真・恋姫✝無双 魏国 再臨 番外   作:無月

36 / 45
仕事がある程度落ち着くまでは、こうした番外を投稿すると思います。


《報告者 宝譿》 他から見たあの子 ~ 白陽 ~

「呼ばれて飛び出て俺、登場!」

 目の前にある扉を勢いよく開き、俺は華琳嬢ちゃんが待っているだろう旦那の部屋へと飛び込んでいく。ちっと入り方が雑かもしんねぇけど、黒陽嬢ちゃんに注意されるぐらいで済むだろ。なんてったって今日の俺は、風にも言っちゃぁなんねぇ密命を受けてんだからな。

 んで、なんで旦那の部屋かっつうと旦那と一緒に報告を聞くってんで、その間は茶でもしばいて待つって言われたんだよ。

 

 が、俺の目に飛び込んできたのは想定外っつうか、ある意味華琳嬢ちゃんらしい姿だった。

 

「あら、案外早かったわね」

 空中で止まったままの俺に悪びれることもなく旦那の体に密着した状態を続け、それどころか旦那の服を脱がすことをやめようとはしない。

「ちょっ、華琳?!

 宝譿が来るまでって約束だし、今はお茶だけで我慢するって・・・」

「そうね。なら今夜、いつもの場所であなたを待つことにしましょうか。

 黒陽、あなたも同席するでしょう?」

「ふふっ、あなたがそれを望むのなら」

 密着した体を離しながらさりげなく旦那と夜の約束を取り付け、しかも黒陽嬢ちゃんごと美味しくいただく気かよ。つうか黒陽嬢ちゃんも笑顔で受け入れんじゃなくて止めろよ?! 結局、主従で似た者同士かよ!

「華琳嬢ちゃーん? そろそろいいかー?」

「えぇ、かまわないわ。

 思ったよりも仕事が早かったけれど、仕事に漏れはないでしょうね?」

 早くても雑な仕事に意味はないことと、そうであった場合はたとえ置物の俺でも容赦なく罰してくんのが華琳嬢ちゃんだ。

 が、俺がそんなことをする筈がないし、風の一部じゃなく俺を俺個人として扱って能力を買ってくれたんだから、すげぇ張り切って仕事をしてきたしな。

「そういえば宝譿に、一体何をさせてたんだ?」

「あん? 旦那は何も聞いてねぇのかよ?」

 旦那の思わぬ発言に俺が旦那の方へと近寄って、右肩に乗って頬を叩くと軽く指で遠ざけられる。

「いつもの朝に仕事を始めるまでの間をまったり過ごしてたら、突然黒陽率いる紅陽達によって白陽を拉致されて、華琳がお茶やらお菓子やらを持ってきて『宝譿が報告に来るまでお茶をしましょう』と言われて今に至るな」

 旦那も華琳嬢ちゃんに振り回されることに慣れてるよな。

 普通はもうちっと取り乱したり、怒ったりするもんだけど、嬢ちゃん達に対してだといろいろ緩いっつうか、正直異常だろ。まぁ、あんな経験してたら納得だけどな。

「華琳嬢ちゃんから、今の面子と前の面子の関係を調べるように言われたんだよ。

 いつもなら隠密やってる司馬嬢ちゃん達に頼むんだろうけど今回ばっかしは完全に個人的なことだし、俺だったらこの仕事に向いてるしな」

 俺が自分の胸部をたたきながら得意げに言うと旦那は納得し、華琳嬢ちゃんも俺の言葉に頷いた。

「あの子達の交友関係を知っておきたかったのだけど、黒陽達もその対象である限りは本人達に調べさせるわけにはいかないでしょう。

 だから適度に手が空いていて、かつての私達と今の面子と関わり合いがある宝譿が適任だったのよ」

「まぁ、確かに宝譿なら誰とでも仲がいいから適任だろうけど、俺でもよかったんじゃないか?」

「冬雲様でしたら確かに目的を達することが出来るでしょうが、日数はこれの倍・・・ いいえ、倍程度で済めば早い方ですね」

「どういう意味だ?」

 うん、俺様蔑ろにされすぎて泣きそう。

 いや、旦那と華琳嬢ちゃんと黒陽嬢ちゃんのトリオ相手にしたらこうなるって、わかってんだけどな?

「まっ、とにかくだ!

 第一回目である今日は、旦那の影にいつも侍ってる白陽嬢ちゃんがどう思われてるかを調べてきたぜ!」

 俺は秘密空間から白陽嬢ちゃんの姿絵を取り出して旦那に持たせると、わざわざ樟夏の旦那に書かせた姿絵に旦那が感嘆の声を漏らす。

 こりゃ早いとこ真桜の嬢ちゃんにカメラ作ってもらって、全員で写真撮んなきゃ駄目だな。俺達全員が写ったのとかすげぇいい思い出になるし、どんな些細なことでも記録に残しておいてやりてぇ。魏国のパパラッチに俺はなる!

「当然、俺様が言われたことをそのままやるなんて芸のないことはしねぇ。

 最近入った面子に対しては、対象である白陽嬢ちゃんからどう思ってるかを聞いてきたぜ」

「上出来だわ。

 そのままでいいから、報告を続けなさい」

 旦那の肩に乗ったままドヤ顔をすると、華琳嬢ちゃんは足を組んで俺の報告を待つ。黒陽嬢ちゃんはその隣に立ち、涼しい顔をしている。

「つうわけで、報告を始めるぜ。

 始めは春蘭嬢ちゃんと秋蘭嬢ちゃんなんだが、春蘭嬢ちゃんは『正直よく知らんが、良い奴だと思ってるぞ。いつもあいつの傍にいるのはずるいと思うがな』っつってた。春蘭嬢ちゃんとはどうにも関わりが薄いみてぇだけど、仲自体は悪くないみてぇだな。

 秋蘭嬢ちゃんは『冬雲の傍に白陽のような存在がいると思うと心強い。だが、やはり狡いな』だそうだ。春蘭嬢ちゃんに比べりゃ気質が近いのか、はたまた文官を兼任してる分関わりがあるからか結構親しいっぽいな。凪嬢ちゃん達ほど頻繁じゃねぇが、サシで酒盛りをしてるらしいぞ」

 俺がそこまで言うと旦那は安心したように息をついて、嬉しそうに笑ってやがる。黒陽嬢ちゃんも心なしかいつもの作り物みてぇな笑みじゃないような気がした。

 まっ、旦那は白陽嬢ちゃんの人間関係は特に気にしてる傾向があるし、黒陽嬢ちゃんは口にこそ出さねぇけど白陽嬢ちゃんを含めた姉妹のこととなると結構過保護だ。白陽嬢ちゃんよりわかりにくいだけで、ちゃんと姉ちゃんやってんだよなぁ。そんな中、華琳嬢ちゃんは一人当然と言わんばかりに得意げにしていた。

「んで、桂花嬢ちゃんは『隠密としても、補佐としても過剰なくらい仕事をしてくれてるわよ。非の打ち所がないぐらいにね・・・ けど、距離が近いのよ』、なんつうかいつも通りだな。こっちも春蘭嬢ちゃんと同じで距離感は遠いみてぇだけど、仲は悪くねぇな。

 張三姉妹の天和の嬢ちゃんが『藍ちゃんと緑ちゃんのお姉さんで、沙和ちゃんの親友! あんまり知らないけど、すっごい良い子って聞いてるなぁ』だとよ。直接的な関わりこそねえけど、妹達と関わりがあるから悪く思ってるってことはなかったぜ? 今度、沙和嬢ちゃんを通して交友の輪が広がると思うぜー。

 地和嬢ちゃんは『大体姉さんと一緒だけど、やっぱり狡いのよね・・・ 一日ぐらい代わってほしいし、違う目の色とかちぃの方が羨ましいことばっかりよ』だそうだ。天和嬢ちゃんと同じで悪い印象はねぇみてぇだし、口にこそ出さねぇけど体型的な意味での仲間意識もあるみたいだ。地和嬢ちゃんと会わせると、白陽嬢ちゃんもアイドルデビューさせられそうで面白そうだよな。

 人和嬢ちゃんはしばらく考えてたみてぇだけど、『最初に会った時お世話になりましたし、とてもいい方だと思います。今度、冬雲さんも交えて食事の席を設けたいです』だってよ。人和嬢ちゃんも悪い印象はねぇみてぇだし、楽しいと思うぜ?」

 俺がそこで一度区切ると、旦那は安堵の表情を苦笑いに変えてやがった。

「皆、狡いって言葉が多すぎだろ・・・」

「「それは当然でしょう(ですね)」」

 旦那の発言を速攻で二人で返してるんで、俺が口を挟む隙なんてなかった。

 まぁ、今回は報告だから仕方ねーし、まだ終わってねぇんだよなぁ。むしろあの華琳嬢ちゃんが旦那と一緒にいて、黙って報告を聞いてくれてるのが奇跡にちけぇし。今回は白陽嬢ちゃんの分だけだけど、人数多いから何度かに分割しねぇとなぁ。

「報告を続けるぜー。

 霞嬢ちゃんは『うへへへ、凪と揃うと可愛くてたまらんわぁ。二人揃ってわっしわししたる!』つって手をわきわき動かして、ちっと人に見せらんねぇような顔で笑ってたな。白陽嬢ちゃん自身は霞嬢ちゃんのことを嫌いとは思ってねぇみてぇだけど、どう接していいか困ってるっぽいな。まぁ、あそこまで開けっ広げで好意を示されることなんざそうあるもんじゃねぇし、慣れてねぇだけだから心配はないと思うぜ?

 風は『風達ではどうしてもお兄さんを守ってあげられない部分があるので、そのあたりのことには本当に感謝してるのですよー。でも、やっぱり距離が近すぎると思うんですよねぇ』。まだまだ日が浅いのもあって風とは直接的に関係はしてねぇみてぇだけど、やっぱり旦那を守ってるって意味で悪い印象は皆無。それは白陽嬢ちゃん自身も同じみてぇだぜ?

 稟嬢ちゃんは『黒陽殿とは親しいですが、白陽殿のことはあまり知りません。ですが、黒陽殿は自慢げにかた・・・・』 ってあぶねぇ?!」

 俺を狙って飛来した飛び道具を間一髪のところで飛んで避けると、黒陽嬢ちゃんが冷たく笑ってやがる。すっげーこえーんだけど?!

 てか、一歩間違えば旦那にあた・・・ んなへましねぇよな、ある意味で黒陽嬢ちゃんって隠密筆頭だし。

「稟殿にもお話がありますが、稟殿の言葉をそのまま報告しようものならどうなるか・・・ わかりますよね?」

「いやいやいや!

 俺はただ稟嬢ちゃんの言葉とかを報告してるだけだから! 俺は全然悪くねーから!!」

 いや、確かに普段全くデレることのない黒陽嬢ちゃんが稟嬢ちゃんと仲良くなって、挙句妹のことを手放しに誉めてたことは意外だったけどな?

 そんなことを一言でも口にしたら俺は粉々にされそうだから絶対に口にしないが、別に馬鹿にしたりしてるとかじゃなく、黒陽嬢ちゃんもやっぱり普通の女の子なんだなって・・・

「それ以上、私に関して思考しても破壊しますよ?」

「ひぃ?!」

「黒陽、勘弁してやれよ。

 宝譿、俺の顔に縋りつくのはやめろ。地味に痛い」

 旦那の顔にへばりついていると旦那が黒陽嬢ちゃんを諫めてくれた上で、きっちり苦情も言ってくる。おっと、角でしがみつくとやっぱりいてぇよな。

「妹を手放しに誉めるあなたは、まだ見たことがないわね。

 今夜、私にも見せてくれるのかしら?」

「華琳・・・ 勘弁してちょうだい」

 手で顔を覆って溜息をつく黒陽嬢ちゃんに、華琳嬢ちゃんは心底愉快そうに笑うのみ。なんつうかひっでぇけど黒陽嬢ちゃんも拒まないあたり、華琳嬢ちゃんに惚れてんだろうなぁ。

「そんなだから稟嬢ちゃんは白陽嬢ちゃんを悪いようには思ってねぇし、旦那との件で今後は連携を取っていくことになるだろうとか言ってたな。

 季衣嬢ちゃんは『よく兄ちゃんと一緒にいて、何も言わないけど優しい目で見てくれるいいお姉ちゃん』で、流琉嬢ちゃんは『料理を熱心に学びに来てくださるので、今度一緒に市場に行く約束をしてるんです』だとよ。やっぱ妹もいるからか自分より年下相手だと白陽嬢ちゃんは優しいみてぇだ。だから、仲は良好みたいだぜ」

 料理を学びに行っている辺りで『愛されてんなぁ』という意味を込めて旦那の頬を突っつくと、俺が言いたいことを察して顔を赤くしてやがる。

 そうやって飽きるほど幸せになりゃ良いんだよ、旦那は。

 全部幸せにして、全部と幸せになっちまえばいい。旦那の我儘なんざ、華琳嬢ちゃんの我儘の前じゃ何ともねぇんだからよ。

「んで、こっからは白陽嬢ちゃん自身から聞いたあん時いなかった今の面子に対しての印象とかを報告していくぜ」

 結構報告してきたってのに、ここでやっと折り返し地点だっつうんだからスゲーもんだよなぁ。そして俺様の記憶力、超すげぇ。

 そんな俺の労をねぎらうように旦那が頬あたりを撫でてくれるんで、ちっと疲れが癒えた気がする。野郎の手でも、女の手でも、撫でられるっつう行為自体が嬉しいし、好意の現れだよなぁ。

「樹枝のおかまちゃんと樟夏の旦那は一緒くたで『お邪魔む・・・ 失礼、華琳様と桂花様、冬雲様の弟君であり、最近妹達がお世話になっているようですので今度話し合いを行います』つってったなぁ。嫌いじゃねぇけど、やっぱいろいろと目につくところが多いみたいだぜ」

「いや、おかまちゃんってな・・・ 普通に兄ちゃんとか、旦那とか言えよ・・・」

「これでも姉ちゃんと兄ちゃんで迷ったんだぜ?」

「いや、迷うなよ・・・」

 譲歩してるし、街の中でも結構おかまちゃんについても聞いたけど、『たまに女装している方』っていう印象が染みついてやがったしな。華琳嬢ちゃんの父ちゃんに至っては完全に主婦仲間に馴染んでて、そういう存在として認められてる。

 それにしても旦那を受け入れた件といい、華琳嬢ちゃんの革新的な考えについてきたことといい、ここの民って心が広いっつうか、受け入れることに慣れてるように感じるんだよな。

 案外俺らみたいに民も記憶を持ってんじゃね? まぁ、流石に考えすぎだし、ありえねーだろうけど。

「雛里嬢ちゃんに対しては『趣味は理解できませんが、妹を救っていただいた恩があります。これからも良き友として妹をよろしくお願いします』だと。妹の友達っつうだけで信頼がおいてるし、雛里嬢ちゃんは凪嬢ちゃん達と組むことが多いことを知ってるからな。普段接してなくても、信頼はすげぇみてぇだわ。

 斗詩嬢ちゃんに関しては接点がほぼ皆無で、いにくそうにしてたけど、最後には『冬雲様が救った女性の一人です』だと。嫌いじゃねぇし、沙和嬢ちゃんつう共通のダチもいるけど、いまいち話題が合わないみたいだな。

 舞蓮姉さんについては油断ならねぇと思ってるみてぇだから『敵』の一字で、敵意バリバリだったな。まぁあれは舞蓮姉さんがわりーし、白陽嬢ちゃんに限らず、似たようなこと思ってる嬢ちゃんが多かったぜ。

 月嬢ちゃんと詠嬢ちゃん、千里嬢ちゃん、紫苑姉さん、千重嬢ちゃん、赤根嬢ちゃん、白蓮嬢ちゃん、星嬢ちゃんについてはまだよくわからねぇみてぇで特に何も言ってなかったな」

 ようやく終わった報告に俺は一息ついて、用意されてたお茶をすすれば華琳嬢ちゃんがうんうんと頷き、どうやら俺の報告で満足してくれてたみたいだ。

「よくやってくれたわね。けれど、今日はここまでいいわ」

「あいよー。

 とりあえず今回の白陽嬢ちゃんの奴は書簡にまとめて、華琳嬢ちゃんの机の上に置いてあるから読んどいてくれよ」

 報告書があるんならそれを渡しゃよかったんだけど、華琳嬢ちゃんは口頭で報告しろっつってたからな。

「あら? あなたの手では筆が持てないでしょう?」

「どうやって書いたかは秘密だぜ!

 んじゃ、今度また報告に来るぜ!」

 俺はそう言って浮かび上がって扉の方へ向かい、旦那に一言いうのを忘れていたことを思いだして振り返る。

「旦那ぁ!」

「うん?」

 穏やかな顔で俺を見返す旦那に、俺はいい笑顔で腕を前に突き出す。

「今夜はお楽しみだな!」

「なっ!?

 下世話なこと言ってないでさっさといけ! 馬鹿宝譿!!」

「ははははは、そーするぜ!

 馬に蹴られて死にたくねぇからな!」

 俺は飛んでくる書簡やらを避けながら、次の情報を求めて街へと繰り出していった。

 




この視点が見たいとかのリクエストなど(ネタ自体は結構たまってありますが)、書いていくので感想欄でどうぞ。
このシリーズもちまちま書いていきます

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。