入学式
「ふぁぁぁあああ」
男は大きな欠伸をしながら食洗機に朝食を食べるのに使った食器を入れてスイッチを押す。
それから今日入学式を行い入学する学校の制服に袖を通しながら拳銃を取った……
時は2095年……魔法と言う力が小説やゲームなどの夢物語から現実の物となってから長い時が経つ……
そう、今では魔法は然程珍しい物ではない。ある程度の才能があれば誰もが扱える力へと変貌した。そしてそれと同時に現れたのが【術式補助計算機(英名・Casting Assistant Device)】こと通称CADである。他にも
これにより魔法は長ったるい詠唱無し、重々しい動作無しで使うことを可能とし魔法需要は良い意味でも悪い意味でも飛躍的に上がった。
更にCADには汎用型と特化型二種類が存在しこれに最初から起動式を入れて置くことで今言ったように詠唱や動作無しでも魔法が使える。
違いは起動式を入れられる量で汎用型は99種類、特化型は9種類入れられる。
先程男が机の上から取った拳銃と言うかリボルバー型の銃も勿論CADだ。型は特化型で銃身がかなり長いのが特徴である。
さて、男はそれから歯を磨き同時に背中に届く髪を後ろで縛る。
男の容姿は細身で背は170ちょっとだが貧相と言うわけではなく基礎的ではあるがかなり鍛えられている。顔立ちは非常に整っており縛った長い髪によって何処か女性のようにも見える。
そうして口を濯ぐと鞄を手に外に出た。もう遅刻ギリギリだ。
行ってきます……と自分しかいない一人暮らしで誰もいないマンションの一室に向かって声を掛けた後にドアを閉める。表札にはこう記されていた【
大翔は八王子にある高校……国立魔法大学付属第一高等学校……通称第一高校の門を潜る。日本全国に幾つか存在する魔法科高校でもここは特に優秀な人間が集まる高校だ。因みに凡そ65%前後の人間がそのまま大学に進む……
(セーフ!)
入学式の日に遅刻はマジで洒落になら無い上にバレればアノ人が絶対に煩いのでギリギリではあるが大翔は門に飛び込んだ。
(後は講堂に……ん?)
大翔は周りを見るとニヤニヤと笑われていた。これは別に鮮やかに門に飛び込んだ上に起きた賛辞を込めた笑みではない。そんな好意的な目だったらどんと来いだが向けられているのはこちらを見下す笑み……大翔の制服に無いものをみて笑っているのだ。
(そう言うことか……)
大翔は自分の制服に無いものを相手でみる。
違いは制服に着いてる花弁の有無……天は人の上に人を作らず……等と昔の人間は言ったらしいがそんなものはこの学校にはない。この学校にあるのは1科生と2科生と言う名で作られた身分制度……【
だが元々この制服だって花弁がないのは受注業者のミスだったのだがそれが今や階級制度のようになっている。人は自分より下の者を見ていないと不安になるのだろう。
まあ大翔は全く気にしていないので無視して講堂を探す。
だがここは広い。さすがそこは国立なのだがこう言うときは面倒臭い。時間もないと言うのに……
(ん?)
すると視線の先にチョコチョコ歩く人は見えた。いや、冗談ではなく本当に歩幅が小さくチョコチョコと言う感じなのだ。近づいてみるとかなり小さいのが分かる。制服をみる限り女子……もしかしたら講堂の場所を知ってるのではないだろうか……いざ何か言われてもこれだけ小さい女子からならばそそくさと退散すれば良いし……ええいままよ!
「すいません」
「えひゃい!」
大翔は声をかけるとその少女は変な声を出しながら振り替える。
ヤバイ……めっさビビられてる。
「ななななななんですか!?」
アワワワと顔を青くさせて、プルプルと体を震わせるミニ少女……栗色のボブカットのカールした髪と顔立ちは童顔だがかなり整っている。如何せん年下に見えるが……同級生か?
「講堂ってどこだ?」
ちょっと弄りたくなる雰囲気の少女だったが時間がない。さっさと用件を済まそう。
「あ、あそこの建物ですけど……もしかして新入生ですか?」
「あ、ああ……お前もだろ?」
大翔が聞くとその少女はがーん!っと言う顔になった。
「わ、私は二年生です!」
「ええ!?」
大翔はひっくり返るかと思うようなショックを受けた。嘘でしょ!
「そ、それはすいませんでした……」
一応先輩と分かれば敬語で話すのが礼儀だ。今更遅い上に大分失礼を働いたような気がするが……
「いえ、もう慣れてますから……」
少女は顔を下に向け……固まった。
「あ、あの……」
「はい?」
まさか花弁の有無か?見てみれば少女は
「そ、そのCAD……!」
少女は大翔の腰に付けられたリボルバー型のCADを指差す。
「アルフレッド・パンサーのブラック……通称・クロヒョウではないですか!?」
興奮気味に聞いてきた。
アルフレッド・パンサーとは数あるCAD技師の中でも非常に人気がある人物で、かのトーラス・シルバーにも勝るとも劣らない技術力を持つが作成数が異常に少ないため一個一個がプレミアものである。
特徴は演算が他のCADに比べ突出して速いが使う際にサイオン(魔法師が持つ魔法を使うためのエネルギーみたいなものだ)をバカみたいに使う上に癖が強く慣れれば良いが使いこなせないと逆に魔法師の実力を落とさせると言う玄人向けの仕様となっており、多くの人間がまるで自分を使う人を選定してると言わしめさせ、実はこのCADは生きていて認めさせねば使えないのではないかと言われるほどだ。
だが結構頑丈で使いこなせれば魔法師の実力が低かったとしてもこのCADが補助してお釣りが来ると言う非常に高性能なCADである。
「しかもロングバレル……どうやって手に入れたんですか!?」
「ちょっとコネがありましてね」
う、羨ましい……と言う目でみてくる。
「持ってみますか?」
「え?良いんですか!?」
「構いませんよ」
大翔はCADをだすと少女に持たせる。
「す、凄いです!このフォルム……武骨でありながら実戦での使用を前提としているため頑丈でしかも持っていて疲れにくいように細工が施されてる……」
「まあ俺はトーラス・シルバーも好きなんですけどね」
そう大翔がいった瞬間少女の目が光った。
「わ、私もです!スッゴク尊敬してます」
「いやぁ~あのループキャストシステムに留まらず今までの概念に囚われない様々なシステムや構造を作り出すのは凄いですよね」
「はい!ユーザーのことを考え常に新しいものの先を行き続けるシルバー様には一度会ってみたいんですけど顔を知らないし……」
「確かに素性などが一切出てませんからね」
「でもでも何時か会ってみたいですね!?」
「当たり前じゃないですか!」
二人は興奮しながら会話する。
「まさか新入生の男の子にここまで話が分かる人が居たとは……」
「俺も先輩とはいえ話が通じたのには驚きですよ。色んな奴と会ってきましたが俺の話が分かる人がいなくて……」
話しても「そ、そうなんだ……」と微妙な顔で返されたのは一度や二度ではない。
「同感です」
少女も何度か同じ目に会ったらしい。
「あ、まだ名乗ってませんでしたね。私は中条 あずさです」
「草繋 大翔です。中条先輩」
するとあずさと名乗った少女は嬉しそうに頬を緩めた。
「先輩……良い響きです。しかも中条と呼ばれました」
「は?」
「だって【あーちゃん】って呼ばれて……」
「あー」
確かにあずさの容姿を上手く捉えたあだ名だ。
「何で納得するんですか!?」
「いや、すごくお似合いですよ?俺もあーちゃん先輩って呼ぶようにします」
「ええ!?」
すると講堂の方から突然拍手喝采の音が聞こえてきた……
『あれ?』
大翔とあずさの額から嫌な汗が流れた。大翔は時計を見る……
「もう始業式終わってる……?」
「た、多分……」
因みにこの始業式の後に講堂で在学を証明するカードを貰うのだが……
「こ、こっそり入りましょうか」
「そ、そうですね」
その後人混みに紛れながらコソコソ講堂に入っていく新入生と高校生に見えない二年生が居たのは余談である……