お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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お待たせしました、まほら武道会本選開始です。


12話 まほら武道会本選第1試合 辻VS刹那 (その1)

 

可愛さ余って憎さ百倍、という諺があるが、俺のそれ(切断衝動)は違う。

相手に対して好意を抱いているけれど、〜な理由からそれが負の感情に変わり、相手を害したい。では無いのだ。

そもそも俺の欲求が疼くのはマイナスの感情を抱いている対象よりもプラスの感情ーー親近感、思慕、愛情、性的好奇心、尊敬、憧憬ーー等を抱いている対象に対してが殆どだ。平たく言うなら好きだから断ちたい、とそういう訳なのだろう。

 

彼女はとても優しくて、友達思いで。不器用なのに責任感が強くて他人を頼るのが苦手だ。とてもいじらしく、そんな所が好きだ。だから(・・・)断ちたい。

 

馬鹿で底抜けのお人好しで、夢の為に全力で努力を続けている。尊敬出来る、素晴らしい自慢の友人達だ。だから(・・・)断ちたい。

 

まだ幼いのに辛い目に遭って、世を儚んでもおかしく無いのにとても頑張っている、好感の持てる少年だ。だから(・・・)断ちたい。

 

そんな価値有る彼、彼女らをもっと素敵(・・)にしてあげたい。

何より、もっと綺麗(・・)になった皆を俺が見たい、感じたい。

 

だから俺は桜咲 刹那を二等分に両断したいのだ。

 

 

…そして、つい最近になって俺は、それさえ正しくは無いのではないか、と考えるようになった。

 

そう、ひょっとしたら俺は……

 

好きだから(・・)断ちたい、のでは無く、断ちたいから(・・)好きなのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

「……な〜んて風に語ってやがったなぁ、あの馬鹿は…………」

『よく、解らないお話でした、私には…………』

 

麻帆良学園祭二日目のAM07:52。

初日に続いてよく晴れ渡った好天に恵まれた麗らかな日差しの中、龍宮神社の境内に特設された闘技場を取り囲む観客席は、間も無く開始されるまほら武道会本選の第一試合に向けての期待と興奮により、熱の籠ったざわめきという形で静かに湧き上がっている。

その最前列、選手が関係者を招く為の特別席にて中村はその様に呟き、溜息を吐いた。隣に浮かぶさよの相槌にも力は無い。

 

「真っ二つにしたい衝動が(あいつ)にとってのすべて()であり、それ以外の感情やら何やらは全てついで(付随物)に過ぎねえってあれか?」

 

馬鹿馬鹿しい、と豪徳寺は不機嫌そうな顔で吐き捨てる。

 

「あいつはそんな奴じゃねえ。あのヘタレな底抜けのお人好しっぷりが全て演技だったとでも言うのかよ?」

「豪徳寺先輩………」

 

千鶴が心配気な様子で手摺りを折れんばかりに握り締める豪徳寺の手にそっと細い指を乗せ、宥める様にそっと動かす。

 

「演技、っていうのは実際違うだろうね。普段の辻は別に無理をして会話を合わせたりはしていないって言っていたし。二重人格、なんて安易な話じゃないけど、自分の本性っていうか本音なんて完璧に自覚出来ている奴の方が稀なんだ。外面と内面がかけ離れている人間なんて、僕は珍しくないと思うよ」

「……一理ある、かもしれんがな。この場合は奴の本性が他者との交流に対して危険を伴う、という点が問題なんだろう?」

 

山下の言葉に小さく鼻を鳴らして応じながら、エヴァンジェリンが皮肉気な調子で言葉を紡ぐ。

 

「考えるまでも無く、好意に比例して相手を害する確率が高まる存在なぞ、人の枠組みにおいては異端どころか排除の対象でしかない。あの剣鬼は賢明な判断をしたよ、私としては奴に一票をくれてやりたいものだ」

「……エヴァちゃん、なんでそんな意地悪言うん………?」

「木乃香、エヴァンジェリンさんは辻先輩の性質について社会的な問題点を論理的に列挙しただけです。…私もあの辻先輩が、社会不適合者であるかのような発言を肯定するのは心苦しいです。……それでも、他の誰でもない本人がそう言っているのです。それこそ他人がむやみやたらに否定したところで何の解決にもなりません」

 

力無い声で、泣きそうになりながら抗議する木乃香に、夕映が自身も苦し気に眉根を寄せながら淡々と諭す様な言葉を掛ける。

 

「……あの辻が堪えられる保証が無い、と言うのだ。一生忍耐を重ねて己を押し殺し、女の為に生きろ……等と無責任に言える筈も無い。…正直な話、俺は奴の言う感覚や感情を全く理解できなかった。憶測や想像で、適当な慰めや励まし、激励を口にした所でなんの意味もあるまい」

 

大豪院が苦虫を噛み潰した様な表情で吐き捨てた。中村や豪徳寺、山下も各々が苦い顔で無言のまま反論をしない。

(はじめ)の感性は異質過ぎて、親友と呼ぶに差し支えの無い彼らを持ってしても、理解することは出来なかった。

 

「……辻がそうでも、刹那は諦めてないアルよ」

 

暫しの沈黙の後、何処となく不貞腐れた様に古が口を開いた。

 

「よりにもよって初戦で…とは思わなかったでござるが、刹那は初めからそのつもりで予選を勝ち抜いた様でござるからな」

「……で、でも、お付き合いするかどうかを、勝負で決める、っていうのは〜…………」

 

古と楓の口弁に、おずおずとした調子であるものの、のどかが否定的な見解を述べる。

 

「だよなあ、強い方が恋愛成就の成否を決めるて何処のバーバリアン(戦闘民族)だお前らと俺はさっきからツッコみたかったんだよ…」

 

俺には感性云々よりそっちが理解出来ん、と篠村はバンザイをしてお手上げだとのジェスチャーをした。

 

「阿呆やな篠村の兄ちゃん。辻の兄ちゃんも刹那の姉ちゃんも、腕を頼りに生きて来た人や。言葉で決着(きめ)られへんことがある、ちゅうことを解っとるんやろ。話し合いで解決せえへんなら、腕ずくで相手にいうこと聞かせるしかないっちゅう結論に達したんや」

「いや、大筋で間違っていねえのかもしれねえけど、その説明じゃあまりにも二人が脳筋過ぎんだろ」

 

拳を握り締めながらの小太郎の熱弁に、ネギの頭上のカモが呆れた様子でツッコんだ。

 

「…というか勝った方が正しいを次の試合に地で行こうとしている僕からすれば耳の痛い言葉だねえ……」

「ハッ!……」

 

苦笑する山下と鼻で笑うエヴァンジェリンである。

 

「……個人的に思う所は諸々あるけれど、現時点で辻 (はじめ)が犯罪を犯した訳でもなし、この大会での戦闘行為が私達の規定に違反する事もない以上、これ以上は外野が口を出す資格は無いでしょうね……」

「お姉様………」

 

魔法組織の一員としても一知人としても不干渉を宣言する高音だが、例に洩れずその顔は浮かないそれだ。隣に付き従う愛衣の表情も曇る。

 

「…なんだか、大変な時にすみません、僕の一件で…………」

「ネギ‼それ以上は止めなさい。辻先輩や刹那さんの件は言っちゃえばアンタに関係ないし、個人の問題って高音さんの言葉もぶっちゃけ正論よ。アンタは何時から兄貴分と生徒の恋愛に干渉出来る程エラくなった訳?」

「え……い、いえ、それは………」

 

「自分が悪いと安易に決め込んで頭を下げればある意味楽ですからね。そんな本質を見ようとしない逃げの行為は止せ、と彼女は言っているんですよ、ネギ君」

 

明日菜に鋭く制されて言葉に詰まるネギに対して、観客席後方の入り口からゆったりと歩んで来たクウネルが追従を入れる。

 

「うわ出たゼ、胡散臭えのガ……」

「まあまあ、此処で喧嘩してもいいこと無いですヨ」

「覆面プレイ……」

『?、ぷりんさん、プレイって何の……』

「ストーップさよちゅわん、それ以上いけない‼ぷりんったら駄目じゃないもう!お口にチャックよ!?」

「ブ、ラジャー……」

 

「コントをやっている場合か、貴様ら」

「やあ、皆。諸々あって遅くなったよ、済まないね」

 

クウネルをダシにしてワチャワチャ中村とスライム娘達が騒いでいると、遅れてやって来たのは杜崎と高畑があった。これで第一試合の開始に控える辻と刹那を除けば、まほら武道会本選出場の選手は全員揃い踏みである。

 

「……タカミチ、僕は………」

「……事情は何となく聞いているよネギ君。恩人と自分の生徒が関わっているんだ、気が気でないのはよく解る。だけれど……」

「所詮は惚れた腫れたの鍔ぜり合いだ。他人に口が出せる訳もないな」

「モリー今他人と担任かけた?つまんねえんだけど」

「黙れカス」

「ホバァッ!?」

 

「揃いも揃ってお優しいことだが、主の試合は間も無く始まるぞ?最早騒いだ所で試合が止まる訳でも無し、大人しく見物していては如何だ貴様ら?」

 

杜崎の裏拳を喰らって転倒する中村を余所に、カラリコロリと朱塗りの下駄を鳴らしながら相も変わらず古めかしい道着姿をした女性が一同の前に現れる。

 

「……フツちゃん…………」

「あれ?アンタ辻先輩に付いてたんじゃ無い訳?」

 

木乃香と明日菜がその意外な人物ーー正確には人では無く、魔力によって作られた擬体(・・)を操っている一振りの神秘級がアーティファクトーーフツノミタマを見て思わず声を上げた。

 

「どうせ私を大会で振るう訳にもいかん故にお役ご免だそうだ。ならば折角だから良い席で見物でもしようかと思ってな」

 

フツノミタマは気のない様子でそう答え、通路に佇んでいた高畑と杜崎の脇をすり抜け掛け、その二人から注がれる視線にふと足を止めると面倒臭気な口調でぞんざいに告げる。

 

「なんだ其処の中年眼鏡に筋肉ゴリラ?私に欲情したなら主に許可を取って来い。許可が下りたなら抱かせてやるぞ」

 

「……成る程、色々常識の通じん奴だというのはよく解った………!」

「……杜崎先生、抑えて下さい……」

 

米神辺りにぶっとい青筋を浮かべる杜崎を宥めつつ、高畑はフツノミタマへ語り掛けた。

 

「不躾な視線を送って済まないね。君のことは色々報告に聞いてはいたが、会うのは初めてだったものだからつい、ね……」

「そうか、まあ如何でもいいがな」

 

ぞんざいに会話を断ち切ったフツノミタマは歩みを再開し、ネギ達から数席離れた場所に腰を下ろす。

 

「…お〜いフツちゃんよぉ?」

「なんだ馬鹿が」

 

辛辣な罵倒にも怯まず、中村は問い掛けた。

 

「仮にこの試合、せったんが勝っちまったらどうすんのよお前さん?フツちゃんは狂気モードの(はじめ)ちゃんが好きなんだべ?」

「どうもせんさ」

 

あっさりとフツノミタマは答える。

 

「主の才は天下一、だ。主が抑えようとも世界(・・)が決して逃しはしない。高々一世紀程しか生きられない人間と違い私は長生き出来るのでな。気長に待てばいいだけだ」

「…相も変わらず不穏な物言いだねぇ〜……」

 

苦笑いする山下だが、フツノミタマは頓着しない。

 

「……始まるぞ。因みにどちらが勝つと考えている、刀の精霊?」

「小娘だろうさ」

「……辻が負けると?根拠はなんだフツノミタマ」

 

杜崎の問いに即答したフツノミタマに、大豪院が訝し気に尋ねる。

 

「なに、確信あっての物言いでは無い。可能性として述べるならば、だ。主のお人好しは猫被りではない、小娘に情があるならば本気を出せはせんよ。なれば勝つのは、小娘だろうさ」

 

フツノミタマは嗤って答え、闘技場を注視する。

 

 

「さて、ある意味良い灸を据える機会だ。己というものを知るといい……貴方はそれで良いのだよ」

 

 

 

『さぁぁぁぁっ!いよいよ始まります、まほら武道会本選‼開幕を告げる記念すべき第一試合は麻帆良五強と謳われるバカレンジャーの一角、普段のお人好しなヘタレ具合とは裏腹に、その剣撃は宛ら地を駆ける疾風か閃く雷撃か‼薩摩の雄薬丸自顕流の血を引く不可避の一閃、『疾風刃雷』辻 、(はじめ)ぇぇぇぇぇっ‼‼』

 

「うら辻負けろー‼」

「な、なんてこと言うんですか中村さん!?」

「いやネギ、あれでいい‼色々考えたが桜咲嫁にしねえでお前が誰嫁にすんだよボケェー‼大人しくやられちまえぃ‼」

「僕もどっちかっていうと桜咲ちゃん側だから。頑張れー!桜咲ちゃーん‼」

「ポチはどうするアルか!?」

「ポチは止めろ‼……何方を応援しても義理を欠くが、俺も桜咲後輩を袖にしたとして以後奴が幸福(シンフ)に人生を全う出来るとは思えん‼故に辻!全力を尽くした上で負けろ‼」

 

「つーじくーん、頑張れーー‼」

「ゴホッ!……辻 (はじめ)ぇ‼無様な試合をしたら許さんぞぉ‼」

 

「部っ長ー‼悪いけど俺ら桜咲に全面協力する所存なんでーー‼」

「負・け・ろ!負・け・ろ‼はいあんたらも‼」

「「「「負・け・ろ!負・け・ろ‼」」」」

 

観客席からの盛大な歓声(と、知り合いの大半からの罵声)を受けつつ、道着姿の辻が入場する。

 

 

 

「…ヘタレは余計だよと……四面楚歌もいいところだな、まあ自業自得だが」

 

道着の袖を紐で括り、臨戦態勢に移行しながら辻は小さく呟く。

 

……単なるヘタレなだけならばどんなに良かったろうな………

 

自嘲しつつもしみじみと辻は思う。

自分が普通の男ならば、桜咲 刹那を幸せにしてやれたろうか、と。

意味の無い思考と知りながらも、異常にして異形な己を恨めしく思う。

 

……でも、それでももうしょうがない…………

……お前のことが好きだから、お前を俺の側には居させない、桜咲………!!

 

決意を秘めて辻は反対側の入場口を見据える。

 

『さぁさぁそんな辻選手に相対するは辻選手の所属する剣道部において最強(エース)の座を欲しいままにするという、可憐で華奢な容姿とは裏腹にその恐ろしい迄のキレを秘めた剣の腕は並み居る猛者を薙ぎ倒し、あっという間に本選出場を果たしました!!巷では辻選手と浅からぬ仲との噂もある齢十五の剣道小町!桜咲刹那ぁぁぁぁっ!!」

 

「せっちゃーん!!」

「っしゃやれ桜咲ぃぃぃぃ!!」

「きゃあぁぁぁぁぁ桜咲、可っ愛いいよ…!?……っ!?…えぇぇぇぇ待って本当に可愛い!?!?」

「ぶふぅぅぅぅっ!?な、何だあれ桜咲なんのつもりあの格好ぅ!?」

 

木乃香の声援を皮切りに、中村達や剣道部員を中心に、入場して来た刹那へ声援が飛ぶが、刹那が闘技場前の通路に姿を現した時点で声援は悲鳴の様などよめきに変わり、会場全体が軽く揺れる程の騒ぎが起こる。

 

何故ならば、入場して来た刹那の服装は、膝丈迄の幅広なスカートをたなびかせ、和服の様な左合わせのゆるりとした袖を余らせる、所謂萌え系メイド服と呼ばれるものを和風に改造したコスプレイヤーの如き衣装であったからだ。

桜咲 刹那は身体付きこそ華奢であるものの、その容貌は怜悧な鋭さを含めつつも何処か幼さを内包する矛盾を秘めし、中学三年生という花盛りの年齢でしか成し得ない、青い魅力を誇る美少女だ。そんな少女の可愛らしいコスプレ姿に、観客の大半を占める若年層から中年層に差し掛かる迄の男達は大いに湧き上がり、一時期の緊迫感を忘れて浮ついた盛り上がりを会場は見せる。

 

『おぉーっと桜咲選手、なんとも可愛らしい和風メイド服にて入場だぁぁぁ‼この衣装は女性選手にスポンサーが善意で提供している舞台衣装の一つですが、桜咲選手以外にサービス精神が旺盛な模様です‼』

 

 

「……どう思うよ、あの格好?」

「どう考えても辻を悩殺しようとか阿呆な考えのもと選んだんじゃあ無いのは確かだわな。…しかしだとしたら何の意味があってあんなモン着てんだ桜咲は……?」

「………う〜〜〜ん……………わかんないね、うん」

「ただここに来てのあんな格好、何か嫌な予感がするぞ俺は………」

「……こ、木乃香……何のつもりだか解る?刹那さんのあの格好……?」

「………解らへん。解らへんけど、せっちゃんはきっと勝ちに行ってるんや…………‼」

 

湧き上がる会場とは裏腹に、ある程度事情を知っているバカレンジャーや3ーAの面々はどうにも状況に対して不釣合いにすぎるその姿に、不吉な予感を覚える。

 

 

「……桜咲、…何のつもりだ?その格好は………?」

 

淀みなく階段を上り終え、同じ壇上に昇った刹那に対して、辻は僅かに硬い声音でそう尋ねる。ある意味決死と言っていい覚悟で躍り出てみれば、その相手が真剣勝負の場に於いては巫山戯ているとしか思えない浮ついた格好をしているのだから、辻の詰問はある意味当然であろう。

 

「……?、ああ、すみません。似合っていませんでしたか辻部長?」

 

しかし刹那はあっけらかんとそう答え、状況を理解していないと捉えられる刹那の台詞に、辻の目が細められる。

ところが、刹那は物騒な辻の空気を歯牙にも掛けず、破顔して辻へと言葉を投げる。

 

「冗談です、辻部長。私は貴方を舐めている訳ではありません、私は私なりに考えがあってこの格好を選択じした。……私は勝つ気ですよ、それこそどんなことをしてでも。…ですからご心配無く、遠慮無しに掛かって来て下さい」

 

 

「……なーんかなんとなくせったんのペースじゃね?」

「腹ぁ括ると女の方が思い切ったことをやるとは言うけどなぁ………」

「なんにしろあの格好、意味はあるっぽいね。しっかし読めない展開になって来たなぁ……」

「…辻、呑まれるなよ………」

 

「……なあ、ネギ。刹那の姉ちゃんの狙い、解るか?」

「…全然。でも、刹那さん柔かに見えて全く目が笑っていないし……とんでもない事になりそうな気が何だかするよ…………!」

 

 

『さぁ、皆様間も無く試合開始となります!まほら武道会の開幕を告げる第一試合、どうかお見逃し無きよう………はい?』

 

試合開始の時刻が差し迫る中、懸命にアピールを続ける朝倉に対し、刹那が何事かを告げ、口上が滞る。

 

『……少々お待ち下さい、規定では厳密に開始時刻は定められ………は?構わない?……しかし………、…解りました、良きに計らいます……』

 

刹那の申し出に対し、渋い顔で受け応えていた朝倉は、言葉の途中でヘッドホンを抑え、何事かの指示を送って来たらしいイヤフォンの向こう側の何者か(・・・)に向けて、暫し応答する。

やがてマイクから手を離した朝倉は、刹那の方へ視線を投げて頷くと、マイクを通して高らかに口上を謳い上げる。

 

『御来場の皆様、誠に申し訳ありません‼先程も軽く申し上げましたが、この試合にて相対する辻選手と桜咲選手は同じ剣道部に所属し、プライベートに於いても浅からぬ因縁を持つ、いわば訳ありの二人です‼時間の押している状況ではありますが、桜咲選手から辻選手に対して、試合前にどうしても告げておきたい話があるとの事であり、大会上層部との協議の結果、特別に時間を割く事と相成りました‼申し訳ありませんがもうしばしの間、お待ち頂けるようお願いいたします‼』

 

観客から小さくないどよめきの上がる中、僅かな沈黙の後に辻は相対する刹那へ尋ね掛けた。

 

「……それで?桜咲、話というのは?」

「至極単純な話ですよ、辻部長。私は私の想いの丈を、嘘偽り無く貴方に告げておきたいのです。…貴方は私の為に、語りたくなかったであろう己の内を余さず私に明かして下さいましたから。私の想いも、知って頂きたいのです」

 

あくまで固い辻の対応も気にせず、刹那はそう言って朗々と語り出した。

 

「辻部長、貴方は私のことを、好きだと言って下さいましたよね?」

「…ああ。その気持ちに嘘偽りは無い」

 

辻ははっきりと刹那の問い掛けに答えた。ことこの場に及んでも、辻に刹那を恨んだり憎んだりするような気持ちなど一片たりとも無い。好きだからこそ遠ざける。言葉にしてみればなんとも陳腐なメロドラマ地味た響きだが、紛れもない辻の本心であった。

刹那はそれを聞いて嬉しそうに目を細め、再び口を開く。

「辻部長、これから突拍子も無いことを言わせて頂きますが、どうか真面目に答えて頂けますか?」

「……ああ………」

「ありがとうございます。では……辻部長、私と辻部長が結ばれて、私が子を孕んだとしましょう」

「………ああ?………、……!?」

 

言葉通りではあったが、あまりに突拍子も無さ過ぎる(・・・)その台詞に、辻は頷き掛けてギョッとした様にその眼を見開く。

刹那は微かな笑みを湛えて、そんな辻へ尚も言葉を投げ掛ける。

 

「例えば、の話です。辻部長、聞いて下さい。……妖魔の血というものは、人のそれよりもずっと濃い(・・)ものなんです。近新種とは程遠い人へも胤を着床させ、何代にも渡って血が薄まろうとも、子々孫々には常に先祖返りが起こりうる危険を孕みます......私や、小太郎は外見上にそれほど変異性が無いだけ、まだ幸運でしたね」

 

刹那は一度言葉を切り、辻の目を真っ直ぐに見据えて言葉を紡ぐ。

 

「私は烏族のハーフです。人の腹から、背中に羽根を持って産まれ落ちた、異形のもの。身体の半分を流れる妖魔の血は、私が子を成す時にも暗い影を落とすでしょう」

 

辻部長、と刹那は笑みを消し、奇妙な迄に凪いだ表情でその問いを放った。

 

 

「もし、私と貴方の間に産まれた子供が烏頭(・・)の子供だった場合、その子を貴方は愛してくれますか?」

 

 

沈黙が降りる。言葉を放ったきり、能面の様な表情で押し黙る刹那も、問いに目を見開き、固まった辻も、立ち位置上刹那の台詞を耳にした朝倉も。

言葉を発することができずにいた。

 

 

 

「......う~ん、重ってえなぁオイ.........」

「...自分の立場になって考えてみると、軽々しい肯定の言葉は白々し過ぎて

迂闊な返答は出来ないね......」

「...いやそれ以前に今聞くことかよ、あれは?」

「......そうだな、言われて見れば少々話の軸がズレている気がせんでもない」

「......いやいや!辻先輩がどう答えるかでしょ此処は!!」

 

「ち、ちょっと、さっきから何の話をしてるんですか皆さん!?」

「まさか旦那方と姐さん、この距離で二人の会話聞こえてんのか!?」

「明日菜明日菜~!!せっちゃん何の話してるん!?」

「...いや、木乃香殿は今聞かぬ方が良いかもしれんでござるな」

 

 

 

「...愛せる。いや、愛したいとは思うよ。 ただ、今の俺は そうなってしまった俺達を想像することが難しい...そうなってみなければわからない、というのが正直な感想だ」

「 ...でしょうね 」

 

やがて呟く様に洩れ出た、色良い言葉とは言い難い辻の返答にも、刹那は怒ることなく頷きを一つ返して言葉を続ける。

 

「では、そんな子を産み落とした女を、その後も愛し続けてくれる保証も、またありませんよね?」

「...そうなるな」

 

一瞬の逡巡の後に、辻は頷いた。本当は、違う、そんなことは無い!と言いたかった。が、幾ら口先だけで不変の愛を謳えようと、いざその時(・・・)になってみなければ、人とはどうなるか解らないということを、異端であるが故に故郷を離れた辻はよく知っていた。なればこそ、質は違えど同じ異端の苦しみを味わったであろう刹那に対して、辻は上っ面なおためごかしを述べたくは無かった。

刹那は再び僅かに目を細めて僅かに口端で弧を描き、想いの丈を吐き出した。

 

「私はそれ(・・)が一番怖いんです、貴方が離れて行ってしまうことが。お嬢様の時もそうでした。大好きな人が私を嫌いになったら、私どうやって生きていけばいいんですか?…寂しいんですよ、愛されたいんですよ、愛したいんですよ。貴方と愛し合いたいんですよ辻部長…深く、深く......深く。生まれが碌でもありませんでしたから、好きになった人とは私、だれより深く繋がりたいんです。寂しい女は優しくされると弱いんですよ。貴方みたいな素敵な人は、一生離したくなくなるんです。それなのに、もし貴方が離れちゃったらどうするんですか」

 

刹那の瞳孔は微かに開かれ、いっそ懇願するかのように辻へと言葉を叩きつける。

 

「怖いんですよ、離れられるのが。自分から離れるなら兎も角、離れられるのは絶対に嫌です

だから、求められないなら諦めるつもりでした。貴方は優しい人で、私を悪く思ってはいないから、私が求めれば一緒に居てくれるでしょうけど、私を求めないなら、何かの拍子に、愛想を尽かされるかもしれないでしょう?私はそれに耐えられませんから。……でも、予想外に貴方へ突き離されて、私やっと自分の望みが理解(わか)りました。辻部長、貴方は自分がイかれているから、相応しくないから私から離れようって、そう言うんですよね。じゃあいいですよ。貴方がどんなに外道で、鬼畜で、イかれていようと、私それを愛してみせますから。…愛しますから、必ずや。私、あなたの支えになりますから。だからもっと私を必要としてください、もっと私を求めてください。そうなったら、私も貴方を遠慮せずに愛せるんです。辻部長も私に負担を、重荷をかけてくれるんですから、私もちょっと他人が引くぐらい、貴方を愛していいですよね?だから言って下さい貴方の欲望(のぞみ)。いいんです、お互い様ですから。私もあなたに、押し付けますから」

 

ですから私と、生涯を添い遂げて下さいよ、と。

刹那は笑って想いを告げた(告白した)

 

辻は黙って刹那の言葉を聞いていた。刹那が語り終えてから、暫くの間辻は僅かに俯いて歯を喰い縛っている様な形相で震えていたが、軈て搾り出す様に、辻は言葉を洩らし始める。

 

「……勘弁してくれよ、桜咲………っ!………俺がどれだけ、普段から我慢に我慢を重ねているか、お前は解って、いないんだ…………‼」

 

ギョロリと、瞳孔の開き切った目を刹那へ向けて、辻は軋る様に言葉を紡ぐ。

 

「お前が今言ったのは、さ……お前にも解り易く言うなら、お前が全裸になって寝そべりながら、股開いて誘った様な、そんなもんだよ、今、お前が俺にやったのは…………‼」

 

辻は頭を掻き毟り、血走った目付きで刹那を見やる。

 

「答えは否、だ桜咲……‼…頼む、頼むよ、退いてくれ…‼…俺は、お前を、殺してしまう。きっと、そうなる‼……頼むから俺を、好きな娘を嬉々としてぶった斬ってしまう様な、畜生以下の存在へ墜とさないでくれ…………っ‼‼」

 

血を吐く様に、辻は刹那へ告げた。

 

 

「……そうですか、辻部長………。……ならば、仕方ありませんね。…貴方を屈伏させて、理解(わか)らせて差し上げますよ」

「……おい、知らねえぞ(・・・・・)どうなっても…………⁉」

 

 

かくして互いに言葉は届かず。

両者は示し合わせた様に戦闘姿勢を取った。

 

『……こ、これは………⁉』

「朝倉さん、もう結構です。ありがとうございました、試合を始めて下さい」

 

余りに緊迫した二人の空気に、思わずマイクに声を通したものの、言うべき言葉が思い起こせず言葉を詰まらせる朝倉へ、刹那は笑って促した。

 

「っ……!、桜咲、アンタこれじゃあ………‼「お願いします」……っっ‼…………大会初っ端から死人が出るなんてアクシデントは御免だからね‼無事に済ませなさいよアンタら‼」

 

言葉の途中で刹那に言葉を差し挟まれ、更に辻に無言のまま目線で促されて。朝倉は最早自らの言葉は届かないと悟り、半ば怒鳴る様に言い捨てる。

 

『それでは皆様!お待たせ致しました、間も無く試合開始となります‼』

 

朝倉の宣言に、二人の会話を伺えず焦れていた場内は再び湧き上がる。

 

 

 

「……やっべーなコレぁ………!」

「辻の野郎、ある意味キレてんぞこれ‼」

「そりゃそうだよ黙っていたならまだしもあの言い様だもん、気持ちは痛い程解るけど煽り過ぎでしょ桜咲ちゃん⁉」

「或いは作戦の内かもしれんが……辻が本気(・・)で斬り掛かれば桜咲後輩にも見切れはせん筈…些か無謀に過ぎるぞこれは……‼」

 

ボルテージの上がる観客達の中、辻を除いたバカレンジャーは、惨劇の予感に冷たいものが背筋を流れるのを感じていた。

 

「こ、ここ木乃香⁉ちょっと桜咲さん本気で思い詰めてる感じで、辻先輩完全にキレてる感じで兎に角ヤバいわよどうしよう⁉」

「あ、明日菜さん落ち着いて下さい⁉」

「だー⁉会話が解んねえから話し合いが決裂したって位しか理解(わか)らねえー⁉」

「……これ下手しなくても血見るアルよ……」

「言うなや古の姉ちゃん……解りきったことでも口に出したらマジに現実になってまうやろが……」

「…で、ござろうな……しかし刹那は何らかの勝算あってのあの強気でござろうか……?」

「待て待て待て揃いも揃って地獄耳共、勝手に内輪で話を進めんな!なに?そんなヤバそうな訳あいつら⁉」

「ち、ちょっと待ちなさい‼取り返しのつかない事態に発展しかねないなら黙って見ている訳には……!」

「私でも途中で邪魔立てしたらどうなるかなど理解できるですよ、高音先輩……二人の顔を見て下さい、最早余人が立ち入れる空気では無い様ですよ…………!」

「…で、でもゆえ〜、本当にもしものことがあったら……⁉」

「そ、そうですよ‼それに、こんなこと言うのは何ですけど、関係者として余り派手なことをされちゃうと秘匿事項の漏洩に繋がっちゃいます‼」

「……私としては、何となく察せる部分だけでも桜咲さんの気持ちは解るから、見守ってあげたい所だけれど………」

 

「…やれやれ、揃いも揃って青臭いことだ。余りに必死過ぎて笑う気も起きん………同じ様なノリで次に挑む己が一番笑えんがなぁ…………」

 

各々が壇上の辻と刹那を危ぶむ中、エヴァンジェリンは一つ息を洩らしてから、固い表情で刹那を見据える木乃香へ言葉を投げ掛ける。

 

「刹那は随分と入れ込んでいる様だが、辻 (はじめ)はどうやら本気だ。……止めんで良いのか近衛 木乃香?お前の言葉ならば刹那も聞き入れるやもしれんぞ?」

「……エヴァちゃん…………」

 

木乃香は僅かに唇を噛み締め、思案する様な表情を一瞬浮かべたが、軈て緩やかに首を振りエヴァンジェリンの提案を否定する。

 

「……せっちゃんが怪我するか、もっと酷いことになるかもしれへんのは、勿論嫌や……辻先輩も、同じや。二人共、ウチにとっては大事な親友と先輩や!……でも、上手く言えへんけど…今はきっと、言葉じゃ解決せえへんねや。好き合っとるのに、何でこないなことせないかんのか、ウチには解らん。解らんけど……せっちゃんは辻先輩が大好きなんや。辻先輩も、同じや。……ウチは、悪いことにならんて、信じるわ、エヴァちゃん…………‼」

 

せっちゃんが、見守っていて下さい、言うたんやから……と、木乃香は隣の明日菜と手を握り合い、刹那と辻へ再び向き直る。

 

「……フン…………」

「御節介な事だな、吸血鬼?」

 

一つ鼻を鳴らして正面に向き直りかけたエヴァンジェリンに、今度はフツノミタマが話し掛ける。

 

「好ましい歪み方をしていた小娘が今では惚れた腫れたの鍔迫り合いだ。可笑しくて声の一つも上げたくなろうさ」

 

貴様は愉しそうで何よりだがな、と皮肉気にエヴァンジェリンが返すと、フツノミタマは嗤って口端を吊り上げる。

 

「愉しいとも。状況如何では主がいよいよ一皮剥ける(・・・・・)やもしれんからな」

「そんなことにはさせんよ」

 

口を挟んだのは杜崎であった。

 

「ほう………?」

「子どもに恨まれるのは大人の役目だからね。いざとなったら、何とかするさ」

「あれでもウチのクラスでは破格に優等生な方でな、お前の主人は。馬鹿共のストッパーがいなくなるのは御免被るというものだ」

 

高畑も一つ頷いて杜崎に並び、フツノミタマは詰まらなそうに一つ息を吐いて辻と刹那へ向き直る。

 

 

「まあ勝手にするがいい……どうせ、遅いか早いか、だ…………」

 

 

 

 

 

 

「……辻部長、私のこの格好がなんのつもりか、と先程尋ねられましたよね?」

「…陽動のつもりか知らんが、乗らんぞ?」

 

辻は試合開始の合図を前に、唐突に語り出した刹那へピシャリと返す。辻からしてみれば既に語るべきことは語り終えたつもりである、今更無駄に言葉を交わす気もしなかった。

 

「いえ、そんなつもりはありませんよ。ただ、言っておきたいことがあるだけです」

 

しかし刹那は奇妙な迄に楽し気に笑みながら辻の勘繰りを否定すると、空いた片手で己が衣装を指し示す。

 

 

「ほら、最初に奇抜な格好をしていれば。更に格好が変わって(・・・・)も、仮装の延長と思ってもらえるじゃないですか」

 

 

刹那のその言葉に。

無視することの出来ない何か(・・)を感じて、辻は目を見開き、刹那を凝視する。

刹那は僅かに笑みを深めて、木剣を持った手と空の手を左右に開き、言葉を放った。刹那の台詞に、後方の朝倉が放つ口上が重なって辻の耳に響く。

 

「以前に私は羽根をお見せしましたが、今から見せる姿はお嬢様や長にもお見せしていないものです」

 

『それではまほら武道会、第一試合開始となります!!』

 

「ええ、化け物地味ていますから。本来見せるつもりは一生無かったのですが......」

 

『試合、開始ィ!!!!』

 

「最早形振り構うつもりはありませんので。全力で、行かせて頂きます」

 

『さあ両者、静かな立ち上がりですが...何やら桜咲選手が両手を広げた奇妙な構えのを取っています!』

 

 

「桜咲、お前...!?」

烏族獣化(・・・・)

 

刹那の静かな呟きと共に、錯覚で無くその全身が蠢いた(・・・)

細身の肢体は僅かに厚みを増し、髪は白く色を変え腰まで伸びる。手足は長く、腰付きは丸みを帯びて括れ、肩幅は俄かに広く変貌(かわ)った。

円熟し、華奢な中学生の身体付きは大人びたそれに組変わり、更に身体の各所を覆い隠すかのように、フワフワとした純白の柔毛が生え揃う。

手足には猛禽の如き鋭い鈎爪が伸び、特に脚足の爪は脛から下からの形状ごと鳥の脚のそれに変形し、前爪の三本と後爪の一本が闘技場の床に喰い込んだ。

そして、背なの衣服の間から静かに一対の翼が零れ、刹那の身の丈よりも遥かに大きさを増した純白の羽根は、会場内の僅かな風を孕んで大きく広がった。

呆けた様に立ち竦む辻を、人のそれよりも瞳孔の広がった真紅の瞳が居抜き、半鳥半人と化した刹那は穏やかな調子で声を掛けた。

 

 

「さあ、始めましょうか辻部長?」

 

 




閲覧ありがとうございます、星の海です。
始まりましたまほら武道会第一試合。辻が良い感じにキチッている気もしますが、せっちゃんがそれ以上にあれな感じになりましたね。...まあヤンデレの素養がせっちゃんにはあると思うのでこれでいいのです何)
ラストの獣化ですが、同じ和の妖怪のハーフである小太郎が獣化できるなら、同じ位烏族の血が混じっている様に外見上見えるせっちゃんも獣化できてもいいとの考えからの独自設定です。せっちゃんの獣化外見は高校生位の身体付きになり、純白の烏と人が混ざったバードマン的なあれです。メリット、デメリットはまた次回にて。次で決着して第二試合に入る予定です。
それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。

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