Fate/zero 混沌より這い寄る者たち   作:アイニ

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 本日二度目の投稿。
 平日はする暇ないので、休みの内に出来るだけ投稿出来るようにしたいです。


015

 時臣から変な通信を受けた綺礼は、眉を寄せながらも遠坂邸にやって来た。アサシンを連れ、他の参加者とその使い魔の目に入らないよう注意して屋敷に入った彼は、屋敷内の光景に珍しく困惑した。

「……なんだこれは」

 魔術師というのは拠点に工房を作り、敵を迎撃するのが一般的だ。正統派の魔術師たる時臣もその例に洩れず、敵が侵入してきた時のために罠を仕掛けている。

 その罠がことごとく発動されたあと――――何故か改良されていた。

 アサシンを霊体化したまま行かせ、現在屋敷を襲撃してきたキャスターたちの様子を窺うと、彼らは嬉々として罠を発動させ、その後に罠を取り付け直しているとのことだ。

『…………不要なものを減らし、必要なものを足して再設置されてますね。詳しいことは分かりませんが、時臣殿の仕掛けた物より侵入者に対して効果を発揮するよう、角度や数を修正しているようです』

 そんな報告を受けて、奴らは一体何をしたいのかと綺礼は思った。敵陣の罠をグレートアップさせる意味が分からない。

 唯一安心出来る点は、この罠が綺礼に対して牙を向かないところだろうか。おかげで罠の襲撃を受けることなく、時臣の元へと向かうことが出来た。

「失礼します」

 扉を開き、視界に入った時臣は非常に微妙な顔をしていた。

「綺礼……よく来てくれたね。今の屋敷の状況、見てきただろう?」

「はい」

「なぜか私の屋敷が、より堅牢にされているんだ」

「そのようですね」

「…………キャスター陣営は、一体何がしたいのだろうね?」

「私にも分かりません」

 きっぱり答えると、時臣は渋い顔で紅茶を口に含んだ。

 屋敷中トラップだらけにしようという言葉を聞いた彼は、守りのための拠点が自分を襲う事態に危機を覚えていた。

 だが実際の所は、真逆だ。拠点はより優れたものとなった。それに安堵する反面、敵の癖に敵の根城を強化するキャスターたちの目的が分からなくなってしまった。それゆえの渋面である。

「只一つ分かることは、キャスターたちは我々の想像を超える変人だということですね。無理に理解しようとする必要はないかと」

「うむ。……行動が読めないというのは不気味だが、仕方ない。このまま姿を隠して、彼らが帰るのを待つとしよう」

「では、隠蔽魔術を……」

 

 デーデン

 

 師へと進言していると、妙な音が聞こえた。

 

 デーデン

 

 時臣は首を傾げているが、機械類にそう抵抗の無い綺礼には何となく分かった。昔のとある映画にある、人食い鮫が迫り来る時の音楽だ。テレビ番組のホラー系シーンでも使われるくらい、有名なテーマソングである。

 

 デーデン・デーデン

 

 問題は、それが少しずつ大きくなっているという点だろう。

 確実に、何か妙な物が近づいてきている。

 ひとまず綺礼は父より倣った太極拳の構えを取った。時臣も、大きなルビーを嵌めた己の礼装を構える。

 

 デデ・デデ・デデデデ―――――!

 

 音楽が大きく、緊迫してくる。

 と、バァアアアアンッと扉が勢い良く開かれた。

 

「悪い子はいねがあああああああああああああああ!!」

「泣く子はいねがあああああああああああああああ!!」

 

 叫び声と共に飛び込んで来たのは、二体のナマハゲもどきである。

 もどき、というのは怒り顔の鬼の面しかつけてないからだ。大きいほうは青鬼の面で、あとはジャケットにズボンというラフな出で立ち。小さいほうは赤鬼の面で、アラブの踊り子のような衣装を身につけている。

 ナマハゲというのは太鼓を持っていることがあるが、このナマハゲは太鼓代わりにマラカスをシャカシャカしていた。あれが不気味な音源を奏でているようだ。

 マラカスを鳴らしながら入ってきた大小のナマハゲもどき。これには綺礼も目を丸くする。時臣は驚き過ぎて、ポカンと口を開けたままだ。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 西洋風の部屋には似合わない顔だけナマハゲが二体に、神父と貴族風の男。

 一人でも濃ゆ過ぎるのが四人も集まっているせいで、部屋の中はカオスだ。鳴らされ続けるマラカスが響かせる、人食い鮫のテーマ曲がひどく痛々しい。

 そうして一分経った頃、小さいナマハゲもどきがマラカスを止めた。

「……思ったより、反応薄かったな。師匠」

「そだね。普段冷静な奴をビビらせたら、かなり面白いだろうなって思ってたんだけど……ライダー親方んとこのマスター君にした方が良かったかも」

 ナマハゲたちはしょんぼりと、落ち込んだ様子で呟いた。

 

 

 ――――結論から言えば、ナマハゲもどきの正体はキャスターとそのマスターだった。

 罠を仕掛け終えた彼らは綺礼たちの存在などとっくに察知していたようで、二人を驚かせるべくナマハゲの真似をしたらしい。

「……それで、その面は一体どう用意したんだ?」

「さっき師匠が作ったんだよ。持ってきてた材料の一部が、面作るのに活用出来そうだったからさ」

 人懐っこい笑みと共に答えるのは、明るい髪色の青年。キャスターのマスターである彼は、雨生龍之介と名乗った。

 その龍之介の言葉を聞いた後、二人の視線は小柄な子供に向きなおる。

「日本では、鬼の面を被って子供を驚かせたり、面を被った鬼に豆を投げつけるイベントがあるらしいからね~。どう? 上手に出来てるでしょ?」

 自画自賛しながら、キャスターは鬼の面を被ってみせる。確かに、貌の造型や表情などは良く出来ていた。小さな子供が見たら泣くレベルである。

 一つ気になるのは、その鬼面から神秘の力を感じるところか。

「キャスター……その面に、何を付与させている?」

「ん? えっとぉ、豆投げつけられても痛くないよう防御のルーンでしょ。あと相手ビビらすための破壊のルーンと、恐怖のルーン。テンション落とさないための力のルーンと希望のルーン。それから、長い間追い掛け回しても大丈夫なように移動のルーンもつけたかな。うん、そんくらい」

 言いながら、引っくり返して裏面を見せるキャスター。仮面裏の隅にはルーン文字が彫りこまれている。くだらない目的で作った即席の割りに、高性能な礼装だった。これには時臣の眼も生温い物に変わる。

「キャスターともあろうものが、悪ふざけでそんな物を作るのは如何なものかと思うのだが……」

「良いんですー。くだらないことでも、やる気出してやったら、多少の結果は出るんですー」

「師匠の言うとおりだよ。それにさ、こういう馬鹿騒ぎは若い内にしとかないと損するって」

「そうそう! 二十代後半とか三十路過ぎにこんなことしてたら、白い目で見られるのが大抵だもん。だからさ、そこの神父さんも今の内にこれ被ってナマハゲってみなよ。絶対テンション上がるからっ」

「これで貴方もナマハゲ気分! ってなわけで、神父のお兄さんにこの青いナマハゲ面を進呈するよ」

 欲しくもないのに無駄に性能の良い鬼の面を渡され、綺礼は反応に困った。

 とりあえず邪魔にならないよう、アサシンに預ける。押し付けられたアサシンは、仮面越しでも分かるほど戸惑っているが、綺礼は無視した。

「それでもう一つ質問するが、なぜ時臣師の屋敷に罠を仕掛けている? それも、貴様らにとって敵である時臣師が有利になるような罠を」

「ん? 両方びっくりさせるためだけど?」

「……どういうことだ?」

「入った途端におっかない罠が発動したら、侵入した方は驚くでしょ。で、トッキーの方は、仕掛けた覚えの無い罠があることに驚くじゃない。片方だけ驚かせるより、断然お得ですっ!」

 笑いながら答えるキャスターの発想は、こちらの予想の斜め上を行っていた。やはり変人の思考は理解し難いものだ。

「……最後の質問をしよう。一体、何をしにここに来た?」

「鬼ごっこ」

「は?」

「食後の運動がてら、鬼ごっこしようと思って。君たちと」

「アサシンのマスターが来てくれたのは、ラッキーだったよなー。わざわざ呼ぶ必要がなくなったし」

「ねー」

 まるで話が見えない。

 一体どうしたものかと、綺礼と時臣は互いに顔を見合わせる。そして再び、視線をキャスター陣営に向ける。悪ガキみたいなノリの二人は、にっこり笑顔を向けてくる。

「ねぇねぇ。午後三時まで、屋敷内で鬼ごっこしようよー。キャスターさん、遊びたい気分なのー」

「俺も遊びたいはしゃぎたい、そんな気分なんだよなー。俺か師匠のどっちか捕まえればいいだけのゲームだからさ。なっ?」

「なぜ我々がそんなことを……」

「ちなみに僕らのどっちかでも捕まえられたら、僕の令呪を一画あげます」

 断ろうとした時臣は、続いた言葉に声も動きも停止させた。

 綺礼も瞠目し、確認を取る。

「……キャスター、それは本気か?」

「うん。あと僕ら、鬼ごっこの間は攻撃系とか移動系の魔術は使わないから」

「なるほど……ふむ」

「あ、でも。サーヴァントけし掛けられた場合は、流石に迎撃するよ。ちょっとした行動次第で、アサシン虐殺ゲームになるねー」

 顎髭を撫でながら思案する時臣から何か察知したのか、すぐに釘を刺すキャスター。だが、それでも乗るだけの価値があるだろう。

 なにせ、ゲームとやらに勝てば、この何を仕出かすか分からない陣営を抑制出来るのだ。消耗しているところを狙えば、令呪をもってキャスターを自害させることも不可能ではない。

「なるほど、中々に魅力的な遊戯の申し出だが……我々が負けた場合は? 何かペナルティでもあるのかね?」

「特には考えてないかな~。君たちと遊ぶのが目的だし。龍之介はどう?」

「んー。俺も別に罰ゲーム付けなくても良いと思うよ。楽しめたら十分」

「決まり~。君たちが負けても、罰ゲームとかは無いよ」

「そして我々が勝てば、そちらの令呪を一画頂戴出来る……と。ゲーム内容は三時まで鬼ごっこをすること、サーヴァントを使用しないこと。そしてキャスターたちは攻撃をしないということ……」

 抗い難い魅惑的な報酬と鬼ごっこのルールを口の中で転がしながら、時臣は綺礼に視線を投げかけた。

 君は乗るか? という意味合いの視線を。

 流し目を受けた綺礼は、すっと二人を見つめながら問う。

「お前たちは攻撃をしないというが、我々がお前たちに攻撃してはいけないというルールはあるか?」

「ないよー」

「分かった。……その誘い、私は乗ろう」

 と、綺礼は頷く。

 時臣も続いて、ゲームへの参加を示した。

 

 

 綺礼は別に、ゲームに勝利しようとは思っていない。勝てればこちらが優位に立つだろうが、無理をしてまで勝つつもりはなかった。

 それでも誘いに乗ったのは、ゲームの間あちらは攻撃出来ず、逆にこちらは好きなように攻撃を仕掛けることが出来るからだ。綺礼の目的は、このゲームに乗る形で、少しでも彼らを消耗させることだ。

 仮に向こうがルールを破った場合は、それを盾にして攻めれば良い。他の陣営――――現状から、キャスターに敵意を持つランサー辺りが良いかもしれない――――と同盟を組み、襲撃することが出来るのだ。

 尤も、綺礼というより時臣の方が彼らと同盟を組む形になるだろうが。

 

 

 そんな綺礼の目論見を知ってか知らずか、キャスターは美貌に愉快そうな色を乗せる。

「決まりっ! そんじゃ、十秒数えてね。その間に逃げるから」

「よっしゃ。じゃ、二手に分かれて行こうか、師匠」

「頑張って逃げようね、龍之介ー」

 キャスター陣営は明るい調子で互いに激励を送りながら、足早に部屋を出て行き、其々真逆の方向へと掛けていった。

 鬼役となった代行者と遠坂家当主は、それぞれの武器を構えながらカウントダウンを始める。

 そして零の言葉を吐き出した二人は、キャスター陣営という名の獲物を捕らえるべく廊下に出た。

 


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