遅れましたが、クリスマス番外です。
《警告》
これは番外です。
カッコイイ華琳がいません。
カッコイイ冬雲もいません。
以下の点をご留意の上でお読みください。
『クリスマス』
それは冬雲が
将兵の皆が赤と白の鮮やかな服を纏い、馬達は冬雲が語った北方の生き物である
親も親で普段何か買ってやることの出来ない子ども達に贈り物をする良い機会として利用し、翌朝には嬉しそうな顔をして街を駆ける子ども達も風物詩の一つとなっている。
そんなこんなで目の前には自分のことを顧みず、老若男女問わず笑顔と贈り物を振る舞う冬雲が今年の私のくりすます
「ん? 華琳と黒陽ぉ?!」
まず黒陽が先行し、冬雲の口元や体を拘束。
「んー?! んんーーー?!」
続いた私が冬雲の全身を白い布で被せ、背後に来た布の端を掴んで持ち上げる。
「よいしょっと」
流石に重いけれど、成人男性を持ち上げることは容易に出来る。
そして、さんた服の私と黒陽は何事もなかったようにその場を一気に駆け抜けていく。
周囲に数名の冬雲の部下が居たけれど私達の行動に驚きもせずに見送り、それぞれの職務を全うしている。良くも悪くも慣れているわね。
「か・り・ん・さ・ま? ね・え・さ・ん?
お二人揃っても、何をなさろうとしていらっしゃるのでしょうか?」
当然、彼女が立ちはだかることは予想していた。
冬雲の懐刀であり陰であり、右腕のような存在。そして、凪と共に並ぶ白き忠犬。
「華琳様、ここは私が」
私の前に立つ黒陽が白陽と相対するように立ち、私を庇うように手を広げた。
「姉さん、そこを退いてください。
冬雲様は
「あらあら、白陽。
最近はあの虎の影響で随分と独占欲が強くなったようね」
「それを言うなら姉さんも、でしょう?
姉さんも随分積極的に冬雲様と接触を図っていますし、生きるために必要としか思っていなかった料理も随分熱心にされていますよね?」
あぁ、だから最近黒陽から菓子や料理の味見を頼まれることが増えたのね。私に料理の話をしたりする機会も増えたし、やはりこの子も私なのね。
「ふふふ、人に関心を持たずに俯いて、誰かと話すことすら稀だったあなたが言うなんておかしいとは思わない?」
そんな姉妹同士の言葉での殴り合いが始まり、冬雲を背負った私へと飛びかかろうとした白陽が黒陽によって阻まれ、両手を掴みあい取っ組み合いへと移っていく。
この子達の仕合も興味深いけれど、今は逃げることが優先ね。冬雲との蜜月を過ごす時間もやはり欲しいもの。
「華琳様、今夜は聖き夜。
どうかごゆっくり、お楽しみくださいませ」
「させません。譲りません。
それがたとえ華琳様であっても、今夜だけは!」
あらあら、本当に白陽は変わったわね。
この変化を含めて私はとても愛おしいと思うけれど、残念なことに私も今夜ばかりは譲る気はない。
これは君主と臣下は別次元の、女と女の戦いなのだから。
「えぇ、あなたと黒陽、どちらが勝っても私のところまで来るといいわ。
もっともその頃には、冬雲を私が美味しくいただいておくけれど」
私の言葉に白陽がこれまで見たこともない怒りを宿した気がするけど、私はそれを受け止めながらも彼女の視界から消えていく。
冬雲達ほどではないにせよ、私がこの街で迷うことはまずない。特に今日は行事ということもあって大通りにばかり人が集中し、脇道などに人気はほぼない。
「んー!」
「冬雲、少し静かになさい。
少しばかり強引な手段はとったけれど、私はあなたを攫う理由なんて一つしかないでしょう?」
「もがっもがもがもがー!!」
仕方ないので口の布を外すと、冬雲は一度溜息を吐いてから私と視線を合わせた。
「言ってくれれば普通についていっただろ・・・
俺が華琳の誘いを蹴るとかありえないんだし、皆だって華琳がいたら遠りょ・・・」
「甘いわね、冬雲。貴重な砂糖をたっぷり使った菓子よりも甘いわ。
今日は私達全員が認めた聖なる夜であり、年に一度特別な贈り物を渡される日。
そんな夜を成人した者達は恋人と逢瀬を過ごし、聖なる夜ならぬ性なる夜を過ごしていることでしょう」
「いや、それはおかしいだろ?!
恋人を持つ誰もがそんな夜を過ごしているなんてことはないからな?!」
冬雲が否定しているけれど、そんなことはないでしょう。
愛する者と共に時間を過ごしたのなら、その夜に結ばれたいと願うのは何も不自然なことじゃないもの。
「そんな日である今日は、普段は君主と臣下である私達もただの女へと変わる。
あなたと共に夜を過ごし、あなたを囲う数多の
あの子達を出し抜くのならば、冬雲が部屋に入ってから行動を起こすのでは遅い。
仕事の真っ最中、白陽という強固な守りを崩してでも奪い取る気概を見せなければ、他の子達に奪われかねない。
「だ、だからってな・・・」
「さぁ、年の暮れ。
あなたと私、二人で愛の逃避行でもするとしましょうか」
「ちょっ、か・・・ ふぐっ!」
「だから、もう少し黙っていて頂戴」
冬雲の口に右手を当て、左手で自分の口元に指を立てる。
「さぁ、二人で共に楽しい夜を過ごしましょう」
そう言って普段着ている服と
「今日は素晴らしい、くりすますの夜。
私が作ったこの国で、あなたが主催した行事の行われる素晴らしき日の一日。
私が私のために、あなたと共に築く毎日の一日」
鳴らないように細工していた鈴から留め金を外し、その鈴の音を聞いて控えていた絶影が飛びだしてくる。
夜闇にまぎれる黒い体を今日は赤と緑、白の飾りつけを行い、耳辺りには角飾りをしたその姿はとても可愛い。
「似合ってるわよ、絶影」
「・・・」
寡黙ながらもわずかに私に顔を寄せてくる愛馬を撫でてから跨ると、賑やかな街並みがさらに輝いて見える。
「華琳様? こんなところでどうかしたんですか?
しかも絶影まで着飾ってるなんて、これから街でも練り歩くんですか?」
「・・・・あなたの空気の読めなさは、何なのかしら?」
ある意味、呪いなのかしら?
「ていうか、さっきから叔母上を始めとした将の方々があちこちで決闘を始めて大変なことになっているんですが・・・
なんでも『今日、冬雲と共に過ごすのは私だー』とか口々に叫んでいるらしいんですが、華琳様は何かご存じありませんか?」
「あら、それは大変ね。
けれど、それも今日のこの騒ぎじゃ誰も余興としか思わないでしょう?」
たとえ本気の仕合であっても、街を壊す馬鹿なんて私の可愛い臣下達にはいない。
誰が言いだしたかなんてわからない聖夜争奪戦を滞りなく行うために、風を始めとした軍師の子達も知恵を回してくれている。
もっとも競うのが武だけでは限らないし、私のように機を狙ってる子もちらほらいるようだけどね。
「それで華琳様、そちらのやたら動いている袋はなんですか?
凄いもぞもぞ動いていて気持ち悪いんですが、まさか贈り物に生き物なんて入れていませんよね?」
私が絶影の背に乗せた冬雲の入った袋を樹枝は覗きこみ、何度か眼を瞬かせたのちに一度袋を閉じる。袋の口を閉じた瞬間、冬雲の叫びにも似た声が聞こえたけれど、今は聞こえないということにしておきましょう。
「周りの決闘って・・・
ま、まさか華琳様、散々呷った挙句賞品を持ち逃げする気では・・・」
「何のことだかわからないわね」
手を震わせ、私の正気を疑うかのように問いかける樹枝の言葉は私には届かない。
「・・・最近、いろいろと人数が増えたこともあり、兄上との時間がとれないと皆さん口々に言っていましたが、それは華琳様とて同じ。
だからこそ今回皆さんを呷り、兄上を賞品として謳っておきながら、まさかの胴元である華琳様自らが不正などとは・・・!」
「何のことだかわからないけれど、賞品を『冬雲』と明言してはいないわね。
私はただ『特別な夜を彼と過ごしましょう』と銘打っただけよ。ただし、私がだけれど」
「それはいくらなんでも詐欺では?!
解釈の広さを利用し、賞品を明言しない点とか、完全に詐欺ですよ! 華琳様!!」
樹枝の驚愕する表情を見つつ、私はいつものように微笑むだけに留める。
「これを聞いてしまったあなたがすることは、わかっているわよね?」
「勿論、わかっています」
覚悟をした表情をして頷き、彼は一度大きく息を吸い込む。
「皆さーーーーん、華琳様が兄上を持ちにg・・・・」
予想通りの反応に、私もまた控えておいた手札をきる。
「やりなさい、牛金」
「はい! 華琳様!!」
袋を広げて飛びかかっていった牛金を避け、樹枝は叫ぶ。
「あっぶな?! 何で兄上の副官である牛金を華琳様が??!!
ていうか、なんで華琳様と同じ衣装を着て、袋を構えてんだお前えぇぇーーー!!」
「悲しい・・・ 私はとても悲しいわ。
まさか義弟に裏切られるなんて・・・」
「義弟って、まだ華琳様の弟じゃないですから!
裏切られるって、牛金がやってることの方がまさに裏切りじゃないですか!」
絶影の上で顔を伏せ、悲しそうな表情を作りながら樹枝を見やると、いつものように素晴らしい反応を返してくれる。
「樹枝、私はあなたに何をすべきかを確認したつもりだったのだけど」
「わかっていますよ! 口を噤めっていうでしょう!!
ですが、そんなことをしたら僕がしばかれるでしょうが!!
あの人数は流石にまずいんですよ!」
あら、また悲しいことが増えたわね。
「自分の命を惜しんで、義姉を差し出すなんて・・・ 私はとても悲しいわ」
「いや、愛しい男をふんじばって袋詰めにしている人が何言いますか!?」
「んむー! んむーー!!」
同意するように背後の冬雲が暴れ出すけれど、暴れる体力はこの後のためにとっておきなさい。
「冬雲は私の物、あの子達も私の物。
だからどうしようと、私の自由よね」
「最近、それだと収拾がつかなくなってるからこうなってるんですけどねー」
樹枝が何かを言っているようだけれど、それは主に舞蓮や月に刺激されているのは大きいわね。あの子達は私ですら嫉妬してしまうほど積極的で、彼女達に影響されて皆が女を磨くことに必死になっているのがまたなんとも可愛らしい。
どんな形であれ、あの子達に芽生えた向上心がより私の笑みを深ませる。
「それに、一つ訂正が必要だわ」
「はい?
まさか運搬を手伝えなんて言いませんよね?」
「それは絶影で足りているもの。
この後、あなたがすべきことについてよ」
「はい? 僕はこの後、華琳様の所業を皆さんに伝えて普通に寝ますが」
それはそれで寂しいくりすますだけれど、そんなくりすますに私が刺激を与えてあげましょう。
「あなたはこの
「だから従ってんのか! そいつはあぁぁーーー!!」
「さぁ、牛金、もう我慢することはないわ。
あの子と共に情熱的な夜を過ごしなさい」
私の言葉と共に牛金が飛びだしていき、樹枝の悲鳴が木霊した。
樹枝がいなくなったことを確認し、私は一人呟く。
「まぁ、たとえ二人っきりで夜を過ごせなくとも、あの子達をからかいつつ楽しく過ごせれば私はいうことはないのだけど」
「素直にそう言えばいいだろう、華琳・・・」
私の言葉に器用に口元の布を外した冬雲が呆れたように呟くけれど、誰かが呆れたぐらいで私が行動を改めるわけがない。
「それでも、刺激は必要でしょう?
それともあなたは異論があるのかしら?」
「いや、異論はないけどな?
最近、毎朝
まぁ、あれだけ相手をしていればね。
「華佗がいれば、そんな心配もしなくて済むのだけれど」
「いや、困ってたからね?!
陳留に居た頃に連日通ってたら、流石のあいつも顔引き攣らせてたからね?!」
「あの時は仕方ないじゃない。
再会に喜んで、皆ついやり過ぎてしまったのだから」
「嬉しかったけど、毎日はきつい!!」
常人ならツッコミをいれるような言葉ばかりだけど、これが私達だからしょうがないわよね。
「さて冬雲、あなたがすべきことはわかっているわよね?
「雰囲気作りから、だよな?」
「えぇ、正解よ。
さぁ、行きましょう。皆にばれない内にね」
こうしてくりすますの夜は更けていく。
私が冬雲との
来年はあの子達もさらに工夫を重ねてくることでしょうけど、それもまた一興ね。
日々楽しみが増える毎日、それも彼がここに居るから。
あの時から続く毎日を私達は描き、これからも続けていこう。
「次は何をしようかしら?」
横に眠る彼の頬を愛しげに撫でながら、こちらへと迫りくる気配に笑みを浮かべた。
後日、くりすますのさんたは良い子達には贈り物を届けるが、悪い子は袋に入れて連れ去ってしまうという噂が流れたが今回のこととは無関係だろう。
まだ番外書きたい。
正月番外書きたい。
ですが、来週は本編を優先して書きたいと思います。