あくまでも参考程度。
「えーっと、いきなりこんな事言われて戸惑うとは思うんだけど、前のボクってどんなやつだった?」
「…人違いじゃあないのかい?」
よく晴れた日の昼休み、人気のない廊下で目の前の男…ジョニィ・ジョースターに声をかけられた。なんでもこの世界ではジョセフの双子の兄らしい。
言葉からしてこいつが記憶を持っていそうな感じは分かったが、質問の意味が分からず眉を寄せる。
あの世界は「別の世界」の存在が確認された場所だ、複数の記憶でも持っているのだろうか。
「じゃあ足が動いてたかどうか!そう、どっちだった?」
「……。…動いていただろう?そもそもちゃんと優勝したんだろうな」
あまりにも必死な様子に軽く息を吐くと、真正面から向き合い真っ直ぐに目を合わせる。
それにあからさまにホッとした様子のジョニィはおれの肩に手を置いて軽くではあるが叩いてきた、少々鬱陶しい気がしたが咎めないでおく。
「あーもう良かった!Dioじゃなくてディオで本当に良かった!!」
「なんだ、違う記憶でも持っているのか?」
「そーなんだよ!あ、勿論優勝したよ。ディオがいないからこそ、ていうのは悔しいけど。Dioのやつすっげーヤな奴でさ、そっちだったらどうしようかと思った」
肩を組んできたこいつに呆れよりも好奇心が疼き問い掛けるとあっさりと肯定された。なるほど、「おれではなかった場合」のディエゴの時の記憶もあるのか、実に興味深い。
「久しぶりに会ったんだ、少し話さないか?特別に紅茶でも奢ってやろう」
「お、マジで?いいよ、行こうか」
好奇心のまま話を聞くためにお茶に誘うとジョニィは直ぐに乗ってきた。おれに何かされる、などと微塵も思っていないようだ。何かする気もないが。一度信じた相手はなるべく信じる、こいつもやはりジョナサンだとしみじみ思う。まぁ、ヴァレンタインへの対応を思い出すとジョジョよりはマシだな、とも思うが。
そのまま生徒会室へと向かい(当然おれが生徒会長だ)紅茶を二人分淹れる。ジョニィはソファに座りおれの動きを見ていた。
紅茶といってもティーパックだが我が侭は言うまい。
「パックジュースじゃなくてちゃんとしたの出てきた…」
「どうせ飲むなら美味い方がいい。それに前世の記憶があるなんて電波もいいとこだ、ここ以上にいい場所はないだろう?」
ティーカップをテーブルに置きながら言ったおれの言葉に納得したらしく、頷きながらジョニィはカップを持ち口をつけた。
「うまっ!ジャイロのコーヒーも美味かったけどディオの紅茶も美味い、これティーパックだよね?」
「コツがあるんだ。それで、おれじゃないディエゴの話が聞きたいのだが…」
おれもソファに座り何やら感動している目の前の男に、己が聞きたい事を話すよう促すと嫌な事を聞いたとばかりに顔を歪める。予想通りと言えば予想通りだ、そのディエゴとは相容れない存在だったらしい。
「容姿は同じだけど中身はディオと似ても似つかないよ。ほぼ同じ事してたのにDioの事は最後まで信用できなかった」
詳しく話を聞けば聞く程おれに似ている。いや、昔のおれに似ていた、か。すっかり腑抜けになった今の自分に笑いたくなる。
同じ時止めという能力に行き着いた事は当然だと思ったが、恐竜になる能力というのは面白いな。…おれが吸血鬼になったからだろうか。
「ボクはさ、一番の違いはあの劇場での事だと思うんだ。もしDioがあの場にいても、きっとボクの事身を挺して守ったりしないし、ましてや「叱る」なんて論外だ。まぁ、元々接点なんてレースくらいだったけど」
人生やり直しをさせられなかったらおれもそうなっただろう。そう思いながらカップに口をつける。
「それに、ディオって父親みたいだよね」
「ぶふっ!げほっ、げほっ!」
突然の口撃に思い切りむせた。心配そうな顔をして背中をさすってくるジョニィだが口撃は止まらない。
「最初の最初こそディオから勝負を持ちかけられたけど、あれ以降ボクから全力で向かっていっても全部受け止めてくれたし落ち着いてるし貫禄あるし、見守られてる感凄かったなァ。ディオなら何か、全部受け止めてくれそう、て感じがして。おまけに悪い事したら拳で叱るとか完全に父親だって!」
物凄くいい笑顔を向けてきたこいつを殴りたい。そりゃあ中身は「先祖」と言っていい程度には生きているのだ、見た目はともかく相応の落ち着きくらい身につけている。
幸いにもちょっと口元が濡れた程度の被害で済んだため、カップを置いて自分の口元をハンカチで拭う。軽く睨んでみたがジョニィの楽しげな笑顔が崩れる事はなかった。
「レースの最後に父さんが来てくれたんだけど…正直、あの時は実の父親よりディオに認めて欲しくて頑張った。勝ちにこだわってた時もヤケになった時も見守って側にいてくれたのはディオだったから。きみは消えてしまったけど、約束したし」
親不孝かな、などと笑うジョニィに口を噤む。今回も父親などいないし、暴力的でアルコール依存症のくそったれな父親しかいなかった自分には少し眩しい。
「別にいいんじゃあないのか、人それぞれってやつだ」
「ははっ、正にそういうとこだよ。ディオって器が凄く大きくて憧れる」
「…恥ずかしいやつめ」
「もしかして照れてる?貴重なもの見たなー」
「うるさい!こら触るなッ!」
ジョジョ達に感じるものとはまた違った擽ったさに顔を逸らすと、ジョニィは髪をくしゃくしゃに撫でてきた。
抵抗を試みるがこいつは笑っていて全く止める気配がない。しまいには抱き締めてきた、こんなにスキンシップ大好き野郎だったか?
「…やっぱさ、ディオがいなくなって寂しかったんだ。いくら探しても見つからないし。またきみに会えて嬉しいよ」
「……」
こいつの言葉に動きが止まる。言葉を返してやる気にはなれないが…背中くらいは撫でて慰めてやろう。
ディエゴ(本物)はどうしよう…。
ジョナサンは完全身内、ジョニィは友人。ジョニィは原作時とDIO様がディエゴになった時と両方記憶を持ってます。
比べてますますDIO様が大好きに。