作者は馬鹿だからか、夏風邪をひきました・・・
ですが、意地でも週一は守ります。
さぁ、予定していた夏祭り番外です。
「どや? 隊長」
「最高の出来だよ、真桜」
人気のない山の奥で続けられてきた作業の成果に俺は満足げに頷き、周囲にいる協力者達を労いつつ、肩を叩く。
「では明日、予定通りに決行してくれ」
「てか、ウチはまだしも隊長はこんなことして平気なん?
華琳様にも内緒なんやろ?」
真桜の言葉に俺は肩をすくめて、その反応に周囲の者の空気がわずかに変化する。
「まっ、こんだけのことをするんだ。
万が一のことがあったら、始末書だけじゃすまないだろうな」
でも、それも万が一の時だけ。
そのための協力者も居てくれることだし、あとは俺達がどんな結果を残すかにかかっている。
「でも、真桜なら・・・ 真桜率いる冬桜隊ならやれるさ」
何せ、俺の曖昧な知識でこんなものまで作りあげることが出来た。
ならあとは、その成果を見せるだけ。
「とーぜんやろ。
ウチらを誰だと思ってんねん」
俺の言葉に得意げに笑って、自分よりも逞しい男どもを従えた真桜に俺も同じように笑った。
「俺らは冬桜隊だぜ? 旦那」
「あんま舐めてっと、
「発案、実行、改善の三つの柱。
折れるもんなら折ってみやがれってんだ」
冬桜隊を支える筆頭職人である三人を見て、俺はその場で身を翻した。
「じゃ、俺は一足先に戻るよ。
明日の準備もあるし、真桜もばれない内に戻ってくれ」
「はいな。
明日はウチらが裏方で、主役やからな」
「あぁ、頼りにしてる」
胸を張る真桜達をその場に残し、俺は明日行われる行事に胸を躍らせながら城へと戻って行った。
「隊長!」
活気にあふれる街を確認しながら、俺は今晩行われる余興が事細かに書かれた書簡を手に歩いていると凪が声をかけてきた。
「おぉ、凪。
出店の設営はどうだ?」
「順調です。
警邏隊の半分は天和達の舞台設置のために動いていますが、残り半分は設営などの雑事に追われています」
「よし、そっちは予定通りだな。
沙和と真桜は?」
凪の報告に頷きつつ、他の状況を聞けば、凪はすらすらと答えてくれる。
「沙和は今晩、我々が纏うことになる衣装の件を無事に片づけ、現在は着物を普及するための貸し衣装屋の準備へと移りました。
同じく真桜は神輿や簡易陣幕の設置に追われ、冬桜隊の指揮を行っていることと思われます」
「了解。
さぁ、準備が終わる昼までが勝負だ!
昼過ぎからは一般客も入ってくるし、子ども達も今日を楽しみにしてる。
それ以降も警邏隊は忙しいだろうが、絶対に成功させるぞ!」
街全体での祭りは、どれだけ管理していても問題が起こってしまう。が、これを成功させることは国の豊かさを周囲に示すことができ、商人達が見逃すわけがない。
楽しむということが第一だが、安全などの面も手を抜かないことで民からの信頼も違ってくる。
「はい!
では私も、警邏隊の指揮がありますのでここで!!」
「おう!
城に集合する時間だけは忘れないでくれよ?」
「はい!」
だけど、豊かさとか云々もどうでもいいぐらい今を楽しむ、この瞬間を幸せだと思う。
祭りは行われる時も楽しむものだけど・・・
「準備段階の活気も含めて、楽しいもんだよな」
街にあふれる熱気・活気、そして高揚感。
この日を楽しみにしたんだという想いが、街全体を飲み込んでいるようだった。
「なーに、呑気なこと言ってんだよ? 旦那」
少しの重みと共に頭の上から降ってきた言葉に上を見れば、そこには見慣れた三角の形をした宝譿が降り立った。しかし、何度見ても帽子みたいなのが折りたたまれて収まる姿が現実離れしてるな・・・
「おっと・・・ 宝譿。
風のところに居なくていいのか?」
「『今日は頭の上に居ても暇でしょうから、見て回ってくるといいですよー』とか言って、暇貰ったんだよ。
だから一緒してもいいか? 旦那」
「かまわないけど、俺と居ても楽しくないぞ?
今日の俺はほとんど全体の見回りばっかりで、仕事らしいことしないしな」
「そら、この祭りのために一週間ぐらい動きまわってりゃ、誰だってその配置にするだろ。
旦那が提案者とはいえ街の奴らに声かけやら、宣伝やらで頭下げて回るんだもんよ。
まったく、それがどんだけ異様なことかちっとは自覚しろよ。旦那」
頭の上で抗議されるように何度か跳ばれ、ちょっと痛い。
「提案者が頭下げないで、誰がやるんだよ。
この二日間だけとはいえ、中央広場を使った特設舞台まで作るんだ。普段使ってる人達に迷惑かかることは間違いないし、出店で道幅も狭くなる。
その上、普段は静かな夜も騒がしくなるんだ。責任者が頭下げないわけにはいかないだろ?」
「そんだけじゃなくて、他の件だってそうだろうが。
やれ神輿やら、衣装やら・・・ 実行は嬢ちゃん達が動くにしても、その発案は旦那だろ? どんだけ寝てねーんだよ?」
「それだって、俺が見たいから頼んだことだしな」
前回同様、俺が仮面を被っての行動もそれが理由。
まぁ、俺が仮面被ってる理由なんてほとんどの人に知られているせいか、道行く民ですら俺に甘い物やら試作品を寄越してくるんだが。正直、それすら申し訳ない。
「で? いつも一緒に居る白陽の嬢ちゃんはどうしたんだよ?」
「今回は沙和と藍陽に連れ去られて、貸し衣装屋の手伝いに行ってる。
緑陽も今回はそっちで来てくれた人に化粧を施すらしい。あとの紅陽達は他の皆の伝達兵になってるな」
さっき貰った出来たての焼き菓子を口に入れ、宝譿にも渡せば俺の手からそのままかじりついていく。
こいつ、再会果たした時から思ってたけど、食事まで出来るって・・・ どういう原理なんだ?
「うん。うめぇな!」
「華琳も来るかもしれないって言ったら、街の人達が安く質のいい物を作ろうと躍起になってたんだよ。
華琳御用達とまでは行かなくても、少しでも楽しんでもらいたいってさ」
子どもも、大人も、勿論老人だって楽しめる夏祭り。
向こうで当たり前だった日常の一部だけど、こっちじゃそれは非日常で特別な日。
子どもの頃は自分にとってそうだったのにいつからか純粋に祭りを楽しめず、開催してることを知ってても、嫌な面や億劫になって行かなくなってしまった。
それでもやっぱり恋しくなるなんておかしなもんだなと思い、おもわず笑ってしまう。
「こんなことが、大陸中で当たり前になればいいよな」
「はぁ? 旦那。
何、馬鹿なこと言ってんだよ」
「馬鹿なことって・・・ 何が・・・」
宝譿が頭上で溜息を零し、抗議をしようとした時、俺の視線の先に映った霞がへらを持って手を振ってきた。
「おっ、冬雲と宝譿やないか!
珍しい二人組やん、どないしたん?」
鉄板の設置をし、額にねじり鉢巻きした霞の姿が似合いすぎる件について。
青い生地に雲の柄をした法被まで着て、まさにお祭りの姐さんという格好は霞にしっくりくる。
「俺が見回りしてたら、暇してた宝譿に乗られたんだよ」
「ハハッ、冬雲のことを足代わりとはえぇ度胸しとるやないか? 宝譿」
「霞嬢ちゃん、どうだ? 羨ましいだろ?」
「しばくで?」
最初は軽口だったにもかかわらず、霞の目は本気だ。
「そ、それはそうと霞は何の店をやるんだ?
鉄板出してるってことは料理なんだよな?」
たとえ相手が宝譿だろうと容赦しないだろうから話を切り替えれば、何故か霞は満面の笑みになって、包丁とまな板を取りだして材料を刻みだした。
「冬雲が言っとった『お好み焼き』をやるんやけど」
「えっ?!
もしかして、最近流琉が熱心に聞いてたのって・・・」
休憩の時にお茶菓子と共に書簡を持って、俺に熱心に聞きに来るなぁとは思ってから作ってくれるのかと思ってたけど、まさか霞が作るなんて予想してなかった。
「おう、ウチが直接聞いたら祭りですることばれるやろ?
だから、流琉に聞いてもろうたんよ」
「ソースはどうするんだ?
あれが一番、難しいと思ったんだけど・・・」
「醤とかをうまいこと使って、他にも普段捨てるような海産物の煮汁とかをあたってみたんよ」
言葉とともに差し出されたソースを舐めれば、
「お、オイスターソースだと?!」
「旦那? 何、そんなに驚いてんだよ?」
だってこれ、一九世紀になって成分を調べたことからようやく作られたものなんだぞ?
それを今の時代に作るって・・・ 人の食への貪欲さを垣間見た気がする。
「あと、冬雲が言うとった『まよねーず』ちゅうもんも作ってみたんよ。
材料は酢と卵、油でえぇんよな?」
「あぁ、そうだけど・・・ 本当に再現したのか」
マヨネーズを知っている人は多いが、作るのは意外と簡単なことを知っている人は実は多くない。
まぁ、一般的に売られてるから、普通は作らないしな。
「ちっと味見していかへん?
さっき、宝譿と話しとったことも聞きたいしなぁ」
「大した話じゃないって。
これからも、こうした祭りが当たり前になればいいって言っただけだよ」
話しつつも霞は慣れた手つきで具を刻み、山芋や粉とともにふんわりと混ぜ鉄板に載せていく。その上から肉をのせ、頃合いを見てひっくり返すのは凄く様になっていて、俺へと自慢するように視線を向けることも忘れない。
「あぁ、そりゃ宝譿が正しいわ。
冬雲の言葉が阿呆やわ、それ」
「だから、なんでだよ」
ジュウジュウと食欲のそそられる音と匂いをさせるお好み焼きにソースとマヨネーズがかけられ、鉄板の上で切り分けられ笹を加工したらしい船に載せられて渡された。
「
ウチらが
右手のへらで俺を指し、左手で渡された湯気がたつお好み焼きに俺は笑ってしまう。
そう、そうだ。
夢を語るような希望ではなく、俺達が実現させる未来として語るべきだったんだ。
「あぁ、そうだよな。
俺達が来年だって行うし、大陸中をそうしてやるんだ」
箸を受け取ってかぶりつけば、まだ熱いお好み焼きに舌が火傷しそうだけど、具はふんわりとしていて、上に乗った豚肉はカリッとした食感とソースとマヨネーズがさらに味に変化をもたらしてくれる。
「うまい!」
「そうやろ、そうやろ!
これは売れるでー!」
「商売楽しむのはいいけど、約束した時間には城に集まってくれよ?
今の法被姿も似合ってるけど・・・ 俺は霞の着物姿、楽しみにしてるんだよ」
俺がそう言えば、霞は『言わせてやった』とでも言うかのようにニヤリッと笑って、背中を指差しながら、俺へと背を見せる。
「背中に背負ったこの想い、祭りに居る全員に自慢して歩いた後、キッチリ行くから安心せんかい」
そこに書かれたのは、真っ赤な字で『冬雲愛』。
ちょっ、こういうの天和達の売り物でもあるけど、自分がされるとくっそ恥ずかしいだけど?!
「そ、それ・・・ 一体誰が作ったんだ?」
「とーぜん、沙和や!
ちなみにウチら将全員に配られとって、祭りじゃ全員これ着る予定やから、覚悟しときや。
まっ、全員ちゅうても冬雲愛しとるもんだけが着とるから、安心しぃや。
千里はウチがなんべん頼んでも着てくれへんしー」
「だーかーらー、そんな恥ずかしい格好は勘弁だし、冬雲さんも困るでしょうが」
悪乗りするかと思った千里殿がまともで俺は一安心し、肩を降ろす。
と同時に、そのことを知っていて言わなかったであろう宝譿を軽く小突こうと手を伸ばしたが避けられる。
「千里殿は・・・ 霞の補助か?」
「そういうこと。
あとは接客とお金の管理、霞はその辺り苦手だからねぇ」
「ハハッ、千里殿に任せたら、安心だな。
んじゃ、そろそろ俺も行くかな。
二人とも、くれぐれも集合時間は忘れないでくれよ?」
「了解っと。
冬雲さんが全員の着物姿見たいからって聞いてるんだけど、本当?」
・・・間違ってないけど、そういう風に情報流すのやめよーぜ。誰とは言わないけども!
「そうですよ!
俺が皆の着物姿見たくて、沙和に頼み込みましたよ!」
でも、事実でもあるので俺がヤケクソ気味に叫べば、千里殿は樹枝をからかっている時のようにニヤニヤと笑った。
「いや~、やっぱそう言う所を見ると攸ちゃんの義理とはいえ、お兄さんなんだなぁって思えるよ。
まっ、あたしから沙和ちゃんにあることも頼んでおいたけどね~」
千里殿が上機嫌にしている理由にある程度察しがつき、俺は今頃出し物の調整を行っているだろう樹枝へと内心で手を合わせる。
「それじゃ」
「あとでな~。
霞の嬢ちゃん、千里の嬢ちゃん」
二人に見送られながらその場を後にし、そうして昼から夕暮れまでの時間を潰すことにした。
その後は月殿と詠殿がやっている休憩処にお邪魔したり、桂花と稟が本営に居たのでお茶を差し入れたり、貸し衣装屋で働く白陽を微笑ましく見守ったり、舞台を成功させた天和達をどこぞの泥棒よろしく攫っていき、城の特等席である城壁へと連れ出すことに成功した。
「ほい、到着っと」
流石に三人を連れての逃走劇は厳しかったけど、司馬姉妹や宝譿の援護もあって無事逃げ切ることも出来た。
「ちょっと! 冬雲!!
舞台から攫うのはやりすぎよ!」
「そぅ? お姉ちゃんは結構情熱的なカンジが好きだったかな?」
ほとんど息つく暇もなかったので地和からは文句を貰うが、これは承知の上だったから痛くもかゆくもない。
もうね、その後に来る天和の照れ顔とか、怒りながらも頬を染める地和が可愛すぎてつい頭を撫でるのは仕方ないと思うんだ。
「天和姉さんがそうやって甘やかすから!
ていうか! あんたも頭撫でてんじゃないわよ!!」
「それに別にいいじゃないですか。地和姉さん。
私達をファンからも攫ってくれるなんて、冬雲さんだけなんですから」
人和の嬉しい一言に、俺はつい抱きついてしまう。
「冬雲さん・・・ もしかして酔ってませんか?」
「少しだけ、な・・・」
日が沈んだ頃から、あっちこっちで酒を開けだして、顔を出した俺を捕まえては酒を飲まされたせいもあり、俺は少しばかり酔っていた。
「旦那も断ればいいってのに、行く先々で貰った盃全部受けてくんだもんなー。
まったく、お人好しだぜ」
「断れるわけないだろ・・・
まぁ、ここまで戻ってこれたし、良しとするよ」
若干ぐったりとしながら城壁に寝そべると、折り重なってこちらへと向かってくる下駄の音に無理やり体を起こそうとすれば、人和に額を押さえられてしまった。
「無理に起きないでください。冬雲さん。
顔、結構青いですよ?」
俺の額を押さえつつ、俺の上へと回って頭の下に膝を入れて、再びゆっくりと倒してくれる人和が心配そうな顔をして覗きこんでいた。
「ん・・・ ありがとな、人和」
「いえ、冬雲さんを膝枕するなんて早々できませんから、役得です」
頭を撫でられるのがまたいい感じに眠気を誘うが、まだ眠るわけにはいかない。
皆の着物姿は勿論、この祭りでみんなに一番見せたいものが残っているんだから。
「さぁ、全員揃ってるよな?」
俺は寝そべった状態で声を張り上げ、広がった夜空をまっすぐ指差した。
戸惑うような、何かを期待するような雰囲気が流れるが、俺はかまわず続ける。
「真桜! 号令、任せた!!」
「はいなー!!
今宵、冬桜隊が見せる最大の余興!
さぁ、空に輝くんは星だけやない!! ウチらがこの夜空に、大輪の華を咲かせたるわ!
放てえぇーーーー!!!」
真桜の言葉に続くように、高く高く光が空へと打ちあがった。
瞬間、体を震わせるような炸裂音が響き、そして夜空へと光の華が咲く。
色とりどりの光りは円となり、花開いては落ちていく。
夏の夜に一瞬だけ、幻のような花々が咲き誇っていく。
それと同時に悲鳴のような、歓声のような声があちこちから聞こえてくる。
「冬雲、真桜・・・
あなた達、いつからこれを企てていたのかしら?」
華琳は俺達を責めるような声なのにどこか楽しそうで、そして俺を見下ろしている視線は・・・・ 若干拗ねてる?
「夏が始まる少し前から、かな?
打ち上げの方法から、光の配色・・・ その素材探しとかで結構戸惑ってたんだよ」
俺の曖昧な知識だと素材は鉱物の粉としかわからず、火薬以外の素材を集めるところから始まった。
にもかかわらず、冬桜隊は打ち上げ花火の形まで持っていき、完成させてくれた。
「今回の件、民への会話にあなたが赴いたのもこのためね?」
「あぁ、いくら他の許可書とかに手を回してもらっても、こればっかりは事後報告ってわけにはいかないからな」
警邏隊に頑張ってもらうって言っても、これをやるのは騒ぎが大きくなりすぎる危険性もあった。だから、俺自身が頭を下げたし、説明する場を設ける必要があった。
「あなたが酔っぱらってなければ、満点だったのに。
どうしてそう、最後まで詰めが甘いのかしら?」
痛い所を突かれ苦い顔をする俺の視界には、青地に白や淡い色の花を飾った着物を纏った華琳の笑顔が映る。
あぁやっぱり・・・
「どんな花だって、華琳には敵わないよな」
白本編を書きます。
今週中に出来るかはわかりませんが、全力を尽くしたいと思います。