ラインフォルトの見習い使用人   作:まぎょっぺ

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赤い制服の生徒達

「ご入学おめでとうございます!」

 

 トールズ士官学院までの道のりは駅から高台へ向かう一本道、何より石造りの雄大な校舎は駅近くからでも視界に収めることが容易くルドルフとアリサは迷うことなく辿り着くことが出来た。

 そうして入学式の日を記念しているのだろう色鮮やかな花の鉢植えで飾られた校門を抜けた矢先に二人をその祝いの言葉が迎えたのだった。

 

「えっ……と?」

 

 整えられた石道の脇から歩み出てきたその言葉の主へ、二人は視線を()()()

 朗らかな笑みで二人を迎えたのは平民出身の学院生である証の緑を基調とした制服を着た少女だった。

 ただ一つ、その少女の十七、八ぐらいの年頃がほとんどであるはずの学院生にしてはあまりに幼く見える顔立ちと背丈の低さがアリサを戸惑わせていた。

 新入生である自分達を祝うということは前年度入学の上級生であろうかと察しがつくものの、そう結論付けるのを躊躇わせてしまうほどに。

 

「やあ、入学おめでとう、トールズ士官学院へようこそ」

 

 そうしている内に小柄な少女に付き添うように立っていたふくよかな体格をしている男性が少女と同じく祝いの言葉を口にする。

 その男性は黄色い作業用と見られるツナギを着ていたがよくよく見れば自分たちとそう年に差も無さそうなぐらいの若さであることに二人は気づく。

 

 ――教官には見えないし、制服じゃないけどこの人も上級生なのかしら。

 

 そんなことをアリサが頭に思い浮かべていたところで、はじめに二人を迎えた少女が確認するような言葉を続けた。

 

「二人はアリサ・ラインフォルトさんにルドルフ・シュヴァルベ君で合ってたかな?」

 

「ええ、そうですけど……っ!」

 

 ラインフォルトという姓を周囲に隠しておきたかったアリサはフルネームで呼ばれたことに慌てて周囲を見回した。

 幸いにして登校する生徒達の波に切れ目が生じていたようで他の生徒の姿は見えず、ほっと胸を撫で下ろす。

 

「ふぅ……あの、どうして私達の名前をご存知なんですか?」

 

「うん、入学案内にあったと思うけど申請してもらった例の品、私達が預かることになってるの、だから二人の特徴も聞いてたんだ。それに――ふふっ」

 

 何がおかしいのか言葉の途中で口元に手を当て笑ったその女生徒を不思議に思ったルドルフとアリサは顔を見合わせる。

 

「ごめんごめん、アリサさんのことはね、アンちゃんからよーく聞いてたからすぐに分かったんだ」

 

「アンちゃんって……っ! もしかしてアンゼリカさんのことですか?」

 

「そうだよ、アンちゃんあなたが入学してくるって聞いてからすごく楽しみにしてたんだから」

 

 アリサが尋ねた人物の名はルドルフも知る、というより二人の出身であるルーレ市では知らない人間の方が少ないぐらいだった。

 アンゼリカ・ログナー、ルーレ市に邸宅を構え帝国北部、ノルティア州を収めるログナー侯爵家の息女たる人物。

 四大名門という帝国貴族でも有数の名門貴族に数えられる血筋の持ち主でありながらアンゼリカ嬢当人は気風の良い性格で誰に対しても分け隔てなく接する人柄から多くの市民から慕われていた。

 同じくルーレ市に本拠を構えるラインフォルト社の令嬢という立場から侯爵家との付き合いもありアリサはアンゼリカと浅はかならぬ縁を持っていた。

 

「そ、そうなんですか……楽しみに……」

 

 その彼女の名を聞いたアリサは取り繕ったようにぎこちなく微笑む。

 彼女が前年度トールズ士官学院へ入学したことはアリサにも既知のことだった、しかし親しいといえる間柄ではあったがアンゼリカという女性のある特殊嗜好だけはアリサにとって苦手とするところで、手放しに喜ぶこともできないのだった。

 

「トワ、それぐらいにしておこうか。まだ皆来てないんだし」

 

「あ! いけない、ごめんね二人とも引きとめちゃって。とりあえず申請の品を預からせてもらっていいかな?」

 

「ええ、お願いします」

 

 二人に通知された入学案内にはこの日、とある品を学院に持ち込み入学式式典前に学院関係者へ預けるようにとの指示が記載されていた。

 アリサは長めのトランクケースを、ルドルフはアリサのものよりも小ぶりのケースをそれぞれトワと呼ばれた少女、ツナギの青年に手渡す。

 

「はい、じゃあお預かりします。雑に扱ったりはしないから安心してね」

 

「ちゃんと後で返却させてもらうよ、それじゃあ入学式は目の前の本校舎から左手の先、あの講堂で開かれるから遅れないようにね。君達の学院生活が充実した二年間になることを祈ってるよ」

 

 その講堂と見られる建物の方を手で示し、ツナギの青年は太めの顔つきに優しそうな笑顔を浮かべそんな言葉を口にする。

 

「慣れないことだらけで苦労するかもしれないけど、私達も全力でサポートするから頑張っていこうね」

 

「はい、先輩方これからよろしくお願いします」

 

 頭を下げルドルフは礼を取る、一方でアリサは何かが気になるらしく逡巡するような様子を見せていたがすぐにルドルフと同じように荷物を預けた二人へ礼の姿勢を取った。

 

「……よろしくお願いします」

 

 それから講堂へ向かうまでの間、ルドルフから心配の声をかけられるほどアリサは浮かぬ表情で居続けることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入学の式典はつつがなく進行し、齢七十に達する高齢でありながら衰えを見せない長身の偉丈夫、ヴァンダイク学院長の挨拶に締めくくられ閉会の運びとなった。

 その後新入生達は案内に従いそれぞれ自分達が所属することになるクラスの教室へ向かわされたのだが。

 

「やっぱりおかしいわ」

 

 講堂を出て再び学園の本校舎を囲むように整地されている石道を歩きながらアリサがついに疑念を漏らす。

 

「おかしい、とは?」

 

「明らかにそうでしょ、よく考えてもみればあの先輩達、新入生に対する歓迎にしては丁寧すぎたわ」

 

 懸念する様子を見せないルドルフにアリサは自分の考えも整理するかのようにその疑問を並べて続ける。

 まず入学式に参加した生徒達の中で自分たちと同じ赤い制服を着たものの比率が明らかに少なかったこと。

 そして登校中に見かけた赤以外の制服の生徒達は校門で二人が預けたような荷物を持たず、手ぶらであったこと。

 

「そういえば駅で会ったあの黒髪の彼は長い包みをお持ちでしたね」

 

 そんな物を同じ赤い制服を着ていた彼が紐で肩に掛けるように持っていたことを思い出しルドルフは呟く。

 ルドルフとアリサもまた入学案内書に記載されていたその種の荷物を持っていた為その時は疑問にすら思わなかったのだが。

 

「ええ、極めつけに()()よ、何もないと考える方がよっぽどおかしいわ」

 

 彼女がこれ、と示したのは二人が今おかれた状況だった。

 ――入学案内書に従い、指定されたクラスに移動すること。

 式典終了後、学院の教官が告げたのはこの言葉、だが二人のもとに届いた入学案内書にはそんなものを示す記載は無く、それを把握できているらしい他の生徒達に取り残されてしまった。

 ただ二人だけではなく、二人を含め十人の赤い制服を着た生徒達がその場に残っていた。

 そんな中、残った生徒達に声を掛け案内し始めたのが今先頭を歩いている若い女性教官だった。

 

「特別オリエンテーリングに参加してもらうって言ってたけど、入学式にそんなイベントがあるなんて聞いたこと無いわ、あの人も本当に教官なのかしら」

 

 鼻歌交じりに生徒達を引き連れて歩く女性の後ろ姿を訝しむようにアリサは見つめた。

 確かにその女性は年若いだけでなく、胸元の開いたワンピースにコートを羽織ったような、見様によっては派手に見える出で立ちで士官学院の教官というイメージにそぐわない。

 

「ですがこうして案内されている以上学院側の予定通りのことではあるようですし、この場はついていくしかないかと思います」

 

「それもそうね。――はぁ、こういう時はあなたの落ち着きぶりが羨ましいわ」

 

 周囲を共に歩いている同じ境遇の生徒達もアリサと同じく雲行きに怪しいものを感じ取っているようで教官に続きながらもそれぞれ同じような心境でいることを感じさせる面持ちになってしまっている。

 一人、先程二人が校門で会った上級生と同じように同年代であるか疑わしいぐらいに小柄で幼い顔立ちをしている銀髪の少女はただ眠そうな瞳で見た目と裏腹な余裕ぶりを見せていたが。

 ルドルフもまた普段と変わりない顔色でおり、彼が平常心でいるというよりただ感動が薄いのだということは知っているアリサだったがこういう事態にストレスを感じてしまう性分の彼女は今のような言葉を吐いてしまう。

 ただこうして話す相手がいるだけ自分はマシなのかもしれない、と胸の内で思いながらアリサはチラりと最後尾に目をやった。

 駅で二人が出会った黒髪の少年、知り合いだったのかそれともこれまでの短時間で親しくなったのか、男子としては大分童顔な赤みの強い茶の髪色をした少年と言葉を交わしながら後をついてきている。

 会話で気が紛れるのかその二人の男子は幾分か他と比べリラックスしているように見えた。

 ルドルフが居なければ疑惑を吐き出すことも出来ず些細ながらも鬱憤を溜め込むことになっていたのだろうと、言葉に出さず彼の存在に感謝するアリサだった、

 程なくして学院施設の中央にある本校舎を回り込み、講堂から見て対角に位置する細道に入り込んだ一同の目にある建築物が見えてくる。

 中世的な意匠が色濃ゆく年代を感じさせる古めかしい造り、規模の小さな城のようであり入学式が執り行われた講堂よりも遥かに大きいその偉容に思わず足を止め目を奪われる生徒達だったが、先頭を行く女性教官は悠々とその建物に向かい歩を進め両開きの扉を開くと中へ入って行ってしまう。

 造りこそ立派なものの整備が行き届いていないのか、学院の裏手、鬱蒼とした林の中に佇むその建物は不気味な雰囲気をも漂わせていた。

 そんな場所にやってきて何をしようと言うのか、集められた生徒達は疑惑を膨らませながらもその場に立ち止まっているわけにもいかず、教官の後に続き建物の中へ足を踏み入れていく。

 扉の先は開けたホールのような構造になっており、はめ殺しの窓から外の光が差し込んではいるが何の照明器具もない室内は薄暗く、怪しげな雰囲気に拍車をかけている。

 ここまで皆を先導してきた女性教官はその空間の正面奥、一段高くなっている檀上に脇の階段から上がると生徒達へ向き直ると口を開いた。

 

「サラ・バレスタイン。今日から君達(なな)組の担任を務めさせてもらうわ、よろしくお願いするわね」

 

 にっこりと笑みを浮かべながらそう名乗った女性教官の言葉に生徒達の多数が驚きに目を瞠る。

 

「あ、あの……サラ教官?」

 

 眼鏡をかけ長い髪を一本の三つ編みにした女生徒がおずおずと教官へ問い掛ける。

 

「この学院の一学年のクラス数は五つだったと記憶していますが。それも各自の身分や出自に応じたクラス分けで……」

 

 彼女が発した問いかけは驚きを見せた生徒の意見を代表したものだった。

 二百五十年余りの昔、獅子戦役という名で歴史に残されてい帝国全土を巻き込んだ内戦を終結させた帝国中興の祖と言われるドライケルス大帝により設立されたトールズ士官学院には古くより続き帝国が重んじてきた貴族主義に則り、彼女が口にした条件を以てクラス分けや教育カリキュラムの差別化がなされていた。

 それは学外にも広く知られている事実であり七番目の数字を冠するクラスなど存在しないはず、であったが。

 

「さすが主席入学、よく調べているじゃない。そう、五つのクラスがあって貴族と平民で区別されていたわ。――あくまで去年まではね」

 

 教官、サラ・バレスタインは女生徒の発言に感心するように頷きながら発したその言葉に質問した女子だけでなくアリサや他の生徒もハッとさせられる。

 去年まで、ということはつまり――

 

「今年からもう一つのクラスが立ち上げられたのよね、すなわち君達、――身分に関係なく選ばれた特科クラスⅦ組が」

 

 貴族クラスの白、平民クラスの緑、どちらにも属さない赤の制服の意味がこの時ようやく明かされた。

 アリサが駅前で何気なく口にした言葉の通りで、この場に集められた生徒達はサラ教官曰く新設された特科クラスⅦ組のメンバーとして選ばれた者達ということであるらしい。

 降って湧いたような話を聞かされ戸惑う生徒達の中で一人の少年が過敏な反応を見せた。

 

「――冗談じゃない!」

 

 憤りも露わに叫んだ少年は眼鏡の下の瞳を尖らせ睨むようにサラ教官を見据えていた。

 

「身分に関係ない!? そんな話は聞いていませんよ!?」

 

「えっと、確か君は……」

 

 生徒達の顔と名前を完全に把握してはいないのか言葉を濁すサラ教官に、深い緑の髪を短く几帳面に整えたその少年はマキアス・レーグニッツと自分から名乗った。

 制服を乱れなく模範的に着こなし、いかにも真面目そうな身なりをしている少年だったが、続けて彼が口にした言葉にアリサは呆気にとられ、ルドルフも珍しいものを見るように目をしばたかせることになる。

 

「自分はとても納得しかねます! 身分に関係なくとは……まさか貴族風情と一緒のクラスでやって行けって言うんですか!?」

 

 生まれながらの特権階級である貴族に対して良い感情を持たない人間は決して少なくないが、こうまで明らかに貴族という存在を疎んじるような物言いを表立ってするような者はそうそう居ない。

マキアスの嫌悪感情はよほどのものであるらしく、憤懣やるかたないといった様子で抗議の声を発していたが、サラ教官の方はそんな怒りの声を受けても大して気にした様子も見せなかった。

 

「フン……」

 

 そんな教官の態度にますます不満をつのらせるマキアスの隣で、金髪の怜悧な風貌をした男子が聞こえよがしに鼻を鳴らした。

 不興を表すようなその態度にマキアスが教官からその男子の方へ顔を向け直す。

 

「……君、何か文句でもあるのか?」

 

「別に、平民風情が騒がしいと思っただけだ」

 

 先の自分の発言になぞらえるようなその物言いにマキアスの目が剣呑に細められていく。

 言葉からして貴族であるのだろう、金髪の男子からしてみれば彼の発言は気に障ってもおかしくはないものだったが、その発言もまた相手の神経を逆撫でるものだった。

 

「これはこれは……どうやら大貴族のご子息殿が紛れ込んでいたようだな。その尊大な態度、さぞ名のある家柄と見受けるが?」

 

 挑発と受け取ったのかマキアス自身の誰何もまた慇懃無礼な口調だった。

 やにわに男子二人の間で不穏な空気が漂い始め周囲の生徒達が固唾を呑んで見守る中、金髪の男子はマキアスの方へ向き直り淡々と告げる。

 

「ユーシス・アルバレア。貴族風情の名ごとき、覚えてもらわなくとも構わんが」

 

「――っ!?」

 

 投げ遣りな言い草とは裏腹にその姓は帝国の人間にとって覚えておくどころではないほど知れ渡っている有名なもので、驚いたのは問い質したマキアスだけではなかった。

 童顔の赤毛の少年が呟くように四大名門、と口にする。

 

「名のあるどころじゃないわね、大貴族の中の大貴族じゃない。ルディ、貴方は知ってた?」

 

「彼がそうであるとは知りませんでしたが、アルバレア家とハイアームズ家のご子息が今年度入学なさるという噂は耳にしていました」

 

「ハイアームズも? ……まさかこの中に居るんじゃないでしょうね、四大名門二人と同じクラスなんて息が詰まるどころじゃないわよ」

 

 周囲を窺い見るようにしながらアリサはうんざりしたような声で囁く。

 彼、ユーシスの家の名であるアルバレアはエレボニア帝国東部クロイツェン州を治め、四大名門の内でもカイエン家と並び公爵位を持つ帝国貴族の中でも最高位の存在だった。

 そんな家柄の人物と同じクラスをあてがわれるなど、普通の帝国人であれば気後れしてしまうのが当然、と言えたが――

 

「だ、だからどうした!? その大層な家名に誰もが怯むと思ったら大間違いだぞ!」

 

 マキアスはむしろ食い掛かるようにユーシスへ向かい声を張り上げる。

 しかしやはり衝撃を受けたところはあるらしく、相手を威嚇するというより自分を奮い立たせるために語気を荒げている、そんな印象をルドルフは感じていた。

 

「いいか、僕は絶対に――」

 

「はいはい、そこまで」

 

 そこでマキアスの言葉はサラ教官が手を打ち合わせながら発した声に遮られる。

 

「色々あるとは思うけど、文句は後で聞かせてもらうわ。そろそろオリエンテーリングを始めないといけないしねー」

 

 注意を引かれ二人の諍いから皆がサラ教官の方へ目を戻す、マキアスも教官の指示を無視するわけにはいかず歯噛みしながらユーシスから視線を引きはがしていた。

 

「オリエンテーリングって、一体何なんですか?」

 

「そういう野外競技があるのは聞いたことがありますが……」

 

 講堂から連れ出された時から皆を悩ませていたその疑問にアリサ、続いて眼鏡の少女が触れる。

 サラ教官がそれに答えるよりも早く、黒髪の少年がふと何かに気づいたように声を上げる。

 

「もしかして……門の所で預けたものと関係が?」

 

「あら、いいカンしてるわね」

 

 赤い制服の生徒のみが持ち込みを指示されていた荷物、それがこのオリエンテーリングに関係していると予想したらしい、サラ教官はその言葉に笑みを浮かべると、体を生徒達に向けたまま後ろへ下がっていき壁際にあった柱へ手を伸ばす。

 檀上の奥側であったため生徒達からは死角となっていたが、そこにはボタンが設置されたくぼみがあった。

 

「――それじゃ、早速始めましょうか」

 

 言うなり教官が釦を押し込むと、辺りが振動するような揺れが生徒達を襲った。

 

「……っ!?」

 

 身構えるより早く、足元――床そのものが蓋を落としたように割れ傾き皆が床下に広がる闇に滑り落としていく。

 

「きゃあっ……」

 

 アリサも例外ではなく、倒れ込むように体勢を崩した彼女は傾斜に耐えられず床の淵へと滑り落ちていく。

 

「アリサっ」

 

 自身も落とされつつある中ルドルフがせめてアリサを庇うべく行動を起こそうとしたとき、彼よりも早くアリサの元へ跳んだ人物がいた。

 駅で出会った黒髪の男子、いち早く異常に気付き身を屈めて落下を免れていた彼が無防備に落ちるアリサを守るように共に落ちながら彼女の体を抱え寄せていた。

 不測の事態にそれだけの対応力を見せたその少年にルドルフは瞠目しながらアリサを助けようとしてくれていることに対する感謝を胸の内で彼へと向ける。

 

 ――同じぐらいの年頃であんな方が居るとは、士官学院とはすごい場所ですね。

 

 自覚の無い場違いな感想もまた同時に抱きながら、ルドルフは階下の暗闇へと落ちていった。




2015.2/2 脱字を修正。
2017.6/20 一部文章を添削。

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