お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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大変遅くなりました。また更新頑張ります。


3話 危険な話と危険な遭遇

「桜咲、今日決行する予定だけど話は聞いてるか?お前はどうする?まあ聞くまでも無いと思うけどな」

剣道場での部活動中、休憩時間に辻は刹那に問いかける。対して刹那は小さく笑い、愚問ですね、と言い返す。

「お嬢様が是非とも同行したいと仰っている以上、私も行きます。しかし辻部長や先輩方は大丈夫なのですか?修学旅行の無断外泊で処罰を喰らったばかりと聞きましたが…」

「その話、ネギ君には禁止な、絶対気にするからさ。ともあれ問題無いさ。俺達が今更門限破り程度気にする輩と思うか?…そりゃあ俺だって出来れば違反行為なぞ進んでやらかしたくは無いが、生き別れの父親と再開出来るかもしれないんだろ?ネギ君凄く張り切ってたじゃないか。力になってやりたいだろ、そんな事情を聞いたら」

辻の言葉に、刹那は薄く微笑み、小さく呟きを洩らす。

「…なんだか辻部長、という感じですね……」

「ん?何だって?」

「いえ、何でもありませんよ」

聞き返す辻に刹那は笑って首を振る。

…え~なんだ?悪口か、何かやってしまったか……?

矢張り台詞が臭かったかと落ち込む辻に刹那は声を掛け立ち上がる。

「そろそろ再開ですよ、辻部長。では、私は女子の部の方の指導に行って来ます」

「あ、ああ……」

一礼して歩み去る刹那の後ろ姿を辻がぼんやりと眺めていると、災厄が後ろからやって来た。

「部~~っ長ぉ~~~ん………?」

「ちょ~~~っとお話し宜しいですかぁ~~~ん?」

「いや、今忙しい。練習再開するぞバカップル」

辻は振り向かず竹刀片手に立ち上がりかけるが、物凄い力で両肩を掴まれ再度床に座らされる。

「…なんなんだよお前ら……」

ウンザリした様な辻に構わず副部長’Sは目をギラギラと輝かせながら辻を両側から挟み込む。

「ちょっとちょっと部長~何よさっきの様子は、なんだかすっかり仲良さげになっちゃって。いつの間に進展した訳私らの居ない所で進展しないでよもう‼︎」

「で?なになに何があってどこまで行っちゃった訳?キス位はもうやっちゃった⁉︎」

「そんな訳があるか馬鹿野郎‼︎」

何とか辻は即答で返す。無論本当の所事故とはいえキス所か裸で抱き合ってまでいるが、言わない。言える筈が無い。

「ちっ詰まらん……」

「部長って本当にヘタレですねぇ…」

「お前らにそこまで言われる筋合いは無えよ‼︎休憩終わりださっさと練習再開だ再開‼︎」

「わかったわかったわかりましたよ部長。あと一つだけ答えて頂いたら私ら超真面目にやりますから、これだけお答え下さいな」

「なんなんだよ…」

副部長(男)の言葉に面倒臭そうに応じる辻。

「部長、いくらなんでも桜咲の奴と多少仲良くなったのは認めるでしょう?」

「…ああ、前よりはな。言っておくが俺と桜咲は…」

「はいはい解ってますって」

お定まりな否定の言葉を副部長(女)はぞんざいに遮る。

「じゃあそれを踏まえた上で部長…一体どのタイミングで桜咲と仲良くなったので?」

ニヤニヤしながら言い放った副部長(男)の言葉を聞いて、辻は顔から血の気が引いたのを実感した。

……あ、ヤバい…………

何がヤバいといって、刹那達3ーA女子中等部はつい先日まで修学旅行に行っており、麻帆良には居なかったのだ。更に辻はそれとタイミングを同じくして学校にも部活にも顔を出していない。副部長’Sの顔からしてそれを勘付いて辻を詰問しに来たのだろう。

「まさか、ま・さ・か・とは思いますが部長ぉん、桜咲が愛おし過ぎて態々学校サボって桜咲と京都デート満喫しに追いかけてったとかですかぁー⁉︎」

「解答を拒否する‼︎」

辻は副部長’Sの腕を払い落し、剣道部員達の方へと逃げ出した。

「あ〜逃げた……」

「いいもんね〜後で中ちゃんにでも聞けば済むことだもんね〜」

辻は後ろのバカップルの言動に頭の線が切れるのを感じた。

「よーしお前ら、今から副部長二人と延々打ち合い稽古だ、一対多で掛かって構わないぞ、副部長は強いからなぁ…因みに拒否した奴は俺が本気で三十本取るまで稽古相手になってもらう」

「「「喜んで掛からせて頂きます‼︎」」」

剣道部員達は竹刀片手に副部長’Sに群がっていった。

「ちょー⁉︎部長職権乱用でしょそれぇ⁉︎」

「きゃー待って待って部長、誰にも言わないからぁー⁉︎」

「引きこもりの明日から本気出す発言並みに信用ならんわ!死んでいろお前らは‼︎」

「「きゃあああああああっ⁉︎」」

「…何をやっているんですか、皆さん……」

刹那が呆れた様に呟いた。

 

 

 

「…そんな訳だ中村、俺達が京都に着いていった旨が連中にバレたらお前を潰す」

「唐突に理不尽だなオイ⁉︎」

放課後、図書館島へ向かうべく準備を整えての集合場所にて顔を合わせた中村に、辻は極太の釘を刺していた。

「…まあでも広まるとしたら確かに中村からしか無いよねぇ…」

「いや、それは置いといても一緒のタイミングで居なくなってんだから勘付く奴は勘付くだろ、正直無駄な抵抗の気がするぜ?」

「貴様は嘘が付けんからなぁ…」

「五月蝿いわ‼︎兎に角緘口令を敷くぞ、字面だけ見たらまるっきり俺がストーカーだろ‼︎」

何とも言えない表情の他四人に辻は叫び返す。

この場に居るのは先日の人員に加えて刹那と朝倉も居る。現状で何らかの形でネギ達に関わっている全員がこの日の夜は集結していた。

「まあまあ旦那、その話は一旦置いておくとして、先に俺っちの話を済ませちまってもいいですかい?」

いきり立つ辻を制してかもが声を掛ける。

「それで、初めに話したいことって何なのよエロガモ?」

ここ一週間程で見違える様に動きの良くなった明日菜がハリセン片手にやや胡乱げに問う。

「その呼び方は止めてくだせぇ姐さん…まあこれからこの面子で仮にもゴーレムやら何やらが出現するダンジョンみてえな未知の空間に突撃するにあたって、今一認識が統一されて無えアーティファクトの能力について擦り合わせを行いたいんでさぁ」

カモの言葉に成る程ね、と山下が呟く。

「何と無く辻の刀なんかは兎に角凄い刀、みたいな認識しか皆して無いし、宮崎ちゃんや神楽坂ちゃんのアーティファクト?にしても軽く解説は聞いたけど現状の訓練でホイホイ使う様なものじゃ無いから何と無く御座成りになってたね。味方の能力はきっちり把握しておく、そういうことでしょエロガモ君?」

「いや、旦那ですから…いや、いいっす。そういうことっすね、まあ兄貴と姐さん達だけでなんとか脱出出来たと聞いてやすから、警戒し過ぎではあるんでしょうが、どうせやっておくべきことっすから」

カモの言葉にバカレンジャーは頷き、話を進める。

 

「「アデアット…!」」

のどかと明日菜、それぞれの手元が光り輝き、のどかの手にはラテン語で表題の描かれた美麗な装丁の本が、明日菜の手には同じく側面にラテン語での刻印が刻まれた、金属製のハリセンが現れる。

「ヘ〜、こういうのを見るといかにも魔法に関わっているって感じだねぇ」

朝倉が感心した様に呟く。

「ん、じゃあ宮崎ちゃんから自分のアーティファクトで解っていることを説明してみよう」

「は、はい〜……私のアーティファクトは『いどのえにっき』という名前です〜、この本には、他人の心を読むことが、出来るみたいです…」

ややつっかえながらものどかは説明を始める。

「心を読みたい人の名前を呼ぶと、この本のページにその人の思考が文章と簡単なイラスト?見たいなものであらわされ、ます。その人に質問したりすれば、それに対する答えが本に表示されますので、そういう風に、何か相手に関して知りたいことがある時に、使えるアーティファクトだと思い、ます…!」

のどかの説明を聞いて、大豪院が手を挙げて質問をする。

「それはどの位の距離まで使えるのだ?遠距離から使えるならば現時点でも有効に扱えるが……」

「え、ええと……」

「残念ながらそれは難しい様です、大豪院先輩」

強面の大豪院に微妙に萎縮しているのどかを見かねて、夕映が代わりに答えを返す。

「時間のある時に私達で検証してみたですが、対象の思考を読める間合いは大体八m弱の様です。先輩方が何を考えているかは大体解りますが、現状では荒事での直接的な運用は難しいでしょう…」

「ほかほか、まあ問題無えよ。使い方によっては相当強力なアーテフクト?」「アーティファクトだ阿呆」

「そうそうそれ。な事に変わりは無ーしな。前も言ったけど別に今からドンパチやらせる訳じゃねんだし気にすんなよー本屋ちゃんや」

「は、はいー…」

微妙に気を落としているのどかを中村がツッコまれながらもフォローする。

「まあ調べた限りじゃあそれなりに知名度のある、強力なアーティファクトみたいでしてね。旦那の言う通り使い方次第じゃあ異様に強力なもんだ、一先ず当たりを引いたって認識でいいでしょうや。因みに正確には思考じゃあ無くて表層意識を読むらしいですぜ」

「なんだ表層意識って?」

「うーん、物凄く大雑把に説明するなら人が自分で意識して考えていること全ての部分かな……?」

豪徳寺の疑問に山下がザックリした説明をする。

「おおー!…………それって凄いアルか?」

「今の説明で解らんなら戦闘の駆け引きで自分の頭の中が覗かれていたらどういうことになるかを考えろ脳筋娘」

感嘆の声を上げてからボケたことを言う古に溜息混じりに大豪院が告げる。

「うーん……厄介アルな⁉︎」

「だからそう言っているだろうが⁉︎」

「言て無いアル‼︎」

「五月蝿せーっ‼︎夫婦漫才は他所でやりやがれ他所でーっ‼︎」

中村がツッコみ、大豪院と古が突き込む。宙を舞う中村をその場の全員が無視しつつ、話を進める。

「…じゃあ次。神楽坂ちゃん、いいかい?」

「オッケー先輩」

軽く了承して明日菜が前に出る。

「あたしのアーティファクトは『ハマノツルギ』…でもって、能力はどうもはっきりしないんだけど、魔法とかそういう普通じゃ無い力を消し去るみたい。あの変なガキの障壁っていうのも破壊出来たし、妖怪みたいなのに襲われた時も叩くだけで相手が消えてた。自分で言うのもなんだけど、結構な反則級の代物だと思うわ」

明日菜の説明に辻が苦笑して言う。

「…他人の事は言えないけど、これはまた解りやすくチートだな……」

「で、ござるなー。確認した所拙者らの扱う気に対しても消去の力は有効な様でござるし、術士のタイプによっては何も出来ずに一方的に討ち斃されるでござろう」

楓も首を縦に振り、同意する。

「付け加えんなら、あのガキと黒尽くめに炙られ削られされかけた時に、神楽坂には衣服以外に被害がいって無かった。直接防がなくても効果を減衰させられんのかもしれねえ」

「そうそう、それもあったわ、先輩」

豪徳寺が付け加え、明日菜が頷く。

「……なんだか凄いねえ。アーティファクトって皆ここまで強力なの?」

「いえ、僕も調べてみましたけどこんなに強力なアーティファクトは滅多に現れないそうです。大抵のものは能力のちょっとした補助を行うもので、こんな戦局を一変しかねない物は一流の魔法使い達でも珍しいとか……」

「姐さんの方は過去使用者記録は無えが、嬢ちゃんの方のは数十年から百年単位で所有者が過去に現れてまさあ。実績からすればかなり物凄いですぜ、嬢ちゃんのアーティファクトは」

山下の呆れた様な感心した様な疑問にネギとカモが順繰りに答える。何れにせよ、ネギの従者は当人達の素養を含めてかなりの潜在能力(ポテンシャル)を秘めている様である。

「んじゃ辻、最後おめえだ。っつーかあれ?お前はパーッて召喚しねえのフツーのみたまとかいうの」

「フツノミタマだ馬鹿野郎。ちゃんと人格…刀格?が有るんだから名前を覚えろ。フツはなるべく本来の刀の状態で顕在していたいらしいから状況が許す限りは呼び出したままで居るんだよ。…ああ、フツノミタマじゃ長くて呼び難いから縮めた愛称で呼んでるんだ。…ん、何?……あー済まん、お前達は気安く名を呼ぶなってさ。悪いなちょっとこいつ気位が高いのかなんなのか……」

「…質問、というか提案だが……」

右手の刀と問答を繰り広げる辻に大豪院が告げる。

「お前と話しているなら俺達にも念話とやらを届かせることは出来んのか?そのフツノミタマは。一々辻を通して会話をしていたのでは手間だろう、主の苦労を省くと思って一つ頼めないだろうか、フツノミタマよ」

大豪院の嘆願に、ややあってその場の全員の頭にややハスキーな女性の声が響く。

『…まあ、いいだろう。この場に限り、繋げて(・・・)やろうか、貴様らにもな。但し私は人との交流に興味は無い。今後も用が無い時は話しかけるな、人間共』

「なんでお前はそう偉そうなんだよ……」

尊大な調子のフツノミタマに呆れた様子で辻が言う。

『偉ぶるつもりは無いよ、主。ただ興味が無いだけだ』

「いえ、それは尚悪いのでは…?」

「なんだよなんだよ(はじめ)ちゃ〜ん。クール系後輩とヤンデレ系ロリ剣士だけじゃ飽き足らず高慢才女系器物ヒロインにまで手ェ出すのかよ!上級者だな‼︎」

「お前は死んでろ‼︎そしてあのキチガイ女とは俺は金輪際関わるつもりは無いわ‼︎……じゃあフツ、お前から説明を頼めるか?」

『了承した、主…聞け、貴様ら。私はフツノミタマ。記紀神話における、建御雷神が神武天皇に齎したとされる、霊剣布都御魂をモチーフに黒い小人(ドウェルグ)の生き残りが製作したアーティファクトだ。レプリカとはいえ、性能は人が振るえる(クラス)の神剣、魔剣に匹敵する能力があるだろう。正しくアーティファクト(神格武装)と言える』

フツノミタマの自身の解説に、刹那が唸る。

「正真正銘の幻想級(ファンタズム)、という事ですね…」

『そういうことになるな。我が銘は《断ち切る存在(もの)》、その名の通り断つ、という概念が刀と化したのが私だ。私に断てないものは無く、万物を切断出来る。戦闘においては高位魔法使い(ハイマジックユーザー)の多重障壁だろうが超一級の前衛の気で練り上げられた身体だろうが関係無しに一刀両断が可能。最も超一流の全力(・・)ならば防げぬまでも逸らすか受けるかは可能だ、二撃目以降は保証せんがな。…更に性能について述べるなら、古来の魔除けの象徴としての()の概念が組み込まれている。降りかかる災厄、不遇を断ち、持ち主を守護するのが原初の剣。故に主を襲う攻撃を災厄と認識し、それを断つことにより攻撃を無効化する。これにより、弾幕や広範囲攻撃からも私は持ち主を守護することが可能だ』

「……悪りいブレード系ヒロイン、意味がよく解んねえ…」

フツノミタマの多分に象徴的な説明に石でも飲み込んだ様な顔で中村が手を上げる。

『ふう……平たく言えば矢の嵐が来ようが火炎の波が来ようが、正しく私を振るえばそれらは全て主に届くことは無いのだ、理解したか、馬鹿面?』

「アイ、マム‼︎罵ってくれてありがとうございます高圧系女子‼︎‼︎」

なんというか、一言で言えば駄目な中村をフツノミタマを含めて全員がスルーする。

断つ(・・)とは切り離し、遮り、止めさせること。 断たれて尚在り方を変えないモノはこの世に存在しない。私は断つことにより対象を絶ち、終わらせるものだ。概念をも断ち切る私は癒えぬ傷痕を対象へ刻み込む。私に断ち切られ、別たれたものは余程の奇跡(・・)か何かでも起こさん限り元には戻らん(・・・・・・)。断たれた手足(・・)は繋がらず、絶たれた障壁は脆く、弱い。曲がりなりにも神格である鬼神の武具や身体にすら私は有効だったのだからな。自画自賛になるが、正に反則級の決戦武装という訳だ』

フツノミタマが一旦言葉を切り、なんとも言えない空気がその場を満たす。

「…大まかに話は聞いていたが、反則などという言葉が生易しく聞こえるな、この刀は……」

呻く様に大豪院が呟く。

「…俺も解ったつもりでいたけど、改めて本人、いや刀の口から聞くとクるものがあるなぁ…」

「……この様な言い方は何ですが、ぼくのかんがえたさいきょうのぶき、的な凄まじさですね…」

夕映が呆れた様子で言う。

「「「「……………?……」」」」

一方小難しい単語の並びに脳味噌が理解を放棄したらしい中村を筆頭とした脳筋組は頭から煙を上げて首を傾げている。

「…あ〜〜!、要するにだ‼︎相手の防御力無視、上級回復魔法でも治すのが難しい呪い効果付き相手の攻撃無効化能力付きの刀ってことだ‼︎」

「うわひっど…どこのクソゲー仕様よ……」

朝倉が思わずといった感じに呟く。

「…まあ、それはさて置き、概念云々の部分が抽象的過ぎてちょっと解り難いかな?僕は」

気を取り直して山下が疑問を上げ、辻もそれに同意する。

『ふむ……まあ概念とは多数の人間の概括的な認識に基づくもので私の起こす現象に対しては余り正確な表現では無いかもしれんからな…私が行うのはあくまで断った個別の対象を別つことで、世界の限定的な事象に対して断つという変更を行う、という方が幾らか正確か。例えるなら人を断ったとして、私は世界において人が断たれた状態を正常な状態であると書き換えてしまうのだ。この例で言えば元通りに傷が癒える状態こそが世界にとって異常と認識される為、治癒が極めて困難になる。…まあ理解出来んなら主が纏めた通り、斬ったものを治せなくするとでも認識していればいい』

「はあー……………」

復帰した豪徳寺が呆れたような声を出す。

「…凄いですね、辻さん。何よりも意思のあるアーティファクトなんてそれ自体が数える程しか存在しないらしいですよ」

「…それも勿論凄えっちゃあ凄えんですが……そのフツノミタマっつうアーティファクトは知名度の方も相当なもんでしてね。あれから調べてみたんすが、公式で存在が確認されたのは数える程しか無えにも関わらず、…何と言うか、その……」

ネギに続いて話し始めたカモが何事かを言い淀み、それに対してフツノミタマが思念に笑いを含ませ言い放つ。

『はっきり言って構わないがな小動物。私が売れているのは名声では無く悪声なのだろう?まあそれはそうだ、所有者を殺す(・・・・・・)アーティファクトなど問題以外の何物でもないからなぁ』

「は?……」

「…何?」

聞き捨てならないその言葉に、刹那と辻が反応する。

「…ええ、その通りっす。フツノミタマはその強力な性能から過去の所有者は大なり小なり皆功績を上げてやすが、例外無く皆最終的にはフツノミタマに殺されてるんす(・・・・・・・・・・・・・・)。有名なものではヘラス帝国内において最終的に三百人以上の犠牲者を出し、その中にはヘラスの王族も含まれていたとされる『鬼斬りシャルドネ』がフツノミタマを所持してやした。この事件は魔法世界最悪の連続通り魔事件とされてやしたが、シャルドネ自身は公に捕まる前に路地裏でフツノミタマを用いた斬撃が元になり死体となって発見されてやす。またメガロメセンブリアでの国境大障壁破壊。大魔獣の頻発する地域におけるこの事件で、メガロメセンブリアでは多数の死傷者が出やした。この事件の犯人のメガロメセンブリアの衛士だったアレイウスが矢張りフツノミタマを使用してやしたが、事件直後に行方を眩ませた後に、フツノミタマを用いた傷が死因で死体が上がってやす……シャルドネは超一流の前衛戦士、アレイウスも名の知れた魔法剣士で、二人共に己のアーティファクトを奪われて殺されるなどということがほぼあり得ないってんで、フツノミタマの祟りと魔法世界じゃ語り継がれてやす。はっきり確認されてませんがその他にも魔法世界で幾つかフツノミタマが目撃されてやすが、持ち主はほぼ全員が自身のアーティファクトにより非業の死を遂げてやす。…故にフツノミタマについた異名は持ち主さえも断つ非情の刀、『所有者殺しのアーティファクト』っす……」

カモの説明に、一同は騒然となる。

「…ねえフツノミタマさん、この話本当?」

「おい待て巫山戯んな、その展開だと目出度く辻も御陀仏じゃねーか」

「…いやいやいやいや待て⁉︎何お前そんな物騒な過去背負ってんの⁉︎俺も殺す気かおい生涯を共に過ごそう的なニュアンスの言葉吐いといて‼︎」

「え〜なんやそれ⁉︎せっちゃんピンチや先越されとるで‼︎」

「いや、そんなことよりも今直ぐに契約の解除を、辻部長の身が危険です‼︎」

『まあ待て貴様ら、そして安心しろ主よ』

フツノミタマは場を取り成し、言葉を放つ。

『心配せずとも私は主を断つ気は無い、やっと巡り会えた(・・・・・)のだからそんな真似をするものか。だから安心しろ、過去の詰まらん連中と今代の主は違うのだからな』

「信用ならねえな」

中村が目を細めて言い放つ。

「なんで(はじめ)ちゃんと前の連中が同じ結果にならねえと言い切れる。口ぶりからしてお前を使用する代償とかじゃ無くて単にお前の気分次第で死んでるみてえじゃねーか。(はじめ)ちゃんを死んだ連中の様に殺さねえ根拠が有るってのか?」

『有るとも』

フツノミタマは即答する。

『まず私が持ち主を断った理由は私が詰まらんからだ。一々詰まらん所有者のことなど覚えていないが、連続通り魔と大障壁破壊とやらは辛うじて記憶にある。通り魔の方はまあ頻繁に私を振るうので悪くはなかったが、殺しを愉しんでる感が強過ぎるのと同じ事の繰り返しで私の方が飽きてきてなぁ。説得したが聞かんので殺してやった。大障壁破壊の方はなんだ、私の扱いが慎重過ぎて滅多に出番は無いし主に術の防御でしか私を使用せんしで、矢張り飽きた。だから殺した。私は仕舞われるのは無論嫌いだが断つことに付随するオマケに拘り過ぎる奴も同様に嫌いだ。殺人鬼だの愉快犯だのいい加減ウンザリなんだよ…私は断つ者でありそれだけを求めるものだ。刀は斬るのが仕事だろう?私は断つのが存在意義だ。不純で無粋な連中はもう懲り懲りだ……だから主はイイぞ、主は私に、私は主に誂えた様にぴったりだ…私は主に振るわれる為にこの世に生み出されたのだよ。主は私で鬼神を断った、神を断った(・・・・・)のだぞ⁉︎素晴らしいよ、私は心底打ち震えた…主ならばいつかそれ以上を私と共に成し遂げる‼︎だから主を殺そうなどとんでも無い、寧ろ殺そうとする奴を私が殺してやりたい位だ。だから安心しろ、私は主の味方だよ、何せこれ以上の存在は居はしないからなぁ。主のあの異常性!主の性質は…』

「フツ」

静かに辻がフツノミタマの思念を遮る。フツノミタマは途端にピタリと語るのを止めた。

……なんだ………………⁈

辻は極めて穏やかな様子であるにも関わらず、刹那は何故かそんな辻を見て寒気が走った。

「ちょっと落ち着け、お前は」

『……ああ、そうだな。済まない主よ、少し喋り過ぎてしまったようだ……』

フツノミタマはこれまでの狂騒が嘘の様に落ち着いた思念に戻る。

「……ま、まあとりあえず問題はありまくりな気がするけど、辻が死ぬことは無いのかな…?」

「…いや、だからといって流してはいかんだろう。如何にかして引き剥がした方が……」

「いや、止めとけポチ。あの様子からして下手に干渉したらそいつが殺されそうだ…」

「じゃあどうすんだよおい……」

辻以外のバカレンジャーがヒソヒソと相談を行う。

「…まあ俺のことはよくないけどいいよ。兎に角フツは現状危険は無いってことで流してくれ」

「辻部長、しかし…」

尚も難色を示す刹那にフツノミタマが嘲る様に思念を飛ばす。

『想い人が心配か小娘?心配するなよ、殺しも盗りもせんから、なぁ?』

「お前は何を言っているんだ…」

その挑発に木乃香がひゃ〜とワクテカしながら拳を握り、刹那が無言で目を細める。

「じ、じゃあ擦り合わせも終わりましたし、図書館島へ向かいましょう!皆さんよろしくお願いします‼︎」

「そ、そうっすね‼︎モタモタしてると日が変わっちまいやすから出発しやしょう‼︎」

なにやら剣呑な空気を纏い始めた雰囲気を一新するべくカモネギコンビが行動開始を促す。周りもそれに追従し、一行は出発の用意を始めた。

「…待て、気になることがある」

しかし、大豪院が疑問を提し、一行の動きが止まる。

「どしたん、ポッチン?」

中村の問いに、大豪院はフツノミタマを見据えて問い掛ける。

「先程の説明で貴様は自らの手で所有者を殺していたと述べていた。しかし、貴様は刀だ(・・)。他者の手を借りずには紙一枚斬れぬその成りでどのようにして所有者を貴様は殺していた?その方法如何によっては、矢張り貴様を辻に持たせておく訳にはいかん」

大豪院の指摘に、幾人かが目を見開く。言われてみれば刀が独りで動き出す道理が無い以上、何者かの手を借りるか、フツノミタマ自身が何らかの手段を持ちいて宿主を操りでもしない限り所有者が殺害される事態などあり得ないのだ。

『…ああ、その話か。安心しろよ武道家、簡単なことさ。…こういうことだ』

言い終えるなり、フツノミタマの刀身が淡く発光し、辻の傍に人影が現れる。

それは腰まである長い黒髪を靡かせた、古式の道着を身に纏う切れ長の瞳の美女だった。小作りに纏まった造形はいっそ非人間的に神秘的な、透明な美貌を持つその女性は、無機質な光を讃える眼光を大豪院に向け、告げる。

「私以上に私の扱い方を心得る者など居はしまい?これが答えだよ拳法家、私は私を自ら振るえる。自慰行動以外の何者でもないから自身で活動をしないだけの話さ…」

フツノミタマの言葉に、しかし皆は即座に反応を返さない。奇妙な雰囲気に首を傾げるフツノミタマに、震えながら中村が叫ぶ。

「…マジでヒロイン枠だったー‼︎しかも巨乳⁉︎やべえぞせったん‼︎」

「知りませんよ⁉︎」

刹那は堪らず叫び返した。

 

 

 

「正、拳‼︎」

「哼‼︎」

中村と大豪院が放った一撃が通路一杯に広がる大きさの、此方に転がってくる大岩を粉々に破砕する。

「うわー…流石ね先輩達…」

明日菜の呆れた様な呟きが底の見えない奈落の通路に木霊する。

あれから一騒動あった後、気を取り直した一行は図書館島地下へと乗り込んでいた。

詠春からネギが受け取ったナギ・スプリングフィールドに関する手掛かりの地図はここ、麻帆良図書館島のものであった。更に夕映とのどかが解析した結果とある地下深くの一点が絞り込めた為、こうして何やらトラップ満載の道無き道を一行は進んでいた。

 

「しっかしなんなんだよこのイ○ディ・ジョーンズも驚愕の罠共は。何よリーダーいっつも部活でこんなとこ攻略してんの?」

「いえ…私達が普段潜っているのは地下二階迄の浅い階層だけですから……流石にここ迄の深層階は前回の期末テストの一件以来です」

中村の疑問に夕映が答える。先程から足元のスイッチを踏んだら矢の雨が飛んで来る、壁に手を付けば槍が飛び出す等、矢鱈と殺意の高い仕掛が満載である。こんな所に日常的に出入りしている図書館探検部(高等部ver)は下手なトレジャーハンターよりも凄まじそうではある。

「にしてもどんだけ広いのよこの空間…」

「いやーあたしみたいな嫋やかな美少女は追いてくだけで精一杯だわ、こりゃ」

「何処の誰が嫋やかだハイエナ根性剥き出しのパパラッチが。寝言が言いたいなら帰って寝ていろ」

「アイヤ、キッツイアルねポチ。まだ私が追いて来てること怒てるアルか?全体で決まったんだからいい加減諦めるアル、それでも男アルかー?」

「貴様……」

「はいはい喧嘩止めようねー二人共、先刻からここら辺のトラップ洒落になって無いからねーってことで集中しようよ」

「せ、せんせー、そこの床は罠があるので、気をつけて下さいー…」

「わ、ありがとうございます、のどかさん」

「んふふーのどかもええ感じにネギ君と会話出来とるな〜、せっちゃんも負けてられへんで!フツちゃんのあのダイナマイトボディは現在のウチらには無いもんやから積極性でカバーや‼︎」

「いえ、ですからお嬢様私と辻部長は……」

「なんとも賑やかでござるな〜これもまた良い学生の青春活動でござるか…」

「いや、これが日常的な学生は色々ヤバイだろ」

「四六時中殺し合いみたいな手合わせやってた中学時代送った俺らが言えないだろ豪徳寺…」

『よく五体満足で生きているな、主』

なんともダンジョン地味た場所を通っているとは思えない姦しさで一行は奥へ奥へと進む。

 

「すみません、こんな大事になってしまって…」

「ネギャー、水臭えこと言いっこなしっつったろーが。これも鍛錬と思えば楽しいもんだぜ」

申し訳無さそうに謝るネギを中村が嗜める。

「そうそう、荒事になったらどうやっても非戦闘員護るには数が居るしね」

「気にするな、どの道とっくに乗りかかった船だ」

山下、大豪院が追従し、豪徳寺と辻も頷く。

「…もうじき到着する筈です、皆さん。何があるかはわかりませんが気を引き締めて行きましょう」

夕映が地図と通路を見比べながら全体に告げる。

「いよいよねー、でも今回は前のでっかい石像とか止めに来て無いからそろそろ何か出てくるかも知れないわよ?」

「ちょっと不吉なこと言わないでよ明日菜っちー…」

油断無く道の出っ張りを跨ぎながらそんなことを明日菜がのたまい、朝倉が文句を言う。

「まあでも如何にもダンジョン臭えからファンタジー地味た門番とか居たりしてなー」

「あるいはダンジョンボスとかな。こういう場合の定番はゴーレムとか悪魔とかか?」

「いやマジで洒落になって無いから止めろよそういうの…」

中村達の不吉な予想を嫌そうに辻が制止する。

「…ダンジョンボスの王道っていったら(ドラゴン)とかかな?」

「止めろ」

大豪院がピシャリと遮る。

「いやファンタジーとかだと普通に迷宮とかにいるけど、あんなデカイ生き物どうやっても現実じゃあ生きてけないでしょ、普通は」

「で、ござるな。兎に角進むでござるよ」

朝倉の言葉に楓が頷き、再び一行は歩を進める。

 

その後もリッ○ーのような謎生物の集団に襲われたり、吊り天井を馬鹿力要員が支えている間に脱出したり硫酸の溜まった落とし穴に中村が落下して直後にシンクロナイズドスイミングの如く飛び出して床で転げ回ったりしながらも、一行はなんとか無事に進んで行く。

そして。

 

 

 

「……山ちゃん、お前の所為だ………」

「………バッチリフラグ立てちゃったね……………」

図書館島地下最奥部。巨大な扉の前の大広間。その中央に其れは居た。

艶のある緋色の甲殻に全身が覆われ、体高八m、体長は翼を広げれば三十mはあるだろうか。一抱えはありそうな鉤爪のついた太い両足が足元の石畳に亀裂を生じさせながらゆっくりと伸び上がる。刀剣のような牙の生え揃う顎の口端からは真紅の(ほむら)が漏れ出ては消える。凶悪な形状の剣角が生えた頭部の中央に宿る体格からすれば小さな瞳は、黄玉色の縦に割れた瞳孔が危険な輝きを讃えていた。

一行の目の前で其れは翼を広げ、聞いた者の五体を凍り付かせる様な咆哮を放つ。

 

紅蓮の飛竜が、其処に居た。

 




閲覧ありがとうございます、星の海です。本当に申し訳ありません、今迄で最長の間を開けてしまいました。仕事が忙しく携帯にも触れませんでした、次回はもう少し早く上げられる様になるかと思われます。どうかこれからも、本作をよろしくお願いします。主にフツノミタマの説明と次回に向けての繋ぎ回なのでそれほど話が進んでいませんが、次回に大きな転機がネギ達に訪れます。楽しみにお待ち下さい。それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。

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