特に書くことがないので、お題のみ言います。
憧れ、肉じゃが、スコップ
それではご覧ください。
小学校の運動場よりも濃い茶色の土を掘り返すと、あの土のなんとも言えない匂いが鼻に入り、少し嫌な気持ちになりました。それに爪の中に黒い土が入ってしまって、この後家に入ったときに、手をしっかりと洗わなければならないのです。そのことを考えるとなんだか気持ちが落ちてしまって、大きなため息をついてしまいました。
「手で掘るからそうなるのよ。ほら、スコップを使いなさい」
私が土で汚れたことに怒ったと思ったのか、おばあさんが呆れた顔をしながらスコップを差し出してきます。そのスコップをつかんでいる手は土で汚れていて、普段は皺だらけのはずなのに、表面が見えないほどでした。
家に畑に、じゃがいもを取りに行こうと誘われたのは、つい一時間ほど前のことです。特にすることもなく本を読んでいた私は、大好きなおばあさんが誘ってくれたこともあって、ほいほいとついて行ってしまったのです。
私のおじいさんとおばあさんは、暇があると畑を耕しては野菜を作っているそうなのですが、私はその姿を見たことはありません。学校から帰ったら塾がありますし、土曜日にはピアノの教室があります。日曜日はおばあさんが家で一日じゅう相手をしてくれるので、わざわざ畑に行く必要などなかったからです。
「なんか、土って冷たいね」
「そうよ、だから動物は土遊びが好きなのよ」
スコップに変えてからは、掘るのがだいぶ楽になりました。十センチほど掘った頃でしょうか、所々がこげ茶色で汚れている丸くごつごつしたものが、土の奥から顔を覗かせました。
「……これがじゃいがいも? もっと黄色いものだと思ってた」
「それは煮込んだり、蒸した後だからよ。お肉だって焼いたら色が変わるでしょ? それと一緒」
そう言われてみると、確かにそうでした。おばあさんが作ってくれる料理はどれも美味しく、特にじゃがいもを使った料理は特に美味しいのです。
根が張っているせいか、なかなか上手に持ち上げられないでいると、おばあさんが思い切り引き上げます。ぶちぶちと嫌な音とともに、いくつものじゃがいもが出てきました。
おばあさんは意外と力持ちなのです。腕は私と変わらないくらいの細さなのに、私がどう頑張っても持てないものを、簡単に持ってしまうのです。
それからは同じようなことが何回も続きます。私が穴を掘り、おばあさんがじゃがいもを持ち上げます。少し日が傾いたころには、二十個くらいのじゃがいもが、竹で編まれたかごの中で転がっていました。
「これであと、一週間くらいは取らなくても大丈夫ね」
「一週間も食べるの?」
私がそう言うと、おばあさんは笑って、
「毎日は食べないわよ。でも二日に一回くらいは使おうかしらね」
「そんなにじゃがいもって、レシピがあるの?」
「あるわよ。あなたが知らないだけで、色んな料理が世界にはあるの。……そうね、一緒に作って覚えなさい。料理は覚えておいて損はないわよ」
実は言うと、料理をしたことはほとんどありません。母はまだ危ないといって包丁を握らせてはくらないので、台所にも入ったことはないのです。
でもちょっとだけ、してみたいと常々思っていたのです。
「うんっ! やる。今日は何を作るの?」
「うーん? 肉じゃがとかはどうかしら? 肉じゃがは料理の基本よ」
「肉じゃがかあ……、もうちょっとお洒落なやつがいい」
「あら、肉じゃがが好きな男の子は多いのよ。いつか好きな子ができたら、作ってみると絶対受けるわよ」
おばあさんが悪戯に笑いながら振り向いてきます。その表情はとても魅力的で、こんな
人になってみたいと、思っていたりします。
……でも肉じゃがって、あまりお肉がメインじゃないような気がします。どう考えてもじゃがいもと人参が主役です。
そのことをおばあさんに伝えていると、
「そういわれると、そうね。……でもじゃがにんや、じんじゃがだったら恰好悪いでしょ」
……その語呂の悪さに思わず、声を出して笑ってしまいます。おばあさんも私につられて大声で笑ってしまいます。
普段は割と忙しいのです、たまにはこんな休日があってもいいでしょう。