ガールズ&パンツァー  五人の女神と魔神戦車   作:熊さん

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第15話  懐かしき母校で

 

 土曜日、時間は少し戻って、午前八時四十五分――。

 学園の中庭にある、アクリルボックス内のⅣ号の側面側に立つ、三代目あんこうチームの五人。全員が、Ⅳ号に描かれた、あんこうのパーソナルマークを見つめている。

 五人の中で、三代目チームの隊長を務めた遠藤祐子が、万感の思いを込めて、思わず呟いた。

 

「――Ⅳ号。本当に久しぶりね」

「ああ、久しぶりだな」

 

 祐子の右隣に立つ操縦手、大森翔子が相槌を打ちながら、祐子のその呟きに答えると、翔子の右隣にいる、通信手の北川亜希子も小さく頷いて、懐かしそうに言う。

 

「うん、卒業して以来だものね。学校に来たのも、Ⅳ号に会うのもね」

 

 祐子の左隣にいた砲手と装填手の浦田かなえと恵姉妹も、思い出深そうに見上げている。

 今、彼女達は目の前にある「Ⅳ号D型」を前にして、それぞれが懐かしい高校時代の自分達の姿を思い出している。

 

「澤隊長達から引き継いだ私達は、しばらく試合に勝てなかった」

「うん、私も一度は戦車道を辞めちゃったし」

「西住先輩達が来てくれなかったら、本当に私達は、どうなっていたんだろう……」

 

 砲塔側部のあんこうマークを見ながら祐子が言うと、同じようにそれを見ながら亜希子が答え、翔子がしみじみと呟く。

 すると、一番左端に立っていた浦田かなえが、突然何かを思い出して「うふふ」と小さく笑う。

 笑い出した彼女を見た、他のメンバー四人は「おやっ?」とした表情になった。

 皆の視線に気付いたかなえは、笑うのを止めると、今まで自分がずっと秘密にしていた事を、初めてメンバーに打ち明けた。

 

「――あのね、皆にはずっと秘密にしていたんだけどね。実は、私ね、あの訓練指導の時に、五十鈴先輩から大目玉貰ったのよ」

「えっ……。かなえちゃん、どうして怒られたの? 本当に、あの五十鈴先輩が怒ったの?」

 

 戦車砲コンビの妹、恵さえ知らなかった、かなえのこの話に、彼女は小さな目を大きくしながら、姉に聞き返す。

 

「うん、そうだよ。『あなたは砲手の資格はありません!』って、大声で怒鳴られたんだから。もう、ほんとに怖かった。私だけじゃなく、砲手をやっていた他のメンバー全員も一緒に、怒られたんだよ」

「信じられない……。あんなに優しい五十鈴先輩が、怒鳴るだなんて……」

「そういえば、こんなことがあったよね――」

 

「Ⅳ号D型」の前で、いつまでも思い出話に花が咲く、三代目達だった。

 すると、そこへ「祐子ちゃん達!」と、五人を呼ぶ声が聞こえる。

 声がする方に顔を向けた五人に見えたものは、体育館の方から歩いてくる、六人の女性達だった。

 その姿を見た五人は、やってくる彼女達に向かって、一斉に走り出した。

 

「澤隊長!」

「桂利奈先輩!」

「優希先輩!」

「あや先輩! 紗希先輩!」

「あゆみ先輩!」

 

 次々に名前を呼ばれた、スーツ姿の初代うさぎチームは、全員が手を振って体育館の方から歩いてくる。そして、六人と五人が中庭の入り口で、お互いに向かい合って、再会できたことを喜び、本当に嬉しそうに笑い、そして、それぞれが、お互いの手を取り合った。

 

「澤隊長。山郷副隊長。それに先輩方、お久しぶりです!」

「自分達は、ずっと――。ずっと、お会いしたかったです」

 

 祐子と翔子が少しうるんだ瞳で、握っていた手を離し、先輩チームに敬礼すると、それに合わせて他の三人も、同じように敬礼を送る。それを見た六人も、嬉しそうに五人に答礼を返した――。

 

 三代目チーム全員の唯一の先輩チームになる、当時の二代目あんこうチームのメンバー。

 二代目隊長であり、戦車長の澤梓。操縦手であり、翔子の憧れだった阪口桂利奈。通信手の宇津木優希。砲手の大野あや。そして、だんまりの先輩と後輩達から呼ばれていた、装填手の丸山紗希である。

 そして、三代目メンバーが一年間乗っていた、二代目うさぎチームの戦車長で、副隊長を務め、のちの三代目になる、後輩五人を鍛え上げた、山郷あゆみである。

 この六人が三年生で、他のチームの全ての搭乗員が一年生という、前代未聞の二代目戦車道チームによる全国大会準優勝の偉業を、当時の新聞は「奇跡の進軍」と呼んで、このチームを大いに称えた。

 

 答礼を解いた澤梓達を見て、祐子達も敬礼を止めると、梓がにこやかに五人に話しかけた。

 

「やっぱり、ここにいたのね。皆の姿が見えなかったから、絶対に、ここにいると思ったわ」

「はい。皆で話し合って、学校に来たら、まず『Ⅳ号』に会いに行こうって、決めていたんです」

 

 梓を見ながら祐子が言うと、四人が同じように頷いた。それを「うん、うん」と頷いて聞く梓である。

 短いショートカットの髪型である澤梓は、アングラーフィッシュの経理課に勤務している。同じチームながら、選手と内勤では、ほとんど会う事がないのである。そして、彼女は、結婚して一児の母親になっているが、職場では澤の名前で通していた。

 山郷あゆみは、特徴的だった綺麗な長い黒髪をセミロングに切っている。そして久しぶりに会った、二代目うさぎさんチームのメンバーを懐かしそうに見て話した。

 

「皆、アングラーフィッシュの中心選手だもんね。うん、かっこいいよ!」

「うん! ほんと、翔子ちゃんは才能あるなあって、私、ずっと思っていたもんね。うん、私の目に間違いなかったよ! あの『戦車ドリフト』マスターしちゃうしね!」

 

 ショートボブの髪で、昔と変わらず元気に話をする背の小さな桂利奈も、今では結婚して専業主婦である。彼女には、まだ子供はいない。

 尊敬していた桂利奈の褒め言葉を聞いた翔子が、直立不動でそれに返事する。

 

「いえ、桂利奈先輩! 訓練指導を受けていた時、冷泉先輩が、先輩の教え方が良かったから、教えるのも楽だって、言っておられました!」

 

 翔子から、初めて、その事を聞いた桂利奈は、その場に飛び上がるくらいに喜んだ。

 

「えっ――。本当! 本当に麻子先輩、そんな風に言ってくれてたの?」

「はい! もちろん本当です」

「やったぁ! うれしい!」

 

 笑顔の十一人の輪の中、目立たない位置で皆の会話の様子を黙って、しかし、見る人によってはボーっとしているように見える、ショートボブの丸山紗希は、その二人の会話を聞いて、ぼそっと呟いた。

 

「――でも、梓ちゃんは先輩達が集まる事、みんなに教えてくれなかった……」

 

 彼女の呟きを聞いた、梓を除くうさぎさんの五人全員の脳裏に、紗希から回ってきたあのメールを思い出し、その時の怒りが甦った。

 

「そうよ! 梓ちゃんが、ちゃんと教えてくれていたなら、何があっても行ったのに……」

「うん、そうだよ。紗希ちゃんからのメールを貰った時の怒り、また思い出しちゃった!」

「梓――。わかっているよね。私達全員に、梓は借りがあるんだからね!」

 

 あゆみと桂利奈、宇津木優希が、口々に梓へと文句を言う。大野あやも、紗希も「そうよ、そうよ」と口々に言った。

 五人の恨みのこもった視線と非難の嵐が、再び澤梓を襲ったのである。

 

「みんな、あの時は本当にごめんなさい――、って……。もう、何回謝ればいいのよ!」

「だってさ、結局、梓ちゃんだけになっちゃったんだよ……。私達の中で、最後に西住隊長に会えたのは……」

 

 軽いウェーブのかかった髪のあやが、悲しそうに言うと、その場にいた十一人全員が黙って俯いてしまった。

 だが、沈んだ空気になったその場の空気を取り払うように、澤梓は、皆の顔を見渡しながら話す。

 

「ううん、みんな、きっと西住隊長は来てくれるよ。祐子ちゃんの時だって来てくれたんだもん。今度だって来てくれる!」

「そうです。先輩は来てくれました。きっと、今日だって来てくれるはずです」

 

 祐子もそう言うと、全員が顔を上げて小さく頷く。そうしてあゆみが「後輩達が集まってきているから、私達も行こう」と言った。

 そして、合計十一人の女性達は、西住みほへの、それぞれの思いを胸に、式典会場になる体育館へと向かった――。

 

 

 土曜日、午前八時五十五分――。

 学校の駐車場係を担当している一人の在校生戦車道メンバーが、なにやらキョロキョロと車を運転している人の顔を、一人一人確かめながら、駐車場内に入ってくる車を、順番に誘導している。

 入り口で誘導していた、別の同級生メンバーが、彼女の集中していない様子を見て、ついに切れて、彼女に注意する。

 

「ねえ、もっと集中して、誘導しなさいよ!」

「ごめんね。私、自動車部の友達に、サインを頼まれているのよ」

「――えっ? 誰のサインを頼まれているの?」

 

 思ってもみなかった彼女の返事に、その同級生メンバーは思わず聞き返した。

 

「ツチヤ先輩とホシノ先輩よ」

「えっ? ツチヤ先輩とホシノ先輩って、あのレーサーの?」

「そうよ。日本ナンバーワン、女性レーサーの先輩達よ」

「そんな有名な人が、なぜ、式典に来るのよ?」

 

 この同級生の質問に、今度は彼女が驚いた。

 

「えっ、知らないの? ツチヤ先輩とホシノ先輩は、戦車道のOGじゃないの!」

「ええっ!? 知らなかった。私」

「もう、しっかりしてよ! 自動車部の友達から『絶対、先輩達のサイン貰ってよね。でないと、戦車整備のお手伝いしてあげないから』って、私、脅されているんだから」

 

 注意される側が、いつの間にか、逆の注意する立場になってしまった。

 OG達が乗ってくる車を、忙しく誘導をしながら、懸命に顔を確かめている彼女に、ついに待っていた車が現れた。

 彼女達は、カッコいい外車をイメージしながら誘導していたが、その車は、意外にもキャンピングカーであった。しかも、大型ではなく、五ナンバーのこじんまりとしたキャンピングカーである。

 ウインカーを上げて入ってきたキャンピングカーの運転席に座ったホシノと、助手先のツチヤを見てびっくりした彼女が、思わずその車に駆け寄り、駐車スペースまで直接案内をする。

 バックで、ゆっくりと駐車スペースに止めた、そのキャンピングカーのフロントドアが開いて、ホシノとツチヤが、サイドドアから、ナカジマとスズキの計四人がそれぞれ降りてきた。

 初代チームの一チーム、レオポンチームである。

 その場で大きく背伸びをした、ホシノとツチヤに向かって、案内してきた彼女は、おずおずと胸ポケットから、小さな手帳とボールペンを差し出すと「自動車部の友達に頼まれました。ツチヤ先輩、ホシノ先輩、サインをください」と恥ずかしそうに言った。

 目の前に立つ後輩が言ったその言葉に、ツチヤが驚いて、逆に彼女に訊ねてくる。

 

「自動車部? まだ、自動車部はあるの?」

「はい、ちゃんとあります。戦車整備の手伝いもしていただいています」

「おーい、ナカジマ部長。自動車部は、まだ存続しているってさ!」

「本当か! 嬉しいじゃないか。一番、存続が危ないって思っていたけどなぁ」

 

 サイドドアから降りた、ナカジマとスズキが、嬉しそうに二人に近寄ってくる。

 差し出された手帳を受け取ったホシノが、先にサインをして、次にツチヤが同じようにサインをすると、彼女は「ありがとうございます!」と元気に挨拶をして、大事そうに手帳を胸ポケットにしまい込んだ。そうして、彼女達に一礼すると、また誘導業務に戻っていった。

 

 レオポンチームの四人は、学園卒業後、小さなワークスチームに入り、ツチヤとホシノがドライバーとして、ナカジマとスズキがキットクルーで、それぞれが腕を磨いた。

 そして、二年前にスズキが、ずっと心に秘めていた「戦車道プロチームのオーナーになる」という夢に向かって、戦車のパーツショップを、三重県鈴鹿市に開いた。それに触発されるかのように、ナカジマも自分達の絆、レオポンをエンブレムにした「レオポンレーシングチーム」というワークスチームを、鈴鹿市内に立ち上げたのである。ツチヤもホシノも専属として、このチームに参加した。

 今では日本有数のワークスチームになった、レオポンレーシングチーム。

 そして、スズキもレースがある時は、キットクルーとしてピットに入る。レオポンの友情は、今も続いているのである。

 ちなみに、この最初の運営資金を杏が準備して、月々の返済も滞りなく返している。二人には戦車の整備の他に、会社経営でも才能があったようである。

 二日前、スズキが所有するキャンピングカーに乗り、鈴鹿市を出発した彼女達は、サービスエリアで休憩をとりながら、はるばる大洗女子学園までやってきたのである。

 

「――来たな。大洗女子学園!」

「ああ、レオポンのスタート地点だ!」

 

 呟くナカジマに、スズキも同じように言う。

 そして、笑いながら、校門に向かって歩きだした四人だった。

 

 

 土曜日、午前九時五分――。

『大洗女子学園戦車道復活十周年記念式典会場』と大きく書かれた看板が、体育館入口に設置され、その横に長机が三つ並べられている。

 その机の後ろ側に、在校生メンバー十人が立ち、やってくるOG達一人一人に挨拶をしながら、記帳ノートの説明をしている。

 長机の前に『初代』『二代』『三代』と案内する紙が貼られていて、OG達それぞれが自分達の代を確認しながら、机の上に置いてある記帳ノートに、自分の名前を書き入れて、体育館の中へと入っていく。

 体育館の中は、先輩、後輩、同級生関係なく、それぞれが再会を喜び、思い出話や近況報告などの談笑の輪が、あちらこちらに出来ていた。

 受付に来た澤梓達のうさぎチームは、自分達が『初代』なのか『二代』なのかを受付の子に聞くと「三年生の時の代になる」と言われて、『二代』の所に並んだ。

それぞれが名簿に自分の名前を記入しながら、チラリと横目を使って「初代チーム」の先輩達の名前が書かれていないかを確かめる。

 記帳ノートは――、まだ、真っ白なままである。

 

(先輩達、まだ、誰も来ていないのね……)

 

 初代チームのノートの様子を確認した六人は、誰ともなく校門の方へ戻り始めた。遠藤祐子らも、三代目の所に記帳を済ませると、六人の後を追うように戻り始めた。

 すると、その様子を見た、三代目の受付をしていた在校生が、思わず、十一人に声を掛ける。

 

「あのぅ、遠藤先輩。会場はこちらですけど……」

 

 祐子らに声をかけた後輩が、申し訳なさそうに言う。

 戦車道プロチームに属する三代目の隊長車メンバー達は、それぞれがメディアに出る機会があり、それなりに有名人である。

 少し緊張しながら声を掛ける、その後輩に、遠藤祐子は笑って返事をする。

 

「うん、分かっているわよ。心配しないでね。時間前には、ちゃんと席に行くから……」

「――いえ、違うんです。澤先輩と遠藤先輩は、壇上の雛壇に上がっていただきますので、できたら、早めに来ていただきたいのですけど」

 

 後輩からそう言われた、澤梓と遠藤祐子はびっくりして、その場に立ち止まった。他のメンバーも、思わず振り返る。

 

「何それ? どういう事? 私、そんな話、聞いていないよ。祐子ちゃんは知っているの?」

「いいえ、今、初めて聞きました」

 

 先輩二人の狼狽に、言ってきた後輩は、その説明をする。

 

「――はい。各歴代の隊長は、雛壇で副学園長から紹介される予定です」

「やったね。梓! 祐子ちゃん! こりゃ見ものだわ!」

 

 後輩の説明に、梓の傍にいた山郷あゆみが、二人にチャチャを入れると、梓は「よしてよ、あゆみ!」と少し怒って、彼女を咎める。

 梓の肩を軽くポンポンと二度叩いたあゆみは「アハハ、冗談よ、冗談! 頑張ってね」と笑って二人へ謝り、びっくりしている二人以外の笑いを誘った。

 十一人で校門へ続く通路を逆戻りしていると、校門を通って通路を談笑しながら歩いてくる、レオポンチームの四人が見えた。

 その四人に、真っ先に気付いたのは、丸山紗希である。

 

「あっ――。レオポンさん……」――『えっ!』

 

 梓達、うさぎチーム全員が気付くと同時に、レオポンの四人も梓達に気付いた。

 

「おおーい! うさぎさんチームのみんな!」

 

 ナカジマが叫ぶと、二チームと一つチームが、それぞれ、お互いに向かって走り出した。

 

「レオポンさん。お久しぶりです」

「やあ、澤さん、それにみんな、久しぶりだね」

「はい、ツチヤ先輩、ホシノ先輩に、スズキ先輩もご無沙汰しています」

「いやいや、こちらこそ、ご無沙汰だね」

 

 うさぎチームを代表して、梓がレオポンチームへ挨拶している。その六人の後ろで、三代目あんこうチームの五人は、直立不動のまま立っている。

 すると、五人の緊張した様子に気付いたあゆみが、梓の腕を小さく引っ張った。それに気づいた梓は、体をずらすようにして、祐子達の前を開ける。

 

「あっ、先輩紹介します! 私達の後輩で、三代目のあんこうチームのメンバーです。祐子ちゃん達、こちらは、初代レオポンチームの先輩達よ」―-『初めまして!』

 

 三代目あんこうチームが初めて会った、初代チームの一チームへ元気に挨拶している。

 

「そうかぁ、三代目なのか――。いやいや、こちらこそ、初めまして。レオポンチームだ。私がナカジマ、こっちが、右からツチヤ、スズキ、ホシノだよ。元自動車部でもあるけどね」

 

 ナカジマが、自分の隣に立っているメンバーを、それぞれ紹介した。

 祐子達も、一人一人が自分の自己紹介をしながら、あんこう、うさぎ以外の伝説の初代チームのメンバーを、それぞれが緊張した様子で見ている

 そうして、その場で話し込んでいる三チームが、チラリと校門の方を見ると、「あひるさん」「カバさん」「カモさん」「アリクイさん」の四チーム、十四人が、揃って歩いてくる姿が見えた。

 うさぎチームの六人は、もう狂喜乱舞である。

 

「先ぱぁーい!」

 

 大声で叫ぶ六人と、手を振るレオポンの四人。そして、また直立不動になった祐子達である。

 

「おお、あれは、うさぎさんチームだ。レオポンチームもいるぞ!」

 

 カエサルが呼び声に気付くと、やはり、四チーム、十四人が待っている彼女達に手を振りかえしながら、校門をくぐった。

 すると、うさぎチームの同級生である「あひるチーム」のメンバー、佐々木あけび、近藤妙子、河西忍が先陣を切って、彼女達に駆けていった。

 

「梓ちゃん! それに……。みんなぁ!」

「あけびちゃん! 忍ちゃんに、妙ちゃんも!」

 

 三人と六人が、それぞれの手を握り合いながら、その場で、ピョンピョンと飛び跳ねている。

 

「久しぶりい!」――「久しぶりだね」

 

 それぞれの挨拶が交わされる中、他のメンバーも、うさぎさんと三代目あんこうに近づいてきた。

 

「澤さん、久しぶりじゃないの」

「園先輩。おはようございます!」

「うん、元気な挨拶は、昔のまんまね」

 

 それぞれの懐かしい顔に会えたこの喜びは、何ものにもかえがたい感情である。

 

「あっ、先輩紹介します。三代目のあんこうチームです。隊長の遠藤祐子さん、操縦手の大森翔子さん、砲手の浦田恵さん、装填手のかなえさん。二人は双子です。そして、通信手の北川亜希子さん。全員が、大洗アングラーフィッシュの選手なんですよ」

「おお、知っているぞ。後でサインを貰おうかな」

「エルヴィン。お前の娘も、戦車道を始めたんだったよな」

「ああ、母親の後輩がプロの選手だと知ったら、母親の株が上がるというものだ」

 

 カバさんの二人が笑いながら言うと、その名前を聞いた三代目あんこう全員が「えっ?」と顔を見合わせた。

 

「エルヴィンって? 先輩……?」

 

 祐子が首を傾げながら、傍に居た桂利奈に小さな声で訊ねると、彼女はフムフムと頷く。

 

「祐子ちゃん達、改めて紹介するね。こちら、初代チームの先輩達だよ。この変った格好している先輩が『Ⅲ突』に乗っていた、カバさんチームの先輩。カエサル先輩に、エルヴィン先輩。こちらが、おりょう先輩に、左衛門佐先輩!」

「おい、桂利奈。変った格好はないだろう」

「あっ、ごめんなさい。ソウル――、でしたよね」

 

 エルヴィンが言うと、頭を掻きながら、桂利奈が謝り訂正する。それを聞いた左衛門佐が、コクコクと頷いた。

 

「そうだ、魂と書いてソウルだ」

「あの――、桂利奈先輩。カエサル先輩達って、それって、まさか本名なのですか?」

 

 今度は、翔子が小さく訊ねると、それが聞こえたのか、カエサル自身が答えた。

 

「いや、もちろん、ちゃんと別に名前はある。まあ、分かりやすく言うと、ソウルネームというやつだな」

「――ソウル、ネーム……、ですか」

 

 ピンとこない感じの祐子達ではあったが、分かったふりをした五人に、桂利奈は、カバチームの隣に立つ、チームに手を向けた。

 

「そして、こちらの四人があひるさんチーム。『八九式』のチームよ。祐子ちゃん達は、あけびちゃん達の顔は知っているよね」

「はい、佐々木先輩は、全国大会に出場した女子バレーボール部の部長さんで、その時のバレー部の先輩達ですよね」

「そうだよ、そして、その前の部長さんで、あひるさんチームの戦車長、磯辺典子先輩!」

「おはようございます!」

 

 元気に自分達へと挨拶をする五人を見た、体育会系チームのあひるさんの四人は、「うん、おはよう!」とそれぞれが、嬉しそうに挨拶を返す。

 そして、桂利奈は次のチームを紹介しようとしたところで、ぱたっと動きが止まった。

 

「そして――、えっと、……すごく綺麗な方なんですけど、先輩は――」

「桂利奈さん、ボク、ねこにゃーです」――『ええっ!』

「ね、ねこにゃー先輩……!? じゃあ、もしかして、ぴよたん先輩とモモガーさんですか?」

 

 その場で「うん」と三人が頷いた。レオポンの四人も他のうさぎチームメンバーも、桂利奈と同じように、目を大きくして、まるで変った、ねこにゃー達を見つめる。

 驚いたまま、桂利奈は少し声が上ずりながら、やっと、彼女達を紹介した。

 

「こ、こちらの三人の先輩は――。ア、アリクイさんチーム。『三式中戦車』に乗っていた、せ、先輩達……、だよ」

「ボク、ねこにゃーです」

「ぴよたんだっちゃ!」

「モモガ―なり! 宜しくなり!」

 

 猫田の姿と二人のそれぞれ超個性的な挨拶に、祐子達も唖然としながら、お辞儀をする。

 

「そして、最後が、カモさんチーム。園みどり子先輩と後藤もよ子先輩と今春希美先輩。乗っていたのは『ルノー』よ。鬼より怖い、元風紀委員の先輩達」

「さすが、阪口さんね、ちゃんと先輩を名前で呼ぶなんて――まあ、当たり前よね、社会人としてね」

 

 このみどり子の発言には、陰で「そど子」と、いつも呼んでいた初代チーム全員は、苦笑いである。

 

「これで、七チームそろった訳か」

「ああ、カメさんは学園長達だから、もう学校にいるぜよ。残るは……、あんこうの五人だけぜよ」

 

 左衛門佐がおりょうに聞くと、小さく頷きながら彼女が答える。すると、それを聞いた典子が目の前に立っている、澤梓に訊ねる。

 

「澤さん、あんこうの皆さんは、もう来ているの?」

「いえ、まだ受付は、済ませてはおられませんでした」

「そうなの――。じゃあ、ここで待ってましょう」

 

 梓の答えに、今度は、みどり子が返事をした。それぞれ小さな輪を作り、各チームが思い出話に浸っている。その間にも、自分達の知らない後輩OG達が、彼女達の横をすれ違っていく。

 皆、笑顔でおしゃべりをしながら、本当に楽しそうに、学校へと歩いて行く――。

 


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