ご注意を。
悪戯好きの神のほくそ笑みを向けられているらしいおれは極力何もしないよう努めた。
裏で何かする必要があれば後でいい、普通にレースに勝てば大金が転がり込んでくるのだ。どうせ何かあっても「今回のジョジョ」が解決するに違いない。
レースにだけ集中すれば勝てる自信があった。
そう、レースに「だけ」なら。
「ディオ!ジャイロ!!」
撃たれた場所がじくじくとした熱を持つ。久しく忘れていた強烈な痛みだ。
急所を避けはしたが吸血鬼の能力がなければ5秒は短すぎる。くそっ、聖異物(遺物じゃあない、異物だ!)だか何だか知らんがおれを巻き込みやがって。左眼なんぞとうの昔にジョニィにくれてやったろうが。
部下の情報で何がどうなっているかなど全部知っている。知っていてあえて関わらないようにしたというのに。
おれは突然浜辺に呼ばれたのだ。ジャイロとヴァレンタインが決闘のような事をしていた浜辺に。
そのせいでおれが弾丸を受けジャイロを庇ったような形になった。シルバー・バレット(愛馬)は無事だったがとんだ災難だ。
だが、ようやく分かった。二回目の人生、そして今生がなぜ起きたのか。直接ぶちのめす相手がいるとは嬉しいではないか。
ジャイロと共に避難するという名目でジョニィとヴァレンタインから距離をとる。人の目もあるために簡単ではあるがジャイロの治療もしてやる。こいつのがたいの良さに若干イラついたので乱暴な手つきになったのはご愛嬌だ、それに元々の姿は今のような貧弱な体ではない。
やはりと言うか、決着は「ジョジョ」の手によってつけられ、ヴァレンタインは何やらジョジョに向かって話をしている。
話の内容に興味はないが、この期に及んでヴァレンタインを信じるだと?こいつも笑える程に阿呆でまぬけで甘っちょろい。
「だがそれでこそジョジョだ」
自然と口の端が上がる。時を止めてヴァレンタインに向かって走りながら隠していたナイフを取り出し、顔面、首、胸へと飛ばした。
残り1、0。
ナイフは全てヴァレンタインへと刺さり奴はナイフの衝撃で後ろへと倒れ土の中へと帰っていった。スタンドも崩れそのまま消える。
「ディオ…」
「おれはな、ジョニィ。お前たちのそういうところは嫌いじゃあないんだ」
ヴァレンタインが消えていった場所を眺めながら独り言のように呟いた言葉は、ジョニィに届いたのだろうか。
「さて、ジョニィ。その物体をおれにくれないか?」
「な…何を言ってるんだよ!これが何なのか」
「わかって言っている」
スプレーによりジャイロを治療して一息ついたところで遺体を指さしながら切り出すとスティール夫妻、そしてジョニィが目を見開いた。
「なに、ちょっと原型が分からなくなるくらい細かく砕いて箱に詰めて火山に投げ込むだけさ。なんなら宇宙に飛ばしてもいい、とにかく二度と再生なんぞできないようにするんだ」
おかしいな、笑顔で話している筈なのだがスティール夫妻は真っ青になり震えている。ジョニィも引くとは酷いじゃあないか。横のザ・ワールドが怖いのか?ちょっと気合い満々で指を鳴らしてるだけだぞ?
「はっ、まさか…もう二度とこんな事にはならないようにするつもりなのか?永遠に誰も手にする事がないように!」
断じて違う。
はっとしたようにジョニィが呟きおれを見上げる。相変わらずの謎な思考回路だが壊す事にかわりはないのだ、まぁそういう事にしておいてもいい。
「だ、だが手を出そうとしたら何が起こるか…」
「関係ないな。このDIOが壊すと決めたのだ、必ず壊す」
スティールの夫の方が恐る恐る、といった風に声をかけてきたがきっぱりと強く言い切る。
おれを巻き込んだこのくそったれな「神様」をフルボッコにする、絶対にやり遂げるともう決めた。
壊す…壊そうとした時点で何かが起こる予感はする。だが意志を変えるつもりはない。
だから今の内に言っておいてやろう。
「さっさとレースに戻るんだな、そこのお荷物と一緒に。お前が優勝しなければ、おれはお前を許さない」
ジョニィに向けた視線を遺体に戻し一歩一歩近づいていく。
なぜおれだったのかは問題ではない。問題はおれを、このDIOをコケにした事だ。
遺体をおれが掴んでスタンドの拳を握り思い切り振り下ろす。
あえて瞬きをすればジョジョ達が揃っている部屋にいた。
「ディオ、いつ部屋に…と言うか何年…いや、それもだけど掴んでる干からびた死体?はいったい…」
視線の高さ!漲るパワー!んっんー、やはりこちらの方がしっくりくる。
戸惑うジョジョの言葉に答える前に、リビングに勢ぞろいしているこいつらの真ん中に遺体を放り投げる。
「今回の首謀者だ」
この言葉に真っ先に反応したのはジョジョだ。
にこりと笑いかけると遺体に向かって拳を振り下ろす。下の机は粉砕されたが遺体はまだ傷つかない。頑丈だな。てお前、舌打ちとか紳士としてどうなんだ?
「これ、首謀者っていうだけあってただの遺体じゃあないんだね」
「ならちょーっとおれ達に任せてよン」
次に動いたのはジョセフとシーザー、若かりし日の肉体に戻るとはもはや一発芸の域だ。
二人同時に波紋を練り上げ挟み込むように遺体を殴る。
「ちょっ、これ何なの!?えっらい頑丈なんですけど!」
「全盛期に及ばないとはいえ、少し曲げたくらいか?」
「おれが叩き潰す。オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
「抜け駆けはさせないよ、承太郎」
先に仕掛けたのは花京院だ。ハイエロファントで遺体を囲みエメラルドスプラッシュを食らわせる、穴こそ空かなかったがその衝撃で浮いた遺体に承太郎が目を光らせた。スタープラチナが現れラッシュを食らわせると少しずつ遺体が曲がってきた。
「くっ、貫通力はそれなりにある筈なのに!」
「やれやれだぜ、何で出来てやがる」
「なら床に押しつけて逃げ場なくしてやりますよ。ドラララララララララララ!!」
仗助が遺体の頭を掴み床に叩きつけた上で拳を打ち込む。一発一発に怨みがこもっているような気がするのだが…。
「うしっ!ヒビ入ってきたぜ!」
「ならこのままいきます、よくもパードレを…無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」
怒りを露わにしたジョルノが遠慮なく殴りつけると床だけでなく遺物も段々と砕け始めた。
このままこの家は崩壊するだろうな、むしろよくまだ耐えているものだ。
「ぼくの番ではまだ無理ですか…本当に何なんです?」
「ならあたしが砕いてやるわよ、お父さんがいなくて大変だったっつーの!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
いつの世も女は怒ると怖いな。
床から壁に移動するほどラッシュを叩き込みまくる徐倫。いいぞ、だいぶボロボロになってきた。
「まだ足りないわけ!?逆にイライラする!」
「足りなくなどないさ、よくやったぞお前ら」
ここまでくれば完全に砕けるだろう、聖遺物というだけあって並の物体じゃあなかった。
「ザ・ワールド!時間一杯殴り抜く。無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァ!!!」
遺物が逃げないよう時間を止めて今回の分とディエゴであった時の分、怒り、怨み、鬱憤、全てを込めて拳をふるい続ける。次第に遺物は更に砕け、粉々になり時が動き出す頃になると家を巻き込み粉末状になって消えた。まるで空気に溶けるかのように。
ふー…ようやくすっきりした。今のおれはさぞや晴れ晴れとした顔をしている事だろう。
おれの上に落ちてきた木片を腕で払い後ろを向くとジョジョ達がそろっ…
「ぐあっ!ジョ…きさま、この馬鹿力…!」
「ディオ!ぼく達がどれ程探したか…ッ!」
突進してきたジョジョを支え切れず瓦礫の上に押し倒された挙げ句万力のような力で締め上げられる。いくらおれでも背骨が折れるぞ阿呆が!!
「おかえり、ディオ」
殴ろうと手を握るがジョジョの一言に動きが止まる。
そう…か…おれは帰ってきたのか…。
握っていた手を開きジョジョの髪をくしゃりと撫でる。
「ただ…「ディオーッ!!」がはッ!」
ジョジョの上から花京院が抱きついてきた。更に徐倫、ジョルノ、仗助が重なる。ぐ…重い…承太郎、ジョセフ、シーザー、見てるだけじゃなく助けろ。ジョセフとシーザーは年だからともかく、承太郎貴様微笑ましそうに見てるんじゃあない!!
「は、やく…退け!このまぬけ共がァァ!!」
聖遺物に呼ばれた、または引っ張られたDIO様。
なぜDIO様を呼んだのか、聖遺物は結局何をしたかったのかは謎のままで。
ただ、DIO様だって幸せになってもいいよね。
これにてポジティブまぬけ完結です。
みなさまの暖かい気持ちに支えられて完結までこれました。
本当にありがとうございます!
番外編、蛇足の学パロは書く予定です。