お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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このSSは本編よりも大分時間が経過した段階で、辻と刹那が付き合い出して程無い頃、というif設定の元に描かれています。予めご了承下さい。また少々ならずいかがわしい表現が文中に含まれますので、苦手な方は閲覧をお止め下さい。


10万UA突破記念SS 第1弾 辻と刹那のイチャイチャ

 

 

 

 

 

 

 

 

「……羽根繕い?」

「は、はい……」

 

怪訝な顔で訊き返した辻に、刹那は仄かに顔を赤くしながらも小さく頷いた。

 

休日の昼下がり、辻と刹那の二人は何をするでも無くのんびりと、辻の部屋にて寛いでいた。十代のカップルが折角の休日に過ごす内容としては些か枯れているような気もするが、何と無く外に出る気分では二人とも無かったのだから仕方がない。誰に迷惑を掛けている訳でも無い以上、文句を言われる筋合いもまた無いのだから。

そのような訳で、二人は取り留めの無い会話を時折交わしながらクッションを敷いた床に寝転がり、何ともまったりした時間を過ごしていたのだが、そんな折に辻がふと投げ掛けた『なにか俺にして欲しいこととかあるか?』という中々おアツい(・・・・)台詞に、暫し迷った後刹那が告げたのが冒頭の台詞であった。

 

「……それは、お前の背中の羽根を、ってことだよな?」

「はい……あの、やはり迷惑で…」

「刹那」

 

身を引きかけた刹那を嗜める様に辻は短く恋人の名を呼ぶ。

 

「そういう遠慮はお互い止めようって約束したろ?あんまり人の事は言えないが、お前は少し遠慮しぃが過ぎるんだよ。…お前が望むならなんでもやってやるさ。唯、なんで態々羽根なのかが少し気になっただけだ」

 

直接聞くのもどうかと思うが、婉曲にもっと積極的になってくれとかそういう誘いじゃないよな?との辻の言葉に真っ赤になって首を振りながらも、刹那はそれをねだった理由(わけ)を語る。

 

「既にご存知の通り、私には半分烏族の血が流れているのですが……烏族に限らず大抵の有翼種の亜人にとって翼とは命の次に、種族によっては命よりも大切なものなのです。…その、烏族の羽根に触れられるのは、血を分けた肉親、若しくは寄り添いて生きることを誓った伴侶でも無ければ許されないものでして……」

 

「……成る程…」

 

其処に至って漸く辻は刹那の意図を察することが出来た。

要するに烏族にとって羽根というのは酷く重要にしてデリケートな代物であり、羽根に触れさせるというのは、人間の女性で喩えるなら胸や尻を触られるまで行かずとも、髪を梳かれたり背中にサンオイルでも塗られるよりはハードルの高い行為なのだろう。

故に刹那は辻に対する親愛の表しと、『恋人らしい』二人へのステップアップとして一段階踏み込んだスキンシップを図ろうということである。

何ともいじらしい恋人の心意気に、辻は面映ゆい気分になりながらも一つ頷いて腰を上げ、刹那を促す。

 

「言わば羽根を預けてくれるのは信頼の証、か……ありがとう刹那。誠心誠意、グルーミングに取り掛からせてもらうぞ」

「その言い方では私が猫か犬みたいですから止めて下さいよ…」

 

そう言って刹那は苦笑しながらも、お願いしますと着ていたシャツの背面を、羞恥からか僅かに顔を赤く染めながら捲り上げた。

 

 

 

「ひゃっ……‼︎」

「うぉ…⁉︎す、すまん刹那、痛かったか……?」

「い、いえ…いきなりだったので少し、びっくりしただけです……」

「あ、ああ悪い。次からはちゃんと声を掛けるよ…」

 

刹那の露わになった抜ける様に白いきめ細やかな背中に多少動悸を早くしながらも、意を決して肩甲骨の辺りから生える刹那のこれまた初雪の如く純白の羽根に、辻が手を掛けた時の刹那の第一声が上記の悲鳴であった。

 

……たしか鳥の羽根には神経が通っていない筈だし、生え変わって成長途中の羽を除いて血も通っていないって前に何かで読んだ気がしたんだが………

 

まあそれは普通の鳥の話だし、刹那は半分人間の血も入っているわけだからいろいろ勝手が違うのか、と辻は気を取り直して、毛の柔らかなブラシ片手に改めて刹那の羽根へと向き直る。

 

「……触るぞ、刹那?」

「は、はい……ぅんっ…!」

 

頷きながらも辻の手が触れた瞬間、鼻に掛かった艶っぽい声を洩らす刹那に、辻は手を柔らかな羽毛に半ば埋ませたまま動きを止めるが、

 

「す、すみません……!…あの、大丈夫ですから………」

 

と、顔の赤い刹那に先を促されて、辻は雲行きの怪しくなってきたような何か(・・)を感じつつも、逆の手に持ったブラシでひとまず刹那の右羽根の根元近くを軽く梳く。

 

「ふ、くぅんっ‼︎」

 

…………………うん………

 

「………刹那、幾ら何でも敏感過ぎないか?……」

「ち、違うんです‼︎これにはちょっと、訳がありまして……⁉︎」

 

一旦ブラシと手を羽根から離して辻は刹那に問い掛ける。刹那は茹で蛸の様になりながらしどろもどろに弁解を始めた。

曰く、烏族は空を飛ぶ際に翼で主に風の流れを感じ取り、羽の一本一本を精密に動かしての微細な調整を駆使して風を掴む(・・)ことを得手としているらしく、それが故に空中飛行においては他の飛行種族よりも高い機動性を誇るらしい。

その為に烏族の羽根は通常の鳥と違い、羽の先までに発達した神経網が張り巡らされているらしく、その羽根は極めて鋭敏な感覚器官の一つである。取分け感覚の鋭い烏族ならば、視覚や聴覚を塞がれていても羽根さえ外気に触れていれば、空気を介して伝わる情報のみで、支障無く戦闘や飛行を行えるらしい。

一聞しただけでは良いことずくめのように思える烏族の羽根だが、感覚が鋭過ぎるというのは時としてデメリットにもなり得る。

大気に撫ぜられる程度ならばなんら行動に支障は無いが、何かに触れられる等の一定以上強い刺激を加えられると、脇や足の裏を擽られた刺激を数倍したような、むず痒く、それでいて心地よいような何とも言えない感覚が羽根を通して伝わってくるらしい。

更に刹那はハーフであるというのに羽根の感覚は通常の烏族よりも寧ろ鋭敏な方であり、加えて刹那は普段から羽根を外に晒していない為、中に仕舞い込まれている羽は偶に外に出すと感覚が一層鋭敏なものになっているらしい。

つまり、結論を簡潔に述べるならば、刹那は羽根に限って有り得ない程刺激に対して超敏感ということである。

 

「……ならなんで羽根を俺に任せようとしたんだよ、お前は…」

「い、いえ、今まで誰にも羽根に触れさせた事が無かったものでして…自分で時折手入れは行っていたので、まさか自分以外に触れられるとこんなに、その、感じるとは思わなくて……」

 

刹那は赤い顔を俯かせ、モジモジと身体を捩る。背中の羽根は小さく羽搏く様にユラユラと左右に揺れていた。

 

……犬が尻尾振ってるみたいな動きだな…………

 

些か逃避気味にそんなことを考えながら辻は動悸の早まって来た胸にそっと手を当てる。何だか知らないが先程から色っぽい声を聞かされたり感じるなどと端からすればそっち(・・・)の意味合いにしか聞こえないような台詞を聞いたりで、性的嗜好が少々特殊であるものの健全な男子高校生である辻からしてみれば正直大分妙な気分にさせられていた。

 

「……刹那、そんなに耐え難いなら羽根繕いは一旦中止するか?別に急ぐようなことじゃないんだ、お前が羽根を出している状況にもう少し小慣れてからでも充分に……」

「…………いえ」

 

これ以上の続行は何やら危険な方向に流れそうだったので、刹那を止めにかかった辻だが、刹那は暫く考え込んだ後に首を横に振った。

 

「やっぱり続けて下さい。羽根繕いは親子や伴侶の間で行なわれる、烏族にとって至上にして至高の親愛の表しです。誰が見ている訳で無くとも、中途に終わらせたとあれば私の中の私が愛情に疑いありと誹ります。迷惑で無ければ、どうか」

「……迷惑では無い、迷惑では無いが…………」

「だ、大丈夫です!行為自体が嫌な訳では決してありませんので‼︎少々むず痒くはあるんですが、…寧ろ気持ち良い、と言いますか……あの………」

「…………………………」

 

恥じらいながらもそんなことを言いながら健気に身体を張る旨を告げてくる刹那。辻に退路は残されていなかった。

 

 

 

ブラシが羽と羽の隙間にその細く、柔かな毛を入り込ませ、優しく上から下へとなぞり下ろして間隔を整え、羽の生え際の肌とその下の肉に程良い刺激を送る。

 

「あ、はぁっ……!…っう……っん‼︎…」

 

そのまま全体を軽く梳き終えると、動かしていない時間が長かった為にやや張り詰めて硬くなっている、翼を動かす根本の筋肉を(ほぐ)す為、前側に回した片腕で翼を抱きかかえるようにしながら先程よりもやや強めに、毛を立てる様にしてブラシで梳く。

 

「い…ひっ⁉︎…あっ……や、はぁっ……‼︎…」

 

自然、刺激を受け続けて反射的に小さく閉じようとしている羽根の関節部を優しく押し留め、ストレッチをするかの様に軽い力で駆動域一杯まで羽根を開かせると、如何しても構造上羽と羽の重なってしまう汚れの溜まり易い部分をブラシで丹念に梳く、梳く、梳く。

 

「あ……やぁっ、あ、あああ……‼︎…つじ、ぶちょ…ふっ、くぅん‼︎」

 

 

……落ち着けよー、兎に角落ち着けよー俺。幾ら可愛らしかろうと色っぽかろうとプッツリ行くなよー…押し倒して一線越えるだけなら良くないけど良いとして、ザックリ(・・・・)行ったら死ぬからなー、お前の恋人死ぬからなー…

………‼︎

 

上気した顔の双眸は絶え間無い刺激にすっかりと蕩け、必死に嬌声を洩らすまいときつく引き結んだ口元からは透明な唾液が一筋、いやらしく喉元へ滑り輝く道を残しながら垂れていくのを辻の眼は確かに捉えていた。快感に抗わんと力の限り握り締められた両の拳は胸元でフルフルと小刻みに震え、対照的に力無く投げ出された足の太腿辺りが時折擦り合わされる様な動きをするのは気の所為か見間違いだと辻は思うようにした。時折痙攣する様に振るわれる純白の羽根の、サラサラと絹の様な手触りでありながら同時に綿の如くフワフワしたボリュームを感じられる、何とも言えず心地良い感触を手で楽しみながらも、辻の理性は大分追い詰められていた。

 

……なんだこの状況…………

 

他愛無い恋人同士のスキンシップ程度の心持ちで臨んだというのに、はっきり言って雰囲気は完全にS◯Xの前戯か何かである。かといって今更止めるのは片手落ちにも程があり、すっかり止め時を見失った辻であった。

 

…………兎に角右羽根はもう終わってる!後は可能な限り早く、されど丁寧にこの新手の苦行と化したいかがわしい行為を終わらせるのみ‼︎……

 

畜生あの烏頭の連中は普段からこんなエロいことやってんのかあのエロ妖怪共が‼︎と、烏族にとって相当に不名誉な八つ当たり地味た思考をしつつも辻は天国のような地獄(羽根繕い)を終わらせに掛かる。

 

「ひ、ぃあっ⁉︎つ、つじぶちょう、ひん⁉︎も、もう少しゆっくり……っああん⁉︎」

 

「もう少しだ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ俺ぇぇぇぇぇぇ…………‼︎‼︎(煩悩を頭の中から追っ払うために集中しすぎて刹那の声が届いていない)」

 

「ふぁ、もう、もう無理、あんっ‼︎だ、だめ…やっ、らめれすつじ……ひゃ、っあああああんっ‼︎⁉︎…………」

 

 

暫くの間お待ち下さい。

 

 

「…………………………」

 

「……本っ当に申し訳ありませんでした……‼︎‼︎」

 

有り体に言って刹那が◯ってしまってから役五分後。腰が抜けたような女の子座りの姿勢で今だ荒い息を吐きながら。真っ赤なままの顔で半泣きになりつつも睨み付けてくる刹那の前で、これ以上姿勢はこの世に無いのではないかと言う事見事な土下座を辻は披露していた。

 

「……っすん……もういいです、明らかに堪えるのが無理だと途中で理解できていながら、強行した私も悪いですから…………」

「いや、それは途中で俺が暴走していい理由にはならん。本当にすまなかった、刹那……‼︎」

「ですからもういいですって。快か不快かで言えば…………あれでしたから‼︎もうこの話は終わりにしましょう‼︎……でも次はもう少し、優しくしてくださいね……?」

「…………わかった、許してくれてありがとう…」

 

果たして次があったとして俺と刹那は生きていられるのだろうか、と何時か再び訪れるであろう試練の時を暗澹たる気分で想像していた辻だが、一先ず先のことは置いておこうとある意味恋の思考放棄をかまして起き上がり、様々な意味で消耗したであろう恋人の為に冷たい飲み物でも持ってこようと、台所へ向かう。

 

「刹那、煮出した麦茶とオレンジジュースと泡の出る麦の飲み物と綾瀬ちゃんから押し付け…貰った『愛欲のuse茶、アッー!』とかいう謎ドリンクがあるけど何がいい?」

「とりあえず最後のは絶対に要りません、なんですかそのいかがわしい代物は?……というか何故お酒があるんですか……」

「間違っても大きな声では言えないが、酒はそんなに好きじゃ無いけど◯ールだけは好きなんだよなぁ俺。特に夏場はあの喉越しが……」

 

不良な彼氏ですまないなあ、と戯けた様に笑う辻に苦笑を返しつつ、アルコールの入っていない麦の方を頂く刹那だった。

 

「ありがとうございます」

「どういたしまして。………ああ、そうだ刹那。まあ事が事だから無理ないかもしれないけれど、戻って(・・・)たぞさっき」

 

氷の入ったグラスを手に、律儀に礼を告げてくる刹那に応えつつ、ふと先程の痴態……では無く、恋人のとある台詞を思い出した辻は、刹那にその旨を伝える。

刹那は一瞬キョトンと目を見開くが、直ぐに思い当たったのか若干気恥ずかしそうにしながらも、微笑みと共に恋人の名(・・・・)を呼んだ。

 

「すみません、いい加減慣れなきゃいけませんね……(はじめ)さん」

 

こうして少々過激な恋人達の触れ合いは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「ユウベハオタノシミデシタネ?」

「黙れ、殺すぞ」

「恥ずかしがんなよ(はじめ)ちゃ〜〜ん、もう彼氏彼女の仲なんだし何恥じることも無えじゃんよぉ〜〜?…にしても(はじめ)ちゃんったら案外テクニシャンねぇ‼︎男を知らないであろうせったんを初めっからあんなに喘がせて、大人しい顔してヤることはヤっちゃうんだからこーのムッツリスケベ‼︎」

「よし解った綺麗におろして……待て、なんでお前そんな微妙に具体的に話を……」

「なんでってそりゃ聞こえてたからに決まってんじゃん。最も最後の方の一際デカかったのであろう絶◯カマした時のだけだけどなー、麻帆良の男子寮は野郎ばっかの建物にしちゃ防音しっかりしてっけどあんまりアテにし過ぎちゃ駄目よ(はじめ)ちゃ……おわぁ⁉︎」

「トリアエズテメエヲコロシテギャクドナリノヤロウモコロシニイクカ…………‼︎」

「ヲイヲイ(はじめ)ちゃんちぃと落ち着……おいマジで待てやフツちゃんで斬られたら死んじまうだろーが⁉︎」

「シネヤァァァァァァァ‼︎」

「ギャーーーーーーッ⁉︎⁉︎」

 

麻帆良は今日も平和である。




閲覧ありがとうございます、星の海です。10万UA突破記念と謳っていながら、時間が掛かって大変申し訳ありません。先ずは第一弾、辻の刹那のイチャラブをお届けします。……なんだか初めて本作のRー15のタグが真面に機能した気がする内容となりました。当初はもう少し健全な内容にするつもりだったのにおかしいですね笑)まあ作者の文才では其れ程エロいものにも仕上がらなかったと思いますので許容範囲内でしょう。本編が暗いというかシリアスな状況だけに、イチャイチャしてる二人が描きたくなり、メイン主人公ヒロインからのSSと相成りました。他のバカレンジャー、他数組のSSも順次本編投稿の合間に描き上げて頂きますので、他のカップルのイチャイチャは今暫くお待ち下さい。……次は豪徳寺か中村辺りでしょうかね。
次回は本編、豪徳寺と千鶴のデート回を投稿する予定です、楽しみにお待ち下さい。それではまた次回にて。次もよろしくお願いします。

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