みなとそふと版ゆゆゆのケースを開けたら入れ替え忘れていたコマンドーのDVDが出てきた衝撃よ。
金曜ロードショー、今夜は超アクション大作『結城友奈は勇者である』。
かつての凄腕
人間を引退し、仲間と過ごす平和な毎日。
そんな仲間の幸せが突然奪われた! 身体機能を生贄に、バーテックス退治を強いられたのだ!
ミノさんの怒りに火が付いたー! 敵のわずかな隙を突き、一世一代の賭けに出たマッスルミノさん!
愛する仲間の身体を救えるのは、俺しかいなぁ~~~い!
時、まさにミノさんの筋肉絶頂期! (ジョン・メイトリックス的な意味で) 相棒に、まだ初々しい十二歳の犬吠埼樹。(最近ちょっと筋肉がついてきた)
このボディから繰り出すスーパーアクションは必見!
1対1から1対1000まで、もぉ~戦いまくり!
『結城友奈は勇者である』この後すぐ!
※
「『交渉』だ」
大佐はそう言っていた。でも、いったい誰と、何を交渉するのだろう?
病院を出てしばらく走っていると、辺りはいよいよ暗くなってきた。信号で止まっている時に私は大佐に訊いてみた。
『交渉ってなんですか』
私は学校からかめやを経由して病院に行っていたから制服姿のままだ。こんな格好で徘徊しようものなら警察に捕まって臓器を売られちまう。
しかし、そんな私の心配を吹き飛ばすほど、大佐の計画は恐ろしいものだった。
「大赦に行くんだ。そして、神樹と交渉する」
ああなるほど、神樹様と。わかったわかった。
『頭大丈夫ですか?』
「ノープロブレム」
何がノープロブレムだ。
神樹様と交渉!? 気でも狂ってんじゃないの!?
そうとしか言いようがない。だって、神樹様は紛れもない神様なわけで、いくら大佐が常識外れな筋肉野郎だからと言って対等になれる相手ではない。
『ちょっと畏れ多いですよ』
「そうか?」
信号が青になる。大佐は車を発進させた。
「だが、お前だって声や右目の視力は取り戻したいだろうし、病院で寝てる連中もそれは同様だろう」
それはそうだ。どうせなら、みんなの身体を返してほしい。でも、相手はやっぱり畏れ多くも神様なわけで、どうも気が引けた。
「それに」
大佐は懐から一丁の拳銃を取り出した。
「神と拳銃どちらを選べと言われたら俺は銃を選ぶ」
大佐らしいものの考えだ。
でも、畏れ多いとかそう言うのは抜きにしても、神樹様と接触するのはほぼ不可能と言っていい。
神樹様のご神体である木は四国のほぼ中央に位置する。それのお世話をするのが新樹様を取り囲むように建っている大赦本部の施設であり、多くの神官がそこで働いている。私達のお父さんとお母さんもそこで働いていたし、夏凜さんのお兄さんは今もそこで神官を務めている。
そんな大赦本部だけど、数多くいる神官の内、神樹様に直接謁見できるのはイタコである巫女様くらいなものであり、乃木家、鷲尾家を代表とする有力家系の高級神官でさえ緊急時のみに限られている。いくら
私は首を傾げた。
それに気付いたのか、大佐は笑いながら、
「まさか、わざわざ手続きを踏んで神樹に挨拶しに行くとでも思っているのか?」
えっ、違うの?
私は数秒思考した。そして、トンデモないことを想像した。それに気付いたのか、赤信号で車が止まると大佐が応えた。
「そうだ。殴り込みだ」
第三次大戦ってそういう意味かよ!
いやいやいや、さすがに不味いでしょ。やってることがあの時の東郷先輩と変わらないじゃないか。
「だから交渉だと言ってる」
『さっき殴り込みだって言ってたじゃないですか』
第一、大赦本部ともなると警備は厳重。まるで要塞だ。そんなところに飛び込むなんだ暁には銃で撃たれて滅茶苦茶になっちゃう。
「心配するな。俺に良い考えがある」
大佐がこの台詞を言う時は必ず事は上手くいく。でも、不思議と不安しか覚えない台詞でもあった。
※
大佐が車でやって来たのは警察の管理する違法駐車車両の保管場だった。金網と有刺鉄線のフェンスに囲まれて、入り口には警備ゲートが設置されている。あたりはすっかり闇に沈み、ゲートにあるボックスだけが闇に浮かんでいた。
大佐は車を道路脇に停めて、フェンスの向こう側を指した。
「あれを見ろ」
そこにあったのは一台のブルドーザーだった。そう、以前お姉ちゃんが乗って暴走していたあのブルドーザーだ。いつの間にか無くなっていたけど、こんなところにあったんだ。
『で、あれをどうするんですか』
「借りる」
『ですよねー』
この『借りる』が何を意味するかなんて、もう言わずもがな。
私達二人は車を降りると歩いてゲートへと向かった。ボックスの中から小太りの警官が新聞を畳んで面倒くさげに出てくる。
「車の受け取りは午前十時から午後四時まで……」
しかし、大佐は聞く耳を持たない。懐から銃を素早く抜くと警官を撃ち倒した。弾はもちろん麻酔弾。もうこの光景に驚きすらしない。慣れって哀しいなぁ(適当)。
ボックスの窓を拳でかちわり、そのままボタンを勢いよく叩いた。ゆっくりとゲートが開けられていく。警官をボックスに放り込んでから、私達はこっそりと保管場へ足を踏み入れる。
「声を出すなよ……」
『元より出ませんよ』
警備はゲートにいた一人だけだったようだ。当然だ。まさかこんなところを武装した筋肉が襲うなぞ夢にも思わない。
事前に場所を確認しておいてあったこともあり、目的の物はすぐに見つけることが出来た。ところどころに錆が出ている黄色いブルドーザーは、激戦を潜り抜けてきた勇士に見えた。
大佐は運転席に乗りこむと何やら配線を弄り回してエンジンを始動させた。エンジンの唸りが夜の街に低く響く。排気の煙臭いにおいが鼻をついた。
「早く乗れ」
『本気ですか?』
「当たり前だ」
ふと気が付くと、シートの後ろにはAKライフルやらグレネードランチャーやらミニガンやら数多の武器が詰め込まれていた。ランボーみたい……ていうかどこから取り出した。服装も、ライダージャケットにサングラスというものになっている。
「樹も早く乗れ」
大佐は私を急かす。でも、このブルドーザーは単座だし、後ろには武器が収められているしで乗る場所がない。
『どうするんです? 膝の上に乗れとでも?』
私は冗談で訊いてみた。すると、大佐は何を言っているんだという顔をして、
「そうに決まっているだろう。さぁ」
と、自分の膝の上をバシバシと叩いた。
私は思わず顔を赤くした。そんな、いくら先輩とは言え男子の膝の上に乗るなんて、恥ずかしくてとてもできない。私は初心な乙女だから……もう一度言うけど初心な乙女だから。
「何をしている。早くしろ!」
『でも……』
「でもではない。イソグンダ」
……私は観念してブルドーザーのはしごを登って大佐の膝の上に腰を落ち着けた。うう、恥ずかしくてどうにかなりそう……。
かと思ったけど、実際に座ってみると何てことなかった。大佐の膝の上はどうも『先輩』というより『お父さん』のような印象だった。ロマンチックの欠片もなかった。
「よし、出発するぞ」
『はい』
私たちを乗せたブルドーザーのエンジンは大きなうなりを上げて、ゲートをくぐると闇夜を駆け抜けていった。
※
大赦本部の玄関ホールには毎日当直警備員が控えている。本部を後にする人や、何らかの用事で施設に入るには彼に声を掛けなければならない。とは言え、見回りの時以外は暇なものであるから、大抵の場合本を読んでいたりする。
今日も警備員はのんびり雑誌を読んでいた。そこへ、医療部の医師と助手が退出手続きをしに来た。
「やぁシルバーマン先生。今日は早いあがりですな」
警備員が雑誌を畳んで挨拶する。
「やぁ。明日は入院中の
医師は端末に自身の登録番号を入力し、退出手続きを済ませた。そんな彼にに、助手が話しかける。
「そう言えば、入院中の
「うむ、こうなっては仕方がないな……。明日から投薬量を250ミリグラムに増やそう」
「一回に?」
「うん」
助手も手続きを済ませる。
そんな時であった。外がにわかに騒がしくなった。
「ん?」
「何だ……?」
三人は外に目をやる。
外では何やら警備員がゲートの前でわめいていた。そんな彼の前にはみるみる大きくなるヘッドライトの明かりが見える。
「ここに入っちゃダメですよ! 待て! 止まれ!」
警備員が車両に叫んでいる。しかしその車両は止まるどころか逆に速度を増して正面ゲートを突き破った。間一髪で回避した警備員の悲鳴が響く。
「なんだあれは!? ブルドーザー!?」
「こっちに向かってる!?」
彼らは慌てて逃げようとしたが遅かった。ブルドーザーは巨大なドーザーブレードを振り上げながら大赦の本部施設に突っ込んできたのだ。三人は哀れ衝撃で吹き飛ばされ、警備員と助手はすっかり伸びてしまっていた。
うわぁ、やることが派手だねぇ。
私たちを乗せたブルドーザーはゲートを突破するとそのまま直進、大赦本部の建物に突っ込んだ。玄関はめちゃくちゃに壊れて、玄関ロビーには粉塵が漂っている。
「重機での入室を想定していない大赦が悪い」
大佐はそう言いきった。すごい、私にはこんな図太い真似到底できない。
大佐は私をブルドーザーから降ろすと武器を全て背負って飛び降りた。見るからに重そうだけど、いったいどう鍛えればこんなに平気でいられるのか。
「樹も変身しておけ」
私は大佐に言われるままに端末を起動させる。すると、存外あっさり変身出来た。大佐のことを気でも狂ったのではないかと言っていた私だけど、どうやら私自身闘志メラメラらしい。全くお笑いだ。
変身を終えて、辺りを見渡す。
玄関には人が三人いたらしい。二人は倒れていたがどうやら気絶しているだけで無事らしい。一人には意識があった。その人には、見覚えがある。以前満開した時に診察していた髪の毛前線が大きく後退している医者だ。
「腕の骨が折れた……」
医者は半泣きで呻いている。人間には215本も骨があんのよ! 一本ぐらい何よ!
そんな声を無視して玄関にいた一人一人に大佐は銃を発射していった。何度も言うようだけど、これは麻酔弾だから問題ない。
「樹どうだ、ワイヤーは使えそうか」
空になった弾倉を入れ替えながら、大佐がきいてきた。
言われて試しに軽く出してみると、ワイヤーはいつも通りするすると出てきた。でも、なんだかいつもより強度が弱そうというか、ナヨナヨしている。
「神樹が樹への力の配分を弱めたからだろう。精霊の補助なしの力ということだ」
そういえば、さっきから木霊も雲外鏡も姿を現さない。精霊は神樹様の分身なわけだから、その神樹様が力を止めれば自然と姿を現さなくなって当然ということだ。つまり、今の私は精霊の補助のない、正真正銘自分の実力が反映される状態。
「変身している分常人ほどでないにしろ、死ぬ可能性もある。銃で撃たれたりしたらな」
ヤダ怖い。
以前よりはずっと良くなったけど、私は発射された弾丸を回避するほど素早くはない。どうにかしないと、リアル蜂の巣になりかねない。
「とにかく、進むぞ」
大佐は武器類を背負い直すと施設の奥へ奥へと進んでいった。私はそれを慌てて追いかける。
大赦の建物は想像よりずっと近代的な作りで、無機質な印象の内装だった。そんな大きな通路がずっと向こうまで続いていて、時折見かける伝統的な祈祷の設備や中庭にある禊用の滝なんかがなければ、ここが大赦の本部だと言っても信じてもらえないかもしれない。
「このまま奥に進んでいけば、神樹があるはずだ」
大佐がそう言った次の瞬間。
バシン、と館内の電灯が赤色灯に切り替わり、アラームが鳴り始めた。どうやら館内にいた別の警備員が異変に気づき、アラームのスイッチを押したのだろう。
『どうしますか?』
遠くから大勢の足音が聞こえる。
「大赦の武装警備隊だ」
『神樹様のそばで銃を使うなんて』
「俺たちも人のこと言えんがな」
大佐にしては常識的な発言だ。明日は雪が降るに違いない。
そんなことを話していると、私達の後ろに武装警備隊が追いついた。防弾チョッキに身を包み、なおかつ例のお面を身に付けているものだからとても怖い。
「動くな!」
警備隊は警告と同時にサブマシンガンを発射してきた。弾丸が壁に跳ね返って高い音を上げる。私が手にしていたスケッチブックとペンもその弾丸の餌食となってしまった。コミュニケーションツールが無くなっちゃったわ。
その時私は右肩に何かが噛みついたような鋭い感触を覚えた。同時に、大佐に肩を掴まれて、もみくちゃになりながら近くの小部屋に飛び込んだ。
飛び込んだ部屋はベッドとデスクが置かれているだけの簡素な部屋だった。
「撃たれたな、血が出てるぞ」
大佐がそう言いながらベッドのシーツをちぎり始めた。右肩を見ると何やら血で真っ赤になっており、中々にショッキングなことになっていた。
「これで出来た。無いと不便だろう」
『ありがとうございます』
「ノープロブレム」
そう答えると大佐は武器を一旦降ろし、ミニガンだけを手にすると私に「俺の後ろにいろ」と言って部屋の外に出た。私もぴったり大佐の背中に張り付く形で外に出る。
大佐が廊下に出ると、廊下の向こうで突入準備をしていた警備隊が驚いたように慌てて銃を構え直した。
「動くな! 静かに武器を降ろせ!」
今度はちゃんと警告するらしい。良く分かんない人たちだ。
「動くんじゃない!」
警備隊は警告し続けるが、大佐は聞く耳持たずでゆっくりと警備隊に向かって歩みを進め続ける。
「ええい構わん! 撃て! 撃ち殺せぃ!」
再び私達に向かって弾幕が張られる。私のすぐ横の壁で弾がはじけて熱いものが頬にチクチク当たる。私は大佐の後ろでずっと体を縮めていた。対して大佐は身を縮めるどころか弾幕に堂々と身体を曝しながら堂々たる足取りで警備隊に歩いて行く。
大佐は警備隊に向かってミニガンを構えた。モーターがウィィンと音を立て始めた。
「地獄出会おうぜ、ベイビー」
大佐がトリガーを引くと同時、銃身が高速回転を始めて麻酔弾を勢いよく吐き出し始めた。大佐はそれを扇に振って警備隊にまんべんなく浴びせる。毎秒百発の麻酔弾の嵐の前に敵は一人残らず倒された。いくらミニガンなんかで撃ったら麻酔弾でも死ぬんじゃないかとも思えるけど、そんなことを考えようものなら口を縫い合わすぞ。
『すごいですねぇ』
どうやら弾が切れたらしく、大佐はミニガンとバッテリーを全部その場で捨ててしまった。もったいない気もするけど、ミニガンもこうなってはただの重しですな。
『そう言えば大佐、弾幕の中歩いてましたけど大丈夫なんですか?』
「ノープロブレムだ。弾丸は全て筋肉が弾いてくれる」
そう言われてみれば、大佐の上着はボロボロだったけど血は一切出ていなかった。部屋から今いる場所までの道のりを振り返ってみると、弾頭の潰れた弾丸が大量に転がっていた。
「鍛え方が違うからな」
んなアホな。まぁ、今更でもあるんだけど。
「ところで樹、肩は大丈夫か」
『大丈夫です。さすがは勇者システム』
私はノートを見せた後腕をブンブン振り回した。
「それなら安心だ」
大佐はそう言いながら部屋に入って行き、AKとグレネードランチャーを手に戻って来た。
「今度こそ神樹のところへ向かうぞ。五メートル間隔、音を立てるな」
樹ちゃんは可愛いなぁ(迫真)
ちなみに裏設定的なものだけど、二人が飛び込んだ部屋はかつてメイトリックスが目覚めた(起動した?)部屋だったりする。