これがTHE・家庭派! 犬吠埼風の真・髄だ!
車に轢かれても、飛行機から落ちても、ビクともしねェ! 鉄骨勇者はタフネス設計!
愛する妹を救うため、一人、敵のアジトに殴り込む!
その強さは、もう! どうにも止まらない! 全員まとめてぇ、かかってこんかぁ~い!
これぞ豪快! スーパーバトルアクション!
『結城友奈は勇者である』、●月●日放送!
戦うお姉ちゃんは、カッコイイ!!
※本編とは無関係です。
大赦本部の中は意外と複雑な作りになっていた。大きな一本道を辿れば神樹様にたどり着けるかと思っていたけど、世の中そんなに甘くないようだった。
でも、そんな時にも頼りになるのが私と一緒にいる筋肉さんだ。
「誰かいるだろ。そいつに道を訊けばいい」
『あんな大騒ぎして、普通に人がいるんですかねぇ』
普通は一般職員は避難か何かしているはずだ。時間的にも家に帰っている人もいるだろうし。
そんなことを話していると、向うで電話している人の姿が目に入った。
「わ・た・し! シンディよ。今度のお遍路がキャンセルになっちゃって。それで…食事でもどう?」
こんな時にデートの約束とは、中々どうして度胸のある人だ。いや、単にアラートに気付いていなかっただけか。
大佐は私に角で待っているように言うと、そのシンディなる色黒な女性の背後に音を立てることなく近づく。一見すると筋肉オバケが女性を襲おうとしているようにしか見えない。まぁ事実なんだけど。
「……オッケー……。えぇ、私も大好き。それじゃね、また近いうち。バァイ」
断られちゃったみたい。
シンディさんは携帯電話を切るとハァと溜息を吐いた。恋愛と仕事の両立はキツイよねぇ。私はそういう経験無いけど。
そんなシンディさんを、大佐は後ろから捕まえて口を塞いだ。
「!?」
「動くな! ……何もしない。樹もこっちへ」
私は大佐に言われるままにシンディさんの前に出ていった。私と大佐の顔を交互に見比べながら戸惑っている。大佐はゆっくりと口から手をどかした。
「ぷはぁ。アンタ達いったい何なのよ!?」
「讃州中三年のジョン・メイトリックスだ」
「三年生……えっ?」
『同じく一年の犬吠埼樹です』
シンディさんは私の名前を見ると少し考えてから、思い出したように手を叩いた。
「犬吠埼さんって、あの勇者の?」
『ハイです』
答えると、シンディさんは申し訳なさげな顔つきになった。きっと、満開の事を思っての事だろう。でも、大赦の人たちなりに考えてのことだったのは知ってるし、今更言ったところで後遺症がどうにかなる話でもない。
「それよりもだ」
大佐が口を開く。
「俺達を神樹まで案内してほしい。後遺症のことで交渉したいんだ」
シンディさんは大佐の言葉に驚きを隠せないといった顔をした。
「無理よ!」
「頼む、助けてくれ!」
「七時半にカラテの稽古があるの付き合えないわ」
今日は休め。
結局シンディさんは大佐の
「言っておくけど、私にそういう権限はないわよ?」
「案内するだけで良い」
「……あらそう?」
大佐の言葉に意味が解らなさげに頷く。ちなみに私は大佐が何を考えてるか分かっちゃってたりする。
しばらくして、重厚そうな扉の前にたどり着いた。木造の三メートル程度の大きさの観音開きで、表面には金箔や瑠璃で美しい装飾が施されている。扉の横には電子錠らしきものがあり、ここに証明書なりを入れると会場される仕組みなのだろう。
「この先に神樹様がいらっしゃるわ。入るには、まずあそこの滝で禊をして……」
説明するシンディさんを無視すると、大佐は扉に触れて、数度手の甲で叩いた。そして、数歩離れるとグレネ-ドランチャーに弾を入れてまっすぐ扉に構えた。
「伏せてろ」
「何するつもり!?」
私は慌ててシンディさんに飛びついて床に伏せた。同時に大佐が引き金を引き、ポンッという音と共に発射された弾頭は扉に着弾すると同時に大爆発。重厚な木製の扉は木くず同然と化した。威力がどう考えてもおかしいけど、私は素人だからわからない。こういうもんなんだろう。
「これで開いた。シンディは?」
『びっくりして気絶しちゃいました』
シンディさんは爆発の音と神樹様を奉る空間の扉をあろうことか爆破するという不敬なんてレベルじゃない事態に衝撃を受けるあまり倒れてしまった。うわ言のように、
「今日は厄日だわ!」
と呟いている。
大佐はランチャーに弾を装填して構え直した。そして、私の方を見て、
「ここは一つ、景気づけに占っておくか」
私は常にタロットカードを携帯している。女子の嗜みとして当然だ。取り出して、シャコシャコシャッフルして一枚引いた。
『「塔」の正位置です』
「意味は?」
『悲劇的な結末』
「占いと銃を選べと言われたら、俺は銃を選ぶ」
じゃあ最初から占わせるなマヌケェ……。
私と大佐はとりあえずシンディさんを安全な場所に移してから神樹様の聳える場所へと足を踏み入れた。
「邪魔するよ」
足を踏み入れた瞬間、ぶわっと全身を包み込む気のようなものが感じられた。
その空間は円形の吹き抜けになっていて、天井は無く、床の類もない。黒い湿った土の上に柔らかなコケがむしている。その空間の真ん中に、一本のどっしりした木があった。
「これが『神樹』か」
「そうだよ~」
のんびりとしたその声は、神樹様の影から聞こえてきた。大佐はその声の主を知っているらしく、警戒することなくドシドシ言いながら神樹様の影に回った。私もそれについて行く。
木の影にいたのは、全身を包帯でぐるぐる巻きにしてベッドの上に横たわる女の子の姿だった。
「園子! コノヤロウ生きてやがったか!」
大佐の『コノヤロウ~』はもはや挨拶である。
園子、というのは乃木園子さんの事らしい。先代の勇者で、数多くの満開と引き換えに身動きが取れないほどに後遺症を得てしまったという。友奈さんに教えてもらった。
「大佐も元気そうだね~。えっと、そこの子は、樹ちゃんだね~?」
はいと頷いて返事する。
「はじめまして~」
『初めましてです』
「びっくりしたでしょ、神樹って、意外と小さいんだよね~」
確かに、樹海化した時は神樹様はとんでもなく大きく見えるのに、実際見てみるとそれほど大きな木ではない。四国の山にはもっと大きな木なんていくらでもあるだろう。木材屋に売ったらそこそこの値が付きそうではある。
この何の変哲もない木に、途方もないエネルギーが詰まっているなんて。
「私がここにいるのは、二人の『交渉』を手伝うためなんだ~」
「どこでそんな情報を仕入れた」
「コネと金を使って」
「資本主義者め」
園子さんが言うには、
巫女の能力があれば、神樹様の『お告げ』を聞くことが出来る。
でも、お告げというのはあくまで神樹様からの神『託』なわけで、情報は一方通行となる。交渉は出来ない。
「そこで、私の出番なんだよ~」
曰く、園子さんは神樹様に身体を貢ぎ過ぎてある種神様に近い存在となっている、らしい。そんな園子さんが媒体となることで、巫女としての能力をより高めることが出来る、らしい。
「便利なもんだな」
「でしょ~。さ、始めるなら、私の手を握ってね」
園子さんが両手先の指を微かにぴくぴくと動かした。ここを掴めという意味だ。
『ちょっと怖いですね』
「何言ってんだ樹。早く掴め。ターボタイムだ」
『大佐ってば躊躇しませんねぇ』
でも、それだけ私たちの事を思ってくれているという証拠なんだろう。
「さ~、樹ちゃん右手、掴んじゃって~」
私は覚悟を決めると園子さんの右手をそっと掴んだ。
その手は、酷く冷たかった。その冷たさが、全身に伝播していき、意識が、遠のいて行く。
※
目が覚めると、私は見知らぬ場所にいた。
「ここは……」
見たところ、製鉄所のようだ。重厚な機械音が響き、下では溶けた鉄的なものが赤々と流れている。熱気が私のいるラッタルの網目越しに伝わって来る。
「なんで……って、え?」
あれ、声が出てる。喉に手を当てて声を出してみると、きちんと声帯が震えていた。一体、なぜ……。
いや、そんなことより大佐だ。あの筋肉番長が近くにいるといないとでは安心感が天と地ほどの差がある。どこにいるんだろう。
「交渉しようというのは、君かな?」
戸惑っていると、突然背後から声を掛けられた。びっくりして振り向くと、そこにはウネウネと蠢く液体金属的な何かがいた。何だあれ。キモイ。
「神と交渉とは、何とも大それたことだと」
「もしかして、神樹様ですか?」
「まぁ、そうと言えばそうだ」
うわ、私『キモイ』なんて考えちゃった。
でも、神樹様には私の心を見透かす力はないらしく——というより、気付いていても気にしないのかな——特に何も言ってこなかった。
ウネウネの神樹様は徐々に人の形に近づきながら話を続けた。
「神樹はありとあらゆる国津神の集合体だ。私は、
すごく悪そうな名前だ。具体的に言えば、いたいけな女の子に自分の子を産ませて世界を滅ぼそうとしてそうな名前。
ていうか、この状況だと私が神樹様と交渉せざるを得ない感じなのかな。言いだしっぺは大佐なのに。
「あの……神樹様、お願いがあります。私達のものを、返してほしいんです」
「ふむ」
液体金属の神様は言いながら身体のディテールを加えていく。どうやら女の子に変身しつつあるようだった。あれは……神樹館あたりの制服でしょうか?
「『満開』は、神樹の神通力を得て発揮される能力だ。それへの代償に供物が捧げられるのは、古来からのしきたりと言うものだ」
女の子になった神樹様はゆっくりとした足取りで私の周りを歩いた。神樹館の高学年くらいの女の子だ。ちょっとボーイッシュな……。不思議と、始めて見たようには思えない。
「だが、私とて悪魔ではない。君たちの活躍で我々も護られた。その礼のような事は出来る」
「お礼?」
「幸せを戻してやろう」
そう言った瞬間、辺りの風景が暑苦しい製鉄所から徐々に見知った風景に変化していった。この風景は……。
「私の……家……?」
「それほど広くはないが、幸せの詰まった家だなぁ」
女の子の姿の神樹様は壁によりかかって腕を組んでいた。そして指を一つ鳴らす。
すると、部屋にあるテーブルの席に、人影が浮かび上がってきた。その影は、三つあって……。
「ああ……」
お姉ちゃんと……お母さんに、お父さんが……。
「樹、何してるんだ。ご飯なんだから席に着きなさい」
「そうよ、ご飯が冷めちゃうわ」
「ほら樹、今日は樹の好きなもんばっかりよー」
呆然と立ち尽くしている私の肩を、神樹様は掴んだ。
「戻る筈のないと思っていた風景だ。幸せだろう?」
「これは夢でしょ……」
「夢でも変わらん。胡蝶の夢ともいうだろう。夢もまた、現実の一つの形だ。さぁ、席に着きたまえよ」
ゆっくりと、私の席に向かう。服も、いつの間にか部屋着に代わっていた。
お母さんもお父さんも、二年前にバーテックスの攻撃で発生した災害で死んでしまった。恋しいと思いはしたけど、お姉ちゃんのおかげで寂しさは消えていた。でも、こう目の前にこんな景色が広がると、言いようのない思いがこみ上げてくる。
自分の席に腰を落ち着けた。目の前に広がる料理と、家族の顔はとても夢だとは思えない。
「どうしたの樹?」
お母さんが心配気に言う。その声の響きの、なんと甘美なことか。
「え……何でもないよ」
うん、何でもない。こうやって、家族で食卓を囲む幸せがあるのだから。
例え夢でも、醒めない限り現実と同じようなもの。もう、辛い思いもしないで済む。
そう思いながら、私は窓の外に広がる無限の星空を見上げた。
~完~
「『完』と言ったな。あれは嘘だ」
「ま、ままま窓の外に!?」
筋肉がヤモリよろしく張り付いている!?
その筋肉は部屋の窓を蹴破って中に侵入してきた。そして、そのままグレネードランチャーをテーブルに向けて構えた。
「た、大佐!?」
「ぶっ飛べ!」
引き金が引かれる。発射された弾はテーブルに当たって、大爆発を起こした。食器の砕ける音と、煙が辺りに立ちこめる。私は椅子から転げ落ちた。
「げっほげっほ」
「樹、大丈夫か」
「た、大佐……」
なんてことを……家族が吹き飛んじゃったわ……。この鬼! 悪魔! 筋肉!
「しっかりしろ樹」
大佐が私の肩をブンブンと前後に揺らす。
「うう……はっ!?」
ふと気が付くと、私は製鉄所のラッタルで尻もちをついていた。家や家族は跡形もなく消え去って、立ちこめる熱気だけが肌をじっとりと撫でる。私は大佐の手を借りて何とか立ち上がった。
そんな私たちを見て、神樹様が、
「やれやれ、私を怒らせるな。私を怒らせると怖いぞ? 本当だ」
「何が怒らせると怖いだ」
大佐はランチャーに弾を込めた。なんか怒ってるっぽい。もしかして、神樹様にぶっ放したりする感じかな?
「いっちょまえに神を気取っても無駄だ。俺に言わせりゃ聖歌隊のガキ以下だ!」
「ふむ、マジで怒ってるな?」
神樹様はおどけたように肩を竦めた。
大佐は私に後ろに隠れているように言うと、武器を構えた。
「まぁ落ち着け。銃を突き付けられちゃビビッて話もできねぇ」
「交渉したい」
どう見ても交渉のスタイルではない。脅迫のスタイルだ。
「要件は二つ。一つ、
大佐が言うと神樹様は驚いたような表情を見せた後、顔に笑みを浮かべた。
「なるほど。しかし、交渉と言うからには交換条件があるのだろう?」
「散々護ってもらっといて、まだ要求するか」
「神樹が護られるということは彼女たちの生活を護ることにもなる。あの関係は等価なものだった。だが、今回はそうはいかない」
私は唾をゴクリと飲みこんだ。要するに、神樹様は私達の身体に見合うものを捧げろと言っているのだ。そんなもの、私達は持ち合わせていないし、何ならいいのか見当もつかない。
でも、その神樹様の要求に、大佐はすぐさま答えた。
「俺自身を捧げよう」
「た、大佐!?」
色々な意味で衝撃的なその回答に、私は思わ言葉を失った。
「純粋な心と、健康な身体だ。これを『返す』。その代り、モノを返せ」
神樹様はまるでその回答を待っていたとでも言いたげに笑みを浮かべた。いったいどういうことだ。生贄は、無垢な少女が相場じゃないのか。無垢なら筋肉まみれでもいいのか。
「……いいだろう。交渉成立だ」
神樹様はふわりと跳び上がって、溶鉱炉の上にチョンと立った。そして、ゆっくりと沈んでいった。どうやらあそこが神の世界との境界線らしい。大佐も、あの溶鉱炉に沈むのだろうか。
「そういうわけだ。達者でな」
「ま、待ってください!」
溶鉱炉に身を投じようとする大佐を、私は引き止めた。
「私達と引き換えって……おかしいですよ!」
「神樹が求めているのは生贄だ。そして、俺が要求したのはお前たちの身体機能や記憶……利害が一致したまでだ」
大佐は溶鉱炉に飛び込むためか準備運動を始めた。
「身体が元に戻れば、勇者部も活動を再開できるようになる」
確かにそうだ。放課後と昼休み、あの部室に集まって子猫の里親や、他の部活の助っ人に駆け回るというようなことだって出来るようになる。
でも。
「私と、お姉ちゃんと、友奈さん、東郷先輩、夏凜さん、そして大佐がいての勇者部じゃないですか!」
こんな筋肉星人でも、勇者部の一員で、私の先輩で、大切な仲間なんだ。その現実がどれだけシュールでも、この人は、勇者部にはかかせない人なんだ……。
あぁ、何か知らないけど涙が出てきた。
そんな私に大佐は語り掛ける。
「俺は勇者部に入る前、自分が何者かなのさえ分からなかった。だが、お前たちは俺に思い出させてくれた。人がなぜ笑うか、人がなぜ怒るか、そして——」
大佐は私の涙をそっと拭ってくれた。
「——人がなぜ泣くか。だから俺は、そんなお前たちに礼がしたい」
そう言うと大佐は背を向けた。見慣れていたはずの背中が、いつも以上に大きく見えた。そうか、これが、真の
「樹、皆によろしく伝えといてくれ。それと」
背中を向けたまま続ける。
「園子に、ありがとうと言っておいてくれ」
「わかりました」
私は鼻を啜って涙を拭いて答えた。
大佐は背中越しに手を振ると、手にしていたグレネードランチャーを肩にかけ、近くにあったクレーンに掴まった。クレーンはモーター音を立てながら、ゆっくりと大佐を溶鉱炉へと降下させていく。大佐の身体が徐々に赤々とたぎる溶鉱炉へと吸いこまれていった。
「また会おうメイトリックス」
私はそう呼びかけた。
大佐は何も答えない。
ただ、身体全体が沈みきる瞬間、腕を天に伸ばして、親指を立てていた。いったい、これが何を意味するのかは、私には分からない——。
「——! ——! 犬吠埼さん!」
「……あ……」
目が覚めると、私は神樹様のすぐ横にいた。私の側には心配げなシンディさんがいた。
「大丈夫? 死んでんじゃない?」
生きてるよ。
ゆっくりと身体を起こす。
空を見上げると、もう青空が広がっていて、当の昔に夜が明けたことを私に伝えていた。辺りをキョロキョロ見回して、シンディさんに訊ねる。
「あの、大佐は……ジョン・メイトリックスは……」
「犬吠埼さん、声が……!?」
「はい……で、ジョン・メイトリックスはどこへ?」
シンディさんが言うには、目が覚めて駆け付けた時、ここにいたのは私と傍で寝ている園子さんだけだったらしい、なるほど、脇を見るとベッドの上で気持ちよさげに眠る園子さんの姿がある。
「そう……ですか……」
やはり大佐は、自分を生贄に捧げたんだ。
「むにゃむにゃ……樹ちゃんおはよ~」
そんな時、園子さんが目を覚ました。
「あっ、園子さん」
「あれ~、樹ちゃん、声が出てる~」
そう言いながら園子さん自身も自らの身体に起きた変化を感じていたらしく、すこしびっくりしたような表情を見せた。
「身体が……」
「あ、そういえば園子さん、大佐が、園子さんに伝えておいてほしいことがあるって……」
「?」
「『ありがとう』って、言ってました」
それを聞いた途端、園子さんはまた少し驚いたような顔をして、しばらくの沈黙の後「そう……」と答えて微笑んだ。私には何もわからないけど、園子さには分かる何かがあるんだろう。
※
「みなさーん! こーんにーちはー!」
文化祭の日、私はステージの上でここぞとばかりに大声で叫んでいた。私の声に呼応して、観客席からもこーんにーちはー、と返事がかえって来る。
「あれぇ~!? 聞こえないぞ~!? もう一回! こーんにーちはー!!」
「こーんにーちはー!!」
「うるさいぞ! 耳があるんだ!」
そう言い捨てて
「イっつん凄い声張ってたね~」
「いやぁ」
園子さんは後遺症が落ち着いた後に讃州中に転入してきて、勇者部に入部した。今回の文化祭でやる劇、『マッスル☆ハムレット』の脚本は大佐が途中まで書いた物を園子さんが修正、完成させたものだ。初めはお姉ちゃんがやるはずだった修正作業だけど、ネット小説『愛と勇気とプロテイン』の作者が園子さんだと知るや、
「是非とも園子に脚本を完成させてもらいたいッ!」
と懇願した。お姉ちゃんはそのネット小説の大ファンだったのだ。
「じゃぁ、イっつんは引き続き音響お願いね~」
「はい!」
「よ~し、ゆーゆと風先輩は準備はいいかな~?」
園子さんが無線機に呼びかける。
「みもりんと夏凜ちゃんは?」
中割り幕の奥に控える東郷先輩と夏凜さんに訊く。
「ええ、準備完了よ」
「いつでもOKだわ」
東郷先輩は綺麗なドレス姿で、自分の脚で立っている。とてもきれいだった。メイトリックスが見たら、やつも驚くでしょう。
「よ~し、それじゃぁ、
劇に幕が上がった。
『マッスル☆ハムレット』はシェイクスピアの古典『ハムレット』をより筋肉質に、より派手にしたものだ。友奈さん演じるハムレットはすがすがしいまでに迷いが無く、立ちふさがる者すべてを「
舞台はドンパチ賑やかに進み、会場全体が興奮に包まれる中、クライマックスを迎えた。
舞台の上は照明が落され、二つのスポットライトが舞台上に立つ友奈さん演じるハムレットと夏凜さん演じるホレイショーを照らしだしていた。
「どうしても行くのかハムレット」
「ああ。奴を倒さぬ限り、世界に平和は訪れない」
なんか壮大な話になっている。ハムレットってこんな話だっけ。でも、観客席の人々は誰も気にしてないし、構わないのだろう。
「お前に何の義理がある」
「義理ではない。私は勇者だからだ」
「馬鹿な、死にに行くようなものだ」
「
この台詞が放たれた瞬間、私の横にいた園子さんと東郷先輩が嗚咽を漏らしているのに気付いた。必死に抑えている涙が、床を叩いている。
友奈さんは夏凜さんに背を向けると、しっかりとした足取りで歩きだした。このまま友奈さんが私達のいる上手までやって来たらこの劇は終わり。幕が下りる。
しかし、ここでトラブルが起きた。日ごろの疲れのせいか、友奈さんが立ちくらみを起こし、身体のバランスを崩したのだ。
「!?」
舞台上の夏凜さんがあわてて友奈さんを受け止めようとする。舞台袖にいた私たちも同様だ。
が、その時。客席の中から一人の男が素早く飛び出し、友奈さんを優しく受け止めた。設置されているスポットライトの全てが、その人物を照らしだす。
筋骨隆々たる、弾けんばかりのマッスルボディ。そのあまりに見慣れた姿に、私達は驚愕せざるを得なかった。
そんな私達に向けて、男は大胆不敵な笑みを浮かべ、言い放つ。
「
~完~
(度重なる終わる終わる詐欺ですが)今日が最後です。
最終話を読んで、読者のほとんどの方がこう思ったでしょう。
「こんなのコマンドーじゃないわ! ただのターミネーター2よ!」
やっぱりそうか俺もずっと前からそう思ってたんだ! おまけに最後はラスト・アクション・ヒーローと来たわ!
でも、これは連載前から考えてたことなんだ。ラストは筋肉ハムレットで、とにかく大佐に「I'm back」と言わせたかった。
ちなみになぜ大佐が戻ってきたかというと、まぁ話せば長くなるんですが、とりあえず溶鉱炉に沈む時一緒に武器も持って沈んでいったということだけ言っておきます。
いろいろ疑問に思うことがあったでしょうが、質問してくだされば、ただでも喜んで答えるぜ。
あと、作者自身が気づいていない問題点を指摘してくれたら、十万ドルPONとやるぜ。
とにかく、これにて完結でございまする。
番外編については未定ですが、やるとすれば『樹海の記憶』として独立させると思います。たぶん本編以上に支離滅裂筋骨隆々たる惨状になると思いますが、どうか、よろしくお願いします。
Удачи тебе
До свидания