ジョン・メイトリックスは元コマンドーである   作:乾操

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こんなにひでぇサブタイトルはさすがの俺も始めてだ

事前に断わっておきますが、東郷さんと友奈の間に繰り広げられる熱いドラマ(アニメ二話に相当)はすんげぇカットされています。詳しい内容が知りたい方はディレクターズカット版(アニメDVD)をご覧ください。


3・颯爽たる煮干し

 いきなり報告になるけど、東郷先輩もこの度めでたく『勇者(コマンドー)』になった。遠距離攻撃を得意とするスナイパーだ。銃を使うと言う点では大佐とキャラが被っている気もしたけど、別にそんなことは無かった。プリンとゼリーの違いみたいなものだ。

 で、なんであんなに嫌がっていた東郷先輩が仕事人へと変貌を遂げたかというと……正直、私にもわからない。

 

 

 前回の戦闘ですっかり怯えてしまっていた東郷先輩(奴らしくもねぇです)だけど、翌日の部活中、案の定というか、事実を内緒にしていたお姉ちゃんと大佐に対して、

「最初からそれが目的か……ハメやがったな!? このクソッタレィ! 嘘つきめ! ボランティアだの()()()だの、あれは私達を引っ張り出すための口実か!?」

と怒った。激オコである。そして部室から出ていってしまった。

 当然のことながら友奈さんがこれを追う。二人が部室を去って、私とお姉ちゃん、そして大佐だけが残された。そんな折に突如バーテックスが出現、戦闘になり、気が付くと東郷先輩が遠距離から私達を援護していた。

 

 きっと私達の知らない内に東郷先輩と友奈さんの間で何らかのドラマが展開されたのだろう。

 

友奈さん「東郷さんどうしたの!?」

東郷先輩「友奈ちゃん、私は恐い……」

友奈さん「よしてくれぇ、恐れを知らぬ戦士だろうが!」

 

みたいな。

 そして恐れを克服した東郷先輩は勇者(コマンドー)になった。精霊を三体従える凄腕スナイパーだ。

 こうして五人全員が勇者(コマンドー)(大佐は微妙に違うけど)となり、勇者部はその名前の通りの部活動となった。

「いつでも来いバーテックス! 讃州中学勇者部が相手だ!」

 お姉ちゃんなんかはこう叫んで、みんなで盛り上がっていた。

 

 でも、その後しばらくバーテックスが来ることはなかった。

 

 

「いやー久々だねぇ」

 お姉ちゃんは遠くに臨むバーテックスを見ながらしみじみと言った。前回の戦闘からちょうど一か月。私達は久々の戦いに緊張していた。今回の敵で五体目。お姉ちゃん曰く、十二体倒せばお役目終了らしいから、もうすぐ半分ということだね。

「一カ月ぶりだからちゃんと戦えるかなぁ」

「友奈さん大丈夫ですよ、ほら、マニュアルを確認すれば……」

 私と友奈さんはアプリのマニュアルで戦い方の復習をしようとした。諺にもある。『説明書を読めばロケットランチャーを逆に構えることもない』と。

「ふむふむ」

「なるほど」

「……だー! 煩わしい!」

 お姉ちゃんは両腕を上げ、叫んだ。

「戦いなんて、その、バァーッと、その場の乗りでやればいいのよ!」

 お姉ちゃんは言う。それに答えるように、大佐も両腕の銃(EM銃のプロトタイプ)をガチャリと鳴らした。

 とは言え、大佐は割と、というかかなり頭脳プレイを行う。周到な準備をしておき、マッスルパワーを最大限に引き出す。その辺は、勢いで器用にやってのけるお姉ちゃんと微妙に違うところ。

「勇者部ファイトー」

「おー!」

 戦いを前に、私達は気合を入れた。が、それと同時。

「……は?」

 バーテックスが爆発した。

 私達はあまりにも突然な出来事に変な声を出してしまった。バーテックスは巨体を震わせて悲鳴を上げるように身体を軋ませている。

「なになに? ジョンの素敵クレイモアが爆発したの?」

「今日はクレイモア持ってないぞ?」

「あらそう、じゃ東郷?」

「私じゃないです」

 あれ~、と首を傾げながら私達は目を凝らした。

「……あっ!?」

 私たちの目に飛び込んできたのは、真紅の衣装に身を包み、ものすごいスピードで飛び回るもう一人の勇者(コマンドー)の姿だった。

 その勇者は細身の刀を二本装備していて、それをバーテックスに投擲して突き刺したり、切りつけたりして着実にダメージを与えていた。刀を投擲した後も、まるで手品のように新しい刀を取り出している。

「すごいわね」

 東郷先輩がスコープで追いかけながら言った。

 その勇者の動きは私たち以上に戦い慣れしている様子で、自由自在に飛び回る様はうっとりするほど華麗だった。

 しばらくすると、その勇者は封印の儀の態勢に入った。

「ひ、一人で封印する気!?」

 お姉ちゃんの驚愕の声を他所に、バーテックスはベロリと御魂を露出させた。儀は確実に進行している。そしてその勇者は二刀で瞬きする間に御魂を両断した。

 哀れバーテックスは砂となっていく。

「すごい……」

 私もあんな戦いをして、少しでもお姉ちゃんの役に立てたら……。

 そんなことを考えている内に、赤い衣装の勇者は私達の前にスタッと降り立った。

 その人は、背はそんなに高くないし顔立ちも幼っぽく見えるけど、それを補うほど鋭く、自信に満ちた目を持っていた。

「あなたが犬吠埼風ね」

「そ、そうよ」

 赤い勇者は返事を受けると私達をサッと見回した。私達の並びに筋肉モリモリマッチョマンがいることに少し驚いたようだったけど、すぐに驚きを顔から消して、フッと鼻で笑ってこう言った。

「こんなトーシローばっかりよく集めたもんね。全くお笑いだわ」

 

 

 彼女は三好夏凜(みよし かりん)といった。大赦から派遣されてきた(本人曰く『監視役』)らしい。学年は中学二年で友奈さん、東郷先輩のクラスに転入してきた。

「私はアンタ達みたいなカカシと違って正式な訓練を受けた『正式な』勇者なのよ。まっ、大船に乗ったつもりでいなさい」

 放課後の部室で夏凜さんは高慢ちきに言った。でも、どこか憎めないというか、面白い雰囲気を纏っている。きっと、根は良い人なんだろう。

「私が来たからにはもはや完全勝利と言っても過言ではないわ! もっとも、アンタ達はお役御免だろうけど」

「ヤクでもやってんだろこの馬鹿女」

「そこの筋肉、聞こえてるわよ!」

「夏凜ちゃんかぁ。これからよろしくね」

 友奈さんは相変わらずの社交性で夏凜さんに挨拶した。夏凜さんは友奈さんみたいな人柄と関わったことがないのか、急に顔を赤らめて、

「い、いきなり下の名前で呼ばないでよ、馴れ馴れしいわね!」

「え~、じゃあ何て呼べばいいの? 馬鹿女?」

「馬鹿はアンタでしょ! そもそも馴れ馴れしいってレベルじゃないわよそれ!」

 夏凜さんは深く溜息をついた。

「呆れた、そんな調子だからトーシローなのよ。いい、勇者の仕事っていうのはおままごとじゃないのよ……ってうわぁぁぁ!」

 説教を始めた夏凜さんだったが、突然悲鳴を上げた。夏凜さんの精霊が友奈さんの精霊に捕食されたのだ。ちなみに友奈さんは『牛鬼』という名前の割に超絶愛らしい精霊を持つ。この精霊は『牛のくせに好物がビーフジャーキー』というロックなキャラクター性を持っている。

「この腐れ畜生プレデター! うちの義輝に何すんのよ!」

『ゲドーメ!』

 夏凜さんの精霊『義輝』は鎧武者のマスコットといった体で、言葉を話す。とはいえ、語彙数に関してはイクラちゃんと同程度なようだ。(それにしても『腐れ畜生プレデター』とは、中々オリジナリティあふれる暴言だよね)

「外道じゃないよ牛鬼だよ。ちょっと食いしん坊なんだー」

 友奈さんはそう言ってビーフジャーキーを牛鬼に与えた。美味しそうに食べている。

「せせ精霊のしつけも碌に出来ないなんて! ただのカカシですな」

「牛鬼ったらみんなの精霊も齧っちゃうから、みんな精霊を外に出せないんだ~」

「なによそれ、そいつしまっておきなさいよ」

「勝手に出てきちゃうんだよ」

「壊れてんじゃないの!?」

 まだ夏凜さんと知り合って僅かしかたってないけど、一つ分かったことがある。

 この人面白い。

「まま、そんなことよりさぁ」

 友奈さんと夏凛さんの間にお姉ちゃんが入った。

「この後みんなでうどん食べに行くんだけどさぁ、夏凜も来るよね?」

「う、うどん?」

「そそ。私達勇者部は新入りをうどんで歓迎するんだよ」

 お姉ちゃんは何か口実を作ってはみんなでうどんを食べたがる。大人がお酒でコミュニケートするように、お姉ちゃんはうどんでコミュニケートする。

 でも、夏凜さんはお姉ちゃんの誘いを「お断りだわ」と一蹴した。

「なんで、うどん美味しいよ?」

 友奈さんが不思議そうに訊いた。

「興味ない。それに、私は別に勇者部に入ったわけじゃないわ」

 ツン、と夏凜さんはそっぽを向き、ササッと荷物をまとめていしまった。そして、

「私帰る」

と言って帰ってしまった。

「……行っちゃった」

「あーあ、夏凜ちゃんとうどん食べたかったなぁ」

 あの人、人付き合いが下手そうだ。絶対悪い人じゃないと思うんだけどなぁ。

「あれ、メイトリックス大佐、どうしたんですか」

 ふと大佐の方を見ると、何やら考え中のようだった。顎に手を当て、ウームと唸っている。

「た、大佐?」

 声を掛けると同時、大佐は何かひらめいた様子でポンッと手を打った。

「良い考えがある」

 

 

 三好夏凜は海辺で剣技の練習を終えると大赦が用意したマンションの一室に帰って来た。殺風景で、無駄なものが一切ない部屋である。備え付け品以外であるのはテレビとテーブル、そしてルームランナーのみ。段ボールに入ったままの小物にも無駄なものは一切ない。

 彼女は冷蔵庫からミネラルウオーターを取り出すと一口飲んだ。

「まったく、緊張感のない奴らなんだから」

 やはり、急ごしらえの勇者なんかに任せておいちゃダメなのだ。神樹様も、なんであんな奴らを選んだのか……理解に苦しむ。

 夏凜は一つ背伸びをして、この後のスケジュールを考えた。まず、ルームランナーでひとしきり走って、晩御飯、お風呂、宿題を済ませて、軽いストレッチをした後就寝……。

 ふと、普通の女の子なら、家でどんな事をして過ごすのだろうと考えた。が、すぐに振り払った。今は非常時なんだ。私は、家で安穏としているような人間とは違う。神樹様に選ばれた勇者(コマンドー)なんだ。

 そう思いながら、彼女は運動着に着替えようとした。と、その時。 

「……ん?」

 外から何やら音がする。トラック……とはまた違う、もっとごつごつした音だ。

 彼女はベランダから外を見た。どうやら、ゴミ収集車が来たらしい。

「こんな時間に回収するんだ」

 普通は朝か夜中にするものだと思っていたが……このあたりは夕方にも収集するらしい。彼女はキッチンをちらりと見た。そこには、ゴミ袋に入れられた梱包材やらが置いてある。引っ越しの際に出たゴミだ。さっさと捨てたいと思っていたのだ。

「……持ってくか」

 彼女はゴミ袋を手にすると部屋を飛びだし、階段を半ば飛び降りるような形で下って行った。早くしないと、収集車が行ってしまう。

 一階に降りると、まだ収集車の姿はあった。夏凜は胸を撫で下ろす。

「おーい! 待って! ちょっと! 待ってくれ」

 彼女は淡いグリーンで統一された帽子にツナギという出で立ちの作業員に呼びかけた。作業員は二人いて、二人とも声に気付き振り向いてくれた。

「はぁ、はぁ、行ったかと思ったよ」

 夏凜がホッとした調子で言う。すると、作業員二人は帽子を脱いで言った。

「とんでもねぇ」

「待ってたんだ」

「げぇっ、犬吠埼姉妹!?」

 なんと、作業員の正体は風と樹だった。二人は懐からサブマシンガンを取り出すと夏凜に向けて発射した。

「うぉわぁぁぁ」

 哀れ夏凜は蜂の巣にされてぶっ倒れた。止めとばかりに二人はトリガーを引く。弾を受けた夏凜の身体は数度痙攣して、動かなくなった。

「麻酔弾だよ」

 すっかり眠りに落ちた夏凜に風がそっと語り掛ける。

「樹、足持って」

「はーい」

 犬吠埼姉妹はぐっすり眠る夏凜を持ち上げるとエッサホイサ運んで後部座席に放り込んだ。この収集車は室内を大きめに作られていて、巨漢一人に女子中学生五人が乗るには十分なスペースがあった。運転席にメイトリックス、助手席と後部座席にそれぞれ東郷と友奈が座っていた。

 全員がのりこむと、ゴミ収集車はゴミを回収することなく夕日に照らされて走りだした。

 

 

 

 

「はっ!?」

 夏凜さんが目を覚ました。ひどく混乱しているようで、恐怖とも驚きともつかない表情で私達の顔を順繰り順繰り見ている。

「こ、ここは……」

「かめや。うどん屋さんだよ」

 友奈さんがにこやかに言う。夏凜さんはガバと起き上って辺りを見渡した。壁に貼られたメニューやうどんをおいしそうに啜る他のお客さんを見ているようだ。

「確かに、うどん屋ね……」

「そうに決まってんじゃん。さ、注文しようか。すみませーん、肉ぶっかけうどん六つ! 一つはプロテイン入りで」

「待て」

 当然のように注文を始めるお姉ちゃんに夏凜さんが待ったをかけた。

「あっ、肉ぶっかけうどん嫌だった?」

「そうじゃない」

 夏凜さんは自分を落ち着かせるように深呼吸してから話し始めた。

「あの収集車は?」

「クリーンセンターから『借りてきた』」

「あの銃は?」

「麻酔銃」

「何で私をさらったの?」

「うどんを食べさせるために決まってるでしょ」

 お姉ちゃんが答えるとちょうどそこへ肉ぶっかけうどんが運ばれてきた。肉ぶっかけうどんはここの看板商品。激ウマだでぇ!

 私達は箸を手に取り、頂きますの合唱をしてからうどんを啜り始めた。

「あっ、うどんを食べたらこの入部届けにサインしてね」

 友奈さんは言う。

 夏凜さんはテーブルを叩いて立ち上がった。

「アンタ達いったい何なのよ! 車は盗む! 銃は乱射する! 私はさらう! うどんでも食えと突然めちゃくちゃは言い出す! 挙句は勇者部に入れと言い出す! アンタ達何者なの!?」

「何者って、勇者部よ、ねえ友奈ちゃん」

「そうだよ。我ら讃州中学勇者部」

「もうやだ!」

 夏凜さんの悲鳴が店内に響いた。

 

 

 

 

 なお、このあと夏凜さんはうどんを食べていたく気に入った様子だった。そしてお姉ちゃんたちに何か良い感じに話をまとめられて、そんまま勇者部入部届けに照れながらもサインした。

 この人と出会って少ししか経ってないけど、もう一つ分かったことがある。

 この人はちょろい。    

 

 

 

 




『水曜ど〇でしょう』だってこんなひどい拉致はしない。

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