注意点
・コマンドーのタグつけてますがトゥルー・ライズやらイレイザーやらコラテラル・ダメージやらのネタも多いです。
・樹が語り部ですが、一人称が練習途上なため「こんなの樹じゃない!」と思うかもしれません。
このことに耐えられないんなら、今すぐブラウザバックしろ。OK?
讃州中学勇者部の部員は私、
まずは、私のお姉ちゃんで部長の
二人目は結城友奈先輩。天真爛漫で誰とでも仲良くなれる凄い人で、みんなに好かれている。私自身、友奈さんの明るさに何度も助けられた。
三人目は、友奈さんの親友でもある東郷美森先輩。彼女は愛国者だよ(
四人目は、お姉ちゃんのクラスメイトのジョン・メイトリックス大佐。男性、身長190センチ、髪は茶、筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。
勇者部の活動は、大まかに言えば『人々が喜ぶことを勇んでやる』こと。具体的には、清掃活動だったり、子猫の里親探しだったり……つまるところボランティア活動なんだけど、「ボランティア部みたいな安易なネーミングよりこっちの方が良いよね」というお姉ちゃんの考えで勇者部という名前になった。
そして、今日はそんな数ある勇者部の活動の中で最も大きな催し、すなわち『幼稚園での交流会』の日。勇者部謹製の演劇(全四国が泣いた感動の超大作)を上演するんだよ。私は音響担当なんだけど、失敗しないか心配で昨日は寝れなかった。でも、勇者部五箇条の一つ、『成せば大抵何とかなる』の精神で、頑張っていこう!
※
「……モスクワ市警のイワン・ダンコ大尉は、マフィアのボスを逮捕するため、連邦内を旅してました。そしてとうとう、ボスの潜伏するアジトへたどり着きました」
舞台もいよいよ大詰、東郷先輩の緊迫したナレーションが明かりを落とした客席にいる良い子のみんなを緊張させる。そして、ステージが明転すると、そこには二人の人物が立っていた。
一人は友奈さん演じるダンコ大尉。友奈さんの着ている衣装は東郷先輩曰く大昔のソ連という国の物で、図書館で資料を漁りまくって再現したらしい。ロシア帽に長い外套という季節感ゼロの出で立ちなことから、どうやらソ連は寒い国だったようだ。
対する位置に立っているのは、お姉ちゃん演じるマフィアのボス。初め、マフィアなんて役いくらお姉ちゃんでも無理じゃないのかと思ったけど、いざやってみると凄まじい熱演だった。如何にも悪者って感じで、いつものお姉ちゃんからは想像できないほどだった。
舞台照明に照らされながら、お姉ちゃんはダンコ大尉(友奈さん)に言った。
「何でお前らサツは俺達グルジア人を目の敵にしやがるんだ……」
「…………」
「俺達は田舎者で都会の暮らし方をよく知らねえ。だからお前らはそれを口実に俺達をいじめる」
私と東郷先輩は舞台そでにいたんだけど、そこから見てもお姉ちゃんの熱演ぶりは凄かった。数人助っ人の演劇部員もいたけど、その人たちに負けないくらいだ。
「お姉ちゃん完全に役に入り込んでますね」
「さすがは風先輩ね。でも、友奈ちゃんも、入りこんでていつもの友奈ちゃんじゃないみたい」
見ると、なるほど、友奈さんもいつもの天真爛漫さを封じて冷酷な公僕になり切っている。あの目に睨まれたら、そっちの趣味の人は嬉しさで卒倒してしまうだろう。
「この国は人民の国のはずだぜ!?」
「俺達を
演劇部員の取り巻きが友奈さんに詰め寄る。すると友奈さんはお得意の体術で演劇部員を放り投げた。そして、靴を無理やり脱がす。脱がした靴からは、白い粉がサーっと出てきた。
「コカインだ」
「…………」
取り巻き立ちが、懐から銃を取り出しつつお姉ちゃんを守るように広がる。銃口は、友奈さんを向いていた。
『良い子のみんな! ダンコ大尉が絶体絶命だよ! 応援してあげて!」
東郷先輩がそう煽ると、観客席から大きな声援が飛んだ。
「ダンコ大尉がんばれー!」「ロシアンマフィアに負けるなー!」「資本主義者に負けるなー!」
『みんなの応援がダンコ大尉のパワーになるんだ!』
「パゥワァァァァァァァァァア!」
友奈さんは腕を振り上げ、力が漲る様をわかりやすく表現した。そして、懐からトカレフを素早く抜き取ると取り巻きを射殺した。身体に力が漲っても結局銃で敵を倒すあたり、かなり革命的な演出だと私は思う。
「世に混沌と麻薬をばらまくマフィアめ! 鋼鉄マンことイワン・ダンコ大尉が正義の鉄槌を下す!」
「ふははは! やってみるがいい!」
友奈さんはトカレフを投げ捨ててコートも脱ぐとお姉ちゃんに駆け寄った。そして、
「勇者・パーンチッおっ!?」
本来なら、ここで友奈さんがお姉ちゃんを殴って倒し(もちろん殴ったフリ)、悪は倒された!完!という流れ。でも、この時友奈さんは先ほど撃ち殺した演劇部員に躓いてしまった。
友奈さんはバランスを崩し、態勢を立て直す間もなくお姉ちゃんに体当たりをかました。
「うおお!?」
「きゃあ!」
二人はもつれ合ったまま舞台装置に突っ込んだ。背景のパネルがドンガラドンガラ崩れ落ちる。幸いパネルは安全のため敢えて軽く、もろく作ってあったけど、舞台はぐちゃぐちゃ、友奈さんはお姉ちゃんに馬乗りになる形で二人そろって呆然としている。
「えっ……ええ……」
私は突然の出来事に対して大いに戸惑ってしまった。こういう時、何か気を利かせればいいのだろうけど、私にそういう能はない。ただのカカシですな。
すると、さっきまで緞帳の陰で静かに劇を見ていた脚本兼舞台監督のジョン・メイトリックス大佐は私に向かって指示を飛ばした。
「樹、音楽だ!」
「えっ!? は、はい!」
私は慌ててパソコンのキーを叩いた。音響装置から心躍る音楽が流れる。
「東郷! ナレーションだ!」
「了解です」
さすがは東郷先輩、私なんかと違って状況に対処する能力が違う。
『ダンコ大尉はついに悪いマフィアを追い詰めたぞ! さあ、良い子のみんなは応援しよう!』
「ダンコ大尉がんばれー!」「悪い資本主義者をやっつけろー!」
「えぇ!? えぇー!?」
盛り上がる観衆、テンポの上がる音楽。この二つに圧倒された友奈さんは勢いでお姉ちゃんの顔面を思いっきり殴りつけた。
「えいっ!」
「うげっ!」
どうやらお姉ちゃんはその一撃で伸びてしまったらしい。けれども舞台は容赦なく進む。
『やったぞ! ダンコ大尉の革命的勇気により悪の権化は打倒された! 万歳! ウラー!』
「うらー!」「うらー!」「うらー!」
客席は大歓声に包まれ、めでたく幕は降りた。閉幕と同時に私達はお姉ちゃんに駆け寄る。そんな私たちを見て、メイトリックス大佐は満足げに、
「この手に限る」
と頷いた。
「ごめんなさい風先輩!」
「いーのいーの。熱演だったよ?」
学校に戻った頃にはお姉ちゃんは左目を大きく腫らしていた。しばらくは右目だけの生活になるだろう。
「早くも眼帯装着か」
「誰のせいだと思ってんのよ」
大佐は巨体を窮屈そうに椅子に納めていていたけども何故か偉そうだった。確かに、お姉ちゃんの左目を犠牲にしながらも劇は大成功だった。保母の先生なんかは感動しちゃって、
「最後の戦いは圧巻でした! まるで本当に戦ってたみたい!」
と絶賛していた。つまり、お姉ちゃんの目が腫れてしまったのは所謂コラテラル・ダメージというものに過ぎない。目的のための、致し方ない犠牲だ。
「そんなことより、サイトに動画アップしたの東郷。そこまでやって、初めて私達の劇は終わり、この失われし左目も報われるってもんよ」
「ええっ!? 風先輩失明しちゃったんですか!?」
「友奈ちゃん冗談だよたぶん。……はい、アップ完了しました」
東郷先輩は文字通りあっという間にサイトの更新を終わらせ、ビシッと見事な敬礼を見せた。
「さすがは東郷だね~」
「もちろんです、プロですから」
東郷先輩のコンピューターの腕前はかなりの物で、風の噂だと大赦のネットワークにも侵入したことがあるとかないとか。私のパソコンの初期設定をしてくれたのは東郷先輩なのだけど、もしかすると変な機能を搭載されているかもしれない。
「さっ! 一大イベントも終わったし、打ち上げと行きますか!」
サイトを確認して満足するとお姉ちゃんは背伸びしながら言った。でも、どうせ行先はいつものうどん屋だ。
お姉ちゃんはうどんこそ女子力向上のキーアイテムだと言っている。どういう理屈かは知らないけど、神樹様の根を象ったと言われるうどんを恒常的に摂取することで脳内で女性ホルモンが云々かんぬん、とお姉ちゃんは言っていた。
「ジョンも来るわよね?」
「今日は山で木を切る日だ。チェーンソーで」
「今日は休め」
バシン! お姉ちゃんは大佐の背中を叩いた。そして、お姉ちゃんが痛そうに自分の手をさすった。筋肉チョッキは伊達ではない。
大佐は生真面目で筋肉だから一度決めた予定は中々変更しない。勇者部エースな大佐の長所であり、短所である。
「友奈と東郷も言ってやってよ~」
よっぽど掌が痛かったのか目元に涙を浮かべながらお姉ちゃんは後輩に助けを求めた。
「まぁまぁメイトリックス大佐! うどんでも食ってリラックスしな」
「付き合わないものは、罰を受ける」
じりじりと迫る三人。結局大佐は根負けして勇者部打ち上げ会に参加することになった。
※
『かめや』は自慢のうどんとかつて美人だったウェイターが売りの素敵なお店で、私達勇者部は何かに付けてここに通っている。
「あたし肉ぶっかけうどん」
「私はお姉ちゃんと同じで」
「月見うどんお願いします!」
「私はきつねうどんで」
「プロテインうどん。プロテインマシマシで」
かめやのうどんはとにかくバラエティ豊かで、大佐みたいな筋肉バカの要望にも応えられるメニューとなっている。
しばらくするとうどんが五つ運ばれてきて、私達は頂きますの大合唱をするとうどんを啜り始めた。
「うどんを食べる! 私達は生きている!」
友奈さんなんかはうどんを食べることで自らの命を実証している。
「友奈ちゃんの言葉は真理だわ。諺にもあるからね、『死人はうどんを食えない』」
そんな諺はない。
なんにせよ、私達勇者部はとにかくうどんが好き。もっとも、毎日通い詰めるほどまでに好きになったのはお姉ちゃんの布教活動の賜でもあるのだけど。
「ぷはー! うまい! すみませーん! もう一杯ください」
お姉ちゃんは三杯目のうどんをたのんでいた。これで晩御飯もしっかり食べるのだから、姉ながら一体全体どんな胃袋をしているんだろうと気になって夜も寝られない。
「うどんは実に機能的な食品だ。エネルギーを飽きることなく効率的に摂取することが出来る」
そういう大佐は五杯目に突入していた。ただ、この人はお姉ちゃんと違ってうどんが全部筋肉に消えると予想できるから、あまり不思議に思わない。
「ところで、今度の文化祭なんだけどさぁ」
うどんと一緒に注文したおでんをつまみながらお姉ちゃんがそう突然切り出した。
「劇をやろうと思うのよ。今年こそ」
「去年は出来ませんでしたからねー」
東郷先輩がしみじみと答える。
去年の文化祭の時、私はまだ小学生だったからいったい勇者部内で何があったのかは知らない。なぜ劇ができなかったのかを聞いても、何故か固く口を閉ざすばかりだった。
「今回もメイトリックス大佐が脚本をやるんですか?」
「ああそうだ」
大佐の脚本は非常に受けがいい。
今日やった劇もそうだったし、以前やった人形劇『名探偵コナン・ザ・グレート』もスタンディングオベーションの嵐を巻き起こすほどの出来栄えだった。
「今回は古典で攻めようと思う。題材は『ハムレット』だ」
大佐が作るからには古典といえどドンパチ賑やかな劇になること必至だ。ハムレットは銃を使うだろうし、クローディアスは爆発四散してオフィーリアは溶鉱炉で親指を立てながら溺死する。シェイクスピアもびっくりだね。
大佐は構想を熱く語る。
「原作だとラストでハムレットは死ぬが、これでは死なない。親友との別れ際、こう言うんだ——」
「『戻って来るぜ』ですね」
答えたのは東郷先輩だった。大佐が「その通り」と嬉しそうに筋肉を揺らす。
「私、その台詞大好きなんです。聞くたびに、こう、胸がキュンッとなるような……」
「東郷さん! それって恋じゃない!?」
友奈さんが興奮して言った。東郷先輩はびっくりして、
「まさか! 更年期障害じゃないの?」
中学二年生で更年期障害はないでしょう。
そう言えば、大佐はそこそこ顔立ちが良いからモテないことはないはずなのに、勇者部内のみならず校内でもそう言った浮ついた話が何故か無い。お姉ちゃんが言うには、大佐の大人びた雰囲気がその理由らしい。たしかに、大佐は中学三年生にしては大人びている。離婚やカリフォルニア州知事を経験していそうなぐらい大人びている。
とにかく、文化祭の出し物はおおよそ決まった。
私にとって、初めての文化祭。勇者部の一員として、一生懸命頑張ります!
序盤の劇はレッドブルなんですが、レッドブルとトータルリコールは玄田さん吹き替え版ソフトがないってマジですか?探しても見つからないんです。