恋ぞ積もりて 淵となりぬる   作:鯛の御頭

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二話続けてのお話です。
達也がもし九重に預けられ、そのまま京都に行っていたらという話とA組モブ子のお話です。
設定上、水波ちゃんが年を誤魔化して1年生になっています。
そしてジョージと達也がかなり親しい設定です。

見なくても支障はないので、興味のある方だけどうぞ。


IF設定のお話とモブ子のお話

 

九校戦のある日

 

ほのか、雫、美月、エリカ、深雪、水波の仲の良い女子6人は一緒に朝食を取っていた。

その中で深雪がいつにも増して機嫌が良いため、ほのかが何かあったのかと問いかけた。

 

「深雪さん、兄妹がいらっしゃるんですか?」

「ええ。兄と姉がいるのよ」

 

にっこりと深雪は笑顔を浮かべた。

 

「どんな人なんですか」

「そうね。私の憧れで、私の理想で、神様みたいな人よ。本当に素晴らしい方たちなのよ」

「深雪さんがそこまでおっしゃるなら、すごい人なんですね」

 

一緒に朝食を取っていた美月もどんな人なのだろうかと思いを巡らせていた。

これほどの美少女の兄妹ならば、美形に違いないと思っていた。

 

「水波さんも知ってる?」

「ええ。色々な意味で凄い方たちです。

お兄様の方は魔法戦闘力に関してもの実力も一級品ですし、雅様はとても美しく、古式魔法に優れた方です」

「それは興味深いわね」

 

水波の素直な賞賛にエリカたちはますます興味を膨らませた。

 

「正直、お姉様とお兄様と競うようなことがなくてよかったわ。今の私では相手にならないでしょうから」

「そ、そんなにですか?」

 

深雪の魔法力は言うまでもなく、他を追随しないレベルで高い。

上級生でも敵わない者も多く、間違いなく今回の出場競技も優勝が見込まれている。

そんな深雪が敵わないと明言した人物とは一体どんな偉人なのかと謎は深まるばかりだった。

 

「ええ。今日と明日の時間を作って来てくださるの。

友人を紹介してほしいとおっしゃっていたから、少し時間があるかしら」

 

深雪の提案に5人は肯定の意を示した。

 

 

 

 

深雪たちがホテルのロビーで待っていると、一組の男女がやって来た。

夏らしい水色のスカートに白のブラウス姿の少女とカジュアルな雰囲気のあるジャケット姿の少年だった。

少女の方は落ち着いた雰囲気で、可愛いと言うより洗練された美しさの光る人だった。

少年の方もあまり派手な顔立ちではないが、立ち姿が凛々しい好青年に見えた。

 

「お姉様、お兄様」

 

深雪は二人の姿を見つけると、満面の笑みを浮かべて二人に近寄った。

 

「元気そうだな、深雪」

「試合前に会えてよかったわ」

「このように朝早くに申し訳ないです」

「貴方に会うためなら苦ではないわ」

 

友人たちは深雪が年相応に少女らしい笑みを浮かべた姿に驚いていた。

深雪は確かに自分たちと笑うことも多いが、身内に向ける笑みには敬愛を込めた視線があった。

 

「お二人ともお忙しいのに、本当にありがとうございます」

「深雪が気にすることはないよ。せっかくの可愛い妹の勇姿を見過ごすわけにはいかないからね」

「まあ、お兄様ったら」

 

くすくすと上品に笑う深雪は本当に嬉しそうで、たまたま通りかかった人も思わず顔を赤らめていた。

 

「水波ちゃんも久しぶりね。」

「ご無沙汰しております、雅様。」

 

水波は丁寧に一礼した。

水波は彼らとはあまり面識がないが、丁寧にお相手せよと本家から言われている。

彼らの目の前に立つと背筋がいつも以上に伸びている気がした。

 

「深雪、貴女の友人を紹介してくれるかしら」

「ええ。ご紹介します。同じクラスの北山雫、光井ほのかです。こちらの二人はクラスは違いますが友人の千葉エリカと柴田美月です」

「司波達也です。妹がお世話になっています」

「初めまして。九重雅です」

「九重?」

 

水波と深雪を除く4人の女子に疑問が浮かんだ。

その疑問を素早く察知した達也が深雪に問いかけた。

 

「深雪、なんて皆には説明していたんだ?」

「お兄様とお姉様が応援しに来てくださると」

「少し説明が足りなかったみたいね」

「いいではありませんか。お兄様は正真正銘私の兄で、お姉様はお兄様と婚約なさっているから私にとっては義姉となるのですから」

「へっ、婚約してらっしゃるんですか?」

 

ほのかが間の抜けた声を出した。

いくら魔法師の結婚が早いとは言っても、彼女からすればそう年の変わらないカップルが婚約とは珍しいのだろう。

 

「なるほど」

「素敵ですね」

 

エリカと美月は納得したように頷いていた。

 

「ありがとう。でも敬語ではなくていいのよ。同い年ですもの。」

「はい?」

「え、でも兄妹なんですよね?」

「もしかして、深雪さんと司波君は双子なんですか?」

 

ほのか、雫、美月の順に質問を投げかけた。

 

「良く聞かれるんだが、俺が4月生まれ、深雪が3月生まれなんだ」

 

深雪の説明では言葉が足りず、誤解を受けることが多い。

達也も慣れたように関係性を説明した。

 

「二人とも凄く落ち着いているのでてっきり大学生くらいなのかと思ってました」

 

すみませんと少し恥ずかしげな美月に気にしていないと達也も雅も言った。

 

「私達も同級生の目もあるから、あまり表だっては応援できないけれど楽しみにしているわ」

「はい。ご期待に応えられるように頑張ります」

 

深雪は背筋を伸ばし、兄と姉に向かってそう言った。彼女からすれば誰よりも心強い応援だった。

 

 

 

 

試合までの合間、達也は別の人物と約束を取り付けていた。

 

「達也」

「ジョージ」

 

赤と黒の制服に身を包んだ小柄な少年、吉祥寺真紅郎が笑みを携えて彼らの元にやってきた。

 

「元気そうだね。雅さんも久しぶり」

「そっちもな」

「久しぶりね。新人戦のスピードシューティング優勝おめでとう」

 

ジョージは照れくさそうに頬をかいた。

賞賛は同じ学校の生徒から受けたが、彼らから直接聞くとまた特別なものに聞こえた。

 

「ありがとう。でも今回の九校戦は正直、君たちがいなくてほっとしている」

「ずいぶんな言い方だな」

 

ジョージの不躾な言い方に達也はおいおいと肩をすくめた。

ジョージも気の知れた仲なので、拗ねたように言った。

 

「だって君たちの相手は骨が折れそうだからね。君がいたらミラージ・バットは確実にそっちの勝ちだろうし、射撃だって九校戦に合わせて汎用型のモデルをわざわざ作ったんだろう」

「元はドイツの技術なんだが、やり始めたら面白かったんだ」

 

FLTの第三課、通称窓際部は東京にある本社から大阪の支社に飛ばされた。

そこで達也と出会い、キャプテンシルバーとその一味の大阪の乱が巻き起きている。

近々独立するのではないかと言わんばかりに、本社に迫る勢いで業績を伸ばしている。

その理由が世界で初めてループキャストを実現させたシルバーモデルだった。

最近だと照準補助機能付き汎用型射撃デバイスや三大難問と言われた飛行魔法の実現である。

これによって、今期の営業利益は歴代最高を叩きだすこと間違いないだろうと言われている。

その立役者が誰であろう、達也なのだ。

 

「ねえ、今からでも良いから三校に来ない?」

「何度も言っているだろう。俺は動かないよ」

 

何度目かの分からないジョージの勧誘に、達也は首を振った。

ジョージも分かって言っていた様で、やれやれと肩をすくめた。

 

「そうだね。こんなに美人の婚約者を置いてはおけないよね」

 

 

吉祥寺を探していた将輝はその姿を見かけると如何したのかと問いかけた。

私服姿の少年たちに彼は見覚えがなく、ジョージの所属する研究所の人間にしては若い気がしていた。

 

「将輝、紹介するよ。二高の司波達也と九重雅さん。司波君とは学会で意気投合したんだ」

「九重…?まさか京都の九重か?」

 

一条は司波の名前に聞き覚えはなかったのか目の前にいる少女がかの有名な九重の桜姫なのかと驚いた。そしてもう一つの名も彼にとっては忘れられない記憶となっている。

 

「御存知でしたか」

 

「“一条”が知らないわけにはいかないだろう。佐渡でも世話になったしな。

二人とも二高の代表ではないのか?」

 

九重がどれほどの家系なのか、裏の名も含めて彼は聞かされ、佐渡ではその力を目にしていた。

だからこそ、ジョージと知り合いだと言うことに驚かされていた。

 

「この時期は実家が忙しいので、手伝いに駆り出されているのですよ。

今日はどうしても、見たい試合がありましたので、少し無理を通しました」

 

「そうなのか。司波くんも聞いているよ。

ジョージが目標だって言っている凄いエンジニアなんだろう」

 

雅の言葉に一条は納得はしていなかったが、深く掘り下げるには場が悪いとしてターゲットを達也に切り替えた。一条の言葉に達也が若干非難めいた視線をジョージに向けた。

 

「英才カーディナル・ジョージに目標だなんて恐れ多いな」

「そのセリフ、天下のシルバーに言われたくないよ」

「シルバー?」

 

軽口を叩きあう二人にも驚いたが、シルバーとはなんなのだろうかと一条は考えをめぐらせた。

 

「あの天才エンジニア、トーラス・シルバーが高校生の試合になんて出たら話にならないだろう」

「えええ!」

 

思わず叫んでしまい、一条は注目を浴びた。

慌てて、こほんとワザとらしく咳を付き、仕切り直した。

 

「達也、大会側から出場禁止にされたんだろう」

「オフレコで頼むよ」

 

達也は困ったように眉を顰めた。彼にとっては知られてると色々と不都合が多い名前だった。

 

「なんで、もっと大々的に公表しないんだ」

「理論は得意なんだが、実技が苦手でな。実践して見せろと言われても発動が遅すぎて話にならないんだ」

「本当にアンバランスだよね」

 

ジョージがしみじみと口に出した。

不可能を可能にし続けたシルバーが実は魔法が苦手だと知れば多くの関係者は驚くことだろう。

同時に納得もするはずだ。

自身の魔法を最大限生かすために、起動式の短縮化と効率的なデバイスが生まれたのだと。

 

「二高は早くから魔法工学科を設立していたんだよな」

「ああ、そうだ」

「達也はそこのトップ。雅さんも一年生のトップなんだよね」

「二人とも出場しないだなんて本当に勿体ない、いや助かったと言うべきか」

 

冗談めいた言葉に達也はそうでもないさと口にした。

達也と雅は妹の応援があるからとその場を後にした。

 

 

 

 

・・・続かない

 

 

 

 

 

 

 

スピンオフ~A組のモブ子のお話~

 

 

「なあ、今日はどっちだと思う?」

「簪」

「ストレート」

「昨日は結んでたんだっけ?

じゃあ、ストレート」

 

はろー、皆さま。

私は東京の魔法科高校一年A組のしがないモブ子です。

実はA組では男子達があることを毎朝、予想して遊んでおります。

 

「おはようございます」

「あ、深雪、雅。おはよう」

「おはよう、ほのか」

 

我がクラスのアイドル、深雪さんと雅さんが登校してきた。

 

「よし、ストレートだ」

「あー、また外した」

 

こそっと男子が一喜一憂していた。

毎朝密かに行われているのは、九重さんの髪型当てです。

それこそ楊貴妃とか小野小町とか、クレオパトラも逃げ出すような美少女の深雪さんがうちのA組の看板なのですが、彼女が姉と慕う雅さんは可愛らしいと言うより美人という表現が似合う人だ。

お姉様と慕われるだけあって、深雪さん同様お淑やかな様子はさることながら、彼女の前だと深雪さんも妹のように甘える仕草が男性陣の心を鷲掴みです。

二人に甘い幻想を抱く男子も多いが、深雪さんと雅さん、薔薇と百合のようにどちらも美しいので、男子だけではなく女子にも眼福です。

 

「雅、今日は髪の毛結ってないんだ」

「今日は体育があるでしょう。癖がついてしまうから、今は結ってないの」

「終わったら、深雪が結ってもよろしいですか」

「勿論よ」

 

雅さんの髪はそれはもう美しい。

緑の黒髪、烏の濡れ羽色の髪、なんて言うような純日本人のストレートな黒髪だ。

一度、どんなお手入れしているのか聞いたら思ったより普通で、尚且つ上品な良い香りがしたので、神様は不公平。彼女が普段使っているもののサンプルを貰ったのだが、その日一日どころではなく三日はツヤツヤの髪だった。これは良いやつと調べたら私が普段使っているものより3倍以上は高く、ブルジョワジーはすげえと思いましたよ。

 

んで、そんなお美しい雅さんの髪はこれまたお美しい髪をお持ちの深雪さんが手入れをしたり、遊ばれたりすることが多い。雅さんも喜んで構わせており、雅さんは朝と夕方で髪型が違うこともある。美しすぎる深雪さんってなんか近寄りがたい雰囲気なんだけど、雅さんと一緒だと年相応の表情をしており、親しみやすい印象を持つ。

 

雅さんが間に入って空気を読むのが上手いのもあるけど、ストッパーとしての意味合いが一番助かっている。深雪さんの魔法力は半端ない。

自分もまあ、そこそこと思っていた頃があったのだが、今ならふざけんなと殴ってやりたい。

その魔法力チートの深雪さんが暴走した時に唯一止められるのが雅さんであり、A組は多大なる感謝の念を抱いている。

 

「マジか」

「これは、どっちになるんだ」

「入って来た時だから、ストレートの勝ちだろう」

「ジュース一本な」

 

下らない賭け事をしている男子はさておき、個人的には雅さんは結っている方が美しい。

今では日常でほとんど見る事の無い簪で髪を上品に結上げてくる雅さんを見たときの私は、和風美人キターと脳内で暴れまわっている。これらを従姉妹に話したところ、なにそれ百合姉妹、美味しいと言われ時々ネタを提供しております。ちなみにこの前、正式に連載が決まったらしいです。

 

 

 

入学二日目からもしかしたら彼女たちは百合ではないかと思っていたが、断言しよう。百合だ。

深雪さんは雅さんに褒められるたびに、これまた特上に嬉しそうに頬を染めるし、雅さんが例え事務連絡であったとしても男子と話していると不機嫌になっている。

 

深雪さん、もう可愛いよ。

美人なんだけど、お姉様、お兄様、大好き過ぎて玉に傷なんだけど、むしろ可愛いよ。

実際百合疑惑については血の繋がりがないのにも関わらずお姉様呼びなのもあって、私以外にもそう思っている人たちはいるそうだ。

 

「いいなー。私も髪伸ばそうかな」

「ほのかの長さでも十分結えるわよ」

「そうなの?」

「ええ。流石に全部は無理だけど、ハーフアップにしてお団子にしたところに簪を指しても可愛いと思うわ。時間もあるし、やってみましょうか?」

「本当ですか」

 

そして雅さん、誑しである。

特に女の子ホイホイ。

私もときめいたことは数知れず。

重い荷物持ってくれたり、高いところの資料取ってくれたり、男子より女子に優しいフェミニストな女性だ。

美人なんだけど、鼻に掛けてなくて、謙虚で人当たりも良い。

才色兼備、眉目秀麗、成績優秀の三拍子がそろった美少女が二人もいるだなんて、今年は当たり年だろう。人誑しな雅さんはほどいた光井さんの髪を櫛で梳いている。

 

「今の髪型は活発で明るいほのからしいけれど、利発さの引き立つ仕上がりになるわよ」

 

ほら、さらっとそう言う事から光井さんが照れている。

手慣れたように光井さんの髪を纏め、髪を半分すくい上げ、お団子にする。

そこに小さな簪(雅さんの私物)を指すと、文字通り雰囲気の違った大人びた光井さんになった。

そして雅さんの手際ヤバイ。あれは半分プロだ。

 

「こちらも可愛らしいでしょう」

「ほのか、似合ってるよ」

「本当!」

北山さんにも褒められ、手鏡を前に光井さんはかなり嬉しそうだ。

男子もこそこそとあの光井さん、可愛いと言っているのが聞えた。

だがしかし、ちょっぴり不満そうなのが深雪さん。

 

「深雪は帰ってからね。今日はアクセサリーのお店に寄り道して帰ろうかしら」

「!はい」

 

結局彼女にとっても最優先はやっぱり深雪さんで、何が言いたいかというとああもうあそこの姉妹末永く爆発してしまえ。

 

 

 

 





次は夏休み編です。

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