お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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調子が戻りません、すみません。
遅くなりました、第四試合決着です。


19話 まほら武道会本選第4試合 豪徳寺VSクウネル(その2)

「……成る程、奴だったか。まさか麻帆良に居るとはな………」

「どういった関係だったのさエヴァさんとは?」

「ナンダ嫉妬カ山下?安心シロヤ。ゴ主人ハプライドバッカ無駄ニ高ケエカラマダオ前ニ対シテ素ッ気ナク見エッケド、内心嬉シクテ嬉シクテ無イ尻尾振ッテ浮カレテル状態ダカラヨ。今後ハ恋愛ゲームトカデ一番攻略シ易イキャラミテーニ合ウダケデドンドン好感度ガ上ガッテッテ、一ヶ月モシネエ内ニデレデレニナルカラ楽シミニシテロヤ」

「粉々にされたいかボケ人形。……とにかくこいつは……」

「本日はマスターとセカンドマスターの婚約記念日と相成りましたが、祝杯と祝いの宴は御自宅で行うべきでしょうかセカンドマスター?飲食店を貸し切って行うのであれば早急に予約を……」

「イヤマズ本日中ニ出ラレンノカ此処カラ?」

「無理かもねえ。まあ何とか学祭中に動けたとして、う~ん……気安くて美味しい店といえば超包子(チャオパオズ)だけど学祭中に彼処を貸し切るのは不可能だしねえ……っていうか茶々丸ちゃん何だか語呂が悪いし慣れないからセカンドマスターは止めて?山下でいいよ何なら慶ちゃんとか」

「では慶一様と」

「いや様は……」

「いけません」

「ええい聞け!!こうしてこいつが出てきたということは何かしら企んでいるに決まっているのだ!」

 

「貴様等が人の話を聞かんかぁぁぁぁぁぁっ!?まだまだ調書は終わっておらんのだぞ神妙にしろ!!」

 

幾重にも魔力封呪刻印が部屋中に刻まれた対魔法使い尋問用の取調室にて、まほら武道会の経過をTVで見やりながらの緊張感が無いエヴァンジェリン一家のやり取りに担当のガンドルフィーニが額の青筋をブチ切りながら怒号を上げた。

 

「喧しいぞがなるな魔法教師。大会の状況確認の為に写している映像を私達も確認して良いと爺いから許可が出ているだろうが、粛々と、とはいかんが素直に話してやっているのだから喚くな鬱陶しい」

「エヴァさんエヴァさん喧嘩売ってるのと変わらないからそれじゃ。…え~とガンドルフィーニ先生、若気の至りでやらかした挙げ句にご迷惑をお掛けしています申し訳ありません、ただまあ色々立て込んだ事情がありまして……」

 

「ならばその立て込んだ(・・・・・)事情とやらを包み隠さず我々に明らかにしたまえ山下君!!自分の現在置かれている立場が理解(わか)っているのかね!?君は今や我々(・・)を含めた古今東西の魔法組織、魔法関係者が挙って目の敵にする元六百万$の賞金首である犯罪者(・・・)の眷族だ!私は学園長や高畑先生が存在を認めているからといって言に絹を被せるつもりは無いぞ!!」

 

ガンドルフィーニの舌鋒にエヴァンジェリンの目が何処か愉快気に細められ、チャチャゼロは嗤い茶々丸は無言のままにガンドルフィーニを注視する。

 

「……まあまあ、ガンドルフィーニ先生。此方(大人達)が落ち着いて冷静に話を進めなきゃ拗れて終わるだけですよ。認める、認めないはまた別として、エヴァンジェリンや特に魔法使いの事情にまだまだ疎い山下君に今後の指針に於いての選択肢をしっかりと示すのが僕達の役目の一つなんですから」

 

にわかに張り詰め出した空気を緩和するように弍集院が苦笑いを浮かべてとりなしに入る。

 

「弍集院先生!これが落ち着いていられる問題だとお思いですか!?この吸血鬼は自分の置かれている立場がどれだけデリケートで危ういものなのかを欠片も考慮せずに、よりにもよって真祖の吸血鬼の眷族創り等という特大の爆弾を私達に叩き付けて来たのですよ!!封棺処理を受けての半永久的な終身刑がほぼ確定していた身の上を、英雄ナギ・スプリングフィールドの後押しがあったといえ万の批判を喰らい、莫大な代償を支払ってまで我々(関東魔法協会)は庇い立てた!!罰則を学園警備の強制労働程度に納め、制限付きにしろ学園に通わせある程度自由な日常生活を許している!!」

 

しかしガンドルフィーニの怒りは収まらず、宥めようと己の肩に置かれかけた弍集院の手を払いエヴァンジェリンへと燃える眼光と共に言い放つ。

 

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、貴様が何処まで理解しているかは知らんが貴様に架されている罰は至上稀に見るレベルの甘い(・・)代物だ!!学園長を初めとして多くの者からそのような多大なる温情を賜りながら、貴様の態度は傲岸不遜にして傍若無人!それも今回に限った話で無く以前から貴様の言動に私は怒りを覚えていた!!恥という概念を理解しているのならばその厚顔無恥な態度を今すぐに改めてみせろ!!」

 

「ははは、威勢がいいな貴様は。学園長(ジジイ)から押し付けられたそれら(・・・)は、私からすれば糞喰らえ、の一言で済む下らん話ではあるのだが……まあ、礼を逸しているのは確かだな。貴様の言葉は正しかろうよ魔法使い」

「………何…………!?」

 

ガンドルフィーニからすれば意外なことに、エヴァンジェリンはあっさりと己に非がある事を認めてみせた。

 

「元より私の両手は血塗れさ、高々十数年ばかりの奉仕活動(・・・・)で赦されたなどとは思っとらん。…あの考え無しに押し付けられた勝手な機会にせよ、考えされられるものはあり、煩わしいばかりで無くそれなりの幸いもあった」

 

だがなぁ、と、エヴァンジェリンは嘲笑うかの様に両の口端を吊り上げ、ガンドルフィーニへと言葉を吐き捨てた。

 

「何処まで行っても善行は贖罪に成り得る代物では無く、死者に対して生者が出来得る事は究極的には何も無い(・・・・・)。悪いことをした奴は善いことをして償いましょう?……お前達は其処ら辺を少しばかり勘違いしているんだよ」

「……だから貴様は我々の活動に加わる事に意味は無いと!悪人は変わり得ないと開き直るつもりか!?」

「違う」

 

ガンドルフィーニの叫びにエヴァンジェリンははっきりとした否定を返した。

 

「私はただ、私を裁く資格があるのは地獄で私が何時か迎えるであろう滅びを待つ、私が殺めた怨霊共だけだろうと言いたいのだよ。貴様ら正義(・・)の魔法使い共が勝手に下した裁き等に身を任せるのはお門違いだし単なる茶番だ、そのような意図で私は動かん。……ただ、先程述べたようにジジイやあの馬鹿、そして私の様な厄災を抱え込んで要らん苦労を背負い込んでいる貴様等には些か借りがあるのは確かだ。その借りを返すまでは上の指示に従ってやるさ。どうせ下手に出歩けばヘルシング教授気取りの正義漢や、怨嗟を引き篭りの心中で薄ら暗く発酵させたストーカーに囲まれかねん身だ」

 

だからさっさと調書を再開しろ、と椅子の背凭れに寄りかかってふんぞり返るエヴァンジェリンの態度にガンドルフィーニはいよいよ血管を二、三本ブチ切ったかの様な憤怒の形相を浮かべて身を乗り出すが、

 

「すいませんねガンドルフィーニ先生、これでもエヴァさん凄く機嫌が良いんですよ」

 

僅かにエヴァンジェリンの隣で椅子から上体を起こした山下が手を翳して押し留める。

 

「……っ!山下君!!」

 

「はい、それが問題起こした人間の態度かというのは百も承知です。でも何と言いますか、無茶を承知で言いますがどうか堪忍して頂けませんでしょうか?この人(エヴァさん)ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン(CL-20)使った地雷並に面倒臭い地雷女でカーボンナノチューブ(CNT)(クラス)の筋金入った捻じくれ者ですんで。非を認められても頭を下げられない可哀想な女なんです、あんまりガミガミ怒鳴ってるとヘソ曲げて逆ギレした挙げ句に暴れ出しますんでどうか反抗期且つヒステリックな10代半ばから後半年代少女(ティーンエイジガール)でも相手にしていると思って一つ大人として寛大なグエェ!?」

 

「なんだ貴様絞め落とされては覚醒してまた落とされる無限地獄が味わいたいなら早く言わんか慶一ぃ?」

 

背中に飛び乗られた一瞬後に完璧な裸絞め(チョークスリーパー)を極められた山下は最後まで言葉を吐けずに悶絶の表情を浮かべてーー

 

ーー数秒後にその顔を訝しげなものに変え、エヴァンジェリンの細腕が巻き付いたままの首を傾げた後に、ハタと思い当たったという表情で後方のエヴァンジェリンに告げた。

 

「…エヴァさん、僕もう息してないから効かないんじゃない気道圧迫関連?」

「………ああ!そうか。そうだな…………」

 

エヴァンジェリンはしまったと僅かに顔を顰めて吐き捨てて、

 

「なら首の骨をへし折ってやろう。何心配するな、成り立てといえ吸血鬼ならば10秒もかからずに再生する」

「ギャー待った待っエヴァさん確かに些か言い過ぎまグゲゴ、ゴッ……!?」

 

「いい加減にしなさい君達は!?」

 

曲がってはいけない方向に山下の首を捻じ曲げ始めたエヴァンジェリンを青筋を額に浮かべて止めに入る弍集院であった。

 

「………………糞っ………………」

 

ガンドルフィーニはんな一連のやり取りを黙ったまま睨み付ける様に見ていたが、やがて小さく吐き捨てるとドカッと乱暴な動作で己の椅子に座り直す。

 

「…………私の。たかが30余年生きた程度の若輩の言葉では、貴様には届かないか、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル……」

「……まあ、そんなことは無い、等と白々しい台詞は吐かんがな。相手にするつもりが無い訳でもないぞ、これでもな」

 

打って変わって力無いガンドルフィーニの言葉に、エヴァンジェリンは一つ息を吐いて苦悶の表情をしている山下の身体から滑り降り、己の椅子に腰掛けながら僅かばかり柔らかい声音で語り出した。

 

「貴様が単に私を気に入らないだけで突っ掛かる訳で無いのは解っている。話に聞く(・・・・)伝説級の悪者を毛嫌う薄っぺらい正義感だけが貴様の芯では無いのだろう。…私が受け入れた其処の底無しの大馬鹿は貴様の半分生きたかどうかだ、年齢や経験が全てなら私は私の歩んだ年月の35分の一以下しか生きていない青二才になど絆されんよ。ただ貴様の言葉は聞こえるし届きもするが響かない(・・・・・)、それだけだ」

「…………!!」

 

私は面倒臭い女らしいのでなぁ、と、エヴァンジェリンは渋い顔で首を回している山下を軽く睨み上げた。

 

「私ニ意見シタキャ少ナクトモ人生賭ケナサイ、ッテヨ。本当ニ面倒臭エ女ダナ」

「マスター……慶一様が居て下さり幸いでしたね……」

 

「喧しいわボケ従者共!!」

 

ギャアギャアと騒ぎ始めたエヴァンジェリン一行をガンドルフィーニは何処か口惜しげに見やっていたが、苦笑を浮かべた弍集院に肩を叩かれてから暫しして頭を振り、厳格な表情へ戻ると怒鳴り声を張り上げた。

 

 

「……全員静粛にしたまえ!!調書を再開するぞ!!」

 

 

 

「……で、エヴァさん。結局誰なのあの人?」

「正確には人では無いがな。奴の名はアルビレオ・イマ。あの馬鹿(ナギ)の盟友の一人にして凝り性の変態古本だ」

 

 

 

 

 

 

『クウネル選手の繰り出す不可視の力が目まぐるしく動き回る豪徳寺選手を追い詰めるぅぅ!先程迄とは打って変わって豪徳寺選手は攻撃を避け出しましたね喧囂部長!!』

『あの不可視のエネルギー……斥力の放出か重力磁場の形成かはたまた不可視化迷彩を施した重量兵器の連撃かは知りませんが、クウネル選手の放つ攻撃は相当の威力を秘めているのでしょう。普通に見ている限りで闘技場の床に容易く直径数mのクレーターを形成する攻撃が機関銃(マシンガン)、とまで行かずとも連射式拳銃(オートマチックピストル)並の密度で飛んで来ていますからね。豪徳寺選手が幾らタフでも限界が存在しない筈がありませんし、あの手の攻撃は喰らえば足が止まります(・・・・・・・)。磔られて連射を喰らえば最期でしょうからね、豪徳寺選手は反撃の機会を伺っているのでしょう』

 

彼方此方が破砕し、最早原形を留めていない蜂の巣が如き闘技場の上。

クウネルが腕を振るう度に不可視の仮想重力力場が放たれ、瞬動を繰り返して縦横無尽に闘技場内を疾駆する豪徳寺に追い縋る。

当初気弾でクウネルの重力攻撃に対抗していた豪徳寺だったが、何時しか気弾の放出を避け切れない仮想重力力場の迎撃のみに絞り、次第に一方的に攻められる展開となっていた。

 

「糞ったれが厳しい状況だぜ」

「このままではじり貧だな。あの躊躇無い全力攻撃を見ている限りでは魔力切れも期待は出来んようだ」

 

中村と大豪院は渋い表情で豪徳寺の不利を語る。

 

「豪徳寺先輩、なんで反撃しない訳!?さっきまでは互角っていうか、寧ろこっちの攻撃の方が当たってた感じだったじゃない!!」

「明日菜の姉ちゃん、ホンマの仕組みは解らんがあのローブ男には攻撃が効かんか、効いとったとしても直ぐに回復してまうような何か(・・)があるんや、ダメージ無いんなら撃つだけ無駄やわ。おまけに直撃(ちょく)るたんびにフッフフッフ姿消して瞬間移動かますんやで、却って反撃喰らい易い状況作るだけや」

「……それに、大豪院さんが言った通りクウネルさんは魔力を何らかの手段で回復、又は補充する手段を持っていると思います。重力魔法は魔力の消費率が高い高等魔法です、幾らクウネルさんが凄い魔法使いでもこんな風に無造作なバラ撒き方は本来出来ない筈なんです。これに対抗していたら、幾ら豪徳寺さんでも気力が保ちません!」

 

「MP無限で毎ターンベ○マ使うシ○ー(破壊神)が相手みたいなモンか。アイツがもょ○とでも勝てねえなこりゃ」

「日本語で喋りなさい、篠村」

「で、でもそんな魔法聞いたこともありませんよ…………!?」

 

「まあ、そんなもの普段から使えるならあの胡散臭いの一人で世界救えるアルから、何かカラクリがあるアルな」

「…で、ござるな。問題はその絡繰りを無しとするような都合の良い展開をクウネルなる御人は到底許してはくれぬ、という点でござる」

 

「………………」

「……那波さん…………」

「……大丈夫。駄目ね、見せて下さい(・・・・・・)って言ったのは私なのに。それにあの人は私の為だけに闘っている訳じゃ、無いのにね………もう止めて、なんて今の私に言う資格は無いのよ?」

 

ついつい、自惚れた勘違い女みたいなみっともない振舞いをしてしまいそうになるわ。と、やや力無い微笑みを湛えて千鶴は傍らの夕映に述べる。しかし、そんな千鶴の言葉に夕映の隣にいたのどかは首を振り、珍しくはっきりとした口調で言葉を返した。

 

「……那波さんは、豪徳寺先輩が心配なだけ、です。……好きな、気になってる人が危ない目にあってるなら、当たり前です。豪徳寺先輩も、他の人も、誰も馬鹿にしたりしないと思います、那波さん」

 

最もその後にのどかは顔の色を真っ赤に染めて傍らの夕映の身体に顔を埋める様にしてゴニョゴニョと言葉にならない何事かを呟いており、夕映は苦笑と共にそんなのどかの頭を軽く抱えながら驚いた様に目を見開く千鶴に告げる。

 

「……心配して心を痛める位なら応援の一つもした方がまだマシだ。…等と言っても心配は心配ですから。お馬鹿な先輩の言い方を真似るなら、今からそんなにいい女でいなくてもいいじゃんよ……というやつです。少しは素直にヒロイン(・・・・)をやっても良いと思うですよ?」

「………ふふっ…………!」

 

夕映の言葉に千鶴は思わずといった様子で笑みを溢し、悪戯っぽい口調で言葉を返した。

 

「…なんだか綾瀬さん、中村先輩に少しだけ似てきたんじゃないかしら?」

「止めて下さい冗談抜きで吐き気がします」

「ゆ、ゆえ~…………!」

「宮崎さんもありがとう、少し気が楽になったわ」

 

本気で嫌そうに吐き捨てる夕映にのどかが中村の方を見やりながら慌て、千鶴はそんな二人の様子に再び笑みを溢した。

 

 

「……っけ。リーゼントの分際で物凄えイイ女捕まえやがってからに不慮の事故で死に腐ればよかろうに……!!」

「喧しいわ」

 

呆れた大豪院の言葉に構わず中村は両手をメガホンの様に口へ当て、豪徳寺へと轟く大声で喝を入れる。

 

「オルァ豪ゥゥゥ徳寺ィィィィィッ!!可愛子ちゃん不安にさせてんじゃ無えぞボケェェェェ!!単細胞が単細胞なりに頭使ってんだろうがンん~なモン全っ然てめえらしか無えんだよおぁ!てめえは難しい事出来ねんだ、何時も通り(・・・・・)腹ァ括って行けやぁ!!それで駄目だったとしてもぉ!結局他に何やっても勝てねえよてめえはぁぁぁぁっ!!」

『な、中村さん、それって応援じゃ無いと思います!?』

 

 

 

「……てめえにだけは単細胞呼ばわりされる筋合い無えよボケが」

 

自分の直ぐ真横の空間を巻き込む様にして地へと落ち、クレーターを形成する仮想重力力場をやり過ごしながら、豪徳寺は小さく毒づいた。

 

「……が、まあ確かに俺らしかぁ、…無えんだわなぁこれは……」

真っ直ぐ突っ込んでぶちかます。

凡そ全ての戦闘でそんなコナン・ザ・グレート(元祖脳筋)上等の闘い方を続けて来たのが豪徳寺 薫である。そんなやり方でバカレンジャー(麻帆良最強の一角)まで登り詰め、結果を出してみせた豪徳寺は、己のやり方を間違っているとは思わない。効率的な、もっと上手い方法は幾らでもあるのだろう。しかし、そんな器用な真似は豪徳寺には出来なかった。

真っ正面から堂々とやり合うのが自分は最も力を発揮できるのだと、豪徳寺はそう確信しているのであった。

 

……それが出来ねえのは、いやとり辛くなっちまったのは。…良くも悪くも(しがらみ)が増えちまったからだろうなあ、オイ…………

 

可愛い弟分の親父を見つけてやる為に勝たなくてはいけない。

自分なんぞを気にしている酔狂な女の子にいいところを見せてやりたい。

柵が増えるのは悪い事ではない、悪い事では。

少なくともガキの時分の、腕試しか憂さ晴らしか判別のつかないような暴れ方をしていた頃の自分よりは万倍マシな理由で拳を振るっていると、豪徳寺は胸を張って言えるから。

 

……それでも、それに囚われ過ぎてらしく(・・・)なくなるのはそもそも俺じゃねえ、か………………!!

 

豪徳寺に難しい事は解らない。

クウネル・サンダースには目下豪徳寺の攻撃が効いていない以上、無闇矢鱈に仕掛けても通用しないのかもしれない。

しかし、それならば。

 

「……通用するまでぶっぱなすのが(オレ)ってモンだわなあぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

豪徳寺はそんな完全に開き直った頭の悪い宣言と共に、飛来した重力球を躱し様クウネルへと一直線に突っ込んだ。

 

 

 

『おぉーっと!?先程まで回避を優先しクレバーに隙を伺っていた豪徳寺選手、突如としてクウネル選手へと特攻ぉぉぉっ!!』

『…確かにあのまま後手に回り続けていればジリ貧で潰されて終わる事も充分に有り得ます。クウネル選手がへばらない(・・・・・)なら耐え凌ぐ行為は詰みでしかない。……しかし今の豪徳寺選手は、我慢比べに自分が先に負けると読み切った故の打開行動、と言うよりは………!』

 

「……ただ、自棄になって飛び出した様にしか見えませんが…………!」

 

真意はどうあれ、容赦はしません。と、クウネルは凄まじい勢いで迫って来る豪徳寺へ仮想重力力場を連続して投射し、不可視の重力球が豪徳寺へと正面から突き進む。人体など容易くひしゃげさせ、グシャグシャの肉塊へと変貌()えてしまう重さ(・・)という力の塊を前に、されど豪徳寺は臆さずに犬歯を剥き出して嗤う。

 

「……っ!極漢魂(きわめおとこだま)ぁっ!!」

 

豪徳寺の放った巨大な気弾は先頭の重力球と激突して炸裂、後に続く複数の重力球を巻き込みながら歪んだ大爆発を引き起こした。

 

「あんま舐めんなぁっ!!」

 

吼えながらクウネルの攻撃をやり過ごした豪徳寺は光の幕を引き裂きながら突貫し、クウネルへと拳を打ち込もうとする。

 

「…舐めているのは貴方でしょう」

 

しかし、爆発を越えた先に立つクウネルは冷たくそう言い放ち、力ある言葉を解き放つ。

 

昏く 深く(リコフォス アルトゥス) 冷たい窖( パノゴメー スペーライオン)!」

 

解き放たれた夥しい数の仮想重力力場は真っ直ぐ突っ込んで来た豪徳寺へとカウンターとなり真面に直撃。圧縮されていた重力の弾ける甲高い音が無数に重なり、幾重にも歪んだ歪む空間の中央に豪徳寺は呑み込まれた。

 

「うわぁーーっっ!?」

「あかんモロ(直撃)や!?」

 

圧倒的な力の重層空間に取り込まれた豪徳寺の姿にネギと小太郎は焦りの声を上げ、会場のあちこちからもどよめきに似た悲鳴が上がる。

ただ、そんな中で口端を上げ、ニヤリと笑みを浮かべる者、二人。

 

「ま、紛れもなくトドメとしてぶっぱしたモンだろな。実際俺らが喰らえば普通にヤベえわ」

「だが、しかし」

 

と、大豪院は楽し気に中村の後へ続けた。

 

普通にヤバい(・・・・・・)程度ではその男は沈んでくれんのだよ、クウネル・サンダース」

 

 

 

「おおおおおおおお漢漢漢漢オオオォォォォォォッッ!!!!」

 

「……っ!?」

 

重力球の群を豪徳寺へと直撃させ、クウネルが或るかないか程度に気の緩みを見せた瞬間、その割れんばかりの咆哮は轟いた。

高密度、大質量の重力影響下にあって歪む空間の中央に黄金色の光が垣間見える。次の瞬間にそれは溢れんばかりの金色の瀑布となり、空間歪曲を起こしている高重力影響下一帯を諸共に吹き飛ばした。

 

「いいや、やっぱ舐めてんのはテメエだオラァァァァァァッ!!」

 

波濤を押し割ってクウネルへと突き進むのは全身を黄金色に輝かせた豪徳寺その人であった。

 

「えぇぇ何あれサ○ヤ人!?」

「……全身を最大級の気で強化してゴリ押しやがったあの脳筋!!」

「…あの重力魔法を身体強化と気の放出のみで!?」

 

「……くっ!?」

「遅ぇんだよボケがぁぁぁぁぁ!!」

 

繊手を差し向け、迎撃に移ろうとしたクウネルのその手を豪徳寺は腕の一振りで払い除け、逆の拳をクウネルの鳩尾へ深々と突き立てる。

 

「………!!」

 

猛烈な衝撃に身体全体の浮き上がったクウネルの視界に飛び込んで来たのは、己が顔面に向かって鉄槌の如く降り落ちる豪徳寺の降り下ろしの右(チョッピングライト)だった。

 

 

『ぜ、全身に光を纏ってクウネル選手の何だかよく解らない攻撃を強引に突破した豪徳寺選手、強烈なボディーブローからの打ち下ろし一閃!闘技場の床にめり込ませたクウネル選手へと馬乗りになりましたぁ!!』

『マウント・ポジションですね。クウネル選手は正体不明の瞬間移動地味た移動を用いて、度々豪徳寺選手へ奇襲を行っています。物理的に逃げ道を塞いで攻撃を加える腹積もりなのでしょう』

 

直後、喧囂の解説が正しい事を証明するかの様に、豪徳寺の光輝く両の拳が弾幕の如く、クウネルの顔面に降り注ぎ始めた。

 

 

 

「っしゃあぁ休むな豪徳寺ぃ、そのまま伸しちまええぇぇあ!!」

「このまま物理的に擂り潰せるなら勝機はある、が…………」

 

「ていうかあれもうマウントじゃ無えだろ、ほぼ中腰だしローブ男の上半身全体に拳当たってるしローブ男は次第に埋まってくし……」

「指摘するべき点は其処では無いでしょうが……」

「ひ、ひひひ挽き肉みたいになっちゃいますよお姉様、お兄様ーっ!?」

「いやならねえだろ、旦那方の見立てによると分身体だぜ野郎の身体は」

 

歓声を上げる中村の一方で大豪院は懸念の声を洩らす。段々感覚が麻痺してきたのか死んだ魚の様な目で淡々とツッコむ篠村に、更にツッコミを入れる高音の声にも力は無い。一人わたわたと慌てる愛衣にカモは落ち着けと声を掛けた。

 

『わ、わ!これって豪徳寺さん勝てますか!?』

「…あのまま逃げられなければ可能性はあるアルが……」

「拙者らの見立てではおそらく……!…………やはり……!!」

 

歓声を上げるさよに古が唸る様に返事を濁し、楓が言葉を続けようとしたその時、何の前触れも無く屈む豪徳寺の傍らに現れたクウネル(・・・・)が、横合いから豪徳寺の顎を蹴り上げてその身体を宙に浮かし、駄目押しの仮想重力力場を上から叩きつけた。

 

 

唐突に殴り付けている相手の手応えが掻き消えたと思った次の瞬間には身体が持ち上がる程の勢いで顎を蹴り上げられ、重力に潰された。

豪徳寺の感覚でクウネルの動きを説明するならそれ程にどう対策のしようもない、理不尽なものであった。

 

……悪い方の予想が、当たっちまったかよ……………!!

 

豪徳寺は内臓が丸ごとひっくり返ったような錯覚を感じる程に凄まじい重圧を全身に感じながらも拳を握りしめて前方に突き出し、気弾を撃ち放った。

確かな手応えに霞み始めた目を見開けば爆裂した気弾の衝撃を喰らって吹き飛ぶクウネルの姿が歪む視界に入り、豪徳寺は笑みを洩らしながら物理的な重圧を払い除けて身体を起こした。

 

…………身体を元通りにしてんじゃなく、分身体を瞬間的に再構成してんだなあれは。んで恐らく好きな座標に再構成が可能だから致命打を受けた時点で古い分身を破棄して有利な位置から現れて反撃可能、と…………

 

物理的な拘束も意味無えとかほぼ詰んでんな、とボヤきながら豪徳寺が完全に身体を起こすと、丁度闘技場の端まで吹き飛んでいたクウネルも身を起こす所だった。

 

『り、両者共に立ち上がりましたぁーっ!?打撃、気弾に正体不明の攻撃と、尋常でないダメージを双方受けている筈ですがその動きに衰えは感じられません!!試合前は想像だにしませんでしたが、この闘い不死身VS不死身の様相を呈して参りました!!』

『……違いをあげるのならばまさしく、二人の不死身振りの理由(・・)でしょう。豪徳寺選手のそれはタフネス…の一言では説明出来ない凄まじさですが、それでも桁外れの打たれ強さと体力という表し方でまだ理解出来ます。しかし、クウネル選手のそれは全く得体の知れない何か(・・)ですね。試合時間も半ばを過ぎましたが、あちこち傷付いた様子の豪徳寺選手と違いクウネル選手の身体には幾多の攻撃を受けながら未だ傷一つ見受けられません。一見互角の勝負ですが、クウネル選手には消耗している様子が感じられません』

 

このまま行けば恐らく先に力尽きるのは豪徳寺選手の方でしょう。と、喧囂は重々しい調子で言葉を締め括った。

 

 

 

「……どう思いますか?」

「解説の言う通りでしょうな。豪徳寺の最大火力であのクウネルとやらの構成体を吹き飛ばせん以上どれだけ攻撃を加えようが無意味です。どちらも強みは耐久力であり、戦法が噛み合い過ぎた為に膨大であっても無尽蔵でない豪徳寺が削れているのです」

 

何者ですかあれは?と、エヴァンジェリン一行を連行してからすらむぃ達の転移によって再び会場に戻って来た教師陣営の片割れ、杜崎が高畑へと訪ねる。

 

「……一言で述べるなら古い知り合い、となりますが…………言ってしまえば赤き翼(アラルブラ)の一員、ですね…………」

「………それはまた…………」

 

観客席の屋根上にて立ちながら渋い表情で絞り出す様にして答えた高畑の言に、杜崎もまた呻く様な調子で言葉を返した。

 

「…では差し当たってあれは全力で無いと。まあ当然でしょうが」

「なぜそう思われますか?」

 

高畑の問いに杜崎は愚問ですな、と鼻で笑って答える。

 

「流石に英雄様御一行(・・・・・・)の顔ぶれと成り(・・)は木っ端魔法使いの私でも存じ上げていますよ。西の長殿やかの伝説の傭兵の他は生死不明、とのことでしたが……あの瓢箪爺いめが一体幾つの厄ネタを抱えている黒幕秘密主義者めが……!」

「……いや杜崎先生…………いや間違いなく学園長は知っておいでか…ネギ君達の話では図書館島の奥に定住しているらしいし、幾ら何でも勝手に出入りできる様な所でも無いし……」

 

瞳の奥に剣呑な光を宿らせて己が属する組織の最高権力者に対して怨嗟を唱え始めた杜崎の様子に、近右衛門のフォローを試みかけた高畑だったが、状況的に庇い立てできる点が思い当たらず言葉を濁す。

 

「……まあ妖怪総大将(ぬらりひょん)の邪智暴虐については後程追求するとして話を戻しますが、ともあれあのローブ男の戦闘に於ける役割は純後衛に近いのでしょう?それで武道馬鹿のあいつら相手に近接戦闘で張り合ってみせる裏トップクラスの水準(レベル)には脱帽ですが、あの妙な分身体の術式を態々引っ張り出してまで畑違いの分野で試合に臨んだり、使う魔法に関しても即死級のものを使用せずにいたりとまああからさまに手加減をしているのは見て取れますよ」

 

何より、と杜崎は前置いて、口端を歪めながら締め括った。

 

英雄(ホンモノ)がついこの間まで表にいた学生には負けられんでしょう?」

 

「…………成る程………………」

 

語り口は皮肉気な調子を含みながらも、素直な賞賛の意を秘めた杜崎の返答が嘗てのナギ・スプリングフィールド一行を知る身としてはどうにも面映ゆく、なんとはなしに返す言葉を思いつかずに高畑は相槌を返した。

 

「……まあもっとも……………」

 

と、杜崎はゆっくりとした歩調で前に出るクウネルを見下ろしながら顰めっ面で言い捨てる。

 

「恐らく浅からぬ付き合いなのでしょう高畑先生には悪いのですが、私はあの御仁どうも好きになれませんな。何やらあの馬鹿共を気にかけている様ですが、武道家相手に試合で写し身を繰り出すのは私事ながら、非常に気に入らない」

 

 

 

「貴方は本当に打たれ強いですね、豪徳寺君。まさかあれを堪える所か弾き返して反撃をしてくるとは……試合の範疇で貴方を時間内に倒すのはどうやら私には難しいようです」

「…その言い方だと試合でない実戦なら、でもって時間制限が無けりゃあ俺に勝つのは余裕だって言ってるようにしか聞こえねえな。……つくづく癇に障る野郎だてめえは……!!」

 

向かい合い、両手を広げて声に感嘆の色を滲ませるクウネルに、豪徳寺は怒りを滲ませて獰猛な表情(かお)で睨み下ろす。

 

「こうなりゃとことん消耗戦をやってやろうじゃねえかよ!余程自慢のお人形みてえだが、例え今のてめえが不死身でも俺は正面からてめえをぶっ潰す!!」

 

ボウ、と豪徳寺の全身を再び黄金色の光が覆い、両腕に気が圧縮されていく。

クウネルはそれに倣って構えを取るでも無く、フードの奥の眼へこれ迄に無い鋭いものを滲ませ、懐へと腕を差し込みながら口火を切った。

 

「……いえ、豪徳寺君。恥を偲んで言わせて貰いますが、返す返すも私は貴方を見縊っていました。理由は幾通りにも、如何様にも思い当たりますが、それをこの場で告げる事には貴方を侮辱し、私の株を更に貶める以上の意味合いは見出だせませんので、口には出さずにおきましょう」

 

貴方に倣って私も一つ、単純明快(シンプル)に宣言させて頂きましょう。と、クウネルは言い放つ。

 

「私の実力(ちから)では貴方を殺さずに倒し切るのは難しい。しかし未来ある、しかも旧友の忘れ形見がこれ以上無い信を置く一人である貴方を殺めるのは忍びない…………故に私はこれ(・・)に頼るとしましょう」

 

そう言って懐から引き抜かれたクウネルの細い手指には、見覚えのある形状のカードが挟まれていた。

 

 

「あれは……!?」

「アーティファクトカード!?」

 

驚愕に目を見開き呻いた篠村の声を遮る様にネギがそう叫んだ。

 

 

「世界の頂点に近い者()力量(レベル)をお見せしましょう。如何なタフネスを誇る貴方であろうと、彼等(・・)には決して耐えられない」

 

 

…………本気、だな………………

 

豪徳寺は我知らずに競り上がってきた粘性の高い血液混じりの唾液を飲み込む。

言動のいけ好かない相手ではあったが、クウネルの実力が本物であることはこれ迄の闘いにて豪徳寺は充分に理解出来ていた。此方を抑え付ける重圧(プレッシャー)の類を発しない為に解り難いが、嘗て闘ったエヴァンジェリンや白黒コンビと遜色ない実力を目の前の男(クウネル)は備えているのである。

 

……喧嘩は相手選んでやるモンか?まあ普通はそうなのかもしれねえなぁ……………

 

自分一人では、到底勝ちの目など見出だせない相手なのかもしれない。

 

……っても、ンな泣き言は俺が一番嫌いな類いのものだぜ………………!!

 

されど、戦力比だの相性だの小難しい理屈を豪徳寺は一々考えて喧嘩をしない。全力でぶつかり、必倒の意志にて拳を振るう。そうしなければ勝てる勝負も勝てなくなると豪徳寺は理解していた。

 

「……出来ねえと思いながら出来る事なんざ何一つ有りはしねえ。てめえは俺よりも格上か?だとしてもそれは俺が敗ける理由にそのままなりゃしねえんだよ!!」

 

豪徳寺は爆発的に内在している気を全身の強化に充てて全力放出。最早目映い光の巨人と化した豪徳寺はクウネル目掛けて飛び出す。

迎え撃つクウネルは来たれ(アデアット)の言葉と共にアーティファクトを顕現。幾百という数の螺旋状に宙へ浮かんでクウネルの周りを取り巻く書物の群を召喚した。

豪徳寺が突進しながら撃ちだした二つの巨大気弾が、傍らの一冊を手に取り逆の手に持つ栞を手挟んでから引き抜いたクウネルへと突き進んでーー

 

神鳴流奥義(・・・・・)……!」

「っ!?」

 

ーー直後、斬り裂かれ四散した気弾の影から細身の野太刀を振り上げた(・・・・・・・・・)眼鏡の男が、豪徳寺目掛けて突っ込んで来た。

 

「百裂桜花斬・二ノ太刀!!」

「が、ぁ……っ!?」

 

一瞬に満たない刹那の合間に多重の斬撃が男から繰り出され、豪徳寺の全身を打ち据える。最大限の身体強化により最早戦艦主砲の直撃にすら耐え得る筈の気の鎧が容易く斬り裂かれ、肉が潰れ骨の軋む激痛(いた)みを豪徳寺は全身に受ける。

 

「……こ、の期に及んでっ、何処まで舐めてんだてめえはぁぁぁぁっ!!!!」

 

控えめに表現して大打撃を受けた豪徳寺だが、怯まず咆哮を一つ上げて男へと飛び掛かる。

豪徳寺の怒りは攻撃を受けたからでは無い、その攻撃(ざんげき)

が刃を返した峰打ちによるものであったからだ。無論のこと試合に於ける刃物の使用は大会の規則にて禁止されている。しかし豪徳寺はそれ以外の意志、手加減(・・・)の意図を受けた攻撃から感じ取っていた。

則ち、本身の一撃では危険でしょうから。という気遣いや配慮、情けや慈悲の念とも言い表せよう余裕(・・)の表れ。

 

大仰な言い方をするのならば真剣勝負に於ける武人としての礼儀の欠如に豪徳寺は憤ったのであった。

 

「零距離爆撃ならどうだオラァァァァァッッ!!」

 

憤怒の形相を浮かべた豪徳寺は野太刀を振り切った姿勢の男へと全力の右拳を叩き付け、接触(インパクト)の瞬間に気弾を放出。轟音と共に光の爆発が掌を翳し防禦(うけ)に入った男を包み込んだ。

 

『……!…ご、豪徳寺選手の特攻に何やら大量の書物らしきものを何処からか取り出していたクウネル選手!!ローブを脱ぎ捨て?やはり何処からか取り出した長大な刀にて猛烈な反撃を繰り出しましたが、恐るべきタフネスの豪徳寺選手から渾身の更なる反撃!爆撃をまともに喰らったぁぁぁぁぁっ!!』

 

「…………今のは……!?」

「俺が知るか。でもよぉ…………」

「ああ…………!!」

 

 

 

「…………今の…………お父様やった……えらい若い、姿やったけど………………!!」

 

固唾を飲んで豪徳寺の試合を医務室にて辻や刹那と見守っていた木乃香は、驚愕に掠れる声でそう、呟いた。

 

 

 

「……ほぉーう………………」

「…………な………………!?」

 

気弾の爆裂による光の残滓が消え失せ、視界が開けた闘技場の上。

豪徳寺の拳を掴んで止めている(・・・・・・・・)浅黒い肌の二mはあろうかという白髪の巨漢は、感心した様な唸り声を上げた。

 

「いいパンチじゃねえかよ、気もよくその歳でここまで練り上げたなぁオイ」

 

ニカッと人好きのする笑みを浮かべた巨漢は、空いている右の拳をと握り締めてゆっくりと振り被る。

 

その瞬間。

選手席にて見ていた中村の背筋に怖気が走り抜けた。言葉にして表現しようの無い、一言で表すなら戦慄としか言い様の無いそれがもたらす衝動のままに中村は血相を変えてーー付き合いの長い大豪院すらも見たことの無い程の慌て様でーー手摺から身を乗り出し、豪徳寺へ向けて叫んだ。

 

「避けろ豪徳寺ぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

「……………!?…………っ!!」

 

悲痛なものさえ感じる中村の絶叫に豪徳寺は驚愕から来る呆けから立ち直り。

直後全身に再び気を巡らせ、歯を剥き出しにしながら身体を回し、全力の左拳を繰り出した。

巨漢の放った突き上げる右と豪徳寺の内側へ切る左が交差して。

 

直後、豪徳寺は鳩尾に喰らった右拳の衝撃によって冗談の様に高く、()へと打ち上げられていた。

 

「……っ痛ぇな〜…お、血ぃ出たわ。本気でやるじゃねえかあのガキ」

 

 

 

「…………っあんの、馬鹿が……!!意地張る場所考えやがれよ!?」

「中村!!」

「あれはヤベぇ、下手しなくても死ぬ!!」

「………っ!!…………先輩!?」

 

グシャリと己の前髪を握りながら呻く中村に大豪院が顔に焦りを浮かべて声を掛け、今の一撃が危険な代物であった事を半ば自棄な口振りで中村は返す。

千鶴の見上げた豪徳寺は、遠目にもしかと理解(わか)る程に重傷(・・)だった。

 

 

 

「……げ、がぁ…ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

優に二十m以上も打ち上り宙に舞う豪徳寺は、束の間己の状況も何もかもを忘れて身体を二つに折り、苦悶の声を上げた。

それは只の右拳であった。それも豪徳寺の放った左拳と巨漢の右拳が擦れ合い、互いに当て所(・・・)を微妙に外していた為に、豪徳寺の受けたダメージは本来のそれよりも幾分軽減している。

その上で、そのたかが拳の一撃は豪徳寺の強靭な気の防御を頑強な肉体を歯牙にも掛けずに破壊(・・)した。

 

…………肋が……完全に、イカれやがった…………!!…………この、感じは……胃が、破れちまったか………!?

 

腹を中から二つに引き裂かれた様な激痛に定まらぬ思考の中で、兎も角豪徳寺は追撃に備えて身体に喝を入れるが、痛みに頭は回らず四肢は鉛の様に重く、全身に力が入らない。

唯の一発で豪徳寺は根刮ぎを持っていかれていた。

 

『構えとれ小僧。守護(まも)らねば貴様、命が無いぞ』

 

それでも豪徳寺が藻掻く様にして空中で身体を返したその時、頭の中へ直接そんな声が響いた。

 

「っ…………!?」

 

豪徳寺が何とか身体を捻り、遥か下となった闘技場を見下ろすと、そこには小さく(・・・)なったフード付きのローブ姿をした男がいた。

 

 

 

「…………やれやれ。」

 

まるで童子のように小さいその男は深い嘆息を一つ洩らす。

 

「二十を過ぎん、それも半ば表の若造にここまですることもないじゃろうが…詠春はまだしもあの馬鹿二号は……下手せんでも死ぬぞ」

 

まったく……、と尚も愚痴を溢しながら小さな男は魔法(・・)を紡ぐ。

それも魔法の才を持たぬ一般人の観客達にすら感じられる程の莫大な魔力を発しながら。

 

その様子に今度は篠村や高音といった魔法関係者達が血の気を引かせる。

 

「……っ!?篠村!!」

「お兄様!!これは…………!?」

「…構成してる術式の数に複雑さ、おまけに漏れ出てる魔力の量からして………最上位魔法、恐らく水系統、か………?……………だとしてそれの詠唱圧縮してほぼ無詠唱でこの早さ、何処の化けモンだ!?」

「……そんな!?豪徳寺さんが!?」

 

「……高畑先生!!」

「……あれは、ゼクト(・・・)……!…アル(・・)、やり過ぎですっ!?」

 

 

 

「……安心せい、殺さんし後遺症も残さん。だからこその()じゃ」

 

フードの奥に灰褐色の髪と瞳を持つ少年の姿をした男は小さく呟き、その強大なる力を解き放った。

 

「…斯くして全てを水面の底へ 終末と創世 祖はただ荒れ狂う存在(もの) 溢れる大海(プリミラー オーケアノス)!!」

 

力ある言葉により膨大な魔力は天へと昇り。

数瞬の後、空は全て(・・)が莫大な量の荒れ狂う水塊に覆われ、陽の光が遮られた会場内は黄昏時の様な薄闇に包まれた。

 

『………え…………は、ぁ………!?』

『……()が……空に…………!?』

 

実況の朝倉も、解説の喧囂すらも言葉を失ってしまうような。そんな非、現実的な光景。

一般人は元より、危機的状況には素早い反応を見せる麻帆良の猛者達迄もが呆けた様に空に浮かぶ海を見上げていた。

 

その天地創世の序章が如き幻想的な光景から最初に立ち直ったのは中村であり、直ぐ様傍らの篠村の腕を掴んでその身体を揺さぶりに掛かる。

 

「おい、呆けてんな篠っち!!あれは何だ豪徳寺は無事かオイ!?」

「……あ?ああ…………」

「呆けんなっつーに!!」

「痛ってぇ!?……てんめぇ…………ああ、あれは 溢れる大海(プリミラー オーケアノス)、水系魔法の最上位魔法だよ。町一つを易々と呑み込んで水没出来る桁外れの水を生成してその莫大な質量で圧し潰すか、若しくは単純に水攻め(・・・)に使うかすんのが主だ」

「……付け加えるなら、特殊な付随効果の無い単なる純水を大量発生させるだけの魔法である為に、最上位魔法の中では習得が容易な部類で純粋な火力に於いては最も低いわ…………あくまで最上位魔法の中では、だけれどね……」

「じじ、実際は魔法操作の加わった凄まじい水圧が水塊の中に取り込まれた対象に襲い掛かりますから………加えて他の魔法と違って、水系統の魔法は発動した後もその場に留まり続けるものが多いんです!あのままじゃ中の豪徳寺先輩が…………!!」

 

「…………つまり?」

「あの中にあのままなら豪徳寺は圧死して潰れた西瓜になるか窒息して土左衛門になるか、だ」

「豪徳寺さんがヤバいんですよぉぉぉぉぉぉ!?」

 

いまいち理解が及ばなかったらしく首を傾げて訊ね返す中村に淡々と大豪院が返し、ネギが絶叫を上げた。

 

 

 

「……頃合いかの…………」

 

魔法が発動してから一分弱。観客達のざわめきが徐々に大きくなりっていき、空中ってカウント入るんですか!?と喧囂に叫んでいる朝倉を尻目に小さな男は呟くと、腕を横合いへ一度大きく振った。

 

『!!、皆様ご覧下さい!空で荒れ狂う大海原の如き水流が分裂していきます!!』

 

まずモーゼの十戒が一節の様に水塊が二つに割れ、二つが四つに、四つが八つに、とあっという間に水塊は細かく分かれていき、軈て一つの塊としては視認出来ない水蒸気の靄の様に薄く広がった。

 

「それ」

 

と、小さな男が軽く握っていた五指をパッと広げる。すると靄は更に高度を上げて昇って行き、遥か空の彼方に消え去った。

 

「……え、えっと……あの、クウネル?選手……?」

「儂をそんな巫山戯た名で呼んでくれるな娘子。それよりも、気を付けい」

「は?」

「一雨来るぞい」

 

ポツリ、と、朝倉の鼻先に一滴の雨粒が落ちた。

 

「え…………っ!?」

 

誰かの溢した呟きが驚愕の声に変わる。

麻帆良学園祭二日目のAM10:16。麻帆良学園都市を中心として、周辺地域には約二分間の間通り雨が降り注いだと後に記録されている。

 

 

 

「…………聞こえてはいないでしょうが、豪徳寺君。これが世界の領域です」

 

いつの間にかアーティファクトを消し去り、元の姿に戻ったクウネルは、水塊から解放されてからピクリとも動かず、真っ逆さまに落下してきた豪徳寺を念動魔法で受け止めつつそう言った。

 

『ご、豪徳寺選手ピクリとも動きません!!これは勝負ありでしょうか!?』

『濁流に呑み込まれた人間は水の激しい流れによって翻弄され、当人が耐え得る潜水時間よりも遥かに短い時間で窒息に至ります。場合によっては早急に心配蘇生法を豪徳寺選手へ施す必要があるでしょう』

 

クウネルはゆっくりと豪徳寺の身体を闘技場の床へ横たえ、静かに歩み寄りながら尚も言葉を紡ぐ。

 

ゼクト(・・・)にも叱られましたが、如何に貴方達が強かろうとこんな大人気ない手段を用いてまで、普段の私ならば勝ちに拘りはしません。ですが何としてでも、今のネギ君にナギの後を追わせる事を容認出来ないのです。……ネギ君は無論の事、貴方達はまだ若い。よく学び、より良く世界を知ってからでも、真実(・・)を知るのは遅くはないでしょう」

 

カウントをお願いします、と傍らに控えていた朝倉にクウネルは告げて、豪徳寺の側に立ち止まる。

 

 

 

「……勝ちを宣言させて頂きましょう」

 

却下だこの糞野郎が(・・・・・・・・・)

 

 

 

ガシリ、と。

身動ぎもせずに苦悶の表情で横たわっていた豪徳寺が突如として跳ね起き、片手でクウネルの足を掴んだ。

 

「……っ!?…………馬鹿な……!?」

「舐めんなってよ。何回言ったよ俺ぁ?それがてめえの敗ける理由だボケェ!!」

 

……俺の最後の、とっておき(・・・・・)だ…………!!

 

…………これで駄目なら、俺の敗けだろうよ…………

 

豪徳寺は掴んだクウネルの足を引き寄せながら、空いた右拳へ体内に残っている気を全て集中させていく。

その集束していく気は僅かに漏れ出る余波だけで付近の床に不気味な亀裂を生じさせ、右の拳は太陽の如き凄まじい光を発している。

これは先程の小さな男が繰り広げた一種現実離れしたそれと違い、極めて容易に、近くにいるのが危険(・・)と理解出来る代物だった。

 

『部長あとよろしく!!』

『……え~皆様…………』

「皆まで言うな解説総員待避しろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

これは駄目だと一目散に駆け出す朝倉の言葉を受けて喧囂が避難を呼び掛けるよりも早く、ある意味慣れてきた観客達は蜘蛛の仔を散らす様に四方八方へ逃げ出していた。

 

「待避がビミョーに間に合わねえ、防壁張れ誰でもいいからぁぁぁっ!?」

「今度はどんな大爆発よぉぉぉぉ!?」

「いいから兎に退がるでござる!!」

 

豪徳寺が気を集束させ始めた時点で、ある意味勝手知ったるネギ達一行は一目散に避難を開始していたが、一部の人間の逃げ遅れによりモタついていた。

 

「は、早く逃げますよ那波先輩!?」

「…………っ!………ええ……でも、だけれど…………!!」

 

愛衣に腕を引かれる千鶴は、避難の指示に反対こそしないものの、その動作には明らかに精彩を欠いていた。

 

「……豪徳寺先輩は、あれじゃあ…………!!」

 

最早態々言葉にするまでも無い当たり前の話ではあるが、千鶴は豪徳寺の身を案じていた。

具体的な戦力の差など理解は出来ずとも、素人目にも豪徳寺が傷付いているのは理解(わか)る。豪徳寺は弱音を吐かず、辛そうな素振りも見せはしないが。

今の豪徳寺が無理をしている事を、千鶴ははっきりと感じ取る事が出来ていた。

辻と刹那の、山下とエヴァンジェリンの死闘を素知らぬ顔で見物していながらそれか、と、自分本意で身勝手な女の自分を笑う自分が心の中には居た。豪徳寺がそれ(心配)を望んでいない事も理解していた。

 

………でも、それでも…………!!

 

…………もしも、死んでしまったりしたら…………!?

それでも、こんなものは理屈では無い。

惹かれている男が危ない状況を、案ずるなと言う方が無茶な話なのだから。

 

「…勝つから、安心してろ那波(・・)ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「っ!?」

 

だから(・・・)(豪徳寺)はそう叫んだ。

見えていたのか、聞こえていたのかは解らないが、千鶴へ向けてそう言った。

それを受けた千鶴は一瞬目を見開いてから馬鹿、と小さく口から溢して。

一滴の涙を目尻に零しながら愛衣の誘導に従って退がり始めた。

 

「豪徳寺君っ!?」

 

(しん)漢魂(おとこだま)ぁぁっ!!!!」

 

クウネルの身体に叩き付けられた拳から膨大な気が弾け散り。

闘技場は半球形の放射状に広がる光に包まれ、直後衝撃波が周り全てを薙ぎ払った。

 

 

 

同時刻、龍宮神社を視界に入れていた周囲の人間は、(そら)へと立ち昇る目映い光の柱を目にしたという。

 

 

 

「…………もう崩壊すんじゃねぇか龍宮神社?」

「少なくともこの闘技場はもう駄目だな」

 

「……ねえ、本当に消滅してんじゃないのよ!?」

「何アルか今のは、滅びの○ーストストリームアルか!?」

「寧ろ核爆発のそれに思えたでござるが…………?」

 

もうもうと白煙が立ち込める闘技場及び観客席全般。

遂には完全に砕け割れ、水堀から流れ込む水によって完全に水没し始めた闘技場の中央にて精魂尽き果てた様子で座り込む豪徳寺を見やりながら中村達は言葉を交わす。

 

「…………今のは本当に気の爆発か?空にキノコ雲上がってねえだろうなオイ…………?」

「……範囲こそ狭いながら最上位魔法一歩手前位の破壊力はあったわね………」

「ば、爆発の余波だけで、此処まで衝撃が到達したんですか!?」

 

「…………消し飛んだのではないですか、クウネルさんは…………?」

「あ、あわわわわわわ…………!?」

 

「……なあネギ、今の見たことあるか?」

「…………無いよ………………」

『レーザービームみたいでしたねー』

 

『……豪徳寺選手の渾身の反撃(カウンター)が決まりました!!まるでSF小説のレーザーキャノンのような光の柱がクウネル選手を捉えたかに見えましたが……!?』

『見たところ空の彼方まで突き抜けて行きましたね、衛星でも落ちてきそうな凄まじい一撃でしたクウネル選手の姿が確認出来ません、よもや今の一撃で消し飛んでしまったのでしょうか?』

 

三々五々と散っていた観客達が恐る恐ると戻る中、豪徳寺はゆっくりと身体を起こしてフラフラと覚束ない足取りながら二本の足で立ち上がる。

 

「これが、私の!全力全開!!…的な一発だなオイ。もう気は空っぽだろあいつぁ」

「後先を考えないという点では実にらしい(・・・)がな。気の運用を更に昇華させたか、俺達でも真面に喰らえば消し飛ぶな」

 

ケケケと愉快気に笑う中村に上機嫌で相槌を打つ大豪院。

 

「……捉えた様に思いますが?」

消し飛んだ(・・・・・)。それは確かだ」

「……!!なら、豪徳寺先輩の勝ちやなぁ~!」

 

医務室では辻がその眼をしかと開き、モニターを凝視しながら断言した。

 

「……これは、勝ったかな?」

「…………ああ、勝ったよあの番カラは」

 

調書を取っていたガンドルフィーニ迄もが何時しかペンを持つ手の動きを止め、固唾を飲んで見守っていた一室。

座り込む豪徳寺を目にしながら沈黙を破り、そう問い掛ける様に呟いた山下に、エヴァンジェリンは確かにそう返した。

 

 

 

「少なくとも私なら此処まで見事にしてやられたなら敗けを認めているからな。勝ったと誇ってもなんら恥では無い、恥知らずはあの変態の方だ

 

 

 

「悪いな、那波」

 

と。

身動ぎもせずに豪徳寺を見守っていた那波は、豪徳寺が小さくその様に呟いた気がした。

 

「………………先輩……………………!!」

 

 

 

『ク、クウネル選手、突如として闘技場内に現れ出でたぁーっ!?その身体は今だ傷一つありません!あの核爆発が如き一撃すらも無傷で凌ぎ切ったというのでしょうか!?』

 

「…………消し飛んだと、思ったんだがな………………」

「……ええ、完全に前の身体(・・・・)は跡形も無く消滅しました」

「…………成る程、ね………………」

 

そう、クウネルの分身体は豪徳寺の奥の手、真・漢魂によって消滅していた。

しかし。

 

「……スペアを用意出来ませんなんぞとは一言も言ってねえわな、あんたは」

 

クウネルはクウネルなりに徹頭徹尾、勝ち(・・)に来たという、ただそれだけの話である。

 

「…………貴方の勝ちです、と……申し上げたい私がいます。貴方が成した事は、そう胸を張れる偉業です。…………しかし…………」

「それ以上は、言うな」

 

豪徳寺は静かに、しかしはっきりと怒気を篭めた一喝により、クウネルの言葉を遮った。

 

「そんな上から目線の御慰みはいらねえ、聞きたくもねえ。てめえが蘇るなら起き上がって来るのが嫌になるまでぶっ潰しつづけりゃいいだけの話だ。…それが出来なかった俺の未熟だ、それが全力で挑んだ俺の結果(・・)だ!!勝たなきゃあ意味が無え?尤もだあな、でも漢には、意地があんだよ!!てめえは俺から敗けすら(・・・・)奪い取る気か!?」

 

豪徳寺は背後に立つクウネルへ振り返らぬまま告げた。

 

「……てめえの勝ちだ、そのつもりでまた出て来たんだろうがよ」

「………………ええ……………………」

 

クウネルは豪徳寺の背中に対してゆっくりと一礼し、そっと言葉を投げ掛けた。

 

 

「貴方は立派な武道家です。渡り合えた事を誇りに思いましょう」

「てめえに言われても全く嬉しくねえな」

 

 

 

第四試合、決着。

勝者 クウネル・サンダース。

 

 




閲覧ありがとうございます、星の海です。
体調がイマイチ優れません、加えて何やら難産でした。遅れに遅れて大変申し訳ありませんでした。
ともあれ決着と相成りました、残念ながら豪徳寺、魔法の理不尽に屈します。原作を執筆の為に読み返していましたが、あらためてクウネル、敗ける気というかネギ当人にすら勝たせる気無かったな、と思います。バカレンジャーが強いのは知っているクウネルですのでまあ保険は用意しているなこれだと、との考えにより、大会のクウネルは実質不死身です。チートですねこれ笑)
因みに豪徳寺の最後の一撃は零距離全開ラカンインパクトの7割強位の破壊力でした。7割といってもあくまでそれは効果範囲の全体ダメージ的な話ですので爆心地の威力は本家のそれと大差は無いかと。そりゃあクウネルも吹き飛びます笑)
次に当たるのは中村ですが、果たして奴は勝てると皆様思いますか?ネタバレになるゆえ語れませんが、奴は奴で規格外だとだけ言っておきましょう何)
それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。
……次回ももちろん原作よりも酷い結果になります。

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