お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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難産でした。時間掛かって申し訳ありません。


8話 気になる彼女の恋愛模様

蒼く、冷たく澄んだ真円の月が仄かな光を闇に包まれた広場を浮かび上がらせている。

間も無く日が変わろうかという真夜中にも関わらず、その場には多種多様な人間の姿があった。老若男女の端から見れば何の統一性も無い様に見えるその集団は、一目でそれと解る程に緊迫した空気に満ちていた。

 

「…やっぱり皆ピリピリしてますねえ、杜崎先生」

そんな張り詰めた雰囲気に耐えられなくなってか、顔立ちの整った若い男性ーー麻帆良中等部の教師、瀬流彦が傍らの厳つい男性教師、杜崎に小声で話しかける。

「当然だ」

杜崎は短く答え、集団ーー魔法教師と生徒が円状に取り囲んでいる中心を見やる。

其処には幾重にも連なり、繋がり、重なって描かれた複雑にして緻密な魔法陣が鎮座し、その手前で儀式を行うのはこの麻帆良学園最高の実力者、近衛 近右衛門。傍らに黙して控えるは緑髪を僅かな夜風に流す、侍女(メイド)服に身を包んだ絡繰 茶々丸。

そして、魔法陣の中央で静かに目を閉じ、正に解呪の儀を受けている金髪碧眼の最高級のビスクドールの如き見目麗しい少女ーーエヴァンジェリン・A・Kマクダウェルが居た。

「幾ら不戦協定を誓約(ギアス)ペーパーで結んでいようが相手は元六百万$の特A級賞金首にして間違い無く世界有数の魔法使いだ。そんな存在がこれから全盛期の力を取り戻すのだから、差し詰め餌を絶って5日目の飛竜種を裸で前にする気分だろうよ」

「死ぬって事じゃないですか……まあ誓約(ギアス)にしても絶対的にあらゆる場合において完全非暴力を課すような一方的な内容じゃありませんでしたからねぇ。…というか、そう仰る杜崎先生は余り緊張していないみたいですけど……?」

不思議そうに尋ねる瀬流彦の言葉に杜崎は鼻を鳴らす。

「仮に全面戦争になったとしても高畑先生と学園長が居るのだから何とかなるだろう。二、三人死人は出るかもしれんがな」

「全然良くないですって…僕こんな若い身空で死にたくありませんよ……」

情けない声で告げてくる瀬流彦に杜崎は溜息を吐く。

「もう少し貴様はしゃっきりとしろしゃっきりと。それでも同世代で結界や防護術式では右に出る者無しと謳われて揚々と赴任して来た秀才か?」

魔法の射手(サギタ マギカ)はおろか中級魔法が直撃してもピンピンしながら反撃をぶち込める何処かの鉄人先生とは負傷に対する意識が違うんですよ痛いっ⁉︎前触れも無しに殴らないで下さいよ⁉︎」

「お前は何時も一言余計だな。山下が残念イケメンなら貴様はうっかりイケメンだ空気の読めん輩め」

拳骨を落とされた頭を押さえて抗議する瀬流彦に、杜崎は呆れた様に言い放つ。

「ちょっ、イケメン呼ばわりは嬉しいですけど誰がKYですか失礼な!」

「自覚が無いのがまた救えんな。周りを見てみろ周りを」

杜崎の言葉に瀬流彦が周囲を見回すと、近辺の魔法教師達が警戒態勢の中大声を上げている瀬流彦を睨み付けていた。

「…うわ………」

周囲にペコペコと頭を下げる瀬流彦の傍らに立つ杜崎は、自分の後輩の頼りなさに、もう一度深い溜息を吐いた。

 

「……どうじゃ、エヴァンジェリン?」

長い儀式を終え、額に滲んだ汗を拭いながら近右衛門が問い掛ける。

「……ふ」

己が両手を確認する様に握り開きを繰り返していたエヴァンジェリンが吐息の様な笑声を洩らす。

「ふはははははははははは‼︎‼︎実に清々しい気分だよジジイ‼︎何者にも縛られぬ自由な体がここまで心良いものだとは久しく忘れていた!今回ばかりは素直に礼を言っておくとしようか、古狸‼︎」

「それが他人に礼を言う態度かい」

あくまで尊大なエヴァンジェリンに近右衛門は溜息を吐く。あくまで普段通りの態度を変えない近右衛門と違い、周りの魔法関係者は気圧された様に及び腰になっていた。

それも無理は無い話で、登校地獄と学園都市結界の封印の両方が解き放たれたエヴァンジェリンは、周囲に溢れ出る魔力の余波だけで空間を震わせる程の圧力を形成していた。敵意に近い視線をエヴァンジェリンに向けていた魔法関係者の一部も動揺して視線が彷徨っていた。

「エヴァ、十五年振りの自由にテンションが上がるのは解るんだけど、もう少し魔力を抑えてくれないかい?他の皆の負担になっているみたいだからね」

周囲の様子を見かねてか、高畑がエヴァンジェリンに声を掛ける。

「ふん、知ったことか。頼んでもおらんのに人様の大事な転機の場を感じの悪い視線で睨み付けながら何をする訳でもなく突っ立っているだけの連中など、こちらが気を遣ってやる義理は無い」

エヴァンジェリンは高畑の頼みをすげ無く突っぱねる。

「き、貴様が力を取り戻し、よもや反逆を企てはせんかと監視していたのだ‼︎」

エヴァンジェリンの皮肉気な言葉に、包囲していた一人の中年の魔法使いが顔を真っ赤にして反論する。うわぁ勇気あるなぁあの人…とわり合い近くにいた瀬流彦が呟き、蛮勇と言うのだ、あれは、と呆れた様に杜崎が返す。

「はっ、誓約(ギアス)ペーパーでわざわざ在籍期間内はみだりに人を害せん様にしてやったというのに要らん苦労をご苦労なことだ。貴様らの勤勉ぶりには頭が下がるよ、本当になぁ?」

「っ‼︎…私を侮辱するか‼︎」

「侮辱?おいおい勘違いするなよ小僧(・・)

私は今気分がいいんだ、だからこそ相手をしてやっている(・・・・・・・)、とエヴァンジェリンは返しながら右の掌で顔を覆い拭う様に上から下へ一撫でする。

 

「…なんで私がお前程度をわざわざ評価して馬鹿にしてやらねばいかんのだ?」

 

「っ⁉︎…ぅ、ああ…………⁉︎」

強膜と前眼房奥の水晶体の色彩が逆転した、600年を生きた真祖の吸血鬼、闇の福音(ダーク エヴァンジェル)としての眼が魔法使いを捉え、殺気とも怒気とも敵意とも、どれとも違う排除する意思そのもののような濃厚な何か(・・)が彼を萎縮させ、一瞬で飲み込む。

「…こちら側の無礼は謝るわい。それぐらいにしておいてやってくれんかのう、エヴァンジェリン?」

「…ふん」

近右衛門の言葉に従ったと言うよりは、その言葉により興が削がれた、と言う感じで詰まらなそうにエヴァンジェリンが纏う空気と眼光を元に戻し、魔法使いから視線を外す。圧力から逃れて荒い息を吐く男を最早一顧だにせず、帰るぞ茶々丸、と従者に声を掛け、踵を返す。

「…エヴァンジェリンよ……」

「なんだ、ジジイ?」

「…お主、これからどうするつもりじゃ?」

近右衛門の言葉にエヴァンジェリンは一瞬動きを止め、

「……さあな…」

短く言い捨て歩みを再開した。

 

「…解散ということの様だな……」

去って行くエヴァンジェリンの背を睨み付けていた杜崎だが、学園長の解散の旨を伝える言葉にふっと身体から力を抜き、呟く。

「……杜崎先生………」

瀬流彦が色の無い声で杜崎に呼び掛ける。

「なんだ?真逆漏らしていないだろうな」

「なんて事言うんですかなってませんよ‼︎…まあ実際チビりそうな迫力でしたけど」

瀬流彦はうそ寒気に首を竦める。

「いや、なんて言うんですか?今のエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルよりはマシな状態だったんでしょうけど…辻君達よくあんなのに挑めましたね幾ら五対一とはいえ。流石は杜崎先生の教え子って事ですかね……」

怖い物知らずというか、クソ度胸が本当にそっくりですよ。と瀬流彦が感心した様に言う。

「…俺は奴等と始めて衝突した赴任当時から現在に至るまで、何かを教えられた自信が全く有りはしないがな」

対する杜崎は忌々し気な顔で返事をする。

「は……?」

「俺達も帰るぞ。もう日が変わっている」

困惑する瀬流彦に構わず杜崎は足早に広場を後にした。

 

「……私らしくも無いな………」

「マスター?」

「何でもない、茶々丸」

 

……今暫く学園に留まるとはいえ、私のやる事など決まっているというのにな…………

 

 

 

「エヴァさん、晴れて自由の身の奪還、本当におめでとーう‼︎」

パン!パパパン‼︎

満面の笑みの山下と奇妙に歪んだ辻達の引いたクラッカーが鳴り響き、

「いぇああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」

ダラララララララララララ‼︎‼︎ジャジャーン‼︎‼︎とパンクなファッションに身を包み、顔にデー◯ン閣下の様なメイクを施した中村が身体全体を振りたくりながら鳴らすドラムセットが響き渡る。唯只管にやかましい。

「……………………………………」

ログハウス(自分の家)に入った瞬間にその様な歓待?を受けたエヴァンジェリンは苦虫を噛み潰したと同時に糞でも踏んずけた様な顔で沈黙する。

「ケケケケケケケケケケ」

自らの主人(エヴァンジェリン)のそんな表情を見て愉快気に小さな木製の人形ーーチャチャゼロは笑声を響かせた。

 

「…まず初めに聞いておこう。……どういうつもりだこの茶番は?」

テーブルの上に所狭しと並べられた料理や飾り立てられた室内。どう見てもこれからパーティーでも開こうとしている様にしか見えない状況の我が家の様子の一席に腰掛けながらエヴァンジェリンは無表情で尋ねる。

「え?どういうつもりって見たまんまだよ。エヴァさんの快気祝い」

山下は笑って返す。

「まあ言いたいことは解る。俺も正直この場に居るのに違和感しか感じん」

大豪院が渋い表情で言う。

「まああんたの解放に関しちゃ俺らは一枚噛んでるからよ。様子を見に来たってのを兼ねて、な」

豪徳寺が苦笑しながら返す。

「…山ちゃん一人じゃ心配だったもんで」

居心地悪そうに端にちょこんと座り、微妙に萎縮しながら辻。

「あああんたの俺らを見た時の顔がすげー面白そうだと思ったからだよゲバハハハハハハハハハバァ⁉︎」

ドラムスティックを頭上で交差(クロス)させながらおかしな高笑いを上げる中村の顔面に小規模の氷瀑(ニウィス カースス)が炸裂し、後方へ倒れる中村。

「…そうか死にたい様だな貴様ら……‼︎」

鳴動と共に身体から膨大な魔力を立ち上がらせつつエヴァンジェリンが魔物の笑みで言い放つ。

「人が祝ってやろうってのに物騒だなオイ」

「誰も頼んでおらんわ。大体誰が立ち入りを許可した不法侵入者共が」

呆れた様に呟く豪徳寺に嗤い顏を見せながらエヴァンジェリンが凄む。

「そいつだ」

「ケケケゴ主人感謝シナ。ボッチノゴ主人ヲ盛大ニ祝ッテヤル為ニソコノ優男ノ立チ入リヲ許可シトイテヤッタゼ」

「貴様チャチャゼロォォォォォ‼︎」

大豪院に親指で指差されケタケタと笑う殺人人形(キリングドール)の真逆の裏切りにエヴァンジェリンは激昂する。

「と、いう訳でお家の人にきちんと許可を取って用意しているよエヴァさん。これなら問題無いよね?」

「大有りだこの優男‼︎肝心な私の許可を取っておらんだろうが‼︎」

「え、何言ってるのエヴァさん。こういう行為は祝われる本人に秘密裏で用意して直前に伝えて喜ばせるものでしょ?エヴァさんに事前に言う訳無いじゃない?」

「そっとしといてやれ山ちゃん。ボッチだからこのロリババアにはそういうお約束が解らねえんだよ」

むっくりと中村が起き上がって顔にへばり付いた氷を剥がしながら(何故かメイクは落ちない)哀れむ様に告げる。

「……よし貴様ら其処の庭先に並べ。貴様らに瓜二つの氷の彫像を作ってやろう」

最早溢れる殺意を隠そうともせずにエヴァンジェリンが凶相で微笑む。

「…そうカッカするなよマクダウェル女史。俺達は兎も角山ちゃんは純粋にあんたの快気祝いをしたくてこの場を作ったんだ。気に入らないなら俺達は出て行くから山ちゃんは残してやってくれ、これにかかった費用の大半山ちゃんの懐から出てるんだから」

辻が前回の死闘と比べて少なく共一段階は増している圧力に青褪めながらも言い募る。

 

「「「「……………………………」」」」

凶眼で一同を睨みやるエヴァンジェリンとふにゃりと笑み崩れている山下を除いて大小緊張しているものの逃げ腰にはならずエヴァンジェリンを見返しているバカレンジャー。

 

「………………好きにしろ、馬鹿共が………」

一分近い沈黙の後エヴァンジェリンが脱力し、盛大な溜息と共に呟く。

「はーいエヴァさん。じゃあ乾杯の用意をしよう。あ、茶々ちゃん、ここらの食器で何か使っちゃいけないものとかある?」

「特にその様な制限は設けてありません。ですが、祝いの席ではこちらのグラスを…」

「おお成る程、ありがとう茶々ちゃん」

「…やっぱ帰った方が良くないか?」

「まあ確かに馴染んでいるあいつが異端な訳だが…出席を許可されてから帰ると言うのもそれはそれで気まずいぞ」

「仲良くない奴帰らせてから仲良い奴だけでパーティーってなんかあれだしなあ」

「いいじゃねえか今から帰っても門限ぶち切ってる事に変わりは無えし。朝まで騒いでから登校しようぜ?」

バカレンジャー達は是の返答を聞いて一斉に動き出し、何故か茶々丸までが若干嬉しそうに山下と最終準備を進めていく。

 

……私に味方はいないのか…………

 

「オイオイゴ主人、俺ガ居ルジャネエカ…水臭イゼ?」

「貴様が一番の裏切り者だボケ人形‼︎」

エヴァンジェリンの腰をポンと叩いて声を掛けるチャチャゼロにエヴァンジェリンは堪らず怒鳴り返す。

「大体どういうつもりだ貴様は……」

「ア?ダカラ言ッテンジャネエカ。友達ガイナクテココ最近デ一等目出度イ日ダッテノニ、セイゼイ無口ナ妹トヒッソリワインボトルデモ開ケテ寂シク乾杯スルノガ関ノ山ノ可哀想ナゴ主人ノ為二、俺ガ気ヲ効カセテヤッタンダヨ」

「粉々にしてやろうか貴様…‼︎そんなもの貴様の柄ではあるまい、裏の目論見は何だと聞いている‼︎」

とても主人に対しての言葉とは思えない無礼千番なチャチャゼロの物言いに、額にに青筋を浮かべながらもエヴァンジェリンはチャチャゼロの真意を問い質す。

「ンー本気デ大シタ理由ハ無イゼ?俺モコノ馬鹿共ニ興味ガアルッテダケノ話ダヨ。前ハゴ主人ガ全部殺ッチマッテ俺ハ全然楽シメ無カッタジャネエカ。殺サレカケテモ戦意ハ失ナワズ、落着シタ後モコッチニ媚ビズ、ソレデイテフツーニコッチニ接ッシテクル奴ラナンザ滅多ニイヤシ無エゼ?」

「………」

チャチャゼロの言葉に、エヴァンジェリンは続く言葉を飲み込む。

「マア馴レ合ウツモリハゴ主人ニハ無エカモシレネエケドヨ。俺ハ俺ナリニコノ馬鹿共ト接シテミテーンダヨ。何ト無クアノ馬鹿ヲ思イ出スノリダシヨ、コイツラ」

「…似ても似つかんと言っとろうが」

エヴァンジェリンは不機嫌そうに言い捨て、しかしそれ以上の抗弁はせずに茶々丸からワイングラスを受け取った。

 

「はいエヴァさんこれお祝いの品」

「あん?私は安い酒なぞ…っておい。コルトン・シャルルマーニュって学生が贈れるレベルの酒では無いぞ」

「いやどうせ泡銭だしね。なんかエヴァさんグルメっぽいイメージあったから半端な物は贈れないかなぁーって。あ、丁度飲み頃らしいからこの場で飲んじゃおうよ」

「……ふん」

「…デレてんじゃね、あれデレてんじゃね?」

「無いだろ。そもそも山下はンな意図であのババアと接してんじゃ無えんじゃねえか?」

「いや解らんが…仮にそうだとしてあの女ネギ君のお父さんに惚れてるんだろ?望み無いぞ、最初から」

「下衆な勘繰りは止めておけ。この場は諸々因縁のある相手とはいえ、祝いの席だぞ貴様ら」

 

「ほいよロリババア。取り分けてやったぜ受けとんな」

「殺すぞ化石化した番カラが…おいこれは何処の店のだ?」

「さっちゃんに頼み込んで作って貰ったんだ。いやあの子中華料理だけじゃなくて色々作れるんだねぇ」

「ふん、当然だ。五月はガキしかいないあのクラスで唯一私が認めている存在だからな」

「へぇーエヴァさんがそんな高評価珍しいねぇ…」

「…なんであいつはあそこまで馴染んでいる?」

「時々というか割とこまめに顔出してたらしいぜ。主に京都から帰った位から」

「俺からすりゃとても信じらんねぇけどな…よく仲良くしようと思うぜあんな取っ付き難そうな無愛想ババア」

「どうでも良くね?山ちゃんの自由だぜロリに走ろうが年増に走ろうが。やっぱさっちゃんの飯は美味えなぁー嫁に欲しいぜマジで。きゃわいいしよぉーあの娘」

「ケケケオ前ミテエナ根無シ草ニャ無理ナ話ダゼ」

「んだとこのチビ人形ぁ‼︎」

 

「茶々丸‼︎次だ、次の酒を持ってこい‼︎シャトー・ラシット・ロートシルト辺りの飲み頃だ‼︎」

「マスター…余り飲み過ぎますと翌日の登校に差し障りが…」

「構わん、忌々しい呪いももう無いのだ!一日や二日サボった所で今更卒業に差し障りは無い、今まで皆勤だったのだからなぁ‼︎」

「ははは悪だねぇエヴァさん。さあさあグラスが空だよどうぞどうぞ…」

「フフハハ当然だ、私は悪の魔法使いだからなぁ‼︎」

「…吸血鬼って酒で酔う訳?」

「酔ってんだから酔うんだろ。まあお前もいっとけ辻。あそこら辺の高い酒なんざどうせ味分からねえから買って来た地ビールでもよ…」

「…貴様ら堂々と飲むな、未成年だぞ」

「固てえ事言うなやポチ目出度い席だぜぇ?老酒も買って来たからてめえもグィッと行けオラァ‼︎」

「ガボッ⁉︎貴様あ‼︎」

「オーイイネ、偶ニャアコウイウチープナ酒モイイモンダ。オラソッチノ生ハム取リヤガレヘタレ剣士」

「…人形にまで馬鹿にされる俺って一体……」

 

「マスターもうこれ位に…」

「ワハハハハハなんだその柔軟性は⁉︎気持ち悪いぞ山下ぁ‼︎」

「ははは見たかいエヴァさん僕の関節駆動域を活かした一発芸、百舌の早贄‼︎」

「ドッチカッツート串刺シ公ノ処刑ダゼケケケケケケ‼︎」

「…あっちはもう駄目だ、関わらない様にヒック‼︎…ああ?大丈夫大丈夫、酔ってないよフツ」

「お前も駄目だよ充分に。刀に心配されてどうすんだオイ」

「他人の事は、言えん状態グフッ…‼︎」

「ヨイヨイ吐くなよポッチィーん、情けねえぞ老酒一気飲み位でえーーんん?」

「人によっては死ぬだろが阿呆。…駄目だ聞いてねえ、普段からウザいのに酔うと十倍はウザいなこの馬鹿…」

「ヒョォォォォォォォォォウ‼︎‼︎」

「ワハハハ馬鹿が来たぞ馬鹿が‼︎」

「ははは中村いらっしゃーい‼︎」

「マスター…ああ、どうすれば…」

「諦メテ現状ヲ記録デモシトケヤ妹。ケケケ見ロ鯱鉾立チデ組ミ体操始メテゴ主人ガ上デ仁王立チシテンゾケケケケケケケケケケケケ‼︎」

 

 

 

「ぐぉぉ…頭が痛い、どれだけ飲んだんだ私は…」

「夕ベハオ楽シミダッタナゴ主人ケケケケケ」

「紛らわしい言い方をするなアホ人形‼︎…ぐうぅ…!」

「二日酔いで叫ぶからだよエヴァさん、はいお水」

嵐の過ぎ去った後の様な室内の中央で頭を押さえて呻くエヴァンジェリンに山下がコップに入った水を差し出す。

「山下様は他の皆様と違いお元気ですね」

「ははは酒の強さでいったら僕は五人の中でダントツだからねえ。小さい頃から爺ちゃんに付き合わされてたお陰だよ」

茶々丸の言葉に酔い潰れて爆睡している辻達を見ながらカラカラと笑う山下。

…明らかにもう朝っぽいけど今日はサボりかなー皆で。

後でモッさんに殺されなきゃいいけど、と思案する山下にエヴァンジェリンが不機嫌そうに水を煽りながら尋ねる。

「…それで?貴様結局何が目的でこの場を設けた?」

「エヴァさんしつこいなあ、純粋に祝う為だって本当に」

「貴様らが私にそこまでする理由が無かろうが。私はまだるっこしいのは嫌いなんだよキリキリ吐け優男」

ギロリと睨み付けられ山下は苦笑する。

…他人の好意っていうものが自分に向けられるとは欠片も思っていない人の言葉だよねえ、これって。

そういう人生を歩んで来たのだろうし、無理もないといえば無いのだろう、が。

 

…貴女が今ここにこうして居るのは他人の好意を信じた結果じゃ無いのかなあ、エヴァさん……

 

まあその好意は、理由は解らないが無にされた為にエヴァンジェリンは自力でこの場を抜け出そうとしてそれを成し遂げたのだが。

…だからかなあ……

エヴァンジェリンは他人の好意を受け取りたく無いのだろう。また裏切られるのが怖いからか、それとも想い人以外の好意など欲しくは無いからか、そこまでは山下には解らない。しかし。

…どっちにしろネギ君のお父さんが原因で意固地になっている、と。…それで僕が拒否されるのはなんだか癪だよねえ……

山下はこの妙な所で人臭い一途な吸血鬼が気に入って顔を合わせに来ている、ただそれだけなのだ。ただそれを正直に告げてもエヴァンジェリンは納得しないだろう。

しかし適当な誤魔化しも思いつかないので山下は正直に伝えることにした。

 

「うん、まあ一言で言うなら僕がエヴァさんを好きだからだねえ」

「………あ?………………」

 

…普段纏め役に回る事が多いので忘れがちだが、山下は天然であった。

想定の斜め上遥か上空の返答に硬直するエヴァンジェリン。両脇では二人の従者がまあ、と口に両手を当てたり、オホ♡と目を輝かせたりしている。

 

「ねえエヴァさん、エヴァさんはこれから何するの?やっぱりネギ君のお父さんを探しに行くの?」

「が、ぐ、いや待て貴様、さっきのはどういう…」

モロに動揺しつつエヴァンジェリンは山下を問い質す。

「?、さっきって?」

「き、貴様言うだけ言っておいて誤魔化すつもりか⁉︎」

「ケケケゴ主人モテテンナ。子持チノ薄情者ジャ無クテ若イコッチニ乗リ換エタラドウヨ?」

「貴様は黙っとれ‼︎」

「マスター、お水が零れています」

 

山下は目の前の騒ぎに首を傾げる。

…何騒いでんだろ、エヴァさんは………?

「まあなんだかわからないけどエヴァさん落ち着きなよ、茶々ちゃん困ってるよ?」

「貴様の所為だろうが優男‼︎…ええいもういいわ‼︎貴様がどんな腹積もりで先の言葉を吐いたか知らんが、私はナギを好いている!それだけだ‼︎」

「ああ、うん。まあそれはネギ君から聞いてるけど……?」

「なっ……⁉︎」

それを理解した上での宣言か⁉︎とエヴァンジェリンが戦慄する。

「ホーヤルジャネエカ。見直シタゼ顔ダケジャ無エナ色男」

「…?まあなんだか解らないけどお褒めの言葉どうもゼロさん」

首を傾げながらも山下は礼を言う。

「エヴァさん。さっきの宣言からしてもやっぱりエヴァさんはナギさんを追うつもりなんだよね?」

「なんなんだ貴様は……ああそうだよ、奴が生きているかもしれん以上私は奴を諦めるつもりは無い。何処まで本気か知らんが残念だったな優男」

残念って何?と山下はエヴァンジェリンの言葉に首を傾げるが、ともあれエヴァンジェリンの言葉を聞いて一つ頷き、

 

「でもエヴァさん、ぶっちゃけ今そこまでナギさんに執心して無いよね?」

 

と言い放った。

 

「……どういう意味だ?」

痴態を収め、目を細めて問い返すエヴァンジェリン。

「ああ、昨夜大分出来上がり始めた頃だったかな?言ってたじゃない、卒業するのに一日や二日サボろうとも問題無いみたいな事。あれって要するに少なく共中学を卒業するまでは麻帆良に居るって事でしょ?ナギさんに執心なら一刻も早く飛び出そうと逸るものなんじゃ無いかと思ってさ。それともそこら辺の感覚は長く生きてると違うものなのかい?」

「…馬鹿馬鹿しい」

エヴァンジェリンは山下の疑問を鼻で笑う。

「それは単に私がジジイとそういう契約を交わしているだけの話だ。私は奴ら正義の魔法使いから睨まれる様な事を腐る程やらかしているからな。解放されます、はいそうですか、とはいかんのだ。ジジイはナギとの約定を知っているから私が自由になることに文句は無いが、それでは下が納得せんからな。ほとぼりが冷めるまでは私は今暫く麻帆良(ここ)で警備員をしながら学校通いだ。…十五年通っておいて中退では腹も立つからな」

「ああーそういうことか。ゴメンね勘違いしてたよ」

苦笑してエヴァンジェリンに片手を上げて謝る山下。しかしエヴァンジェリンはそんな山下を見て更に言葉を紡いだ。

「…貴様まだ何か言いたそうだな?顔を見れば解るぞ、吐け」

 

…わあ鋭い………!

 

山下は少し意外に思う。こちらの事をてっきりエヴァンジェリンはどうでもいい存在と思っているか、少しは関心を持っているにしても個人個人の細かい機微まで把握しているとは思っていなかったからだ。

「…ん〜、これ言ったらエヴァさんは怒るかもよ?」

「内容が私にとって不当な侮辱なれば貴様の身体に代償を刻み付けてやるよ。だがそれが正しい指摘なら私は私なりにそれを噛み砕いて受け入れよう。私は悪だが、誇りある悪の魔法使いだ。筋も通さずに自分の要求だけ通そうとする三流のチンピラとは違うんだよ」

「立派だねえ」

エヴァンジェリンの言葉に山下は感心し、じゃあ言うよ、と前置きして語り出す。

「エヴァさんは事情があって出られないことを踏まえてもやっぱりナギさんを探すのを何処か本気で無いんだと思うな」

「…続けろ」

エヴァンジェリンはピクリと眉を上げるが、山下を促した。

「僕がそう思ったのはやっぱり昨夜の言動を踏まえてだね。エヴァさんはストレス溜まっていたのか相当はっちゃけていたけど「それは忘れろ」…ははは。まあ兎も角やっと解放されたー的な喜びをエヴァさんは現してたんだけどさ」

山下は一旦言葉を切ってエヴァンジェリンの顔を見つめる。

 

「またこれからも学園で缶詰だ、やってられない、とか早くナギさんを追いかけたい、とか。…そういう不満を一回も口にしなかったんだよね」

 

「……………!」

エヴァンジェリンは表情こそ崩さなかったが、体が僅かに揺れ動いた。

「個人差はあるけど、基本的に酒に酔った時は本音が出るもんだよ。ましてや僕らに嘘を吐く理由は無いんだからエヴァさんは、自分で気づいてないかもしれないけれど、麻帆良で缶詰になっている現状がそんなに不満じゃないんだ。さっきも中学をちゃんと卒業したいって最後に言ってたでしょ?…ナギさんを本気で探したいんなら、正直言ってエヴァさんはそこら辺どうでもいいと思うんだ。エヴァさんはナギさんを見つけたいと思ってるけど、少なく共今はいまいちそれに乗り気じゃ無い。そう思ったんだ、僕は」

「……飛躍しているな」

エヴァンジェリンは静かに反論する。

「私が仮に此処を出るのを何かの理由で疎んでいるとしよう。それで?何故私がナギを探すことを嫌がっていることになる?それに関する理由が何一つ無いぞ、貴様の推論はな」

「僕もそこまで言って無いんだけどなあ……」

静かだが、確かに拒絶の意思を伝えてくるエヴァンジェリンに山下は苦笑する。

「エヴァさんがナギさんを探す…ん〜回りくどいからナギさんに対する好意がかつてに比べて薄れてる、と僕が考えてる理由が解らない。そう言いたいんだよね、エヴァさん?」

「そうだ」

短く肯定するエヴァンジェリン。

「いや、それは現場を思えば、当然そう考えると思うんだけどなぁ…わからない?エヴァさん」

「…何がだ?」

「いや要するにね」

眉根を寄せるエヴァンジェリンに、あっさりと山下は告げる。

 

「迎えにくるって言っておきながら十五年もほったらかしにされているんだから、少し位愛想尽かして当然だと思うよ僕は」

 

エヴァンジェリンは山下の言葉に、何故か息が詰まる様な感覚を覚えていた。

「連絡一つ寄越さないで挙句の果てに好意を寄せていた女性に対して何の連絡も無く他の女と子どもまで作ってるしねえ、腹が立って当然だし、まぁ恨んで当たり前だよね」

「…止めろ」

「まあエヴァさんとしては、何も告げられずにフられて挙句放ったらかしだから自由になってしまった現状、以前のように純粋に好意を向けていいものかどうか迷ってるんだと僕は…」

 

「黙れ‼︎‼︎」

 

エヴァンジェリンの叫びが室内に木霊し、山下は言葉を飲み込む。

 

「ふぉ⁉︎」

「…なんだ今の大音量?」

「…ぐぅ、気分が悪い……」

「…ぅあぁ〜頭が……」

 

なんだかんだで武道家だからか、エヴァンジェリンの叫びで覚醒したバカレンジャー達が起き上がってくる。

 

「…うん、わかった。ゴメンねエヴァさん。急に色々言い過ぎて混乱させちゃって。話はここまでにしようか」

山下は頭を下げて謝罪し、立ち上がって辻達の介抱に向かう。

エヴァンジェリンは僅かに荒い息を吐きながら、黙ってその背を睨み付けていた。

 

 

 

「ぐぉぉ二日酔いだぜ、俺様としたことが…」

「酒の席の片付けってあんなにだるいもんだと思わなかったぜ…」

「…馬鹿村、全快したらとりあえず貴様殺してやる……‼︎」

「……あ゛〜、ネギ君の朝練すっぽかして無いか、ヤバイな……」

「はいはい皆とりあえず帰ろうね。後辻、僕が篠村に連絡しといたから、とりあえず今朝は魔法の修練をやってたろうから大丈夫だよ、ネギ君は」

バカレンジャーは荷物を抱え、エヴァンジェリンの家を後にしようとしていた。時刻を見るととっくに学校は始まっていたので、とりあえず全員酒が抜けるまでは学校をサボるつもりである。

…うーんモッさんの襲撃に警戒しないとなぁ……

山下は学校の教師に対する対応とは思えないことを考えつつ、ログハウスの玄関の階段を降りていく。

 

「……待て」

バン‼︎という扉を乱暴に開ける音と共に、エヴァンジェリンの声が響き、山下は足を止めて振り返る。

エヴァンジェリンは不機嫌そうな顔で山下の顔を睨み、僅かに躊躇った後、言葉を投げ掛ける。

「…貴様は、ナギが想うに値しない男だから、追うのを止めろと、自分に乗り換えろと。…そう言いたいのか?」

「………?」

なんで僕がが口説いてるみたいに変換されてるんだろう、と山下は怪訝に思いつつも、笑って首を振り、返事をする。

「そんなつもりは全くないよ、少なくとも今は。六百年生きて来て初めて好きになった人なんでしょう?会ったこともない僕が分からないような魅力が一杯あるんだろうし、何よりもエヴァさんの気持ちを決められるのはエヴァさんだけだよ。エヴァさんがそう決めたなら僕はそれに無理に干渉するつもりも権利もない」

「…ならば」

「ただ、さ…」

何事かを言いかけたエヴァンジェリンを遮り、山下は続ける。

「今のエヴァさんはナギさんを好きだ、ってかつての気持ちを大事にし過ぎて、思い出からナギさんを美化しすぎていて、今の自分の気持ちを封じ込めてる様に、考えないようにしていると思ったからさ。…好きなら好きでいいんだよ。でもそこら辺の想いにもし迷いが出来てるんだったら、はっきりさせないままに惰性で追い続けたら…後悔することになると思ったんだ」

「っ‼︎……………」

エヴァンジェリンは反射的に何かを叫び掛けて、しかし噛み締める様に言葉を飲み込む。

山下は苦笑して、ゴメンね、と告げて、歩き出す。

「……山ちゃん、なんかあった?」

「後で説明するよ、皆にもね」

酒が残っている所為か、シリアスな空気の所為か。珍しく低いテンションで尋ねてくる中村に山下は今直ぐの説明を拒み、全員を促して歩み去る。

 

「…また来るよ、エヴァさん」

「…二度と来るな」

 




閲覧ありがとうございます、星の海です。今回はエヴァさんメイン回でした。原作で疑問に思ってました。エヴァンジェリンはなんで一途にナギの事想い続けてんだろうかと。約束すっぽかして他の女と結婚して子ども作って、武道会編のラストではガチで忘れられてた様な発言までかまされたのにどんだけ一途なんだと。…まあそれだけすきだったんでしょうし、ナギの方も原作ラストの状態を考えるにそれ所じゃ無かったんでしょうが。ただ山下はンな事情は知りませんので思いきり突っ込んでました。これからどうなるんでしょうか、こいつは笑)今後の展開にご期待ください。更新遅くなって申し訳ありませんでした。それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。

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