えてきたんだ。そういうわけだからリアス君には

 君から伝えてくれないか? じゃ、俺は帰るから」

 

言いたいことだけ言って、さっさと魔法陣で帰ってしまった。

アモンも、異次元との境界が元通りになったためかもう見えない。

ここから見えるのは、ただの普段通りの景色だ。

 

……完全に聞きそびれた。まあ、ここにいるとは思っていなかったから

聞けるとは思っていなかったし、初めからその予定だった。

 

改めて調べに出る必要はありそうだが……やはり魔王は魔王か。一筋縄ではいきそうにない。

あれから情報を引き出すのは骨が折れそうだ。

バオクゥやリーでも、少々荷が重そうな感じがする。

まあ、曲がりなりにも現政府に対し喧嘩を売るに等しい行いをしようとするんだ。

それくらいの困難はあって然るべき、か。

 

「全くアジュカの奴め……うちのリーアたんを何だと思っているんだ……

 ……あ、なんだ。まだいたのか。とりあえずおめでとうと言っておくよ。

 それじゃ、私はリーアたんの所に行ってくるから……」

 

とりあえず、その前にこいつ殴っていいかな。

そう俺の顔に出ていたかどうか知らないが

多分向こうは向こうで色々考えているんだろうな。

 

「そいつはどうも。じゃあ俺も旅支度がありますのでこれにて」

 

「……ああ、今回の件だがね。うちの実家に顔を出す必要は無いが

 若手悪魔の会合が行われるんだ。そこには顔を出してもらいたいんだ」

 

「……グレモリー部長の顔を立てるため、ですか」

 

「相変わらず手厳しいな。ぶっちゃけてしまえばそんなところだよ。

 まあ、その前に君がはぐれになってしまえばその必要は無いが……

 それは私としても不本意だし、何よりリアスがそれを望まないだろうからね」

 

兄バカここに極まれり、か?

こいつもこいつで俺の事を何だと思っていやがるんだ。

いや、そもそも悪魔にとって他の種族ってなんなんだ。

 

……自分たちのステータス、飾り物でしかないと言う事か。

本当に、本当にふざけた話もあったものだ。

 

「それならば、なお更俺が出てはマズいのでは?

 こんな出来の悪い眷属、しかも通常あり得ない『9個目の「兵士(ポーン)」』。

 そんなのを表沙汰にしたら、グレモリーの名前に下手すれば泥を塗りますよ」

 

「そうだね。だから父上は君をころ……っと」

 

言ったな。今「殺そうと」って言いかけたよな。

そして今の言い方から察するにサーゼクス陛下も俺を殺すことには前向きだな。

よもやとは思っていたが、まさか本人から目の前で言質取れるとは思わなかった。

 

「何があったのかわかりませんが、面倒ごとはさっさと片づけるに限りますからね」

 

「ん? ああ。そうだね……」

 

素知らぬ顔をして世間話を振ってみる。

ふむ。流石に現役で魔王の筆頭格だ。どこぞの部長よりも腹芸が出来ている。

しかしここで腹芸をすると言う事は、痛い腹を探られまいとしていることだ。

それが意味するものはつまり……

 

「……まあ、会合には顔を出させていただきます。

 念のため付け加えますが、俺はイレギュラーでこうなった存在です。

 グレモリー部長共々、フォローをお願いしますよ。魔王陛下」

 

「……ああ。アジュカともよく相談してフォローさせてもらうよ」

 

……さて。

そのフォローがフォロー(暗殺)でないことを祈りたいばかりだ。

 

 

 

――こうして、俺とオカルト研究部との戦いは幕を閉じた。

俺の目的はとりあえず果たせたが、そこには思惑が蠢いているのも見て取れた。

聞いた話ではサーゼクス陛下は若手を大事にするスタンスらしいが

アジュカ陛下にもそのスタンスが正しく伝わっているのかどうか、はとても疑わしい。

グレモリー部長にあんなものを寄越している時点で。

 

……彼はきっと、自分の研究以外には興味のないタイプだろう。

ある意味、政務に付けちゃいけない人材だ。どこぞの自称外務担当も大概だが。

 

そんな奴らと、これから渡り合わなければならないのか。

これはもう、立派な反逆だな……って今更か。

 

俺が俺に戻るのに越える必要のある壁。

そして、その壁は異様に高くそそり立っている。

飛び越える、壊して進む、避けて通る。

どれを選ぶにしても、俺に残された時間は少ない。

 

 

俺は旅支度のために、静かにその場を立ち去ることにした。




色々凄い事になってしまいました。

>アーシア
ラッセーは朱乃戦のダメージもあり戦闘不参加。
どうやってセージを倒せと言うんだ。
これにはセージも苦笑い、逃げろと言われる始末。

温存した結果使いどころが無くなってしまった最悪のパターン。
実質フェニックスの涙封印されているんだからもっとバンバン使うべきだったのに。

いい勉強に……なったと思いたい。

>セージの「戦車」
龍帝の義肢(イミテーション・ギア)」時代にも似た様な展開をしましたが
今回は純粋に上位互換。頭部保護も万全。神器じゃないのに連動して変形する
紫紅帝の龍魂マジ空気読めるチート装備。

……前回この変異を起こさなかったのはリミッターがかかっていたため。
変形に回す力を30体以上の分身維持に使っていました。
今回はその必要が無いのでしっかり変形。うん、我ながら苦しい設定。

デザインはメットが追加された以外は前回とほぼ同様。
ところどころディケイドモチーフになっていたり。
胸の×はディケイドの胸アーマーとペルソナ2罰の周防達哉のイメージ。

>ブラックホール生成
4人がかりで重力操作したことでブラックホールが出来てしまいました。
今回は寸前で仏心が出たのか打ち消しましたが
実際にリアスが飲み込まれていたら……

その辺はスパロボマジック的な何かでダメージだけ受けて
リタイアしてたとお考えください。或いはどこか別の世界に弾き飛ばされたか。

>アモン
で、そんなブラックホールを生成したことで異次元の様子が見えてしまったため
そこに封じ込められている、との話の伝説の悪魔がついに登場。
モチーフは言うまでもなくデビルマン。と言うかほぼ本人。
どちらかと言えばアニメ版の性質に近いかもしれません。

……そして、セージの今後のカギを握っている存在でもあります。

>アジュカ
維持している空間がたった1人に破られたので慌てて出てきた奴。
(前回も白金龍(プラチナム・ドラゴン)に空間破られているけど)
拙作では自分の研究以外には興味が無い、悪い意味で典型的なパターン。
ちょっとアザゼルと被り気味かもしれない。

……果たしてこんなのが素直に悪魔の駒の除去方法教えてくれるのか?

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