『他人がどう思うかなんて事は関係無え、自分が一番大切に思ってるモンを守る為に俺はツッパってんだ。…漢ってのは、そういうもんだろうがぁっ!!』
嘗て世間にて風聞を期した大ヒット
俺がポンパドールに長ランって今じゃあ廃れちまったスタイルを貫くのはドラマの主人公である番長に憧れたからだし、喧嘩最強なんて夢を掲げたのも漢は強く有るべしなんて台詞に影響を受けたから、だ。今に至るまでを喧嘩と修業三昧の血生臭い半生を送って来た動機としちゃあ、ガキ臭くて馬鹿みてえに聞こえる理由だとは正直思う。
しかし、俺はこれまで一時たりとも今迄続けて来たから今更引っ込みが付かねえ、なんて惰性で日々を過ごして来たつもりは無え。例え創作だろうが、俺はその番長の背中に真の漢の姿を見出だし、真剣に自分もそう在りたいと強く思ったから一切の妥協無しに鍛えて来た。
『何時までそんな時代錯誤な格好したまま余所様に迷惑掛け続ける気だドラ息子が!!』
『あんたとうとう格闘家の偉い人か何かは知らんけどそんな危ない世界の人にまで喧嘩売って……家族の迷惑になるとか少しでも考えないのかい!?』
『……私ね…お兄ちゃんの事は大好きだよ……私や、お父さんお母さんには一回も痛い事したこと無いし、私が頑張ってるピアノとかお絵描きのお稽古、一生懸命応援してくれるもん…………でもね、お兄ちゃんが
……正直家族には随分迷惑を掛けちまってる。もう少しガキの自分にはやりたい事に一々異を唱えてくる親父やお袋を疎ましく思ったし、妹にちょっかいを出してくるガキ共を威し付けて解決した気になっていた。
が、
ただそれでも。
家族に対して申し訳なく思うが、今までもそしてこれからも。俺はこの漢道を、修羅の道を違う事は無いと確信を持って言える。
どれ程親不孝者と罵られようが、玉の様に可愛がっている妹から例え蛇蝎の如く嫌われる事があろうが。
強い漢になりてえ、って心の
だから俺は誰にどれだけ馬鹿にされようが
だから可愛がってる弟分が気にしてる親父の行方は是非とも探し出してやりてえし、こんな俺に何が気に入ったのか好意を持ってくれてるらしい酔狂な後輩には、期待に応えて良い所を見せてやりてえ。
「豪徳寺君、今迄の試合を鑑みて、私は貴殿方のレベルを見誤っていた事に気付きました。予選の時の様なあしらい様で貴方を打ち倒せるとは最早思えません故、今の私なりの本気でお相手をさせていただきます。今更そんなことを、と貴方達は怒るかもしれませんが、胡散臭い私という人物なりに真剣に向き合ってきた、とその程度に受け止めて下さい……良い試合をしましょう」
だから俺は何としてでも、この得体の知れねえ優男に勝ちに行く事にした。
「っしゃ来やがれ、優男!!」
豪徳寺の両の拳を打ち合わせながらの一喝に、悠然と闘技場の反対側に立つ隠者の如きローブ姿ーークウネルはそっと見える口元に弧を描かせた。
『さぁーっ!前の試合による闘技場の被害が比較的、あ・く・ま・で・
『あくまで見えている通りの互いに様子見、という受け取り方でよろしいかと思われますね。敢えて付け加えるならば、クウネル選手は予選の戦いぶりを見ても、相手を待ち構えて攻撃を流すかスカすかしての強烈な
「そうなんですか?」
「ああ、まあねー。只の試合ならあいつは誰だろうとブッコみかますんだろけど、この期に及んであの優男手の内殆ど見せない上にネギのおやっさん情報が賞品だからねえ。あれで年下や後輩は可愛がる奴だから気負い過ぎてる、って程でも無いけど、負けられねえと張り切ってんだろ。あいつなりに考えて挑んでんだと思うぜ那波ちゃん」
「らしくない状態ではあるし、生兵法は怪我の元だ。下手に頭を使おうとするならば何時もの通り猪武者でいた方が良い気もするが……まあ手の内が不明な状況で無闇に突っ込めば最悪訳の解らん手段で瞬殺も有り得ぬ話では無い。一先ず賢明と見るべきだろう」
固唾を飲んで一同が見守る中、実況解説の二人のやり取りを聞いて千鶴が正否を尋ね、中村と大豪院は概ね肯定を返した。
「まあらしくないのはホントアル。豪徳寺はガンガン攻めて自分のペースで闘うタイプアルから、慣れない待ちでコケなきゃいいアルが……」
「でもさ古ちゃん。なんかあのクウネルって人凄い魔法使うんでしょ、重力魔法だっけネギ?」
「はい…予選の映像を見た限りだと、恐らく指定した範囲内の重力を何十倍にも増幅させる産み出すタイプの魔法だと思います」
「成る程、仮想重力の力場を叩き付けるタイプじゃあ無く範囲内の重力を変化する方か。重力魔法が
「…そないに強力なんか、重力魔法言うんは?」
明日菜の問いに返されたネギの答えに頷くカモに対してやや胡乱気に小太郎が疑問を放つ。
「ああ。難易度が高く、習得にはある程度の才能を有する、なんてされてるから上級者向けの魔法なのは確かで、それ程メジャーな存在じゃねえ。が、発動すれば効果が及ぶのは一瞬だし、対象の重力を増加させる類の魔法は特に魔法世界の竜を始めとした巨大生物に相性が良い。元々無意識の魔力強化運用により自重を支えている奴らにゃ継続した重り、ってのが致命的なんだろうさ。他にも結界・空間系の魔法に対する手っ取り早い
「……となると、素人意見ではありますが豪徳寺先輩はクウネルさんに先に攻撃をさせて、ある程度手の内を見てから攻め立てるつもりという訳ですか」
「で、でもあの……こ、金剛先輩?…っていう凄く鍛えてそうな人も、重力魔法でやられちゃったんですよね……豪徳寺先輩も危ないんじゃ……?」
「ああ、そら大丈夫だぜ宮崎ちゃん」
心配そうなのどかの懸念の声をケラケラと笑いながら中村が否定する。
『?、なんでですか中村さん。あの筋肉の人って、豪徳寺さんと正面から殴り合いが出来る位タフ?だって前に言ってましたよね?』
「おおさよちゅわんよく覚えてんねぇ、そうだよあの筋肉ダルマは耐久力や馬力じゃあはっきり言って俺等を越えてる。小細工無しに近接戦仕掛けりゃ麻帆良で敵う奴ぁ数える程しか居ねえだうなぁ」
そう口にしながらも中村の視線は仁王立ちに構える豪徳寺を捉え、その
「でもそのお肉要塞に真正面からのぶん殴り合いで
「豪徳寺のタフネスは気の総量や頑丈性等の理屈だけで語れるものでは無い。に兎に角奴は、何をやっても理不尽なまでに斃れず、どう痛め付けて地に伏させても起き上がる。心配するだけ無駄というものだ」
「だから安心しろ、ということですか?……うふふ、ありがとうございます」
言外に気を使われた事を察して千鶴は微笑みながら頭を下げる。そんな様子にあ~ヤダヤダ死ねリーゼント、と中村が悪態を吐いたその時、闘技場の上で一分近く固まっていた両者に動きがあった。
「……黙りかよ。来ねえなら、こっちから行く、ぜぇ!!」
試合開始前の宣言以来、黙して語らず動きも見せないクウネルに豪徳寺はしびれを切らし、牽制を兼ねての気弾を右拳から撃ち放った。
《漢》と表面に浮かび上がるm
「ああ?………っ!?」
『睨み合いの後遂に動きを見せた豪徳寺選手の気弾炸裂ーっ!!無防備に喰らった様に見えたクウネル選手は…………と!?』
まさか素直に喰らうとは思っていなかった豪徳寺が僅かに眉根を上げ、怪訝そうに声を上げる。その開幕からの意外な展開に朝倉が実況の声を張り上げたその瞬間。
その言葉が終らぬ内に炸裂した気弾の舞い散る気の幕を引き裂いて、クウネルが高速で豪徳寺目掛け一直線に突っ込んで来た。
「野郎……っ!?」
やや意表を突かれた形になった豪徳寺が対応の為に左拳を後方へ引き絞った瞬間、クウネルの姿が豪徳寺の視界から掻き消える。
「瞬動!!」
「完全に縮地レベルだな」
豪徳寺の右後方へと現れたクウネルの動きに中村が声を上げ、全試合の楓の
クウネルの横蹴りが豪徳寺の右膝裏を打ち抜き、豪徳寺の身体が右へ傾く。
「…っ!おおあぁっ!!」
「遅い」
不意を突かれた豪徳寺だが怯まずに身体を旋回させクウネルへと拳を放つ。しかしクウネルは僅かに首を傾け、フードの裾を掠める域で豪徳寺のパンチを紙一重で躱し、カウンターの掌底を豪徳寺の顎に叩き込んだ。
衝撃で頭を反り返す豪徳寺の懐へクウネルはさらに踏み込み、ローブを翻えさせながら体重の乗った肘打ちで豪徳寺の顎を横合いから抉る様に打ち抜く。
「…貴方が非常に打たれ強い事は伺っていますので。
横に身体の流れる豪徳寺へとクウネルは更に回し蹴りによる追撃を放つ。鋭く、靭やかなその一撃は三度豪徳寺の顎部を捉え、斜め上方からの衝撃により豪徳寺は頭から闘技場の床にめり込んだ。
クウネルは蹴り足を引き際に大きく飛び退き、掲げた掌を下に下方へと軽く振り抜く。
直後に発生した重力力場が豪徳寺を中心に闘技場の床を巨大なクレーターを形成し、爆発が起こったかの様に粉塵と木片を周囲にばら撒いた。
『ク、クウネル選手の素早い連撃でダウンした豪徳寺選手に、予選にて鎧塚選手や金剛選手を文字通り沈めてみせた不可視の一撃が炸裂ぅぅぅぅっ!!』
『クレーターの直径から鑑みて金剛選手を倒した際の一撃と同等以上でしょうかね?攻撃の正体は不明ですが、範囲内の上方から下方へと極めて強いエネルギーの様なものが働いている様なものと推測出来ます。タフで知られる金剛選手の意識を刈り取れる威力の攻撃、半ば不死身の怪物として恐れられる豪徳寺選手と言えども手痛いダメージかと思われますね』
「ちょーっ!?あっさりやられてんじゃない豪徳寺先輩!!」
「ご、豪徳寺さーん!?」
一矢報いる間も無く派手にやられた豪徳寺の有り様に明日菜やネギが悲鳴を上げ、会場内もよもや試合開始早々に決着かとざわめきが一部で広がり始める。
「まだですよね、中村先輩、大豪院先輩?」
しかし、そんな中である意味最も取り乱しそうな立場の千鶴は、衝撃的な光景にやや顔を顰めさせながらも口元の微笑みを絶やさずに、二人へ返ってくる答えを確信しているかの様な口振りで問いを放つ。
「
「なして解るん那波ちゅわん?恋する乙女パワー?」
言葉少なに、されど僅かに笑みを浮かべながら大豪院は肯定し、中村はあらあらまあまあ、と近所の噂好きなババァの如きしなを作りながら気持ちの悪い微笑みと共に尋ね返す。
「いえ、ただこれで終わってしまったんでは……」
言葉の途中でクレーター上の煙が引き裂かれ、その中からクウネルへと突き進む影を目にした千鶴は笑みを深めながら言い切った。
「ちょっと格好悪過ぎますから。立ち上がるに決まってる、って思ったんです」
……馬鹿な…………!?
クウネルは危ういタイミングで己の顔面目掛けて飛んで来た、大気を引き裂いて唸りを上げる豪腕を躱しつつも内心で驚愕の声を上げていた。
クウネルは掌底、肘打ち、回し蹴りの計三撃を顎部に集中させ、豪徳寺の脳を揺らしての脳震盪狙いにより意識を断ちに行った。どれ程打たれ強かろうとも人間は脳が頭蓋骨の内壁に叩き付けられれば一時的に意識障害を起こす。これは根性云々の問題では無く生物学に基づいた厳正な事実である。
クウネルとしても打撃に充分な手応えはあり、よしんば意識を豪徳寺が保っていたとしても平常通りに居られる筈は無い。故にクウネルは念には念を入れ、重力魔法による追撃を行い無防備状態の豪徳寺を圧し潰したのだ。百歩譲って意識があったとしても……
……まるで何事も無かったかの様に攻撃を仕掛けてこれる筈はないのですが…………!!
クウネルは地面ごと巻き上げんとするかの様な豪徳寺のアッパーを躱し様、踏み込んでの掌底を再び豪徳寺の顎へと決める。何ら痛痒を感じていないように見える暴れぶりの豪徳寺だが、確実にダメージは蓄積されている筈とクウネルは判断していた。
ダメ押しに連撃を叩き込めば倒れるか、少なくとも動きが鈍る筈と考え、クウネルは至近距離での鳩尾に対する膝蹴りからの脳天目掛けた肘の打ち降ろしを繋げに行く。
「な~んも解ってねえな優男が」
そんなクウネルの選択を、選手席の中村は鼻で笑う。
飛び上がった勢いを乗せて打ち降ろされた肘は豪徳寺の頭頂部を真面に捉え、ミシリと頭蓋骨の軋む手応えをクウネルは感じ取り、そしてそれと同時。
胴体と頭部で炸裂した衝撃を歯牙にも掛けずに全力で振り切った豪徳寺の右フックがクウネルの横腹に突き刺さっていた。
「な…………!?」
元より攻撃の為に足が地を離れていたクウネルは身体をくの字に捻じ曲げながら吹き飛び、宙を舞いながらクウネルは平然と反撃を打ち込んできた豪徳寺の泰然とした顔を見てフードの奥の目を見開く。
豪徳寺はクウネルの吹き飛んだ方向へと身体全体で向き直り両の拳を腰溜めに引き絞り、気を集中させる。
「ンなしょっぺえ打撃で豪徳寺が沈むかよ阿呆臭え」
「
中村が呟くのと同時に、豪徳寺の撃ち放った直径三mを超す巨大な二つの気弾がクウネルに炸裂し、その身体を場外の水辺に立つ石灯籠へと叩き付けさせる。
灯籠を半壊させつつ身体をめり込ませたクウネルが身を起こすよりも早く、豪徳寺は跳躍すると空中から無数の気弾をクウネル目掛けて連射し始めた。
「
気弾の弾幕は瞬く間にクウネルの姿を光の爆発で包み込み、既に崩壊仕掛けていた石灯籠を粉々にしてその下の土台を砕きながら、水路内に蓄えられている水を飛沫に変えて周囲にふり撒き、遂には会場全体に不吉な振動を伝えながら地盤までを揺るがし始める。
『ご、豪徳寺選手場外に吹き飛んだクウネル選手に対して飛び上がった上空から情け容赦の無い絨毯爆撃ぃぃぃ!!あまりの爆撃の密度にまるで光のドームの如き気の光がクウネル選手を完全に覆い隠して…ってゆーか壊れる!会場どころか龍宮神社がぶっ壊れちゃうから豪徳寺先輩!?もうそのくらいで良くない、ってか死ぬよそのローブ男!?』
『朝倉、素になってるぞ口調が。……先程手持ちにあったのど飴をテーブルに置いた所、闘技場の方向へ向かってゆっくり転がり始めるのを確認しました。この会場、既に傾き始めていますね。ともあれクウネル選手は一転してピンチを通り越し生命の安否が気遣われますね、豪徳寺選手は爆撃を止める気配がありません』
「うわっ冷てえ!?」
「ちょっとここ崩れないわよねえ!?」
「もういいだろ豪徳寺ー!こっちまで巻き添えが…痛ぇっ!?」
「止めろって死ぬぞそのローブ男!?」
会場内の観客が悲鳴や怒号を上げる中、ネギ達一同はネギと篠村が合同で張った風の結界で木片や石片、水飛沫の浸入を防ぎながら言葉を交わしていた。
「どーなってんだあの男は一体何で出来てやがる!?昏倒確実な打撃魔法喰らってもピンピンしてやがるし挙げ句の果てになんだこの艦砲射撃も真っ青な気弾の嵐は!?あいつの気弾、一発一発が下手な魔法使いの中位呪文より強力なんだぞ有り得ねえだろこの連射は!?」
「豪徳寺だからとしか言い様が無えぞそれらの質問にゃあ。単なる漢魂…あああいつの一番弱い気弾な?だったら連続百発くれえは余裕だべあいつは」
「……余りこういう表現は好きでは無いけれど、気の総量、練りや扱いを見るに紛れもなく気に関しては彼は天賦の才を授かっているわね…………!」
ギャアギャアと喚く篠村にのほほんとした調子で中村が言葉を返し、高音が何処か苦々しいものを滲ませながら続ける。
「さ、流石にやり過ぎじゃないでしょうか!?あんな密度の気弾をあんな連続で受けていたらどんな障壁でも耐えられません、クウネルさんが死んじゃいますよ!?」
「待てやネギ。あの怪しいのは兄ちゃん達より格上やて兄ちゃん達が感じたんやろ?兄ちゃん等の誰でもこの爆撃でくたばる姿は想像でけへんし、寧ろ手緩いんやないかこん位やと」
「……いえ、あの……魔法世界の対大型魔獣用防御障壁展開式前線基地があったとしても、風穴が空くどころか下手をすれば倒壊しかねない破壊力なんですが……
「……まあ城が建っていたとして瓦礫の山しか残りそうにないと思えますから納得な言い分ですね…………」
情け容赦の無いコメントをする小太郎にカタカタと小刻みに震えながら愛衣が反論し、夕映が若干蒼褪めながらも頷きを返す。
そうしてネギ達が若干揉めている間にも、豪徳寺は跳躍高度が最高点を越えてゆっくりと落下を始めながら気弾を撃ち続けていたが、
「
唐突にピタリと連射を止め、闘技場に着地して油断無く拳を振り上げ構えを取った。もうもうとクウネルが居る筈の爆撃跡地には水煙と粉塵が立ち込め、動く者の影は視認できない。
『よ、ようやく爆撃が終了しました……最早生死の確認を通り越して死体が原型を留めているのかというレベルの豪徳寺選手による過剰火力な攻撃でしたが……』
『まあ火力が過剰だったのかは結果を見てから、ですね。果たしてクウネル選手はどうなったのでしょう?因みに今の気弾の連射数は総計64発でした』
「……ああ"糞、豪徳寺め…………震動が果てしなく傷に響いたぞ痛たた……」
「
「ひゃ~、龍宮さん怒って弁償や~とか言い出さんといいけどなぁ……」
同時刻、所変わって医務室では建物が崩壊を迎えるのではないかという絶え間ない震動が全身の傷を刺激して痛みに悶える辻と心配そうに隣で身体を支える刹那、モニターに映る絨毯爆撃跡を見て最もではあるが今挙げるには何処かポイントのズレたコメントを上げる木乃香の姿があった。
「大丈夫だ桜咲…っと刹那、傷自体は一応塞がってるしな……それにしても引っ掛かる…………」
「?、何がですか辻先輩~?」
身体を案じる刹那を制して半身を起こしながらの辻の呟きに木乃香が反応する。
「いや、ね……あのクウネルって男?…まあ男でいいか。多分
「?、?……」
「…………それは、
辻の端から聞いていれば意味不明なその呟きに木乃香は首を傾げるが、刹那は抜けている言葉の意味に気付いたらしく、表情を真剣なものに変える。
「影武者か何か、という事では無いのですね?」
「ああ、言葉で説明するのは難しいけど同一人物ではあると思う。…………そうだな、俺が人や物の中心を縦に
木乃香と刹那が頷きを返すのを確認しつつ、辻はどうにも言葉で表すのが困難である感覚的な話を進める。
「その線は実際に存在するものじゃ無くて、俺の脳がおかしいのか
近衛ちゃんのは線がはっきりしてて幅が他の人より少し大きいんだ。綺麗だよ、と辻が笑って告げ、木乃香はよう解らんけどありがとうございます~、とほんわかした笑顔で礼を言い、刹那は多少ならず引き攣った笑顔を返す。如何に
「話がズレたな。そんな俺の感覚で言うと図書館島のクウネルと今豪徳寺と闘ってるクウネルはどうも
「……つまりあのクウネル、さんは魔法か何かで作られた分身の様なものである、と………?」
「俺の感覚以外に何の根拠もない推測に過ぎない上に正体が何なのかも解らないけどな」
仮定を立てて予想を交わし合う刹那と辻の言葉を木乃香は ん~?と、思案する様に小さく唸り声を上げながら聞いていたが、
「辻先輩、せっちゃん、それって反則や~言うて勝ちにしてもうたりとか………でもそんなん一生懸命闘こうてる豪徳寺先輩に失礼やなぁ…」
駄目や駄目や、と可愛らしく眉根を寄せての木乃香の言に、良い意味で力の抜けた辻と刹那は思わず顔を見合わせて笑い合う。
「……そうですね、それで勝っても先輩方は納得しないと思います」
「それに大会の規約は《呪文詠唱の禁止》だ。残念ながら
俺の予想が正しければ、豪徳寺には殆ど勝ちの目が無くなるな。と、モニターに映る豪徳寺と対峙する
『く、クウネル選手何時の間にやら爆撃跡地から抜け出していた模様です!!その身体には傷痕どころかローブに裂け目すら出来ていません!あのBー29もびっくりな絨毯爆撃を全て躱し切っていたとでもいうのでしょうか!?』
『……妙ですね。仮に何らかの方法で豪徳寺選手の連射を回避していたとしても、豪徳寺選手の最初の反撃による二つの巨大な気弾は間違いなくクリーンヒットしていた筈です。ダメージが見られないのは豪徳寺選手も同じですが、ローブにすら傷一つ出来ていないというのは打たれ強い等という話とは完全に別物です』
「……流石にやり過ぎたんじゃねえのか、優男よ?」
「さて、何の話でしょうか?」
場外カウントが朝倉により数えられ出してから視界が完全に晴れ渡る前の段階、クウネルは虚空から溶け出る様にして宙から現れて闘技場の端に着地した。朝倉や喧囂の言う通りその身体にはローブに汚れすら着いてはおらず、まるで今この時に始めて闘技場に上がったかのような泰然とした物腰は、フードに表情が隠れて見えない事も相俟って得体の知れない不気味な迫力を醸し出している。
しかし豪徳寺はクウネルが無傷であることに動じた様子は欠片も無く、覇気も露わにクウネルを睨みながら尚も言葉を紡いだ。
「惚けんな。てめえのその身体、本物じゃねえんだろ?」
「……ほう…………」
クウネルはその豪徳寺の指摘にローブの奥で目を細め、見える口元の笑みを深める。
「最初は魔力強化で肉体を鋼並みに強化してんのかとも思ったが、てめえの打撃は一流留まりでいまいち芯には響かねえ。あんたは近接戦
豪徳寺はクウネルに指を突き付ける。
「なのにてめえは無傷だ、魔法で回復したならローブまで再生してんのはおかしくねえか?……あんたの身体、長瀬の奴が使う影分身みたいに一から作り直したんだと俺は見てる、あんたは相当強えのに、防御に何処か隙があんだよ。……死なない怪我ぁしねえと思って舐めた覚悟で掛かって来てんじゃねえ……漢の勝負を穢す気か、てめえは!!」
豪徳寺の一喝に、クウネルは黙したまま佇んでいたが、軈て静かに
「貴方の……いえ、
クウネルはゆっくりと両の腕を擡げ、不可視の力場を掌に纏わせる。
「おくばせながらこれより貴方を全力で潰しに行かせて頂きます。貴方の言う通り、偽りのこの身は跡形も無く消し飛ばしでもしない限りは幾度でも再構成を繰り返し、この場に於いて私は不死身に近い存在です、卑怯と罵りたくば如何様にも。手段を選ばず、勝ちに行かせて頂きましょう」
「居直りやがったか……まあいい、麻帆良の理念は強けりゃあ
戦闘姿勢を取ったクウネルに呼応して豪徳寺も両の拳に気を充纏させていく。
直後、クウネルがノーモーションで繰り出した仮想重力力場と豪徳寺の撃ち出した巨大な気弾が両者の中間点でぶつかり合って炸裂し、盛大に爆風と衝撃波を撒き散らした。
「おらあぁぁぁぁぁっ!!!」
「
閲覧ありがとうございます、星の海です。
申し訳ありません。何やら腹を壊して感染性胃腸炎とやらで医者に掛かっていた上にもう一つの方を先に手掛けた所為で1ヶ月も更新を遅らせてしまいました。今後は年末年始に掛けて多少時間が取れましたので更新のペースアップを心掛けます。どうかお見限りなく、今後も本作をよろしくお願いします。
期せずして不死身VS不死身の対決となりました第四試合、今の所クウネルが有利に思える試合運びです。豪徳寺が如何にして逆転の手を巡らせるか、果たしてそれは叶うのか、次回を楽しみにお待ち下さい。
それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。