真・恋姫✝無双 魏国 再臨 番外   作:無月

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ある読者への応援番外。こんなになりましたがどうでしょう?
どうか楽しんでください。

この後、本編も投稿します。


月vs桂花 【桂花視点】

「ちっ、やっぱりまだ起きてんのね・・・!」

 陽はすっかり落ち、空の月は城を優しく照らしている中、私は目標の部屋を確認して舌打ちの混じった言葉を口にしてしまう。

 まったく、あの馬鹿は・・・!!

「何度も徹夜なんかすんなって言ってるのに!」

 時間も時間なので声量こそ押さえるが、苛々とした感情は収まることはなかった。

 大体私達が夜通し作業しようとしたら何かしらの理由をつけて休ませようとする癖に、自分のことは完全に棚上げしてやがるんだもの。

 本当にもう! これであの時みたいに倒れたりなんかしたらそれこそ大問題だっていうのに・・・・!

 私の目の前で倒れたあの日を思い出して唇を噛み、右手に持った灯りがわずかに揺れる。あいつに仕事をさせないために夜這いなんて最初は馬鹿みたいって思ったけど、べ、別にあいつが嫌いとか、嫌とか言うわけじゃないわよ?!

 誰に対して言っているんだかわからないことで表情が動いてしまって、誤魔化すようにやや火照った顔に左手を当てて、溜息を零してしまう。

 あいつは本当に、私達に何かを求めるようなことはしてこない。

 傍にいるだけ、仕事をするだけ、話すだけであいつは嬉しそうに笑ってて、自分が誰かに与えることが当たり前だとでも言うように接してくる。

「でも、それは・・・」

 与えられるだけの関係なんて、楽なのかもしれない。だけど・・・

「そうじゃないのよ・・・」

 それだけじゃ、嫌。

 ただ与えられるだけなんて、ただそれだけじゃ満足なんて出来ない。

 私達だって、私だってあいつにその・・・・ よ、喜んでほしいし! 求めてもらいたいのよ!!

 そんな私らしくもないもやもやとした感情を抱えながら、もう少しで冬雲の部屋という所で・・・・

 

 月明かりに照らされて映える淡い色をした髪、薄手の布で作られた髪と同色のねぐりじぇを纏った小柄な少女が、今まさに冬雲の部屋の扉を叩こうとしていた。

 

「アンタが、何で、ここに、居るのよ?!」

 自分とは思えないほどの速さで駆け寄り、肩に左手を置いてやや低めの声で問いかける。

 冬雲の夜の番は私であり、他の連中は隙があれば邪魔をするけど『自分がやられたくなかったらしない。邪魔した場合は、自分もされる覚悟をすること』という暗黙の規則に則って行動しているから、鉢合わせすることはごく稀にあるけど基本はない。

「あ、桂花さん。こんばんわ。

 いえ、今宵こそ冬雲さんと夜を供にしようと思いまして」

 頬を赤らめつつ言う彼女から聞いているこちらが見惚れてしまうような色気が醸し出され、普通の奴ならそのまま許すんでしょうけど私はここで許すわけにはいかない。

 というか、ここで引き返しなんてしたら、それこそあいつの夜の番なんて一生ありつくことは出来ない。なんたってウチ(この陣営)は、華琳様を筆頭にそういう連中の集まりなのだから。

「そんなの許すわけないでしょ!

 そもそも今日は私の番だってのよ!!」

 自分らしくない発言であることは重々承知だが、夜を共にするのに限らずあいつと過ごす時間は本当に貴重。ましてや、それが二人っきりなら尚更。

 まぁ、あいつ自身そう言う時間を作ろうとした結果がこれ(徹夜)なんだってわかってるけど、それで倒れたら元も子もないじゃない!

「そうなんです。

 その夜の番にどうしたら加えていただけるのかがいまいちわからなくて・・・ 皆さん、聞いても答えてくれませんし、華琳様は『まず、私と夜を供にしましょう』とおっしゃられるばかりで答えははぐらかされてしまいました」

 華琳様あぁぁぁ~~~~!

 嫉妬も馬鹿馬鹿しいとは百も承知ですけど、心の中で叫ぶ不敬をお許しください!

 先日の関羽もそうですし、あいつ(冬雲)も大概そうですけど、華琳様は節操がなさすぎです!! いえ、最愛の方が二人いる私もそうですし、私達はある意味全員で愛し合っているので『節操』なんて言葉とは元々無縁なんですけども!!

「来たばっかのあんたを、夜の番に加えるわけないでしょうが!」

 夜の番は必ずしもそう言うこと(・・・・・・)を行うわけじゃないし、発足した当初はあいつをどんな形であれ休ませることがきっかけだった。

 言い出したのは華琳様だったことと、賛成した私達にもまったく下心がなかったとは言わない。

 けれど、ただ疲れさせたりして眠気を促したり、お互い好意を抱いてる者同士が同じ部屋に居ればそう言うことになることが多いだけで、お茶や話し相手、軽い遊戯を行うだけの日もあるのも事実だった。

「ていうか、普段あれだけ一緒に居る詠の馬鹿はどうしたのよ?!」

 あの子なら止めると思ってたのに、もう止めきれなくなったわけ?!

「桂花さん、愛しい方とそう言うことを行うのに友人を連れてくるわけないでしょう?

 それに詠ちゃんもなんだか最近悩んだり、忙しかったりするみたいで夜は考え込んだりすることが多いみたいなんです」

 忙しい? そこまで過剰な仕事量は配分してない筈だけど・・・ まぁ、そっちは後で樹枝でも使って調べさせておきましょ。それに千里とか、霞とか近しい人間もいるわけだし、現状に個人的な不満があったら黙ってるような玉じゃないでしょうしね。

「では、そう言うことですので・・・」

 さらっと部屋の扉を叩こうとする月の手をしっかり握って行動を防げば、月は不思議そうに首を傾げながら再びこちらを振り返る。

「へぅ?」

 まぁ、この子がやろうと思えば私の手なんか簡単に振り払えるんだけど、それをしないのはこの子の優しさなのかしら?

「だ・か・ら! やらせるわけがないでしょ!」

「知っていますか? 桂花さん。機会とはあるものではなく、作る物なんです」

 手を軽く払って、優しく笑う月は私から距離を取るようにしつつ扉を叩こうと手を添える。

「得物は最終的に仕留めた方の物・・・ 簡単に言うなら、横取り上等です♪」

「へぇ、言うじゃない・・・」

 頬が引き攣り、皺が眉間に集中していくのを感じながら、同性から見ても魅力的な笑顔を振りまく彼女を見る。

 えぇ、認めてやるわよ。あんたは立派な競争相手であり、私達の仲間よ。でもねぇ・・・

「ここじゃ、そんなの(横取り)日常茶飯事なのよ!」

 あいつの傍には常に白い陽が照らし、街では三羽烏が集まり、厨房へと向かえば玉が二つ輝き、鍛錬場に行けば鬼神と大剣、神弓が揃い踏み、少し遠出をしたかと思ったら歌姫達があいつを歌い上げ、執務室に向かえば鳳と稲穂が揺れ、玉座には当然我らが覇王たる方が座している。

 もっと言えば、いまだって誰がどこで横取りを狙ってるかなんてわかりゃしないわよ!

 つまり、ここでは大人しく譲った方が負けなのだ。

 間に合わないとわかりつつも扉を叩こうとする月の手を防ごうと手を伸ばす。

 

 が、月が扉を叩こうとするよりも早く、扉は開かれた。

 

「「え?」」

 どちらにとっても予想外のことが起こりおもわず声を揃えてしまうが、扉から出てきたのは私達の得物である冬雲本人。

「ん?

 二人してこんな時間にどうかしたのか?」

 少し眠そうに目を擦りながらも私達を認識して子どものように笑う冬雲は、当然の疑問を向けてくる。

「あんたの今日の夜の番は私よ!

 だから、襲いに来てやったわ」

「あぁ、そっか・・・ って、はい?!

 ちょっと待て! 夜の番って何!?」

 ちっ、いきなり言えばそのまま頷くと思ったのに、案外冷静ね。

「私は夜這いに参りました。

 どうか今宵こそ、冬雲さんにこの身を捧げたいと思います」

 月も月で畳み掛けてくるし、これならいけるかしら?

「頼むからちょっと待ってくれ。

 二人掛かりで言われると俺もどうすればいいかわからないし、俺にもわかるように、一つずつ説明してくれ・・・」

 溜息も零さないし、頭も抱えるようなことをもしないまま、廊下で話すわけにもいかないので冬雲は私達を招き入れる。

 普段つけている目元を隠す仮面を外した姿も、最近忙しかった所為もあってなんだか久しぶりに見た気がする。眠気を振り払うように目頭を触れる動作もなんだか格好良くて、少しの間見惚れてしまった。

「桂花?」

「な、何でもないわよ!」

 自分でも駄目だってわかってるのに、こういう時咄嗟にうまい言葉は出てくれないのは悪い癖。だから・・・

「ただ・・・ アンタが格好良かったから見惚れた! それだけよ!!」

 ヤケクソ気味に叫んでから少しだけ冬雲を仰ぎ見れば、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして両手で顔を覆ってしまった。

「不意打ちに可愛いこと言うなよ・・・ 死にそう・・・

 ごめんなさい、嘘です。みんなが可愛すぎて、生きるのが超楽しい」

 後半一文に睨みをきかせ、即時撤回させておく。冗談でも、言葉の綾でも、それだけは言わせないし、許さない。

「白陽はもう今日は帰らせたから、俺がちょっとお茶を淹れてくるよ。

 椅子にでも掛けて待っててくれ」

「冬雲さん、私がしますよ?」

 月がすぐに立ち上がろうとするが、冬雲は手でやんわりと制止し、首を横に振った。

「城の中とはいえ、こんな時間に女性が出歩くのはよくない。二人が相応の実力者であってもだ。

 それに少し歩いて目でも覚まさないと、ちゃんと話を聞けそうにないしな」

 わざとらしく欠伸をしながら部屋を出ていく冬雲を見送って、残された私達は顔を見合わせて同時に笑ってしまった。

 お互い夜這いをしようとこの部屋を訪れ、互いに奪い合おうとしたっていうのに、二人揃って奪い合おうとした当人の部屋に招かれちゃうんだもの。

「ホント、あいつらしいわよ」

「ですね」

 それだけ言って部屋を見渡せば、あいつが使ってる机には書簡が山となり、寝台は乱れた様子もなく綺麗なまま。机の硯にわずかに残った墨もまだ乾ききっておらず、ついさっきまで書簡しょりしていたことは明白だった。

「「アンタ(桂花さん)は」」

 私が口を開いたのと同時に同じように呼び掛けられてしまい、私はすぐに問いかける。

「なによ?」

「いえ、桂花さんからどうぞ」

 なんとなくお互い聞きたいことが同じのような予感がする。それなら、譲り合うのはただの時間の無駄だろう。

「じゃぁ、聞くけど・・・ あんたはあいつ(冬雲)のどこを好きになったのよ?」

 連合の折、危機を助けにいったということ考えれば好意を抱くのは不思議じゃない。だけど・・・

「あんたが求めるのは優秀な男? それとも冬雲?

 そしてそれは、涼州人の気質がそうさせたもの?」

 ただ優秀な男を欲しているのなら、あいつじゃなくてもかまわない。

 そして、『あいつじゃなくてもかまわない』程度の想いだというのなら前言を撤回し、この子を認めることは出来ない。

 ううん、違う。

 認めたくないし、許すことも出来なくなる。

「そう、ですね・・・

 英雄として彼の話を耳にした時は、そうだったかもしれません」

 椅子に腰かけたまま、自分と同じ名を持つ空に浮かんだものへと視線を向けて、月は静かに目を閉じる。

 一つ一つの何気ない動作が綺麗で上品で、神秘的にすら感じてしまう。

 それは上っ面だけでは繕えない彼女の自然体の一つでありながら、彼女の中には涼州人の気質が染みついてる。

「ですが、あの時・・・ 私は初めて、異性に支えられたんです」

 神秘的だった表情はまるで花が咲いたみたいに綺麗に笑って、左の首元から頬に手を添えながら、白い肌は朱に染まる。

 それは私もよく知っている恋する乙女の顔そのもので、この子をそうさせた相手が誰かなんてわかりきっていた。

「守られて、抱きしめられて、そして・・・ いくつかのことを気づかせてくれました」

 窓に向けていた視線を私に向け直し、花のような笑顔のまま彼女は告げる。

「優秀だからでも、強いからでも、英雄だからでも、ましてや後ろめたさからでもなく、彼が彼だから傍に居たいんです。

 どこか危うさを持つ彼を今度は私が守りたい、支えていきたいんです」

 そんな惚気のような告白を聞いて、改めてあいつの手の速さ・・・ というより、人の良さに呆れてしまう。

 誰でも彼でも手を伸ばすのは良い所だって認めてあげるけど、なら怪我なんてしないで無事に帰ってきなさいっていうのよ。あの馬鹿。そんなだから、付き合いの短いこの子にも危うさとして言われてんでしょうが。

「そういう桂花さんはどうなんですか?」

「私?」

「はい。

 桂花さんは冬雲さんのどこをお好きになられたのか、とても気になります」

「あー・・・ そうねぇ・・・」

 昔の私ならこうした問いに『あいつの事なんて、好きじゃない』と答えていたのだろうけど、夜這いに来たのにそんなことを言えるわけもないし、素直に口にすることが出来ないだけでずっとあいつの事を私はその・・・ 好きだった。

「いつからなんて、わかんないわよ」

 初めて出会ったのは華琳様に正式に軍師として登用される前、あいつもまだまだ下っ端中の下っ端で雑用をこなすのがやっとの時だった。

 出会った後だって別に特別格好いいなんてこともなくて、馬鹿で、女たらしで、いつもヘラヘラしてて、武も一般兵並・・・ ううん、以下しかなかった。

「ただやたらと、目についてたのよ」

 最初はどうしてかわからなくて、粗ばっかりが目についた。無駄のある行動にも、華琳様や他の子達との触れ合いには苛々させられた。どうして好きになったかなんて、むしろ私が聞きたいぐらい。

 素直になれるかもしれないという時に居なくなって、目で追う存在がいなくなってようやく気付かされた無意識のうちの恋だった。

『もしかしたら、ずっと好きだったのかもしれない』

 そんな想いを恋だと証明したのは再会を果たした時に溢れた涙と、言葉にまとめることの出来なかった感情達だった。

「ふふっ」

「何よ、突然笑ったりなんかして」

 口元に手を当てて笑う月に、訝しげな視線を向けても彼女の笑みが消えることはなかった。

「いえ、ふふっ・・・ すみません。

 桂花さんは冬雲さんに、一目惚れをなさったんですね」

「え・・・・?」

 私があいつに一目惚れ?

「あ・・・・!」

 顔が一瞬で熱くなっていくのを自覚しながら、これまで抱いた想いの数々が明確な答えという輪郭を得てあるべきところに収まっていくのを感じる。

「桂花さんって、可愛いですね」

 からかわれるだけに耐えられず、私は机を叩きながら立ち上がり、樹枝を怒鳴りつける時のようにしっかり息を吸い込んだ。

「えぇそうよ! 一目惚れよ!!

 初めて会った時から、あいつのことを好きで好きでたまらなくて、目が離せなかったわよ! なんか文句ある!?」

「あっ、冬雲さん。

 おかえりなさい」

「話は最後までしっかり聞きなさい!

 っていうか、そんな都合よく冬雲が戻ってくるわけ・・・」

 私が怒鳴ったのも気にせずに、扉の方を向きながらそんなことを言う月に怒鳴ってから、私も扉の方へと振り返ると、そこにはお茶を三つお盆に乗せ、扉を開けた左手を気まずそうに宙に彷徨わせたままの冬雲がいた。

「?!」

「えっと・・・ その・・・」

 その時、私の中で何かが切れた。

 おそらくは羞恥とか、誇りとかの調整を担っていた何かが音をたててぷっつりと千切れ飛ぶ。

「もう、いいわ! 私は今日、アンタを襲う!!

 アンタのことを超好きで、一目惚れして、普段素直になれない女が素直になるのよ! 光栄に思いなさい!!」

「ちょっ?! 桂花!?

 その発言いろいろとアウトだし、俺への説明とか一切ないままなんですけど?! それにせっかく淹れてきたお茶が・・・」

「お茶の事なんて気にかける余裕、すぐになくしてやるわよ! いいからひん剥かれなさい!」

「では、私も・・・」

「いいわよ! まとめて相手してやるわよ!!

 もう恥ずかしいことなんて何もありゃしないんだから!」

 私の行動と発言をあくまで止めようとする冬雲と、さらっと便乗する月も私は止めない。

 この後? 聞かなくてもわかんでしょ! 察しなさいよ、馬鹿!!

 

 

 

 もしもまだ、こいつが消えるという可能性が欠片でもあるのなら、あの時はしなかったことを行う・あの時に残せなかったものを残すことでこいつは消えないんじゃないかと仮定する。

 もう絶対、消させない。もう二度と、離さない。絶対に失わない。

 一つの手段としても、一人の男を愛する女としても、私はこいつとの子が欲しいって心から思った。

 




十五禁ぎりぎりセーフですよね?

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