Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia 作:ローレンシウ
「フウン……。じゃあ、やっぱり、反乱軍には……“天使”がいるんだね?」
ディーキンは、2人の兵士(名前はベンノとアルバン)からさまざまな情報を聞き出していった。
最初は未知の亜人だということでいささか警戒していた彼らも、人懐っこく危険さを感じさせないディーキンの様子にすぐに態度を和らげたようだ。
話はお互いの身の上話などの雑談から、現在のアルビオンの情勢、戦況、そして具体的な敵の構成や戦力……と進んでいった。
「そんな、天使様がそんなことをなさるはずがありませんわ! 偽者です、絶対に!」
自分が使用人の身であることも忘れて、シエスタはひどく憤慨した。
それを気にした様子もなく、ベンノとアルバンは自嘲気味に笑う。
「いや、俺たちも最初はもちろんそう思ったさ。どうせ変わり種の翼人かなんかに違いない、ってね」
「けど、実際に見てみると……、あれは本物じゃないかと思わざるを得ないんだよな。天使が敵に回ったなんて思いたくはないけど」
「少なくとも、亜人なんかじゃあないね。連中にはオーク鬼だのの亜人も大勢味方についてるけど、そいつらとは全然違うんだよ。単に強いとか、そういうことじゃなくて」
「うん。エルフや吸血鬼にだって、あんなことができるとは思えないな……」
彼らの言葉を聞いて、ルイズらは顔を見合わせた。
最後まで王党派に残った忠実な兵士たちがそういうのなら、相応の根拠があるのだろうが……。
「具体的に、どういうところを見てそう思われたのかしら?」
キュルケが質問すると、彼らはそれぞれ、自分たちがこれまでに戦場で目撃したり話に聞いたりした“天使”の力を説明してくれた。
その中には、既にラ・ロシェールの酒場で聞いたのと同じ情報も含まれていたが、初めて聞く話もあった。
奴らは、魔法とは違う不思議な力を持っている。
手を差し伸べただけで、あるいはただ微笑んで見つめただけで、呪文を唱えた様子もないのにまるで神罰のように不気味な闇の雲が沸き起こり、それに捕らえられた味方は体から血を噴き出してばたばたと倒れていく。
今まさに殺気だって斬り付けようとしていた味方の兵士が、天使が優しく微笑んだだけで剣を捨ててその足元に跪く。
正面にいたかと思えば、突然ふっと姿を消して次の瞬間にはこちらの背後に回りこみ、銃などでは狙いをつけることさえままならない。
戦場を縦横無尽に飛び回りながら、上空から燃え盛る炎の矢を雨のように降らせてくる。
奴らは、まるで不死身のようだ。
時折かろうじて1、2本の矢が当たっても、ろくに傷ついた様子もない。
それどころか、メイジの放つ魔法が当たっても、ほとんどは水のように受け流されてしまうのだ。
アルバンは、以前に上官のスクウェア・メイジが放った、石ゴーレムでさえ融かす業火の渦に奴らが巻き込まれるのを見た。
しかし、その上官は反撃として放たれた燃える矢に胸を射抜かれて死に、業火が消えた時にも天使の体には火傷のひとつさえもなかった。
そのさまは、天界の炎の中から生まれたという天使だとしか思えなかった。
奴らには、あるいはその加護を受けているクロムウェルには、死者さえも甦らせ、人々を変節させて味方に引き入れる恐ろしい力がある。
射殺したアルバンの上官の遺体を、奴らは運び去っていった。
それから一週間経つか経たないかの後に、確かに死んだはずのその上官は無事な姿で敵軍に加わっており、迷う様子もなく、かつての味方と戦っていた。
上官はかつては忠実な王家の家臣だった、生き返らせてくれた恩義があるにしてもとても信じられない。
そのようにして敵軍についた懐かしい人々の呼びかけに応じて、大勢の味方がためらいながらも下っていき、彼らもまたいくらも経たないうちに平然としてかつての仲間や王家に刃を向けるようになった。
さらには、敵軍を現在指揮している将軍は遥か昔に死んだアルビオンの伝説的な名将『ル・ウール侯』であると名乗っており、姿形もそっくりで、その名声のとおりに連戦連勝している……。
奴らは、自分たちのような敵に対しては、より恐ろしい姿をした悪魔を差し向けてくることもある。
天使は、「神の御遣いは信心深き者の前には優しい羊飼いや天使の姿となって現れ、不信心者の前では恐ろしい炎の目をした巨人や悪魔の姿になる」と言う聖典の言葉をよく引用している。
実際に奴らは亜人や巨人などの醜い連中をよく前線に押し出してくるが、その中にひときわおぞましい、見たこともない奴らが混じっていることがある。
そいつらは単に未知の亜人なのかもしれないが、天使たちと同じように不思議な力を使ってくる。
たとえば、人間のような手を持ち非常に醜い顔をした狼のような魔物や、禍々しい鋸刃の武器を携える魔物、骸骨と蠍の合いの子のような奇怪な魔物、ほとんど姿の見えない獅子のような姿をした魔物……。
その多くは姿を消して回り込んだり、一瞬で空間を飛び越えたりして、直接こちらの後衛に斬り込んでくる。
そのため前衛の兵士やゴーレムが護衛の役に立たず、銃士やメイジがやられて態勢が崩れたところに残りの亜人や巨人、そして後続する反乱軍の兵士たちに突っ込んでこられて戦線が崩壊してしまう。
そうした怪物どもの群れを率いているのは、ひときわおぞましい、昆虫と人間の合いの子のような姿をした魔物だ……。
「ふうん……。じゃあ、どうしてあなたたちはこっちに残ったのかしら。相手は、本当に神様の軍隊かもしれないって思ってるんでしょ?」
そんなキュルケの率直な疑問に、兵士たちは顔を見合わせて肩をすくめた。
「そりゃあ、俺たちは坊さんじゃない。兵士だから……なあ?」
「そうそう。俺らは別に神様や始祖に忠誠を誓ってるわけじゃない、国王陛下に仕えてるんだ。当たり前だろ? それに、あいつらの側についたら俺も平気で昔の仲間をぶっ殺せるようになるのかと思うと、ぞっとしないね」
「ああ、仲間を殺して天使に楽園へ連れてってもらうくらいなら、仲間と一緒に地獄行きのほうがましだよ。他のみんなも、そう思ってると信じてたんだが……」
「いや、絶対にそう思ってたさ。それがころっと変わっちまうから恐ろしい、いや、おぞましいよ」
「どうか俺の元には天使を遣わされませんようにって、それこそ神様にお祈りするしかないな。はは……」
彼らは明らかに、死ぬことよりも自分もまた他の仲間たちと同じように変わり果てるのではないかという、そのことのほうをより恐れているようだった。
それでも、王家への忠誠のためか、あるいは既に散っていった仲間たちへの義理立てのためか、戦いを放棄して逃げ出すという選択肢はないらしい。
そうして一通りの話を聞き終わった頃になって、召使いらしい女性が昼食を運んできた。
保存食で作られたもののようだったが、しっかりと料理されていて、来客へのもてなしの心が感じられる。
このような場所に今なお留まっているところからすれば、王党派の生き残りの妻か、あるいは妹などの身内であろうか。
でなければ、既に死んでしまった夫なり兄なりの同僚たちのために、たとえ身命が危うくともぎりぎりまで残って尽くそうと決意しているのかもしれない。
きっと、この城内に残ったすべての人々には、物語に歌われるに相応しいだけのドラマがあることだろう。
不躾でなければ、それをできる限り聞いて書き残し、語り残したいものだとディーキンは思った。
そして、出来ることならばその最後が無念の全滅となることは避けたい。
悲劇の英雄というものもいることはもちろん知っているが、ディーキンはハッピーエンドの方が断然好みだし、素晴らしい英雄にはそれこそが相応しいと強く信じていた。
「お食事をありがとうなの。ディーキンは、お返しにあんたたちに料理を作るよ!」
ディーキンは女性に礼を言って少し待たせると、《英雄達の饗宴(ヒーローズ・フィースト)》の呪文を唱えた。
突然現れた御馳走に、その女性と2人の兵士は目を丸くする。
「よかったら、あんたたちで他の人たちにもこの食事を分けてきてあげて。きっと、美味しいと思うの。大丈夫、ディーキンたちはこの部屋で静かに待ってるからね」
そう提案された女性は、戸惑いながらも軽く毒見をして、その味に感激した様子だった。
そして、2人の兵士たちと手分けをして、乗せられる限りの御馳走を台車に乗せて運び出していく。
本来なら兵士たちは見張り役としてこの場に残らねばならないのだろうが、話をしているうちに客人たちのことはすっかり信用していたし、元より今さら陰謀などあってもなくても大差はないのだ。
一応、皇子が戻ってきてお会いになるまではこの部屋にいてくださいとだけ言い置いて、食事を配る手伝いに出ていった。
職務怠慢と言えないこともないが、生死を共にした仲間たちと一緒に生きていられる時間があとわずかなのならば、残り少ない食事時くらいは皆と歓談して過ごしたい、という気持ちもあるのだろう。
一人で一人前分を食べないとこの呪文の恩恵は得られないのだが、単に美食として味わうだけなら、大勢で分け合うこともできる。
食事は二十人前分近くもあるから、少しずつ分け合うなら、三百人全員の口にも入るはずだ。
そうして、部屋の中にいるのが仲間たちだけになると、ルイズらは早速仕入れた情報を元に今後の打ち合わせを始めた。
用意してもらった昼食の方も、ありがたくいただくことにする。
「あの人たちが死ぬのを黙って見ていられないわ。何とか、逃げるように説得しなくちゃ」
ルイズはそう強く主張し、シエスタやギーシュも同調した。
しかし他の同行者らは、感情的には同意するものの、現実的に考えてそれは難しいのではないか……、と考えているようだった。
「無理よ。あの人たちの顔を見たでしょ? 明日死ぬっていうのに、よく楽しそうに笑ってたわ。もう覚悟は決まってるのよ」
キュルケがそう言って首を振ると、タバサも本を広げたまま、小さく頷いた。
「船で補給路を断ちに出て行けるのに、その船で逃げようとしないということは、逃げる意思がないということ。もう死ぬ覚悟が決まっている者に、死ぬから逃げようと言っても無駄」
それを聞いて、ギーシュはううむ、と唸った。
「命を惜しむな、名を惜しめ、というのは、貴族のあり方としてもっともなことだが……。しかし、彼らの中には平民の兵だって混じっているようじゃないか。せめて彼らは、逃げたって……」
「いや、ミスタ・グラモン。彼らは名を惜しんでいるわけではないよ。私にも覚えがあるが……戦友たちが次々と死んでいく戦場に身を置いていると、人は死に慣れてくる。そして、次は自分の番だということを抵抗なく受け入れるようになってくるのだ。むしろ、自分だけが生き残ることを申し訳なく思うようになる。それはどこの国の人でも、平民でも貴族でも、変わるまい」
「そうでしょうね。パリー侍従長は、女子供は最後に船で逃がすとおっしゃっていましたが、従わずに兵たちと運命を共にすると言い張る人も出てくるでしょう。時には、皆で死ねるということが、自分だけが生き残るということよりも甘美に思えるものですから……」
年長者であるコルベールとロングビルが冷静にそう語るのを聞いて、シエスタは身を乗り出した。
「そんな! 皆さんは、あの方々が命を落とされてもいいというのですか? あんな、いい方々が……!」
「まさか。そりゃあ、私たちだって嫌よ。ただ、説得の方法が思いつかないってだけ」
キュルケは肩をすくめて、あなたもそうでしょうというように、タバサの方に目を向ける。
タバサはもう一度こくりと頷いて、同意を示した。
生きることを諦めるというのは、タバサも決して賛成ではなかった。
かつて、祖父が父が次々と死に、母が心を壊され、自らも過酷な任務を課せられた時、絶望して生きるのを諦めそうになったことがある。
そんな自分を甘えていると叱りつけ、戦い方を教えてくれたのは、ジルという狩人だった。
彼女に出会わなければ、自分はあの森でただ無為に命を散らし、母を救うことも、ディーキンに出会うこともなかっただろう。
一緒にいたのはほんのわずかな間だったが、タバサにとってジルは、返しきれないほどの恩義のある大切な人物だった。
彼女が自分にしてくれたのと同じように、自分もこの城の人々を説き伏せようとするべきなのか?
しかし……、この城の人々はあの時の自分のように、甘えてこの世から逃げようとしているわけではない。
彼らは、最後まで戦おうとしている。ただ、その戦いに勝ち目がまったくないというだけだ。
確かに、自分もあの時、最初は勝ち目がまったくないと思ったキメラドラゴンに勝てた。けれど、三百人で五万の大軍に勝つというのはそれとはわけが違う。
戦わずに、誇りを捨ててでも生き延びろと説得することなどできそうにもないし、そうするべきなのかどうかもよくわからなかった。
いずれにせよ、ろくに喋れもしない自分には、他人を上手く説得することなど出来やしない。
せめて彼らと一緒に戦おうにも、自分にはそこまでするほどの理由がないし、ここで死ぬわけにもいかないのだ。
どうしようもなかった。
(でも……)
タバサは、ディーキンの方にちらりと目を向けた。
あのジルと同じ、自分の大切な恩人。
そして、私の勇者。
自分のできることを探すためにここへ来ると、最初にアンリエッタ王女に申し出たのも彼だった。
いわば、この旅の主務者である。
「……あなたには、何か考えがある?」
全員の注目が集まる中、話を振られたディーキンはしばらくじっと考え込んだ後、曖昧に頷いた。
「ウーン……。もちろんディーキンも、ここの人たちに死んでほしくないって思ってるよ……」
「そ、そうですよね! 先生は、みなさんを説得してくださるんですか?」
シエスタが目を輝かせてそう尋ねると、ディーキンは困ったように頬を掻いた。
「もしかしたら、そうなるかもしれないけど。……でも、まずはもうちょっといろいろ調べてみて、それからどうするか考えた方がいいんじゃないかな? 敵の攻撃まで、まだあと一日くらいはあるみたいだし……」
ディーキンは実際、先程からいろいろなやり方を頭の中で検討してみていた。
例えば、ジェームズ国王やウェールズ皇太子を説得するなら、同じ国のトップであり、ウェールズと懇意にしているらしい気配もあるアンリエッタ王女やマザリーニらをこの場に連れてきて、直接話し合わせるという手もある。
明日にも陥落しようかという城に他国の王女や枢機卿を連れ込むなど本来ならとんでもないことだろうが、《瞬間移動(テレポート)》の呪文を使えば、行き来するのは別に難しいことでもない。
説得に応じなかったにしても、アルビオン側が避難民の受け入れを申し入れたり、最後の別れを交したりするだけでも意義はあるだろう。
単に彼らを生き残らせるだけなら、魅了とか支配とか、もしくは腹を殴るとかして、無理矢理連れ帰るということもまあ出来なくはない。
あるいは、《次元門(ゲート)》の呪文を使ってこの城の全員をどこか安全な場所に避難させるとかいったことも、不可能ではあるまい。
しかし、敵の軍にデヴィルがいて、自分たちを神の軍勢だと信じさせているという話が本当ならば……。
なんとかしてそのデヴィルたちを排除し、反乱軍の兵士たちに彼らが騙されていたことをわからせてやることが必要だろう。
アルビオンにおいて対立する王党派を完全に打ち破ってしまえば、デヴィルらはますますその勢力を増し、反乱軍の兵たちは彼らに熱狂的に従い続けるはずだ。
そうなれば、地獄に堕ちる不幸な魂を大量に産み出すことになってしまう。
それを防ぐためには、王党派の人々にここで最後まで戦い抜いて死ぬのではなく、なんとしても生き残ってこの国から悪魔を一掃するために戦い続けることが必要なのだとわかってもらわねばならないのだ。
「ディーキンは、皇太子さんと話をして敵のことをいろいろ調べてくる許可をもらったら、実際に見に行ってみようかと思ってるの。五万人もいる相手の軍隊を全部倒すのは無理だろうし、そんなひどいことはしてほしくもないけど、デヴィルとかの悪い奴らを倒すくらいだったらなんとかなるかもしれないからね」
そのためには、話で聞いた情報だけでなく、実際に現地を見ることがどうしても必要だった。
当面排除するべき敵の数や、その内訳を詳しく知らなければ、どうにもならない。
「まさか、敵の軍隊の真っただ中に行って調べてくるっていうの? いくらなんでも、無茶よ!」
「あなたが行くなら、私も行く」
「あ……。わ、私も、先生にお供します!」
少女たちが口々に言うのを、ディーキンは小さく首を振って制した。
「それは、その時になったらまた考えるけど……。でも、今回はディーキンが一人で行った方がいいかなって思ってるの。人数が多すぎると、それだけ見つかりやすくなっちゃうからね」
実際ルイズらでは、おそらく敵の陣地へ潜入して見つからないように行動するのはとても難しいだろうと、ディーキンは考えていた。
何せ、敵の数は五万だというのだから。密度にもよるが、それだけ多くの目を欺いて、最後まで誰にも見つからないのは至難の業だ。
その点ディーキンなら、透明化その他の呪文や技能、技術の類を駆使して何とかうまくやってのけられるかもしれないし、万が一見つかってしまった場合に速やかに逃亡するのも、一人の方がやりやすい。
敵方には幻術の類を容易く看破するエリニュスなどの相手もいるらしいので、それに見つからないようにだけ気を付けて行動すれば、なんとかなるのではないか……。
そう考えながら、ディーキンはヴォルカリオンを召喚するためのボトルを机の上に置いた。
「万が一、ディーキンが戻れなくなるようなことがあったら、これを使って。ジンのおじさんに、ボスに連絡を取るように言って?」
しかし、ディーキンの提案を聞いた少女らは、ものすごい剣幕で彼に詰め寄った。
「ちょ、ちょっと、ディーキン! 待ちなさい、あなたは私のパートナーなのよ、あなただけを行かせるわけにはいかないわ!」
「……私を置いていくつもりなら、あなたを行かせない」
「先生、悪魔と戦うのに、私に残れと言うのですか!? 仲間がいなくてはなにもできないとおっしゃったのは、先生ではありませんか!」
少女たちに断固として拒否されて、ディーキンは困ったように身をすくめた。
ディーキンとしては、捕縛されたり最悪死んだりするようなことがあっても、ボスに連絡を取れば助け出すなり生き返らせるなりしてくれるだろう、と信じているのだが……。
ハルケギニアの感覚では死んだらそこで終わりなのであって、死ぬ危険がある任務に一人で行かせるなど、少女らが認められないのも無理のないことであった。
「アー、その……。ごめんなの。ありがとう、ディーキンはすごくうれしいな。そのことは、もう一回、よく考えてみるよ……」
ディーキンは、彼女らには何をしてもらえばいいだろうかということを考えながら、ひとまず情報で聞き出して存在することが予想されるデヴィルの姿や能力について、仲間たちに説明していった。
同行してもらうのならばなおのこと、連中の能力については知っておいてもらわなくてはならない。
エリニュス、バーゲスト、バルバズゥ、オシュルス、ベゼキラ……、そして、ゲルゴン。
それに、ラ・ロシェールで見かけた、ファルズゴンやインプ、さらには、“地獄の業火”の使い手についても。
死んだはずの人間が生き返ったとか、歴史上の人物が将軍になっているとかいうのは、いくつかの可能性が考えられるが……。
残念ながら、手持ちの情報だけでは絞り込むことはできなかった。
あるいは、フェイルーンの魔法ではなく、こちらの先住魔法とかの類によるものだという可能性もあるだろう。
「ちょ、ちょっと。デヴィルには火が効かない、ですって? じゃあ、私はどうしたらいいの?」
「ふむ……。そうなると、ミス・ツェルプストーや私は、『マジックアロー』などの呪文で戦うしかないか……」
「お、おいおい、待ってくれ! ばらばらにしても死なない奴もいるって、本当かい? 聖なる攻撃なら殺せる、って……、聖なる攻撃ってのは、そりゃ一体、何なんだ!?」
「わ、私の『悪を討つ一撃』なら、効くでしょうか?」
「……呪文は、効かないこともある? カジノで戦った悪魔と、同じ?」
「ゴーレムを前面に展開しても、一瞬で背後に回ってくるのですか……厄介ですわね」
「目に見えない敵なんて、どうやって戦ったらいいのよ!?」
「ウーン、そういう相手は、ディーキンに任せてもらえたらいいと思う。でも、やり方次第だと思うの。たとえば――」
そうして、あれこれと説明をしたり、質問に答えたりしているうちに、時間は過ぎていき……。
一、二時間ばかりが経った頃に、いよいよウェールズ皇太子が帰還したと連絡が入った。