Knife Master《完結》   作:ひわたり

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白の記録

多分、私はもうすぐ死ぬ。

だから、ここに私の想いを書き残そう。

誰かが見るかもしれないし、誰も見ないかもしれない。読んで理解出来ないかもしれない。それでも良い。

ここに綴るのは、私の願いだ。

きっと叶わぬ、私の祈り。

だから、誰も見なくても、誰かが見てもそれで良い。

誰か見たのなら、見ている貴方がいるのなら、一つお願いをしたい。

読み終わった後でも、読まなくても、これを燃やして欲しい。

神様がいるのかは分からないけれど、この本が世界から消えれるのなら、その方が想いが届く気がするから。

 

ここに綴るのは、ある人への想いだ。

 

どうか、彼を助けて下さい。

私はこれから死を通して、最後の賭けに出る。彼を変えられる、最大で最後の選択だ。

私は世界などどうでもいいから。

それ以上に、彼が大事だから。

だから、彼が救われるのなら、それで良い。

これは贅沢な願いだ。

一度で良いから、彼に感情を出して欲しい。それは笑いでも、悲しみでも、何でもいい。彼が素直な感情を出してくれれば、それだけで良い。

笑うことも、怒ることも、泣くことも、彼には何一つ出来なかった。

幼い頃から不満を溜め込んできた彼は、きっと心の底から素直な感情を出したことがない。

ずっとずっと、自分を偽り続けてきた。

辛かっただろう。

苦しかっただろう。

痛かっただろう。

身勝手で、自分勝手な考えだけれど、それでも思うのだ。

 

きっと、彼は不幸だった。

 

だから、せめて一時だけでも、本物の感情を出して欲しい。

私の賭けが失敗したのなら、それが唯一の、救いとも呼べない、労わりとなるのだから。

彼は雪のような人だから。

誰かの温もりで、その身を滅ぼしてしまう人だから。

だけれど。

どうか、どうか。

どうか、あの人を救ってあげて欲しい。

どうか、あの人を助けてあげて欲しい。

あの人を救ってくれる人が、現れますように。

 

……ねぇ、ビャク。

私は貴方が好き。

でも、貴方は私が嫌いだったでしょう。ううん、嫌いとは違う。形はどうあれ、貴方を戻し、感情を乱す私を、大切に思って憎く思っていた筈だ。その感情すら、貴方は殺し続けていた。

ビャク。私はその感情をぶつけて欲しかった。貴方のありのままを晒してくれて良かった。

貴方は、自分より世界を取った。

自分を無価値と、マイナス要素だと取っていたのだろうけれど、それよりも世界に価値があると思っていた。だから、貴方は感情を殺し続けて世界を守り続けていた。

貴方はずっとずっと、戦い続けていた。

もう、無理をしないで。

もう、休んでも良いよ。

貴方はもう、苦しまなくて良いから。

 

ビャク。

どうか、どうか。

誰でも良い。

彼を幸せにしてあげてください。

悲しみを教えてあげてください。

喜びを与えて下さい。

感情を思い出させてあげてください。

彼を、救ってあげてください。

それが、私の願いです。

 

ああ、ビャク。

どうか、貴方が救われますように。

 

 

どうか、貴方が幸せでありますように。

 

 

ねぇ、ビャク。

 

 

笑って。

 


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