ガールズ&パンツァー  五人の女神と魔神戦車   作:熊さん

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第18話  式典が終わって

 杏に促されて学園長室から出た、柚子達八人は、廊下の中ほどにある中央階段へとやってきた。ぞろぞろと階段を降りて、一階にある大食堂へ戻りながら、沙織が一番前を歩いていた柚子に訊ねる。

 

「小山先輩、学園長は、どうやって、みぽりんを見つけようと思っているんですか?」

「学園長はね、私達も知らない特別な人脈を持っているのよ。そうよねえ、桃ちゃん」

 

 階段を降りながら、振り向いて沙織に説明した後、柚子は、隣を降りていく桃の方を見た。

 

「そうだ。それに学園長の第六感は、今まで外れたことがないのだ。あの推理は間違いない。お前達も知っているだろう。学園長のジャンケンの異常な強さを、な。あれは、なんとなく、相手が出すものがわかるんだそうだ。そして、それは外れたことがないんだそうだ」

 

 桃が言うと柚子も頷く。そして、二階から一階へと降りている途中で、今度は一番後ろを歩いていた麻子が言った。

 

「――皆、隊長の仕事の事は、内緒にしておいた方が良いと思うが、どう思う?」

「そうだね。みぽりんには、みぽりんの生活があるはずだからね」

 

 沙織が言うと、全員が降りながら頷いた。一階に着いた一行は、賑やかな様子が廊下に聞こえる大食堂へと近づいてきた。すると、桃が「ちょっと待て」と言って、全員をその場に止めた。

 

「いいか、お前達、別々に時間をずらして入ろう。ぞろぞろといっぺんに入ると、なんとなく怪しく思われるかもしれない」

 

 桃がそう言って、最初に会場へ入った。その後、それぞれがタイミングを計りながら、会場に戻っていった。

 会場に入ると、八人は自然とバラバラに別れて、自分達が知っているOG達の歓談の輪の中に入り込むと、そのまま話に加わっていった。そうして、時間が午後一時半を過ぎた頃、杏が大食堂へやってきた。杏も同じように、まるでなかったかのように振る舞っている。そして、午後三時を過ぎて懇親会もお開きになり、OG達は名残惜しそうに校舎から出ていく。初代チームの七チームも校門までの道を歩きながら、いつ終わるとも知れない思い出話を続けていた。校門を出て駐車場まで来た七チームは一列に並び、カエサルが杏達に向かってお礼を言った。

 

「それじゃあ、我々は、アリクイさん達に駅まで送ってもらうから。カメさんチームの先輩方、今日は、本当にお疲れ様でした。とても楽しい一日でした。隊長も来てくれたし、また、明日からの毎日を頑張れる気がする」

「おい、カエサル。気がするだけなのか?」

「そうだ、気がするだけだ」

 

 カエサルとエルヴィンのとぼけた会話に、小さく笑うメンバー達。そして各チームのメンバーはそれぞれ嬉しそうに、杏達へ頭を下げた。

 杏、柚子、桃の三人もにっこりと笑って、何度も小さく頷いた。

 

「みんな、今日は遠いところを本当によく来てくれたね。私達も、皆の元気な姿を見られて、これからも頑張れるよ。気を付けて帰って頂戴ね。特にレオポンチームは、長旅になるから、十分に注意してね」――『はい』

 

 それぞれが車に乗り込み、窓を開けて手を振りながら、学校を後にしていく。あんこうの四人とカメさんの三人は、駐車場のところで、車が見えなくなるまで手を振っていた。

 

「あんこうは、これから帰るのか?」

「いいえ――。私達は、まだⅣ号に挨拶していませんから、いったん戻ります」

 

 桃の問い掛けに沙織が答えると、他の三人は小さく頷く。それを見た桃は、杏の方を見て言った。

 

「そうか、我々も後片付けがあるからな。学園長、私達も戻りましょうか?」

「うん、あっ、それから、さっきの件だけどね、わかったら、まず遠藤ちゃんに知らせるからさ」――『宜しくお願いします』

 

 あんこうの四人は声を揃えて、杏に返事をした。こうして、七人は学校へと戻ってくると、カメさんの三人は体育館へ、あんこうの四人は中庭へとそれぞれ別れていった。

 あんこうの四人は中庭へとやってくると、それぞれが黙ったまま、鋼鉄の親友の前に、いつも写真に写る時に自然と並ぶ位置に並んで立った。右から、華、沙織、麻子、優花里の順に立つ。そして、四人はあんこうのパーソナルマークを見上げている。

 しばらくして、沙織が小さく呟いた。

 

「……みぽりん、一人で何を思って『Ⅳ号』を見ていたのかな?」

「――隊長は、何かを思い出すために、ここへきたんだろうな」

 

 沙織の隣に立つ麻子は、しみじみと考えながら言った。「ええ」「そうですね」と相槌を打つ他の二人も麻子と同じ気持ちだった。

 すると、一番右にいた華が「みなさん」と三人に呼びかけた。一斉に顔を華に顔を向ける三人に対して、華は静かな口調で訊ねる。

 

「もし、みほさんの居場所がわかったら、みなさん、どうなさるおつもりですか?」

 

 華が三人の顔を皆渡しながら言うと、沙織と麻子が、きっぱりと言った。

 

「もちろん、私は、みぽりんに会いに行くよ。思いきり文句を言うんだから」

「――当然、私も行く。私も隊長に会って、説教をするつもりだ」

 

 二人の返事を聞いて、華も頷いた。

 

「私も同じですわ。こんなに私達に心配かけて、ここまで来ておいて、結局、また消えちゃったんですものね」

 

 華も二人と同じように言うが、一人、優花里だけが神妙な顔で答える。

 

「自分も会いに行くつもりなんですが……。皆さんと違って、私は、西住殿に謝らなければいけないんです」

 

 優花里が顔を俯いたまま言うと、沙織が驚いて、彼女に聞き返した。

 

「ゆかりん、何で? 何を謝るの? みほちゃんの名前の事? それだったら、まほさんが許してくれたじゃん!」

「いいえ、娘の名前の事じゃないんです」

「――優花里、何を謝るんだ?」

 

 麻子も同じように訊ねる。華は、黙って優花里の様子を見ている。すると、優花里は覚悟を決めたように打ち明けた。

 

「自分は……、自分はですね、一生、西住殿についていくと言ったのに、浮気をして結婚してしまいましたから、西住殿に謝らないといけないんですよ」

 

 思い詰めたように言う優花里だったが、それを聞いた三人は、とたんに笑い出した。

 

「アハハ。そうだね。確かにそうだったよね。そりゃ、みぽりんに謝らないとね!」

「――優花里、多分、隊長に怒られるぞ。優花里さんの浮気者って、言われるかもしれないな」

「うふふ。そうですわね」

 

 三人は、それぞれがそう言って、優花里を笑いながら責める。その様子にさらに困惑した優花里が、さらに思い詰めた表情になった。

 

「皆さん、笑いごとではないんですから! 自分はどんな顔して西住殿に会えばいいんでしょうか? 教えてください!」

 

 優花里が真剣になればなるほど、三人にはその姿が滑稽に見えていた。

 

「優花里さん。そういうのを、気のまわし過ぎと言うのですよ」

「――そうだ、華の言う通りだ。それこそ、普通に『結婚しました』って言えばいいと思うぞ」

 

 華と麻子が言うと、傍で沙織が腕組みしながら「うんうん」と頷いていた。

 

「そうですか? 普通に言えばいいんですか? 西住殿は怒りませんか?」

「――ああ、隊長は、逆に喜んでくれると思うぞ」

「本当に、ゆかりんは、みぽりんが絡むと人が変わるよね」

 

 なおもオドオドしながら聞いてくる優花里を見ながら、麻子と沙織が可笑しそうに言うと、華も「ええ、大丈夫ですよ」と答える。その三人を見て、ようやく優花里も「わかりました」と落ち着いた。

 この話が一段落した後、今度は麻子が、三人を見渡しながら言った。

 

「――皆、来週は、いつでもあんこうミーティングを開けるようにしておこう。学園長達からの連絡に備えよう」

「はい、自分に連絡すると言われましたから、すぐにメールを回しますね」

 

 麻子の提案に頷いた三人であり、優花里がそう言った。

 夕陽に照らされたⅣ号。OG達の中で唯一、西住みほと会話をしたこの戦車は、何も語ってはくれないが、それでも「心配しなくていいよ」と四人に伝えているかのように、あんこうマークは笑っているように見えた。

 打合せが終わったあんこうチームは、駐車場までやってくると、麻子の車に沙織と華が乗り込み、出発した車は、三人を見送る優花里の前をゆっくりと通り過ぎる。優花里が小さく手を振ると、三人も振り返した。

 こうして彼女達の十周年記念式典が終わった。

 

 

 

 みほの来場が初代チームに知れ渡った、式典当日のお昼を過ぎた頃、みほを乗せた軽ワンボックスカーは、高速道路を西に向かって走っていた。運転席の初老の男性は、何も言わずに前方を見つめて、ハンドルを握っている。

 

「加藤先生。今日は無理を言いまして、すみません」

 

 みほが助手席から、運転する加藤勉に礼を言うと、加藤は、あごの下に生やした少し無精ひげにも見える白いひげを擦り、前を見ながら「いいえ」と答えつつ、笑いながら言った。

 

「園長先生の頼みでもありますし、私も、一度、みほ先生の母校に行ってみたかったので、何も問題ないですよ」

「ありがとうございます」

「――それで、どうでしたか? 園長先生の言いつけは守れましたか?」

「はい、学校へ行って、思い出した事がありました。園長先生に報告します」

「それはよかったですね――。さあ、帰りましょう」

 

 高速道路を走る軽ワンボックスカーの前方には雄大な山々の尾根が見え、それがだんだんと近づいて来ていた。

 高速道路を降りた車は、それから一時間半近く一般道を走っていく。走って行く道は、二車線の道路が一車線となり、そして、また二車線へ戻る事を繰り返し、目まぐるしく車幅は変わっていく。そして、全長五百メートルのトンネルを抜けると、車は小さな山村の中心へ続く県道へと出た。その周りの風景は自然が溢れ、一昔前の日本の田舎の風景に似ている。人家はまばらで、田んぼと畑が一面に広がる山々に囲まれた盆地の中を、車は走っていく。そして、車は村の中心街らしきところにある小規模のスーパーの前の道を通って、東へと向かう。四百メートルほどの距離を走ると、そこで三叉路に着いた。三叉路を右手に曲ると正面は行き止まりの神社となっている。神社の鳥居の入口右手のすぐ傍に、一軒の大きな平屋建ての民家が見えてきた。

 その民家は少し変わっていて、公民館みたいな大きな建物と一般住宅が繋がっているような、まるで二軒の平屋の家が合体しているような家だった。

 その家の前、車三台ほど止められるスペースの駐車場らしきところに、一台のステーションワゴンが止まっている。その車を見た加藤が「誰か来ているんでしょうかね」と呟き、その車の横に、軽ワンボックスカーを並べるように止めた。

 車を降りてきた、みほと加藤は、一般家屋と思われる方の開き戸式の玄関を開けて、家の中に入った。すると、真っ直ぐに伸びる廊下奥の方から、突然大きな罵声が二人の耳に聞こえてきた。

 

「叔母さん! どうして、私に教えてくれないのよ?」

「――あなただからと教えないという意味ではないと、さっきから言っているでしょう」

「教えてくれないのなら一緒よ! 妹達はそれぞれの術書で学ぶことはできたわ。でも、私だけは、それができなかった。ダディは、ちゃんと教えてくれたのよ。『車長術だけは、直接教えてもらう事でしか学ぶことができない。教える事のできるのは、妹しかいないから、私にはどうにもできない』って。だから、わざわざこうして叔母さんの所に来たっていうのに……。まったく、ダディが言っていた通りの頑固な叔母さんだわ。ねえ、みんな、そう思わない?」

 

 玄関土間の所には、見たことの無い、若い女性が履く、カラフルな靴が五人分ある。

 玄関の土間に立ったまま、お互いの顔を見合わせた、みほと加藤だったが、すぐに加藤が彼女に耳打ちをする。

 

「みほ先生。すぐにあの部屋に入って隠れてください。さあ、早く」

 

 加藤に言われるまま、みほは玄関を上がると、上がった傍にある応接室へと入った。

 加藤は、みほのパンプスを玄関横にある下駄箱へと隠すと、そのまま玄関の所に立っている。

 

「もういいわよ! 叔母さんがそのつもりなら、私にだって考えがあるから。私も真田の人間だという事を忘れないでよ! 皆、帰るわよ!」

 

 隠れているみほの耳に、そう聞こえると、廊下を歩き、ドアに近づいてくる沢山の足音が聞こえてきた。

すると、いきなり今度はドアの前で、女性の怒鳴り声が、みほに聞こえた。

 

「あなたは、誰よ!」

「私ですか?――私は、先生の身の回りのお世話をしている者ですよ」

 

 穏やかな加藤の声が扉越しに聞こえた。すると、加藤に声を掛けた若い女性の声は、呆れるように言った。

 

「叔母さんのお世話係なの? それじゃあ、言っておくけど、あなたも早くこの仕事辞めた方がいいわよ。まったく……。あんな性格だから、叔母さんはあの年なのに結婚できないのよ」

「――お帰りですか? お気をつけて」

 

 加藤は全く動じずに声を掛けている。みほは、息をひそめながら、応接室の暗闇の中をじっとしている。

 玄関を荒々しく閉める音が聞こえると、すぐにエンジン音が聞こえた。そして車が出ていく気配が、部屋にいるみほにもわかった。

 

「みほ先生。もうよろしいですよ」

 

 加藤が声を掛けてきたので、みほは応接室から出てきた。部屋の前に立つ彼女は、閉められた玄関の方を見ながら、加藤に訊ねた。

 

「加藤先生、今の人達は誰なんですか?」

「――それは、園長先生に直接聞いたほうが良いですね。ですが、多分、みほ先生には、お話にならないかと思いますよ」

 

 加藤はそう言って、先だって廊下を歩いて行く。そして、廊下の一番奥、左手になる座敷の前にやってきた。襖が開いているので、部屋の様子が分からない位置で立ち止まり、座敷へと声を掛けた。

 

「先生。ただ今、戻りました」

「どうぞ」

 

 部屋の中から返事が聞こえると、加藤、みほの順で座敷へ入った。

 その座敷は、十畳ほどの広さで、古い調度品に囲まれた、落ち着いた雰囲気の部屋になっていた。真ん中に大きな四角い座卓が置いてあり、上座に当たる床の間には、掛け軸が掛けてある。

その掛け軸には、何か文字が書いてあるが、達筆すぎてよく分からない。

 そして、その前に一人、黒髪を結い上げてシックなワンピースを着た、一見、五十代後半に見える女性が座っていた。座卓を挟んで反対側に、五枚の座布団が置いてある。加藤が、その内の三枚を部屋の隅に片付けて、残した二枚に二人が正座で座ると、目の前にいる女性に話しかけた。

 

「園長先生。今、戻りました」

「みほ先生、加藤さん。お帰りなさい。どうでしたか?」

 

 穏やかに話す女性の口元は、優しく笑みを浮かべている。みほは、女性を真っ直ぐに見ながら、ハキハキと質問に答えた。

 

「はい、私、やっぱり行って良かったです。戦車道がとっても楽しかった頃の事を思い出しました」

「そう――。それはよかったですね。みほ先生。前にも言いましたが、戦車道を辞めるとか続けるとか、深く考えないでいいんですよ。あなたは、家元でも何でもない西住みほちゃんなんですから。また戦車道がしたくなったら、始めればいいし、そのままずっとお休みしていても、全然かまわないの。だって、唯の戦闘武道でしょ。戦車道というのは――ねえ、加藤さん」

「はい。先生のおっしゃる通りです。人生を賭けるほどの事はないと思いますよ」

 

 二人から言われて、みほは「ありがとうございます」と言って、頭を下げた。そして、彼女は女性に向かって、静かに訊ねた。

 

「はい――、それで、園長先生? さっきの人達はどなたなんですか? なんだかとても怒っているみたいでしたけど」

「みほちゃん。あなたは会ったんですか?」

「いえ、とっさに、私が応接室に隠れるよう言いました」

 

 みほの隣に座る加藤が、口添えをするように答える。それを聞いた女性は、ホッとした様に答えた。

 

「そうですか。加藤さん、良い判断です。あの娘達に、みほ先生を会わせたくありませんから」

「あの――、先生?」

 

 不思議そうに訊ねるみほに、女性は穏やかに微笑むと、右手を顔の前で左右に振り「違う、違う」と合図を出した。

 

「みほ先生は、気にしないでいいんです。いつか会う事になるでしょうからね。それより、今日の事話してちょうだい」

「はい。先生、私は今日、加藤先生に送ってもらって、大洗女子学園の式典へ行ってきました――」

 

 少し笑顔でみほは、昨日から学園に着くまで、自分はずいぶん不安だった事を伝え、学園の正門をくぐってからの気持ちに変化が出た事。ちゃんと受付名簿に自分の名前を書いたことや、一緒に戦い抜いた『Ⅳ号』に会ってきた事。皆に会う事はしなかったが、OG達から、思いのこもった敬礼を貰って、本当に嬉しかったことを話した。

 黙ってみほの話を聞いている女性と加藤は、だんだん嬉しそうに、その事を話す彼女を見ながら、自然とみほと同じように笑顔になっていた。

 

「――そして、加藤先生に、ここまで送ってもらいました」

 

 西住みほが報告し終わると、女性は頷きながら、嬉しそうに話した。

 

「みほ先生。貴方、今、本当の笑顔を私達に見せてくれていますよ。作り笑いではない、みほ先生の本当の笑顔をね」

「先生……」

「茜から連絡をもらった時は、どうしようかと随分悩みましたが、やはり、行かせてよかったわ。ねえ、加藤さん」

「――はい、先生のおっしゃる通りです。みほ先生がこんなに笑うところを、私は初めて見ましたよ」

 

 二人に言われて、顔が真っ赤になりながら、みほはまた頭を下げた。

 

「園長先生、加藤先生――。今日は、本当にありがとうございました。」

 

 すると、女性は大きく背伸びをしながら、腰を浮かせ、立ち上がろうとしながら言った。

 

「さあ、久しぶりに大きな声を出したら、お腹がすいてきました。ご飯にしましょう。しばらく待っていてください」

「あっ……先生、晩御飯を私が作ります。というか、作らせてください。加藤先生もご一緒にどうですか?」

 

 女性より早く立ち上がり、みほが加藤を見ながら言うと、座ったままの加藤は、また座り直した女性に向かって訊ねた。

 

「――先生、ご一緒しても宜しいですか?」

「ええ、それじゃあ、みほ先生にお願いしちゃおうかしら。それとリクエストしてもいい?肉じゃがをお願いしたいのですけど」

「はい! 少し待っていてください。急いで作りますから」

 

 そう言ってみほは、スーツの上着を脱ぎ、壁にあったハンガーに掛けると、座敷を出ていった。

 みほが部屋から出ると、部屋に残った二人は、何やら神妙な顔になり、小さな声でひそひそと話を始めた。その話し声は、台所にいるみほには聞こえなかった。

 こうして、西住みほの「十周年記念式典」も終わった。

 


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