この話は番外編を除いてポジまぬ始まって以来一番シリアス成分が多いです。途中から視点が切り替わります。花京院がギャング的思考です。花京院が腹黒い…もとい、オープン黒です。微妙にグロいと言うかエグいです。でも全年齢対象なのでそこまでではない筈。最後にちょろっとジョナサンも。
「がんばれディオ、きみがナンバーワンだ」
て言ってあげたい方だけどうぞ。
床に酒の瓶が叩きつけられ高い音を立てガラスが散らばる。悪鬼のような形相をして手を振り上げる男と頭を隠し耐える子供。
場面は変わり子供の前に投げつけられたドレス。子供の目に浮かんだのは怒りと憎悪。
ああ、これは夢か。
そう気づいた途端に場面は映画のフィルムのようにカラカラと音を立てて回り始める。
ダリオの墓に唾を吐きかけてから、たった独りきりで百年の時を過ごした棺桶の中、外に出てから回った世界、最期に見た己を殺す拳まで。
自分の身は全身余すところなくヘドロのような赤黒い血で染まっている。
が、それがどうした。何一つ後悔などない。
踏みにじられるのも力が足りず惨めな思いをするのも二度とごめんだ、頂点を目指して何が悪い。
そして訪れた二回目の人生。
『きみはディオ・ブランドーだね?』
『そういうきみは…』
朝日の眩しさに起こされ瞼を開ける。陽の光を認識した瞬間、はっとして光を遮ろうとしたが体に異変はない。そこでようやく今は四度目の人生である事を思い出し体から力が抜けた。
とんだいかれた世界にいるものだ、胡蝶の夢というやつだろうか。
ベッドに横になったまま力なく笑い、少ししてから学校へ行く準備を始めた。
天気もよく心地よい風が吹く爽やかな朝の筈の校門、いつもならば登校する生徒たちで賑やかだというのに今は物音一つ立てるのもはばかられるとばかりにシンとしている。
原因は校門のど真ん中で睨み合いをしているおれと承太郎だ。
夢見が悪かったせいで今のおれは非常に機嫌が悪い。いつもなら軽く笑って流してやるこいつの睨みが気に障る程度には。
ジョセフとシーザー、承太郎と花京院、そしてジョジョとジョニィがうるさくする事はよくあってもおれが真正面からジョセフや承太郎を睨む事などなかった。大抵は流していたからな。そのおれが不機嫌なのも露わに承太郎を睨むという異例の事態に、周りの生徒は固唾を飲んでおれたちを見ている。
目の前のこの男、見れば見るほど二回目の承太郎と似ても似つかない。容姿こそ同じだがあの目が気に食わないのだ。
ふと、夢の中で見たあの掃き溜めの日々で向けられたものと重なった瞬間、心の底から笑いたくなった。
おれは何を甘い事をしていたのか、と。
相手はそもそもおれを殺した張本人。ジョジョの事は尊敬しているし納得しているからいいが、こいつは違う。
今のおれでも人一人ひっそりと始末する事など容易いのだ、おれを慕っていた承太郎とは別物であるし居なくなっても構わないだろう。
うっすらと笑うおれとは対照的に視線を鋭くした承太郎、今にも破裂しそうな空気の中に割って入ってきた者がいた。
「ディオ!おはよう」
「花京院…」
おれの方を向いて笑顔で挨拶をする花京院。…と、その花京院の名を呟く承太郎。正直承太郎はどうでもいい。
「宿題でどうしても分からないところがあったんだ、今から教えて欲しいんだけど…」
言葉こそ若干控え目だがおれの手をとり花京院はぐいぐいと引っ張っていく。立ち止まるのは容易いが、こいつが触れている場所が暖かく悪い気がしなかったため素直に足を動かす事にした。
静かだった校門で一斉に安堵の溜め息を吐かれた事など知らん。文句があるなら喧嘩をふっかけてきた張本人に言え。
その日はジョジョと花京院がやけにおれにくっついてきて、おかげで毒気は完全に抜かれてしまい放課後になる頃には物騒な考えも薄れてしまった。今更承太郎に何かするのも馬鹿馬鹿しい、生徒会の仕事をこなす方が余程有意義だ。
おれの機嫌を直した褒美として花京院にはチェリーパイを奢ってやる。ジョジョがそれを微笑ましそうに見ていたのに少し腹が立たった。
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ディオが奢ってくれたチェリーパイを食べながら今日の出来事を思い出す。
あんなディオは久々に見たな、すっかり丸くなったと思ったけど表に出さなくなっただけだったらしい。
本音を言えばここの承太郎がどうなろうとさほど興味はない。うっとおしいし。ぼくが知っている承太郎なら話は別…とはいえ、そもそもそんな事になるはずがないけれど。
ただあれは、承太郎に何かあればジョナサンさんが悲しむだろうし、ジョナサンさんが悲しんだらディオもいい気分はしないだろうから止めただけだ。
遠慮なくパイを食べながら、ジョナサンさんとディオがじゃれあっているのを見て自然と笑顔になる。
この穏やかな時間がぼくは大好きだ。だからそれを壊す「ジョセフ先輩と空条くん」の事は…と、考えて承太郎とのやり取りを思い出しフォークを噛む。
あれはジョニィから別の世界うんぬんを聞いて少しした頃、承太郎から話があると言われて空き教室に行った時の事だ。
「お前はあいつに騙されている。DIOの野郎がたかが世界が違うくらいで『いい人』になる筈がねェ、最後の最後までクソ野郎のままだった」
この承太郎たちのエジプトでの事を説明され最後にそう言われた。確かにぼくたちの世界の「DIO」も胸くその悪いやつだったけど、それは「ディオ」じゃあない。ディオを一緒くたにされた事の不愉快さに眉を寄せると承太郎は酷く真剣な眼差しを向けてきた。
「そもそもあいつは人の命を何とも思っちゃいねェ、どれだけの人間が犠牲に」
「だから何だい?殺さなければ殺される、ならどうするかなんて決まってるだろう。『きみだってそうしてきた』はずだ」
承太郎の言葉に言葉を重ねると、驚きに目を見開き強く肩を掴んできた。
「何言ってやがる!お前は「そんな事を言うやつじゃあないはずだ、とでも言う気かな?」っ…」
ぼくの言葉が図星だったらしく手の力が緩んだのでその手を払い制服を整える。
「ぼくたちと君たち、姿は一緒でも同じ世界にいた訳じゃないってのを理解してくれないか。納得しろって訳じゃない、理解して欲しいんだ」
ディオが人を殺す事を何とも思っていない事などとうの昔に知っている、ぼくは表も裏もディオの補佐をしてきたのだから。そこを否定するつもりはない。ただ、厳密に言うなら彼は興味のない人間の生死はどうでもいいだけだ。その証拠に吸血鬼だった時も人間であったぼくたちを彼なりに深く愛しているのを知っているし、今もジョナサンさんを始めぼくたちを大切にしている。
某うみねこがなく魔女のゲームじゃないけど、愛がなければディオの愛は見えないのだろう。
「お前は…お前も「悪」なのか」
ぼくの知っている承太郎なら…おっと、一緒にするなと言っておいてぼくがしちゃいけないね。
それにしても幼い質問に笑ってしまう。
「きみの知る花京院と、ぼくの優先順位は違うってだけさ」
「…院、花京院!」
「いたッ!」
「このおれを無視するとはいい度胸だな」
額に軽い痛みが走り意識が覚醒する。
目の前には不機嫌そうなディオと仕方ないな、とでも言いたそうな柔らかな笑顔のジョナサンさん。
「ごめん、ちょっと考え事してて。それで、どうしたの?」
「……、…何でもない」
「あはは、ディオは素直じゃないなァ」
「うるさい!!」
二人のやり取りに、ぼんやりとしていたぼくをディオが心配したのだと知る。
やっぱりディオがあの二人の言うような人物だとは到底思えない。
けれど、もし仮に万が一、同じ人物であってもぼくは変わらずディオが好きなのだろうなと思う。だってぼくを救ってくれたのは今、目の前にいるこのディオなのだから。
何だかかんだ言ってジョナサンの大きな愛があってこそのポジまぬのDIO様かなぁ、と思っているのでジョナサンは外せませんでした。近くにいるならDIO様が機嫌悪い時とか絶対放っておかない筈!
きっとDIO様が涙を見せるとしたらジョナサンただ一人じゃないですかね。
……DIO様泣かせたら怒られますかね?泣かせていいよバッチコイ!て方居たら何か反応頂けると嬉しいです。