部活勧誘期間が終了して一週間経った放課後……
「ねぇねぇ今日は皆で帰ってケーキ食べようよ」
エリカが身を乗り出しながら言う。
「ああ、今日は風紀委員の仕事も無いしな。お前も大丈夫だろ?大翔」
達也に大翔も頷く。
「どうせ暇だしな」
「私も大丈夫ですよ」
「俺も俺も」
美月とレオも同意した。だがそこに、
【生徒の皆さん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!】
『っ!』
突然の放送……だが音がでか過ぎてハウリングが起きている。
突然の爆音に大翔達も耳を抑え顔をしかめる。
「何だ一体……」
大翔が眉を寄せると放送の続きが流れる。今度は普通の……いや、しゃべってる人が興奮してるため若干まだ煩いくらいの音量だ。
【し、失礼しました……私達は学校に対し平等な扱いを要求する有志同盟です!】
『有志同盟?』
クラス中でザワツキが起きる。
【私たちは二科生にも一科生と同じ待遇を要求し、差別撤廃していただくために立ち上がりました】
クラスの人間達は驚きもあるが同時にどこか興奮したような状態だ。
そこに摩利からのメールが大翔と達也にきた。内容は今すぐ放送室に来いとのこと……
「悪いエリカ……ケーキはキャンセルだ」
「悪い俺も同じだ」
友人が頷いたのを見ると大翔と達也は教室を出た。
「お兄様!」
途中で深雪とも合流し三人は放送室を足早に目指す。
「一体なんだ?あれ……」
達也に大翔は聞く。
「この間壬生先輩と話したのは知ってるな?」
「ああ、お前が言葉責めしたときだろ?」
「深雪の教育に悪いからそういう言葉は言わないでくれ」
「お兄様……私の年を勘違いされてはいませんか?」
達也は冷や汗を垂らしたがそのまま続ける。
「その時に学校側に待遇改善を要求すると言っていた。その一味だろう」
「成程ね」
そして放送室に着くとすでに他の人間が集まっていた。
「遅いぞ」
『すいません』
形だけの摩利からの叱責に大翔達は形だけの謝罪を返す。
「状況は?」
「マスターキーも纏めて持っていかれた上に施錠も万全だ。こっちからは強引にぶち開けないと無理だな」
「ですが学校の備品を壊してまでして急ぐ必要があるとは思えません」
「だがのんびりとしてても仕方ないだろう」
摩利と鈴音は相手への方針に食い違いがあるようだ。
「十文字会頭はどう思われますか?」
「ふむ……」
十文字は腕を組む。
「俺はあいつらの要求にたいして交渉の場を設けるのは構わないと思っている。だが強引な手を使うのには賛同はしきれない」
今だ悩み中かと大翔が理解すると達也が端末を取りだし電話をかける。
「もしもし壬生先輩ですか?」
『っ!』
その場の全員が達也を見る。
「今どこに?成程、放送室ですか。ご愁傷さまです。いえいえ、馬鹿になんてしていませんよ。ただ十文字会頭は交渉に応じるとのことです。はい、自由も保証します。出てきますか?分かりました」
電話を切ると達也は、
「では拘束の準備をお願いします」
「い、今君は自由を保証するといってなかったか?」
「俺が保証したのは壬生先輩だけです。一言も有志全員とは言っていません」
しれっと達也が言うとポカーンと深雪以外全員があきれた。
とんだ悪人だと思っていると深雪も思ったらしく笑いながら、
「人が悪いですねお兄様は」
「今更だ」
達也が肩を竦める。だが、
「ですが後で壬生先輩のナンバーを何で態々登録していたのかその辺りはじっくりお話しいたしましょうね……」
「あ……いや……あのな深雪……」
ビュオオオオオオっと深雪の背中にブリザードが吹雪いているように見えた達也は必死に浮気がばれたときの男のような狼狽っぷりで深雪を慰め周りの人間は無意識に達也に同情の眼差しと共に十字架を切ったのは秘密である。
『風紀委員会だ!CADの不正使用の容疑で逮捕する!』
放送室を選挙していた者達が出た瞬間風紀委員達が飛びかかって確保する。
大翔も一人襟首を持って壁に思いっきり投げつけて気絶させてから手錠を掛けていると、
「騙したの!?」
この前は遠目だったため分かりにくかったが近くで見るとよくわかる美少女だ……
(あれが壬生先輩か)
大翔は達也に掴み掛かる壬生を見る。
「司波はお前達に嘘は言っていない。それにお前達の交渉にも応じよう」
そこに十文字が壬生に言う。圧倒的な存在感に呑まれて圧倒されている壬生を見ながら十文字は続ける。
「だが、お前達の暴動を見逃すのとは別の問題だ」
『…………』
壬生を含めた差別撤廃を掲げる有志同盟の皆は反論を許さない十文字の言葉に顔をうつむかせることしかできなかった。
「そうね十文字くん……でも少し待って貰えるかしら」
「七草?」
そこに遅れて真由美がやって来た。
「なんだ随分重役出勤だな」
「そんなこと言わなくてもいいでしょ摩利。私は先生達と話してきたのよ」
「なに?」
真由美は頬を僅かに上げる。
「この一件は生徒会に委ねるそうよ。風紀委員会の手柄を横取りするみたいだけど彼らを離して貰えないかしら」
真由美の言葉に若干を戸惑いつつも大翔たち風紀委員は全員を解放する。
「これから貴方達と交渉を行いたいのだけど良いかしら」
「ええ、構いません」
壬生の返事に真由美は頷くと、
「失礼するわね」
有志たちを連れてその場を後にした。
「これは真由美に一本取られたようだな」
摩利が呆れ声で言うと達也が、
「ですがこれで終わるとは思えませんが?」
「まあそうだろうな。それでは面白くない」
達也は風紀委員会の委員長としてあるまじき発言をさらっとした摩利と会話しつつも有志達の後ろにいると思われる者達について調べてみようとしていた……
「それでどうだったの?」
さて、その晩大翔は一人で住んでいる自分の家で真由美と電話していた。
【2日後……生徒達の前で公開弁論を行うことになったわ】
「何だあれだけ連れてったのに決まんなかったの?」
【感情が先走って余りしっかりとした構想はなかったみたいね。差別はなくしたいけどどうするかはこっちで決めろって感じよ】
「なんじゃそりゃ」
行き当たりばったりにもほどがあるなぁと言うか大分適当だなと大翔は呆れる。
【ま、二日後が本番よ……でもね】
「でも?」
【裏ではこの間話に出たブランシュの下部組織のエガリテって言う組織の影があるわ】
「つまり結果としてブランシュの手があるってことか?」
【ええ、いざというときは頼んでも良いかしら?】
「別に許可取んなくたっていざってときは俺が動くことになってるの知ってるだろ?」
【七草のとは関係なしによ。弟であり後輩の貴方に姉であり先輩としてのお願いよ】
「分かったよ。達也に被害及んだら嫌だもんなぁ姉さん」
【んな!ち、違うわよ!何いってるの!】
ブツン!と電話が切られた。まあこういえば姉の真由美は長話せずに勝ってに切ってくれるので重宝している。ただあの慌てようだと恐らく……いや、深く考えるのはやめておこう。
(達也と顔会わせにくいな……)
大翔は苦笑いしつつ頬を掻く……
どちらにせよ事態は二日後にならねば分かるまい。
だがどんな事になろうと姉には危害加えさせる気はないし姉が大切に思う学校にだって同じだ。まああの人に危害加えられるのはそうそうない事態だがそれが父に……七草 弘一から七草を出る前に伝えられた唯一無二の役目……養母も養父もましてや姉や妹たちだって良い顔をしないどころかそんなのをしなくても良いと言うがそれを遂行するしかない。
七草の者やそれの居場所に害意を加えるのであれば反魔法団体だろうがなんだろうが関係ない。全力で潰させてもらう……
(それが俺の……仕事だもんな)
そう大翔は胸に誓った……