ガールズ&パンツァー  五人の女神と魔神戦車   作:熊さん

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第22話  やさしさに包まれて

  

 みほの笑顔を見て、冷泉麻子が、一つ質問を彼女にしてきた。

 

「――隊長、保育所は、真田先生と隊長の二人でやっているのか?」

「ううん、もう一人、男の先生がいるよ」

「誰? その人。みぽりん、イケメンなの?」

 

 男の先生と聞いて、沙織が、思わず身を乗り出した。しかし、みほは笑って、右手を、顔の前で横に振った

 

「ううん、昔はイケメンだったかも知れないけど、おじさん先生だよ」

「そ、そうなんだ……」

「――沙織、露骨にがっかりするんじゃない」

 

 肩を落とした沙織を見て、麻子が注意すると、華と優花里、みほが、それぞれ顔を見合って、小さく笑った。

 

「加藤勉先生といって、とっても手先が器用なんだよ。保育所のおもちゃとか、壊れそうなところとか、あっという間に作ったり、直したりしちゃうの」

「――そうか、わかった。隊長は、学校まで、その加藤先生に送ってもらったのか」

「うん、私、免許持っていないし、加藤先生も、学校を見てみたい、って言っていたから、お願いしたの」

 

 みほの答えを聞いた麻子が、次に一番聞きたかった事を、彼女に聞いた。

 

「――隊長、すまない。答えたくなければ、答えなくていいから。園長先生は、戦車道、真田流の家元だって、知っているのか?」

「ちょっと、麻子!」

 

 沙織は、麻子の質問に怒りかけた。しかし、みほは、全然気にしていない様子である。

 

「ううん、大丈夫だよ。うん、知ってる。でも、私も知ったのは、つい最近なんだけど」

「――つい、最近?」

「うん、先生がね、この前、戦車道の試合を見てたの。今まで、そんな事なかったから、不思議に思って、先生に聞いてみたら、昔、戦車道を教えていたのよって、教えてくれたの。それで、たずねてみたら、真田流だって」

「――隊長、もしかして、真田先生が見ていた試合というのは、フューリーズとアングラーフィッシュの試合じゃないのか?」

「そうだけど。麻子さん、どうしてわかったの?」

「麻子?」

 

 沙織が、思わず、麻子に聞き返すと、彼女は、さも納得した様子で、全員を見て話す。

 

「――ああ、真田メイ選手達をテレビで見て、ずっと気になっていたことがあった。そして、今日、真田先生を初めて見て、それは間違いないと思ったんだ」

「何?」

「――真田先生と杉本茜さん、そして、真田メイさん達は、間違いなく肉親関係にあるはずだ。目が、全員の目がよく似ているんだ」

「そうなの?」

 

 沙織は、麻子の家で見た、試合の後の麻子の様子を思い出したが、その事とは違う気がして、なんとなく、腑におちない感じがした。

 

「――隊長、すまなかった。これで一つ、私の疑問が消えた」

「ううん、いいけど」

 

 不思議そうに答えるみほに、一人、納得している麻子。

 他の三人も、顔を見合わせているが、当の麻子は、黙って食事を続けている。少し、場が静まりかけたところで、今度はみほの方から、四人に質問してきた。

 

「ねえ、みんな。私は、彼氏はいないけど、みんなはどうなの? 彼氏はいるの?」

(……きた!)

 

 華、麻子、沙織が、同時にそう思ったあと、一斉に優花里の方を見た。

 視線を感じた優花里は、短く深呼吸をした後、思いもしない行動に出た。

 優花里は、座布団から席を外し、西住みほに対して、土下座をやったのである。

 その姿に、一瞬、きょとんとなった、みほは、目をぱちくりさせている。

 

「西住殿! 私は、西住殿に謝らなければなりません!」

「えっ……!? 優花里さん。どうしたの?」

「自分は、一生、西住殿について行くと言っておきながら、結婚してしまいました!」

「ええっ!? 優花里さん、奥さんになっちゃったの?」

「はい! しかも、お母さんでもあります」

 

 優花里は、頭を下げっぱなしで、畳に向かって話をしている。それを見た沙織が、優花里の助け船を出した。

 

「みぽりん。かわいいよ、ゆかりんの子供!」

「うわぁ! おめでとう! 優花里さん。お子さんの写真なんか持ってる? 持ってたら見せて、見せて!」

「はい! ちょっと、待っててください!」

 

 みほの言葉を聞いた優花里は、勢いよく席を立ち、部屋の隅に置いていた、自分のバッグを持ってくると、中から、いつも持ち歩く、アルバムを出して、みほに渡した。

 みほは、大切にそのアルバムを受け取ると、青い表紙を開く。

 一ページ目にあったのは、保育ケースの中で眠っている、裸の赤ちゃんの写真だった。そして、そのページに四つある、写真を収めるところには、その赤ちゃんの眠っている表情が、三つの角度から撮ってあり、それが入れてあった。

 

「うわぁ、女の子なんだぁ!」

 

 大きな声をだして、びっくりしているみほに、優花里は、うれしそうに言った。

 

「はい、西住殿! みほと言います!」

 

 次のページを開こうとしたみほは、ピクッと、一瞬身を震わせた。そして、顔を上げると、ニコニコ顔の優花里を見た。

 

「えっ? みほちゃん、なの?」

「はい! 遠藤みほであります! 私の名前は、遠藤優花里になりました。ほら、遠藤祐子ちゃんのお兄さんと、結婚したんであります」

 

 優花里は、娘の名前にもらった張本人に、やっと、娘の名前を伝える事ができたうれしさで、表情が崩れている。

 しかし、みほは、というと、なにやら複雑な顔をしていた。

 

「そうなの――でも、大丈夫? そんな名前を付けて……。私が言うのも変だけど……」

「大丈夫であります。まほ殿から、ちゃんと許しをもらいましたし。自分は、ずっと前から、決めていましたから」

「えっ、お姉ちゃんから?」

 

 優花里から、思ってもみなかった姉の名前を持ち出されて、みほは、今度は困惑した表情になった。

 その後、優花里は、自分の結婚式に、まほが出席してくれたことを話し、披露宴の時に、まほから、名前をもらう許しをもらった事を説明すると、みほは「そうだったんだ」と小さく呟いた。

 

「西住殿、どうぞ、次のみほを見てください」

「うん」

 

 優花里は、次々にページを開くみほに、一枚ずつ、写真を撮った時の説明を入れていく。

 沙織や麻子、華は、二人の様子を、微笑ましく思いながら、食事を続けている。

 そうして、アルバム全部の説明を終えた優花里は、みほからアルバムを返してもらうと、満足そうな顔で、バックにアルバムを戻した。

 再び、五人で夕食を食べ始めると、今度も、みほの方から、四人に質問してきた。

 

「そういえば、みんな? どうして、私の住んでいるところがわかったの?」

「――隊長、それは、私が説明しよう」

 

 黙って食べていた麻子が、箸を置くと、二ヶ月前から、月曜日までにおこった出来事を、要領よく説明する。

 

「そう、会長さん達が――」

「あっ、そうでした。すっかり忘れていました。学園長から、西住殿に会えたら電話するように、と言われておりました」

 

 麻子の説明を、黙って聞いていたみほが言うと、次に、優花里がそう言って、あわててバッグから携帯電話を取り出すと、電話を掛けはじめた。

 相手は、すぐに電話に出たようで、優花里が、携帯に話しかけはじめた。

 

「はい、遠藤であります。遅くなりました。……はい、会えました。目の前にいます。……はい、代わります」

 

 そう言って、優花里が携帯電話を、みほの前に差し出しながら「角谷学園長であります」と言った。

 差し出された電話を受け取ったみほは、両手でそれを耳元にやると「もしもし」と話し始めた。

 

「はい、西住です。会長、ご無沙汰しています。……はい、元気です。式典に顔を出さずに申し訳ありません。……はい、ありがとうございます。……はい、なんでしょうか? ……えっ、お姉ちゃんからですか?」

 

 みほの口から「お姉ちゃん」という言葉が出て、四人は、一斉にみほの顔を見た。

 

「……。はい。……。はい。……。わかりました。ありがとうございます。……。はい、お休みなさい」

 

 みほは、静かに耳元から、携帯電話をはなすと、優花里の方へ差し出した。

 みほは、黙って、うつむいている。

 

「どうしたの? みぽりん。まほさんが、どうかしたの?」

 

 沙織が、黙っているみほに訊ねると、みほは「うん」と言って、顔を上げた。

 

「お姉ちゃんがね、式典のあった日に、学校へ電話してきたんだって」

「えっ、本当でありますか?」

「うん、ちょうど、会長さんが、電話を取ったらしいの」

「まほさんは、何と言ってらっしゃったのですか」

 

 華が、持っていた箸を、テーブルの上に置いて、姿勢を正して、みほに訊ねた。

 

「うん、十周年おめでとう、っていう電話だったそうなんだけど、その時に、私が来ていないか、会長さんに聞いたらしいの」

「――そうか。肉親なら、当然、訊ねるだろうな」

「うん、来たけど、誰にも会わずに帰った事を言ったら、そうか、って言って、お姉ちゃん、電話を切ろうとしたの」

「それで、みぽりん?」

「会長さんは『私の事、今でも怒っているの』って、聞いたんだって。そうしたら、お姉ちゃんは『もう大人なんだから、みほが、どこで、何をしていようが、みほの責任だ。私が怒る筋合いはない。ただ、家族に全く連絡をよこさない事を、私は怒っている』って言ったんだって」

「それは、そうでしょう」

 

 華が言うと、四人がその場で小さく頷いた。

 

「うん。それで、会長さんはさっき、私に一度、家に電話をしなさいって。住んでいるところとか話さなくていいから、ちゃんと元気に暮らしている事を、伝えるんだよって……」

「そうでしたか。その事を、西住殿に伝えるために、自分に、西住殿に会えたら電話をするように、言った訳なんですね」

 

 休暇願いを出した時に言った、杏の依頼の意味がわかり、優花里はそう言った。

 

「それじゃあ、みぽりん! 今から、家に電話する?」

「えっ、無理、無理、無理! 絶対、無理!」

 

 心の準備ができていないみほに、沙織がとんでもない事を言ってきた。顔を真っ赤にして、激しく首を横に振るみほを見て、麻子が、アイデアを出してきた。

 

「――沙織、私に考えがある。いきなり、隊長が電話をしたら、それこそ、何かあったのかと、逆に心配させてしまうだろう。我々が、クッションの役目をしよう。一度、しほ先生達に、隊長に会った事を伝えて、電話するように言ったことを教えよう。そうすれば、しほ先生達も、安心して待つことができるだろう」

「そうですね。それがいいと思いますわ。それでしたら、わたくしが熊本へ参りましょう」

「えっ、華がいくの?」

「ええ、来週の水曜日と、木曜日に福岡で授業がありますので、その時に、熊本へ行って、しほ先生達にご報告して参りましょう」

 

 穏やかに話す華は、にっこりと笑っている。

 それを見た沙織達は、華なら大丈夫だろうと思った。そして、沙織がホッとした様子で話す。

 

「やっと、しほ先生達との約束、守れそうね」

「西住殿、約束ですよ。我々が、ちゃんと報告して来ますから、電話して下さいね」

「うん、でも……」

 

 優花里の言葉に、みほは、なんだか頼りない返事である。

 それに気づいた沙織が、みほに、その訳をたずねる。

 

「どうしたの?」

「私、携帯電話……持っていない」――『ええっ!』

 

 みほの返事に、同時に四人が驚いた。

 

「今時、そんな人がいるんですか?」

「だってぇ、私、保育園とスーパーと、この家しか行き来しないから」

 

 驚いて話す優花里に、もじもじとしながら答えるみほを見て、麻子が呆れたように言う。

 

「――半径五百メートルの円の中で、六年間過ごしてきたのか。隊長、ある意味、それはすごいぞ」

「昔は、日本中を飛び回っていた西住殿が、今時、小学生でもしない事を……」

「――やはり、準備しておいてよかったな。これを隊長に預かって欲しい」

 

 そう言って麻子が、ハンドバックから、一つのスマートフォンを、みほに渡した。

 

「――これは、隊長に会えた時に渡そうと思って、準備したスマホだ。家を出た隊長が、携帯を持っているはずがないと思っていたからな。今、携帯を買うのなら、住所の証明が必要だから」

「麻子、いつの間に、買ったの?」

 

 沙織が、麻子の準備の良さに驚いて聞くと、彼女は、小さく笑って言った。

 

「――式典が終わった、翌日の日曜日に買った。名義は私だから、心配しなくていい」

「麻子さん――」

 

 渡されたスマートフォンを、大事に両手で持ったみほ。

 それを見ながら、麻子は話を続ける。

 

「――月々の電話の請求は、保育園宛にするから、それを隊長が払ってくれれば、それでいい」

「麻子さん。ありがとう」

 

 みほは、スマートフォンを、二回、三回と撫でるように触ると、自分の左側の足元に置いた。

 

「じゃあ、次は、私ね」

「えっ、沙織さん?」

「私からは、これよ」

「何? 料理のレシピ?」

 

 沙織は、傍に置いていた自分のバックから、数枚のコピー用紙を取り出して、みほに手渡した。

 

「そうよ。みぽりん、式典に来た時、Ⅳ号の所に行ったんでしょ」

「うん」

「その時ね、大食堂から、みぽりんを見てた子がいたの。その子が、とても痩せていた女の人、って言ったから、私、みぽりんの体を心配していたのよ」

「そうなんだ」

「思っていた以上に、みぽりんが痩せてて、びっくりしたよ。もう、本当にご飯、ちゃんと食べているの?」

「うん」

「嘘! 食べたり、食べなかったり、でしょ!」

 

 鋭く沙織に言われたみほは、みるみる小さくなったように見えた。

 

「はい。そうです」

「やっぱり……。これからは、みぽりんの食事管理を、私がするから」

「――沙織。どうするつもりだ」

「麻子、お願いがあるんだけど、みぽりんのスマホに、メールが送れるようにしてくれないかな?」

「――ちょっと待っていろ。隊長、さっきのスマホを貸してくれ。ついでに、みんなの分も入れておこう」

 

 みほは、預かったスマホを麻子に渡すと、彼女は、右手で、沙織のアドレスを打ち込んだ。そして、送信を押したようで、沙織のスマートフォンが、着信メールを知らせるメロディーが鳴った。そのあと、しばらくして、他の三人の携帯からも、着信音が聞こえた。

 

「うん、これでよし。サンキュー、麻子! 私が、一週間の材料と料理をメールで送るの。みぽりんは、それを見て料理するのよ」

「でも、私、先生と一緒に、食事するから」

「うん、わかった。二人分の食材を計算してから、メールするから」

「ありがとう、沙織さん」

「ちゃんと、料理するのよ。華だって、頑張っているんだからね」

「うん。みんな、ありがとう」

 

 親友達に、心から感謝の気持ちを伝える西住みほであった。

 いろいろあったが、とりあえず、各々のやりたかった事が決着すると、沙織が大きな声を出した。

 

「よーし! みんな、今日は飲むわよ!」

「はい! 飲みますよ。皆さん、わかっていますよね。先に眠ったら『いたずら書きの刑』にしますわよ」

「ちょっと、沙織さん、華さん……。それにお酒なんておいてないよ」

「甘い! じ・つ・に、みぽりんは、甘い! これを見よ!」

 

 沙織がそう言って、立ち上がり、冷蔵庫の所にいくと、中から赤ワインのボトルを五本持ってきた。

 

「沙織さん? いつの間に、そんなもの買ったの?」

「――実は、さっき、私がこっそり買っておいたんだ」

 

 いたずらっ子のように笑って、麻子が言う。

 

「私達も、大人なんですから、いつまでも、ジュースでパーティーではないですよ。西住殿!」

 

 優花里がそう言いながら、ワインオープナーで、一本ずつコルク栓を抜いていく。そして、一人一人にワインが注がれて、全員の『乾杯!』と共に、みるみる赤ワインが飲干されていった。

 アルコールの力で、さらに笑顔になった五人は、それぞれの近況を、食事を続けながら、話し続けていく。

 時計の針も、やがて、十二時を回ろうとしていた。

 みほの顔は、ずいぶん赤くなっているが、まだ、はっきりと、おしゃべりができている。

 

「……ほんと、最初、優花里さんは、ストーカーみたいだったよね。うん! それに、麻子さんも……」

 

 みほは、自分でワインをグラスに注ぎながら、楽しそうに、高校時代の思い出をつぶやいているが、いつの間にか、相手からの返事が、聞こえなくなっている事に気付いた。

 

「……だったよね。うん、本当に面白かった! ねえ、沙織さん、って、あれ?」

 

 テーブルの向こう側で、沙織と華が寄り添うように、左側で、優花里がひっくり返って、眠っていて、右側で、麻子が、頭をゆらゆらとさせていた。

 

「ねえ、みんな! 麻子さん、大丈夫?」

「――隊長……。隊長は、お酒……、が、強……すぎ、る」

 

 麻子はそれを言うのが、精一杯だったようで、ばたんと横向きに倒れてしまった。

 

「ねえ、みんな? 起きてよ! 風邪ひいちゃうよ、優花里さん! 麻子さん!」

 

 みほは、優花里の体を左手で、麻子の体を右手で揺するが、二人は、静かに寝息を立てている。

 

「もう、しょうがないなあ。ほんと、風邪、ひいちゃうよ」

 

 みほは、そう言うと、立ち上がり、たたんで押し入れに入れてあった毛布を、四枚出してきた。 そして、優花里に一枚、華と沙織にそれぞれ一枚、そして、麻子に一枚と、順番に毛布をかけていく。

 かけ終わったみほは、食べ終わった食器を台所へ運び、洗い物を済ませて、居間へ戻ってきた。テーブルを静かに片づけると、それがあった場所へ、ペタンと正座で座る。

 彼女は、眠っている四人の親友達の顔を、愛おしそうに、それぞれ見つめている。

 

「麻子さん、沙織さん、華さん、優花里さん――。今、私が、どのくらい嬉しいのか、わかるかな? また、こうやって、みんなに会う事ができて、私、本当にうれしいの……。私、思い出した。戦車道をやっていたから、みんなと知り合えたんだよね」

 

 微笑みをうかべているみほは、テレビの横に置いている、七年前の五人とⅣ号の集合写真に、視線を移したあと、また、四人の顔を見た。

 そこには、あの頃と変わらない、大好きな親友達の寝顔があった。

 

「私――、私ね、もしも、また、戦車に乗ることになったとしたら、皆と一緒に乗りたい。優花里さん、華さん、沙織さん、麻子さんの四人と、戦車に乗りたいな」

 

 みほは、四人の顔を見ながら、そう呟いた。

 四人は、そんな、みほの独り言も知らずに、小さな寝息を立てていた。

 みほは中腰になって、もう一度、毛布をそれぞれの肩まで上げてやると、室内灯を、静かに消した――。

 

 

 翌日、お昼近くまで、寝てしまっていた五人。

 簡単な朝食を済ませると、五人揃って、真田琴音の家を訪ねた。

 四人の希望で、みほを匿ってくれた事の、お礼を言う為だった。

 

「――先生。隊長をずっと守って頂いて感謝します。私達は、何もできなかった。親友だと思っていたのに」

 

 奥座敷で、琴音を前にして、四人は頭を下げる。

 それを見た琴音は、小さく首を振った。

 

「いいえ、あなた達だからこそ、みほ先生を探し出すことができたのですよ。私は、いつか、きっと、あなた達は来てくれると思っていました。みほちゃんは、あなた達の写真を、いつも見ていましたからね。そして、冷泉さんが茜の所に来た事を知って、特にそう思いましたよ」

 

 四人は同時に頭を下げると「みぽりんの事、宜しくお願いします」と沙織が言った。それを聞いて「まるで、お母さんみたい」とみほが言って、その場の笑いを誘った。

 しばらく談笑が続いたが、時計は二時になろうとしていた。

 

「それでは、帰りましょうか?」

「――ああ、帰りも長旅だしな」

 

 華と麻子が話すと、全員が立ち上がり、奥座敷から、廊下を通り、家の前の駐車場へ出てきた。

 みほは、一人一人の手を握り、名残惜しそうに話す。

 

「今度は、私が大洗に遊びにいくね」

「うん、待っているからね」

 

 沙織が言って、ランドクルーザーに乗り込む四人は、方向転換をして、一本道を戻っていく。

 窓越しに、華と優花里、沙織が手を振り、麻子が、クラクションを二度短く鳴らした

 みほと琴音は、車が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。

 

 

 みほが失踪してから、六年の月日を経て、五人の歯車が、また繋がって回り出した。

 この運命の歯車は、五人を、思いもしない、戦車道世界大会へと導いていくのである。

 

 


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